No.724030

ソードアート・オンライン アクチュアル・ファンタジー STORY26 新たな悪意

やぎすけさん

教団と対立するベリルの前に、別の敵が現れる。

2014-09-29 16:16:18 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1000   閲覧ユーザー数:980

前回のあらすじ

アスナの記憶結晶を回収するため、再びプラントを訪れたベリル。

プラント内に蔓延っていたモンスターを一掃しつつ奥へと進み、地下施設に設置されていた旧式のテラーメモリーを発見した。

そこから出てきたスカルリーパーと激しい(一方的な)バトルを繰り広げる。

遊び半分に鎌を打ち合わせ、10mの巨体を振り回したあげくぶん投げるという人間離れした業を見せ、あっという間にスカルリーパーを撃破した。

その後ベリルは、スカルリーパーから入手した鎧甲でテラーメモリーを木端微塵に解体。

回収した記憶結晶の温かさに元気をもらいながら、再び先を目指すべくプラントを後にした。

 

 

STORY ⅩⅩⅥ 新たな悪意

 

 

 

プラントから脱出したベリルは、だだっ広い平原を歩き、街との境に当たる林に足を踏み入れていた。

獣道を歩いていると、街からやってきたものや林に元々住み着いていたモンスターがベリルに襲い掛かってくる。

だがベリルはそれらを苦も無く片付け、そのたびにため息交じり呟いた。

 

ベリル「つまんねえ・・・」

 

剣に付着している血液をベリルが振り払うと、飛び散ったそれらが木の幹や葉に赤い斑点を作り出し、ちょっとしたホラー映画のワンシーンのようでもある。

そんなことをして歩いていくと、ベリルは拓けた場所に出た。

人工的に切り開いた場所らしい踏み固められた地面は、先程までの獣道より歩き易い。

そして近くには巨大な板状の建造物、テラーメモリーが鎮座している。

だが、今回は先客がテラーメモリーの前に立っていた。

ベリルの接近に気付いたその者は、ゆっくりと振り返る。

その姿は、おおよそ人のそれには見えないものだった。

球体と言っても差し支えないほど丸い胴体に、冗談のように短い手足がついている珍妙な身体の身長は1mと少し程度とかなりの小さい。

肩に直接乗っているだけのようなハゲ頭には、金色の角張った悪趣味極まりない帽子を被っている。

これだけ見ると、幼い子どもたちが作る不格好な雪だるまに近い。

だが、着ているのは目が痛くなりそうな極彩色で右側が赤、左側が青の光沢がある衣装。

膨れ上がった腹には、金色のボタンが辛うじて留まっている。

また、ズボンと靴までも服と同じカラーリング。

異様に白い肌、丸い鼻、弛んだ頬、やけに紅くニタリと左右に裂けた唇に半月形に細長い眼。

どれと取ってもまともな思考をしているとは思えない。

薄気味悪い笑みを浮かべた小男は、ベリルの姿を見て耳障りな声を上げた。

 

?「ホッォォー、これはこれは、遅かったですねェ、戦士殿」

 

不快感を感じたベリルは舌打ちして顔を背け、面倒臭そうなため息をつく。

 

ベリル「誰だお前・・・?」

 

?「オホォ・・・無知なのはいけませんねェ、戦士殿。仕方ありませんねぇ、特別に教えてあげますよゥ。アタシの名前はチェデルキン。麗しき最高司祭猊下、アドミニストレーター様にお仕えする元老長ですよゥ」

 

ベリル「ああ、そう。で?なんか用か?」

 

チェデルキン「ホッ、ホホォーッ!・・・いけませんねェ、戦士殿。アタシも名乗ったのですからあなたも名乗らないといけませんよゥ?」

 

ベリル「生憎、害虫以下のゴミ屑に名乗る名なんて持ち合わせて無くてな。名乗って欲しいなら、まずはまともな言葉を勉強してくるんだな」

 

面倒臭そうに頭をガリガリと掻くベリルの言葉に、道化の小男は勢いよく両手を叩きながら数回飛び跳ねた。

 

