No.709742

戦国†恋姫~新田七刀斎・戦国絵巻~ 第20幕

立津てとさん

みなさまお盆はいかがお過ごしだったでしょうか、たちつてとです
間が空いてしまった今回は説明多めでいつにも増して読みにくいですが、ついにルートが決まります
気付けば20という大台に乗り、月刊のような更新速度になってしまったこの作品、どうぞよろしくお願いします
次はもっと早く出る!かも?です

続きを表示

2014-08-19 02:28:22 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2066   閲覧ユーザー数:1806

 第20幕 揺れる心

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはどこだ?

真っ白な光の中だ。

 

お前は誰だ?

新田剣丞だ。

 

なんでここにいる?

・・・・・・

 

何を覚えている?

・・・炎。

 

どうして炎を覚えている?

そりゃあ、助けるために飛び込んだからだよ。

 

飛び込んだ?

ああ、――を助けるためにな。

 

だが、お前は――を救えなかった

・・・・・・

 

――だけじゃない。美空の時も光璃の時も、一葉の時も。ああ、真琴や葵の時もお前は救えなかったな

・・・うるさい。

 

どれもこれも、お前の甘さが招いた結果だ

じゃあどうすればいいんだよ!

 

甘さを無くせ・・・とは誰からも言われてきたことだろう

そりゃ、そうだけど・・・

 

なら、その甘さを無くしてやる

は?

 

せいぜい頑張ることだな、新田剣丞

 

 

 

記憶はここで途切れている。

 

(・・・誰の記憶だ?)

 

少なくとも、自分があのような空間であのような問答をした記憶は無い。

しかし、今のは確かに新田剣丞だった。

 

(俺じゃない。織田の俺か?いや、違うな・・・じゃあ、誰が)

 

剣丞の夢は、ここで終わった。

 

 

 

瞼を開けてまず感じたのは、嗅ぎ慣れた臭い。

旅行に行って、自宅に帰って来た時に感じる「我が家の臭い」というものだ。

 

目に飛び込んできた天井の形やシミ、傷も覚えている。

 

「ははは、またここで寝てたとはな」

 

剣丞は懐かしの教会で目を覚ましていた。

 

体にのしかかる掛布団を押し退け、上半身を起き上がらせる。

横を見ると、隣の布団では空が静かに寝息をたてていた。

 

「そうか、空ちゃんも無事だったか」

 

気絶した空が剣丞隊に背負われて人ごみの中へ消えていったのは確認していたが、その後どうなっているかはわからなかった。

彼女が無事に隣に居るということは、久遠や剣丞隊の面々も無事なのだろう。

 

「ッ、仮面!」

 

最近は織田領にいることが多かったために寝る時もなるべく仮面を着けて過ごしていたのだが、顔に着いているはずのそれはスーツケースと共に枕元に置いてあった。

 

(ヤバイ、織田の連中もこの教会にいたら確実に見られて・・・!)

「織田信長と新田剣丞、あと剣丞隊とかいう連中は信濃屋って宿屋に泊ってるわよ」

 

背後で襖が開く音と共に聞こえてきたのは、まだ記憶に新しい声だった。

 

「なっ、お前!」

「なによぉ、ローラって名乗ったでしょ」

 

黒いゴスロリを身に纏ったローラは戦っていた時と違わず腕を組んで立っていた。

 

「お前、何で・・・」

「ああ、体?再生させたのよ。誰かさんがズタズタにしてくれたから時間かかったけど・・・あぁん!」

 

顔を赤くさせ体をクネクネさせるローラ。

 

「あぁ・・・思い出しただけで興奮してきちゃうわぁ・・・ねぇ、もう1回して!」

「うぉぉ近い近い!何をしろってんだ!?」

「それを私に言わせるつもりぃ?そりゃあ私の下半身にまたあなたのモノをぶっこんで欲しいってことよぉ!」

 

正面に回り込み、のしかかって来るローラに対し、咄嗟に反応することができなかった剣丞はあっけなくマウントポジションをとられてしまった。

小さな体から出ているとは思えない力で抑えられているため、布団のように押し退けることすらできない。

 

