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IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜

スクールフェスティバル・アゲイン

2014-09-05 21:08:59 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:1040   閲覧ユーザー数:1015

遂にやって来たIS学園の学園祭当日。

 

天気は青空に雲がちらほら浮かんで見えるという快晴っぷりである。

 

「ん〜、いい天気〜!」

 

生徒会役員にして更識家の使用人の家系の布仏家の布仏本音、通称のほほんさんはぐい〜っと伸びして朗らかな声を出した。

 

本音は今日の学園祭にやってくる一般客の招待状を確認する担当である。

 

「かんちゃんには頑張ってもらいたいね〜」

 

本音は簪のメイドである。そしてその前に二人は幼馴染という関係だ。

 

年に一度の学園祭。本音は簪に少しでも長く学園祭を楽しんでもらいたいので、この役割を自分から志願したのだ。当然そこには簪の大好きな瑛斗の存在も絡んでくる。

 

学園祭で一夏や瑛斗が誰と回るかなどの情報を独自の情報網で知っていた本音は、そんな簪の為に頑張ることにしたのだ。

 

「さあさあ〜、かんちゃんの為にも〜、張り切っちゃお〜!」

 

そして本音が校門に出た時。それは学園祭の幕開けを意味するのだった。

 

 

ざわざわと色々なところから声が聞こえ出した。どうやらお客さん達が入り始めたようだ。

 

「始まったな、学園祭」

 

「ああ。今年も客がいっぱい来るといいな」

 

俺と一夏は校舎の入り口で学園祭の始まりを肌で感じた。

 

「それにしても、まさか鈴がまたチャイナドレスとはな」

 

一夏の隣には鈴もいた。チャイナドレスでバッチリ決めてらっさる。

 

「『また』とは何よ『また』とは! アタシがクラスで一番チャイナを着こなせるのよ?」

 

聞いたところによると、鈴のいる二組は『グローバル喫茶』なるものをやるらしい。いろんな国をイメージした衣装を着た女子達が接客してくれる国際色豊かな模擬店だそうな。

 

「それに……」

 

「それに?」

 

「それに…この格好なら、父さんもすぐ気づいてくれると思うの」

 

「鈴…」

 

「一夏、そういうとこも踏まえて聞くわ。どう? アタシ…似合ってる?」

 

「ほら、一夏、聞かれてるぞ」

 

「あ、ああ。すごく、よく似合ってる」

 

「本当? 本当に本当?」

 

「本当だよ。その服を着てて、鈴より似合ってる人を見たことがない」

 

「そ、それって可愛いってことよねっ?」

 

「ああ。可愛いぞ、鈴」

 

「とっ、当然よ!チャイナドレスを着せてアタシの右に出る者は無いんだから!」

 

早口でまくし立ててからツインテールの片っぽをしきりに弄り出す。褒められて照れたみたいだ。

 

「おにーちゃーん」

 

「お、マドカ」

 

マドカがやって来た。ここに来る途中に一夏は今日はマドカと一緒に回るって話を聞いたな。

 

「…マドカ、あんたやけに学園祭満喫してるじゃない?」

 

「今始まったばっかりじゃねぇか?」

 

マドカは手には綿あめ、肩からはポップコーンのはいった入れ物を掛けて、学園祭モードになっていた。

 

「遅いと思ったら、マドカ、どうしたんだそれ?」

 

「ここに来るまでにいろんな人にいろんなもの貰っちゃった。この綿あめ、とっても甘くて美味しいんだよ!」

 

綿あめを食べながら幸せそうに顔をほころばすマドカ。

 

(瑛斗、鈴…)

 

(ええ。間違い無いわね…)

 

(これは…どう見ても…)

 

(((……餌付け)))

 

マドカのこの笑顔を見たいがためにきっと店の食べ物を与えていったんだろう。

 

「マドカ、これから鈴と一緒に正門の方へ行っておじさんを迎えに行くんだけど、いいか?」

 

鈴の親父さんに会いに行った次の日に、一夏は箒やセシリアや蘭に問いただされて親父さんのことを話した。

 

俺もその場にいたんだが、三人とも詳しい話を聞いてくうちに何やら申し訳なさそうな顔をしてたな。

 

「鈴のお父さんかぁ、私も挨拶しておきたいな。でも、もう来てるの?」

 

「スコールのやつが言ってた。チヨリちゃんえらく楽しみにしてるらしくて、それこそ一番乗りしたいくららなんだとさ。きっともう親父さんと一緒に来てるぞ」

 

「そうなんだ。それじゃあ早く行かなくちゃだね! 瑛斗は?」

 

「俺はこれから簪と一緒に学園祭を見て回る。その後はラウラで、またその後にはシャルとの約束があるんだ」

 

「モテモテね。劇の方は大丈夫なの?」

 

「三人で時間調整したんだってさ。大丈夫だろ」

 

「ふーん。まあいいわ。一夏、マドカ、早く行きましょ」

 

「ああ。じゃあな瑛斗」

 

「また後でねー」

 

「おう、親父さんとチヨリちゃんによろしく言っといてくれ」

 

一夏達は校門の方へ歩いて行った。

 

「瑛斗…おま、たせ……」

 

あ、簪が後ろから来た。

 

「…待った?」

 

「全然。俺も今来たところだからさ」

 

「そう…よかった……」

 

簪はそう言ったきり静かになってしまう。

 

「……………………」

 

あ、そう言えば昨日、のほほんさんが……

 

『かんちゃんはね〜去年の学園祭はず〜っと寮のお部屋に篭ってたんだって〜。だから今年は〜きりりんにかんちゃんをいっぱいい〜っぱい楽しませてあげて欲しいの〜』

 

とか言ってたな。

 

そうか、簪はどんなことをしたらいいかわからないから困ってたのか。

 

(ならば!)

 

「ひゃっ!? えっ、瑛斗…!?」

 

俺は簪の手を握った。赤かった簪の顔が耳まで赤くなる。

 

「大丈夫だぞ、簪」

 

「な、何が…?」

 

「昔のことは関係無い。今は今だ。だから…去年の分までめいっぱい遊ぼうぜ!」

 

「……! うん。瑛斗と一緒に…遊ぶ…!」

 

簪が笑顔を見せてくれた。

 

「さて、どこに行こうか」

 

「瑛斗に任せる…」

 

「わかった。どこがいいかな」

 

考えを巡らせていたら、教室から出て来た織斑先生に出くわした。

 

「おう桐野、今年も女連れか? 色男だな」

 

「お、織斑先生…変な言い方しないでくださいよ」

 

「ちょうどいい。客一号になってやれ」

 

織斑先生は今自分が出て来た部屋を示した。

 

「茶道部か…。簪、どうだ?」

 

「うん。入って…みよう」

 

というわけで早速中へ。

 

「え、瑛斗っ!? 簪!?」

 

そこには目を丸くした着物姿のラウラがいた。ラウラの所属している部活は茶道部。当然と言えば当然だ。

 

「どっ、どうしてお前達がここにいるのだ!?」

 

「織斑先生が寄ってけって」

 

「教官が!?」

 

「ほらそこに…っていねぇや」

 

振り返ったけど織斑先生はもういなかった。

 

「ラウラ…着物着てる……」

 

「わ、笑いたければ笑え!」

 

やけっぱちなことを言うラウラだが、着ている着物は花柄をあしらった白色でラウラによく似合ってて可愛らしい。

 

「笑わないさ。なぁ簪?」

 

「うん…ラウラ、とっても綺麗」

 

「きっ、綺麗なんて……うぅ」

 

「良かったわね。ボーデヴィッヒさん」

 

ラウラの後ろに茶道部の部長さんが立っていた。

 

「ぶ、部長…」

 

「折角だから、ボーデヴィッヒさんがお相手してあげたら?」

 

「わ、私が、でありますか?」

 

「俺もラウラの点てたお茶飲んでみたいな」

 

「私も…」

 

「う……わ、わかった。そこに座ってくれ」

 

靴を脱いで畳の上に正座する。

 

「桐野くんは二回目だから、更識さんには教えておくわね。うちの部活は毎年抹茶の体験会をやってるの。作法がどうとかは言わないから、力まないでリラックスしてね」

 

「はい…」

 

「ちゃ、茶菓子だ…」

 

