No.717663

ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-09-15 14:34:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:546   閲覧ユーザー数:529

 

 

 story23 悩む者達

 

 

 

「ウーン。これは厳しいデース」

 

 三年のとある組の教室。そこで一人の生徒が机に置いている一枚の用紙を見ながら静かに唸っていた。

 

 用紙には『艦部の部費全カット通知』とその詳細が書かれている。

 

(部費の全カット。手持ちの資金での部活の維持は困難。何とかして戦績を取ろうにも、部員不足で試合にすら出れない・・・・八方塞ネー)

 

 内心で様々な問題が浮き彫りになって、頭痛がするほど悩んでいる。

 

(宣伝しても部員は集まらない。ウーン・・・・どうしたものデスかねー)

 

 

 

「やぁやぁ、三笠ちゃーん」

 

 と、聞き覚えのある声がして彼女事『三笠金剛』は顔を上げると、そこに生徒会長の角谷杏が立っていた。

 

「ムゥ。会長デスカー」

 

「いやぁ悩んでいるねー」

 

「誰のセイと思っているんデスカ」

 

 部費の全カットをした張本人に言われ、ムスーと金剛は睨む。

 

「まぁまぁ。でも目立った成績が無いと部費は与えられないのは分かっているよねー」

 

「ぐぬぬ・・・・」

 

 事実であるが故に金剛は言い返せれなかった。

 

「まぁでも、別に部費の全カットを撤回する方法が無いとは、限らないよー?」

 

「waht?」

 

 会長の驚き発言に金剛は顔を上げる。

 

「まぁ、もちろんタダじゃないけどねー。どう?」

 

「・・・・・・中身次第デスネ」

 

「簡単なことだよ。・・・・・・戦車道を受けてくれさえすればね」

 

「戦車道、デスカ?」

 

「うん。オリエンテーションでも言ったけど、成績優秀者には素敵な商品があるっていうのは聞いたよね?」

 

「部活にもそれが適用されるとデモ?」

 

「そういう事」

 

「・・・・・・」

 

「バレー部も復活の為に参加しているからね。どう?」

 

「・・・・・・」

 

 金剛は首を傾げてしばらく考える。

 

 

 

「妹達と話し合った上で、しばらく考えさせてくだサーイ」

 

「そっか。まぁ待ってるよー」

 

 そう言って生徒会長は干し芋を齧りながら教室を出る。

 

 

 

「ハァ~・・・・・・戦車道・・・・デスカー」

 

 会長が教室を出てから、金剛はボソッと呟く。

 

「どうしたもんデスカナー」

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「はぁ~・・・・・・お腹空いた~」

 

 四時限目の授業が終わり少し遅れて早瀬はそう呟きながら、食堂に向かっていた。

 

(今日は何にしようかな~。カツ丼も良いけど、牛丼も捨て難い。いや、今日は海鮮丼にでもしようかな・・・・)

 

 内心呟きながら歩いていると・・・・

 

 

 

「ん?」

 

 と、早瀬は前に歩いてくる生徒を見て目を見開く。

 

 何やら腹が風船の如く膨らんだ生徒が「ふぅ」と息を吐きながら早瀬の横を通り過ぎる。

 

「うわー。どんくらい食えばあんな腹になるのやら」

 

 早瀬は何度も瞬きをするも、呟いてから食堂へと向かう。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「あれ?」

 

 早瀬が食堂に着くと、何やら人だかりができている。

 

(何か今日イベントとかあったっけ?)

 

 首を傾げて静かに唸ると「おーい!」と聞き覚えのある声が聞こえてくる、

 

「あっ、鈴。どうしたのこれ?」

 

 坂本が早瀬の元にやってくると、早瀬がこの人だかりの事を聞く。

 

「いやーそれがさ。食堂で今日だけで、しかも一品のみしか無い限定の料理があったの」

 

「今日だけで一品限定の料理?」

 

「その料理は海鮮丼なんだけど・・・・・・ネタが凄いの」

 

「どのくらい」

 

「刺身は全て今日取れたばかりの新鮮なマグロ丸々一匹。様々な部位を乗せた贅沢一品!」

 

「ぜ、贅沢ってレベルじゃ。第一マグロを丸々一匹をどうやって・・・・」

 

「何でも戦車道の全国大会を一回戦目突破を祝って、大洗町が小ぶりだけどマグロ一匹を丸々をくれたんだって」

 

「それはまた・・・・」

 

「それだけじゃなくて、丼が滅茶苦茶でかかったんだよ!金ダライほどあったかもしれない!」

 

「で、でか・・・・。いくらなんでも、そんなの食べ切れるはずが・・・・」

 

 

「いや、それが食べ切ったの。しかも一人で」

 

「・・・・・・は?」

 

 坂本から発せられた言葉に早瀬は耳を疑った。

 

「う、嘘でしょ?」

 

「私も信じられないけど、本当なの」

 

「・・・・・・」

 

 ふと、早瀬はさっきの腹が膨らんだ生徒を思い出す。

 

(絶対あの人だ・・・・)

 

 あんな姿をすれば、誰でも分かるはず。

 

 

「食堂のおばちゃん驚いていたし、なにより泣いていたね」

 

「なんで?」

 

