No.720941

ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-09-23 11:50:15 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:612   閲覧ユーザー数:596

 

 

 

 

 そうして時間は過ぎていって、アンツィオ高校との試合の日。

 

 

 

「キャァァァァッ!!イタリア戦車が揃い踏みですよぉぉぉぉっ!!」

 

 戦車を見るとすぐに秋山は興奮する傍で武部が「ゆっかりーん・・・・」と呆れたように言葉を漏らす。

 

 後ろで如月達の戦車が並べられていると、既に目の前にはアンツィオ高校の戦車が並べられていた。

 この間も見たはずなのに、よく飽きんな。

 

「イタリア軍主力のM15/42に突撃砲セモヴェンテM42/75ミリ長砲身仕様と105ミリ榴弾砲仕様と快速戦車カルロ・ヴェローチェCV33!!

 そして重戦車P40!!全十両ものイタリア戦車の狂演!」

 

 どんどんヒートアップしていくが、「ハッ!!」と我に帰ると「すいません・・・・・・」と土下座する。

 

「しかし、そこそこ強いやつを持ってきましたね」

 

 セモヴェンテM42とP40を見て早瀬が呟く。

 

「あぁ。旧イタリア軍唯一の重戦車P40はまだしも、セモヴェンテM42はかなり厄介だ」

 

「105ミリ榴弾砲は下手すればこちらの戦車は一撃で撃破されてしまいますよね」

 

「それに75ミリ長砲身はあのⅢ突に匹敵する威力を持っていますからね」

 

「あぁ」

 

「あのドイツがイタリアの鹵獲戦車の中で優秀って言うぐらいですからね。

 っていうか、あのM15/42の主砲・・・・・・おかしくない?」

 

 坂本の指摘に如月と早瀬が見ると、あの戦車が搭載している47ミリ戦車砲より、口径がデカイ。

 

「あれって・・・・・・セモヴェンテM40の37口径75ミリ戦車砲のじゃないですか?」

 

「言われてみれば・・・・・・って、なんで!?」

 

 その事に気付いて早瀬は驚きの声を上げる。

 

「一応ルールには範囲内であれば史実では存在しないパーツの組み合わせは許可されているが・・・・・・」

 

「だからって、無理矢理載せる必要性って・・・・」

 

「絶対バランスが悪そうですね」

 

「かもな」

 

 

「でも、今回は殆ど戦力の数に差がありませんからね」

 

 この間見つけた戦車を含めれば、今回は9輌での参加となる。

 

 それに対してアンツィオはカルロ・ヴェローチェCV35が4輌。M15/42が1輌。セモヴェンテM42が両仕様合わせて4輌(比率は75ミリ長>105ミリ榴)。P40が一両の編成だ。

 

「相手は十両中4両が6、5ミリ機銃しか持たない快速戦車。戦力を考えてもこちらが上ですね!」

 

「実質上そうだが、何が起こるか分からないのが勝負だ。油断は出来んぞ」

 

「そうですね。特に気をつけるべきなのはP40とセモヴェンテM42でしょうか」

 

「あぁ。それとあの改造M15/42も注意しなければな・・・・・・ん?」

 

 そう話していると、向こうより三人の女子が近付いてくる。

 

 

「アンツィオ高校の副隊長カルパッチョです。本日はよろしくお願いします」

 

 と、背の高い方の女性はポーカーフェイスで言うと、河島が「こちらこそ」と返事を返す。

 その隣で茶髪のミドルストレートヘアーで瞳の色が蒼っぽい黒の瞳を持つ女子生徒は頭を下げる。

 

 

「ところで・・・・・・西住みほはどこだ」

 

 少しして隣に居たダークグリーンの髪を黒いリボンでツインテールした女子生徒が口を開く。

 

「・・・・・・」

 

 生徒会はしばらく沈黙する。

 

「西住に何か用があるのか?」

 

 それからして河島が聞き返す。

 

「統師(ドゥーチェ)・・・」

 

 副隊長のカルパッチョは口を開こうとしたが、アンツィオ高校の隊長である『アンチョビ』は右手を上げて言葉を遮る。

 

「とにかく、呼んで欲しいの」

 

 ただそれだけを言い、生徒会はひそひそと相談する。

 

(どうしますか、会長?)

 

(まぁいいんじゃない)

 

 そうして河島は西住を呼ぶ。

 

 

「・・・・・・」

 

 その近くに如月は近寄ると、話に耳を傾ける。

 

 

「西住みほ」

 

「え?」

 

 呼ばれて生徒会の元にやって来た西住にアンチョビが口を開くと、指差す。

 

「貴様の戦車道は―――――

 

 

 

 

 

 ―――――弱いっ!」

 

「なっ!?」

 

「・・・・・・」

 

 一緒に来ていた秋山は驚愕し、如月は少し目を細める。

 

「私は昨年の全国大会の決勝戦での黒森峰女学園とプラウダ高校の試合を見ていた。あまりにも無様な負けようだったな」

 

「・・・・・・」

 

「だが、それで確信したよ」

 

 と、アンチョビは邪悪に口角を吊り上げる。

 

「戦車道に背を向けた者に・・・・・・我々は絶対に負けないとな」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「覚悟しておくことだな」

 

「ハッハッハッ!!」と高笑いしながら背を向けて歩いていくと、副隊長ともう一人は頭を下げてその後についていく。

 

 

「・・・・・・」

 

 如月は右手に力を入れて拳を作る。

 

「だ、大丈夫ですかっ!?西住殿!?」

 

「う、うん・・・・」

 

 少し青ざめた表情を浮かべて、秋山が心配して声を掛ける。

 

「何よアイツ!!いくらなんでもヒドすぎよっ!!」

 

 武部は怒りの篭った声を放つ。

 

「アンツィオ高校の隊長。あっぱれな宣戦布告だったね~」

 

「と言うより、西住個人に対しての宣戦布告って感じだがな」

 

 二階堂は腕を組むと、アンチョビとカルパッチョの後ろ姿を見る。

 

 

「・・・・・・」

 

 如月は少しショックを受けている西住に近付くと、肩に手を置く。

 

「き、如月さん・・・・」

 

「やつの言葉など気にするな」

 

「・・・・・・」

 

「今は気持ちを切り替えろ。いいな?」

 