「ちょ、俺はそんなことしてないぞ!」

「今更そんなこと言うの?昨日散々硬いアレを私の中に出し入れしてたくせに・・・」

 

(ま、まさか・・・)

 

気を失う直前に聞いた一言。

 

≪痛い、の・・・・・・きも、ち・・・いぃ・・・≫

 

「お前まさか・・・ドM――」

 

「大惨事と化した大通りから外れた通りで、あろうことか剣丞さんはローラの下半身に硬いモノを出し入れしたというのですか・・・」

 

言葉を発する前に、背後にある開きっぱなしの襖からもう1人の声が聞こえてくる。

 

「さぞ気持ち良かったのでしょうね」

「え、エーリカぁ!?」

 

立っていたのは、手におかゆの乗った盆を持ったエーリカだった。

彼女の口角は上がっており、目も細められている。いわゆる笑顔というやつだ。

しかし、目だけは笑っていなかった。

 

「あらエーリカ、いたの?」

「そろそろ剣丞さんが起きる頃だと思って朝餉を持ってきたんです。そしたらそんな、破廉恥な・・・」

 

頬を少しだけ染めてそっぽを向くエーリカ。

その姿を見てつい「可愛い」と思ったことは剣丞だけの秘密だ。

 

「とりあえず剣丞さんからどいてくれませんか?『昨日のお楽しみ』で随分とお疲れのようですから」

「いや違うんだエーリカ!昨日楽しんでたのは俺じゃなくてだな」

「ええ、七刀斎という別人格がやったことでしょう」

 

七刀斎という単語がエーリカの口から出たことに一瞬息が止まる剣丞。

だがエーリカとローラはその反応すら予想内だった。

 

「何で、エーリカが七刀斎を・・・」

「・・・私がこの外史に降り立った時、ある人物より頂いた物が『新田七刀斎という人格』でした」

「え、え?」

 

エーリカの口から発せられる言葉の9割程が理解できない剣丞は当然というべきか頭に疑問符を大量に浮かべている。

 

「ハァ・・・エーリカ、この男がいきなり外史だの人格だの分かると思って説明してるの?」

 

上に跨ったままのローラがため息交じりに補足を促す。

それを聞き、少しは気が利くのか、と剣丞は心の中でローラに対する印象を改めた。

 

「ああ、そうでしたね。しかし、どこから話したらいいのか・・・」

「まぁ外史からでしょうね」

「わかりました。剣丞さん、あなたはこの世界の事をどう思っていますか?」

 

突然の根本的な質問に言葉に詰まる剣丞。

 

「え、どうって・・・タイムスリップしたって感じだから・・・過去の世界とか?」

「半分当たりです。ここは外史と呼ばれる歴史上過去の世界。そして残りの半分は、ここが平行世界ということです」

「へいこう・・・?」

「パラレルワールドってことよ。アニメや漫画であるでしょ?」

 

ローラが説明に加わる。

 

「ここはあなたの世界とは違うのよ。だから武将の性別も違うし、歴史の流れも違う」

「な、なるほど・・・確かにこの世界は変だと思っていたが」

「思ったより理解が速いのですね」

「現代っ子だからね。でも、どうしてそれを今?というか何でエーリカがそんなこと・・・」

 

エーリカがここからが本題ですと姿勢を正し、畳の上へ座る。

ローラも剣丞の上から退き、エーリカの隣へ。

起き上がった剣丞は布団の上で畏まって聞いた。

 

 

 

外史という概念を剣丞は理解した。

次は、エーリカ達自身のことだった。

 

「私達は、この世界の住人ではありません」

「正確には私達とあなたと織田にいる新田剣丞。そしてあなたの中にいるドSね」

「ちょ、ちょっと待て!俺はともかく、2人まで?」

 

ローラがこの世界の住人ではないという説明には、出会ってからまだ日が浅いためかしっくりと来る。

しかし、エーリカがこの世界の住人ではないと言われると、驚きを隠せない。

 

