5.異世界の住人
目覚めると、そこには16歳くらいの大勢の女子が、いくつかの集団に分かれて楽しそうに話しているのが見えた。
「……………………………………………」
おかしいよな?普通おかしいよな?俺もおかしいと思っている。
大事なことなので、三回頭の中で言い聞かせる。
………おちつけ。今の段階で状況を分析しよう。
確か、俺は保健室にいたはずだ。それから記憶がないってことは、いつの間にか寝たのだろう。そして、誰か(おそらく楯無)がここまで俺を運んだんだ
ISは危険な兵器だというのは、昨日、楯無からもらった資料を呼んでわかった。でも、何でここに女子しかいないのかが問題で…………まて。
………確か、その代償として、女性しかのれない、という限定的な制限があった気がする。
結論:逃げよう。この女子しかいない学園から。
「……………ん?」
立ち上がろうとすると、膝の上から何かが落ちた。
手紙?何々………。
『シグ君へ
昨日、生身でもISに対抗できる危険性を理由にIS学園の入学が決定しました~!
教科書とかの必要なものは机の中に入れてるから、ぜひ活用してね☆
追伸:発信機つけました』
ビリビリビリッ
腹が立ったのでとりあえず破いた。
☆にも腹が立つが、最後の事後報告は一体何だオイ。何につけたのか書いてないから発見できないし!
「…………寝よう」
発信器をつけられてるなら、逃げても無駄だし、目を開けても女子ばっかりで辛いだけだ。
羨ましいとか思った男子諸君。今すぐ変わってやるから名乗り出てくれ。今すぐに。頼むから……!
軽く現実逃避をしながら机に伏せていると、すぐ近くから話し声が聞こえてくる。
軍の習慣のせいか、悪いと思っていても会話を聞いてしまうのだが……。
「あの人が噂の…………」
「…………を使える…………」
………さっきから、同じような内容の話が聞こえる。
しかも、人ってことは……有名人でもいるのか?
僅かな好奇心に引かれ、顔を少しだけあげる。
最初に見えたのは二人の黒髪の人。
そして、その二人に何かの違和感を抱いたのと、前にいた不安そうにしていた黒髪の人が、助けを求めるかのように横に横を向いたのが、ほぼ同時だった。
「……………一夏?」
思わず、そう呟いた。
………見間違いか?
一瞬そう思うが………間違いな訳、なかった。
「………けど、なんであいつが?」
ISは女性しか乗れない。楯無が渡してくれた参考書にも書いてあったし、昨日襲ってきた奴らも、全員女性だった。
昨日から疑問にあったが、それもISに乗るためという理由で片付けれる。
………何で、あいつがここにいるんだ?
そんなことを考えていると、教室のドアがガラガラッと音を立てて開いた。
「はーい。全員揃っていますねー。SHRを始めますよー」
先生が笑顔で生徒たちに言う。………しかし、反応は帰らない。
というより、女子の意識は先生ではなく一夏のあたりに向けられている気がする。
まぁ、当たり前か。女子しかいないこの場所に男子が居たら、注目されるのも仕方ないだろう。
…………俺?女子のような容姿であることに心底感謝していますけど何か?
さすがに、あれだけの人数に注目されたら冷や汗が止まらないしね。うん。
冷静を装いながら分析している間にも、いつの間にか始まっていた自己紹介が進んでいく。
そして一夏の番になり……………動かない。まるで人形の用だ。
そんな一夏の様子に気づいたのか、後ろの人が一夏の肩を叩き……あれ?もう一人男がいた!?
「え、えっと……織斑一夏です。よろしくお願いします」
そう短く言ったと同時に、みんなの視線から逃れるように席に座った。
自己紹介短いな、おい。
「織斑一夏の双子の弟、織斑
一夏の後ろに立っていた、一夏の弟がとても礼儀正しく挨拶をする。
おい、一夏。弟に負けるな。
(…………とはいっても、二人とも、他の人と比べたら短すぎる気が……)
スッ――――
急に、スーツを着た人が俺の視界に入った。
い……いつの間に……?
気配が全く感じない。完全に気配を殺している。よほど武道に長けていないと、こんな芸当はできない。
急に出てきた謎の人物に感嘆をもらしていると、その人は一夏の頭をスパアアンッ!と黒い何かで叩いて………………え?
