No.717559

灰色の小鳥、桜色に舞う夢見鳥

雨泉洋悠さん

3日遅れの、中音ナタ氏に勝手に捧ぐ、ことりちゃん誕生日記念にこまき前提の為返されかねないことにこ

今回は一応二人の物語には含まれません。
にこちゃんと真姫ちゃん以外の誕生日は別枠でシリーズにまとめようかなと思っています。

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2014-09-15 05:22:03 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:895   閲覧ユーザー数:895

   灰色の小鳥、桜色に舞う夢見鳥

              雨泉 洋悠

 

 桜色の花一輪、踊る、夢見鳥。

 

 ゆらゆら、ふわふわ。

「あ、にこちゃん私よりも先に来てる」

 ふわふわした、ことりの声。

「ことり、まあ部長だからね、基本的には皆よりも先に来るようにしているわよ」

 私の声も、ことりにつられて、心なしかちょっと、ゆらゆら。

「にこちゃんて、意外とそういう所の責任感強いよね」

 意外と、と付けつつも、何の裏も感じさせない笑顔で、ことりは話すから、私の方にも何のマイナスの感情も湧いてこない、ことりの天性の力かも。

 私は、取り敢えず、間に合わせのポーズのみの抗議の声を返答してみる。

「意外とは余計よ。そもそも、ことりの方がよっぽどよ」

 ことりの方こそ、ずっと責任感が強いと思う。

 私達全員分の衣装を、ことりは決して手を抜かないで、弱音も吐かずに、仕上げてくれる。

 全員の衣装を仕上げる、それがどんなに大変なことか、私は良く知っている。

 それが、どれだけのことりの頑張りによって、支えられている事か。

「えへへ、そんな事ないよ、何時だって私楽しいし」

 そう言って、珍しく、私の隣りに座る、ことり。

 ひらひらと、机の上に重ねられる、私達を守ってくれている、大切なことりの手。

 ことりが楽しんでいる、そんな事は、私だって解っている。

 ことりにとって、私達の衣装をつくることは、凄く楽しいことで、心の底からそれを何一つ負担に思っていないなんて、少しは長く一緒に居られているから、私だってもちろん解っている。

 でもそれは、ことりが私達のために何も犠牲にしていない、と言う事とは決してイコールにはならない、当然のようにイコールだなんて、考えてはいけない。

「ことり、指出して」

 露骨な労いの言葉なんて、私は不得意だから、ことりとの共通点で、何か出来る事を考えるしか無い。

「指?あ、にこちゃん、今日の爪綺麗、にこちゃんの誕生日の時と、同じ色だね」

 真姫ちゃんも、こないだの時に、直ぐ気付いてくれたけど、さすがことり、めざといわね。

 あの日、真姫ちゃんと嬉しい日を過ごすまでの間に、ことりがさりげなく裏から後押ししてくれていたのを、感じていたよ、私。

 あのPV、ことりが提案してくれた振り付けのお陰で、少し真姫ちゃんとの距離が縮まって、真姫ちゃんと合わせるみたいに、可愛い衣装を準備して貰えたことが、本当は凄く嬉しかった。

「うん、あの時真姫ちゃんも褒めてくれたんだけど、ことりも褒めてくれたから、今日はことりの日だからあの日と同じ夏色にして、お返しにことりに似合いそうな夏色を、持って来たの」

 鞄から、私の色よりも、ちょっとだけ薄いことりに似合いそうな色を取り出す。

「え、良いの?」

 ことりが、少しばかり心配そうに聞いてくる。

「今日はことりの日でしょ?だから良いのよ」

 ことりが、違うという意思表示に、首を振る。

「そうじゃなくて、にこちゃんに髪型弄って貰ったり、お化粧して貰ったり、お互いにお洒落し合うのは、嬉しいけどあんまりそういう事していると真姫ちゃんヤキモチ妬かないかなって」

 それはそれで、嬉しい面もあるんだけど、どうだろう、ヤキモチなんて妬いてくれるのかな、合宿の時とか、嬉しい事沢山あったけど、まだ、絶対の自信なんて、持てないなあ。

「心配してくれてありがと、ことりにはずっとバレバレみたいね。でも、大丈夫、今日は真姫ちゃん用に真姫ちゃんに絶対似合う色も持って来たから。皆の分も、それぞれ考え中よ。それに、真姫ちゃんの気持ち、まだまだ解かんないし」

 ふわふわと、柔らかい目線で、私を見つめることり。

 不意に机の上から上げられた、ことりの手が、私の頭を撫でる。

「大丈夫だよ、にこちゃん心配屋さんだね」

 その手の暖かさと、柔らかい声に、うっかり眠気を誘発されそう、落ち着かされる。

 先輩禁止のお陰で、時にこんな暖かい瞬間も、訪れる。

 アキバの伝説のメイド、ミナリンスキーさんがどんな人か、色々妄想したこともあったけど、そんな妄想、遥かに超える子だったなあ、ことりは。

「ありがとう、ことり。さて、皆が来る前に塗っちゃうわよ。塗り終わったら包装し直すから貰ってね。成り行き上使い始めちゃって申し訳ないけど、今日の私からのプレゼントよ」

 本人にとは言え、使い始めちゃったものを渡すのは気がひけるけど、今日ばっかりはことりの手を見てたら衝動的に塗りたくなっちゃったから赦して欲しい。

 本当にもう、こんな時にも私と真姫ちゃんの心配をしてくれることりだから、私はことりの手を、守ってあげたくなる。

「この時期に夏色だと、少し時期外れだったりしないかな?」

 そんなことりの声に私は答える。

「大丈夫よ、まだ、夏は終わらないもの」

 