「まぁこの外史にとってエーリカと織田の新田剣丞は半分ここの住人と言えるんだけど」

 

その後で寝ている空を指さすローラ。

 

「でもそれ以外の人間は全て、この外史という盤上の駒。ただのNPCよ」

「思考や行動が複雑なだけで、やることは全て予定調和です。それは他の外史でも同じこと」

 

エーリカがどこからか取り出したのか、チェス盤を用意していた。

その上にあるのはナイトやクイーンではなく、久遠や美空をモチーフにしたであろうチビキャラの駒だった。

 

「例えば、新田剣丞がこの世界に現れなかった場合」

 

言いながらエーリカが駒を次々とぶつけ合ったり、盤上から取り上げたりするうちに、残った駒は剣丞の見覚えのある駒のみとなった。

 

「これ・・・ひよ?」

「豊臣秀吉が天下を取り――」

 

ひよの駒が取り上げられ、代わりに見たことのない人物の駒が置かれる。

 

「徳川家康が太平の世を築き、この外史は終わりを迎えます。これが・・・剣丞さんにもわかりやすく言うと正史エンドとでも言うのでしょうか」

 

エーリカはその後に、では、と言いながら駒を元の位置に戻し、追加で1つ駒を取り出す。

それは刀を差し、白い服を着ていた。

 

「これが新田剣丞がこの世界に現れた場合です。さ、剣丞さん」

「え?」

 

急に駒を差し出され、戸惑う剣丞。

 

「剣丞さんの好きな所に置いてください」

「好きな所?」

 

駒の行く末を任された剣丞は盤上を見渡した後、恐る恐る美空の駒の傍らに自分を置いた。

 

「むっ・・・・・・」

「エーリカ、声出てるわよぉ?」

「ッ、こ、これが新田剣丞が長尾に与した場合ですね」

 

くつくつと笑うローラと戸惑いを隠そうと盤を進めるエーリカ。

運が良いのか悪いのか、剣丞は盤の進み方を見るのに夢中で2人に気付いていない。

 

「あ、美空が天下を取った」

 

先程と同じように駒を取り上げ、ぶつけ合ったりした末に、美空と剣丞の駒を中心とした輪が出来る。

それは美空と剣丞を頂点とした天下が出来上がったということだった。

 

「これは武田や松平でも同じ結果が出ますが、浅井や足利といった小大名だとどこかの同盟に組まれたり、逆転劇があったりとまちまちですね」

 

次にエーリカは久遠の駒の横に剣丞の駒を置いた。

 

「しかし、織田に与した場合は少し違います」

 

今度の盤ではほとんどの駒が残り、複数を頂点とする天下が出来上がっていた。

 

「大団円とでも言うのでしょうか、数ある外史の中でこの終端が最も影響力のあるものです」

「へぇ・・・じゃあ新田剣丞は織田にいるから、今俺達がいる外史ってのもこのエンディングなのか?」

「それがそうもいかないのよ」

 

ローラのため息交じりの声に呼応するように、エーリカが懐から駒と同サイズの人形を取り出す。

 

「例えば、暇なときにこの布と糸のを適当に縫ったら偶然できた人型の塊を、仮に剣丞さん――新田七刀斎だとしましょう」

「偶然ねぇ・・・刀っぽい突起が7本あるし服装も白いしこれどう見ても・・・」

「ローラ?復活できない程の痛みを与えられたくなかったら少し黙りましょうか」

 

瞬時にローラの首筋に白い剣が触れる。

それと同時に瞬時に下がった部屋の体感温度にローラも剣丞も冷や汗をかいた。

 

(俺の人形・・・だよな?)

