No.717501 キミ行(ゆ)き世界の箱庭(佐幸)42014-09-14 23:51:38 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:759 閲覧ユーザー数:754 |
「よいしょっと」
立ち上がり、置きっぱなしだった俺様手製の弁当を手にする。重箱は持ってきた時と同じ重量のままで、一つも減っていない。
「それじゃお二人さん、失礼しますよ」
形だけの挨拶をし、俺様は二人から離れた。状況を飲み込めない徳川家康が不思議がろうと、伊達政宗が訳知り顔で笑っていようと、どうでも良い。
もうここに用はない。俺様と重箱が行くべき所は一つだけ。
屋上と校舎を繋ぐドアを開ければ、案の定、真田の旦那が居た。左手にある階段とは反対側で、壁に持たれる形で三角座りをしている。両腕に顔を隠しているけど、俺様を殴ったときと変わらぬ感情を抱えている。
それと、もう一つ。
俺様は顔を隠したままの旦那の前に、しゃがみこむ。
「旦那、お腹減ったろ」
目の前に重箱を置いてやれば、旦那の体がピクリと反応した。
「真田の旦那に食べて欲しくて、今日も俺様、朝から張り切ったんだけどなあ」
しゃがんだ膝に肘をつけ、旦那に殴られた頬に手を乗せる。
含みを持たせた言い方をすれば、旦那は腕の隙間から重箱をのぞき見る。いつもならここで重箱に手を付けてくれるのに、今回は目を逸らされてしまった。
「……確かに腹は減っているが、先にせねばならぬことがあるだろ」
プイッと向く後ろ髪に、旦那の本気を知る。現世でもある、ひと房だけ長い髪が跳ねる様に、弁丸様の時代までさかのぼってしまう。
怒ってるのは分かってる。ふてくされてるのも。理由までは掴めないけど。でも、そういう感情をも向けられている対象が俺様なのが嬉しいって言ったら、どう思うかな。
「旦那が俺様のお弁当食べてくれること以上に、今やらなきゃいけないことってある?」
こちらの本音をからかいだと取った旦那は、逸していた目を向けてきた。
「ごまかすなっ」
見開く目も眦も赤く、泣き跡を濃く頬に残した真田の旦那は、火柱を上げる勢いで、俺様に食ってかかる。
異能を持っていたなら、本当に火花の一つでも上げていた。俺様を相手には出さないのを、誰よりもお互いが知っているから魂で訴えてきた、あの頃と同じ主の熱量。
ああ、ごめんね旦那、本当にあんたが居る。あんたの魂に再び炎が灯ったのが、こんなに嬉しいことだなんて。あれだけ失ったままでいるのを安堵してのにさ、どれだけ現金なのよこれ。
抱きしめたい衝動を抑え、一つ誤解を解く。
「ごまかしてないよ、俺様にとっての大事はそっち」
お腹空かせてる人には、食べさせてあげたいじゃない。俺様は、今の一瞬で満たされたし。
けれど旦那は許さない。
俺様を殴った拳に力を込め、見上げてくる。
「どうして俺を責めないっ」
ともすれば何度でも殴るつもりかもしれないけど、さすがにあれは一度きりが良い。旦那やお館様ほど体が頑丈―規格外とも言う―ではなかった俺様は、現代もさして変わらない。
旦那を殴りたくなったら来いて言われたけど、無理に決まっている。物理的なことは勿論、心理的な物はなおさら。
「旦那、俺様が悪いなら謝るけど、俺様が旦那を責める理由なんてどこにあるの」
無いよ、て教えてあげるも、旦那は全然納得してくれない。
「俺を責めろっ」
「旦那……」
殴られて欲しいから殴るっていうのは、やっぱり俺様の領分じゃない。
だから、思ったまま「じゃあ旦那は俺様に、何を責めて欲しいのさ」と尋ねる。
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戦国バサラの学バサ設定の転生パロもの。一見、佐政や家幸ですが、立派な佐幸。そして家→三。
もしかして関幸もありかもしれない。