No.719182

戦国†恋姫~新田七刀斎・戦国絵巻~ 第22幕

立津てとさん

どうも、2週間ぶりのたちつてとです

今回も京都で色々あります
が、京都も今回で去ります!色々と駆け足な感じも否めませんが、ストーリーは早く進めたい派なのでご容赦ください

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2014-09-19 06:04:06 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:2013   閲覧ユーザー数:1751

 第22話 将軍謁見とその裏で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修学旅行のメジャーな行き先と言えば京都だ。

大抵の学生はそこで清水寺や金閣寺などの文化財を見て退屈な、あるいは有意義な時間を過ごす。

その見学コースの中にあるのが『二条城』だ。

城内をぐるりと一周するコースで見学し、誰が何のために住んでいたかわからないまま出ていく。それが二条城を訪れる大半の人間達だろう。

しかし、彼らが見ているのは何度も修繕と改修工事を済ませた現代版二条城である。

 

では、その現代版を見た後に戦国時代の『二条御所』を実際に見てみると、見た人間はどう思うのだろうか。

現役の歴史的建造物を見て感激するのだろうか――

昔はこうなっていたのかと感心するのだろうか――

答えはどちらでもない。

 

「こ、ここが将軍の住まい・・・?」

 

現代人代表新田剣丞の反応は、『唖然とする』であった。

 

 

 

 二条御所正門前

 

かつて幕府の栄華を表現したという二条御所。

しかし今では門は朽ちかけ、壁に蔦がはしり苔が生え、お世辞にも権力者の――人の住んでいる場所とは思えない。

 

「これがサムライの棟梁、足利将軍の居城なのですか?」

「帝を除けば日の本一の力を持つ、が・・・その力が無ければこんなものよ」

「お姉さまから聞いてはいましたが、このようなことになっているとは・・・」

 

エーリカの落胆を隠せない呟きに久遠が答える。

空は美空から聞いているようで、他と比べてショックの色は薄いようだった。

 

「ていうか、本当にこんなところに人が住んでるのかよ?」

「どっこい、住んでおりますよ」

 

織田の剣丞の呆れた言葉に反応したのは、彼の背後――ひよ達の更に背後にいる人間からだった。

 

「うわぁっ!?だ、誰!?」

 

剣丞隊の面々が突如後ろに立っていた人物――金髪の女性に驚く中、久遠は変わらず口を真一文字に閉じていた。

その様子を見て、女性はふむふむと見定めるように頷く。

 

「小名風を装った方が1人とその護衛らしき方が4人。それと北国の令嬢が1人と怪しい仮面男が1人に異人どのが1人・・・なんとも面白い組み合わせですな」

「お主は?」

 

女性は久遠の問いかけに仰々しく答えた。

 

「おぉっと、これは失礼。我が名は細川与一郎藤孝、通称は幽。足利将軍義輝さまのお側集を務めさせていただいております」

「しょ、将軍の側近!?」

 

急に話しかけてきたうさんくさい雰囲気を出す人物が幕府の高官と知り、思わずひれ伏しそうになるひよところ。

織田の剣丞や詩乃も驚きの表情を見せる中、久遠の表情は変わらなかった。

 

「それで、将軍に拝謁に来られたのですかな?」

「そうだ」

「手土産は?」

「ある」

「ほほう!」

 

淡々と事務仕事のように行われるやりとりに終止符を打ったのは幽の方だった。

それまで動作の端々にまで典雅という文字を宿らせていた幽の動きが急にいそいそと言った動作に変わる。

 

「それで、その献上品と言うのはどのようなものなのですかな?全てこの私めにお渡しいただければ公方さまに取り次ぐ次第!」

 

クレクレ、と一瞬で今までの礼儀正しい動作が台無しとなった幽に呆れながらも、久遠はそれを表に出さなかった。

 

「剣丞、目録を読んでやれ」

「え?さっき渡された奴でいいの?」

「はい!現物をしかと頂けるなら目録でもなんでも構いません」

 

幽に急かされ、持っていた紙に書かれた文字を読む剣丞。

 

「えぇーと、尾張国長田庄住人、長田三郎より足利将軍家へのご進物目録。銅銭三千貫、鎧一領、刀剣三振り、絹百疋です」

 

その目録を聞いた瞬間、幽の顔が綻ぶ。

 