「・・・・はい」

 

 西住の肩から手を離すと、右目を去っていく二人に向ける。

 

(言ってくれるな・・・・)

 

 内心で呟くと、静かに歯軋りを立てる。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「あのー、ドーチェ?」

 

「なんだ?」

 

 如月たちの元から立ち去って自分達の陣地に戻っているアンチョビはカルパッチョと共に付いて来ていた女子生徒こと『パネットーネ』が問い掛ける。

 彼女はアンチョビの補佐官をやっている(しかしその仕事内容は戦車道のみならず生徒会の予算管理がほとんど)

 

「こんな時に言うのもなんですが、去年そんな似たような事を堂々と言ってボロクソに負けたじゃないっすか。それでこっ恥ずかしい思いを――――」

 

「わぁー!?恥ずかしい事を思い出させるな!!」

 

 パネットーネに指摘されてか、その時の事を思い出したアンチョビは顔を赤くして怒鳴る。

 

「いやあんなに堂々と言ってしまうと、負けた時にまた赤っ恥を掻いてしまいますよ?当時のネットでの反応をお忘れですか?」

 

「ぬぅ・・・・・その心配は要らん!相手はあの西住流の面汚し!そんなやつに我々は負けんのだ!」

 

「・・・・フラグが立ち過ぎて勝てる気がしないっす、ドーチェ」

 

「う、うるさい!」

 

 毒のある突っ込みに顔を真っ赤にしながらも、彼女は自分の戦車へ向かう。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 その後試合開始前になり、大洗戦車チームも開始地点にて時が来るのを待つ。

 

「それにしても、アンツィオ高校の隊長。いくらなんでもあんな事を言わなくたって」

 

 不機嫌そうに坂本はブツブツと呟く。

 

「・・・・・・」

 

 

「如月さん的には、どう見ますか?」

 

 鈴野が後ろを向いて如月に聞いてくる。

 言わずとも内容はアンツィオ高校の隊長の言葉だろう。

 

「・・・・私もあの試合は見ていた。私個人としてはあの時の西住の判断は正しいと思っている。

 だが、正しいと思わない輩はいるだろうな」

 

「・・・・・・」

 

「勝たなければ意味は無い。どの勝負の世界においても同じ事だ」

 

「それは、そうですが・・・・」

 

 納得が行かない早瀬は操縦桿を握り締める。

 

「アンツィオの隊長も、そういう考えなのだろう」

 

「・・・・・・」

 

 

 

 如月はキューポラの覗き窓から秋山達が乗るルノーを見る。

 

「しかし、秋山達は大丈夫なんでしょうか?」

 

「今回はあくまでもルノーは試験運用が目的だ。別に何も期待しているわけではない」

 

「そ、そうですか・・・・」

 

 

「とにかく、今は気持ちを切り替えろ。始まるぞ」

 

『はい!』

 

 

 

 

『それでは、大洗女子学園対アンツィオ高校!!試合開始!!』

 

 

 アナウンスが流れた直後に試合開始の合図の照明弾が打ち揚げられた。

 

 

 西住の「パンツァー・フォー!!」の掛け声と共に大洗の戦車が前進する。

 

 

 

 

「さて、向こうはどう出るか・・・・」

 

 呟きながら如月は地図を膝の上で開いて覗く。

 

(今回のフィールドは砂漠が広がり、中央を分断するように聳え立つ山があるエリア。峠を先に押さえた方が有利となる)

 

 地図を見ながら考え、キューポラの覗き窓の全周囲を覗く。

 

 

「クマチームからアリクイチーム。調子はどうだ?」

 

 覗き窓越しに如月は喉の咽喉マイクに手を当て、五式の隣を走行している三式のアリクイチームに通信を入れる。

 

『大丈夫です』

 

『ハロネンさんのご指導のお陰で順調なり!』

 

『必ず役に立ってみるっちゃ!』

 

 と、アリクイチームより通信が帰って来る。

 

「期待しているぞ。私がわざわざ遅くまで残ってお前達に指導したのだからな」

 

『了解!』

『了解なり!』

『了解だっちゃ!』

 

 

 

「とは言っていますけど、本当に大丈夫なんでしょうか?」

 

 ギアを一速上げながら早瀬が聞いてくる。

 

「如月さんが遅くまで残ってビシバシ指導していたから、ある程度は出来ると思うよ」

 

「・・・・・・」

 

 坂本は何か思い出したのか、冷や汗を掻く。

 

「少なくとも最低限の働きをすればそれでいい。初試合でいきなり敵戦車を撃破しろと言っても、無理な話だ」

 

「それはそうですけど・・・・」

 

「ぶっちゃけ言うと、全く期待してないですよね?」

 

「・・・・悪く言えば、な」

 

 鈴野の問いに少し間を置き、答える。

 

(如月さんって、たまに酷な面があるような・・・・)

 

 早瀬は内心で呟く。

 

 

 

「ん?」

 

 後ろの方を見ていると、ルノーが隊列から離れていっている。

 

「クマチームからGチーム。列から離れているぞ」

 

『すいません。どうやらルノーのエンジンが本調子ではないようで、出力が上がりません』

 

「・・・・・・」

 

 今回はスピードが重要な戦闘になるので、少しでも遅れるのは出来れば避けたいところ。

 

『ですので、我々の事は気にせず、先行してください。後で追いつきます』

 

「了解した」

 

『秋山さん。大丈夫?』

 

 と、心配そうに西住が秋山に聞く。

 

『だ、大丈夫です!!それ以外に特に問題はありませんからっ!!』

 

 若干喜色のある声で返事をする。

 

『西住ちゃーん。今回の作戦名は?』

 

『え?』

 

 相変わらずの無茶振りだな。

 

 

『ふ、フルーツバスケット作戦です!十字路を双方から取り合うからです!』

 

 そして西住も西住で、考えるのが早い。

 

 

『では、アヒルさんとカメさんは先行して偵察に動いてください』

 

『了解!』

 

『他は周囲を警戒しつつ速度を維持してください。

 フルーツバスケット作戦・・・・・・開始です!!』

 

 

 そうして砂煙を上げながら大洗戦車隊は峠へと目指す。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

『こちらアヒルチーム。峠は既にアンツィオ高校に押さえられています』

 