「もしその巨大海鮮丼を全部を一人で食べ切ったら、一回の食券でいくらでも食べられる特別食券二ヶ月分が賞品だったみたい」

 

「あー・・・・・・。もしかして貰ったらいけない人が貰ったから?」

 

「そうみたい」

 

 たぶんあの人、次の日から食べ始めるだろうな~それもかなりな量を・・・・

 

「その人この学園でも有名なぐらい大食いなんなんだって。確か名字は『赤城』って言っていたような・・・・」

 

「うわぁ・・・・」

 

 ご愁傷様・・・・・としか言いようが無かった。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 学園の敷地内にある弓道場。そこに一人の女子生徒が正座をして目を瞑り、精神を統一している。

 

 凛とした雰囲気を持ち、床に付くほど長く艶のある黒い髪を白いリボンでポニーテールにしていた。何より制服の上からでも目立つぐらい分かるスタイルの持ち主(どこガと言うのは言わずとも)。

 

 

「・・・・・・」

 

 と、女子生徒はゆっくりと瞑っていた目を開ける。

 

「やぁやぁ、篠原」

 

 弓道場にいつも通りに干し芋を齧っている生徒会長が入ってくる。

 

「お前か・・・・」

 

 女子生徒は睨みつけるようにして角谷会長を見る。

 

「そんなに警戒しなくたっていいよ」

 

「ふん。我が弓道部を滅ぼしかねないお前達に警戒するなと言う方が無理な話だ」

 

「・・・・まぁ、それもそうだけどねぇ」

 

「はぁ」とため息を付き、干し芋を齧る。

 

「それで、今度は何用だ?廃部通告にでも来たか?」

 

「いや~、さすがにまだ廃部するほどじゃないよ~」

 

「・・・・・・」

 

「単刀直入に言うけど、もし弓道部の存続を願いたいなら、戦車道を受けてみない?」

 

「戦車道だと?」

 

 女子生徒は目を細める。

 

「優秀な成績を残したら、弓道部の存続は約束するよ」

 

 

「断る」

 

「即答だねー」

 

 考える間も無く女子生徒は返答する。

 

「これは我々の問題だ。部外者の協力など必要ない」

 

「・・・・・・」

 

「用が無いのなら、去れ」

 

「・・・・はぁ。相変わらず頑固だねぇ」

 

「・・・・・・」

 

「気が変わったら、いつでも迎えるよ」

 

 そう言って会長は弓道場を出る。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 女子生徒は再度目を瞑って、精神統一を行う。

 

 

 

「あっ、会長」

 

「ん~?」

 

 角谷会長が弓道場を出ると、僅かに緑がかった灰色の髪をツインテールにしている女子生徒が居た。

 

「やぁやぁ、瑞鶴ちゃーん」

 

「会長。もしかして雫に戦車道の勧誘でもしたんですか?」

 

「まぁね~。でも、即答で断られちゃったよ」

 

「まぁ雫ならそう言うでしょうね。かなり頑固な性格ですから」

 

 瑞鶴と呼ばれる女子生徒は苦笑いを浮かべる。

 

「まぁ兎に角、そういう話だから。一応考えておいてね~」

 

 そう言って角谷会長は手を振りながらその場を去っていく。

 

 

「はぁ・・・・戦車道、か」

 

 瑞鶴は深くため息を付き、頭を掻く。

 

 

「フフフ・・・・・・これで明日からしばらく食べ放題・・・・」

 

 と、先ほど手に入れた食券を手にしているを見ながら嬉しそうに先ほど早瀬が見た生徒・・・・・・赤城がやってくる。

 しかも先ほどまで風船の様に膨らんでいた腹はいつも何か収まっている。

 

「聞いたわよ。あんた金ダライほどのマグロの丼を平らげたそうね」

 

「そうですね。おかげで食べ放題の食券をもらいました」

 

「・・・・・・聞くまでも無いけど、明日から毎日食いまくるんじゃないでしょうね」

 

「もちろんです」(真顔

 

 スパーンッ!!とどこから出したかはさて置き、瑞鶴は手にしているハリセンで赤城を張り倒す。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「これは気が滅入るわね」

 

 その頃、整備部はレンガ倉庫内の戦車の整備以前の問題に直面していた。

 

 倉庫内は蜘蛛の巣や埃だらけ。整備以前の問題で、仕方なしに整備部全員で掃除に取り掛かっているものも、時より部員の悲鳴が上がっている。

 

(倉庫の掃除をしても、この戦車の状態が予想以上とはねぇ)

 

 ある程度調べた所、パーツのほとんどが劣化しており、戦車倉庫を片付ける際に出てきたパーツや、別の戦車のパーツを使って修理するが、中には新しく発注するしか無いパーツもある。

 

「これじゃ例の戦車博物館にある超重戦車のレストアの為にパーツを新規設計して戦車丸々一台を設計するような感じで復元するようなもんじゃない」

 

 気の遠くなるような事に、佐藤(姉)は呟く。

 

「まぁ、それでも動かせるようにするのが、プロの整備士よ」

 

 そう言って自分に言い聞かせ、倉庫の中で埃と蜘蛛の巣を纏って静かに眠る超重戦車・・・・・・『大型イ号車120t型』こと『オイ車』と向かい合う。

 

 

 


 
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