No.72512

十三番目の戦獣士 2

みぃさん

1から読んでもらえるとわかりやすいと思います。
十二支の戦いです。

2009-05-08 16:16:54 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:767   閲覧ユーザー数:748

「じーさん、一体どうなるんだよ!」

 

神殿は消火活動をするまでもなく、たどりついたときにはもう跡形もなくなっていた。

事態を聞いて急いでやってきた国の長、潮路(シオジ)に、刻路(コクジ)は真っ先にかけよった。彼は刻路と同じ『丙』紋章の持ち主で、刻路の血のつながった祖父だった。

「……十二支を召集するんだ」

潮路は低い声をより低くしてつぶやいた。

「は? あいつらは封印されたって……」

頭が割れるように響いた神の声を思い出して刻路は無意識に頭をおさえた。

「新生十二支だ。十二支戦26位までの獣士に国を守る兵士になってもらう。お前がまとめ役だ。今や実質的に実力は一番なわけだからな」

「なんだよそれ…」

「神のおっしゃる言葉が本当なら、これから国は魔物に溢れる。もともと十二支戦は国の危機に立ち向かう強者を選ぶために行われていたものなのだ」

近年平和が続いて、ただの娯楽になっていたがな、と彼はつけたした。宙を睨む祖父に、刻路はつめよった。

「じーさんは、十二支が本当に神を襲ったと思うのか?」

十二支に一番近い場所にいた刻路には、十二支たちが国を脅かすことをするとは思えなかった。たしかにくせのあるやつが多いには違いないが、いいライバルであり、いい友達なのだ。

「準備をしておくにこしたことはない」

刻路から目をそらして言った。潮路も孫と仲の良い十二支を疑いたくはない。しかし、国を守る長として私情を挟むわけにはいかないのだ。

 

程なくして新生十二支は召集された。

避難経路、応急処置、魔物撃退法など、国を守るための意見が飛ぶ間、刻路はずっと上の空だった。

 

「きました!!」

 

顔を強ばらせた民が勢いよく障子を開けた。新生十二支が注目する。

「きたって……?」

「魔物の大群です!! 私たちだけではもう太刀打ちできません!!」

十二支の裏切りが確定してしまったようで、刻路は目の前が真っ暗になった。

 

 

「どけ!! 裏切り者の『子(ね)』の紋章!! 逃げられないだろ!!」

 

子の紋章を持った子どもが払いのけられて転びそうになるのを、刻路が支えた。

 

「やめろよ! 裏切ったのは子じゃない。…千(セン)たち十二支だろ!?」

「お前も本当はこうなると、わかっていたんじゃないのか!?」

 

そんな罵声に反論する余裕もなく、見渡す限り、魔物が押し寄せてきていた。

民を安全な場所に先導する刻路が罵声を浴びせられたのはこれで三度目だった。

 

周りの人が避難したのを確認すると、刻路は剣を魔物に向けた。

 

神が消える以前も魔物は荒地に潜んでいた。

刻路も千に助けられなかったら、若くして死んでいたかもしれない。しかし、常に気をつけていさえすれば、身が危険にさらされることはない。それは、神が力を抑えていたからだ。

小さい頃から聞かされていたことを、刻路は改めて知った気がした。事実、神がいなくなった今、魔物に溢れている。

 

――これが、十二支がやったことの報いか?

 

そう思った自分に、刻路は腹が立った。あいつらを、信用したいのに……

刻路は疑う心を壊すつもりで、魔物に向かって剣を振り下ろした。

しかし、なんの手ごたえも感じることなく、逆に押し倒されてしまった。

千に助けられる寸前の恐怖を思い出す。

「…くっそ! あのときのオレとは違う!!」

刻路は手に仕込んでいた鉤爪で魔物を切り裂いた。しかし、別の魔物が刻路を行く手を塞ぐ。

 

 

「伏せて!!」

聞きなれた声に導かれるように刻路が伏せると、飛んできた砲弾が周りの魔物を一掃した。

蔓延する黒い煙にむせながら、刻路は声の主を見る。

「サンキュ、晶(アキ)。でも……さっすがイタチ……」

刻路は笑顔を向けたが、晶はキッと彼を睨みつけた。

「遊んでる場合じゃないでしょ!!」

「遊んでないだろ……」

「相性の悪い剣で戦うのは遊びじゃないの?」

「今はこっちのが馴染むんだよ」

「でも今危なかったじゃない!!」

言われて、刻路は自分の、元は千のものだった剣を見つめた。

確かに、使い始めたときはうまく扱えなかったが、まったく手ごたえを感じなかったことは今までになかったことだ。

「千の剣だって知られたら、本当に裏切り者の仲間だって言われるよ!!」

今度は刻路が睨む番だ。

「お前も十二支が裏切ったと思うのか?」

「……思いたくないわよ」

晶は刻路から目を逸らす。

「鈴花(リンファ)も集(シュウ)も別れる前にそんな大それたことするようには見えなかったし……」

「そうだろ?」

「……でも、千は……」

「千?」

刻路は顔を歪めた。

「千が神様を見る目は恐ろしいって、鈴花、言ってた。もしかしたら、千がみんなをたぶらかしたのかも……」

そこで、刻路はふはっと笑った。

「たぶらかせるかよ! 鈴花並みに胸がでっかかったらともかく、あの平たい体型で……」

「そういうことじゃないでしょ!!」

晶は顔を真っ赤にした。

「……ぶっきらぼうだし、十二支みんなで群れてたってなんの興味も示さないだろ。どでかいことやろうとしたって仲間をつくれるやつじゃないさ」

「……」

「ま、たしかに何考えてんのかまったくわからないやつだけどな」

それは刻路のほう、と晶が言おうとした瞬間、晶の背後に魔物の群れが再び現れた。刻路が鉤爪で払いのける。

「刻路、晶、無事か!?」

かけよってくる潮路に気づいて、刻路が顔を向けた。

「……きりがねぇよ……」

潮路が顔をしかめた。

「……オレ、ちょいと行って十二支を懲らしめてくる。神サマもおっしゃってただろ? 十二支復活を阻止しろってさ」

「刻路?」

「なんでこんなことになったのかはっきりしねーのもむずがゆいし、な」

都合のいいことに、神殿から紋章が飛び散る瞬間を見ていた自分なら、居場所も大体の見当がつく。

「……行ってこい」

潮路が頷くのを確認すると、刻路はくるりと背を向けた。

まずは、ここから一番近い場所に飛んできた、鈴花の亥の紋章を目指して――


 
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