 偵察に向かったアヒルチームより報告が入る。

 

(相手に先を越されたか・・・・)

 

 内心で舌打ちをする。

 

「アヒルチーム。敵戦力は分かるか?」

 

『はい!敵戦力はカルロ・ヴェローチェが2輌。セモヴェンテM42/75ミリ長砲身仕様が二輌です』

 

「そうか。分かった。その中にP40は見当たるか?」

 

『いいえ。それらしきものは見当たりません』

 

「・・・・そういう事だ。どうする、西住?」

 

『はい。アヒルさんとカメさんはそのまま偵察を続行してください』

 

『了解です!』

 

『ほいほいー』

 

 

 

(十字路にはP40とセモヴェンテM42/105ミリ榴弾砲仕様がいない・・・・)

 

 顎に手を当てて考える。

 

(とすれば、後方に潜んでいる可能性が高い、か・・・・)

 

 

「しかし、予想以上に相手の動きが早いですね」

 

 ギアを一段上げて早瀬が呟く。

 

「うむ。だが、P40とセモヴェンテM42がいないのが解せんな」

 

「単にルノーの様に遅れているってだけじゃ・・・・」

 

「確かに重戦車とそれと同等の重さのある突撃砲だけど、そうとは限らないわ」

 

「そりゃ、まぁ」

 

「・・・・・・」

 

 如月は少ししてから咽喉マイクに手を置く。

 

「西住。お前的にはどう考える」

 

『そうですね。恐らく敵は―――――』

 

 

 

 すると無線越しに爆発音がヘッドフォンから放たれる。

 

『隊長!!敵に見つかり、攻撃を受けています!!』

 

『ごめーん!何か敵の網に掛かったみたい!』

 

 アヒルチームの磯部と少し緊張味のある声で角谷会長が口を開く。

 

(敵の待ち伏せか!)

 

『了解です!急ぎ救援に向かいます!!アヒルさんとカメさんは何とか敵の攻撃をかわし、すぐに離脱してください』

 

『了解です!!』

『りょうかーい!』

 

 

『みなさんっ!!これより味方の救援に向かいます!全戦車最大戦速!!』

 

『了解!!』

 

 と、早瀬はギアを上げてアクセルを踏み、五式のスピードを上げる。

 

(先に峠押さえたと思えば、次にこちらの動きを呼んで網を張る。侮れんな)

 

 内心で少し感心しながら砲弾ラックより砲弾を取り出して装弾機に乗せ、砲尾のスイッチを押して砲弾を薬室に装填する。

 

(面白い・・・・!)

 

 少しばかり喜びを感じながらも、キューポラの覗き窓を覗く。

 

 

 

 

 

 

(ティーポ89と38か)

 

 M15/42の車内で大洗の戦車二輌と対峙しているパネットーネは狙いを定めると、引き金を引いて砲弾を放つ。

 それと同時に装填手が砲塔内部に溜まった煙を天板ハッチを開けて換気する。

 

 近くではCV33が2輌機銃を放ち、八九式や38tの周囲を走り回る。

 

「ペパロニの姉貴。あくまで我々は陽動ですから、無茶だけはしないでくださいよ」

 

『おう!任せておけ!!ようは暴れまくれってことだろ!』

 

(・・・・・・ダメだこりゃ)

 

 威勢のいいペパロニの声が返って来るも、作戦の意図を全く理解していなかった。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 しばらく前進すると、目の前にアンツィオ高校の戦車に攻撃を受ける八九式と38tが見えてきた。

 

『これより味方の救援を行います!全戦車砲撃始め!!』

 

「鈴野!」

 

「はい!」

 

 返事と同時に引き金を引き、轟音と共に砲弾が放たれてフラッグ車であるM15/42の近くに着弾する。 

 

『お待たせしました!』

 

『ま、間に合った!!』

 

 と、歓喜の声で河島が叫ぶ。

 

 M3と四式、三式が一斉に砲撃を始め、カルロ・ヴェローチェの周囲に着弾し、M15/42が砲撃してⅣ号の近くに着弾させる。

 

 

「しかし、相手も相手でよくこんな配置をしようと思いましたね」

 

 スコープを覗きながら鈴野が呟く。

 

「あぁ。峠に本隊が居るとして、前衛にカルロ・ヴェローチェを2輌。M15/42を一輌。しかもフラッグ車のM15/42を前面に出すなど自殺行為も――――」

 

 と、砲弾を薬室に装填した時に、一瞬如月の脳裏に何か嫌な予感が過ぎる。

 

 

 隣で四式が轟音と共に砲弾が放たれ、M15/42の近くに着弾する。

 

「おー、激しいねぇ・・・・」

 

 車内で呑気にもペットボトルに入ったグレープ味のジュースを飲み、パネットーネはキューポラの覗き窓から様子を見ている。

 

(・・・・頃合いか)

 

 時間を確認すると、無線を手にしてペパロニのCV33や他の車輌に連絡する。

 

 すぐに榴弾が装填され、引き金を引いて放つと同時に装填手がハッチを開けて換気する。

 直後に榴弾が地面に着弾して砂煙を上げて大洗側の視界を遮る。

 

 すると残り車輌は後退して峠へと向かう。

 

「・・・・・・」

 

 如月はキューポラの覗き窓からそれを覗き、目を細める。

 

 

 

「・・・・秋山。確認された戦車は分かるか?」

 

 咽喉マイクに手を当ててGチームに連絡を入れる。

 

『え?は、はい!カルロ・ヴェローチェが2輌とM15/42が一両です!』

 

「そうか・・・・」

 

『あ、あの・・・・?』

 

 如月の返事に違和感を覚えたのか、秋山は声を掛ける。

 

 すると他のチームの戦車が敵撃破に意欲を見せるかのように追撃を開始する。

 

「西住」

 

『はい。分かっています』

 

 ヘッドフォンに確信を得たかのような声で西住は返事を返す。

 

 如月がさっき感じた嫌な予感・・・・

 

 

 

 これは囮だと・・・・・・そう感じた。

 

 

 

『これは陽動です!!みなさん!!』

 

 西住はすぐに無線で全チームに通信を起こる。

 

『我々は敵の罠にかかっています!!』

 

「・・・・・・」

 

 敵は恐らく峠で待ち伏せをしている。

 