「銅銭三千貫!これはこれは誠に剛毅な・・・いやぁ流石尾張と美濃に跨る家のご当主であらせられますなぁ!」

「そりゃどうも。これを渡せばいいの?」

「謹んで頂戴仕る。ではお客様を客殿に案内仕りましょう」

 

幽に先導され、朽ちた門をくぐり二条に入る一行。

 

これで公方に会えるのだが、久遠の顔は険しいままだった。

 

 

 

 二条御所 客殿の一室

 

破れた障子に煤けた壁、ほつれた畳というなんとも風情ある客間に案内された久遠達は幽が公方に繋ぐと言って出ていった後、しばしの待機を命じられていた。

 

「あ、わり。俺ちょっと厠行ってくるわ」

 

正確には剣丞がトイレに行き、1人除いた上でだ。

 

「あの幽とかいう奴、食えんな」

 

久遠がそう愚痴る。

 

「食えないって?ただちょっとうさんくさいだけじゃないのかな」

「いいえ剣丞さま。あの方は言葉の端々で我らを脅していました。さらに言えば、清洲の長田庄と名乗った我らに対し『美濃』という単語が出てくる時点で、我らが織田家だということ

 

もバレています」

「詩乃の言う通りだ。流石は公方の知恵袋といったところか」

「いやはや、そこまで褒められるといささか照れますな」

 

再び突如現れた幽にひよところが悲鳴を上げる。

 

「幽さん!?い、いったいどこから・・・」

「長田どのが『食えん』と言った辺りから・・・」

「しょっぱなじゃん!」

 

織田の剣丞のツッコミもお構いなしに幽は悠々とお茶を啜る。

 

「ふぅ・・・庭の桜が出涸らしとよく合いますなぁ。皆さまもどうぞ」

「今は桜の季節ではなく、あの庭に桜の木など無いことを小一時間ほど問い詰めたいのですが・・・いただきます」

 

詩乃がそう零しながらも皆にお茶を回し渡す。

湯呑は1つも余ることなく全員に行き渡った。

 

「・・・おや?1人分足りないようですが」

 

目敏いエーリカが今この場に居ない剣丞の分のお茶が足りないことに気付く。

その質問に対して幽は自分の持っている湯呑を少し上げることで答えた。

 

「新田七刀斎どのの分はそれがしが頂いておりますぞ」

「許可は・・・」

「取りましたとも」

 

そう答える幽を見て、久遠は二度目の「食えぬ」を発せずにはいられなかった。

 

「我らの事だけでなく、七刀斎の事も知っているとは貴様侮れぬな」

「情報こそがこの弱小幕府を、引いては公方さまを守ることに繋がりますれば、その程度の事は全て知り及んでおります。そしてあの方が新田七刀斎どので合っているのであれば、そこ

 

のご令嬢は長尾景勝さまでよろしいですかな?」

「はっ、はい」

 

急に話を振られた空が緊張混じりに返事を返す。

 

「なるほどやはり。あなた様が織田家に人質として送られたことは知っていました故、ここに新田七刀斎どのが居れば自然とあなた様が長尾の跡継ぎ様でいらっしゃるというそれがしの

 

見解、間違っていなかったようですな」

 

新田七刀斎に関してはあの特殊な風貌と刀7本という特徴があるので見抜くのは容易いが、そこから空の事までわかるに至ったことに一同は舌を巻いた。

 

「推理ごっこはこれでいいか?貴様が来たということは公方に会うことができるということだな」

「随分と急かされますなぁ」

「我は時間の無駄は好かん。人が生きることを約束された有限のモノの無駄はな」

「左様でございますか。では拝謁の準備が整いました故、長田どのは室内にて、後の方々は庭にてお願いいたします」

「ほう、小笠原か?」

「はっ。室内は小笠原、室外は伊勢。それが幕府の礼法でござりますれば」

「デアルカ」

 

聞きなれない単語にひよが首を傾げる。

 

「ねぇねぇころちゃん、小笠原とか伊勢って?」

「おっナイスひよ!俺もちょうど聞きたかったんだ」

「えへへ、一緒ですね♪」

 

2人のやりとりを見てころが少しだけ口を尖らせる。

 

「むぅ・・・久遠さまだけが室内で会って、私達は庭で平伏してることだよ」

「ほえー、そうなんだ・・・お頭まで私達と一緒に平伏なんだね、天人なのに」

 

ひよの呟きに幽が気付いたように言う。

 

