No.714215

快傑ネコシエーター3

五沙彌堂さん

11、狐の小さな恩返し
12、がんばれ源さん
13、美猫の愛の悩み
14、紀美沈没せず
15、その後のヘブラテスラの館

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2014-09-07 03:01:26 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:683   閲覧ユーザー数:683

11、狐の小さな恩返し

ワーフォックスの少女、逆神妖子は自分を凶悪デミバンパイアから解放してくれた

四方野井雅と謎の親切な老婆にお礼をしたくて雅の事務所を訪れた。

しかしいきなり事務所に入っていく勇気がなく事務所の外から様子を眺めていた。

ちょうど折悪しく雅と美猫は任務で不在で事務所には春樹と紀美しかいなかった。

妖子は知っている顔がいないので雅か誰かが戻るのを待っていた。

「不審者見つけた。」

いきなり後ろから肩を軽くつかむものがいた。

白猫銀であった。

「あなた、ここで何をしているのかしら。」

「あそこの事務所が気になるようだけど。」

妖子は吃驚したが銀が悪い人に見えなかったので正直に理由を打ち分けた。

銀にも謎の老婆の正体はわからなかったが、妖子の気持ちを汲んで協力することにした。

銀は変化のできるライカンスロープの知り合いに老婆になることができるものが

自分以外すぐには思い浮かばなかったので変装ではないかと思った。

多分美猫だろうと思い、妖子にその老婆の正体は雅のアシスタントの美猫であると告げた。

妖子は驚いていたが銀は本当の姿を見ても大丈夫かどうか聞いてみた。

「私と同じぐらいの歳なのにそこまで私のことを慮ってくれるなんて、」

「むしろ、普段のあの人の姿を見てみたい気がします。」

妖子は美猫の本当の姿に興味を持ったようだった。

しばらくして、雅と美猫が戻ってきた。

「あれが美猫ちゃんよ。」

銀は雅の隣でなぜかはしゃいでご機嫌の少女を指し示した。

妖子は美猫をじっくりと見たがどうしてもあの老婆には見えなかった。

「とりあえず行ってみたら、とってもいい娘よ。」

銀に後押しされ、妖子は勇気を出して事務所の中に入ってみた。

 

「雅さん、このあいだは本当にありがとうございました。」

「おかげさまで、普通にデミヒューマンの成人として暮らすことができるように

なりました。」

妖子は丁寧にお辞儀をして雅にお礼を言った。

そして、傍に居た美猫を凝視した。

美猫は妖子を一目見てあの時のワーフォックスの少女であること思い出したが

素顔を見せていないので正体がばれていないと思ったものの気恥ずかしかったので

思わず目を逸らした。

妖子は美猫が目を逸らしたのに気づき、銀の言うとおりあの時の老婆の正体は美猫だと

確信した。

しかし、美猫に対して妖子はとても恩義を感じていたので恩返しをどうするかを思案

していた。

いきなり正体をばらすのはあの時の美猫の気遣いを無にしてしまうと思った。

ここは美猫の正体に気づかないふりをすることにした。

妖子は雅に美猫を紹介してもらうことで初対面のふりをした。

「彼女は僕のアシスタントで竜造寺美猫さん。」

雅も既に2人は変装していたとは言え初対面ではないので変な気がしたものの

美猫が一瞬目で合図をしたのでそのまま紹介した。

妖子は美猫の手を握って潤んだ目でじっと見つめた。

美猫は思わずどきっとしたがひたすら平常心を保った。

「あの~初対面のような気がしないんですがどこかでお会いしていませんか。」

妖子はあえて美猫に問いかけてみた。

「いや~お会いするのは初めてですよぉ。」

美猫は脇の下に汗をかきながら答えた。

「美猫さんは猫又ですよね。」

「猫又ハーフだけどね。」

「では変化できるんですね。」

「猫又には変化できるけど猫には変化できないよ。」

「私は化け狐なのに狐に変化が出来ないんです。」

妖子は自分にとって致命的なことを明かした。

「デミバンパイアに魔力で服従させられたのがいけなかったらしくて。」

「自分の魔力が自由に使えないのです。」

「できれば、美猫さんに変化のコツを教えてもらいたいのです。」

美猫は自分にできる範囲でということで引き受けた。

 