 

『これは私達が聖グロリアーナに使った作戦と同じです!』

 

「・・・・・・」

 

『如月さん。優花里さん。これより作戦を伝えます』

 

「分かった――――」

 

 

 その瞬間無線に爆発音が響く。

 

『て、敵の待ち伏せです!!』

 

 アヒルチームの磯部より通信が入り、如月はキューポラハッチを開けて立ち上がった外を見ると、峠の方にアンツィオの戦車隊が集結し、こちらに砲撃をしてきていた。

 

(こういう予感はあまり当たって欲しくはないものだな)

 

 内心で文句を言って舌打ちをして車内に戻る。

 

「砲撃を続けろ!」

 

「了解!」

 

 鈴野はとっさに砲塔を旋回させて峠に向けるとすぐに砲弾を放ち、セモヴェンテM42/75の近くに着弾する。

 

 四式と三式も砲撃を開始し、M15/42とセモヴェンテM42/75の近くに着弾させる。

 

「いよいよ本隊の本領発揮というわけですか」

 

 ギアをすぐにバックに入れ替えてアクセルを踏み、五式を後退させてセモヴェンテM42/75の砲弾をかわす。

 

「そうだな」

 

 腕に抱えている砲弾を装弾機に乗せて砲尾のスイッチを押し、砲弾を薬室へと装填する。

 

 

 

 

 と、M3が放った砲弾がセモヴェンテM42/75に着弾する。

 

「やった!一輌――――」

 

 撃破!・・・・・・と叫ぼうとした瞬間、砲弾は車体を貫通し、車体はバラバラになると中からCV33が現れる。

 

『えっ!?』

 

 と、梓の驚きの声が漏れ、それによってM3は動きを止めていた。

 

「っ!ウサギチーム!!立ち止まるな!!すぐに――――」

 

 とっさに呼びかけるも、遅かった。

 

 

 

 

「まずは・・・・一輌」

 

 

 

 

 その直後にM3は側面に砲弾の直撃を受けて、白旗が揚がる。

 

「っ!」

 

 砲弾が飛んできた方を見ると、そこにはこちらに砲を向けているP40の姿があった。

 

『P40発見!右手3時の方向!距離700!!』

 

 八九式より磯部の報告している間にP40は砲撃をしてきて四式の近くに着弾する。

 

『アヒルチームはすぐに下がってください!!ルノーが盾になります!!そのままフラッグ車であるⅢ突を守ってください』

 

『りょ、了解!!』

 

 八九式はとっさに後退してその前にルノーが入る。

 

 

「やっぱりここに居たんだ!」

 

「あえて遅れて発見を遅らせた、と言った所でしょうか」

 

「恐らくな。だが、重戦車らしく遠くからの狙撃か。厄介な――――」

 

 

 

 と、如月が言い終える前に五式の近くで大きな爆発音と共に巨大な砂柱が立ち上がる。

 

「な、何!?」

 

 その衝撃で五式車内は揺さぶられて坂本は慌てふためき、如月はとっさにキューポラの覗き窓を覗いて周囲を見渡す。

 

「っ!」

 

 すると峠に居る戦車隊の中央を陣取るかのように砲口より煙を出すセモヴェンテM42/105がこちらに向いていた。

 

「セモヴェンテM42/105を発見した!正面12時の方向!距離550!!」

 

 とっさに西住に報告をすると、セモヴェンテM42/75が放った砲弾が五式の砲塔側面を掠める。

 

「意外と近い場所に居ましたね!」

 

「あぁ。だが、これが105ミリ榴弾砲の威力か」

 

「喰らったら確実に撃破される・・・・」

 

 緊張味のある声で鈴野は息を呑む。

 

 

 M15/42とセモヴェンテM42/75二輌が次々と砲撃をしてきて、ルノーは車体を斜めにして正面装甲で砲弾を弾き、五式は砲塔天板を擦れる。

 

「一方的にやりますね!」

 

「全くだな」

 

 鈴野はすぐに引き金を引いて轟音と共に砲弾を放ち、続いてⅢ突と四式、三式も砲撃をして四つの砲弾がセモヴェンテM42/75に着弾するも、さっきのM3の時と同じ砲弾は貫通してバラバラになると、中からCV33が出てくる。

 

「またデコイ・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 先ほどからアンツィオの戦車は峠の向こう側に車体を隠しては再度現れるも、その度に数量の内何両かがデコイを纏ったカルロ・ヴェローチェが混じっている為、中々撃破に至らない。

 

 

 

『如月さん、優花里さん。作戦を伝えます』

 

 緊張した声で西住より通信が入る。

 

『恐らくP40は丘の上を陣取り、こちらをスナイピングをしています。そこで我々あんこうチームとカメさんチームがそれぞれ峠を迂回し、どちらかに居るであろうP40とフラッグ車を背後から攻撃します』

 

『・・・・・・』

 

 このままこちらから砲撃してもこちらが不利なのは事実。背後から意表を突いてP40を黙らせ、フラッグ車を撃破するのが一番。しかし―――――

 

「と言う事は、それ以外は囮と言う事か」

 

『・・・・・・』

 

 敵の注意を引き付けるにはフラッグ車と多くの戦車が居れば注意逸らす効果は大きい。だが、もし西住達が遅れれば被害は甚大。最悪の場合フラッグ車を撃破される。リスクの大きな作戦だ。

 

 

 

 

『分かりました!!』

 

 と、無線越しに決意の篭った声で秋山が叫ぶ。

 

『それまで我々が正面を支えればいいんですね!!』

 

『優花里さん・・・・』

 

(あいつ・・・・勝手に決めたな)

 

 内心でぼやきながらも、鼻で静かに笑う。

 

『全六輌で、しかもセモヴェンテM42105ミリ榴弾砲と75ミリ長砲身仕様もいる砲撃の中を真正面から受ける事になりますよ?』

 

『お任せください!!』

 

 

「全く。いいだろう。西住が戻るまで私がこの場を指揮を取る。西住とカメチームは出来るだけ早く移動してくれ」

 

『分かりました!』

 

『おうさ~!』

 

 そうしてⅣ号と38tは砲撃の中それぞれ左右へと走行して峠を迂回する。

 

 

