「魔王の国は面倒事を抱え込む」

 

 

 

 

 

 エメリアユニティという国は民主政治だ。故に選出される議員は民衆が選んだ人たちである。どんな形で彼らが選んだ代表が議論し、国の行く末を決めていく。そして民衆は戦争を行う事を選んだ。それを望んでいる代表を選出した。

「それで戦況はどうなっているのかね?」

 評議員代表の男は問う。

 部屋には与党と野党の主要メンバーが顔を突き合わせて話をしている。部屋は広いのに彼らはその中央で小さくなって話を進めているのだ。

 国防委員長の男性は顔色を悪くさせたまま首を横に振った。

「士気と兵糧は削ることは出来ました。後今少しで――」

「もういいわかった。君は――今一歩で上陸できた――そう言いたいんだね? でもそんな言い訳を聞きたいわけではないんだよ」

 男の口調はやんわりとしている。しかし、反論を許さない雰囲気を纏っていた。

「はい……しかしもう少し攻め続ければ――」

「軍事費は嵩んでいく。そして国に回すべき金が滞り、国民の反感を買う。我が党はその責任を問われて総辞職っていう流れだ」

 代表は鼻で息を吐きながら、視線を流す。その先に1人の男がいた。その人物を眺めながら評議員代表は続ける。

「そして君ら野党が、この国の運営を司るっていう流れだ」

「我が党にはまだ国を運営する力はございません」

 男は首を振って苦笑いする。

「それこそゼヴァラギの思う壺です。そもそも、この戦争、我らからすれば打算の孕んだもの」

 男の言葉に何人かが同意の声を上げた。

「元はカンクリアンの戦争。それに我々は付き合わされているのです」

「何が言いたいんだね?」

 代表は野党代表の男が腹の奥底にあるものに気づいた。そしてそれを出すように促す。

「単刀直入に言いましょう。カンクリアンには滅んでもらいます」

「どうやってだね? 魔王軍は攻めこむ気概を見せていない。このまま長期戦は確実だ」

「とはいえ、魔王の国とて長期の戦争は好まないはずです。彼らはカンクリアンの軍に大打撃を与えて、講和に持ち込むのを最終目標としているはずです」

 その場にいる与党、野党の面々は首肯する。

「となると……彼らは?」

 そこで政治屋達は首を傾げた。この先どう動くのかさっぱり読めない。彼らの最終目標はわかっていても、その過程をどうするのかはさっぱりなのだ。

 そこへ1人の男が入室する。彼らの前へと歩み出た。

「君は、バン・バンガリー。君は前線にいるはずでは?」

「ええ、そのはずです。ですが、野党代表に呼び戻されました。総帥閣下からの辞令も交付されているはずです。確認をとってもらって結構ですよ」

 国防委員長は確認を取ろうと、水晶に手をかざす。それを評議員代表が首を振って制止する。

「まあまあ、国防委員長。この期に及んで細かいこと追求すまい。今はどうでもいい。それで、野党代表は彼をなぜ?」

「彼は我軍でも優秀な軍師です。彼に魔王軍の動きを分析してもらおうかと。戦争前の彼の提出した羊皮紙通りに事が進んでいます。彼に聞いてみるのが早道かと」

「なるほど、わかった。では、バン君。君の話を聞こう」

 バンは「恐縮です」と言うと、用意された椅子に着席した。軍帽を脱ぎ、椅子の上で正座し直す。

 彼は戦争開始前から「この戦争で負ける」と抗議していた。エメリアユニティとしては圧倒的軍事力、物量。そしてカンクリアンという同盟国がいるせいもあり、勝てると踏んでいた。ので、彼の抗議は黙殺されていたのだ。しかし、ここに来て彼の提言していたとおりに事が運び、エメリアユニティは物、人、金を失いつつある状況にある。

「一軍人ですので、話半分に聞いていただければ」

 誰かの「当たり前だ」と野次が飛ぶ。周りの大人達は呆れるように溜息を吐く。

「まず、この戦争は勝てません」

 すぐに批判の声が上がるが、当人たちも理解しているのか次第に声は萎んでいった。

「皆さん落ち着いてください。確かに勝てません。けど、これから負けないようにすることも出来ます。まず我々の国としての戦争参加する理由は、カンクリアンとの同盟があるからです。それを破棄するのです。もちろんこちらから破棄するのは他国に示しがつかないので、カンクリアンから切らせる。またはそれ同然の状況に追い込ませる必要があります」