亜人街の小さな公園に2人はやってきた。

「コツといってもあたしはハーフだから単に力の強化が必要な時に変化するだけ

だからあまり参考にはならないと思うよ。」

美猫は正直に答えた。

「変化のコツはライカンスロープ共通のものだから大丈夫ですよ。」

「デミバンパイアの魔力からの完全な解放には強い対魔力の意志が必要なのです。」

妖子は美猫の対魔力の意志の強さが何処から来るものなのか知りたかった。

美猫は意識を集中して変化を始めた。

いつもは一瞬で変化するのだが、今回は手本を示すということなのでゆっくりと変化した。

頭の横から耳が変化して猫耳に、瞳は一度閉じると人から猫に、犬歯が伸びて鋭い牙に

指の平爪が鉤爪に、スカートの下から尻尾が伸びてきた。

「こんなところかな。」

半人半猫の猫又に変化した美猫は妖子の前で一回転して変化後の姿をはっきりと見せた。

「自分の変化した姿を思い浮かべて体の構造を変えていくんだけど、どういう仕組みかは

はっきりと分かって居る訳ではないんだけれどもね。」

妖子は意識を集中して半人半狐の化け狐に変化した。

「ここまでは何とか変化できました。」

「生まれてから一度もここから完全に狐に変化するのはまだやったことが無いのです。」

「さらにデミバンパイアに囚われていた時は半人半狐の姿にもなれなかったので

完全にやり方がわからないのです。」

その時

「ライカンスロープの変化教室っていうのはここかい。」

「私も混ぜてくれない。」

大和警部補と銀が様子を見に来た。

「ライカンスロープにとって獣化は変化の最終段階だが必ずしも自分にとって最強の姿

ではないんだ。」

「猫又然り狼男然り両方とも獣化しても逃げ足以外得することがない。」

「虎男、獅子男なんて物騒なライカンスロープがいれば別だがこの国には存在しないし、

もし、存在が確認されれば即座に収容所に隔離されるだけだしな。」

「何も獣化できることにこだわらなくてもいいんじゃないかしら。」

「でも、化け狐なら獣化よりももっと大きな事が出来るぞ。」

いつの間にか現れた化け狸の提灯屋の源さんであった。

「老若男女、自由に他人に変化できるようになるぞ。」

「経験を積んで年を取る必要があるがのう。」

「猫又でも同じじゃ、なぁ、おひぃさん。」

即座に銀がどこから持ち出したのかはわからない消火器で源さんを思い切り殴った。

銀の足元に人間体から変化した大きな狸が頭に瘤を作って転がっていた。

「ほほほ、なんのことかしらねぇ、源さん歳の所為か惚けが進んだのかしら。」

慌てて取り繕う銀の姿を見て、美猫は銀の底知れぬ処を垣間見たような気がした。

「慌てることはないよ、ゆっくりと自分のペースでリハビリしていくようなつもりで

変化の技術を磨いていけばいいよ。」

美猫は励ますようにいった。

妖子は美猫に恩返しに来たつもりが逆に励まされてしまい、このままでは帰れないので

何とか恩返しの機会を待つことにした。

 

妖子は自分の意志ではないとはいえ無理やり娼婦として働かされたことがトラウマに

なっており、異性相手の客商売が苦手だった。

そこで、銀の勧めで魔窟呑み屋銀猫の調理場で働くことになった。

妖子は料理が得意な方だったので簡単なおつまみから一品料理までこなせるようになった。

店の方が何か騒がしい様だったが、妖子は黙々と自分の仕事をこなしていた。

 

ふと、調理場に雅が現れた。

妖子にとって雅は数少ない苦手ではない男性であった。

「妖子ちゃん、店の方でちょっとしたトラブルがあってね、ネコがお腹を空かしている

んだけど、僕のチキンライス玉葱抜きが食べたいって我儘を言うもんだから、調理場を

借りたいんだけどいいかな。」

「雅さん、正確なレシピを教えていただければ、私が作ってみたいのですが

いいでしょうか。」

「えっ、でも仕事を増やすことになっちゃうよ。」

「この機会に美猫さんの好物を覚えておきたいのです。」

雅は妖子が美猫への恩返しの機会を考えていることを察して、正確なレシピを伝授した。

「私が作ったことは美猫さんには内緒にしてくださいね。」

妖子は雅にもっと美猫の舌に合うよう工夫をしてみたい、それまでは雅さんのレシピを

正確に再現することに専念することを雅に伝えた。

雅は妖子の美猫への秘密の恩返しに協力することを約束した。

 

