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魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第百二十七話 皆と海水浴

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2014-08-15 11:40:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:21584   閲覧ユーザー数:19163

 「「「海だ!!海だ!!うーーーみーーーーーだーーーーーーーーー!!!!」」」

 

 ここは海鳴市の海水浴場。

 海鳴市でも海開きがつい先日宣言され、休日である今日は大勢の海水浴客で賑わっていた。

 そんな砂浜に降り立ち、一足早く水着姿に着替え終えて今叫んだのは謙介、泰三、宮本の3人。

 

 「お前等、叫ぶ暇あるならパラソルの設置手伝えよ」

 

 「いや直博、むしろアイツ等は放置しておけ」

 

 「俺も勇紀の意見に賛成だ。アイツ等といると周りから冷たい目で見られると思うぞ」

 

 呆れた表情の直博に対し、俺と優人はテンションの高い3人を放置しようと提案。

 

 「そうだな。それよりも早く設置してくれ。日差しが強いから暑くて敵わん」

 

 「「「ならお前も働け」」」

 

 そして誠悟は完全にパラソルの設置とブルーシートの準備を俺達任せにしている。

 そう……今日俺達は海水浴に来ているのだ。

 

 「夏!夏と言えば海!海と言えば水着の女の子!」

 

 「この3つのワードが揃えば何をすべきか理解しているな?優人、勇紀」

 

 「海水浴……かな?」

 

 「いや、スイカ割りじゃね?」

 

 「「「違っがーーーーーーーう!!!!」」」

 

 優人と俺の回答は不正解の様だ。

 

 「健全な男子学生たるもの、もっとエロ!moreエロ!!エロい方向で物事を考えろーー!!!」

 

 「「moreエロ!!moreエロ!!moreエロ!!moreエロ!!」」

 

 ……誰かアイツ等を止めてくれ。

 

 「そもそも海に来ていきなり思考がクライマックスってどうなんだ?」

 

 「ええい五月蠅い!!そもそもお前や勇紀は周りにいる水着の女の子達を見てもビビビーっと感じないのか!?」

 

 うん。そう言う事は大声で叫ぶのを止めようか。一般のお客さん達(主に女性)の冷たい視線が向けられているのに気付け。

 

 「何より!!今日の海水浴には我がクラスの美少女達+各務森先輩が同伴しているんだぞ!!彼女達の水着姿を期待せずして何が海水浴か!!!!」

 

 「「そうだそうだ!!」」

 

 泰三は拳を強く握りしめて力説し、謙介と宮本が同調する。

 …コイツ等の言う通り、今日の海水浴は俺達男性陣だけではなくクラスメイトの女性陣と飛白さんも含まれている。

 そもそも海水浴に来るきっかけは我がクラスの委員長が『野井原さん、親睦も兼ねて泳ぎに行かない?』の一言から。

 そこに食い付いた泰三を皮切りに話がトントンと進んでいき、気付けば俺達も巻き込まれてた。

 まあ、時期的には期末テストが終わった直後だし、息抜き、気分転換としては丁度良いけど。

 

 「……その女性陣は未だに誰も来ないけどな」

 

 女は着替えに手間取る生き物らしいし。

 

 「ふふふ……その分期待も高まるというものだよ」

 

 周りの女性に視線をジロジロと移し、物色しながら期待に胸を弾ませている様子の謙介。

 

 「イヤオオオオーーーーーーー!!!!!!!!」

 

 「「「「「「うるせえ!!!!吼えるな!!!!」

 

 宮本が吠えた。で、俺達も吼える様な大声で注意した。

 

 「もうアレだ。あの3人沈めちまうか?」

 

 「サラリと怖い事言いますね直博君!?」

 

 普段の直博からは聞く事が無い様な台詞。あの3人の現状にウンザリしているのかもしれない。

 

 「あー…早く来ねぇかなぁ。いい加減想像だけでこの溢れ出るリビドーを抑えるのも限界だぜ」

 

 「分かる!分かるよ泰三!!このまま女性陣が来るまで待つのは辛いものだよ!!」

 

 「想像よりも本物を直視して血を上らせたり集めたりしたいぞ!」

 

 「……………………」

 

 …どうしよう?

 目の前の友人達を本当に沈めた方が良い様な気がしてきた。

 このまま放置していたらクラスメイトどころか、一般人にまで奴等の(エロ)の手が伸びそうで…。

 海水浴を楽しむために来ている他の人達に迷惑掛けそうだよなぁ。

 

 「お前等、クラスメイト相手に大ヤケドしちまったら後々辛いから程々にしとけよ」

 

 誠悟がブルーシートの上に座り、今か今かと期待している3人に声を掛ける。だが『ぐへへ…』と声を漏らし、若干涎を垂らしながら女性陣の水着姿を想像している3人の耳には届いていないだろう。

 

 「楽しみだなぁ。特に女子達の大きな胸の膨らみは俺達男子の注目の的も同然だからな」

 

 「服の上からでも分かるぐらいの大きさに形……」

 

 「最近の女子の発育はけしからんなぁ…ジュルリ……」

 

 ……大ヤケド確定じゃね?

 

 「確かに……緋鞠の胸は柔らかかったな」(ボソッ)

 

 んんんんん!?

 今、優人の奴ボソッと呟く様な小声だったけど凄く聞き捨てならん台詞を吐かなかったか!?