「おおそうでした。新田どのと長尾どのはどうされますかな?お二方の経歴と家柄なら昇殿くらいは許されると思いますが」

「俺達?」

「わ、私もですか?」

 

2人してうーんと唸る。

先に答えを言ったのは織田の剣丞の方だった。

 

「俺はいいや。別に会って何をするわけでもないし、皆と一緒で庭でいいよ」

「ほほうなるほど。長尾どのはいかがですかな?」

「・・・七刀斎さんも昇殿できるのですか?」

「あの方ですか?流石に越後の一家臣を昇殿となるといささか難しいですが・・・」

「じゃあ私も七刀斎さんと一緒に庭で待っています」

 

その言葉に驚く幽に対して、久遠達は空の七刀斎スキーぶりを今まで散々見ているのでさほど驚きはしなかった。

 

「そ、そうですか。わかり申した」

 

そのやりとりを横目に、久遠は更に提案した。

 

「それと、ひとつ貴様に甘えたいのだが」

「ほほう何ですかな?」

「この異人にも御目見得の資格が欲しい。やれ」

「は、はぁ?これまた難儀な」

 

エーリカを見た幽が眉間に皺を寄せる。

それもそのはず、今まで公方に会うことが出来た異人は前例が無いのだ。

 

「補足しておきますと、この方のお母上は美濃・土岐源流の明智の血を継ぐ方です。家柄という点においては資格は十分かと」

「明智の・・・ふむ。しかしこのようなお子様が仰ることをいきなり信じろというのも酷な話でございますがねぇ」

「おこさっ・・・!ならば我が名を明かしましょう。我が名は竹中半兵衛重治。決して、決して!お子様などではござりません」

「はっはっは。まぁお子様かどうかは置いておきまして、美濃の歴史に明るい土豪の竹中どのがこの方の素性を保障するとなると、もしかしたら考えようによっては・・・」

 

詩乃の補足を受け、数秒だけ瞼を閉じ考える幽。

その瞼が開かれた時、彼女はこう言った。

 

「では異人どのは、長田どのの従妹という形で昇殿を許しましょう」

「いとこ?」

 

詩乃と久遠以外の面々がオウム返しに尋ねる。

 

「はい。長田どのの奥方は美濃斎藤山城の娘だと聞いております。斎藤家と明智家は薄いながらも血縁関係がございます故、異人どのが長田どのの従妹であると通してもまぁまぁ問題で

 

はないかと」

 

暴論じみた幽の理屈に若干引き気味の一同。

しかし久遠とエーリカにとっては公方に会えるのなら別にそれでよかった。

 

「構わぬ。では通せ」

「はっ」

 

 

 

客間を出て廊下を歩き、主殿と呼ばれる建物まで案内された一行。

 

「では長田どのと異人どのはこちらに、他は庭にてお願いいたします」

「あれ、七刀斎は?」

「あの方でしたら腹を下したのでしばらく厠にいるとの言伝を小姓より聞きましたぞ」

「なんだよ!アイツだけ土下座回避かよ!」

 

庭に移動する織田の剣丞には仰いだ天に仮面男のドヤ顔が映った気がした。

 

「土下座ではなく平伏ですよ、剣丞さま」

「対して違いがわからないし・・・」

「あっ、お頭私もです!」

「ひよはもうちょっと礼法を学んだ方がいいよ・・・」

 

 

久遠とエーリカが畳の上で、剣丞隊と空が芝生に敷かれた藁の上で座って待たされる。

その時間約十数分。

いよいよ20分になろうかというところで、久遠からドス黒いオーラが漂ってくるのがわかった。

 

「お、おい見ろ!久遠の奴、挙措は変わりないが見るからに機嫌が悪い!」

「『待たせる』ということも上下を区別する要素ですからね。時間の無駄も甚だしいですが」

「ったくよーもうちょっとどうにかならなかったのかね」

「剣丞さまにとっては特殊でも、私達にとってはこれが普通なのですから仕方がありませんよ」

「えぇー!私にも特殊だよぉ!」

 

「はぁ・・・七刀斎さんと一緒が良かったなぁ」

 

空のそんな愚痴が零れたところで、室内に動きがあるようだった。

 

 

 

「足利参議従三位左近衛中将源朝臣義輝様、御出座!」

 

小姓らしき女性の凛とした声で謁見が始まるのがわかり、慌てて頭を下げる庭組。

 

