3月13日
士希「士希と!」
レーゲン「レーゲンの!」
士希・レーゲン「ホワイトデー大作戦!」
俺とレーゲンは台所にて、来たる3月14日に向けての準備を始めていた
士希「レーゲン二等兵!二等兵は2月14日に誰からチョコを貰った?」
レーゲン「ハ!リインちゃん、はやてさん、ヴィータさん、シャマルさん、シグナムさん、なのはさん、フェイトさん、アリサさん、すずかさん、リンディさん、エイミィさん、桃子さん、美由希さん、ガイア、そして近所の子ども達からです!」
士希「概ね一緒だ、レーゲン二等兵!」
さらに俺は学校の女子からも貰っていたりするがな
士希「さてレーゲン二等兵、ホワイトデーのお返しの品はクッキーが無難らしいが、
これから共にクッキーを作る覚悟はあるか?」
レーゲン「ハ!もちろんであります!」
士希「よく言った!ならこれから、頂いたチョコのお返しのため、大量のクッキーを作るぞ!」
レーゲン「おー!」
と言うことで、俺たちは共同しながら、ホワイトデーのお返しを作ることになった。
俺はチョコレートをベースにしたクッキーを、レーゲンはプレーンの物をそれぞれ作る事にした
レーゲン「そういえば、士希さんは本命のお返しとか考えているんですか?」
レーゲンがクッキーの生地をこねながら聞いてきた。本命というと、はやてからのだよな
士希「いつも通りで何の特別感もないんだが、料理を振る舞おうと思ってるよ。
結局俺には、これしか出来ないからさ」
ホワイトデーについてちょっと調べたところ、贈る品によってそれぞれ意味があるらしく、
例えばクッキーには「これからもお友達でね」という意味があるらしい。
「好きです」に該当する物もあったが、それがキャンディと、なんとなくチープな感じがしてしまって、キャンディを作る気にはなれなかった。
そこで、俺は俺らしく、はやての好物を作ろうと思い至ったのだ
レーゲン「僕はそれでいいと思いますよ。多分、はやてさんも士希さんの料理なら喜んでくれます」
士希「そうかな?」
レーゲン「はい!僕が保証します!」
そう言われると、なんだか嬉しいな
士希「ありがとうな、レーゲン。お前の分もあるから、期待して待ってろよ。
さぁ、生地が出来たら型を取って焼くぞ!」
レーゲン「はい!」
俺とレーゲンは、出来たクッキーの生地をハートや星などの型でくり抜いていき、
プレートに乗せてオーブンに入れていく。ここまできたら、もうほとんど完成だな。
あとは焦がさないようにするだけだ
士希「そう言えば、もうすぐお前と出会って一年になるのか。なんだかあっという間だな」
俺はクッキーが焼きあがりを待ちつつ、シミジミとレーゲンとの出会いを思い出していた。
雨の降る夜、子犬の姿で傷ついていたレーゲンを拾い、わけのわからない化け物に襲われ、
そして今に至った。そう言えば、化け物どもに襲われていたのは最初だけだったな。
あとは特に襲撃もなく、ここ最近は本当に穏やかな日々を送っている
レーゲン「そうですねー。あの時も、そして今も、本当にありがとうございました。
士希さんに出会わなかったら、きっと僕は今頃この世には居なかったでしょうね」
士希「はは!気にすんなって。こうして出会えたのも、きっと運命だったんだよ」
レーゲンは夜天の書と兄妹機だ。レーゲンと出会えたからこそ、はやてとも出会えて、
なのはやフェイトにも出会えた。そんな気がする
士希「それに、俺もありがとうな。レーゲンと一緒に住み始めてからは、本当に楽しくなったよ」
レーゲンと出会う前の俺は、過去に囚われて、今を楽しもうとはしていなかった。
だけどレーゲンと出会って、自分でも出来る事を見つけて、少なからず救われていた。
だから、レーゲンという存在は、俺の中ではかなり大きいのだ
レーゲン「そう言ってもらえると、本当に嬉しいです…」
レーゲンは目に少し涙を溜めて言った。そんなに嬉しかったのだろうか?