チェデルキン「ホッ、ホホォーッ!まともな!言葉!笑わせてくれますねェ、ホオホオホオッ!」

 

きしきし、と人のものとは思えない甲高い笑い声を振り撒く。

 

チェデルキン「汚らわしいオマエら糞愚民どもがアタシのような高貴な者と話せること自体がオマエらの百人の一生分よりも遥かに幸福なのですよォ?それを・・・」

 

ベリル「用はなんだ?」

 

ベラベラと奇声で話し続けるチェデルキンに、ベリルはわざと大きめの声で再度問い掛けた。

言葉を無理矢理中断された小男は、両目を剥き出しにして睨んでいたが、再び下卑た薄気味悪い笑顔を取り戻す。

 

チェデルキン「アタシャオマエには用は無いんですよォ。用があるのは・・・」

 

視線を向けた先にあるのは、テラーメモリーの起動装置。

それを見たベリルは、チェデルキンの目的がアスナの記憶結晶だと気付き、次の行動を取った。

 

ベリル「悪いが、そいつの結晶はもういただいたぜ」

 

そう言って、他の記憶結晶を詰めているポーチをポンポンと叩いて見せる。

それを見てチェデルキンは一瞬狼狽えた後、すぐに起動装置まで走った。

急いで装置をこじ開けると、中から取り出した結晶をベリルに見せつける。

 

チェデルキン「おバカさんですねェ!結晶は・・・」

 

小男が喋るのを中断せざるを得なかった理由は、ベリルが鉤爪付きのロープでチェデルキンから結晶を奪い取ったからだ。

奪取した結晶を布で拭き取り、その布とロープを捨ててからチェデルキンに見せつける。

 

ベリル「な?ちゃんといただいただろ?」

 

鼻で笑ったベリルが、ドヤ顔でチェデルキンを見下すように見た。

見下していた相手に出し抜かれたことが気に入らなかった小男がまたも奇声上げる

 

チェデルキン「ホッホォギャアァァァァッ!!よくもこのアタシを騙しゃがりましたねェェェェェッ!!」

 

ベリル「騙してなんかないぜ?ただ予告しただけさ“いただいたも同然だ”ってな」

 

チェデルキン「うっさァァァァァい!その首ひっこ抜くぞォォォォォッ!!」

 

ベリル「やれるもんならやってみな、風船もやし」

 

結晶をポーチに入れたベリルは、次いでホルスターから二丁の愛銃を引き抜き、指でくるくると回転させてから交差させて構え、その銃口をチェデルキンに向けた。

 

チェデルキン「ンンンンンもぉ許しませんよぉぉぉぉッ!!オマエはカッチンカチコチ凍らせて二度とその口利けないようにしてやりますよゥッ!!・・・ホアァァ―――ッ!!」

 

掛け声とともに高々とジャンプしたチェデルキンは、後方伸身一回半宙返り一回ひねりを決めると、ドスンと頭から着地した。

 

ベリル「Hey What`s up(おい、どうした)?」

 

呆れるのを通り越して笑うベリルに対して、チェデルキンは逆さまのまま大真面目な顔で、ビシッと両手両足を広げて喚く。

 

チェデルキン「システムゥ・・・コォォォォ―――ルッ!!ジェネレイット・クライオゼニック・エレメントゥ!!」

 

巻き舌の発音で叫び、両手と両足を打ち合わせた次の瞬間、霜が降るような音を立てて計20のエレメントが生成された。

両の手足の指全ての先に生み出した、凍てつく青いエネルギー体を保持した小男は、ただ成り行きを見ているベリルに、逆さまのままの笑みを浮かべる。

 

チェデルキン「おほっ、オホホホホ・・・ビビッてますねェ、チビってますねェ?このアタシを、そこらの雑魚術師と一緒にしてもらっちゃ困るんですよゥ・・・オッホホホォ・・・!」

 

甲高い雄叫びを上げ、超高速でコマンドを詠唱、右、左の順で両の手を振り抜いた。

 