「みやちゃん、お腹すいたよ~。」

美猫は座敷で美猫専用テーブルの前でご飯待ちをしていた。

春樹は妻と2人の娘の待つマイホームに向かって、既に家路についていた。

例によって紀美が一人泥酔して沈没放置され、鼾をかいて寝ていた。

今日は何時もより賑やかだったのは乱入した大和警部補でいつものように

銀に一服盛られて黒猫の姿で背広の上で鼾をかいていた。

さらに、今日も一言多い提灯屋の源さんが銀に徳利で思いっきり殴られて、

頭に大きな瘤を作って大きな狸の姿で失神していた。

多分、座敷は今日も大荒れだったと思われたが春樹と美猫はあくまでマイペースだった。

「チキンライス玉葱抜き、お待ち。」

雅はいつものように美猫の前に美猫の好物を置き、ぱくつく美猫を眺めていた。

「おいしいか。」

「いつも通りのみやちゃんのチキンライス、とってもおいしいよ。」

「そうか、ならよかった。」

雅は妖子の小さな恩返しがうまくいったことに満足して微笑んだ。

 

12、がんばれ源さん

 

提灯屋の源さんは今日もほろ酔い状態であったが、流石は人間国宝だけあって、

提灯作りに余念がなかった。

「提灯、提灯、ヒック、ケッ、人間様の提灯祭りか何か知らねえが、年寄りを

扱使いやがって、面白くねぇ、ヒック。」

流石に人間体で作業を進めていた、狸の姿だと作業が捗るわけでもないので

普通に肥満した手足の極端に短い独特の体形の愛らしい老人の姿だった。

偶に忙しいときなど三面六臂の阿修羅王の姿で作業をしていることもあった。

源さんの美意識で若い二枚目のすらっとした男性の姿になることがなかった。

「そんな恰好に変化するくらいなら、紫香楽焼の置物になった方がマシじゃ。」

ととっても偏屈でへそ曲りの頑固爺さんだった。

要するに人間体、半人半狸体、狸体全て同じ姿をモチーフにしていてそれが

源さんの正義だった。

そんな源さんにも若い頃があったが肥満した手足の極端に短い独特の体形で

あった。

 

親子ほどしか歳が違わない白猫銀こと竜造寺銀の少女時代を知っている数少ない

人物の所為かつい昔話のつもりで銀にとって都合の悪いことを喋るため、

銀は必死で話を誤魔化さなければ成らなかった。

その所為か頭蓋骨にひびでも入りそうなほど思い切り鈍器で頭を殴られるのが

日常茶飯事になっている所為か記憶がかなり怪しく1週間位記憶がないことすら

あるのである。

さらに酒に強いのが自慢で強い酒、弱い酒何でも水のように飲んでエネルギー源に

している所為か、素面でいる時がまずないのである。

酒に強いといっても酔っ払わないわけではなく朝起きるとまず酒を飲んで酔っ払う。

常に酔生状態でいるのである。

後は夢のように死んで人生を終えたいと思っているのである。

そして、誰も源さんの本名を知らない。

そんな源さんにも辛い過去があった。

銀が物心つくころには常に素面でいなかったので、銀ですら知らない過去であった。

 

源さんはまだ駆け出しの提灯職人ながら既に名人の域に達していて人間にも亜人にも

追従するものが全くいなかった。

源さんの師匠は亜人であった。

当時人間ではすでに伝統が絶えて提灯職人などいなかった。

源さんの師匠は提灯職人の伝統を守ろうと必死で亜人ならどんな亜人にも技術を伝えて

いた。

亜人でも最下層の普通のデミヒューマン達が人間達の差別に堪えながら必死で提灯職人

として働いていた、少しでも魔力を持つデミヒューマンは見向きもしなかった。

そんな中比較的強い魔力を持つライカンスロープの源さんが提灯職人に入門してきたのは

例外中の例外であった。

源さんの師匠は源さんを特別扱いはしなかった、他の内弟子と同じように修行をさせた。

他の内弟子たちはライカンスロープの源さんが普通のデミヒューマンを見下したりせず、

先輩後輩の長幼の序を守り礼儀正しいことに驚き、同門の皆が好意を持った。

源さんはデミヒューマン間の差別意識が大嫌いであった。

要するに他の魔力や力を持つデミヒューマンが弱い者虐めをするのが許せなかった。

当然、人間が亜人を差別することも許せなかった。

ならば、だれにも真似の出来ない提灯職人として腕を磨き、見返してやることにしたので

あった。

 

