No.723281

ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-09-28 11:33:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:500   閲覧ユーザー数:489

 

 

 story25 隊長としての役割

 

 

 

 そうして空がオレンジに染まる時、如月達は撤収をしていた。

 

 如月の横でボロボロのルノーと履帯が破壊され砲塔が固定された四式、八九式、M3、黒焦げな38t、砲塔側面が少し凹んで黒く焦げた五式が運ばれていく。

 

 

 試合が終わった後にすぐに治療を受けて如月の頭には包帯が巻かれている。

 幸いにも傷は浅かったので縫う必要は無く、しばらくすれば痕も無くなるそうだ。

 

 早瀬と鈴野と坂本は強く頭を打ったので今は治療所で脳に問題が無いか検査されている。

 

 ちなみに試合終了後、二階堂は額に血管を浮かび上がらせて「ちょっと話しがある」と言うと、河島は顔を青ざめてとっさに逃げようとするも一瞬で二階堂に首根っこを掴んでどこかに連れて行った。

 首根っこ掴まれて連れて行かれる河島は「お、お許しくださぁぁぁぁぁぁいっ!!!柚子ちゃぁぁぁん!!!助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!!」と泣きながら助けを求めていたが、小山は表情を青ざめて冷や汗を大量に掻きながら視線を逸らす。

 

 

 

「あの!みなさん!!」

 

 と、西住がみんなの前に立つと、頭を深く下げる。

 

「今回は遅れてしまって申し訳ございませんでした!そのせいで皆さんに大きな負担を掛けてしまいました」

 

 申し訳なさそうに表情に影が差すも、如月は西住の前に来ると右肩に手を置く。

 

「構わんさ。私達はお前たちが絶対間に合うと「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」・・・・・・信じていたんだ」

 

 途中河島の悲痛な叫びが聞こえるも、何とか持ちこたえる。

 

「き、如月さん・・・・」

 

 西住も少し顔を引きつらせている。

 

「わ、私も、信じていました!」

 

 空気を打開すべく、秋山が如月の隣に来ると西住に声を掛ける。

 

「西住殿は絶対に間に合うと!」

 

「優花里さん・・・・」

 

 西住は視線を他のメンバーに向けると、他のメンバーも責める目で見ていない。

 

「ま、まぁ、私達はすぐにやられちゃったけど」

 

「あははは」と車長の澤は苦笑いを浮かべる。

 

「何とか我々はつなげられたので!」

 

 車長の磯部が言うと、後ろの部員三人も頷き、歴女チームはグッと右手の親指を上げる。

 

「俺たちも何とか頑張ったんだがなぁ。まぁ、来ると信じていたぜ」

 

 と、二階堂がネズミチームのメンバーと合流して苦笑いを浮かべる。

 

 ちなみに二階堂の後ろに映る建物の角にうつ伏せになってピクピクと痙攣する河島の姿があった。

 それを見た小山は表情が真っ青になり、角谷会長も苦笑いを浮かべる。

 

「そう言う事だ。だから、謝る必要は無い」

 

「・・・・はい!」

 

 

 

 

「西住みほ!!」

 

 と、アンツィオ高校のアンチョビが副隊長のカルパッチョに止められながらもやって来る。

 

「私は貴様の戦車道を認めないぞ!!去年の全国大会の決勝戦で貴様はフラッグ車の車長でありながらも勝負を捨てた!

 結果的に黒森峰は敗北した!貴様は仲間達の頑張りを踏み躙り、敗北へと追いやったのだ!!」

 

「っ!あなたは!!」

 

 アンチョビはどんどんヒートアップしていき、秋山は何か言おうとしたが、西住が腕を前に出して止める。

 

「・・・・・・」

 

 如月も言葉が込み上げてきたが、何とか抑え込む。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 しばらく西住とアンチョビは睨み合う。

 

「確かに、私は黒森峰女学院で敗北を喫しました。それはアンチョビさんの言う通り、事実です。

 でも、戦車道には勝つ負ける以外にも、もっと大切な事があると思うんです」

 

「ふざけるな!!そんなものがあるわけがない」

 

 アンチョビはカルパッチョの腕を払い除けると右足を地面に叩き付ける。

 

「戦車道をやるからには勝たねば意味が無いのだっ!!」

 

「・・・・・・」

 

 如月は右手を握り締める。

 

 だがやつの言う通り、勝負の世界では勝たねば意味は無い。それは変えられない事実。

 

 

「それでは、アンチョビさんが仲間達と一緒に頑張った事に意味は無かったんですか?」

 

「な、何?」

 

 アンチョビは思わず怪訝な声を出す。

 

「・・・・・・」

 

「私は大洗に来てたくさんの友達に支えられています。戦車道に背を向けた時もあったけど・・・・」

 

 西住は静かに語り出し、アンチョビも何も言わず聞いている。

 

「今の私や私の戦車道は、友達が居たからこそここにあるんです」

 

「・・・・・・」

 

「私は・・・・『勝負』よりも『仲間』を大切にしたい!!」

 

(西住・・・・)

(西住殿・・・)

 

 如月と秋山は内心で呟き、アンチョビは目を瞑るとゆっくりと息を吐く。

 

「ドーチェ・・・・」

 

 と、カルパッチョがアンチョビに声を掛ける。

 

「我々も行きましょう」

 

「・・・・あぁ」

 

 アンチョビも答えると後ろを向いてカルパッチョと共にその場を離れていく。

 

 

「西住みほ!」

 

 すると立ち止まると、声を上げる。

 

「お前の言い分は分かった。

 だが!そんなモノは言葉だけ理想に過ぎないなっ!!」

 

「なっ!?」

 