 貴女の手が、心が、あらゆる困難から、守られますように。

 

 ひらひら、くるくる。

「ことり、私よりも早く来ているなんて、珍しいわね」

 にこちゃんの声、窓の外の、雨音と溶け合って、私の耳に届く。

 振り返ると、にこちゃんの手元に、あの日と同じ、桜色の花。

「にこちゃんと話したくて。あれ?にこちゃん、傘、傘立てに置いて来なかったの?」

 昇降口の傘立て、傘は基本的にはそこに置くようになってる。

「ああ、この傘はお気に入りだから、出来る限り傘立てには置かないようにしているの」

 

 桜色の花に、黄色い羽根。

 

 にこちゃんは、傘を入口の横に立てかけると、部室に入ってきて、いつもの席に座る。

 あの日と同じ、私は隣。

「にこちゃん、あの日のこと覚えてる?あの日も、あの傘をにこちゃんは、差していたよね」

 あの日のにこちゃん、今も私は覚えているの。

「うん、覚えているわよ。あの日おとなしく引き下がったと思ったら、次の日強引に押しかけてきたわね、ことり達」

 嬉しそうに、にこちゃんは微笑む。この笑顔、もう見れなくなるかも、知れなかったのに。

「あの時ね、私、にこちゃんの事、ちっちゃいころの海未ちゃんみたいって思った。それでね、その時と同じように私、一緒に何かをしたいって、一緒に居てあげたいなって、思ったの」

 にこちゃんの笑顔が、少しずつ揺らいでいく。

「ごめんね、私、そんなにこちゃんの居場所を、一緒に居られる場所を、壊そうとしちゃった……」

 自然と声も掠れていく。同時に、何かが頭に触れる。

 

 にこちゃんの、小さな、可愛い、でも、歳上の暖かさを持った、優しい手。

 

「仕方ないわよ、ことり」

 私の頭を優しく撫でる、にこちゃん。

「でも私、留学の話があってから、ずっと、海未ちゃんと、穂乃果ちゃんの事しか考えてなくて、にこちゃんが、何も言わずに送り出そうとしてくれていて、私それに甘えて、何もにこちゃんに言ってあげられなくて、にこちゃんだって、大変だったのに、何もしてあげられなくて……」

 海未ちゃんと、穂乃果ちゃん以外の人の前で、こんな姿を見せるなんて、初めてかもしれない。

 にこちゃんが、私の頭ごと、その胸に抱き留めてくれる。

「私のことなんて、気にしないで良いのよ、ことり。ことりにとって、海未と穂乃果が、どれだけ大切な存在かなんて、私だって解っているわ。今回のこと、ことりが留学を選んでも、私は仕方ないと思ってた。ことりはね、もっと自分の事、考えていいんだよ。今回みたいに、自分の思いをぶつけて、わがままに自分の道を選んでいいの。ことりが選んだ道が、皆の道や、私の道と同じだったら、もちろん嬉しいけど、ことりが留学を選んで、私達と道を違えていたとしても、何もことりは悪くないのよ、貴女が選んだ道を進んでいいの」

 にこちゃんの胸、私の滴で濡れていく。

「それでもね、それでも、こんな聞き分けのいい事言っておいて、それでも私の思いは、はっきりとことりに、伝えておきたい」

 にこちゃんが、私の髪にほっぺたを埋めてくる。

「ことり、もう何処にも、いかないでね」

 この言葉、私は本当は、もっと前に聞いておいてあげないといけなかったの。

「うん」

 

 桜色に舞う、夢見鳥。

 灰色の小鳥、一羽、共に舞う。

 

「で、にこちゃん、真姫ちゃんとは、どうなの?」

 ひと通り吐き出させたのが良かったのか、思った以上に元気になってしまったことりが、そんな言いにくいようなことを平然とした顔で聞いてくる。

 こういう話の時のことりは、本当に嬉しそうで、やっぱりことりとは気が合うなと思ったりもしてしまう。

 いつもの状態に戻った私達の、楽しい時間。

「えーとー、まあ、お陰様で順調よ。むしろ二人の時の真姫ちゃんは結構素直だから私の方が恥ずかしいことも多々あるわね。一度見せてみたいけど……やっぱり見せてあげない」

 ことりとの距離も、今回の件を乗り越えて、少しまた縮まったのかな、と思う。

「独り占めかあ、良いもん、私だって海未ちゃんと穂乃果ちゃんの素直なところ独り占めだもん」

 そうね、やっぱり貴女達は、ことり、穂乃果、海未、三人揃ってこその関係だわ。

「貴女達はきっとずっと一緒なのね、羨ましいわ」

 今も真姫ちゃんのことを想うほどに、素直にそう、羨ましく思う。

「何言ってるのにこちゃん、一度乗り越えちゃったから、私達みんな、きっとずっと長いお付き合いだよ」

 そうね、貴女達が、穂乃果があの日、私の手をとってくれた時から、私にとっての、掛け替えの無い、貴女達が出来た。

 私は、心の底からの、満面の笑みで答える。

「ことり、これからも今までどおりよろしくね」

 そうすると、ことりも、心の底からの、満面の笑みで、何時も同じように答えてくれる。

「うん」

 


 
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