しかし織田の剣丞は少しの好奇心から、バレないように平伏しながら室内を盗み見る。

久遠とエーリカが平伏する場所の遥か向こうにある御簾の更に向こうに公方がいるであろうことを確認すると同時に、彼はあることを発見した。

 

(――あれ?あの先頭の小姓の人・・・どこかで)

 

幽や他の小姓と入って来た女性に、どこか既視感を覚えていたのだ。

誰だったかと思い出そうとすると、それを遮るかのように幽が決まり台詞であろう紹介を始めた。

 

「下座に控えまするは、尾張国長田庄がご当主、長田三郎と申す者――幕府への献上品として、銅銭三千貫、鎧一領、刀剣三振り、絹百疋」

「殊勝なり」

 

弱弱しくも通る声は公方の物であろう。

 

幽は更に言葉を続けようとし、

 

「公方さまからのお褒めのお言葉である。今後も――」

「――――ハッ、阿呆らしい」

 

久遠の塚原卜伝もかくやというほどの言葉による一刀両断を受けた。

 

 

(ばっ、バカー久遠ー!)

(あぁぁぁ久遠さまの悪癖がぁぁ)

(やっちゃったぁぁ!)

(・・・やれやれ)

(・・・七刀斎さん今何してるのかなぁ)

 

織田の剣丞、ひよ、ころ、詩乃、空が久遠の暴挙に思い思いのリアクションを見せる。

幽もまた、慌てて久遠を注意していた。

 

「お、長田どの!御前であるぞ、頭が高い。お控えなさい!」

「公方でもない者に頭を下げられるか」

「ッ!」

 

今度は幽からだけでなく、御簾の向こうの公方からも動揺の息遣いが聞こえる。

 

「何を言うか!ここにおわすは正真正銘、足利将軍に他ならん!長田上総介、無礼千万であるぞ!」

「当代の公方は剣の達人だと聞いていたが、御簾に入るときの足音などはまるで手弱女のように弱弱しかったぞ。――のう?そこの小姓よ」

「――――フッ」

 

久遠が御簾の向こうに向けた鋭い目を次に向けたのは、横で控える小姓の1人だった。

 

(あっ、そうだあの人!)

 

それは剣丞が既視感を覚えていた女性であり、先程町の中で大立ち回りをした女性その人でもあった。

 

「1度、そこな小姓と話がしたい」

「・・・・・・いいだろう。中々に面白き奴だ、話してやろう」

「偉そうな言い様だな、小姓の分際で」

「白々しいことだ、貴様も同じであろうに・・・藤孝、御簾をあげい」

「し、しかし・・・」

「よい」

 

鶴の一声とも言うべきか、彼女が命令をすると幽は畏まって御簾を上げた。

御簾の向こうから出てきたのは、弱弱しい雰囲気を漂わせる小動物のような少女。

 

「お姉さま・・・」

「双葉、代役大義であった。後に呼ぶ故、今は下がれ」

「はい・・・」

 

突然様相をガラリと変えた室内に対し、庭にいた織田の剣丞達は何が起こっているのかイマイチわからないでいた。

そこに、ソローリと言葉に出しそうなほどコッソリ廊下に移動しようとした幽が通りかかる。

 

「ちょっと幽さん、あれってどういうこと?」

「ゲゲッ、見つかってしまいましたか・・・」

「なんか久遠とあの人どっか行っちゃったけど」

「あははーそれがしには何のことやらー」

 

あくまで白を切ろうとする幽に対し、織田の剣丞は少し強気に出ることにした。

 

「ふーん、ならさっき渡した目録、現物は渡さずその紙だけでいいんだね?」

「さぁさぁ新田どの!何でも聞いてくだされーこの細川藤孝、何でも答えますぞ!」

「変わり身早ッ!」

 

ひよのそんなツッコミと共に、ひとまず彼らは幽に再び客室へと案内されることとなった。

 

 

 

幽が織田の剣丞に問い質されているまさにその時、こちらの剣丞もまた動いていた。

 

厠に行くと言い客室を出た剣丞は、幽に自分の分のお茶を飲んでていいとすれ違う時に言うと、厠には行かず、指定されたある場所に向かった。

 

「この辺か?アイツが行ってた打ち合わせ場所って」

 

館とも言うべき二条御所には小姓や警備からも死角となる場所が少ないながらも存在する。ここもその1つだ。

建物と建物の間に縫うように入り込んだ剣丞は、人目につかないこの場所で彼女と待ち合わせをしていた。

 