 

制服を着ながら仮面もしていないということは、まだ堺や京での自分をモチーフにしているようだが、それを問い質す勇気は無い。

 

「ご、ゴホン!とにかく、今私達のいる外史は2人の剣丞さんがいることによって2つの道筋が交差している形になっています」

 

咳払いをしたエーリカが口早に説明する。

 

「と言っても、剣丞さんは新田剣丞ではなく、新田七刀斎と名乗っている訳ですから、この外史の大まかな道筋は織田家と言っていいでしょう」

 

七刀斎の駒と美空の駒が端に追いやられ、久遠と剣丞の駒が中央へと来る。

 

「ですが、剣丞さんの影響力もあり、この外史の終端は私達にも予測ができません・・・」

「そこで来たのが私ってわけ」

 

ローラが口を挟み、自分の形をした駒を盤上に置く。

 

「私の役割はこの外史に来たイレギュラーへの対処。つまりあなたへの対処よ」

「俺?」

「ええ。まず最初に言っておくと、あなたはこの外史の新田剣丞ではなく、本来他の外史にいるべきだった新田剣丞よ」

 

言いながら盤の外へと七刀斎の駒を出す。

 

「この外史の俺じゃない・・・?」

「ええ。何でかは知らないけど、あなたは本来行くべきだった外史ではなく、この外史へと来た。それに対して外史があなたをイレギュラー認定して、私が派遣されたってわけ」

 

ローラの言葉にどこか居心地を無くした気分になる剣丞。

自分が世界のイレギュラーなどと考えること自体が初めてなのだから仕方のないことではあるが。

 

それに対してエーリカは合点がいったような表情で頷いていた。

 

「なるほど・・・あるべき終端へと戻すためにあなたが遣わされたわけですか」

「そういうこと」

 

どういうことだ?となる剣丞。

彼が納得するにはまだ理解材料が足りない。

 

「それよりほら、ポカンとしてる人間が1人いるわよ」

「ああっすいません!」

「えーと、とりあえずローラの目的は元の歴史を遂行するってことか?」

「あら、意外と理解が早いのね。正確には私とエーリカが、だけれど」

 

ここで剣丞が頭の中に疑問が浮かぶ。

 

「あれ、でも外史ってさっき見せてくれたみたいな色んな歴史があるんだろ?だったら何で今更『元ある流れが~』とか言ってるんだよ」

 

剣丞が言うことももっともである。

外史がパラレルワールドであるなら、わざわざ改変した歴史を元に戻す必要などないのではないか。

しかし2人の中にも、その問いに対する答えはあった。

 

「確かにパターンは無限大。しかし、外史という世界線そのものは有限なのです」

「木を育てる時も、無駄な枝はたまに間引くでしょ?外史ってのは正史という1本の巨木に生える枝のようなもの。枝が広がりすぎたら幹も倒れちゃうでしょ」

「外史を正史通りに進めれば、枝は広がらず幹の一部となり、木の成長につながる・・・私達管理者や調律者は、その庭師のようなものなのです。先程見せた大団円エンドという伸びす

 

ぎた枝を間引きしなければならないのです」

 

2人の説明は理解はできる。

要はこの世界の歴史を正史と同じにさせたいのだ。

だが剣丞にとって世界がどうとか歴史がどうとかいう壮大な主義はまったく共感できるものではない。

 

「なるほどな・・・でも何でそれを俺に言うんだ?」

 

その問いにローラは予定調和のように口を閉じ、エーリカに譲るように目を向けた。

 

「あなたはまだこの外史で何者にもなっていません。ですがそれは同時に何者にもなれるということ・・・」

 

エーリカの言葉の前半が心にズシリとくる。

しかし、その後に続いた言葉が、剣丞の心を揺らがせた。

 

「剣丞さん、私達の同志になってください」

「・・・え?」

 

 

 

 数分後

 

≪すぐに返事をとは言いません。堺を発つ時までに決めてくだされば≫

≪ただ私達に与するということは、他の全てを裏切り、敵に回すことになるだろうからよく考えなさい≫

 

エーリカとローラが出ていき、部屋に残ったのは剣丞と空、それとまだ湯気のたつおかゆだけだった。

 

「同志・・・か」

 

エーリカとローラの目的。

乱れつつある歴史の流れをあるべき姿に。

 

(全部裏切って、か・・・)

 