ラウラが俺と簪におずおずと茶菓子を差し出したのは去年同様、ウサギの形をした淡いピンクの茶菓子。

 

「可愛い…」

 

「そ、その菓子は私のお気に入りだ。美味いぞ」

 

「そうなんだ…いただきます」

 

簪は茶菓子をウサギの尻部分から一口分だけ食べた。

 

「甘くて、美味しいね…」

 

「だろう?」

 

(去年来た時、ラウラはその茶菓子をなかなか食べなかったよな)

 

簪に教えてやろうかと思った。でもラウラ怒るだろうからな…。やめとこ。

 

そして茶菓子を食べ終えて、ラウラの点てた茶が俺達の前に出された。

 

「お点前、いただきます」

 

「い、いただきます」

 

一礼、そして茶碗を二回回してから、茶をいただく。口の中に広がっていた茶菓子の餡の甘さを抹茶のちょうどいい苦味が流していった。

 

「「………ほぅ」」

 

簪と同時に息を吐いた。ラウラの点てた茶、美味いな。

 

「結構なお点前で」

 

「お、お点前で…」

 

本当なら、茶碗を見たり……このくだりは去年と同じだから言わなくてもいいか。

 

「それじゃあ、ラウラ、美味しいお茶ありがとな」

 

「ごちそうさま…」

 

「う、うむ。それでだな、瑛斗、簪の次は私だぞ! わかっているな?」

 

「わかってる。時間になったらちゃんと迎えに来るよ」

 

茶室を出ると大分人が増えていた。

 

「ぜ、絶対だぞー!」

 

身を乗り出していたラウラは笑顔を崩さない部長さんに中に引き戻された。

 

「茶道部…よかったね…」

 

「ああ。次はどこに行こうか?」

 

簪に問いかけた時、

 

「ありがとうございました! お姉様方!」

 

「よかったらまた来てくださーい!」

 

女子達の黄色い声に送られて、模擬店から女が二人出て来た。

 

「げ…」

 

IS学園の新任教師、スコールとオータムだ。

 

「あら、桐野くんと更識さん」

 

スコールがこっちに目ざとく気づきやがった。無視するとちょっと面倒だから一応挨拶くらいするか。

 

「お前らも結構楽しんでん…ですね」

 

「ええ。こういうのも悪くないわね」

 

「小娘共がやるママゴトにしてはいい出来です」

 

おいオータム。穏やかな口調だけど、ちょこちょこ本性の片鱗が見えてるぞ。

 

「そう言う言い方すん…しないでくださいよ。みんな一生懸命やってんですから」

 

「それは申し訳ありません」

 

本当に申し訳なく思ってるかどうか怪しいところだ。いや、絶対思ってない。

 

「ところであなた、チヨリ様には会ったの?」

 

「まだだけど?」

 

「さっき会ったわ。凰さんのお父様と一緒だったわよ」

 

「! 親父さん来たのか! そりゃよかった!」

 

「大体の事情は知ってるわ。凰さん、嬉しそうだったわね」

 

「スコール先生! 巻紙先生!」

 

俺のクラスメイトの谷本さんが駆け寄ってきた。

 

「谷本さんこんにちは。あら? その紙の束は何かしら?」

 

「今日うちのクラスがやる劇のチラシです!」

 

谷本さんは今日俺達がやる劇の宣伝部長だ。宣伝部長って言ってもこうしてビラを配るだけなんだが。

 

(確か、谷本さんの他にも何人かこれやる係りだったな)

 

「劇? あなた達、劇をやるの?」

 

ビラを受け取ったスコールが俺と谷本さんを交互に見る。

 

「そうなんです! 桐野くんが主役ですよ!」

 

谷本さんは俺の肩に手を置いてスコール達にPR。

 

「まぁ! それはいいわね」

 

スコールが笑っていたけど、目の奥に意地悪そうな輝きがあることを俺は見逃さなかったぞ。

 

「巻紙先生はどうです? よかったら見に来てくれませんか?」

 

「私もですか? そうですね……」

 

オータムは考え込む。大方あんまり興味が無いんだろう。

 

(俺としては来てくれない方が気が楽で━━━━)

 

「一組の専用機持ちが全員参加してるんです!」

 

(た、谷本さん…!?)

 

「専用機持ちが全員? つまり、織斑マドカも出る、ということですね?」

 

「もっちろん! マドカちゃんは魔女役ですよ!」

 

食いついたオータムの質問に谷本さんは明るく答えちまった。敵は内側にいたか…!

 

「それは………見るっきゃねぇな…!」

 

あああ、オータムがすっげー悪い顔してる!

 

「え? 巻紙先生? 今━━━」

 

「谷本さん、教えてくれてありがとうございます。必ず見に行きますよ。それはもう、何が何でも」

 

「ほ、本当ですか!? ありがとうございます! やったね桐野くん! お客さんが増えるよ!」

 

「あ、ああ…」

 

あんまり嬉しくない…

 

「それじゃあ劇までまだ時間があるしもう少し楽しませてもらうわ。行きましょ、巻紙先生?」

 

「わかりました。劇、楽しみにしていますよ」

 

「それじゃあ私はチラシ配りに戻るから。ばいばーい!」

 

スコールとオータムも人混みに消えて、谷本さんは大張り切りで行ってしまった。

 

「瑛斗…大丈夫? 心労が、顔に出てる……」

 

「へ、平気平気」

 

「さっき…鈴のお父さんって……」

 

「来てくれたみたいだな。きっと今頃鈴と一緒だぜ」

 

「挨拶…しに行く?」

 

「いや、後で会ったら声をかければいいさ。親子水入らずだったら邪魔しちゃ悪い。それに今は簪に楽しんでもらいたいんだ」

 

「瑛斗……」

 

「行こうぜ。まだまだ時間はあるんだ」

 

「うん…!」

 

簪と回って行く中、楽しそうな声が聞こえてきた。美術室の方からだ。

 

「ど、どっちかしら?」

 

「右右! 右のケーブルだよ!」

 

ん? 聞き覚えのある男女の声も…

 

美術室の中に顔を覗かせてみる。そこには見知った顔がいた。

 

「弾! 虚さんも!」

 

「「えっ?」」

 

ケーブルを切断するところだったらしく、二人が顔を上げるのと虚さんが持ったペンチが青いケーブルを切るのが同時だった。

 

 

キンコンキンコーン!

 

 

「おめでとうございまーす! 爆弾処理成功! 景品のストラップでーす!」

 

美術部員の女子の高らかな声の後、虚さんと弾に美術部マスコットのペイント・ペイヤ君ストラップが授与された。

 

「久し振りだな、弾」

 

「おー瑛斗か。そっちのメガネの子は?」

 

「私がお使えしてる人の妹様よ」

 

俺の代わりに虚さんが答えた。

 

「お、するってーと、生徒会長さんの?」

 

「こ、こんにちは……」

 

簪もぺこりと頭を下げた。

 

「弾達も来てたんだな」

 

「おうよ! 一夏からチケット貰ってな!」

 

「私は本音から貰いました」

 

「つーことで、こうして学園祭デートってわけだ!」

 

弾はそう言って虚さんの肩に手を回した。

 

「も、もう…弾ったら…!」

 

虚さんは頬を染めて照れる。

 

「いいな…」

 

「簪? 何か言った?」

 

「な、何でも、ない…」

 

「そか。にしても、ペイヤ君の人気は……あれ? ペイヤ君、何か変わった?」

 

去年の学園祭の時のペイヤ君と微妙な感じは変わらないが、ポーズが違う。それに何だが金色になっててゴージャスな感じだ。

 

「気づいたね」

 

美術部の部長さんが含みのある感じで笑みを浮かべていた。

 

「去年から登場して一躍人気者になったペイヤ君…この度グレードアップを果たしました!」

 

「ぐ、グレードアップ!?」

 

「その名も! 『ペイント・ペイヤ君オメガ』!」

 

「ペイント・ペイヤ君…オメガ…!?」

 

「強そう…」

 

「この時限爆弾の爆破装置を解除出来たらもれなくプレゼント!」

 

「瑛斗…これ、欲しい」

 

簪がくいくいと袖を引っ張った。

 

「わかった。じゃあやるか」

 

「それじゃ俺達は行くぜ。またな瑛斗」

 

「会長にあったらよろしくお伝えください」

 

弾と虚さんと入れ替わるように爆弾処理ゲームに参加する。

 

「簪、やる前に一つ確認なんだけどさ」

 

「うん、何…?」

 

「ペイヤ君ってさ、可愛いか?」

 

「え? 可愛い、よ? 瑛斗は、そう思わないの?」

 

「い、いや、そんなことない。確認だ。確認」

 

(やっぱりか…)

 

簪もご多聞に違わずペイヤ君を可愛いと認識していた。俺がおかしいのか?