チェデルキン「ディスチャアァァ―――ジョワッ!!」

 

シュゴッ!!と空気を切り裂いて、5本の氷柱が冷気の渦を引いて撃ち出され、それを追って更に5本が放たれる。

高低差のある二重扇形に広がって飛んでくる氷の槍を、ベリルは困ったような表情で見ていた。

 

ベリル「術師?道化師の間違いだろ?」

 

ため息交じりに呟くと、構えたままになっていた愛銃の引き金を眼にも留まらぬ速さで何度も引き絞った。

発砲音とともに次々に撃ち出される弾丸が緑色の電撃を纏い、エメラルドグリーンの線を引きながら、氷の槍とぶつかる。

衝突した瞬間、弾丸を覆っていたプラズマが爆ぜ、無数の氷柱たちはガラスに似た破砕音を響かせて砕け散った。

あっという間にシャーベット状に粉砕された氷は、そのまま空気に溶けて消滅していく。

 

ベリル「おぉ!こりゃいいや。夏ならカキ氷屋が開けるぜ。って言っても、その氷を作ったのがお前みたいな奴だと知ったら、客は1人も来ないだろうな」

 

チェデルキン「・・・ぬっ・・・ぐぬぬぬぬううううっ・・・」

 

自信満々に放った攻撃をあっさり無効化された小男は、食い縛った歯をキリキリと擦り合わせながら悔しそうに唸った。

 

チェデルキン「そんなチンケな攻撃でいい気になってんじゃねェんですよゥッ!ならこいつはどうですかッ!ホォォォォォッ!!」

 

奇声を発し、真横に倒したままの両脚を、左右から勢いよく振り上げる。

すると、脚で保持していた10個のエレメントも青い平行線を描いて舞い上がった。

それらは空中で融合し、ごつん、ごつんと硬質な振動音を響かせて全面にスパイクの付いた巨大な氷の立方体を作り出す。

 

チェデルキン「ホヒヒッ・・・どうですかァ、我が最強いっこ手前の術はァッ!!さぁ、ぺっちゃんこになりなさああァァァァいッ!!」

 

逆立ち状態のチェデルキンが、真上に伸ばしていた両脚を前に倒した。

その途端、スパイク付きの立方体が轟音を立てて落下を始める。

しかし、ベリルは直立不動のまま動かない。

迫り来る氷のサイコロを仰ぎ見たまま拳銃をホルスターに収め、今度はゆっくりと剣に手を掛ける。

 

ベリル「芸がないな。この手の攻撃は見飽きてるんだよ」

 

グリップを強く握り締めて引き絞るように構え、剣にエネルギーをチャージする。

刀身がエメラルドグリーンに変わりプラズマが迸るが、エネルギーのチャージはまだ終わらない。

鮮やかなエメラルド色だった刃はやがて深緑に変化し、最終的にはほとんど黒に近い緑色になった。

 

ベリル「こんなんじゃ暇潰しにもならねえよ!」

 

勢いよく振り上げられた刀身から太い雷電を帯びた衝撃波が放たれ、巨大な氷のキューブを分断して駆け抜ける。

綺麗な切断面を作って斬り裂かれた立方体は、後から襲ってきた深緑の雷光によって粉々に砕け散った。

 

チェデルキン「ひきゃああ!?」

 

素っ頓狂な悲鳴を上げた小男は、逆立ちのまま棒のような四肢をわなわなと震わせる。

 

チェデルキン「そっ・・・そんな、バカチンなっ・・・げ、猊下に頂戴した、アタシの超絶に美しくて究極にかっこいい術式がっ・・・」

 

ベリル「汚いケツ見せてお家に帰りな風船もやし。見てるだけで不快だ」

 

ベリルは剣を背に戻し、踵を返して歩き出す。

だが、そんな様子を無駄にプライドの高いチェデルキンも黙って見ているわけはない。

自らに対して背中を見せた男を、剥き出しの目で睨んだまま喚き立てる。

 