「遅いわよ。いつまで待たせ――ハッ!またまた放置プレイ!?」

「違うわバカ!」

 

黒いゴスロリ系の服を纏った金髪の少女――ローラはどこから持ってきたのか金平糖をポリポリと食べていた。

 

「あなたも食べる?この時代に甘いものなんて珍しいでしょ」

「・・・もらう」

 

ローラから数粒貰い、2人してポリポリと砂糖の甘さに感謝する。

このまま金平糖を食べるだけで終わってもよいのだが、そうはいかず剣丞から話を切り出した。

 

「で、言われた通り抜けてきたけど。俺にどうしろってんだ?」

 

そうだったわね、と剣丞を鋭い目つきで見やる。

 

「この子に説明と説得でもしてちょうだい」

 

そう言ってローラが背後にいた1人の少女を自分の前にやる。

その少女は、剣丞の見覚えのある顔だった。

 

「双葉ちゃん・・・!?」

「え、あの、えっと・・・」

 

怖がっている、というよりも双葉は何故自分がここにいるのかが分からないといったように周りを見る。

 

「謁見から戻るところをちょっと見かけてね。ちょっとご同行願ったのよ」

「テメェ・・・この子に何かしてねぇだろうな!?」

 

好戦的なローラの性格を考えるとかなり乱暴に双葉を攫ってきたのだと想像できる。

そう思うと剣丞の中に湧き上って来るのは怒りという感情だった。

 

「はぅぅ!何してくれるの!?叩くの?斬るの?潰すの?引っ張るのぉ!?」

 

剣丞が凄むとローラがハァハァとすり寄って来る。

二条の中では確実に見ることが無いであろう光景に双葉は何も言えずにいた。

だが剣丞も流石になれたのか、「あーはいはい」と華麗にローラを捌く。

 

「双葉ちゃん、コイツになにか乱暴とかされなかった?」

「ひっ、はい・・・気付いたらここに・・・貴方は?」

 

状況を理解してきたのか、双葉が目に見えて怯え始める。

その視線はどうやら自分の顔についている物に向いているようだった。

 

「あ、そうか」

 

双葉に会った時はまだ『新田剣丞』と名乗っていた頃の自分だ。

その事を想い出し、剣丞は周りに誰も居ないからと仮面を外した。

同時に金の刺繍が入った手ぬぐいも取り出す。

 

「ッ、剣丞さま!!」

 

目の前の仮面男がかつて助けてくれた剣丞だと知り、一気に表情を綻ばせる。

 

「怖がらせて悪かった。今は新田七刀斎って名乗ってるんだ」

「そうなんですか・・・どうしてそのようなお名前を?」

「まぁ色々あってね・・・新田剣丞ってのは俺の他にもう1人いるんだ」

「え・・・?」

 

そこから剣丞は双葉に何故七刀斎を名乗るかの経緯を説明した。

 

「そうだったのですか・・・織田家にもう1人・・・面妖な話ですね」

「事実なんだから仕方ないさ。だから双葉もあっちの剣丞とは初対面だからそのへん気を付けてくれよ?」

「はい!」

「話は纏まったかしら?」

 

先程までクネクネしていたとは思えないほど真面目な雰囲気になったローラが2人を見る。

 

「さて、ここからが本題よ。足利義秋・・・あなた、この男のことはどう思っているの?」

「えっ!?」

 

一瞬にして顔を赤らめる双葉。

 

「やっぱり・・・こりゃあロリコンって言われても仕方ないわね」

「おい!いい加減なこと言うんじゃねぇ!」

 

・・・呼ばれてないよね?

 

「じゃあこの男が日の本の敵になるって言ったら・・・あなたはどうする?」

「日の本の、敵?」

「おい、ローラ!」

 

予想外のカミングアウトに剣丞からの荒い声が飛ぶが、ローラはそれを気にせず続ける。

 

「私達は鬼っていう怪物を使ってこの日の本の崩壊を狙っているわ。それでもあなたはこの男の事を好いていられる?」

 

鬼の噂は知っているのか、その単語を聞いた瞬間双葉の体がピクッと揺れる。

 

「ローラさん、でしたか。貴女が何を言っているのか俄かにはわかりかねるのですが・・・」

「あら、本当よ?」

 

半ば怯えたように尋ねる双葉に対してあくまでローラは淡々としている。

双葉の視線はしばらく泳いだ後、助けを求めるように剣丞へと向いた。

 