「つまり国を崩壊させると?」

 バンは首肯する。そして口を開いた。

「ええ、そうです。ですが、我々が崩壊させるのではありません。彼らに自爆してもらうのが一番でしょう。それがン・ヤルポングと我が国にとっていい結果でしょう」

「あの国に名前など必要ない。魔王の国で十分だ」

「いえ、それだと……この先辛いですよ? 私は彼らと同盟を結ぶことをおすすめします」

「何をバカな! あんな蛮族達をか?」

 国防委員長に賛同する声が、与党から沸き上がる。しかし、それは代表によって遮られる。

「やめたまえ。まだ話は終わってないぞ。終わってから議論すればいい」

「恐縮です。我が国にとって欲しいのは魔界にある特有の物、ですよね? ン・ヤルポングは戦争前からそれを我が国に輸出してもいいと、申し出ているはずです。なら同盟を結び、安全を売る代わりにそのモノを更に引き出すのです。っと、話を急ぎすぎました。戦争後のお話は皆様にお任せします。で……ン・ヤルポング軍は、カンクリアンの自爆の引き金を引いてもらいます。実際彼らの諜報機関が旧エルニージュ領土内で、動いているという話も聞いています」

「それで内乱が起きたのか」

「たぶん彼らは起こしていません。あくまでそれを起こしたのはエルニージュの民です。カンクリアンの方々は、お世辞にもエルニージュにあまりいい仕打ちをしていませんし。まあ、手助けしているのは間違いないでしょうが。彼らの諜報機関はカンクリアン内部でも確認出来ています。彼らにカンクリアンの前線基地を全て潰してもらうのです。彼らの腕と国の性格を考えれば3つ潰せばいいと判断するでしょう。それでは自爆を呼び水にするには足りない。なので、こちらから情報を流出させて前線基地6つを潰してもらうのです。そうですね。そうすればエルニージュの内乱に端を発して、カンクリアン内部でも部族抗争に発展します。そうなってしまえば国と言えない状況になるので、同盟をこちら側から切っても問題はないです」

 そこまで黙って聞いていた野党代表が疑問を口にする。

「しかし基地の位置を教えた所で、彼らは動くかね?」

「動かざる得ない状況に追い込むのです。そうですね――敵に大量のメアドロイドがあるぞ――で、十分でしょう」

「カンクリアンにはないぞ?」

 国防委員長は羊皮紙をめくり、カンクリアンの現在の軍備に目を通す。

「ないです。ですから、我軍の旧式のメアドロイドを在庫一掃してしまうんです」

「しかし、それでは我軍が――」

「我が国も出血をしなければ、負けてしまいます。このままカンクリアンが自爆しなければ彼らカンクリアンの面倒を見るのは我が国です。正直言いますと、私はそんなのごめんですよ。こっちの指揮も軍事力も信用しないくせに、敗北するとこちらのせいにしてくるような国民性ですよ? いっそ滅んでくれたほうが我が国のためです」

「バン君」

 バンは「失礼」と謝罪する。ですが、と続ける。

「どちらにせよ復興支援で金が飛びます」

「確かに君の言う通り滅んだほうが我が国にとってもいいだろう」

「だが魔王の国の一人勝ちになってしまう」

「それはないでしょう。彼らはエルニージュを併合せざる得なくなります。アトランディスと同盟している手前彼らはあの領地を救わねばならない義務があります。アトランディスにエルニージュを救う力はありません。またエルニージュも国を運営出来るほど力はもう残ってないでしょう。慈悲深いン・ヤルポングは自治区という建前で併合するでしょう。遠からずエルニージュの民は自治権を放棄して帰属するでしょうな」

 

 

 

 

 

 前線基地で魔王は頬を膨らませていた。

「エルニージュの代表がそう申しておりますが?」

「コレ以上領地はいらないんだけど」

 宰相は白いフードを深く被っている。そのため容姿はわからない。その小さい成り以外男女かも、また人か魔族かもわからない。そんな彼、彼女は魔王の頬を潰しながら続ける。

「しかし、アトランディスと同盟を結んでいる手前――」

「わかっている。自治区としても、遠からず自治権放棄して帰属しようとするだろうな」

「ええ」

「領土より、勇者こいよ!」

 

 

 

 

 

~続く~

 


 
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