 

「はい、この時限爆弾を解除してね! タイムアタックもやってて、解除にかかったタイムは記録されるよ。最高タイム更新目指して頑張って!」

 

目の前に箱型の時限爆弾が置かれる。

 

「よっしゃ、やってやるぜ!」

 

ペンチを持って爆弾処理に挑む。

 

「よーい、スタート!」

 

よし、まずはケーブルの配線パターンから考えて、重要なケーブルを探すぞ。

 

 

キンコンキンコーン!

 

 

「そうそうキンコンキンコーンって……え!?」

 

簪が何事も無かったかのようにペンチを置いた。早い早すぎるよ簪さん!

 

「さ、最高タイム更新ー!」

 

どよどよと周りにいた人達もどよめく程の速さだった。

 

「す、すごいな簪…」

 

「こういうの、得意」

 

得意げに笑った簪に負けじと俺も爆弾処理を急ぐ。

 

 

ブブー!

 

 

「あ、ミスった」

 

てなわけで、ペイヤ君ストラップを貰えたのは簪だけだった。

 

「あーくそ、貰えないと貰えないでちょっと悔しいな」

 

ラウラとの約束の時間が近づいてきた頃、道行く女子達の中にちらほらとペイヤ君ストラップを持ってるのを見かけながらそんなことをつぶやく。

 

「すごかったな、簪。あのタイムはなかなか越えられないぜ?」

 

「越えられる人は、そうそういないと自負してる…」

 

「さて…そろそろ時間なわけだけど、簪のクラスって何やってるんだ? そろそろ教えてくれよ」

 

「えっと…占い、やってる」

 

「占い?」

 

「いろんな種類の占いをやってて、それで、私はその……裏方。占いは、しない」

 

簪は恥ずかしがり屋だからな。裏方にも納得だ。

 

「占いかぁ。女子はそういうの好きだもんな。後で行っていいか?」

 

「う、うんっ!」

 

やけに積極的な返事が来た。裏方じゃないのか?

 

「それじゃあ裏方頑張ってな」

 

「うん。私も、劇、見に行くね」

 

小さく手を振って、簪はパタパタと小走りで走っていった。

 

 

「お、遅いではないか!」

 

待ち合わせをしていた茶道部の前で、着物姿のラウラがプンスカ怒っていた。

 

「わ、悪い。一応約束の時間に間に合うように早めに来て見たんだが…」

 

「あっ、す…すまん…だが…」

 

「?」

 

「どっ、どれだけ私をドキドキさせたと思っているのだ…」

 

ラウラの朱の差した顔。そして着物…。

 

「うん、やっぱり可愛いな」

 

「かっ、かわっ…!? うぅ…!」

 

ポカポカと俺の胸を叩くラウラ。着物を着ているからか、ちょっとしおらしい。

 

「よっと」

 

すぐに手を止めることか出来た。

 

「なっ、なな…!」

 

「着物、着崩れたら大変だろ?」

 

「うぅ……」

 

頭から湯気を出しながら俯くラウラ。

 

「お、瑛斗ではないか」

 

「ん? あ! チヨリちゃん! それに親父さん!」

 

元亡国機業技術開発長で自称64歳の少女、チヨリちゃんが揚々と現れた。イギリスで会った時と同じ服を着ている。どうやらお気に入りのようだ。

 

その隣には鈴の親父さんの翔龍さんもいる。

 

「スコールから聞いたぞ。よく来てくれたな」

 

「うむうむ。眠たい顔をした娘に不思議な顔をされたわい」

 

のほほんさんのことだな。

 

「親父さんも来てくれて嬉しいですよ。鈴にはもう会いましたか?」

 

「ああ。ここに来て早々に迎えられたよ」

 

「今さっきまで鈴のいた店におったんじゃ。それで他のところも見てこようと思ったんじゃが、翔龍も付いて来ての…」

 

「チヨリ様一人では迷子扱いされてしまいますからね」

 

「こう言うのじゃよ」

 

「親父さん、いいんですか?」

 

「鈴とは後でまた会うことも約束してるんだ。それに、鈴も一夏くんと学園祭を遊びたいだろう」

 

親父さんの説明の後、チヨリちゃんがラウラを見た。

 

「誰かと思えばいつぞやのワシを脅かしてみせたドイツ軍人ではないか?」

 

「う…」

 

「親父さん、紹介するよ。ドイツの代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒです」

 

「ど、どうも。初めまして…」

 

「やあ、こちらこそ初めまして」

 

「着物か。なかなかよく似合っておるではないか」

 

「チヨリちゃんもそう思うだろ? 俺も可愛いと思ってんだ」

 

「え、瑛斗! 余計なことを━━━━」

 

「ほほう?」

 

チヨリちゃんがラウラをじっと見つめた。

 

「な、なんだ?」

 

「ほう。ほうほう。そういうことか」

 

そしてしたり顔で何度も頷く。

 

「な、何がだ?」

 

「いやいや、気にするな。では瑛斗、ワシは行く。まだまだ遊び足りんわ」

 

「そっか。親父さんとはぐれるなよ?」

 

「ワシを何歳じゃと思っとる。劇、楽しみにしておるぞ。行くぞ翔龍。護衛役を買って出たからには、きっちりやってもらうからの」

 

手に持つビラをひらめかせ、二カッと笑ってチヨリちゃんは俺達から離れた。

 

「護衛と言うより保護者ですけどね」

 

親父さんも苦笑しつつ付いて行った。

 

「どうしたんだ? チヨリちゃん…」

 

「…な、なぁ、瑛斗」

 

「ん?」

 

「その…あれだ。早く行こう。時間が惜しい」

 

「お、おう。そうだな。ラウラは行きたいところあるか?」

 

「う、うむ。料理部のところに行きたい」

 

「料理部…ってことは、シャルか。いいね、行こう行こう」

 

「ま、待ってくれ」

 

「うん?」

 

「着物はあまり早く動けん。だから、その、ゆっくり…」

 

「ゆっくり歩けばいいんだな。わかった」

 

「そ、それと倒れたりするといかん。手を握って、くれ…」

 

「ん。いいぞ」

 

ラウラの手をしっかり握ってやる。

 

「…!」

 

さっきまで恥ずかしさ100%だったラウラの顔に笑顔が咲いた。

 

「それじゃあ、行くか」

 

「う、うむ!」

 

道行く人達の視線を集めながら、俺とラウラはシャルのいる料理部の部室へと向かった。

 

「いらっしゃいま……わ、瑛斗! ラウラ!」

 

俺達の姿を確認したシャルが駆け寄ってきた。

 

「来てくれたんだ! 嬉しいなぁ僕!」

 

「ラウラが行きたいってな」

 

「そうなんだ! ラウラの着物、よく似合ってて綺麗だよぉ〜!」

 

「しゃ、シャルロットも、エプロン姿が様になってるじゃないか」

 

「本当? あっ、そうだ! 写真撮ろう、写真!」

 

シャルは携帯を取り出して俺達とのスリーショットを撮った。

 

「えへへ♫ お気に入りにしちゃお〜っと」

 

「デューノーアーちゃん? お仕事サボっちゃダメよー?」

 

にへ〜っと笑っていたシャルの肩に料理部の部長さんが手を置いた。

 

「わぁ!? ごっ、ごめんなさい!」

 

「桐野くんとボーデヴィッヒさんを案内してあげてね」

 

「は、はい! 瑛斗、ラウラ、こっちに来て」

 

シャルに連れられて、いくつか並べられたテーブル席の一つに案内される。

 

「今年の料理部はね、肉じゃがと、鯖の味噌煮の二つが試食出来るんだ。それになんとご飯も付くの!」

 

「ご飯! そりゃいいな!」

 

去年はなかったからな。ぜひ食べたい。

 

「じゃあ俺肉じゃが!」

 

「私は鯖の味噌煮をもらおう」

 