源さんの名声を妬む者があったが大した問題はなかった。

むしろ、同じライカンスロープからは差別意識を持たずに普通のデミヒューマンの中で、

同じように生きている源さんを裏切り者呼ばわりし仲間外れにした。

しかし、源さんは元々相手にしてなかったので全く問題にせず黙殺した。

当然、プライドを傷つけられたライカンスロープ達の嫌がらせが始まった。

しかし、ライカンスロープ達の嫌がらせが頂点に達したと思われたところで人間達が

介入してきて、ライカンスロープ達を拘束し徹底的に心身ともに痛めつけ殆どが獄死した。

人間の意志に逆らいライカンスロープ達が社会の秩序を乱したという理不尽な理由である。

獄死したライカンスロープの家族たちは人間よりも源さんを恨んだ。

源さんの師匠、兄弟弟子が皆殺しにされ、このことがさらに人間達の怒りを買い、

ライカンスロープの関係した全てが処刑粛清され、社会があくまで人間達のもので

亜人の勝手は許さないということを亜人たちに示した。

源さんはもう素面ではいられなかった。

常に酔っぱらい続けなければ、この理不尽に対する怒りは収まらなかった。

 

時が過ぎ百年ぐらいたった頃になって人間はかつて源さんにした仕打ちを忘れたように

源さんの職人技に人間国宝という名を送って称賛した。

既に源さんにとってはどうでもいいことだったが、いい酒が飲めるという理由だけでもらうことにした。

最近知り合った、銀の弟分だと言うひよっこのバンパイアハーフの四方野井雅がとても

痛快で源さんのお気に入りである。

 

13、美猫の愛の悩み

 

竜造寺美猫は戸籍上はともかく実年齢は16歳の少女であった。

四方野井雅と一つ屋根の下に住んでいるのだが全く色気が無いのである。

雅は異性として意識しているようでしてないのである。

服も寝巻も下着も普通に洗濯しているし、乾いたらちゃんとアイロンを掛けて

キチンと畳んで自分の為に新調してくれた衣装ケースの中に仕舞ってくれるのである。

服が傷めば自分に似合うような服を選んで買ってきてくれるのである。

朝、昼、晩の食事もきちんと栄養のバランスを考えたうえで好物を作ってくれるのである。

全く不満はないし、むしろ不満など言ったら罰が当たるというものである。

 

