第37話 決着
No Side
「おぉぉぉぉぉっ!」
「はぁぁぁぁぁっ!」
キリトとアドミニストレータ、互いに声を上げながら剣をぶつけ合った。
『エリュシデータ』と『ダークリパルサー』を同時に振りおろし、
アドミニストレータは細剣で同時に受け止め即座に受け流した。
彼女は瞬時に細剣で攻撃に移るもキリトが黒剣で防ぎ、白剣で反撃する。
最高司祭もすぐさま身を捩らせて回避するが攻撃に移った黒剣が迫り、細剣で防ぐしかない。
それが契機となり、先程の時と同様にキリトの猛攻が始まる。
様々な剣撃を行っていき、やはりアドミニストレータは防戦一方となる…いや、防戦ならばどれだけ良かったことか。
キリトの攻撃は先程よりも重く、それでいて速く、強いものとなっている。
全力で、本気で、怒りながらも冷静に、元凶たる標的を殺す、それがいまのキリトの現状である。
それにより、キリトの攻撃は時折アドミニストレータの体を掠めていく……が、それによる傷痕は付かない。
怪訝に思うキリトだが、相対するアドミニストレータが僅かに余裕な笑みを浮かべていることに気付き、内心で舌打ちをした。
(剣が効いていないのならばさっきまで何故攻撃を防いでいた…? いや、なるほど……心意による攻撃を警戒していたのか)
その事実に気付いたキリトは『
剣を、刃を、己自身を研ぎ澄まし、純然たる斬撃を想像して創造する。
心意から作られた斬撃がエリュシデータとダークリパルサーに乗り、剣たちを同色の輝きが包み込んだ。
斬撃が形成されたことを悟ったキリトは攻撃をさらに苛烈なものへと変化させる。
心意の刃が乗った2本の剣はアドミニストレータに襲い掛かり、
防いでいくものの受け止めた際の斬撃はそのまま突き進み彼女の体を斬り裂く。
「あぐっ、ぐぅっ!」
防ぐことが叶わなかった攻撃は避けるもすぐに別の剣が、斬撃が襲い掛かり、体中に傷を齎してくる。
手に、腕に、肩に、胸に、脇に、脚に、足に、顔に、髪に、様々な箇所を斬撃が襲い、血が流れて髪が切れる。
だが、アドミニストレータも黙ってはいなかった。
初めて襲い来る“老い”ではない“力”から受ける“死への恐怖”、それに抗うように彼女も力を揮い始めた。
細剣に光が宿り、キリトに向けて細剣による連突を行った、その連撃たるや六連撃。
ソードスキル、《クルーシフィクション》である。
思わぬ攻撃に対し、キリトは頬に一撃を受ける以外は全てを凌いだ。
秘奥義を使用してくること自体はキリトも予想していたがまさか連撃技を、
しかも六連撃の高度な技を使用してくるとは思ってもいなかった。
幸い、明日奈がSAO時代に幾度か使用していたのを見たことがあるため、頬に一撃を貰う以外は凌げた。
アドミニストレータはキリトが血を流したことでまだ自身の力が通用することを悟り、気を取り戻すことが出来た。
だがそれは同時にキリトの警戒心と闘争心を増幅させるものとなる。
相手が連撃技を放ったことに警戒心を、傷を付けられたことに闘争心を高めさせられた。
キリトによる連続の攻撃が絶えたことでアドミニストレータは反撃に出た。
まずは四連撃ソードスキル《バーチカル・スクエア》、キリトも愛用する連撃技を発動し、彼はそれを2本の剣で防ぐ。
だがアドミニストレータとて攻撃を途切らせるつもりはなく、左手に持つ細剣を滑らかな動作で右腰に回した。
すると細剣がその形状を細身の曲刀、刀へと変化して眩い銀色に輝き、抜き打ちの一閃を放った。
「シッ!」
「くっおぉっ!」
カタナ単発技《
だが彼女は手を緩めることはしない、この男は危険だといままで感じたことがない本能が警鐘を鳴らしているのだから。
ゆえに剣を細剣、片手用直剣、刀に変化させ、
単発から連撃まで多くの技を行使していくことで防御を行うキリトの体に、
幾つかの傷を与えていく様は先程とは真逆な光景である。
「ふふっ、先程までの威勢はどうしたのかしら!」
「……なるほど、神聖術だけじゃないというのは本当らしいな」
「あら、ありがとう。でもまだ笑える余裕があるのね」
アドミニストレータによる多くの技の行使、キリトが苦笑しながら応えたため、またも手を緩めることなく連撃を行う。
だが彼を押していく中で彼女は違和感に気が付いた。