ふと美空の顔が浮かぶ。

その顔を振り払おうと頭を振ると、空の寝顔が視界に入ってくるために結局心の中は変わらずグチャグチャとしていた。

 

「ていうか、何でおっちゃんを殺したような奴と・・・クソッ、どうすりゃいいんだ・・・!」

 

乱暴におかゆを口にかきこみ、仮面を着けて刀を1本だけ腰に差す。

 

(とりあえず織田家の連中が気になるから行ってみるか)

 

久遠達が泊まっているという宿は信濃屋だ。

大通りも見てみたい。

 

剣丞は自分の中でそう結論付けると、部屋から出ていった。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

静寂に包まれる部屋の中、1人残された空は、剣丞が出ていったのを確認してからゆっくりと瞼を開けた。

 

 

 

 大通り

 

鬼の襲撃によってパニックに陥ったこの場所だったが、物的被害は特に見当たらない。

今はもういつもと同じように人でごった返している。

 

(おっちゃん・・・)

 

目の前で奪われた命を思い出し、何もできなかった自分に嫌気がさす。

 

「すまねぇ、おっちゃん・・・」

「なにがだ?」

「え?」

 

背後から妙に覚えのある声がする。

咄嗟に振り向くとそこには、包帯を巻いて痛々しい姿となってはいたが、元気そうな船長の姿があった。

 

「ええええええぇぇ!?ゆ、幽霊!」

「ばっきゃろう本物だ!」

 

包帯をしていない方の手でバシバシと肩を叩かれ本物だと理解する。

だが理解したところで、剣丞の疑問は止まらない。

 

「でも、何で・・・!?」

「ああ、気付いたら教会にいてな。エーリカの嬢ちゃんと、あとよくわからねぇ金髪の目つきの悪いガキんちょに看病されてたんだよ」

「ローラが・・・?」

「お、剣丞はあのガキ知ってたのか。なんか目が覚めて最初に聞いた言葉が『ごめんなさい』でよぉ、意味のわかんねぇガキだったがな!」

 

ローラが謝ったという事実は驚くに値するものだ。

付き合いの極めて浅い剣丞でもああいうタイプの人種はそうそう謝りはしないだろう。

 

理由がわからず船長と話していると、その答えは自分からやってきた。

 

「あなたの数少ない友人を減らすのは流石に気の毒だと思っただけよ」

 

長いストレートの金髪を揺らしながら、小さな体が剣丞と船長の間に入る。

 

「あ!ガキんちょ!」

 

船長が吹っ飛ばされた時、ローラは白いローブを被っていた。

故に船長がローラを見ても驚かないのだろう。

 

「うるさいわねぇ死にたいの!?」

 

船長のガキというフレーズに明らかに反応するローラ。

だがそれもすぐに終わり、ローラは剣丞の方を向いた。

 

「ま、多少は巻き込んで悪かったとかくらい思ってるわよ・・・」

 

意外にも素直に謝罪の言葉を発せられ、一瞬思考が固まる。

その間にもローラは言葉を続けた。

 

「それはそうと、織田の連中に会いたいのならここで待つことをオススメするわ。彼らも大通りをこっちに向かって進んでるから」

 

言い終わりすぐさま大通りから出ていくローラと、「俺も湊に行かなきゃなんねぇ。またな!」と人ごみに消えていった船長と別れた剣丞は言われた通りにその場で待った。

 

すると、人ごみの中から見慣れた顔達が見え隠れしているのがわかった。

 

「おや、七刀斎ではないか」

 

最初にこちらに気付いたのは、激しく燃え盛る瞳を持つ少女。

 

「ほんとだ、無事だったんだな!」

 

次にこちらに気付いたのは、白く輝く服を着た男だった。

 

 

 

 大通りに面した茶屋

 

「教会に担ぎ込まれたってのは知ってたけど、結構元気じゃないか」

「そっちこそ、よくあの鬼の大軍を相手に生き残れたな」

 