「剣丞さま・・・」

 

そんなことないですよね?と目が問いかけていた。

 

ここで全部冗談だよと言えればどんなに楽だろう。

剣丞はベストな答えを見つけることができないでいた。

 

「なんなら、証拠を見せましょうか」

 

ローラの目に狂気の色が宿る。

いちはやくその事を察知した剣丞は止めようとしたが、1歩遅かった。

 

双葉の眼前には、自身の身の丈ほどの異形の手が迫っていた。

 

 

 

主殿から移動する際にエーリカも合流し、剣丞と久遠以外の全員が再び客間へとやってきた。

 

幽が「では」と言って出ていくなり、状況のわけのわからなさにひよが唸り、ころが注意する。

しかしそれは織田の剣丞や詩乃も同じで、2人はとにかく久遠が戻るまで待とうということでひよに提案した。

 

そこで次の話題となったのがエーリカだ。

 

剣丞隊の面々は口を揃えてエーリカに何故そこまでして足利将軍に会いたかったのかを尋ねた。

するとエーリカの口からは『ザビエル』という名前と織田家にとっては既によく知られた『鬼』という単語が飛び出し、いかに恐ろしい化け物なのかを教える。

だがエーリカが言う程鬼は強くは無い。堺でも1人で立ち回れたと織田の剣丞が言うと感極まったエーリカが「おお、主よ!」と言って剣丞を抱きしめたところで久遠が先程の女性と共

 

に部屋に戻ってきて修羅場ったのである。

 

この辺は本編を見てみよう!

 

 

「そういえば、七刀斎がおらぬがどうした?」

 

久遠の呟きに、一同は厠に行ったままの七刀斎の存在を思い出す。

 

「先程の仮面の男か。余もまた見てみたいぞ」

 

小姓の女性もとい、足利将軍義輝こと一葉が町での騒動で見た剣丞の事を思い出して言うと、幽はすかさず口角を上げ「では急かしてまいります」と部屋の襖を開けた。。

それに続き、空も「私も行きます!」と立ち、幽についていく。

結果2人が抜けることになった。

 

「あの人、絶対性格悪いよね!」

「うんうん、あの人だけは敵に回したくないよね」

 

幽が居なくなった途端にここぞとばかりに顔を合わせるひよところ。

それを聞いた一葉は「違いない!」と笑い飛ばしていた。

 

 

 

ローラの繰り出した鬼の巨大な手は双葉を掴もうという寸前で止まっていた。

それはローラが自分で寸止めしたのではなく、

 

「大丈夫かい?双葉ちゃん」

 

間に入った剣丞が刀を手の平に突き刺すことでそれ以上の進行を止めていたのだった。

 

「け、剣丞さま・・・」

 

ガクガクと双葉の足が震えている。

どうやら腰が抜けたようで、壁にもたれかからないと今すぐにでもへたり込むところまで来ているようだった。

 

「おい、ローラ」

「何よぉ、本気で殺そうなんて思って無かったわよ?」

 

バツが悪そうにすることもなくローラが仕方なさそうに鬼の腕を収める。

そこですかさず剣丞は腰から小刀を抜いた。

 

「グッ・・・!」

「ここからは俺が説明する」

「わ、わかったわぁ・・・えへへぇ、痛いぃ、気持ちいぃぃ・・・!」

 

胸に深々と刺さった小刀を愛おしそうに引き抜くローラを尻目に、剣丞は双葉に向き合い、しゃがんで視線の高さを合わせて話し始めた。

 

 

 

 廊下

 

空は幽に連れられ厠への道を歩いていた。

 

「しかし、長尾どのはあの御仁しか目に入っておらぬご様子ですなぁ。こうしてわざわざそれがしについてくるとは」

「えっ・・・えぇっと、もしかしたら七刀斎さんが腹痛ではなく何かの病だとしたら心配で!」

 

幽の飄々とした雰囲気に戸惑い、モジモジと顔を赤らめながらも答える空。

彼女の中での剣丞のポジションは美空と共に頂点と言える。

 

幽もそれを察したのかこれ以上はからかわずにいた。

 

「こちらが厠にございますが・・・おや、いらっしゃらないようですね」

「本当だ・・・」

 

この二条の厠は男女問わず全て外から全ての個室の空きを見ることができる。

2人は全ての個室が空いていることに首を捻った。

 

「はて、行き違いになられたかこの二条館で迷子になられたか」

「多分、後者かと」

「ですな」

 

ため息をつき、2人は別れて剣丞を探すことにした。

 

この建物に詳しい幽は厠の周辺を、詳しくない空は来た道を、という形である。

 

空はさっそく来た道の脇や物陰を注視しながら戻っていった。

すると建物と建物の間、数秒中止しないと見得ないであろう死角に人影がいるのが見えた。

 

そこは修復資材や武具などを入れているであろう箱が多く置かれており、すぐには様子を見ることができないようになっていた。

 

(あの羽織!)