自身が斬りつければ彼も斬りつけて止め、横薙ぎを行えば横薙ぎで止められ、突きを行えば突きで止められる。
それはまるで鏡合わせに似ているようで、そして気付く……自身の攻撃は全て同じ攻撃で止められていることに…。
特にキリトは片手剣のソードスキルだけでなく、短剣や細剣、曲刀や刀、果ては槍のスキルでさえも再現する。
奥義としてではなく、あくまでも一剣技として行使してくるのだ。
対してアドミニストレータは武器の形を変えスキルとして行使する。
精度や確実性としては彼女に軍配が上がるも、
彼のそれは自身の力そのものであるために威力においても速さにおいても慣れ親しみにおいてもキリトの方が上である。
また、それは対処法も心得ているということ。
ただの鏡合わせではない、さらにキリトは両方の剣で同時に別々のスキルさえも行使し始めた。
単発にしても連撃にしても、心意の刃を纏ったキリトの黒剣と白剣はアドミニストレータに対して再び多くの傷を与える。
「なに……いままで…手を抜いていたとでも、言うの!?」
「そう感じたのなら謝罪しよう……いまからが本番とも言えるからな」
「なん、ですって…」
「ようやく体が戦いに馴染んだということだ」
苛立たしげに投げかける荒れた言葉、だがキリトが返した言葉はさらに戦慄を誘うものである。
これ以上まだ強くなれるというのか、アドミニストレータはそう思った。
そしてキリトは剣を交えながらも式句を唱え始めた。
「システム・コール! アクセス・コード・『SAO』!
コネクト・オブ・フォーム・シフト! 『ソードアート・オンライン』・『キリト』!」
詠唱を終えて発動された神聖術による変身…いや、自身を構成するプログラムの書き換えが行われた。
上下の衣類が形を変え、黒衣の剣士を構成していく。
上下共に黒のシャツとズボン、長袖のコートには一部鉄細工が施されている以外は特徴が無いともいえるが、
全身が黒一色に統一されていることが特徴と言え、さらに言うなれば着ている者がそれを引き立たせているともいえる。
彼の姿はかつて“剣の世界”における鋼鉄の城『アインクラッド』にその名を馳せた最強の剣士、“キリト”のものである。
これこそが原点、“キリト”が始まった姿である。
「なによ…そんなもの、私は知らない!」
「だがすぐに知らざるを得なくなる」
動揺するアドミニストレータに対して冷静に告げたキリト。
次の瞬間、彼は一度開けた距離を一瞬で詰め直した。
縦横無尽、変幻自在に振るわれるエリュシデータとダークリパルサーの前に最高司祭は防御に徹するしかないが、
最初の戦闘とつい先程の戦闘とは違いその威力と剣速は比べるまでもなく高くて速い。
振るわれる2本の剣、そしてキリトの動きには無駄がなく、全てが自然な動きで成されている。
時折に反撃してくる細剣も鮮やかな手並みで弾き、受け流しては彼も反撃を行い、傷を与えていく。
いまのキリトはトランス状態にある。
自身の舞台ともいえる陸での戦い、地上戦はあるものの空中戦も多いALOとは違い、本来の力を発揮できる場所なのだ。
相手の強さも理解しているために集中力が限界にまで至ることでこの状態となっている。
この状態にある影響か、キリトの《二刀流》から放たれる剣技は凄まじく精度も威力も良い。
二刀流七連撃技《ローカス・ヘクセドラ》、二刀流五連撃技《デプス・インパクト》、
二刀流五連撃技《デッド・インターセクション》を剣撃に織り交ぜて行使する。
アドミニストレータは知識としての《二刀流》は知っているものの、初めて体験する驚異の前に為す術なく攻撃を受けていく。
「うぐぅっ……こ、のぉっ!」
「細剣の八連撃技《スター・スプラッシュ》か……確かに強いが、精度も剣に乗せる思いも、アスナには劣る!」
アドミニストレータによる細剣の八連撃技《スター・スプラッシュ》に対し、
キリトは二刀流八連撃技《クリムゾン・スプラッシュ》で相殺した。
アドミニストレータがキリトに対して苛立ちを感じているように、キリトもまた彼女に対して苛立ちを感じていた。
その理由とは彼女の持つ得物がアスナと同じ細剣であること、細剣の技がアスナと被ること、
そしてなにより……時折煌く彼女の銀髪が光の反射により水色に見えることで妖精の時のアスナと同じ髪の色に見えることが、
キリトはとにかく気に入らない。