チェデルキン「オマエェェェェェ!このアタシを無視してどこへ行こうというんですかあぁぁぁ―――ッ!!」

 

不快な金切り声で騒いでいるチェデルキンに、ベリルは片耳を押さえて振り返った。

 

ベリル「こっちも暇じゃないんだ。芸も歯応えもないゴミを相手してる時間は無くてな」

 

飄々とした軽い口調で話すベリルは、怒りや哀れみすら通り越して、存在しないものでも見るような目でチェデルキンを見ている。

そのまま何も言わず、ベリルは再び歩き出した。

 

チェデルキン「ふっざけるんじゃねェんですよぉぉぉぉぉっ!!これでも喰らいなさぁぁぁいィ!」

 

かなり長めの詠唱を高速で行い、瞬時に詠唱術を展開する元老長。

 

チェデルキン「出でよ魔人ッ!!あの愚か者を焼き尽くせェェッ!!」

 

両手足の指を使って20、そこに今度は更に両目も使って合計22個の赤熱する光点を生み出したチェデルキンは、それらを操って身長5mの巨大な炎の道化師を作り出した。

 

チェデルキン「死になさああァァァァいッ!!」

 

凄まじい熱を放出する火炎ピエロは、にやにや笑いを浮かべたまま高々とジャンプ、何もせずに歩くベリル目掛けて落下する。

直後、地面に降り立った炎の道化師がベリルの全身を包み込んでしまった。

 

チェデルキン「ホオオオォォォッ!呆気無かったですねェ!だいたい高が愚民1人がアタシに勝てるわけ無いんですよォォォォォッ!!」

 

燃え盛る火炎ピエロに向かって勝ち誇った高笑いを上げるチェデルキン。

だが、その下卑た笑いは長くは続かなかった。

 

ベリル「こんなもんか?」

 

チェデルキン「・・・ッ!?」

 

突如聞こえたベリルの声に、チェデルキンは声にならない悲鳴を上げる。

慌てて火炎ピエロを確認し、次いでキョロキョロと辺りを見回す。

ピエロ服を纏う雪だるまのような形の小男が慌てふためく姿に、ベリルが鼻で笑う気配。

それに気付いたチェデルキンが、再び火炎ピエロに視線を戻した

 

ベリル「こんなんじゃまだぬるいぜ・・・もっと・・・」

 

ためるように言った次の瞬間、巨大ピエロから燃え盛る人間が飛び出す。

 

ベリル「熱くなれよぉぉぉッ!」

 

火だるまになって飛び出したのはベリルだった。

全身を骨の鎧甲で隙間無く覆い、頭にはスカルリーパーのそれとよく似た骸骨のフルフェイスヘルムが包む。

傍から見れば、その姿は炎上する骸骨にしか見えない。

ベリルは一気に距離を詰めてチェデルキンの首元を掴むと、それを持ち上げて吊し上げる。

すると、ベリルを包み込んでいる炎がチェデルキンの派手なピエロ服に燃え移り、そのまま炎上を始めた。

 

チェデルキン「ホォギャァァァッ!?」

 

状況が把握できていない道化男は、拘束から逃れようと暴れるが何分手足がやたら短いため全く意味を成さない。

燃え広がる炎はやがて、チェデルキンの小さな肉体をも完全に包んでしまった。

しばらくそのままだったが、突然チェデルキンが暴れるのをやめる。

 

チェデルキン「ホヒヒッ・・・せいぜいいい気になってるがいいですよゥッ!使い捨てこの身体が壊れたって痛くもかゆくも・・・」

 

ベリル「不快だから黙れって」

 

喚き続けようとする小男の首を、ベリルは何の躊躇いもなく握り潰した。

ボギッ、という太い枝が折れるような音を短い悲鳴とともに響かせ、チェデルキンの身体は力失ってだらりと垂れ下がる。

次の瞬間、残った死骸が爆発を引き起こし、ベリルもろとも辺りを爆炎で包んだ。


 
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