「かぁ~仕事で一汗掻いた後のお酒はやっぱり最高ね!」
「それ…貴女くらいよ。襲ってきた賊の貴女一人で半分以上斬って、それで無傷で一汗掻いた度としか感じていないなんて、貴女本当に人間なの?」
「何よ!その言い方、私のお蔭で貴女の荷も無事だったのでしょう!感謝しなさいよ!!」
「ええ、それは感謝しているわ。だからここの酒代は私が持つし、それにちゃんと報酬も上乗せするわよ」
「流石、包(ぱお)話せるわね!さあ皆、ここは魯粛の奢りよ、じゃんじゃん飲むわよ!!」
「「「お――――!!」」」
女性は自分の手下に対して無礼講とばかりに即席の宴会を始めたのであった。
因みに包と呼ばれた女性は、名を魯粛、字は子敬、真名を包と呼ばれていた。彼女は商人でありながら、義に厚い人物で家業の傍ら、生活が困窮している庶民に援助していた。
そして宴も半ばを過ぎ、包が
「ねぇ、雪蓮。貴女、それだけ強いのだから、何時までも侠(ここでの意味:仁義を重んじ、困っていたり苦しんでいたりする人を見ると放っておけず、彼らを助けるために体を張る自己犠牲的精神を指す)の頭って勿体ないわ。朝廷に取り入って地盤を作るか、誰かに仕官したらどうなの。それくらいの金なら私用意するわよ」
何とこの世界の雪蓮は、冥琳と共に侠の頭をしているが、悪徳役人を憎み、弱い民を助けるという持ち前の性格から自然と町の顔役的な存在となり、そして気風の良さから若者から慕われて雪蓮の元に人が集まり始めていた。
そして雪蓮はこうした者を養うため、出稼ぎみたいな形で商隊の護衛を付いて報酬を得ていた。包との関係は何度も彼女の商隊の護衛に付く様になり、幾度も賊が襲ってきたがその都度雪蓮たちのお蔭で助けて貰い、更に民を助けるという点で意気投合し、お互い真名を交す仲となっていた。
そんな包の言葉に雪蓮は冗談でしょうという顔をしながら
「私が宮仕え?性に合わないわよ」
「まあ確かに雪蓮の性格上、机に向かって仕事というのは確かに似合わないけど、戦場とかで勇を奮うのは絵になると思うけどね~」
「う~ん。そうね、こんな私を扱える人がいたら考えてみるわ」
前半の言葉は事実なだけに言い返す事はできなかったが、戦場で勇を奮うという言葉に興味を抱いたが、ただ自由奔放な自分を扱える君主がいるのかという疑問があったので、半分興味なさそうに
「それがね、貴女みたいな人が君主でいるらしいのよ」
「誰よ、それ?」
「まだ勢力は小さくて名も売れてないけど、これから伸びてくると思うよ。長沙の太守で名が孫、が堅、字が文台、あの孫武の末裔で、豪快無比という言葉はあの人の為にある言葉よ」
「貴女、会ったことあるの?」
「ええ取引の関係で二回程会ったけど、口調とか振舞いはとても君主とは思えないけど、ただ戦場に立った時は凄いらしいよ、周りが止めても常に先頭に立って剣を振り回して、敵を滅多切りにしているそうよ」
「へぇ~」
雪蓮は包の言葉を聞いて興味を抱いた。
「そう言えば雪蓮、貴女も先頭に戦うし同じ孫氏だから、ひょっとして親戚関係?」
「貴女も分かっているでしょう。私と冥琳は天涯孤独の身なんだから」
卑弥呼により、過去の記憶を失った雪蓮と冥琳は自分の名前や風習等は記憶しているものの、それ以外の事は一切覚えておらず、この世界では天涯孤独の身としてこれまで生きてきたのであった。
「あっ…ごめん、変な事言って」
「いいわよ、酒の席だから。さあ、そんなめんどくさい話はこれまでにして、もっと飲むわよ!」
雪蓮はこの話がこれまでとばかりに打ち切って、再び皆と騒ぎ始めたのであった。
そして一週間後に無事、町に戻ると
「それじゃ後の事は任せたわよ」
後の事務仕事等を他の者たちに任せて、雪蓮は自分の屋敷に戻る。
「ただいま~」
「ああ…雪蓮様、おかえりなさいませ」
雪蓮は出迎えの使用人の老婆に声を掛けられると
「御婆ちゃん、ただいま♪。冥琳はいるの?」
「はい。奥の部屋で仕事をしますよ」
「あっそう。はい、これお土産」
「何時もありがとうございます。私なんかの為にいつもこのような物を下されて…」
「いいのよ、御婆ちゃん。あっ、それと帰るまでにお酒と何かつまむ物用意してくれる?」
「はい、分かっていますよ。今日は腕を振るって用意いたしますから」
「期待しているわよ」
雪蓮はそう言いながら、屋敷の中に入って行く。
「ただいま~♪冥琳」
「無事に戻ったか、雪蓮」
「当たり前でしょう。仮に襲ってきても賊相手に私が後れを取ると思っているの?」
「それについては心配していないが、また無茶をし過ぎて包に迷惑を掛けたんじゃないかと思ってな」
「それどういう意味よ!」
「まあ怒るな。先に風呂を用意している、積もる話は酒でも飲みながらゆっくりしようじゃないか」