「・・・・・・」

 

 秋山はアンチョビに向かおうとしたが、如月はすぐに肩を持って止める。

 

 

「・・・・だが、そこまで仲間が大切だと言うのなら――――」

 

 アンチョビは間を置き、口を再び開く。

 

「なおの事、隊長の役割は仲間達を、勝利に導いてやる事じゃないのか?」

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

「隊長としての役割・・・・・・私はそう思っている」

 

「・・・・・・」

 

 

 

「あぁそれと・・・・」

 

 と、少ししてからアンチョビは口を開く。

 

「この後、我々の所へ全員で来い。拒否はするなよ」

 

「え、えぇと・・・・・・一体何を?」

 

「戦勝祝い・・・・・・という所だ」

 

「え?」

 

「・・・・・・」

 

 意外な言葉に西住は呆気に取られる。

 

「試合の勝ち負け関係なく、我が校の生徒自慢の料理を振舞って対戦相手を労う。それが我がアンツィオ流のおもてなしだ」

 

「・・・・・・」

 

 そう言うと、アンチョビはカルパッチョを連れてその場を離れていく。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 その後アンツィオ高校の戦車道メンバー総出で料理が振舞われ、大洗のメンバーはその料理を堪能した。

 

 

 秋山と鈴野、中島の言う通り、その美味さは絶品だった・・・・・・と言っておこう。

 

 

「・・・・・・」

 

 それからして戦車を学園艦へと搬入が終わり、出港した後西住は学園艦の広場より海を見つめていた。

 

「隊長としての、役割、か」

 

「そうだな」

 

 如月は西住の隣に立って、海を見つめ、あの時のアンチョビの言葉を思い返す。

 

「あの人には、あの人なりの戦車道があるんでしょうね」

 

「言っただろ。戦車道は一つではないとな」

 

「・・・・はい!」

 

 西住は笑みを浮かべる。

 

「しかし、今回はご苦労だったな、秋山」

 

「え、いえ。改めて西住殿と如月殿の大変さが分かりました」

 

 秋山は苦笑いを浮かべて頭を掻く。

 

 

 

 

 

(・・・・一つでは無い、か)

 

 自分で言った言葉を思い返す。

 

「・・・・・・」

 

 ふと、全国大会の抽選会の出来事を思い出す。

 

(避けられない戦いか・・・・)

 

 内心で呟くと、地平線の向こうに沈む夕日を見つめる。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 その頃、学校のとある一室・・・・

 

 

「ウーン。これは参りましたネー」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「そうですね」

 

 物凄く重い空気が漂う中、四人の女子生徒が居た。

 

「今年中に成果が無ければ、この部活の存続は・・・・絶望的です」

 

「そんな!!」

 

「お姉さまと一緒に過ごしたこの『艦部(ふねぶ)』が無くなるなんて!!」

 

「信じられません」

 

「まだ廃部になったわけではありません。ただ、今の私たちの状態では、相応の成果が出そうにも出せない。それだけです」

 

「成果デスカ」

 

 一人の女子生徒は静かに唸ると、テーブルに置いている紅茶が入ったカップを手にして口に運び、一口飲む。

 

「ただでさえ部費が全カットされているというのに、そんな状態で成果を出せって、無茶も良いところです」

 

「・・・・・・」

 

「打つ手無し・・・・」

 

「そんな・・・・」

 

 

 

「いいや。まだ方法はあるネー」

 

 と、カップを受け皿に置き、女子生徒が顔を上げる。

 

「お姉さま?」

 

「以前会長より言われているんデスヨネー。戦車道をやらないかって」

 

「戦車道をですか?」

 

「最近復活して、確か今日第二試合をしていたはずです」

 

「でも、なんで戦車道を・・・・?」

 

「戦車道には廃部となったバレー部も参加しています。部活の復活を目指して」

 

「つまり、戦車道をすればこの部活も存続が出来るって言うの?」

 

「そういうコトネー。要はLet`s tryネー!」

 

「お姉さま・・・・」

 

「確かに戦車道で好成績を残す事ができれば、我が部活も存続の可能性はあります」

 

「今まで海の事しか知らなかったのですが、陸を知るのにはいい機会ですね」

 

「お姉さまがやると言うのであれば、私達はどこまで付いて行きます!」

 

「そうですね。部活の存続に賭けて!」

 

「戦車道に参加しましょう!」

 

 

 そうして、一つの部活が一つの決意を固めたのであった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 それから後日の夜。

 

 

 

 

 森の中、砲弾が直撃した音が当たりに響き渡ると、『E-75』と呼ばれる重戦車が後ろから煙を出し、砲塔天板より白旗が揚がる。

 よく見れば周囲には『E-10』や『E-25』、『E-50』、更には『E-100』等、幻の『Eシリーズ』と呼ばれる戦車が撃破されて沈黙している。

 

「くそっ!・・・・『白虎』め・・・・!」

 

 E-75のキューポラより車長と思われる女子生徒が出てくると、砲塔天板に倒れる。

 

 

 その戦車の後ろには、満月をバックにして佇む白き虎・・・・・・ティーガーⅠが主砲をこちらに向けている。

 

「・・・・・・」

 

 その白いティーガーのキューポラハッチが開くと、一人の女性が出てくる。

 

「他愛も無いわね」

 

 その女性・・・・・・早乙女神楽は被っている旧日本陸軍の略帽を模した帽子を取って、撃破されたE-75を見ると、そよ風が吹いて白銀の長い髪が靡く。

 

 

『試合終了!!・・・・・・「神威(かむい)女学園」の勝利!!』

 

 アナウンスで早乙女が居る学校の勝利が告げられた。

 

 

 

 


 
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