そんな事を考えていると、オーブンが焼き上がりを合図する音を出した。
俺はさっそく開けて、クッキーの焼き上がりを確認する。よし、しっかり焼けているな
士希「完成だな。さぁ、ラッピングしていくぞ!熱いから気をつけろよ」
レーゲン「はい!」
レーゲンは元気よく返事をし、クッキーのラッピング作業に取り掛かった。
そして、一袋目をラッピングし終えると、それを俺に差し出してきた
レーゲン「士希さん!今までの感謝の気持ちを込めて作りました!受け取ってください!」
レーゲンは屈託のない笑顔で、俺にクッキーの入った包みを渡してくれた。
こいつ、こんな嬉しいことしてくれやがって…
士希「あぁ!もちろんだ!いただくよレーゲン!うわぁ!マジで嬉しい!
ちょっとしばらくは勿体無くて食べれないなぁ」
レーゲン「あはは!ちゃんと食べてくださいよ!」
なんか、はやての時もこんな感じだったなぁ
レーゲン「本当に、今までありがとうございます、士希さん」
3月14日
ピピピと、朝を知らせるアラームの音が聞こえる。時刻は午前4時。
早朝訓練の時間のようだ。俺は起き上がり、アラームを止めて着替え始める
士希「ん?なんだこの犬小屋…」
着替え終え、いまだ寝ぼけ眼で部屋を見ていくと、そこには見慣れない犬小屋があった。
うちは犬なんて飼ってないし、実際この小屋の中には何も居ない。
なんで、うちにこんなものがあるんだ?
士希「んー?ザフィーラが来た時用に買ったんだっけ?」
いくら考えても思い出せなかった。なので俺は諦め、早朝訓練に出ることにした。
ザフィーラに聞けば、何かわかるだろう。
それにしてもこの家、こんな誰もいない空間だったか?
いつも早朝訓練に使っている海岸に行くと、そこにはザフィーラではなく、女性の姿があった
士希「あぁ?なんでシグナムがいるんだ?ザフィーラはどうした?」
シグナム「ザフィーラはリインフォースに付き添い、今はミッドチルダにいる。
昨日急に決まった事でな、ザフィーラからお前に謝っておいてくれと頼まれたのだ」
そうだったのか。残念だな
士希「わかった。わざわざすまんな」
シグナム「これぐらいは構わんさ」
最近、シグナムが俺に対してずいぶん柔らかくなったな。
やっと、はやてとの仲を認めてくれたってことなの…
シグナム「せっかくだ。私と訓練していかないか?なぁに、ちょっと模擬戦するだけだ。
ただ、腕の一本か二本は覚悟してもらうがな」
ですよねー
はやて「だ、大丈夫、士希?」
士希「まぁな…」
早朝訓練を終え、家に戻りソファでグッタリしていると、はやてがうちにやって来た。
はやては俺を見つけるなり、苦笑いで心配してくれた。
シグナムの野郎、ガチでやりやがって…
士希「今日休みだったか?」
はやてが日曜の朝のこんな早くから来るなんて珍しいな
はやて「せやでー。まぁ、代わりにザフィーラとリインが仕事で暫くおらんのやけどね」
あぁ、そういう感じか。ってことは、あの犬小屋の事に関しては、また後日にでも聞くか
士希「そっか。なら、せっかくだから何処かへ出かけるか?
それとも、午前中は退廃的にダラっと過ごす?」
俺が提案すると、はやてはニヤッと笑い、うつ伏せで寝転ぶ俺の背中に抱きついてきた
はやて「午後まではこーしてたいなぁ」
耳元で囁かれる。朝だと言うのに、なんとも色っぽい声音だな
士希「あはは、わかったよ。あぁそうだ。ホワイトデー用のクッキーを大量に作ったんだ。
八神家の皆の分もあるから、持ってってくれ」
俺は机の上に大量に置かれているクッキーを指していった。
一袋にチョコとプレーンがそれぞれ一枚ずつ入っている
はやて「お、アレの事やな?ありがとう!って、えらいいっぱい作ったんやなぁ」
士希「いろんな人に貰っちまったからなぁ。
あ、でもはやてには別に用意してあるぜ!ちょっと見せてやるよ!」
俺は起き上り、冷蔵庫からプレートを取り出す。そのプレートの上に乗っているのは…
士希「じゃーん!俺からはやてへ、ホワイトデーのお返しだ!」
わざわざ山形にまで行って買ってきた某高級牛肉だ。
現地に行き、俺の目で実際に確かめて買った最高品質の肉だ。
値段?そんなものは確かめなかったなぁ
はやて「す、凄い霜降りやな。3倍返しとは言ったけど、これ3倍で済むんかな」
士希「俺個人としては、はやての手作りチョコに対して、
こんなA5の肉でいいのかなって気持ちでいっぱいだけどな」
はやて「いやいや!十分過ぎるわ!」
どうやら喜んでくれたようだ。あいつの言うとおりだった…
士希「ん?あいつって誰だ?」
まただ。また、違和感を感じた。俺はいったい、何を忘れているんだ?