「はーい。ちょっと待っててね」

 

シャルは奥のキッチンに移動して、それぞれ保温装置に仕込まれていた肉じゃがと鯖味噌を皿に盛り付けて、ご飯の盛った茶碗と一緒にお盆に載せて運んできた。

 

「お待たせ。作りたてだからホカホカだよ!」

 

「おお、美味そう! いただきまーす!」

 

肉じゃがは俺好みの少し濃い目の味付けで、煮込みもいい具合だ。

 

「美味い!」

 

「この鯖の味噌煮もなかなかだ」

 

ラウラも鯖味噌の出来に満足している。

 

「ラウラ、鯖味噌と肉じゃが一口交換しようぜ」

 

「交換? 構わんぞ」

 

「やったぜ。じゃあ、ほら」

 

肉と一緒にじゃがいもを箸で掴んでラウラに寄せる。

 

「う、うむ」

 

ラウラもそれにぱくついて、もぐもぐと咀嚼。そんで、ごっくん。

 

「美味いな」

 

「な? 俺にもくれよ」

 

「わかった。ほら、あーん、だ」

 

「ん」

 

ラウラの箸に掴まれた鯖味噌を食べた。生姜と味噌の味が染み込んでいて、鯖自体の舌触りもとても柔らかい。

 

「うん! 美味い」

 

「いいなぁ……」

 

シャルが俺の方を見ながらつぶやく。

 

「でゅ、デュノアさん!? お鍋お鍋!」

 

肉じゃがが吹きこぼれそうになっていた。

 

「わぁ!? ご、ごごごめんなさいっ!」

 

若干てんやわんやになりつつ、俺とラウラは料理を食べ終わって部屋を出ることに。

 

「それじゃあシャル、ごちそうさま」

 

「美味かったぞ、シャルロット」

 

「どうもありがとう。それで…え、瑛斗、僕との約束忘れてない、よね?」

 

「もちろん。ちゃんと迎えに行くよ」

 

「や、約束だよ! 絶対だよっ!?」

 

「心配性だなぁ。じゃあ後でな」

 

料理部を後にして再びラウラと一緒に廊下へと繰り出す。

 

「嫁よ、次はどこに行こうか」

 

「んー…あ、美術部の時限爆弾処理に行かないか?」

 

「美術部? 確か、可愛いストラップを景品にしていたな」

 

「そう。今年もペイヤくんストラップが景品なんだ。でもちょっとグレードアップして、ペイント・ペイヤくんオメガってゆーのになってる」

 

「新バージョンか! それは手に入れたい!」

 

「そうと決まれば行こうぜ。俺簪とも行ったんだけど、ちょっとミスって取れなくて悔しいんだわ」

 

そしてラウラとともに美術部の部室へとやって来た。

 

「あ、桐野くんまた来てくれたんだ! 和服美人なボーデヴィッヒさんと一緒に!」

 

部長さんが俺達を見つけてくれた。

 

「リベンジに来ました」

 

「いいねいいねその気概!」

 

ラウラと俺に時限爆弾が渡される。

 

「さっきと同じタイプか。もうミスらないぞ!」

 

「ならば、去年のように勝負するか?」

 

「いいぜ? 負けねぇぞ?」

 

「二人とも準備はいい? よーい、スタート!」

 

俺は二度目の爆弾処理に挑んだ。

 

「へっへー、ペイヤくん取ったったぜー」

 

結果は無事クリア。俺は見事ペイヤくんストラップを手に入れることが出来た。

 

「むぅ、競争はタッチの差で負けてしまったか」

 

隣のラウラも手に乗せたペイヤくんを見ながら先程の振り返りをする。

 

「ラウラも着物だったからな。それがちょっとハンデだったかもな」

 

「いや、お前も成長したということだろう。お前を嫁にする身として嬉しく思う」

 

「そう言ってくれると嬉しいね」

 

「ふふ…さぁ、まだ時間はある。楽しもうではないか」

 

「ああ」

 

それから俺はラウラをエスコートしながら学園祭を楽しんだ。

 

 

「…はぁ」

 

楽しいはずの学園祭。

 

だが、物憂げなため息を漏らす箒。

 

劇まで時間があるので所属する剣道部の出し物の手伝いをしていた箒は、部長の計らいで休憩をとっていた。

 

しかしどこに行くというわけでもなく、校舎の窓から人の行き来を見ているだけだ。

 

(今頃、あいつはマドカと回っているのだろうか…)

 

あいつとは当然一夏のこと…なのだが、誘おうと思っても切り出すタイミングを見出せず、気がつけば一夏はマドカと回っているという話を聞いてしまう始末だった。

 

(瑛斗がラウラと一緒にいるところも見てしまった……。マドカめ…考えてみれば、ず、ズルいではないか。一夏の妹だなんて立場…!)

 

「……はっ!?」

 

(い、いかんいかん。嫉妬など女々しい考えでどうする!)

 

自分の邪念を振り払い、パンパンと両頬を両手で軽く叩く。

 

「よし、今からでも遅くはない。一夏と合流を━━━━」

 

「あ、いたいた、箒ー!」

 

「合…流……おぉ!?」

 

なんということだろう。気合を入れたところに一夏が走ってきたではないか。

 

「い、いいい一夏!? 何用だ!?」

 

「箒を探してたんだ。よかった、人も多くなってきたから見つからないと思ったぞ」

 

「わ、私を!? 探していたのか!?」

 

「一緒に学園祭見て回ろうと思ってな」

 

「い、一緒に!? 見て回る!?」

 

なんということだろう。一夏は自分のことを探していたと、しかもそれは一緒に学園祭を見て回るためだという。ああ、なんということだろう。

 

「嫌か? あっ、もしかして誰かと約束━━━━」

 

「してないぞ! 誰とも約束などしてないぞ!」

 

「よかった。じゃあ一緒に行こうぜ」

 

「あ、ああ!」

 

(や、やった! やったぞぉぉ!)

 

箒の心の中では小さな箒が五人、円を組んで万歳三唱している。

 

しかし、現実は非情であった。

 

「おーい、箒も一緒に行くってさ」

 

「え?」

 

「あはは…」

 

「箒さん…心中お察ししますわ」

 

後ろから、マドカとセシリアが来た。

 

「い、一夏? これは?」

 

「マドカと一緒に回ってたんけど、セシリアが退屈そうにしてたからな。一緒に回ることにしたんだ。せっかくだから箒もどうかなって」

 

「……………………」

 

「ほ、箒?」

 

「そ…」

 

「そ?」

 

「そんなことだろうと思っていたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

『そんなことだろうと思っていたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

校舎から聞こえた叫びに外にいた楯無は顔を上げた。見ればマドカとセシリアを連れた一夏に箒が何やら訴えかけていたところだ。

 

「あの状況を一目見ただけで大体のことを察せれるわね…」

 

学園祭が進む中で、怪しい動きをする者がいないかを探っていた楯無。しかし去年のような賊はまだ見つけてはいない。

 

楯無の目に入らない。つまりそれは存在していないということを意味する。

 

(平穏そのものね…私も男の子くん達に会いに行こうかしら……)

 

しかし、そんな楯無に近づく影があった。

 

「……久し振りねぇ。更識楯無?」

 

「!?」

 

楯無が驚いたのは背後からの気配に気づけなかったことではない。その声の主だ。

 

「あっと、振り向かないでいいわ。あなたの顔を見たら私、我慢出来なくなっちゃうから」

 

「エミーリヤ……アバルキン…!」

 

「覚えててくれたのねぇ。嬉しいわぁ」

 

「…忘れるわけがないわ。お互いロシアの国家代表を目指して争った仲だもの」

 

「争った…ねぇ? 随分と虫のいいことを言ってくれるわぁ」

 

「…用件は何?」

 

「この学園祭を楽しみに来たのよ? って言ったら信じてくれる?」

 

「あなた…自分の立場がわかってるの? ロシア政府が血眼になってあなたを探してるわよ」

 

「わかってるわよ。でも、その逃亡生活もこれで終わり」

 

ミステリアス・レイディに座標データが送られた。

 

「指定した座標に、今から一時間後に来なさい。そこであなたを殺してあげるわぁ」

 

「物騒ね。でも、私はこの学園最強の生徒会長。そう簡単にいくかしら?」

 

楯無の背後からエミーリヤのクツクツと笑う声が聞こえた。

 