「我々は西住達が到着するまで敵の攻撃をかわし続けろ!とにかく敵の撃破より生き残る事を最優先にしろ!!」

 

『了解!!』

 

 残った六両はそれぞれ散らばって敵の砲撃をかわし続ける。

 

 

 

 するとセモヴェンテM42の105ミリ榴弾砲が轟音と共に火を噴き、四式の近くに着弾して砂柱を上げる。

 

「こいつはすげぇな!!」

 

「全くっすよ!」

 

 車内が揺らされて中島は無線機にしがみ付く。

 

 青嶋は砲塔を旋回させて引き金を引いて、砲弾を放って本物のセモヴェンテM42/75の角を掠る。

 

 

 すると他の戦車による一斉砲撃が四式に襲い掛かる。

 

『ギャァァァァァァァァッ!!!』

 

 四式の車内で悲鳴が上がって四式はとっさに蛇行走行をして砲弾をかわしていく。

 

 

 

 

「デコイを纏ったカルロ・ヴェローチェのせいで数が減らない。それにフラッグ車どころかP40とセモヴェンテM42にすら近づけないなんて・・・・」

 

「さすがにこれは気が滅入るな」

 

 砲弾を装弾機に乗せて砲尾のスイッチを押して薬室に装填する。

 

「鈴野。何とかここからP40は狙えるか?」

 

「難しいですね。射程内に入っているか入っていないかのどちらか。それに遠いと命中率は・・・・」

 

「そうか」

 

 

 

 すると突然五式はエンジンの音が消えるとゆっくりと停止する。

 

「っ!?早瀬!なぜ止まった!」

 

 急停止によって身体構えの方に持って行かれそうになるも、如月は装弾機にしがみ付いて踏ん張る。

 

「すいません!!なぜか突然エンジンが止まって!」

 

 早瀬はとっさにエンジンの始動ボタンを押してエンジンを再起動させようとするが、掛かる様子は無い。

 

「こんな時にエンスト!?」

 

「なんて間合いの悪い・・・・」

 

 鈴野の表情に焦りの色が浮かぶ。

 

「ちっ!鈴野はすぐに砲塔を手動旋回しろ!」

 

「はい!」

 

 鈴野はとっさに旋回ハンドルを回してゆっくりと五式の砲塔をP40へと向ける。

 

「早瀬は急いでエンジンの再起動!坂本!副砲は狙えるか!?」

 

「ダメです!射線に敵車輌なし!!」

 

「くそ!」

 

 如月はとっさに砲塔左側部にある九七式車載重機関銃を持って上に向け、引き金を引いて弾丸を放って牽制する。

 

 九七式車載重機関銃を撃ち終えた所で砲塔旋回が終わり、鈴野は引き金を引いて轟音と共に砲弾を放つが、砲弾はP40の下の崖に着弾する。

 

「やはり命中しづらい・・・・」

 

 鈴野は奥歯を噛み締める。

 

「ちっ!」

 

 如月はすぐに砲弾ラックより砲弾を取り出し、それを薬室に手動で装填する。

 

 

 

 

「ドーチェ。ティーポ5の動きが止まっているっすよ?」

 

 主砲を放ったことで出た大量の煙の換気の為に砲塔天板を開けて換気するパネットーネは隊長のアンチョビへ無線連絡を入れる。

 

『こちらでも確認している。エンストしたかどうかは知らんが、容赦はしない』

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

「っ!!」

 

 如月はキューポラの覗き窓を見ると、左方面にセモヴェンテM42/105一輌とM42/75三輌がこちらに榴弾砲と長砲身を向けていたのが見えた。

 

「総員何かに掴まれ!衝撃に備えろ!!」

 

 私はとっさにイスに掴まると、鈴野はハンドルを、早瀬と坂本はイスにしがみ付く。

 

 

 

「Fuoco(フォーコ:撃て)!」

 

 アンチョビの命令の直後にセモヴェンテM42/105の105ミリ榴弾砲と75ミリ長砲身が轟音と共に火を噴き、榴弾と徹甲弾四つは一直線に五式の砲塔左側面に着弾して爆発を起こす。

 

『っ!!』

 

 車内には今までとは比べ物にはならない衝撃が襲い掛かり、着弾の衝撃と爆発によって五式は一瞬車体が浮かび上がり、半回転して五式は逆さまにひっくり返ってそのまま勢いで横転し、砲塔右側面より白旗が上がる。

 

 

 

 

 

 

「如月殿の五式が!?」

 

 その光景を見ていた秋山は驚きの声を上げる。

 

「くそっ!副隊長がやられるとは!!」

 

 その間にもP40やセモヴェンテM42/75、フラッグ車のM15/42が砲撃をし、ルノーは後退してかわそうとするもP40の砲弾が 正面装甲に着弾するも角度が付いていたので弾いた。

 

 

 

「あの野郎!!副隊長をやりやがったな!!」

 

 二階堂はキューポラハッチより横転した五式を見ながら怒声を上げる。

 

「弔い合戦だ!!あいつらをぶっ潰すぞ!!」

 

『アイアイサー!!』

「・・・・・・」コクコク

 

 四式は砲塔を回転させてセモヴェンテM42/75に向けて砲弾を放つも、砲弾が右に逸れてセモヴェンテM42/75の近くに着弾する。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「う、うぅ・・・・」

 

 五式が横転している中、如月は頭に鈍い痛みを感じながら顔を上げる。

 

「み、みんな・・・・大丈夫か?」

 

「は、はい」

 

「何とか」

 

「え、えぇ」

 

 如月が聞くと早瀬と鈴野、坂本は返事を返す。

 

「しかし、相手も容赦ないですね。105ミリ榴弾砲のみならず75ミリ長砲身をまとめて撃って来るなんて。それで五式を一回ひっくり返して更に横転させるなんて」 

 

「あぁ」

 

 起き上がって三人の無事を確認する。

 

「って、如月さん!?頭から血が!?」

 

 見れば如月の頭から一筋の血が流れ落ちている。恐らく横転した際に強く頭を打ったのだろう。

 

「頭を軽く切っただけだ。心配するな。それより鈴野は大丈夫なのか?」

 

 最も、着弾点に一番近い鈴野の方が心配だった。

 

「私なら・・・・大丈夫、です。少し、耳鳴りがして・・・・頭が揺れていますが」

 

