その方は、私が戦場から帰る途中の荒野に倒れていらっしゃいました。
私の家は貧しく。女手一つで私を育ててくれた母も体が弱かったので、私は姉の紹介で幼いころから孫策様の軍の下級士官として、戦場に出ていました。
その日は、野党討伐のために従軍し、そこから帰る途中でした。
「あ、あの・・・・・」
その方は星空の荒野で、その星の輝きを照らし返す白い美しい服を着て、すやすやと寝ていらっしゃいました。
「う、うーん・・・・・」
私の問いかけに、お目覚めにならないその方を、どこかの貴族の方だと思った私は、無理に起こそうとせず、私が乗っていた馬に乗せて、私の家まで連れて帰ることにしました。
「・・・・・(///)」
馬に乗せるときに、すぐ近くで見たその方のお顔は、とても輝いているように見えて、私は思わず、頬を染めてしまっていました。
「お帰りなさい、亞莎さん。今日は遅かったですね。・・・・あら?」
家に帰った私を迎えてくれたお母さんが、馬に乗せた貴人の方に気付いて、そう小さく声をあげました。
「あらあら、亞莎さん。その方は婿殿ですか??お母さんにも紹介して頂けないかしら?」
嬉しそうに笑うお母さんの言葉を、私は必死に否定しました。
「ちちちち、ち、ちが、違います!!!」
そうしている私を見て、また嬉しそうに笑うお母さんに、その方を荒野で見つけ、そしてお連れしたことを説明すると、
「あら。残念ですね。」
と、私をからかうように少し微笑みながら言いました。
「と、とにかく。この方のお休みになる場所を用意してください!」
そうしたお母さんの様子に、私はまた顔を赤くして、そう言いました。
「ふふふ。はいはい。」
そう笑いながら言うお母さんを急かして、布団を用意してもらい。その貴人の方を寝かせました。
「さて、亞莎さん。今日もお仕事で疲れたでしょう?ご飯にしましょう。」
そう言ってやさしく微笑むお母さんに、私は笑顔で頷いて机につきました。
~一刀視点~
目を覚ますと、俺は寮のベットではなく、板間の上に敷かれた布団で寝ていた。
「うーん。・・・・・・ここどこだ?」
俺は昨日の記憶を思い出してみたけど、どれだけ頑張って思いでしても、こんな所に来た記憶はなかった。
「剣道場・・・・じゃないしな。ホントどこだろ・・・・・」
周りの家具なんかに見覚えはなく、全くどこだか見当がつかなかった。
ガタッ
ふと、音のした方を見ると、さっきまで閉まっていた木の引き戸が開いていて、腕を伸ばしたら床に付くんじゃないかってぐらい長い袖に、短すぎだろ!?ってぐらい短い丈のチャイナドレスを着て、お団子頭に帽子をのせた可愛い女の子が、そこに立っていた。
「あ、あわ、あわわわ・・・・・」
その女の子を見ていると、そう言いながら長い袖で顔を隠していた。
「あ、あの・・・・」
「(////)っ!!」
俺が話しかけると、その娘はどこかに行ってしまった。
「ど、どうなってるんだ・・・・」
訳が分からず途方に暮れていると、開いたままの扉の向こうから、足音と話声が聞こえてきた。
「お、お母さんが聞いてください!」
「亞莎さん。そんなことじゃ、未来の旦那さまと二人でお出かけなんてできませんよ?」
「そそ、そ、そんな!あの方は、その、私の旦那さまではなくて・・・・」
「あらあら。私はあの方の事だなんて言ってませんよ?」
「お、お母さん!!」
「ふふふ。」
全部が聞き取れた訳ではないけど、何やら楽しそうな会話をする女性の声が近づいてきた。
「・・・失礼します。」
ふと、その会話が聞こえなくなると、落ち着いた声で俺の方に呼びかける声が聞こえた。
「は、はい。」
その声に少しドキッとした俺は、少し噛みながらそう返事をした。
ススッ
俺が返事をすると、さっきとは違う大人の女性が、先ほどの娘を引き連れて静かに入ってきた。
さっきの女の子と同じ濃い栗色の髪が、腰のあたりまで伸び、スリットが膝ぐらいまで入ったチャイナドレスの上に、ラインを隠すように上着を着た美しい女性(おそらく、さっきの娘の母親かな。若すぎる気もするけど・・・)だった。
~亞莎視点~