「脅かそうったってダメよぉ? 私はあなたを確実に殺せる手段を持ってるんだから。何ならお仲間を連れて来てもいいのよ? ほら、この前学園を守ったヒーローくんとか」

 

「…あなたを倒すのに、他の子達の力なんていらないわ。私一人で十分よ」

 

「うふふ、たいそうな自信ねぇ? それじゃあ待ってるわ」

 

足音が遠ざかり、エミーリヤの気配は消えた。

 

(このタイミングでしかけて来るなんて……彼女は何を考えて………いや、何も考えてないわね。『私への復讐』以外は)

 

ならばなおのこと、負けるわけにはいかない。

 

「……どうしたの? 怖い顔して。可愛い顔が台無しよ?」

 

「…あなたが言うと皮肉にしか聞こえないんですよね、スコール先生」

 

楯無は半眼を作って、ため息混じりに目の前に現れたスコールに言い放った。

 

「連れないわね。今の彼女、あなたの知り合い?」

 

「あなたには関係ないわ。巻紙先生はどうしたんです?」

 

「そこのお店で生徒達からスイーツをご馳走になってるわ。それにしても……あれがエミーリヤ・アバルキンね」

 

「! 知ってたの?」

 

「私がチヨリ様から何も聞いてないと思った?」

 

「あのご老体は…!」

 

「チヨリ様の話を聞いて納得出来たわ。あの時私達を襲ったもう一人は、彼女ね」

 

スコールは得心行ったと頷いて、エミーリヤの消えた方を見やった。

 

「あなたに勝負を挑んだところを見ると、かなり自信があるみたいね。加勢しましょうか? 疑ったお詫びの気持ちも込めて」

 

「心にもないこと言わないでもらえるかしら。スコール先生」

 

「あら、結構本気で言ったのだけど?」

 

「そうだとしても、余計なことはしないで」

 

「随分な言い方だこと。いいわ。生徒会長様のお手並み拝見させてもらうわね」

 

「…………………」

 

スコールの冗談めかした言い方に言及することもなく、楯無はスコールの前から立ち去った。

 

(意地を張って…。まだまだ子どもね)

 

そんな楯無の背中に、スコールは肩を竦めるのだった。

 

 

「君、うちの企業の専属のテストパイロットにならないか?」

 

「いやいや、私のところの研究所で開発した新装備を」

 

「あー……」

 

ラウラと別れてシャルとの待ち合わせの場所へ移動しようとしていた俺は、その途中、スーツ姿の大人達に囲まれていた。

 

「桐野瑛斗くん、あなたの活躍はテレビの生中継で拝見しました。ぜひ、うちの会社の装備をあなたのISで使っていただきたく」

 

「は、はぁ…」

 

第二の白騎士事件と呼ばれたあの夏休みの一件から、俺のところへ半端じゃない勢いでいろんな企業や研究所からオファーが殺到している。それの最たる例がこれだ。

 

(確か、オータムと最初に会ったのもこれか…)

 

ふと、そんなことを考えたときに、人混みの奥でオータムとスコールの姿が見えた。

 

「…………………」

 

あ、オータムがこっちに気づいた。もしかして助けてくれるのか?

 

しかし、そんな淡い期待はすぐに打ち砕かれた。

 

「…………………」(ニヤリ)

 

(あ、あいつ…!!)

 

オータムは俺を見ながら一笑して、それだけで何もすることなくまた行ってしまった。

 

(こういうところで止めに入ってくれりゃ少しは接し方変わるのによ…!)

 

仕方ない。あいつは役に立たないから自力で切り抜けてやろう。そうしてやろう!

 

「「「せめて資料だけでも!」」」

 

「あ、あの、ホント、興味無いんで…」

 

「「「そう言わずに!」」」

 

おおぅ、三対一じゃ面倒くささも三倍だな。このままではシャルとの待ち合わせに間に合わない。

 

(こうなったら……)

 

「すいません! 急いでるんで!」

 

「「「あっ!?」」」

 

三十六計逃げるにしかず! 俺は脱兎のごとく駆け出した。

 

人混みの間を縫うようにして、企業マン達を煙に巻く。

 

(よし。何とか撒いたか)

 

「おい、桐野瑛斗」

 

む、追いついてきたのがいるか。

 

「だから興味無いって━━━」

 

言いかけて、止めた。緑のコートに大きめのサングラスをかけた女の人。さっきの企業マン達とは明らかに雰囲気が違う。

 

「…ど、どちら様?」

 

「おいおい、あんだけ熱いファイトをした相手をもう忘れちまったのか? 私だ、私」

 

女の人はサングラスをちょっとだけ下げて、俺に目を見せてきた。

 

勝気な感じのつり目で、どこか見覚えのある………

 

「えっ!? イーリスさん!?」

 

俺に声をかけたのは、数日前に俺と戦艦でエリナさんの情報を賭けて戦ったアメリカの国家代表のイーリス・コーリングさんだった。

 

「馬鹿野郎、声がデカいんだよ」

 

「わっ、ちょっ!?」

人目のつかない廊下の隅に引っ張られて、お互い声を潜めた。

 

「アタシが来てることはなるべく内密にしてくれ。これでもアタシは国家代表なんだ。バレたら騒がれる」

 

「な、なんでイーリスさんがここにいるんです…?」

 

「手短に話す。いいか、よく聞け。そんで驚くなよ」

 

「な、何ですか。そんなもったいつけて…」

 

「……今、この学園のどこかにエリナがいる」

 

「え━━━━」

 

思わず驚きの声が出そうになったけど、イーリスさんに手で口を押さえられた。相変わらず素早い動きだこと。

 

「驚くなっつったろ! いいか? もう一度だけ言うぞ。騒ぐな」

 

口を押さえられてたから何度も頷いて了解の意思を伝えると、イーリスさんはすぐに手をどけてくれた。

 

「ど、どういうことなんです? エリナさんがここにいるって…」

 

「アタシもつい3日前に知ったんだ。アタシのファング・クエイクのプライベート・チャンネルに直接通信を繋げてきた野郎がいてな。名前も言わずに、今日この日にエリナがIS学園に来るってだけを伝えて、一方的に通信を切りやがった」

 

「それで一人で? 罠とは思わなかったんですか?」

 

「思ったさ。今も思ってる。こんな人がわんさかいるイベントで、何かされたらたまったもんじゃねぇ。それでもエリナの手がかりが掴めない以上は、縋るっきゃねぇんだ」

 

イーリスさん…エリナさんのためににそこまで……。これは俺も手伝わないわけにはいかないな。

 

「俺もエリナさんを探すの手伝いますよ。なんだったら、スコールやオータム…この前俺と一緒にいたやつらにも声をかけます」

 

そう申し出たけど、イーリスさんには首を横に振られてしまった。

 

「いや、もうしばらくはアタシ一人で探してみる。エリナの目的がわからない以上、下手に数を動かして何か起きた時に対処出来なきゃマズい」

 

「…わかりました。俺に出来ることがあったら何でも言ってください」

 

「ああ。頼りにしてるぜ。一応アタシのファングのプライベート・チャンネルの番号を教えておく」

 

G-soulにイーリスさんのファング・クエイクが登録されたのを確認してから、ちょっと気になってたことを聞いてみた。

 

「ところで、イーリスさん誰の招待で来たんです?」

 

「そこんところはちっとばかしツテがあってな。とにかくアタシはエリナを探して回ってみるから━━━━」

 

「瑛斗? 何してるの?」

 

待ち合わせをしていたシャルが現れた! 不意打ち! 不意打ちだぞ!

 

「しゃ、しゃしゃしゃシャル!? どどっ、どうした!?」

 

「どうしたって…それは僕のセリフだよ。そっちの女の人、誰?」

 

「だ、誰って言われると……」

 

どう言ったものか。アメリカの国家代表のイーリスさんだ! って言うのも、またややこしくなりそうだし…

 

と、思った矢先。

 

「ヘイボーイ! 道案内サンキューネ!」

 

いきなりイーリスさんが大声を出した。しかも何故か片言。

 

「えっ?」

 

「ソコノガールトノデートヲエンジョイスルヨ!」

 

「「で、デート!?」」

 

「バイバーイ! シーユー!」

 

イーリスさんはそのまま人混みの中に消えてどこかに行ってしまった。

 

(今ので誤魔化せたかな…)

 

「しゃ…シャル、今の人な、見ての通り道を聞かれて………」

 

「デート………瑛斗と……デート…」

 

シャルは顔を赤くしてぽーっとしていた。

 

「シャル?」

 

「ね、ねぇ、瑛斗っ!」

 

「な、なんだ?」

 

「あの人から見たら、僕達カ、カップルに見えたのかな!?」

 

「え、そ、そうなんじゃないか?」

 

「そっか…やっぱりそう見えるんだぁ……! えへへ♫」

 

どうやらイーリスさんの去り際の言葉に嬉しくなったらしい。ここはこの勢いで乗り切ろう!