「流石、冥琳!分かっているわね。それじゃ先に旅の垢でも落としてきましょうか」
雪蓮はそう言いながら、風呂を浴びに行った。
そして雪蓮の慰労を兼ねて二人で飲み始めた。すると冥琳が
「なあ雪蓮。これからどうするつもりだ」
「これからって?」
「これだけ世が乱れ始めているんだ。私たちもこれからの事を考えねばならぬ」
「そうね~。私は食べたい時食べ、飲みたい時に飲み、戦いたい時に戦う。そんな生活さえできれば満足なんだけどね~」
「はぁ…それができればお前は満足かもしれぬが、それも何時まで続けられるか。雪蓮、これを見ろ」
冥琳は雪蓮の前に幾つかの書状を出す。
「これは?」
「お前が留守の間に来た各諸侯からの仕官して欲しいという手紙だ」
「お前が留守というのもあったが、殆どは魅力が無い諸侯だったから丁重に断ったがな」
「ふ~ん、そう。それでその中に孫堅から手紙は無かったの」
「ああ、来ていないな。珍しいな、雪蓮が気にするなんて」
「ちょっと、包の話を聞いてちょっと気になってね」
そして二人はしばらく雑談をしていたが、冥琳がある事を思い出した。
「そう言えば町の噂を聞いたか?」
「さっき帰ってきたから、何の話か知らないわ」
「お前が旅に出てしばらくしてから、町ではこんな噂が流れ始めてな」
「流星が黒天を切り裂き、天より御遣いが舞い降りる。御遣いは天の智武を以って世に太平を導かんとす」
「これだけ世が乱れれば、そんな噂が出て当然よね」
「だからこそ、これを切欠にお前に立ち上がって欲しいのだが…」
「またその話!?もう酒が不味くなるわ、ちょっと外の空気吸って来る」
雪蓮はこれ以上、この話はご免とばかりに席を外した。
「ふう…やる気さえあれば、お前の才能はあの高祖(漢の初代皇帝劉邦の事)に匹敵する程なのだが…それかせめてあいつの手綱を御する事ができる人物が上にいたら……私もその者に喜んで仕えるだろうな」
一人残された冥琳は杯に残っていた酒を一気に飲み、溜め息を吐きながら呟いていた。
席を外した雪蓮は、中庭の木の上でこっそりと持ち出した酒を飲みながら不機嫌な顔をしていた。
そして月を見ながら
「……これからか、私はどうしたらいいかしらね…」
雪蓮は今まで自由を謳歌していたが、これから戦乱の世になることは分かっていた。そして自分の武勇を奮ってみたいが、自ら上に立ちたいとは思わず、寧ろ悠々自適にのんびり暮らし、そして大好きなお酒飲んで、楽しく笑って過ごせて死ねたら本望という風に考えていた。
そしてそれを分かってくれる者が居たら、雪蓮はその者に仕えても良いかなと考えていたが、こんな自分を分かってくる様な人物がそうそういないと感じていた。
だから無理して気が合わない人物に仕えるよりは、このまま朽ち果てても良いかなと心のどこかで思っている自分がいた。
「ふう……そんな人、都合よく居ないか」
と言いながら、旅の疲れか雪蓮はそのまま木の上で寝てしまった。
そして漸く明け方近くになり目が覚め
「はぁ…不覚だわ。何で私こんな所で寝てしまったのかしら…まあいいか、完全に夜が明けるまでに時間があるから、部屋に戻ってもう一度寝よう」
雪蓮はそう言いながら木から降りると、すると
『フュ――――――ン』と空を切り裂くような音が響き渡った。
雪蓮の上を一筋の流れ星が通過したが、それは今まで見た中で一番大きくそれも近くに落ちそうな高さでそして昼間のような明るさを照らしていた。
「あれ何かしら…流れ星にしてはでか過ぎるわよ。もしかして冥琳が言っていた噂の天の御遣いが来たとでも言うの!?」
そして流れ星が落ちたと思われる先を見て
「面白いわね……今から見に行って、もし御遣いが妖の類だったら、私の憂さ晴らしに付き合って貰って、お礼に膾にして上げるわ」
雪蓮はそう言いながら、流れ星が落ちたと思われる場所に足を向けたのであった。
あとがき
魯粛に付きましては、真名の設定は恋姫英雄譚の通りに設定しましたが、性格については「ひゃわわ軍師」では無く、少々口が悪いお姉さんという設定でいきます。
公式の設定を見ていると演義と史実を交えた感じです……。どうしても演義の気弱なイメージが先行していますね。
どうもイメージが合わないので、この物語独自の設定にさせていただきました。
そして英雄譚のキャラについては全員出せるかどうか分かりませんし、公式通りの設定になるかどうか分かりませんが、なるべく出せる様にしたいと思っていますので応援よろしくおねがいします。
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本来なら『新外史伝』の方を話を進めるつもりでしたが、こちらの方の作品がスムーズにキーの打ち込みが進んだので、こちらの方が先に投稿となりました。
では第2話よろしくお願いします。