「とーま君、嘘当ての遊びやろうよ」
珍しく話の弾んだ女性に聞いたのだという内容を、一本指を立てて幼子に教えるような抑揚で語る。 曰く、お互い質問を出し合い、それ同時に答える。互いに二つずつ出し合い、その中で一つだけ嘘をついてよい。嘘を当てた方の勝ちだと。
「……僕たちはいつわりびとですよ?それ、遊びになるんですか?」
「ん?じゃあ逆にしようか。先行後攻じゃーんけーん……」
「ちょ、やるなんて僕一言も……」
それでも、ぽん!と言われて思わずグーを出してしまう位には冬馬も素直らしい。 師走の手はパーだ。
「それじゃあ俺が先行っと。そうだな……『好きな女の子のタイプは』?」
「……」
あからさまに眉を寄せる冬馬をまぁまぁと手の平を揺らしてなだめ、師走は「せーの」と合図を出す。
「『女の子なら誰でも!』」
「『優しい人』」
冬馬の眉がさらによってしわを作った。
「……いつか刺されてください。特に女性には念入りに」
「何で今それをお願いするの!?」
ま、次どうぞ?と促され、冬馬は溜息をついた。
「……『好きな季節は?』」
「『春かな』」
「『秋です』」
「……じゃあ次俺ね。『好きな色は?』」
「『緑だよ』」
「『赤です』」
「……これで最後ですね。『好きな物は?』」
「もちろん『女の子』!」
「『おまんじゅう』はい、終わりです」
大袈裟に肩をすくめて見せ、冬馬は読みかけにしてしまっていた本に手を伸ばす。それに怒ることもなく、師走は笑いを堪えながら口を開いた。
「とーま君ってば……ふふっ……今の全部嘘でしょ?はは、ダメだよー?一個は本当の事言わなきゃ…あはは!」
「誰が正直にやるって言いました?それに『本当の事でない』だけで嘘ではありません。……そういう鴨野君こそ、本当の事言ったんですか?」
あるならどれか言ってみてくださいよと続けると、途端に師走はうーん、とうなりはじめた。
「まだしばらくはわかんないかな」
「……意味がわかりません」
「これから本当になるものが一個くらい有るんじゃない?だから本当の事はあるよ。だから一個は本当のことを言ってると思うんだよね」
暫くの沈黙。冬馬の呆れ顔に、師走のしたり顔に、吹き出したのは同時だった。
「なんだ、僕もそうすればよかったです」
「俺の勝ちかなー?……あ、ねえ、もう一個だけいい?」
普段より少し機嫌のいい冬馬は快諾した。 師走が再び一本指を立てる。
「『大っ嫌いなことは何?』」
「『嘘をつくことだよ』」
「『嘘をつくことです』」
そしてまた、笑った。
【世界一分かりやすい嘘をありがとう】
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師走君と冬馬がゲームをして遊ぶだけの話です。
登場するいつわりびと
鴨野師走/鹿ノ内冬馬