 

「じゃあシャル、行こうか。で、デートだ」

 

「うんっ!」

 

「やあやあそこの道行く桐野くんとデュノアさん! 占いやってかない?」

 

しばらくすると、俺達の前に簪のルームメイトのクリスティ・ヒューストンさんが現れた。

 

「クリスティさん? ってことは…あ、四組の占い!」

 

「そういうこと。ささ、入って入って」

 

クリスティさんに背中を押されながら二年四組の教室の出し物『占い万博』に入ると暗幕で意図的に暗くされた室内の至る所で占い師風のコスプレをした女子達がやって来た相手の女子達を占っていた。

 

「こりゃまた気合い入ってるな」

 

「タロット占いに心理テスト、花占いもあるよ」

 

「それじゃあ二人はあっちの占い師のところにどうぞ」

 

たった今占いを終わらせた一人の占い師のところへ通され、その占い師の机の前に並べられた二つの椅子に座った。

 

「今回あなた方の運命を占う、髪留ヘアピン子です。よろしく」

 

「髪留…」

 

「ヘアピン子?」

 

何やら胡散臭い名前に凝った衣装で、正体がさっぱりわからない。確かなのは四組だということだけだ。

 

「では、どんなことを占いましょう?」

 

「えっと、じゃあ、僕のれっ、恋愛運をお願いします!」

 

「わかりました」

 

ヘアピン子さんはムニャムニャと呪文的なのを唱えながら水晶玉に両手をかざした。

 

「見えます…見えます……!」

 

すると水晶玉の中央がぽうっ、と光を宿した。

 

「「おお」」

 

「……出ました。あなたの進む道に間違いはありません。あなたの進みたいままにお進みください」

 

「僕の進みたいまま…」

 

何やらシャルは考え込んでいる。

 

「そこのあなたは、何を占いましょう?」

 

「お、俺?」

 

ヘアピン子さんが俺にまで話を振ってきた。

 

「そ、そうですね…じゃあ、健康運、とか」

 

「出ました」

 

「速っ!?」

 

ちゃんと占ってくれたのか不安になる速さだった。

 

「これからもあなたは大きな病気などにはかからず健康そのものでしょう」

 

お、どうやら健康らしい。よかったよかった。

 

「しかしそれはあなたの周囲の環境が強く影響しています」

 

「周囲の環境?」

 

「あなたの身の回りにいる、メガネをかけたあなたと同い年の女の子を大切にしてあげてください」

 

「メガネをかけた?」

 

「その女の子を大切にしていれば、あなたはこれからもずっと健康。無病息災です」

 

「な、なるほど…メガネの子か」

 

「瑛斗、そう言えば簪ちゃんいないね? 四組だからいると思ったんだけど…」

 

「あー、簪は裏方って言ってた。多分準備とかしてたんだろ」

 

「そうなんだ。僕、てっきり簪ちゃんが占いやってるかと思っちゃった」

 

「いやぁ、恥ずかしがり屋だからな簪は」

 

「……では、これにて占いは終了です」

 

ヘアピン子さんはおもむろに立ち上がって裏へ行ってしまった。

 

「どうやら終わったみたいだな」

 

「うん。行こっか」

 

シャルとともに再び廊下を進む。

 

「変わった占い師さんだったね」

 

「まぁ、占い師はちょっと怪しいくらいがちょうどいいんじゃないか? それじゃあ次はどこ行くか」

 

「うーん…そうだねぇ……」

 

「そう言やシャルは知ってるか? 美術部のペイント・ペイヤくんがグレードアップしたんだぜ?」

 

「グレードアップ?」

 

「簪やラウラとも取りに行ったんだ。こんな感じ」

 

俺はポケットに入れてたペイヤくんのストラップをシャルに見せた。

 

「わぁ〜金ぴかだね! 僕も欲しいかも!」

 

「じゃあ取りに行くか」

 

そんなわけで三度美術部へとやって来た。

 

「お、今度はデュノアちゃんと一緒だね?」

 

部長さんに発見されて、美術部の部室に入る。

 

「ん? あれ?」

 

「どうしたの瑛斗?」

 

「最高記録が更新されてる。確か簪がダントツトップだったのに」

 

「あー、あれね。桐野くんがボーデヴィッヒさんと来たしばらく後に12歳くらいの女の子がチャレンジして、ものすごい手捌きで一瞬でクリアしたのよ」

 

「12歳くらいの…?」

 

「変わった喋り方だったわね。語尾が『じゃ』で…」

 

「瑛斗…それってもしかして…」

 

「チヨリちゃんだろうな…」

 

そりゃ速いわけだ。

 

(チヨリちゃんも、ペイヤくんのこと可愛いって思ってんだろか? 思ってんだろうな…)

 

「さあさあ、それじゃあ新記録目指して頑張ってみちゃってよ!」

 

そしてシャルと一緒に本日三回目の爆弾処理に臨んだ。

 

「やったやった♫ ペイヤくんのストラップ貰っちゃった」

 

ストラップを手に上機嫌のシャルの足取りは軽い。

 

結果は無事クリア。俺も二体目のペイヤくんストラップを手に入れていた。

 

(これで渡せるな……)

 

「瑛斗、次はどこに行こうか!」

 

「そうだなぁ………お?」

 

思案してたところに、目に留まったのはメイド服の女子二人。

 

「いらっしゃいませー!」

 

元気のいい客寄せをしていたのは蘭だった。その隣には戸宮ちゃんの姿も。

 

「よう蘭、戸宮ちゃん」

 

「あ、瑛斗さんとシャルロットさん!」

 

「…どうも」

 

「蘭ちゃんのクラスはメイド喫茶なのかな?」

 

「はい!」

 

「…なかなかに盛況です」

 

「みたいだな」

 

「瑛斗、せっかくだから入ってみようよ」

 

「そうだな。二人入れるか?」

 

「もちろんです! どうぞ」

 

室内に入るとメイド服の後輩女子達がいて、なんだか去年の学園祭を思い出した。

 

「わっ! 桐野先輩だ!」

 

「デュノア先輩もいるよ!」

 

「織斑先輩に続いて桐野先輩も来てくれるなんてラッキー!」

 

フューリーちゃんの言葉に一夏の名を聞いた。

 

「一夏も来てたのか?」

 

「…はい。少し前に。結構な大所帯で」

 

「大所帯?」

 

「鈴さんに箒さんにセシリアさん、マドカさんの四人を連れて来まして…」

 

「おー、一夏も楽しんでんだな」

 

「た、楽しんでは、いましたね。あは、あはは…」

 

蘭はなぜか苦笑。

 

「…蘭もよかったね。彼に、あーんしてもらって」

 

「こっ、梢ちゃん!?」

 

「蘭ちゃんもしてもらったの!?」

 

シャルのやつ、えらい食いつくな?