 とは言うが、言葉が途切れ途切れになり、見れば少しフラフラと身体が揺れている。

 

「明らかに大丈夫じゃないだろ、頭が揺れるって。休んでいろ」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「・・・・・・」

 

 キューポラハッチを開けようとしたが、開きそうにない。

 

「ハッチが歪んでいるのか。何て威力だ」

 

「こっちらも歪んでいてか、開きません」

 

 鈴野も砲手席の上にあるハッチを開けようとしたが、同じように歪んでいて開きそうにない。

 

 すると鈴野はふらつくと尻餅をつく。一時的に平衡感覚がおかしくなっているのだろう。

 

「やっぱり大丈夫じゃないだろ。少し休め」

 

「は、はい」

 

 鈴野はハッチにもたれかかる。

 

「こうなったら操縦席と副砲手席の上のハッチから出るぞ」

 

「で、出るって、外は戦闘の真っ最中なんですよ!?」

 

 坂本は驚きの声を上げるが、如月はベシッ!と頭を叩く。

 

「誰が生身のまま出ると言った」

 

 如月は一応無事な無線機を周波数を合わせ、喉の咽喉マイクに手を当てる。

 

 

「クマチームからGチームとアリクイチーム!聞こえるか!」

 

『は、はい!大丈夫ですか、如月殿!』

 

 無線に出た秋山が慌てた様子で聞き返してくる。

 

「何とかな。エンストで停止し、それを向こうに狙われた」

 

『そうだったんですか。戦闘中に停止しましたから驚きました』

 

「そうか。それで、秋山。頼みがある」

 

『な、何ですか?』

 

「危険を承知でだが、すぐにこっちに来てくれ」

 

『え?どうしてですか?』

 

「いいから早く来い!」

 

『りょ、了解です!』

 

「それと、アリクイチームもだ!」

 

『は、はい!』

 

 

「何をするんですか?」

 

 無線機を切っている私に早瀬が聞いてくる。

 

「これから他の戦車に乗り込み、戦線に復帰する」

 

「い、いいんですか!?そんな事して!?」

 

「ルール上乗員の乗り換えはルール違反にはならない」

 

「乗り換えって、もうほとんど移動じゃないですか」

 

 坂本は思わずぼやく。

 

 

 

「行くぞ」

 

 そうして如月達は操縦席と副砲手席の上にあるハッチより車内から外に出る。

 

 外では砲弾が飛び交っており、とっさに五式の後ろに隠れる。

 

「詩乃はどうするんですか?」

 

「鈴野には五式に残ってもらう。あの状態ではこれ以上の戦闘続行は無理だ」

 

「そうですか」

 

 

 

 そうして横転した五式の近くにルノーと三式がやって来る。 

 

「ルノーには早瀬と坂本が乗り込め!私は三式に乗り込む」

 

『了解!!』

 

「秋山は早瀬と坂本と合流後、すぐに発進し、敵の攻撃を誘導しろ!盾になってでもフラッグ車を守れ!」

 

『了解です!』

 

 

 如月はすぐに三式に近付いてよじ登ってキューポラハッチを開けて車内に入る。

 

「邪魔するぞ」

 

「構いません。ハロネンさんと一緒に戦えて光栄ですから!!」

 

 と、猫田が興奮気味に言う。

 

「私が砲手を担う。猫田は装填手、及び撃発手を兼任!ももがーは引き続き操縦手。ぴよたんは通信手兼機銃手として移動!」

 

「はい!」

 

「了解なりー!!」

 

「了解だっちゃ!!」

 

 と、それぞれ部署を移動し、如月は砲手席に座る。

 

 如月はぴよたんより無線を受け取る。

 

「各チームに通達!これよりクマチームからアリクイチームに指揮権を移動させる。いいな!」

 

『了解!!』

『おうよ!!』

 

 無線をぴよたんに返し、イスに座り直す。

 

(しかし、ここに座るのはいつ振りだろうな)

 

 内心で懐かしさを感じながら砲塔旋回ハンドルと砲身の上げ下げハンドルを持ち、右目をスコープにつける。

 

(しかしやりづらいな・・・・この空間は・・・・)

 

 本名が分からない二人がいるので、言いづらいがユーザーネームで言わなければならない。雰囲気も違う為に少し居づらい。

 

「急速後退!その後蛇行走行をし、合図と共に停止!」

 

 三式はすぐに後退して砲撃をかわし、猫田は砲弾を薬室に装填する。

 

「猫田!私の合図より少し早く拉縄を引け!出ないとロスが生まれて命中しないぞ!」

 

「は、はい!」

 

 猫田は緊張するも、拉縄を持つ。

 

 私は砲塔を旋回させながら砲身を上げ、セモヴェンテM42に向ける。

 

「停車!」

 

 合図と共にももがーはブレーキを踏んで停止し、すぐに狙いを付け直す。

 

「撃て!!」

 

 如月の合図より速く猫田は拉縄を引き、三式の主砲より砲弾が放たれる。

 

 砲弾は運よくセモヴェンテM42/75の砲身根元に着弾し、白旗があがる。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「三式に乗り換えてまで残り続けるか。本当に対したもんだよ」

 

 キューポラの覗き窓より二階堂は砲撃をかわし続ける三式を見る。

 

 すると三式は停止すると主砲をセモヴェンテM42/75に向けると轟音と共に砲弾を放ち、セモヴェンテM42/75の隅に砲弾が着弾すると、またデコイを被ったCV33であった。

 

「また偽者か。青嶋!」

 

「アイアイサー!!」

 

 青嶋はすぐに砲塔を回転させて主砲を向けると三枝がブレーキを踏んで四式を停止させ、その直後に引き金を引いて砲弾を放ち、フラッグ車のM13/42の近くに着弾する。

 

 

 

「あっ・・・・」

 

 操縦席隣の通信席に座っていた中島は覗き窓を覗いていると声を上げる。

 

「どうした、中島?」

 

 

「・・・・P40がこっちを向いているっす!!」

 

「なに!?」

 

 とっさにキューポラハッチを開けて頭を外に出すと、丘の上に居るP40が砲身を上げ下げしてこちらを捉えようとしていた。

 

「まずい!!急速後退だ!!」

 