「さつき、あたしって、みやちゃんに愛されているよねぇ。」

美猫は親友のさつきに聞いてみた。

さつきは困ったような顔をして、

「美猫ちゃん、怒らないで聞いてくれるかな。」

「雅さんって、世間一般でいうところのお母さんみたいじゃない。」

「えぇっ。」

美猫は少し驚きながらも

「そうなの、だっていつもみやちゃんの愛情を一身に受けているなぁって感じているけど。」

さつきや美猫は自分たちが小さい時から孤児として収容所で暮らしてきたので、

父親はもちろん母親の愛情というものがよくわからないのであるが。

ただ、さつきの方が美猫より世間を知っている所為か雅が人間として養父母の愛情を

受けて育ってきたことがわかるのであった。

雅の愛情は自分に注がれてきた愛情を美猫に注いでいるのだということであった。

しかし、美猫が愛されていることは確かなのであるが絶対に恋愛ではないのである。

ただ、美猫にとって恋愛か親愛かなどと言うことはまだどうでもいいことだった。

さつきは美猫がまだ子供なのはよくわかったものの下手なことを言って

機嫌を損ねるのは自分にとって危険極まりないことなので上手に言った。

「雅さんは美猫のことを大事に思っているよ。」

「雅さんも恋愛というものを知らないんじゃないかな。」

「えぇっ、そうなのかなぁ。あたしなんかより人生経験豊富そうだし。」

美猫は驚いたように言った。

「じゃなかったら紀美さんがあそこまで自爆してないと思うよ。」

さつきは紀美が雅を誘惑しているのに完全にスルーされているのを見て、

正直な感想を言った。

「あたしはなぜ事務の眼鏡おばさんが鬱陶しいことするのかわからないけどムカついて

何時も喧嘩になるんだよね。」

美猫はそれが嫉妬ということには気が付いていなかった。

「でも紀美さんまだ処女で男性経験は全くないよ」

さつきはメゾバンパイアとしての能力で処女童貞を見抜く力を持っていた

これは、真祖バンパイアとメゾバンパイアにのみ与えられた能力で

処女、童貞以外の血は不味いので出来れば飲みたくないからである。

「紀美さん本やネットで得た知識をそのまま疑いもせずに使っているのが

いけないじゃないかな。」

「雅さん、本当に困っていると思うなぁ。」

「美猫ちゃんの対応は正しいと思うよ。」

さつきも紀美が鬱陶しかったので美猫に同調した。

「ところでさつき、事務のおばさんが未通女って本当。」

「血の臭いでわかるよ。」

「じゃ、逆にみやちゃんの周りの女性で非処女はぎ、ムグゥ。」

さつきは美猫の口を塞ぎ辺りを見回した。

「美猫ちゃん、下手なことを言うと撲殺されるよ。」

「高位のライカンスロープは肉体を自由に変化できるから、

そういう基準は当てはまらないよ。」

「そ、そうなんだ、危なかった。」

「何が危なかったの、私とっても興味あるなぁ」

美猫の後ろに白猫銀が不敵な笑みを浮かべて立っていた。

「ひっ。」

「きゃっ。」

さつきも美猫も襟首をつかまれた。

「銀ねぇ、ごめん許して。」

「私たち何も知らないし言っていません。」

「まぁ、今回は未遂ということで許してあげましょう。」

銀は2人を解放した。

「ところでお姉さんも雅さんのこと興味あるなぁ。」

雅の恋愛観について銀が食いついてきた。

さつきが今までの経緯を銀に簡単に説明した。

「そうねえ、美猫にもう少し色気があれば少しは2人の関係も進展するかしら。」

「失敗して自爆させるのもかわいそうだし。」

「いいんじゃないこれまでの関係で美猫も不満はないんでしょう。」

銀は大人としての意見を述べた。

「あたし、大人としてみやちゃんに愛されたい。」

美猫が無茶なことを言ったが、

「無理。」

さつきと銀が口を揃えて言った。

「いいもん、皆を吃驚させてやるぐらいみやちゃんとラブラブになるんだから。」

美猫が捨て台詞を残して去って行った。

「雅さんに迷惑が掛からなければいいんですが。」

さつきが心配そうに言った。

「あの子のやることなど高が知れているわ、大丈夫よ。」

銀が美猫の行動を予想して言った。

 

美猫は格好をつけたもののどうしたらいいか全くわからなかった。

雅は何時も変わらぬ様子で美猫に接していた。

「ネコ、お風呂から出た時の寝巻と下着の替えを籠の中に入れとくから」

「髪の毛を乾かす時手伝うから着替えたら呼んでくれ。」

美猫は何も言い出せぬまま寝る時間になった。

美猫は勇気を振り絞って雅に思い切り抱き着き、

「みやちゃん、今晩一緒に寝て。」

しかし、あまりにも緊張した所為か猫又に変化してしまった。

雅はわざわざ美猫が猫又に変化したので何か怖い夢でも見たので一緒に寝て

欲しいのかと思ったので承諾して美猫に添い寝することにした。

雅は自分のベッドで寝るのは久しぶりで寝心地がいいのですぐにうとうととして来た。

美猫は雅と同衾したものの猫又に変化していたので雅に爪を立てないように

注意して抱き着いた。雅は猫又の美猫の自慢の黒髪を手で梳くように撫でていた。

撫でている雅も心地よいが当然撫でられている美猫も心地よく2人共熟睡してしまった。

 