はやて「それにしても、ずいぶん頑張ったなぁ。
こんな大量のクッキーに凄い肉、よう用意できたなぁ」
はやては大量に並べられてあるクッキーを見て呟いていた
士希「肉に関しては昨日の夜から仕込んで、実際に調理するのは今日だから、
昨日はほとんどクッキー作りに専念していたんだよ。
合計百人前以上はあるが、作るのにはたいして苦労は…」
………ん?あれ?昨日、一人でこのクッキーを作ったんだよな?
仕込みをしたのは覚えている。チョコとプレーンの材料を用意したのも俺だ。
だが、昨日の出来事、つまりは生地づくりや焼いている工程があまり思い出せない。
それに、チョコとプレーンをそれぞれ百人前以上だと、俺でもなかなかの重労働だ。
それを一人でやったのに、あまり疲れていないのは何故なんだ?
はやて「ん?どうかした?」
俺が考え込んでいると、はやてが声をかけてくれた。俺はその声に気付き、ハッとなる
士希「いや、ホントこの量、俺一人でよく作れたなぁと思って」
一日休みだったとは言え、一種類だけならまだしも、二種類も作るとなると、
いくら俺でも疲れは残ると思うのだが…
はやて「誰かと一緒に作ったんとちゃうの?クラスの斉藤君とか山田君とか」
士希「いや、あの二人は来てないよ。つか、一緒に作ってたら覚えてるだろ」
そう、昨日は俺一人だったはずだ…
はやて「それもそうやな。相変わらず士希は凄いなぁ。私やったら、絶対誰か呼ぶわ」
はやては感心していたが、俺は何故か、妙な違和感を感じていた。
昨日、クッキーを作った事は確かだ。だけど、その時の記憶が曖昧だった
それからも、俺とはやては何事もなく時を過ごした。ただ、やはり妙な違和感があった。
まるで、俺の中で何かが欠けているような、そんな感じがしていた
3月15日
今日は登校日だ。実はこの高校、今週を終えると春休みに突入する。
高校一年生最後の一週間となるのだ
士希「チッ、誰だよホワイトデーなんて考えたやつ…」
はやて「すんごい荷物やな。てか、ちゃんと返すあんたも律儀やなぁ」
最後の一週間だってのに、俺は大量のクッキーが入った紙袋をもって登校していた。
早く貰った連中に渡して身軽になりたい…
なのは「わぁ、士希君大丈夫?」
フェイト「すっごく重そうな紙袋だね」
校門付近にて、なのはとフェイトと会う事が出来た。
こいつらにも貰っているから、さっさと渡してしまおう
士希「ほら、お前らの分もあるから、受け取れ」
なのは「あ、ありがとう!まさかお返しがくるとは…」
フェイト「何気に、男子からお返しされるのって、初めての事だね。
今まで男の子にあげたことなかったし」
そりゃ、レズカップルには縁遠い話だろうな
先生「あれー?先生の分はないの?」
なのはとフェイトに渡すと、すぐ後ろから担任の先生に声を掛けられた
士希「俺、先生から貰いましたっけ?…って、先生どうしたんですか?」
先生にしては珍しく、目の下にクマを作って、明らかに疲れた表情をしていた
はやて「うわっ、えらい顔色悪いですね。なんかあったんですか?」
先生「あははー、先生って、この時期になると忙しくってね。入試とか成績付けとか。
先生業務に春休みとかないし。それに先生、もしかしたら異動になるかもだし」
なのは「え?先生、違うところに行っちゃうんですか?」
先生「そうなのよ!本来、異動の話はもっと早く決まるんだけど、ちょっと問題があって、
その関係で先生に白羽の矢が立ちそうなの!もう、決めるならもっと早く決めて欲しいわ」
へぇ、そりゃ大変そうだな
フェイト「先生が居なくなったら、寂しくなりますね。私、先生の授業好きでしたよ」
先生「ホント!?そう言ってくれると嬉しいなぁ!