その方のお顔があまりにも輝いて見えたので、私は思わずお母さんの所に逃げてしまいました。
その方への状況の説明をお母さんにお願いして、途中お母さんにからかわれながら、もう一度私はその方の所に向かいました。
「・・・・失礼します。」
そう落ち着いた声でお母さんが訪ねると、部屋の中から先ほど私が聞いた声と同じ、とても優しそうな声が聞こえてきました。
「は、はい。」
その返事を聞いてから、私たちは部屋に入りました。
「おはようございます。この度は、このようなあばら家でお休みいただいて申し訳ありません。」
そう言って頭を下げたお母さんに続いて、私も頭を下げました。
その後お母さんが、訪ねたことにその方がお答えになったことをまとめると、
その方のお名前は、北郷一刀様とおっしゃる。
北郷様は貴族の方ではない。
また、この大陸の方でもない。
なぜ、あのような場所で倒れていたのか分からない。
そして、これから行く場所もない。
ということでした。
また、お母さんがここが呉であること、私が孫策様の軍で武官をしていることなどを説明すると、北郷様はとても驚いたあとに、少し難しい顔をしていました。
「・・・・行くところがないのでしたら、うちで暮らしませんか?」
一通り話が終わると、お母さんがそう言いました。
「えぇっ!?で、でも、迷惑になるんじゃ・・・・」
そう心配そうに言う北郷様を見てお母さんが、
「もちろん、ただ暮らしていただくほど、うちは豊かではありませんので、仕事はしていただくことになりますが・・・それで、よろしいのでしたら、是非。」
そう笑顔で言いました。
「それに、大事な婿殿ですから。」
「お、お母さん!?」
笑顔でそう言うお母さんに、私は思わずそう叫んでしまいました。
「む、婿?」
そう不思議そうに首を傾げる北郷様。
「な、なな、何でも、ありません!」
必死にそう言う私を見て、さらに笑顔になったお母さんは
「うふふ。とにかく、私たちは特に迷惑ではありません。むしろ、お仕事をしてくださるのなら助かるぐらいですよ。」
そう微笑みながら北郷様にそう言いました。
「あの・・・本当によろしいんですか?」
北郷様は不安そうにそう聞きました。
「ええ。」
お母さんは笑顔で返しました。
「えっと、その・・・よろしくお願いします。」
北郷様はそう言って頭を下げました。
「こちらこそよろしくお願いしますね。婿「あぁぁーーー!!」・・・・うふふ。」
私が言葉をどうにか遮ると、お母さんは笑いました。
「??」
そんな様子を見て北郷様はまた不思議そうな顔をしていました。
「そうと決まれば、自己紹介をしなければいけませんね。亞莎さん。さ、自己紹介を。」
笑顔でそう言うお母さんに促されて私は、北郷様の前に出ました。
「・・・・・(///)っ!」
顔をあげると、北郷様が私の方をご覧になっていたので、思わず私は顔を隠しました。
「わ、わた、私は、りょ、呂蒙。あ、あざ、あざ、字は、ししししし子明と申します!」
「りょ、呂蒙だって!!?」
私の名を聞いた途端に北郷様がびっくりした様にそう声をあげました。
「っ!!」
私はその声にびっくりして、さらに腕を高く上げて、顔を隠しました。
「?娘の名前がどうかしましたか??」
お母さんがそう聞くと、北郷様は少し考えこんだあとに、
「・・・・いえ。何でもありません。すみません。大きな声を出してしまって。」
と言って頭を下げました。
「いえいえ。気にしていませんよ。それよりも亞莎さん。ちゃんと真名もお伝えしないといけませんよ?」
「!?お、お母さん!?」
突然、真名を教えなさいと言ったお母さんに驚いていると、北郷様が不思議そうな声をあげました。
「あの・・・・。その、『まな』ってなんですか?」
お母さんがそれに答えました。
「真名とは、自分が信頼した人や認めた人にだけ呼ぶことを許す神聖な名前のことです。一刀さんは真名をお持ちではないのですか?」
北郷様は、真名を持っていないことと、自分の名前の中で、真名に近いものと言えば、「一刀」がそれに当たるとおっしゃいました。
「あらあら。それでは私は、真名を呼んでしまったのですね?」
