「ちょっと! わたしを無視しないでよ! どうしてアンタまでいるのって聞いているのよ!」
≪うるさい小娘だ。お前が知る必要がないことを訊くな≫
「なんですって!?」
フーケがゴーレムの左腕を動かし、右腕に巻きついている俺を捕まえようとする。
俺は右腕を解放し、それを避けた。
当然、左腕は空を切る。
フーケは目を吊り上げて睨みつけてきた。
〔ビオラ≪無駄なことはやめろ小娘。お前の攻撃など我に効かぬ≫〕
挑発し、フーケの意識をギーシュ達から俺に逸らす。
そして、その隙に
「無駄かどうかやってみないと分からないわよ!」
フーケは地面に降りると杖を振るい、ゴーレムを動かしていく。
ズシン!と地響きを立てて、動き出したゴーレムは巨体には似合わないスピードで、俺の尾を捕まえる体勢をとった。
しかし、“ビオラ”で素早さを極限まであげた俺の目には止まって見えた。
ゴーレムのスピードよりも早く尾をムチのように“たたき付けた”。
その衝撃を吸収しきれず、ゴーレムの右腕が粉々に砕け散った。
≪もう一度言う。無駄なことはやめろ小娘≫
「うるさいよ! そう言われて、『はい、そうですね』と言えるもんかい!」
俺の言葉に完全にキレたフーケは杖を振るって、粉々に砕かれた右腕を修復する。
さらに自ら破壊したベランダの手すりの残骸を利用して、巨大なヤリを生成し、それをゴーレムにもたせた。
「さすがはトライアングルクラスのメイジと言ったところだな。易々とヤリを生成するとは恐れ入る・・・、少し挑発しすぎたかな?」
相手には気づかれないように小さく笑いながら呟いた。
その時、視界の端で桟橋の方角から黒いものが動き出したのをとらえた。
「船が動き出したか・・・、ギーシュ達は間に合っているかな? まぁいい。どちらにしても、ここでフーケの相手をする意味がなくなった。俺も後を追うことにしよう」
「これでも喰らいな!!」
ゴーレムの剛椀から突き出されるヤリ。
その攻撃は当たればひとたまりもないほど、威力があった。
そう。当たれば、だ。
怒りによってフーケの操るゴーレムの攻撃は単調になっている。
これは当たるほうが難しいだろう。
≪お前と遊んでいる暇はない。我は行くところがあるのだ≫
「行かせると思っているのかい!」
≪邪魔だ、小娘≫
フーケはゴーレムを操作して、俺の進行を妨げるようにヤリ攻撃を仕掛ける。
その攻撃を避け、フーケを睨み付けた俺は、“いてつく波動”を発動する。
身体全体を震わせて、霊的なエネルギーを体外に放出。
それを一気にフーケの作りあげたゴーレムにぶつけた。
効果はすぐに現れる。
動きを止めたゴーレムが、一瞬で元の岩の塊へと戻った。
別に“いてつく波動”をしなくても倒せたと思うが、これの方がフーケの驚きも大きいはずだ。
また時間短縮にもなるからな。
「・・・・・・・・・・・・」
〔レオムル〕
予想通り、目を見張って動きを止めるフーケ。
これはフーケを捕まえる絶好のチャンスだが、じじぃからは才人たちを頼むと言われただけで、フーケを捕まえよとはいわれていないので、才人たちの後を追うことにする。
俺は“レオムル”の呪文を唱え姿を消して、動き出した船を追うべく、桟橋へと向かった。
「もし三人が間に合っていれば、ワルドに俺の正体がバレてるかもしれんな。まぁ、三人を助けるということが最優先事項だったから仕方がないが。それにワルドが怪我をおして、自作自演の茶番劇を続けることを確認したときから、遅かれ早かれバレることは予想済みだ。はてさて俺の介入で、この茶番劇はどう転ぶか・・・・・・、お前はどう思う?