なら、この最後の一週間も、寝ないで聞いてくれると嬉しいなぁ。ね、高町さん?」
なのは「うっ…善処します…」
なのはは相変わらず、授業中堂々と寝ているからなぁ
先生「ということで、先生もクッキー欲しいなぁ」
士希「あはは、結局はそこなんですね。わかりました。では、明日持ってきます」
思えば、この先生にも一年間世話になったよな。同じくらい、昼飯の世話はしているが
先生「ありがと!じゃあまた後でね、東さん、八神さん、高町さん、フェイトさん!」
そう言って、先生は校舎へと入っていった。俺たちも早く入らないとな
なのは「そういえば、士希君の雑賀って苗字は偽名なんだよね」
校舎に入る前に、なのはがポツリと漏らしていた
士希「ん?そうだが、突然どうした?」
もう俺自身も、こいつらの前で東の名を隠すつもりはないから、打ち明けていたが。
それがどうし…
士希「!?ちょっと待て。あの先生、なんで俺の本名知ってやがる?」
あの先生、間違いなく俺を東と呼んだ。
あまりに自然過ぎて、流すところだったが、これは明らかにおかしい
なのは「あれ?教えたんじゃなかったの?」
いや、俺ははやて、なのは、フェイト、アリサ、すずか以外に教えたことはない。
そしてこの事実は、この世界に居ては絶対に知ることはありえない。なのに何故…
リイン「士希さーーん!!」
俺が内心、先生の事についてかなり動揺していると、リインちゃんが走ってやって来た。
その後ろには八神家の面々も総出で居た
はやて「ど、どうしたん?みんなしてここまで来て」
はやてが尋ねる。するとリインちゃんは息を切らせつつも、話始めた
リイン「は、はやてちゃん!士希さん!はぁ…はぁ…れ、レーゲン君は…
レーゲン君はどこですか!?」
レーゲン…?
はやて「んん?えっと、リイン、レーゲンって誰?」
ザフィーラ「主まで?これはいったい…」
ザフィーラが珍しく困惑していた。いや、この場の誰もが、この状況についていけてない
ヴィータ「ほらみろ。やっぱりあたし達は知らねぇんだって」
なのは「どうかしたの?」
シャマル「私たちもよくわからないんだけど、ザフィーラとリインちゃんが、
そのレーゲンって子を探しているの。二人は私たちも知っているって言うんだけど、
そんな子、私たちは知らないしなって話になって」
リイン「絶対!絶対知っているはずです!なんでみんな忘れちゃったですか!?
レーゲン君ですよ!?夜天の魔道書の兄妹機で、士希さんの相棒の!?」
俺の、相棒…
シグナム「夜天の魔道書の兄妹機だと?そんなものがいるのか?」
フェイト「士希は何か知らないの?」
フェイトが聞くと、全員の視線が俺へと集中した。みんなの瞳には、困惑の色が見られた。
ザフィーラとリインちゃんは、なんで忘れてしまったんだという目。
他はいったい何の話だという目だった
士希「お、俺は…」
レーゲン…ドイツ語で雨…雨………
士希「ッ!?」
俺が何かを思い出そうとすると、急に激しい頭痛と眩暈に襲われた。
そしてそのまま、俺は地面に倒れ、意識を失ってしまった
はやて「士希!?」
意識を完全に失う寸前、はやてが俺の名を叫んだ気がした…
ふと、目が覚める。俺は寝台の上に寝転がっていた。この寝台に、目の前の天井…
ここは俺の寝室か…
はやて「士希、大丈夫?」
俺が上体を起こすと、はやてが心配そうな目で俺を見ていた
士希「どれくらい眠っていた?」
はやて「二時間ちょい。ザフィーラがここまで運んでくれてん。
もう学校も始まってるし、遅刻か休むってのは、なのはちゃんとフェイトちゃんに、
お願いしといたよ。ついでに、あのクッキーもな」
そりゃ、世話掛けるな。あのクッキー捌くの大変だろうに
はやて「それより、急にどうしたん?」
士希「わかんねぇ。何かを思い出そうとしたら、急に頭痛が酷くなって」
まるで、思い出す事自体を阻まれているような感じだった
はやて「………実はな、士希が寝とる間に、ちょっとこの部屋見てたんさ。
さっきの、リインが言ってたことが気になってな。そしたらさ、これ、見つかったんさ」
はやては一冊の本とクッキーが入った袋を俺に渡してくれた。
袋の方には、『士希さんへ』と書かれている
はやて「本の方は日記で、その日記の上にこのクッキーが入った袋が置いてあった」
俺ははやての話を聞きつつ、日記の最初のページを開いた。
そこには、この一年にあった出来事が記されていた…
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物語は終盤へ…
そしてあいつはいなくなる