オープンテラスのような席もある大きな茶屋に入った剣丞達は、ゆっくり話すために店内の奥まった端の席をとっていた。

剣丞隊はそれぞれ物資調達や観光などで今は同席していない。

 

「悪いな、2人の時間を邪魔して」

「べ、べべべ別に邪魔でもないし、2人の時間でもないぞ!?」

 

意外なことに剣丞の茶化しに動揺したのは久遠だった。

織田の剣丞はというと、彼女のそんな反応はもう見慣れたのか、涼しい顔でカステラを食べている。

 

「にしても、南蛮菓子まであるとはな。流石堺といったところか」

 

3人ともカステラとお茶をたのんでおり、久遠は中々食べることのない味に、2人の剣丞はこの世界に来て以来食べていない懐かしい甘さに舌鼓を打った。

 

「久遠、久遠」

「ん?なんだ、剣丞」

 

剣丞の向かいに隣同士に座る織田の2人がなにやらやりとりを始める。

 

「はい、あーん」

「ブッ!!」

 

思わず飲んでいたお茶を噴き出しそうになる久遠。

そんな彼女の様子を織田の剣丞は楽しそうに見ていた。

 

「こ、こここの痴れ者め!こんなばしょであ、あ、あー・・・などと!」

「あーん?」

「言わぬでよいわ!とにかく、他にも人がいるのだぞ?」

「でも見てるのは七刀斎だけじゃん」

 

急に話を振られ、2人の視線を一斉に浴びる剣丞。

目の前で始まったリア充展開にカチンと来た剣丞であったが、そこは大人な対応を見せることにした。

 

「ボクノコトハ、キニシナイデクダサイ」

「ほら、こう言ってることだし」

「な、七刀斎ーーーー!」

 

結果剣丞は「ハイ、アーン」を最後まで見ることとなった。

 

 

「ぐぐぐ・・・とにかく!皆無事ならそれでよい!明日の昼にはここを発って京へ向かうぞ」

「明日の昼か・・・」

 

これからの自分の生き方を決める、そのタイムリミットを知り、剣丞は顎に手を当てた。

 

「七刀斎?」

「・・・なぁ剣丞、お前にとって織田家は・・・居場所と言えるか?」

「居場所・・・?」

 

熱々のお茶をすすりながら首を傾げられる。

そうだ、と続けると織田の剣丞は考え込む素振りを見せた。

 

「自分が今ここにいてしっくりするか、ここが自分の居場所だと確信してるか。少しでもそれを感じてるか」

「一体何を話しておるのだ?」

「まぁいいじゃないか、これは剣丞にしか答えられないんだ」

 

久遠が訝しげな視線を向けてきたが、それでも剣丞は聞きたかった。

 

「そうだな、感じてるよ。織田家は俺の居場所だって」

 

剣丞は心の中でよし、と呟いた。

質問を次のステップに移す。

 

「そうか。じゃあその理由は何だ?何でもいいから教えてみてくれ」

 

剣丞の本題はそれだった。

エーリカにつくにしろ、このままの状態を維持するにしろ、剣丞は自分の中で理由が欲しかったのだ。

そしてそれを、同じ新田剣丞から参考にしようと思っている。

 

「そうだな・・・強いて言うなら、大切な人が居るからかな。久遠や結菜。剣丞隊の皆や壬月さん達・・・その人達の為にも俺は今を頑張ってる」

「なるほどな・・・」

 

大切な人の為――

同一人物であるせいか、剣丞にもその理由は納得できるものだった。

 

(そっか・・・そうだよな)

 

頷いて立ち上がる剣丞。

 

「ありがとう、お蔭でなんとかなりそうだ」

「そうか?ならよかったが」

 

久遠と剣丞に礼を言って茶屋を出る剣丞。

 

後は自分の気持ちの折り合いだった。

 

 

 

 夜 教会

 

エーリカと空と共に夕食を過ごした後、剣丞は自室でずっと考えていた。

 

(俺の大切な人・・・エーリカ、美空、空ちゃん、越後の皆・・・)

 

次々と顔が浮かんでは消えていく中で、彼女の顔だけはいつまでも脳裏に焼き付いていた。

 