 

「…ケーキを、一口あーんしてもらって━━━━」

 

「わー! わー!」

 

蘭がさらに言おうとした戸宮ちゃんの口を手で押さえた。

 

「お、お二人はご注文何にします!?」

 

そのまま注文を聞いてきた。

 

「うーん、何にしようか」

 

結構メニューも豊富だから迷うな。

 

「け、ケーキ!」

 

シャルが意を決したように真剣な表情で口を開いた。

 

「瑛斗、僕もケーキ食べたいな」

 

「そ、そうか。じゃあこのケーキセット二つくれ」

 

「ショートケーキとチョコレートケーキの2種類ありますけど、どうしますか?」

 

「シャル、どうする?」

 

「ぼ、僕はショートケーキ!」

 

「んじゃ俺はチョコレートケーキで」

 

「ケーキセット二つですね。か、かしこまりました! 梢ちゃん用意しなくちゃ!」

 

「…お席にどうぞ」

 

戸宮ちゃんに通されたテーブルにシャルと向かい合って座る。ややああってケーキセットが運ばれてきた。

 

「…お待たせました。紅茶を淹れます」

 

戸宮ちゃんがティーカップに紅茶を注ぐ。

 

「梢ちゃん、お茶を淹れるの上手だね」

 

「様になってるな」

 

「…練習しましたので。では、ごゆっくり」

 

お辞儀して戸宮ちゃんは後ろへと控えた。

 

「いいチョコレートケーキだな。もしかして手作りか?」

 

「…はい。蘭がみんなに教えて、みんなで作りました」

 

「シャルの食ってるショートケーキも美味そうだしなぁ」

 

「…そっちも、みんなで作りました」

 

「ほー、美味そうだな」

 

「え…瑛斗も食べてみたい?」

 

「いいのか?」

 

「う……うん。でも、その代わりに僕も、ラウラがしてもらったみたいに…食べてみたいなー……なんて………」

 

「ん、いいぞ。ほら」

 

「ふぇっ!?」

 

「なに驚いてんだよ?」

 

「ううん! 全然驚いてないよ! いっ、いただくねっ!」

 

シャルはパクッとチョコレートケーキを食べた。

 

「どうだ? 美味いだろ?」

 

「う、うん……美味しい、よ」

 

シャルもチョコレートケーキを気に入ってくれたようだ。

 

「じゃ、俺も一口━━━━」

 

「ま、待って!」

 

「え?」

 

「ぼ、僕が食べさせてあげる!」

 

「ええっ!?」

 

驚いたのは蘭だった。

 

「なーんで蘭が驚いてんだ?」

 

「ほら瑛斗、あ、あーん…」

 

「おう」

 

シャルにショートケーキを一口食べさせてもらった。

 

「うん、こっちも美味い!」

 

程良い甘さで、紅茶に合う味だな。

 

「…蘭、蘭も、あんな感じだったね」

 

「梢ちゃん!?」

 

「…顔の赤くなり方も、同じ」

 

「か、からかわないでよ!」

 

蘭と戸宮ちゃん、相変わらず仲が良さそうだ。

 

そして、そんなティータイムも終わっていよいよ時間がやって来た。

 

「うん、美味かったな」

 

「そうだね。瑛斗、そろそろ劇の準備に行かないといけない時間だよ」

 

「おっとぉ、そんな時間か」

 

劇の開演まではまだ時間はあるけど、直前の準備のために早く集合することになっていた。

 

「蘭ちゃん、梢ちゃん、ケーキごちそうさま。美味しかったよ」

 

「本当ですか!?」

 

「うん、今度一緒にお菓子作ろうよ」

 

「はい! あ! 劇、見に行きますからね!」

 

「…期待してます」

 

「おう! 頑張っからな!」

 

会計を終えて、俺とシャルは劇の公演会場の第三アリーナへと向かった。

 

 

「うわ〜…人いっぱい来てるな」

 

第三アリーナに設けられた観客席の満員御礼っぷりに舞台袖から覗いた一夏は舌を巻く。

 

「谷本さん達が宣伝しまくってたからな」

 

劇の開演が数分後に迫り、俺と一夏は衣装に着替えて、女子達を待っていた。

 

王様役をやる一夏は時代設定が中世ということで頭には王冠を載せて厚めの衣装。

 

主人公の勇者役の俺はマントを羽織りに腰には剣を差したゲームに登場する勇者のような衣装だ。

 

「去年は楯無さんの盛大なドッキリで緊張する暇無かったけど、こうしてマジな劇をやるのは緊張するぜ」

 

「楯無さんと言えば…一夏お前、楯無さんに会ったか?」

 

「楯無さん? 会ってないな。それどころか見かけてもない」

 

やっぱり一夏も見てないようだ。

 

「声くらいかけてくるかと思ったんだけどな…何かあったのか?」

 

「楯無さんのことだから、流石にこの劇は見てるだろ」

 

「だよな。チヨリちゃんやスコール達さえ見に来てるんだから…」

 

「…どうしたんだ? 何か楯無さんに用か?」

 

「いや、そうじゃないけど…」

 

「瑛斗も緊張してるんだよ。肩の力抜け抜け」

 

「……そうだな」

 

 

『今、この学園のどこかにエリナがいる』

 

 

「…………………」

 

(エリナさん、結局見つけられなかったな…)

 

イーリスさんにエリナさんのことを聞いてから、シャルと一緒に回りながらそれらしい姿を探してはみたものの、とうとう見つけることは出来なかった。

 

(イーリスさん…やっぱり罠かもしれませんよ)

 

「お兄ちゃん! 瑛斗!」

 

例の魔女衣装のマドカがメイク室から出て来た。

 

「いよいよだね…頑張ろう!」

 

意気込むマドカ。

 

「すごい人の数だな。声がこちらまで聞こえてきたぞ」

 

その後ろから各々の衣装を着たシャルや箒達が続く。

 

「それでな、一夏、どうだろう? 変ではないだろうか?」

 

女王役の箒は豪奢な刺繍を施した赤い色のドレスを着ている。胸元が少し開いているのは衣装担当達のこだわりらしい。

 

「変じゃないさ。とっても綺麗だ」

 

「そ、そうか。綺麗か。そうかそうか…」

 

「んっんん! 一夏さん、わたくしはいかがでしょうか?」

 

咳払いをするセシリアは、魔女へ弟子入りする少女役ということでちょっと地味な感じの衣装。髪もいつものように下ろしてはなく、結ってある。

 

「セシリアもよく似合ってるよ。髪型も決まってる」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

セシリアは嬉しそうに笑みを咲かせた。

 

「瑛斗、僕とラウラはどうかな?」

 

黄色い衣装に黄色い頭巾を被った勇者のお供の少年役のシャルは、白いドレスを着たラウラを背中から押すように俺の前に連れて来た。

 

「どう、だ? 瑛斗、私は…か、可愛いか?」

 

「ああ。可愛いよ。助けに行く甲斐がある」

 

「そ、そうか! 可愛い…か。うむ…!」

 

「よかったねラウラ」

 

「もちろんシャルも似合ってるぞ。一緒に頑張ろうな」

 

「うん!」

 

笑顔のシャルとラウラ。実を言うとこのやりとり、二回目だ。初めて衣装合わせをした時も似たようなやりとりをしたな。

 

「はーい、それじゃあ写真撮るわよー!」

 

「記念に残そうね!」

 

セシリアと同じく魔女の弟子役をやる演劇部の結城さんと御堂さんの呼びかけで写真を撮ることに。

 

タイマー設定したカメラの前にみんなで集まる。

 

 

カシャッ!

 

 

シャッターが切られて、結城さんが確認する。

 

「オッケー! ばっちり!」

 

開演二分前。観客席の方のざわつきもここまで聞こえてきた。

 

「さてみんな、そろそろ開演だよ。円になって」

 

御堂さんに言われるまま、みんなで円陣を組んでその中心で右手を重ねる。

 

「この劇は私達演者だけじゃなくて、二年一組全員で作ったものだよ。みんなで成功させよう! ファイトー…! オー!」

 

『オーッ!!』

 

開演のブザーが、鳴った。

 

 

瑛「インフィニット・ストラトス〜G-soul〜ラジオ!」

 

一「略して!」

 

瑛&一&「「ラジオISG!」」

 

瑛「読者のみなさん、こんばどやぁー!」

 

一「こんばどやぁ」

 

瑛「学園祭がついに始まったな」

 

一「始まったな」

 

瑛「と言うか俺ら…二回連続で司会休だな…」

 

一「シャルロットやラウラや楯無さんがやってくれてたらしいけど…」

 

瑛「じゃあ俺らも二回分を巻き返すために頑張るか! 今日の質問いってみよう!」

 

一「グラムサイト2さんからの質問! 瑛斗に質問です。もし宇宙に行かず地球でずーっと暮らしてたら、将来何になっていたと思いますか?」

 

瑛「地球での暮らしか…今まで来てそうで来てない質問だぜ」

 

一「瑛斗がコールドスリープをしないで大人になったら、ってことになるな」

 

瑛「どんなやつになってたかな。やっぱり、父親と研究の手伝いとかしてたんだろうか…」

 