翌朝、美猫は熟睡した所為かすっきりと目覚めた。

雅の寝顔を見つめてとても愛おしく思えたので猫族の挨拶である唇にキスをした。

キスされて目が覚めた雅は半分寝ぼけていたが美猫がまだ猫又だったので、

特に気に留めずに

「おはよう、ネコ昨日はよく眠れた?」

「僕は久しぶりのベッドだったからおかげ様で熟睡できたよ。」

「それにネコが猫又になってくれたから、ふかふかでとても暖かくて気持ち好かったよ。」

「なんか恥ずかしいけどありがとうネコ。」

美猫はとりあえず雅が喜んでいるので作戦大成功だと大喜びであった。

 

雅はいつものように朝の支度をして自分と美猫の朝食を用意して、朝食を終えると

事務所へ出勤する準備をし、美猫と一緒に事務所に向かうのだった。

 

14、紀美沈没せず

 

今日は魔窟呑み屋銀猫で事務所の飲み会が開かれていた。

蟹料理フルコースを注文した所為か春樹と美猫はいつも以上に食べることに集中していて、

無口であった。紀美は全く後のことを考えずに今日もぐいぐいとお酒を呑んでいた。

既に、お酒の味などわからない様であった。

「紀美さん、少しお酒を飲むペースを下げてゆっくりと味わって飲んだ方がいいですよ。」

雅は紀美がたまには自分の足で家までたどり着けるぐらいでセーブして飲んでほしいの

が本音だった。

紀美は泥酔しても周りを汚したり着替えが必要になるようなことは絶対になかったが

酔って眠ってしまうと梃子でも動かなくなって帰宅させるのが一苦労であった。

基本的にお酒に弱い体質であったが、ОL生活でセクハラや先輩女子社員などからの

妬みや嫌がらせからストレスがたまってこんなお酒の飲み方をするようになった。

酔ったうえでの武勇伝には事欠かず、飲み会の翌日何らかのダメージを受けた男子社員の

姿を紀美は目撃したりもしたがこれも下心の報いと思っていた。

そのうち泥酔した紀美は大抵放置され呑み屋の店の片隅で翌朝を迎えることが多かった。

そんな紀美を避けたりせずきちんと話を聞き酔いつぶれたら家まで送り、

散らかった部屋を綺麗に片づけ、目が覚めると介抱して着替えを手伝い、

ぐっすり眠るまで面倒を見てから翌日の朝ごはんを用意してから帰宅する。

真面目で下心のない雅の誠実さにコロッと参ってしまった。

それからはひそかに思いを寄せながらも先輩社員としての威厳を保っていた。

雅も先輩社員として紀美を尊敬し仕事を見習っていた。

そんな時にあの凶悪デミバンパイア乱入事件である。

紀美はバンパイアハーフとして覚醒した雅に命を救われ、雅に対して一途に思いを

寄せているのである。

初めのうちは雅を独占しているという現実、他に女性の影が全くない雅に安心して、

新しい事務所の経理業務に専念できたのであった。

エカチェリーナ・キャラダイン少佐が登場した時も不愉快な脳味噌筋肉女と思ったが

恋のライバルとしては歯牙にもかけていなかった。

しかし、3か月目にして突然雅のアシスタントとして登場した美猫は紀美にとって

初めての脅威であった。しかも自分にない若さを武器に雅にベタベタとくっついている

のである、しかも雅も嫌がっていない様である。

紀美は大人目線で美猫を子供扱いしたが美猫も事務の眼鏡おばさんと強烈な紀美の

臓腑を抉るような言葉のカウンターパンチを繰り出してきたのである。

紀美のダメージはとてつもなく大きかったが何とか踏みとどまり、この餓鬼に目にもの

見せてくれようと思ったが、大和警部補という来客もあり、この場は戦術的撤退を

決めたのであった。

紀美は美猫にない大人の魅力で雅に積極的に迫っていたが何時も美猫が邪魔をするので

目的を達することができなかった。

さらに紀美の危機感を煽ったのが銀である。

自分よりも落ち着いて大人の女性の魅力に溢れているうえ、

雅も姉のように慕って頼りにして相談事を持ちかけたりしている。

これでは自分の存在が埋もれてしまいただの事務のおばさんになってしまうと

何とか雅と既成事実を作って、深い仲になるしか方法はないと必死で雅を誘惑しているの

だがどうもやり方が不味いらしく、雅の心を動かせないことに焦りを感じていた。