ゆえに彼は無理矢理に捻じ伏せた、こんな女が
「これでも、喰らいなさい!」
だが最高司祭である彼女もまた只々やられている気はない。
このまま死ぬつもりはないと、そう思いながら彼女は20もの『光素』を発生させ、それをキリトに向けて放った。
生成限界数を10も超える光素が襲い掛かってくるが、彼はそれを斬り抜けてみせる。
ソードスキル《スターバースト・ストリーム》……《二刀流》の上位スキルの1つであり、十六連撃たる技。
20の光素に対して彼は16の斬撃で全てを斬り伏せた。
その光景にはアドミニストレータどころか介入のタイミングを見計らっていたカーディナルでさえも驚愕する。
生素された力による攻撃を剣で叩き斬る者など居るなど思えないのが普通であり、
だがそれを為してしまうのがGGOとALOで経験を活かしたキリトなのだ。
「まだ…まだよっ!」
後方に飛び、そのまま空中に浮いたアドミニストレータは次々と生素を行っていく。
光素に限らず闇素、炎素、凍素、風素、鋼素、晶素などが生成されていき、総数にして100を超えていく。
だがキリトもそれをただ黙って見ているのではなく、高速詠唱を二度に亘り行っていた。
そしてアドミニストレータが手を挙げてからキリトに向けて振りおろし、
キリトはエリュシデータとダークリパルサーをアドミニストレータに向けた……そして…。
「死になさい!」
「エンハンス・アーマメント!」
計120を超える素体がキリトに向けて発射され、その彼はアドミニストレータに向けた両の剣の《武装完全支配術》を発動した。
エリュシデータからは巨人の拳と似た大きさの黒い塊が6つ構成され、半数の素体を破壊し尽くした。
ダークリパルサーからは無数の結晶が放出され、残る半数の素体とぶつかり相殺した。
エリュシデータはSAO時代の第50層のボスである六つ手の鬼神から得た剣であり、その鬼神の六つ手の攻撃をイメージしている。
また、ダークリパルサーは第55層の結晶の竜から得た鉱石を用いられており、彼の竜をイメージしている。
「ありえないわ!? なぜ《武装完全支配術》を同時に行使できるの!?」
「確かに俺にはお前のような管理者権限もなければ、カーディナルの疑似権限もない。
だが、俺自身にはこの世界における一定の枷が外されている…それが《武装完全支配術》などの複数同時行使だ」
キリトがベルクーリ戦においても同時に行使できた理由はこれであり、
神聖力の消耗が大きい代わりに圧倒的な力の行使に繋がる。
そしてこの最上階『神界の間』はアドミニストレータ自身が多くの神聖力を満たさせているため、
おそらく底を尽きることはないだろう。
「そう、そうなの……ふぅ、もういいわ。これ以上剣で戦う必要もないでしょう。ここからはこの場所で仕留めてあげる」
「
「なんですって…?」
「システム・コール! アクセス・コード・『ALO』!
コネクト・オブ・フォーム・シフト! 『アルヴヘイム・オンライン』・『キリト』!」
確実に勝つ、そのために細剣で戦うことをやめようとしたアドミニストレータであったが、その思惑は打ち破られた。
再び行われた書き換えに服が、コートが形を変えていく。
上下のシャツとズボン共に黒であることに変わりはないがコートは上下に別れ、上半身と下半身を覆うタイプになった。
白い線がコートの端々に幾重も奔り、小さな鉄細工もSAOの装束と同じように見える。
その背には黒い翅があり、徐々に振動を始めていく。
彼の姿はいまも“妖精の世界”において最強の名を持ち、彼の世界を一度救い、
再び現れた鋼鉄の城を攻略するべく進む最強の剣士、“キリト”のものである。
これこそが今代、もう1人の“キリト”の姿である。
「空中がお前の独壇場だと誰が言った?それはこの世界で飛べない者たちが抱いた幻想で、俺はこうしてお前の舞台に立てる」
「っ、だからといって…!」
翅を羽ばたかせて宙に浮いたキリトに向け、アドミニストレータは神聖術で迎撃を行った。
素体を生成してそれらを放ち、大きな火球や光球を投げつけ、巨大な針や氷柱を無数に放出した。
妖精の、
「(空中ではエリュシデータとダークリパルサーよりもコイツらの方がいいかもな…)
システム・コール! オブジェクト・ソード、『アシュラ』!