一「瑛斗なら結局ISの研究員やってたと思うけど」

 

瑛「確かに! 地球だったらまた別のアイデアとか生まれたかもしれないな!」

 

一「でも、そうなると俺達会えないよな」

 

瑛「何言ってんだ。会えるに決まってるだろ」

 

一「え?」

 

瑛「俺がIS学園に何のアプローチもしないわけない。もしかしたら白式の開発に携わっちゃったりしたかもだぜ?」

 

一「なるほど…」

 

瑛「な? だからきっと会えるさ」

 

一「瑛斗…」

 

瑛「なんつって、実際は俺もお前らと一緒に16歳として生きてるけどな」

 

一「はは、そうだな」

 

瑛「うし! じゃあ次の質問。もう一つグラムサイト2さんからの質問! ラウラとシャルロットに質問です。もしお互いの体が休日に一日入れ替わったら何をしますか?」

 

一「シャルロットとラウラへの質問だな」

 

瑛「それじゃあ今日のゲストはこの二人!」

 

シャ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。よろしく頼む」

 

ラ「しゃ、シャルロット・デュノア、です」

 

瑛&一「「…ん?」」

 

シャ「どうした瑛斗」

 

瑛「え、いや…あれ? 今なんか変じゃなかったか?」

 

シャ「変とは?」

 

一「二人の自己紹介が逆だったような…」

 

ラ「そ、それは━━━━」

 

シャ「そうなのだ。私はシャルロットと入れ替わってしまったのだ」

 

瑛&一「「入れ替わった!?」」

 

シャ「目が覚めたらシャルロットと身体が入れ替わってしまって…だから私がラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

ラ「お、おいシャルロット! いい加減にしろ!」

 

シャ「わ、ラウラが怒った」

 

ラ「まったく、最初の自己紹介だけだと言っただろう」

 

シャ「ごめんごめん、ちょっと面白くて、つい…」

 

瑛「え…ちょ、ちょっと待て」

 

シャ「何かな?」

 

ラ「なんだ?」

 

瑛「ごめん、全然状況が把握出来ないんだけど…」

 

シャ「今の入れ替わったってのは冗談だよ。びっくりした?」

 

一「めっちゃ驚いたぞ」

 

ラ「入れ替わるなどあるわけないだろう」

 

瑛「ふ、普通に考えてそうだよな…それじゃあその普通じゃなくなって、入れ替わったらどうするんだ?」

 

シャ「そうだね…休日っていうのが重要だよね。僕は入れ替わったラウラと一緒に買い物に行きたいかな」

 

ラ「買い物? なぜだ?」

 

シャ「だってラウラが普段絶対着ないような可愛くてフリフリフワフワの服が着れるもん!」

 

ラ「なっ!? そんなこと断固拒否するぞ!」

 

シャ「え〜? じゃあラウラが自分からなら着てくれるの?」

 

ラ「そういうことでもないっ!」

 

一「じゃあラウラはシャルロットと入れ替わったら、どうするんだ?」

 

ラ「瑛斗と接触する」

 

瑛「俺と?」

 

ラ「ああ。嫁には状況の説明をせねばならんからな」

 

瑛「ああ、なるほど」

 

ラ「そして普段では出来ないようなことをする」

 

シャ「普段では出来ないこと!? そ、それって!?」

 

ラ「何を必死になっている? 高いところにあるものを取ってみるだけだ。いつもお前に取ってもらっているからな」

 

シャ「な、なんだぁ。そういうことかぁ…」

 

瑛「シャルは何をすると思ったんだ?」

 

シャ「べべべ別に!? いい言う程のことじゃないよ!」

 

ラ「しかし…シャルロットの言う、私と入れ替わった時の行動は何としても阻止せねばならんな。わ、私がフリフリフワフワなど、断じてありえん!」

 

瑛「そうか? 似合うと思うぞ?」

 

ラ「え!?」

 

瑛「せっかくだから今度買い物行く時にでも着てみればいい。きっと似合うぞ」

 

ラ「よ、嫁がそう言うなら…」

 

シャ「ぼ、ぼくも一緒に行くよ! 僕も見たいもん!」

 

瑛「わかったわかった。じゃあ俺とシャルでラウラのフリフリフワフワを見よう」

 

一「あー俺清々しい程蚊帳の外。次の質問にしようぜ。カイザムさんからの質問。ラウラに質問です!! ヨーロッパではパルクールというスポーツがあるのですが、ラウラは軍の訓練としてパルクールをやったことはありますか?」

 

瑛「パルクール?」

 

ラ「市街地を使って塀や建物などを障害物に見たてて、走り、登り、跳ぶなどして移動する、強い精神力と肉体を手に入れることが出来るトレーニングだな」

 

シャ「フリーランニングと同じだね」

 

瑛「忍者みたいにぴょんぴょん飛び回るやつか。ラウラはやったことあるのか?」

 

ラ「いや…サバイバル訓練などは何度かしたことはあるが、この手の訓練はやったことがないな」

 

一「俺もテレビで見たことあるけど、あれすごいな。屋根から屋根に飛び移ったりしてて」

 

シャ「でも人がいるところでやるなら気をつけないとね」

 

ラ「やるにしても最初から飛び移ろうなどと考えてはダメだ。経験を積むべきだぞ」

 

瑛「やる機会がなさそうだけどな…」

 

一「もう一個カイザムさんからの質問だ。クラリッサに質問です!!ドイツに関する質問なのですが、黒パンと白パンどちらが好みですか? 」

 

瑛「黒パンと白パン? 何だそれ?」

 

ラ「ドイツにあるパンの種類だ。ライ麦を使って作るのが黒パン。小麦粉で作るのが白パンだぞ」

 

シャ「ライ麦パンって美味しいよね。僕も好きだな」

 

一「食堂でもメニューで出てる時あるもんな」

 

ラ「今回はスタッフの都合が合わずにクラリッサには聞けていないが、これなら私も答えられるぞ。クラリッサは黒パンが好きだ」

 

瑛「そりゃまたなんで?」

 

ラ「軍にいた頃はあいつは好んで黒パンを食べていた。黒パンは白パンに比べて栄養価が高い。軍人である以上、健康であることは重要だからな」

 

瑛「おお、流石は軍人だな。好物一つにとってもちゃんと理由があるわけだ。今度俺も食べよ。…ん? もう尺が無いな。それじゃあエンディングだ!」

 

流れ始める本家ISのエンディング

 

瑛「今日はそこの女の子に歌ってもらったぞ」

 

一「あの女の子か。何だ? 変わった格好してるぞ?」

 

瑛「なんでも凄腕のスナイパーやってるんだそうな」

 

ラ「スナイパー?」

 

瑛「でもなんだか最近気になるやつがいるらしくてな。剣を使うオカマなんだと。それで愚痴を聞いたらお礼に歌ってくれた」

 

一「剣を使うオカマ?」

 

瑛「まあ、なんか気に入らないんだとさ。そろそろ時間だな。それじゃあ!」

 

一&シャ&ラ「「「みなさん!」」」

 

瑛&一&シャ&ラ「「「「さようならー!」」」」

 

???「こんなところにいたのか」

 

???「なっ!? なんで来てんのよ!?」

 

???「もうすぐ決勝が始まるから、呼びに行こうと思って」

 

???「よ、余計なお世話よ!」

 

???「ほら、早く行こう」

 

???「あ、あんたに言われなくてもわかってるわよ! このオカマ!」

 

一「…なんか髪の長い女の子が来て、連れてっちゃったぞ?」

 

シャ「なんか…オカマって……まさか」

 

瑛「ああ、今の連れてったやつだよ。剣を使うオカマ」

 

一「アレ男なのか!?」

 

ラ「全然そんな風には見えないが…」

 

瑛「人は見かけによらないぜ」

 

 

後書き

 

急に冷えたり、暑さが戻ったりで、体調が悪くなりそうです…

 

ちょっと駆け足気味でしたが、再びの学園祭がやって来ました!

 

そして年に一度、というか学園祭イベントの限定キャラ、ペイント・ペイヤくんも帰って来ました!

 

誰も待ってない? ですよね!

 

さて、次回は瑛斗達が劇をやる裏でエミーリヤVS楯無のバトルが始まります。

 

次回もお楽しみに!

 

そして、戦いはもう一つ……


 
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