そういうお母さんに
「いえ。真名に近いものですから、これが真名というわけではないですよ。それに、仮に真名だったとしても、助けていただいたのですから、呼んでもらっても問題ないです。むしろ、そう呼んでもらいたいぐらいです。」
と北郷様が答えました。
「そうですか。では私も真名をお預けしましょう。私の真名は俐莎(りーしぇ)。あ。でも『お母さん』って呼んでくれると嬉しいです。」
そう笑顔で言うお母さんに、北郷様は少し困って様な顔をしていましたが、
「嬉しいです。」
ともう一度笑顔で言うお母さんに押し切られたのか、
「お、お母さん・・・・。」
と言いました。
「はい。一刀さん。」
そう嬉しそうに答えるお母さんを見ながら、私は少し頭を抱えたい気分になりました。
「さぁ。亞莎さん。ちゃんと真名をお伝えして。」
そう笑顔で言うお母さんに、私が少し困っていると、
「あ、あの、その真名ってものが大事なものだってことはわかったから、無理に言わなくてもいいよ?」
そうやさしく北郷様がおっしゃいました。
その優しげな声と、私を気遣ってくださったお気持ちに、私は心がふと温かくなりました。
「あ、あの。わた、私の真名は、亞莎と申します。その、よ、よろしくお願いします!」
そう私が言うと、北郷様は少し驚いたような様子でしたが、すぐにふっと微笑み、
「ありがとう亞莎。俺のことは一刀って呼んで。」
そうやさしげに言いました。
「は、はい。か、かか、かず、一刀・・・・様。」
「はは。様なんてつけなくてもいいよ。」
そう言って笑う一刀様の様子を袖越しに見て、私が頬を染めているのを、後ろでお母さんがとてつもない笑顔で見ていたことに、私は気がつきませんでした。
そうして、一刀様は私の家で暮らすことになりました。
もともとお母さんは体が強くなく、私が戦場に入っているときなどの家の仕事や畑でのお仕事などがあまり出来ず、いろいろと不自由していましたが、一刀様が来てからは、一刀様がそのお仕事やってくださるようになり、お母さんも嬉しそうでした。
私が戦場から帰ってくると、一刀様はいつもどこかほっとして様な笑顔で迎えてくださいました。
「今日も一刀さん、いえ婿殿はちゃんとお仕事してくれて、とっても優しかったですよ?」
と笑顔でそっと一刀様に聞こえないように言うお母さんに、毎回顔を赤くしている私を、微笑ましそうに見ている一刀様はとても幸せそうでした。
「さ。亞莎もお母さんも、家に入ってご飯にしよう。」
そう言って私たちを家に促す一刀様は、いつも笑顔でした。
私たちは、そんな毎日がとても幸せで、いつも笑っていました。
そうして時は過ぎ、気がつけば孫策様は袁術に客将として抱え込まれ、反旗を翻す時を今か今かと待っていました。
どうもkomanariです。
今回はリクエストしていただいた亞莎のお話です。
ですが、前書きでも書いた通り、sin様のお話と似てしまいました。
おそらく、書いている途中に読んだ、sin様の素晴らしいSSが頭の中に強く残っていたんだと思います。
さて、今回のお話では亞莎のお母さんを書いてみました。
なんだか、娘と全然性格の違うお母さんになってしまいましたがいかがだったでしょうか?
僕としては不安でなりません。
あと、今回の話の亞莎はまだ目が悪くありません(まだ勉強をしてないので)
一応、この後の話も考えてはいるのですが・・・・
あの、続けてもよろしいですか?
と、かなりおっかなびっくり書いたお話でしたが、今回も僕の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございました。
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混沌様・フィル様にリクエストしていただきました亞莎のお話です。
えっと、今回は初めてオリキャラというものを入れてみました。
なので、それが苦手という方には申し訳ありません。
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