叩かれた本人は痛そうに頭を押さえながらその人を見て――――――
「げぇっ関羽!?」
スパアアンッ!
再び叩かれる一夏。アホだ。
「誰が三国志の英雄だ馬鹿者」
声は女性だが、女性とは思えないほどの威圧感がこもった言葉を投げる謎の人物A。
……どうでもいいけど、一夏が叩かれる度に凄い音が鳴っているんだが。周りの人も引いてるし。
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたのですか?」
「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」
痛そうにしている一夏を見ずに、担任と挨拶をしている………え、先生?
身のこなし方といい、力といい、どう考えても軍人の方がしっかり――――
「ノートガード!(ザシュッ!)」
「……ちっ。よく止めたな」
舌打ちしたよねこの先生!?っていうか危な!あの人一夏を叩いたものでを投げてきましたよ!?
……………あ、先端が貫通してる。
「私がこのクラスを担任する織斑千冬だ」
軍じ……いや、先生がこっちに向かって歩いてきて、ノートに突き刺さったもの(出席簿)を抜き取る。
うわぁ……楯無が用意してくれたのに、穴空いた……。
「私の言うことをよく聞き、よく理解しろ。出来ないものには出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠15歳を16歳までに鍛えぬくことだ。逆らってもいいが私のいうことは聞け。いいな」
教師とは思えない口調に有無を言わせない威圧感。
ほら、周りの人達もドン引き――――――
「キャ――――――!千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉さまにあこがれてこの学校に来たんです!北九州から!」
――――――……してないようですな。
え、何?ISの操縦者って変態ばっかなの?
そして、この状況に呆れている人がもう一人。この騒ぎの原因こと織斑教師だった。
「……毎年よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それともなにか?私のクラスだけ馬鹿者を集中させているのか?」
おそらく後者だと思う。いろいろご愁傷さ(バシンッ!)………何で?え?同情はいらない?
………俺、声を出してないような気がするんだが。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!お姉さま!もっと叱って!叩いて!罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾をして~!」
この光景を見た織斑教師は呆れたようにため息を吐いた後、一夏とその弟を睨む。
「で?満足に挨拶もできないのか、お前らは」
「「いや、千冬姉(姉さん)俺は――――(バシン!ガンッ!)」」
二人が織斑教師に向けて弁解しようとした瞬間、一夏は出席簿。弟は手刀で叩かれる。
「織斑先生と呼べ」
「「………はい。織斑先生」」
二人がまるで合図をしたかと思うほど一緒に謝る。そしてそれを見て織斑教師は満足そうに頷く。
………なんだこれ。
「え……?織斑君達って、あの千冬様の弟……?」
「それじゃあ、世界で男手『IS』を使えるのもそれが関係して……」
「ああっ、いいなぁっ。変わってほしいなっ」
所々から聞こえる呟き。
まぁ、さっき姉って言っていたから家族なんだろうけど……織斑教師も、ただもんじゃない……いや、一夏を叩いた音とか、貫通したノートを見たら明らかにただもんではないよな……。
「おい。シグ・シリオンという男はいるか?」
「………俺です」
「お前か。とりあえず自己紹介しろ。時間がない」
手を上げた瞬間にクラス中の視線がこっちに向く。はっきり言おう。めちゃくちゃ怖い。
「えー……シグ・シリオンといいます。よく女と間違えられますが、俺は男なんで、絶対に間違えないようにしてください」
自己紹介としてこの発言はどうかと思うが、女扱いをされても困る。というより死ねる。
一夏が(今気づいたのか)驚いた眼でこっちをみるが気にしない。
周りの一部が「可愛い」とか「男の娘だ」とか言っているけど気にしない。というより、気にしたら負けだ。
「さぁ、SHRは終わりだ。自己紹介できなかった者は休憩時間にでもやるように。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ。私の言葉には返事をしろ」