 

赤地に黒文字で『龍』と刺繍された羽織は間違いなく剣丞の物だ。

ようやっと剣丞と会えることに嬉しくなったのか、空は気付かれないよう背後から驚かせてやろうと思った。

 

現代で言う「だ~れだ」をすべく忍び足で接近する空。

段々近づいていく内に、そこにいるのは剣丞だけではないことに気付く。

 

(あの人、教会の!)

 

ローラの姿を見つけた空は更に息を潜め気配を消して近づく。

幸いローラは嬉々として小刀を引き抜いているところだったので気付いていないようだった。

 

剣丞ともう1人の人物も話し合っているようで空には気付いていない。

 

(あの人は・・・確か、御簾の向こうにいた?)

 

先程一瞬だけ見えた室内に居た格式高そうなお姫様。

空は話している内容が聞こえる位置まで移動すると、箱の陰に隠れて耳を傾けた。

 

 

 

「双葉ちゃん、さっきコイツが言ってたことは全部本当だ。俺達は日の本の・・・皆の敵だ」

「――ッ!」

 

言葉にならない驚きと共に双葉が目を見開く。

 

「ご冗談、ではないのですか?」

「悪いが本当だ・・・」

「何故そのような事を!心優しいあなた様が外法を使い天下を乱すなどと・・・」

 

双葉からの説教は責めているというよりも問うといったほうが正しかった。

 

「それはこの国のためなんだ。乱世を終わらせるには鬼の力を使わないと無理なんだよ」

「・・・鬼は村を襲い、人の肉を喰らうと聞きます。無辜の民を犠牲にしてまで得る天下など!」

 

剣丞はここで思った。

双葉は、弱弱しく見えるがとても強い娘なのだということを。

ローラに襲われかけ、剣丞の話を聞いてもなお、真っ向から否定してくる。

 

(こりゃあ、説得にも骨が折れそうだな・・・)

 

先程ローラは説明と説得をしろと言った。

説明は終わり、そして今は説得のフェイズだ。

 

説得――この言葉の意味するところはただひとつ。

 

双葉を同志にすることだ。

 

勿論、彼女にエーリカやローラのような能力や武術は求めていない。

剣丞達が求めているのはの内通者だった。

 

その対象が双葉だというのは意外であったが、こうして誰にも気付かれずに話している今が絶好のチャンスなのだ。

 

双葉なら征夷大将軍の妹として色々な情報を知ることができる。

そう考えるとローラのこの人選にも納得がいった。

 

だが問題は肝心の説得だ。

 

今のやり取りからわかるように『日の本の為』という名分を掲げても通用しない。

ならばどうするのか、剣丞は考えあぐねていた。

 

「んしょ、ふぅ・・・だらしないわねぇ私のご主人様は」

 

ゆっくりと時間をかけて小刀を抜いたローラが双葉に近づく。

また暴力で脅すのかと思いきや、今回は違うようだった。

 

「足利義秋。これは最初から『日の本をどう治めるか』なんて話はしてないの」

 

剣丞と双葉が黙りこくり、ローラが指を双葉の眼前へと突き出す。

 

「アナタは『日の本』と『新田剣丞』のどちらを取るかという話なのよ」

「ッッ!?」

 

目の前に突き付けられた二択に、双葉は声に出して驚いた。

 

「ちょ、おいローラ!」

「ちょっと黙ってて」

 

剣丞の抗議をバッサリと斬り捨てたローラは構わず続けた。

 

「初めて?こうして何かを選ばなきゃいけないのって。鳥籠の中で育ってきたアナタには刺激的過ぎたかしら。あ、選べないとかいう日和見な答えは無いわよ?」

「私は・・・」

 

(馬鹿かローラは!天下万民や親しい人達とただ前に会っただけの男――そんなの天秤にすらかけられねぇだろうが!)