システム・コール! オブジェクト・ソード、『ハテン』!」
「刀を、呼びだした!?」
キリトの式句によりエリュシデータとダークリパルサーはその姿を消し、
今度は紅き刀のアシュラと蒼き刀のハテンがその両手に納まった。
素体を投げつけるもキリトはそれを刀で斬り伏せ、大きな火球や光球に氷球さえも斬り裂き、
巨大な針や氷柱に至っては二つに斬り割いてしまうほどである。
「これならぁっ!」
「いかんっ!」
すると今度は一際巨大な鉄球が生成され、キリトへ向けて放たれた。
介入の機会を窺っていたカーディナルもこれには動揺するが、鉄球の標的である彼はその表情を引き締めて体勢を整える。
アシュラとハテンを左右の腰の鞘に収め、巨大な鉄球が5mと近づいた瞬間、抜刀!
左腰の鞘に収めたアシュラで右に薙ぎ払い、右腰の鞘に収めたハテンで上へと斬り上げる。
ほんの僅かなタイムラグで交差した二振りの刀は十字斬りを行った。
心意の刃を乗せた刀から放たれた斬撃は刀の軌跡と同じく前に進み、鉄球を十字に斬り割いた。
左右上下に別れた鉄球は衝撃で失速しながら左右に割れたため、キリトを避けるように落下した。
「二刀流ソードスキル《ミーティアー・クロス》改」
「な、なんと…!」
キリトが行使したのはALOにて彼が二刀流を用いて開発した《二刀流》の新スキル。
左右の腰に据えた2本の剣で十字斬りを行う単発の重攻撃技だ。
さらにこの世界でのみ使える心意システムを利用して斬撃を剣に乗せ、十字の斬撃を飛ばしたのである。
さすがのカーディナルも驚きだ……なお、“改”なのは斬撃を乗せているからである。
「ふざ、けるな……ふざけるなぁぁぁっ!」
激昂するアドミニストレータはさらに巨大な火球と氷球を作り出していく。
巨大な火球と氷球を剣技で打ち破るにはリスクがあると判断したキリトは再び高速詠唱を始める。
そして、火球と氷球は完成した。大きさにしてこの広間の床から天井までの空間の半分ほどだろう。
一方で高速詠唱も終了し、キリトは両手の刀たちを肩から背中に沿うように構える。
両者は同時に攻撃を放った。
「燃え散りなさい! 押し潰されなさい!」
「普通はどっちか一択だろ? 相反しているじゃないか……エンハンス・アーマメント!」
凄まじい業炎を纏う火球と凍てつく氷塊である氷球、2つの巨大な塊がキリトに向かう。
だがキリトが背中から振るった刀たちから放たれた一撃はそれを容易に打ち破った。
アシュラからは高熱を有した鋼鉄の刃が放たれて氷球を溶かしながら粉々に破壊し、
ハテンからは冷水の水の刃が放たれて火球とぶつかり蒸発させていった。
アシュラはSAO時代の溶岩地帯の迷宮に居たボスモンスターである鋼鉄の紅き獅子がドロップした鋼鉄から作られている。
ハテンは水上地帯の迷宮に居たボスモンスターである水晶の蒼き鮫がドロップした水晶から作られた。
この2体のイメージがこの刀たちの《武装完全支配術》となったのだ。
発生した蒸気の中をキリトは飛行して駆け抜けてきた。
両の刀による乱舞、アドミニストレータは細剣で素早く防ぎ、躱してゆくも斬撃を纏っているからなのか傷は増える一方。
「どうした、空中はお前の檀上なのだろう? もっと魅せてみろ!」
「あぐっ…一々、ほざかないでちょうだい!」
「ちっ、ふぅっ!」
だが彼女もまたその実力が低いわけではなく、むしろ最高クラスである。
自身より強い者に敗北したことがない以外では整合騎士長のベルクーリをも上回るのだから。
ゆえにキリトも無傷では済まされず、空よりも陸の方が慣れていることもあり傷が増える。
だからこそ彼はもう1つの戦法、陸から空に対抗する手段を取る。
まずはアドミニストレータの頭上を取り、フルパワーで斬りつけて床に着地させたところを彼女に向けて直下していく。
「システム・コール! アクセス・コード・『GGO』!