 二階堂が頭を引っ込めると同時に叫ぶと、三枝はとっさにギアをバックに入れ替えてアクセルを踏み、四式を急速後退させるが、その瞬間P40が轟音と共に砲弾を放ち、砲弾が四式の左側の履帯に直撃し、履帯が外れ、四式は車体が横向きにずれる。

 

「履帯をやられました!」

 

「くそ!やってくれるな!!」

 

 二階堂は右手を握り締めて拳を作り、壁に叩き付ける。

 

 

「青嶋!可能な限り砲撃を続けろ!高峯は素早く装填しろ!」

 

「了解!」

 

「・・・・・・」コクコク

 

 青嶋はすぐに砲塔を旋回させて主砲をP40に向けると、高峯は抱えていた砲弾を薬室に素早く装填すると同時に青嶋が引き金を引き、轟音と共に砲弾を放つが、砲弾はP40の下の岩壁に着弾する。

 

「くそっ!遠すぎるか!」

 

 直後に残ったアンツィオの戦車が一斉砲撃を始め、四式の周囲に次々と砲弾が着弾し、更にセモヴェンテM42/105が轟音と共に榴弾を放ち、四式のすぐ傍に着弾して巨大な砂柱が上がる。

 

「さすがにまずいな。隊長殿と杏たちはまだか!」

 

 ハッチを開けっ放しだったので頭に大量の砂を被りながら文句を口走る。

 

 

 

 

「早瀬殿!頼みます!」

 

「任せて!」

 

 早瀬はルノーの主砲を放つも、砲弾はセモヴェンテM42/75の近くに着弾する。

 

「くっ!」

 

 秋山はルノーの副砲より砲弾を放ってセモヴェンテM42/75の近くに着弾させて牽制する。

 

「次弾装填!」

「同じく装填!」

 

 坂本が副砲の薬室に砲弾を装填し、エルヴィンが主砲の薬室に砲弾を装填するとすぐに主砲と副砲より砲弾が放たれる。

 

「まずいぞ、グデーリアン!まともに動けれるのは我々と三式、Ⅲ突のみだぞ!」

 

 先ほどアヒルチームの八九式がⅢ突を身を呈して守り、四式は履帯が破壊されてその場から動けなくなったものも砲撃は続いているが、撃破されるのも時間の問題。

 

「このままではやられてしまいますよ!ここは一旦――――」

 

「それは絶対ダメです!」

 

 秋山は声を上げて大野の言葉を遮る。

 

「M3と五式がやられた以上、一番固いのはルノーのみです!如月殿が言った様に、我々がⅢ突の盾になって、西住殿が到着するまで我々がここを持たせるんです!」

 

 すぐにキューポラの覗き窓を覗いて周囲を確認する。

 

「っ!大野さん!すぐにルノーを後退させてください!」

 

「は、はい!」

 

 大野はすぐにルノーを後退させてⅢ突の横腹を守るようにすると、セモヴェンテM42/75が放った砲弾が副砲塔に着弾する。

 

「くぅ!」

 

 更にP40が砲弾を放ち、ルノーの正面装甲に着弾するも、角度を付けていたので何とか弾く。

 

「確かにこれは厳しい!せめて相手のフラッグ車だけでも!」

 

「分かっています!」

 

 と、秋山が副砲塔を回転させようとしたが、その瞬間鈍い音がして砲塔が動かなかった。

 

「あっ!!」

 

 その音を聞いて秋山は固まる。

 

「どうしたの?」

 

 

「・・・・先ほどの着弾でターレットリングが故障したみたいです。砲塔旋回不能」

 

「マジ?」

 

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 

「さて、もう一発」

 

 P40の車内に居るアンチョビは左手に持つ指揮棒を右掌に叩き付ける。

 

「Fuoco(フォーコ:撃て)!」

 

 合図と共にP40は轟音と共に砲弾を放ち、ルノーに直撃させるも、正面装甲に阻まれて弾かれる。

 

「ちっ!あのデカ物が。しぶといな」

 

 ハッチを開けて上半身を外に出し、双眼鏡でルノーを見る。

 

「だが、そのしぶとさもここまでだ」

 

 アンチョビはセモヴェンテM42/105に指令を送る。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「副砲が動かないんじゃ、攻撃範囲は極端に減るじゃん!?」

 

「だが、攻撃が出来なくなるわけではない」

 

「そうですよ!大野さん!すぐに車体を旋回!せめてセモヴェンテM42の105ミリだけでも!」

 

「りょ、了解!」

 

 大野はすぐにルノーを右側の履帯を中心に信地旋回を行ってセモヴェンテM42/105に向ける。

 

「発射!!」

 

 秋山の合図と共に早瀬は主砲の引き金を引き、副砲と共に砲撃を行うも、セモヴェンテM42/105には掠りもせずに近くに着弾する。

 

「くそっ!あと少しで―――――」

 

 

 

 坂本が言葉を漏らした時、さっきとは比べ物にならない衝撃と轟音がルノーを襲う。

 

『っ!?』

 

 車内は大きく揺らされて揉みくちゃになる。

 

 

 セモヴェンテM42/105が砲撃をし、榴弾がルノーのほんの少し目の前に着弾し、その爆発と衝撃がルノーを襲い、車体が一瞬大きく浮かび上がる。

 

 

「う、うぅ・・・・」

 

「だ、大丈夫ですか、大野さん?」

 

「は、はい」

 

 気を失いかけた大野は秋山の声掛けで何とか意識を繋ぎ止める。

 

「105ミリ榴弾砲の直撃は避けられたけど・・・・」

 

 衝撃で吹き飛ばされ、後頭部を強く打った早瀬は少し視界がぶれていたが、はっきりと主砲とその周りが歪んでいるのが見えた。

 

「この状態じゃ・・・・主砲はさっきの爆発で損壊。恐らくその衝撃で履帯も外れているだろうね。こんな状態で白旗が揚がってないのも不思議なくらいだけど・・・・」

 

「だが、動く事も出来ず、反撃すら出来ないでは・・・・・・重戦車とは言えど、これでは瀕死の狸だな」

 

 何とかエルヴィンは棒にしがみ付いていたが、衝撃で被っていた将校制帽が落ちていた。

 

「万事休す・・・・かな」

 

 坂本も頭を打ったのかふら付いている。

 

 