俺は思い出の中でゼロ魔談議に華を咲かせる朱に笑いかけながら、スピードを上げてアルビオンに向かう船を追ったのだった。
**********
「・・・・・・はっ! あの竜は!」
シェンが桟橋に向かってから数分後、フーケが我に返る。
辺りを見回してシェンがいないことに内心安堵したフーケだったが、宿屋の中を覗いてタバサたちがいないことに気付いて、眉間にシワを寄せ舌打ちをする。
「ここにいても仕方がないね・・・・・・」
フードを被り直したフーケは、その場を後にした。
そして街の入り口へと差し掛かったとき、立ち止まって振り返る。
「今回は、ムキになって戦ってしまったけれど、もうあの竜とやり合うなんて真っ平御免だね! アタシは降りるよ! ほとぼりがさめるまで隠れさてもらうからね!」
そこに誰かいるかのように一気にまくし立ててから、フーケは“レビテーション”で宙に浮いて、闇夜に溶け込むように姿を消したのだった。
*****
フーケが姿を消した同じ頃、アルビオンへと向かう船の甲板では、ルイズとキュルケ、ギーシュの三人が話し合っていた。
タバサは才人の治療をしてから、船を動かす手伝いをするためワルドの説明を受けており、才人は舷側で眠りについていた。
したがって、その場には三人しかいなかった。
「え? モンモランシーの使い魔が助けてくれた?」
「そうなんだ。モンモランシーが僕のために、使い魔をよこしてくれたのだ」
「あの子がよこしたかどうか分からないけれど、あの竜が私たちを助けてくれたのは確かよ」
ルイズはキュルケとギーシュから、自分たちと別れてからのことを訊き、信じられない気持になった。
しかし、キュルケとギーシュの態度から、その話は本当であると感じ、真剣に訊く。
「フーケはどうしたの?」
「知らないわ。竜に意識を集中しているスキに逃げてきたもの」
「そう。また捕まってくれればいいのだけれど」
「な~に。モンモンランシーの使い魔が何とかしてくれているだろう。ところでアルビオンにはいつ着くんだい?」
ギーシュはモンモランシーが自分のためにシェンをよこしてくれたことを信じて疑わず、その使い魔がフーケを逃がすとは思っていなかった。
ルイズはその態度に眉間にしわを寄せるが、今フーケのことを考えても仕方がないと思い、ギーシュの問いに答えた。
「明日の昼過ぎにスカボローの港に到着するらしいわ」
「そうか。なら明日に備えて眠るとしよう」
ギーシュは見張り台の下まで行き、そこで眠り始めた。
ルイズは肩をすくめると、才人の隣で眠り始める。
キュルケはそんなルイズの行動に一瞬優しい表情をするが、すぐにいつもの表情に戻って、タバサがいる場所へと向かった。
タバサはシルフィードの身体に寄りかかりながら本を読んでいた。
どうやら手伝いの打ち合わせが終わったようだ。
「子爵は?」
「・・・・・・船長と話してる。皆は?」
「もう眠ってるわ。タバサも眠った方がいいわよ」
「・・・・・・分かってる」
キュルケは横に座ると、タバサに寄りかかって眠り始めた。
タバサは読んでいた“トリステインの書”から視線を外すと、空を見上げた。
「・・・・・・・・・・・・」
その時、今朝と同じことを考えてしまったため、瞑想して心を落ち着かせる。
あの事を考えるのは、シェンが本に描かれている竜神であると分かった時、本当に病を治せる力を有しているのかが分かった時だと自分に言い聞かせた。
「キュイ?」
タバサの様子に気付いて、シルフィードが顔を向けて声をかけてきた。
気持ちの整理がついたタバサは、目を開けて『なんでもない』と答えると、“トリステインの書”を再び読み始めた。
「・・・・・・・・・・・・」
「はっくしょん!」
「シェンさん?」
シルフィードはそんなタバサをじっと見つめていたが、シェンの声が聞こえてきたため辺りを見回してシェンの姿を探した。
しかし、シェンの姿は見えない。
「気のせいだったのね」
そう呟くと、本を読んでいるタバサと眠っているキュルケを守るようにしながら眠りについたのだった。
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死神のうっかりミスによって死亡した主人公。
その上司の死神からお詫びとして、『ゼロの使い魔』の世界に転生させてもらえることに・・・・・・。
第二十四話、始まります。