コネクト・オブ・フォーム・シフト! 『ガンゲイル・オンライン』・『キリト』!」
直下していくキリトの姿がブレ、三度の書き換えが行われる。
黒いシャツに薄い装甲の胸当て、黒いズボンは健在だが腰のコートも妖精の姿のものとは異なっており、
鉄細工も胸当てであるプレート以外には見当たらない。
何よりも変化を見せたのは彼の容姿そのものであり、艶やかな黒髪は腰に及ぶほど長く、女性にも見える。
彼の姿は時折“銃の世界”において現れる二振りの光剣の使い手であり、
その世界にて多くのガンナーを打ち倒している最高位の銃剣士、“キリト”のものである。
こちらもまた、今代における“キリト”のもう1つの姿だ。
「システム・コール! オブジェクト・ソード、『セイクリッドゲイン』!
システム・コール! オブジェクト・ソード、『ダークネスペイン』! でぇあぁぁぁっ!」
「ぐぅぅぅ……おも、いっ…」
アシュラとハテンが姿を消し、次に現れたのはSAOにおいてキリトの、【黒の聖魔剣士】の代名詞とされていた聖剣と魔剣だ。
アドミニストレータは細剣では防げないと判断し、両手持ちの大剣に変化させて防ぐがあまりの力にいなしてから後退した。
だが後退していく彼女を易々と見送るつもりもなく、キリトは最速でその距離を詰めて斬り掛かった。
「は、やい…!」
「前者2つに比べれば防御力も装甲も弱い分、軽量だから速さは一番だからな」
いままでで最速の剣撃が、斬撃が、乱舞となって襲い掛かる。
容姿も含まれるからなのか、彼が両の剣を振るう姿は踊りを舞う、まさしく舞踏の如き美しさがある。
無駄の無い、流麗な剣撃乱舞、聖剣と魔剣の美しさも相乗効果となっている。
カーディナルはその美しい光景に見惚れ、
必死に防いでいるアドミニストレータでさえもその美しさに嫉妬を抱かずにはいられなかった。
だから彼女は
「私より美しいものなんて、認めないわっ!」
「俺だって好き好んでこの姿になったわけじゃねぇっ!?」
自身の容姿に絶対の自信がある彼女は、自身が見惚れてしまった彼の戦い方を否定した。
しかしなんの因果か、キリトは容姿(GGO)の方を言われたと受け取り言い返した。
彼の心からの叫びには同情しか出来ない……強く生きてください…。
ともあれ、天蓋近くまで高く浮かび上がったアドミニストレータは素体を生成し、放っていく。
それだけでなく火球や光球、氷球や鉄球なども投げつけ、神聖術による爆発や火炎、水流さえも操り攻撃してくる。
だがキリトは駆ける、駆け抜ける、最速で以て広間中を駆け回っていき、神聖術の雨霰を軽快に回避していく。
そしてキリトは壁際付近に到達し、アドミニストレータは追い詰めたと考え、神聖術を放った…が、その思惑は成されなかった。
「う、うそでしょっ!?」
神聖術による攻撃をキリトはその勢いのままに硝子窓を駆け上がることで回避してみせた。
それだけではなく、そのまま窓を走り天蓋付近にまで到達した。
すると窓から蹴り上がりアドミニストレータに肉薄し、斬り掛かった。
「せあぁぁぁっ!」
「なっ、くっ…!」
連撃を繰り出すキリト、細剣でなんとか捌くアドミニストレータ。
キリトは途中で弾かれる力を利用して後退し、窓に着地…直後に最高司祭に向けて再び斬り掛かる。
同じことを繰り返すわけにはいかないと判断したアドミニストレータは彼を床に向けて叩き落とそうとした。
だがキリトは着地する前に体勢を立て直し、着地した瞬間に足に溜めた力を爆発させて窓に向かい、
窓を飛び蹴って彼女を仕留めるべく攻撃を仕掛けた。
「二刀流ソードスキル《ジ・イクリプス》」
「うっ、はぐっ…!?」
繰り出されたのは《二刀流》のスキルの中でも《スターバースト・ストリーム》を超える二十七連撃の技である。
本来は地上で使用する技だが、彼は敢えて空中で行使した。
次の技に繋げるための体勢を立て直す手法は剣を振る勢い。
それを利用して彼は空中でも《二刀流》の最上位クラスのスキルを行使できたのだ。