「に、西住殿・・・・!」

 

 秋山は目を強く瞑り、両手を握り締める。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「何とか耐えてはいたが・・・・」

 

 如月は砲塔左側面にある小窓より確認したが、ルノーはセモヴェンテM42/105の砲撃が至近距離で着弾し、その衝撃と爆発で主砲が抉れ、履帯は両方とも外れており、更には副砲の砲身が大きく曲がっている。こんな状態で白旗が揚がってないのは奇跡としか言いようが無い。

 

「・・・・・・」

 

 四式も履帯が外れてもさっきまでその場で砲撃し続けてセモヴェンテM42/75一輌を運よく撃破したが、別のセモヴェンテM42/75が放った砲弾が砲塔基部に着弾し、砲塔旋回が出来なくなり、更にP40の砲撃で車体側面に着弾し、白旗が揚がっている。

 

 

 その為、この場で動けれるのは三式とⅢ突のみとなる。

 

 相手はフラッグ車のM13/42一両とセモヴェンテM42/75が一両、P40とセモヴェンテM42/105が残っている以上現状は不利。

 

 三式の主砲も距離はおろか、威力が心持たない。

 

(西住・・・・)

 

(西住殿・・・・!)

 

 如月と秋山は西住の名前を内心で口にする。

 

 

 

「これで終わりだな、大洗」

 

 双眼鏡を退かし、アンチョビは三式とⅢ突を見下す。

 

「目標。大洗フラッグ車Ⅲ突!」

 

 アンチョビの指令で残った戦車は全てⅢ突へと向けられる。

 

 

 

 

 

 

 

 すると突然フラッグ車の近くに砂柱が上がる。

 

「っ!」

 

「なにっ!?」

 

 如月はとっさに上のハッチを開けて立ち上がって外を見る。

 

『参上!!』

 

 と、砂煙を上げながらカメチームの38tがフラッグ車に近付いていた。

 

『ようやく来たか、杏!』

 

 二階堂は少し喜んだ様子で叫ぶ。

 

『桃ちゃん。ここで外す?』

 

『うぅ・・・・!』

 

 

 

「ちっ!我がフラッグ車を狙いに来たか!!パネットーネ!38などすぐに始末して撤退しろ」

 

「si(はい)」

 

 と、パネットーネのM15/42の主砲が38tに向けられると、P40も車体ごと38tに向ける。

 

「ドゥーチェ!!」

 

「何だ!?」

 

「我が戦車の後ろに、大洗のⅣ号が!!」

 

「っ!!」

 

 

 

 

 P40が38tに主砲を向けようとしたが、その直後後ろにⅣ号が姿を現す。

 

『西住殿!!』

 

「間に合ったのだな!」

 

 今は外に現れるほど喜びがあった。

 

「に、西住みほぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 アンチョビは悔しげに叫び、直後にⅣ号の主砲より轟音と共に砲弾が放たれ、P40の砲塔後部に着弾し、直後に砲塔天板より白旗が揚がる。

 

「やった!」

 

「やりましたよ!ハロネンさん!」

 

「まだだ!フラッグ車が残っている!角谷会長!」

 

『おうさー!』

 

 と、38tは砲塔を旋回させてフラッグ車であるM13/42に砲弾を放つが、かなり近い距離にも関わらず、砲弾は明後日の方向に飛んでいく。

 

「なっ!?」

『えっ!?』

『また!?』

 

 さすがに如月もコレには絶句する。

 同時に秋山と武部も思わず言葉を漏らす。

 

 

「え・・・・・・?この距離で外す?」

 

 大洗の38tはかなり近い距離に居たはずなのに、砲弾は明後日の方向に飛んで行った。

 

「・・・・ありえねぇ~」

 

 力抜けた声を漏らしながら引き金を引く。

 

 

『河島のアホんだらぁぁぁぁぁ!!!!てめぇここで外す馬鹿が居るかぁぁぁっ!!!!』

 

 二階堂は耳が劈くような大声で怒鳴る。

 

『ヒィィィィィッ!?!?すいませんでしたぁぁぁぁぁっ!?!?』

 

 悲鳴に近い声で河島は二階堂に謝るが、その直後にM15/42の長75ミリ砲とM15/42の短砲身75ミリ砲が火を吹き、38tに直撃すると同時にセモヴェンテM42/105が105ミリ榴弾砲を放ち、榴弾は38tに直撃して爆発を起こす。

 

『ギャァァァァァァッ!?!?』

 

 悲痛な河島の叫びと共に38tは何度も転がりながら飛ばされ、最後にひっくり返った状態になって車体底部より白旗が揚がる。

 

「ちっ!」

 

 如月はとっさに車内に戻ると砲塔を旋回させてフラッグ車に向け、とっさに引き金を引いて砲弾を放つ。

 

 砲弾は直撃コースを取っていたが、M15/42のパネットーネはそれに気付いてすぐさま後退指示を出し、砲弾をかわす。

 

 

 しかし直後に後ろから放たれた砲弾が、一直線にM15/42の針路上へと飛んでいって直撃し、白旗が揚がる。

 

「っ!」

 

 如月はすぐに立ち上がって上半身を外に出して後ろを見ると、Ⅲ突の主砲より煙が出ている。

 

『皆に守られてばかりでは、カエサルの名が泣くからな』

 

 と、通信にカエサルの声がする。

 

(おいしい所を持って行ったな)

 

 内心で呟くと、如月は背もたれにもたれかかる。

 

 

「くっ!!」

 

 撃破されたP40よりアンチョビが出てくると、天板に両手を叩きつけて、悔しげに奥歯を噛み締めて歯軋りを上げる。

 

 

(まずったな・・・・)

 

 煙で充満した車内を換気しようとすぐさま天板ハッチを開けて出てきたパネットーネは煤だらけになりながらも右肘を天板に着け、右手に頬を置く。

 

(まさか回避先を読まれるとは・・・・こりゃ参った参った)

 

 敗北したと言うのに、彼女には動揺の色は無い。

 

(まぁでも、ここまで楽しめたら、悔いは無いけどね)

 

 内心そう呟くと、フッと微笑を浮かべる。

 

 

『試合終了!!大洗女子学園の勝利!!』

 

 そして如月達の勝利を告げるアナウンスが流れる。

 

 

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択