飲み会は男女の仲を深めるイベントとして有効だと女性週刊誌等で書いてあったので

実践しているつもりだがどうも事務所のみんなに迷惑をかけている様である。

ふと横に銀が座ってお酌をしていた。

紀美は思い切って銀に大人の女性の魅力について質問してみた

銀は微笑みながら、

「女性の魅力は気持ちの若さに敵うものはないですよ、紀美ちゃんは充分若いんだから

普通にしていればとても魅力的ですよ。」

「ただ、紀美ちゃんの好きになった相手が筋金入りの唐変木で木念仁だから

人一倍に焦らず落ち着いて気持ちが伝わるようにすれば大丈夫ですよ。」

銀は紀美の気持ちを見抜いているようであったが、あえて中立の立場に立っていた。

そこで突然、紀美は大粒の涙をボロボロ溢して泣き出した。

銀に優しい言葉を掛けられ抑えていたものが決壊したようである。

「紀美ちゃん、今日は酔いつぶれるまで飲まないで自分の足で帰れば、

きっと雅さん心配して家まで送ってくれるはずですよ。」

銀の優しい囁きに、紀美はすくっと立ち上がり、

「今日はここで私帰ります。」

「皆さん、お疲れ様でした。」

雅は紀美が珍しく酔いつぶれずに家に帰るなどというものだから、無事に帰れるか

どうか心配で家まで送ることにした。

紀美は千鳥足ながらも1人で歩いていたが、雅は心配だったので肩を貸して支えた。

紀美の部屋は何時も沈没した紀美をタクシーで雅が毎回連れて帰るので馴染みがあった。

今回は紀美が泥酔して寝てないだけいつもより楽だった。

紀美の部屋は雅が何度も訪れただけあって綺麗に片づけられていた。

ちなみに片づけたり掃除をしたり洗濯したり部屋を綺麗にしているのは雅で、紀美は

ちょこっと撫でるだけである。

紀美は、その間にシャワーを浴び、寝間着に着替えて、ソファーに座って雅の用意した

酔い覚ましのお茶を飲んでいた。

「ねえぇ、雅君どうしてそんなに親切なの。」

「それは性格かな、困っている人を放っておけないっていう性分なんだ。」

「僕は両親にそういう教育を受けてきてそれが正しいと思って実践しているんだ。」

紀美はますます、雅に対する思いを強くしたが下手な色仕掛けをすると軽蔑されるの

ではないかというジレンマに陥った。

その時雅の携帯電話の呼び出し音がけたたましくなった。

「みやちゃん、蟹雑炊がもうすぐ食べごろだから早く戻っておいでよ。」

紀美にも聞こえるぐらいの元気な声で美猫の帰れコールである。

「じゃ、紀美さん大丈夫そうだから、もうそろそろ、店に戻るよ。」

「おやすみ、紀美さんまた明日ね。」

雅はいそいそと店に戻っていった。

しばらくして、雅が完全に帰ったことを確認してから、クッションを投げつけ、

「この唐変木。」と歯ぎしりする紀美だった。

 

15、その後のヘブラテスラの館

 

2人の国際S級エクスタミネーターによって裏社会の中心だったデミバンパイアの

殆どすべての幹部クラスは抹殺された。生き残ったのは凶悪な犯罪者とは言え組織を

纏めて再生するだけのカリスマ的な者は皆無であった。生き残った子悪党も次々と

抹殺され、組織の箍が緩んでしまい裏社会の方から反撃するだけの力も機会も無く

なってしまった。

かつて、難攻不落の要塞とまでいわれ、恐れられたヘブラテスラの館もただの残骸が

残るのみである。

滅殺機関はここを買い上げ整備して、エクスタミネーターの訓練所として活用した。

エカチェリーナ・キャラダイン少佐の謹慎期間が解けて暫くの間、教官としてここで

エクスタミネーターの養成を手掛けることになった。

しかし、エリカは文字通り鬼教官で、訓練で根を上げないものがいない状態となり、

訓練が厳しすぎるのではないかと批判が出た。

四方野井雅ならこの訓練など余裕で熟せるはずだから、決して厳しい訓練ではないと

エリカが反論したため、試しに雅にこの訓練を受けさせることで訓練の内容を調整する

ということになった。

はっきり言って雅にとって迷惑千万な依頼だったが報酬を警視庁の4倍出す言うことで

引き受けることになった。

 