二十七連撃の剣撃に襲われ、アドミニストレータの神器級の細剣はついに砕け散った。
そのまま残りの斬撃を受け、彼女は血を噴出しながら床に落下した。
キリトは華麗に着地したのち、その姿はこの『アンダー・ワールド』のものへ戻った。
「ま、だ……私は、終わるつもりなんて、ないのだからっ!」
「むっ……この程度、効かぬ!」
血を流しながらも立ち上がったアドミニストレータは神聖術による爆発術を発動し、カーディナルにそれを向けた。
彼女はそれを凌いだが、『ソード・ゴーレム』を絡めていた鎖はそれに耐えきることは出来なかった。
よって、ほぼ動くことはないもののゴーレムは再び自由となった。
「剣たちよ、私の下へ!」
「くっ、そういうことじゃったか!」
「だからどうした! カーディナル、援護を頼む!」
アドミニストレータの号令と共にソード・ゴーレムを構成していた30本の剣がバラバラになり、彼女の周囲に浮かんだ。
カーディナルはその状況に眉を顰めたが、キリトはそれを物ともせずに突き進む。同時に、高速詠唱を二度に亘って行う。
「消え去りなさい!」
「させぬわぁっ!」
アドミニストレータはキリト目掛けて巨大な光球を投げつけたが、それをカーディナルが巨大な闇球を投げつけ相殺した。
発生する衝撃波を苦にもせずにキリトは煙の中を進んで躍り出る。
「今度こそぉっ!」
「エンハンス・アーマメント!」
神聖術における最上級の爆発術がキリトに襲い掛かろうしたが、それを聖剣と魔剣の《武装完全支配術》で迎撃する。
セイクリッドゲインからは聖なる波動が、ダークネスペインからは邪悪な波動が溢れ出、爆発を飲み込んだ。
セイクリッドゲインはSAOのエクストラモンスター、〈The
彼の龍の放つ神聖な気配をイメージした《武装完全支配術》である。
またダークネスペインもSAOのエクストラモンスター、〈The
彼の龍の放つ邪悪な気配をイメージした《武装完全支配術》であるのだ。
最上級の爆発と聖と魔の波動のぶつかり合いで相殺し、煙が巻き起こる中をキリトは突き抜けた。
迎撃するために上げた腕を振り下ろしたアドミニストレータ、30本の剣が
それをキリトは笑みを浮かべて迎え撃つ。
「二刀流ソードスキル《スーパー・ノヴァ》……おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
《二刀流》最上位スキル、三十二連撃の剣撃がキリトの手によって放たれ、剣を迎撃していく。
一撃一撃が確実に殺到する剣を叩き落とし、
次々と床に落ちていく剣、最後の1本も叩き落とされ……残る二撃が残された彼女に迫る。
「ここまでだ」
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
残った二撃に斬られ、左腕と右脚を斬り落とされると同時に胸元と腹部を斬り裂かれ、
多量の血を噴出させながらアドミニストレータは倒れ伏した。
セントラル・カセドラルにおける最後の戦いは、キリトの一撃によって幕引きとなった。
No Side Out
To be continued……
あとがき
はい、アドミニストレータ戦はこれにて決着となりました。
今回の戦闘を見てご理解していただけたと思いますが各世界での姿に変化する能力こそが、
UWにおける剣召喚と《武装完全支配術》の複数行使と並ぶキリトの権利です。
原作でキリトがSAOの姿になった時に「これだぁっ!」と思って自身の意思で自在に変化できるように設定しました。
事前に来ることが分かっていたからこそできた設定ですねw
次回はついに和人が現実世界に帰還しますが原作最新巻にある通り、次回はまだ騒動の最中です。
とはいえ次回で本当にUW編は終わります、みなさんの不満に残る形になると思いますが決定事項です。
それではまた・・・。
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第37話です。
ついにアドミニストレータとの戦いに決着がつきます。
どうぞ・・・。