どれぐらい考えていたのであろうか、月明かりが部屋に差し込んだ辺りで襖越しから声がかかるのがわかった。

 

「七刀斎さん・・・?」

 

声の主は空だった。相変わらずの弱弱しい声に気付いた剣丞は思考を止め、「起きてるよ」と入室を促した。

 

「失礼します・・・」

 

最近のベタベタな距離感とは一転、部屋の入り口付近で足を止める空。

それに気付いた剣丞は何かあったのかと尋ねた。

 

「その、えっと・・・七刀斎さんは、どこにも行かないですよね?」

「え?ああ、まぁ・・・どうして?」

「いえ、ただ気になって・・・七刀斎さんがどこか遠くに行ってしまうような、そんな感じがしたので」

「ッ、あ、あはは!まさか!」

「そうですよね・・・ではそれだけですので、おやすみなさい」

「ああ、お休み」

 

空が襖を閉じると、剣丞は言い得ない脱力感に襲われた。

 

(まさか、気付いてないよな・・・?)

 

思えば空の寝ている横でエーリカ達と外史についての話をしていた。

それを寝たふりをされて聞かれていたらと思うと瞬時に焦りが生じる。

 

(いや、大丈夫だ・・・きっと、大丈夫なはず)

 

今の剣丞にできる事は根拠のない自信を持つことくらいだった。

 

 

(七刀斎さんは新田剣丞だった?じゃああの織田にいる人は・・・?)

 

部屋の外では空もまた動揺と思考を繰り返していた。

 

(全部裏切るって・・・嘘、だよね?七刀斎さんは私やお姉さまと・・・)

 

そうこう考えている内に、既に空は割り当てられた寝室に着いていた。

 

(七刀斎さん・・・)

 

その日、空はあまり眠れなかった。

 

 

 

 翌日

 

出発の準備をする教会内では、剣丞がエーリカの部屋の前へと来ていた。

 

『答えは出たのか?』

 

頭に七刀斎の声が響く。

 

(ああ、俺の大切な人。絞るしかないならもう1人しかいないんだ)

『ま、好きにしろよ。決断に後悔を残さないならな』

 

その言葉を最後に、七刀斎は意識から消えていった。

 

エーリカの部屋に声をかける剣丞。

中からは変わらない彼女の声が聞こえてきた。

 

 

 

「決まったよ、エーリカ」

「・・・はい」

 

ちょうど荷物を整えていたのか、彼女の部屋は少し散らかっている。

その真ん中に2人座り、剣丞は答えを言った。

 

「俺は、俺の大切な人のそばにいる」

「そう、ですか・・・」

 

エーリカが目を伏せる。

しかし剣丞の言葉にはまだ続きがあった。

 

「ああ、だからさ・・・エーリカも俺のそばにいてくれ」

「えっ・・・?」

「俺はエーリカに着いていくよ」

「――ッ!!」

 

その瞬間、エーリカは目を見開いたかと思いきや剣丞に抱き付いてきた。

 

「なっ、え、エーリカ?」

「よかった・・・・・・」

「え?」

「私を・・・選んで、くれて・・・」

 

エーリカの一言で、彼女の体を強く抱きしめる剣丞。

すると彼は、あることを思い出した。

 

「あ、エーリカ」

「なんですか?」

「その、だな・・・そういえば前に堺を出るときに約束してなかったっけかなーって」

「約束ですか?」

「あれだよ、あの時はほっぺだったけど、今度は口にーって・・・」

 

ここで間違えてはかなり自意識過剰な奴になってしまう。

エーリカにはどうしても思い出してほしかった。

 

「・・・・・・あぁー」

 

どうやら思い出してくれたようだ。

すると彼女は頬を赤らめながらも、その距離を縮めてきた。

 

「その、よいのですね?」

「むしろずっと期待してたくらいだ」

「もう、正直者なのですね・・・」

 

再会の時の約束をした2人は、その約束を果たすのであった。

 

 

 

 

 

 


 
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