 

剣丞は心の中でローラの失策を責めた。

しかし、それは失策などではなく――

 

「・・・・・・」

(悩んで、いるのか?)

 

双葉が?こんなわかりやすい二択を前にして?

剣丞の中にある可能性がよぎる。

 

(ローラがこんなことを言う、それに双葉が迷う・・・てことはつまり)

 

その可能性は段々と現実味を帯びていき――

 

(俺だってそこまで鈍い訳じゃない・・・顔を赤くした双葉を見て察しない程じゃないんだ)

 

双葉はゆっくりと口を開いた――――

 

 

 

 廊下

 

少し前に空はこのやり取りを黙って聞いていた。

そこでどんなことが起こっても、どんな話がされていても声ひとつ出さず、物音ひとつ出さないつもりだった。そしてそれは完遂され、今はこうして気付かれずに廊下に出ることができ

 

ている。

この動きを見たら剣丞は「ス○ークだ!」と叫んだであろう。

 

「おや、長尾どの。七刀斎どのはおられましたかな?」

「ひっ!!?」

 

廊下に出た所で幽に声をかけられ、心臓が飛び出そうなほどの驚きに支配される空。

だがそれもすぐに収まり、空は何食わぬ顔で幽に接することができた。

 

「?どうされました」

「あ、いえ!七刀斎さんはこちらにはいませんでしたよ」

「そうですか・・・では致し方ありませぬ。我々は戻るとしましょう」

「・・・はい」

 

空は幽の後について、多くの箱に遮られたその場所を見送った。

 

 

 

 山城国 街道

 

「まったくー!結局七刀斎の奴話が終わってさぁ行こうって時にひょっこり戻って来やがって!」

「一葉とも会えなかったようだし、惜しいことをしたな」

 

結局剣丞はその後中々戻らず、客室に入った時には話は終わっていたようで入った瞬間一斉にジト目で見られるという刑を受けた。

 

「それでですね、久遠さまと公方さまは話し合いの結果友人になられたようで、この旅が終わったらすぐに観音寺城を落として二条に急行し公方さまをお救いすることを決定したんです

 

よ」

 

話し合いには参加しなかった剣丞だったが、ひよの説明で大体のことはわかっていた。

 

何故帰ったらすぐに出陣するのかというと、京は三好衆に狙われていて一葉とはいえいつ命を狙われるかわからないからとのことだった。

 

そうなるとすぐにでも美濃に戻る――のかと思いきや、

 

「次の行き先は近江だ。剣丞の奴が長政に会いたいというのでな、寄り道になるが付き合ってくれ」

 

とのことだった。

 

そういう訳で、一行は街道から琵琶湖を船で渡り、北近江の城、小谷城へと行くべく馬を進めていく。

 

 

ローラは双葉との話を終えた後、越前に行くと言い残して早々に去ってしまった。

金ヶ崎の退き口のキーパーソンである朝倉と交渉にでも行くのだろうか、従属させるのか、何をするのかはわからないがローラは「期待しておいてね」とだけ言っていた。

 

エーリカもここはローラに任せようというので信じることにしたが、どうも剣丞には嫌な予感がしていた。

 

(まぁ、アイツなら信用できる、のか?)

 

 

次に双葉の事を思い出す。

 

(まさかだったな・・・双葉ちゃんが)

 

結果としては色よい返事をくれた。剣丞への告白というオマケ付きで。

 

(俺に好意を寄せてくれるのは凄く嬉しいんだけど、本当にいいのかなぁ?)

 

美空に空に双葉――段々と気まずい案件が増えていく中、剣丞はひとり頭を抱えるのであった。

 

 

エーリカはというと――

 

京を出る前に思い切りハグされた。

理由を聞くと「上書き」とのことで何の意味かはわからない。

 

今ではその突発的な行動を自分で悔いているのか、中々剣丞の方を向こうとはしてくれていなかった。

 

(でも、やわらかかったなぁ・・・)

 

剣丞は自分の感想が織田の剣丞と同じだということを知らずにいた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  オマケ

 

今まで当たり前のようにローラを登場させていますが、ぶっちゃけキャラ絵とか無いからわからない!ということになるので、作者の落書きをここに乗っけておきます。

小学生以下の画力ですので期待はせずに、あくまで参考程度にしていただけると幸いです。

 

挿絵絵師とかいたら力を借りたいくらいですね・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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