「ここを訓練所として使うというアイデアはいいと思うのですがどんな訓練か

わからない上、訓練生全員が不合格というのが大変不安ですよ。」

雅は正直嫌だった、もともと力任せの戦闘スタイルではない上、日輪の十字架のような

魔力を持つ武器が使えないわけで、あまり好きではない重火器中心の戦闘訓練になる

ことは目に見えてるわけだからである。

訓練とは言え、死刑囚のデミバンパイアを処刑するというのも正直嫌だった。

いきなり用意されたのが44口径の改造自動拳銃が4丁であった。

これらを用意されたホルスターに収め、早速訓練開始であった。

 

ヘブラテスラの館改め訓練所のドアを開けると興奮状態の死刑囚のデミバンパイアが

いきなり襲いかかってきて、体がワイヤーで遠くへ逃げられない様に部屋の中以外自由に

動けない様になって居た。

とりあえず正確な射撃で苦しめないように射殺した。

聖別された銀と水銀で出来た弾は一撃でデミバンパイアを塵に変えた。

雅は一部屋ずつ丁寧に攻略していった。

この調子で淡々と仕事をこなし最後の部屋を攻略して外に出た

外でエリカが待っていた。

「流石だな、まだ滅殺機関で攻略したものは私以外誰もいない。」

雅はこの訓練所の訓練方法の欠陥をエリカに解説した。

「悪趣味だな、いくら死刑囚とは言え訓練に使うのはどうかと思うな。」

「あの銃は普通の人間いや高位のライカンスロープでも扱いが難しい、

手負いにして死刑囚を街に放つようなことがあれば被害は甚大だ。」

「もし、訓練された人間でも必死のデミバンパイアと真剣勝負をさせるのは

荷が重い、もっと違う方法を考えた方がいいんじゃないか。」

エリカは強く反論した。

「この位の訓練がこなせなければ実戦につかえないではないか。」

「デミバンパイアは狡猾で凶悪な人間の敵だ、このことを体に覚え込ませまいと

一人前のエクスタミネーターになれない。」

雅はエリカが愛弟達をマルクス・エルメキウスに殺されたらしいことは

空港の一件で初めて知ったのだがまだ直接は聞いていなかった。

バンパイアに対する憎しみ、マルクスは自分と同じバンパイアハーフ

であることから自分に対しても本当はいい感情を持っていないのではないかと

思っていた。

だから雅は直接聞くのが実は怖かったのだ。

そんな、雅の気持ちを打ち消すようにエリカは、

「でも雅、お前は人間だ、亜人種別がバンパイアハーフでも。」

「今、私の訓練に対し人間の立場で批判した。」

「その事実だけで十分だ。」

エリカは何かすっきりしたような表情で笑みを浮かべた。

改めて、訓練内容の見直し、特に強力な武器に慣れる訓練をメニューに追加した。

エリカは雅が初めてデミバンパイアを圧倒した時の話を聞いてきた。

正直に雅は、頭に血が上ってあまりよく覚えてないといった。

「雅はデミバンパイアが怖くなかったのか。」

「怖いというより理不尽さに腹が立って自分の友人が殺されるのを何とか自分の手で

止めようと思い、それが自然に行動になったみたいです。」

エリカは雅の言葉を噛み締める様に受け止めて言った。

「私は訓練でその時の雅みたいに行動できるエクスタミネーターに仕上げたいんだ。」

エリカは重ねて言った。

「雅、理不尽さに対する怒り、友人を守るために何物をも恐れぬ勇気、それが大事だ。」

雅はエリカが少々自分を過大評価していることが照れ臭かった。

「エリカは僕を買いかぶり過ぎだと思うよ、僕にも怖いものがあるし。」

「雅でも怖いものがあるのか?」

エリカは驚いたように聞き返した。

雅はエリカの鼻先を指差して、

「たとえば、こちらの鬼教官殿とか。」

エリカは初め何のことかわからなかったが自分のことだと判ってぷくっと膨れた。

「意地悪だな、雅は。」

雅は直ぐに冗談ですとエリカに謝った。

 

 


 
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