織斑先生が教師とは思えないような言葉でそう締めくくり、同時に女子の視線があっちこっちから突き刺さる。
…………これから忙しくなるな。
そう思うと、自然とため息が漏れた。
授業の終わりのチャイムが鳴る。
楯無がISの授業関連のことをまとめてくれたノート(机の中に入っていた)を見ながらなんとか乗り切った一時間目の授業が終わった。
…………ありがとう、楯無。凄く助かった。
「シグ!なんでここに!?」
心の中で楯無に感謝をしていると、一夏が俺の所に向かって詰め寄ってきた。
「いろいろあってな。なんか、知らないうちにここに来てしまってたんだよ」
「い、いろいろ……?」
「それより、お前が『あの』織斑だったとは。まったく気づかなかった」
「い、いや……隠すつもりはなかったんだが」
「わかっているって。それより、これからよろしくな」
もちろん、「あの」と付け加えたのはわざとだ。
少し前に聞こえた会話からして、一夏はかなり有名らしい。だから、俺も知っておかないと少しおかしいだろう。楯無の時は例外だが、むやみに他人に話すべきことではないのだ。
「それで、そっちは?」
「ああ。昨日の時に言った、俺の双子の弟、織斑隼人だ」
「よろしく。シグさん。昨日は兄さんがお世話になりました」
ぺこりと模範的な綺麗な礼に加えて爽やかの一言が似合う笑み。普通に一夏よりもモテそうだ。
現に、俺たちの事をチラチラ見てた何人かが目をハートにしてるし。
「……にしても、双子って言ってもそっくりとはいかないな」
「う~ん。よく親戚とかから似てるって言われるけどな」
「でも、さすがに瓜二つまではいかないでしょ、兄さん」
基本的に二人の顔は似ているけど、一夏は大人っぽくて隼人は少し童顔って感じがある。
大人っぽいがどこか抜けてる兄と少し幼い顔立ちだがしっかりしている弟。物語とかでありそうな設定に少し笑ってしまう。
「でも本当に、兄さんが言った通り見た目だけじゃ女の人にしか見えないね」
「…………一夏?」
「し、シグ……!?首を絞め………!」
「そういえば兄さん、『なんで女の子なのに男って言ってたんだ?』とも……」
「シグ………本当に……息が………!!」
う~ん。殴ってもわからないなら、綺麗な川を見たら理解してくれるかな?むしろそうしよう。
二度目以降は許さないのが俺のルール。ということで一夏に死を……!
「……あ~、うぅん!ちょっと良いか?」
わざとらしい咳払いが聞こえた方を見ると、少し緊張気味の女子が一人立っていた。
容姿は女の子らしいが……凛とした声や雰囲気、立っているにもかかわらず綺麗だと思えるような姿勢は、織斑先生とは違った、戦士のようだ(いい意味で)。
「あ、箒さん。久しぶり」
「ああ、隼人。久ぶりだな」
「シグ君。この人は篠ノ之箒さん。剣道という武術を教えている場所の一人娘で、僕たちとは幼馴染なんだ」
幼馴染。
その言葉に一瞬だけ反応してしまったが、二人に気づかれることは無かった。
「そうか。俺の名はシグ・シリオンだ。よろしくな、篠ノ之さん」
「ああ。よろしく。
………ところで、隼人、シグ………その……一夏を借りていいか?」
「兄さん、ご指名だよ。シグ君も離してあげたら?」
「了解だ、隼人」
「こほ……こほっ……シグ、殺す気か!?」
「二度も女と間違える奴に手加減はしない」
うぅ……と、言葉を詰まらす一夏は、すぐに篠乃ノさんと一緒に廊下に消える。
「……一応聞くが、篠ノ之は一夏のこと……」
「うん。やっぱり、すぐわかっちゃうよね」
最後まで聞く前に隼人が質問に答える。
……なるほど。一夏も隅に置けないな。
「ところで、シグ君。一つ聞きたいことがあるんだけど……」
「奇遇だな。俺も隼人に聞きたいことがあるんだ」
「あはは。確かに奇遇だね」
二人でお互いの顔を見ながら笑みを浮かべる。
―――――――――お互いに、相手の事を警戒しながら。
「シグ君。君、『この世界の人間じゃない』よね?」
隼人の口から出たのは、質問ではなく、確認のような口調だった。
その正体を見破られた言葉にシグは少し動揺する。
そして同時に、確信も得た。
「―――――――『お前も』この世界の人間ではないよな?織斑隼人」
シグのその言葉に、織斑隼人と名乗る人はただニコッと笑った。
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五作品目です。
更新遅くてすみません