 その言葉を聞き逃さなかったのは俺だけでなく、泰三、謙介、宮本は既に行動に移っていた。

 

 「おい優人、貴様今何て言った?」

 

 泰三は優人の首に両手を添え、いつでも締められる体勢になっている。

 謙介、宮本は両手を組んで仁王立ちでそれぞれ優人の左右に陣取り、逃走経路を狭めていた。

 首を締めている泰三の目は据わっており、もし優人の呟きが聞き違いじゃなければ

 

 『この首、コキッとヤッちまうぜ』

 

 と態度で示していた。

 

 「げ…幻聴です。気にしないで下さい…」

 

 「そうか…」

 

 泰三は首に添えていた両手をゆっくりと離す。

 優人は嘘を吐く事で己の身を守る事が出来た。

 

 「何じゃれ合ってんのアンタ達?」

 

 そこへ(泰三、謙介、宮本が)待ち侘びたクラスメイトの声が。

 

 「「「うおおおぉぉぉぉぉっっっ………」」」

 

 3人は期待に胸を弾ませながら声のした方に振り向き

 

 「「「………はあ~~~~~っ……」」」

 

 肩を落とし、どんよりとした空気を周囲に放ち始め、盛大に溜め息を吐いた。

 

 「何?どうしたのよ?」

 

 「にゃ?何かあったの?」

 

 「変な奴等」

 

 真っ先に来た女性陣は九崎、遥、そして葉月の3人だ。

 

 「期待外れも良い所だよ」

 

 「イヤオ……」

 

 言葉に覇気が無い謙介と宮本。更に泰三が続けて言う。

 

 「俺達が期待してたのはスタイルが良いクラスメイトの水着姿を最初に拝む事だったんだよ」

 

 「……ほほぅ……」

 

 ……俺と優人、直博はブルーシートに座っている誠悟の側まで避難する。

 九崎の眉がピクピクと攣り上がり、頭に怒りマークが浮かんでいる様に見える。

 

 「ここは普通バニングスさん、月村さん、ローウェルさん、神無月さん、野井原さん、各務森姉妹、フローリアン姉妹、委員長の内の誰かが来るべきだろ!俺達はあのプルンプルンと揺れるであろう膨らみに期待してたんだよ!!なのに最初に来るのがぺったん娘達な上、身に着けてる水着がビキニだなんて身の程知らずにぐうえぇっ!!?」

 

 泰三の熱弁(?)は最後まで続かなかった。

 九崎が片手で首を掴み、そのまま泰三を持ち上げたからだ。

 ……凄ぇ腕力。男1人を軽々と持ち上げるなんて。

 

 「凜子…高校生になって何だか逞しくなったなぁ……」

 

 そんな九崎を見詰める優人の視線はどこか哀愁を帯びていた。

 

 「ふふ……ゴメンなさいねぇ。私達は揺れる程大きくなくて」

 

 「むぅ……エッチな目で皆を見ると大変な事になるよ柾木君!」

 

 「わ、私まだ11歳だし!!そこまで胸の大きい11歳なんている訳無いし!!//」

 

 少しずつ力を込めながら首を掴む九崎に、至極もっともな意見を口にする遥。

 で、やや顔を赤らめて吼える葉月の言い分は理解出来る。

 葉月は飛び級で風芽丘に入学してきたのであって、実際は11歳……小学校5~6年生相当なのだ。

 小学生の時点で胸の大きい奴なんてデジタル打ちのおっぱいさんぐらいしか思い浮かばねえよ。

 それはそうと泰三の顔色がどんどん悪くなっている。息が出来ず、首を掴む九崎の手をバシバシと叩いたり、宙に浮いている足をバタバタさせているが大した抵抗になっていない。

 

 「く……九崎さん……」

 

 「何?」

 

 お?

 泰三が九崎に何か言う様だ。

 おそらくは謝罪の一言だろう。ここで言わないと自らの命に関わるからな。

 

 「り…立派なオムネをお持ちですね」

 

 コキッ

 

 あ、泰三の首がコキッとされた。

 そのまま九崎が首から手を離すとドサリと砂浜に崩れ落ちる泰三。

 

 「この!!この!!嫌味のつもり!?悪かったわね!!揺れない胸のクセしてビキニ着て悪かったわね!!」

 

 地面にうつ伏せで倒れる泰三をゲシゲシと蹴ったり踏んだりする九崎。

 泰三……馬鹿なヤツだ。もっと他に選ぶべき言葉が選択肢に無かったのか?

 

 「み…宮本!僕達はひと夏のアバンチュールを得るためにナンパに勤しもうじゃないか!な?な?」

 

 「そ、そうだな!!行くぞ謙介!!い、イヤオオーーーー!!!!」

 

 謙介と宮本は泰三の二の舞になる前に逃げ出した。……逃げ出すのに用いた理由がナンパというのもアイツ等らしいな。

 

 「待たせたわね……って、何やってんの凜子?」

 

 「何かあったのですか遥さん?」

 

 エロ思考3人組の内、1人が撃沈、2人がこの場からいなくなってからすぐにアリサ、アミタ、その他女性陣が全員揃ってやってきた。

 

 「「「「……………………」」」」

 

 クラスメイトと飛白さんが集まったその光景は……目を奪われざるを得ない。

 事実、コチラに向かってくるまでの間、女性陣を見た一般客の男性のほとんどがコチラに視線を向けているではないか。

 ビキニタイプの水着で肌の露出が多い子もいればワンピースタイプの水着で露出が控えめな子もいる。

 

 「ちょっと変態を成敗してたところよ」

 

 ようやく蹴りつけるのを止めた九崎。

 若干息を切らし、肩を上下させている。

 

 「……………………」

 

 屍と化した泰三を見下ろして、奴自身が見たかった光景が今目の前に広がっているのに見る事が出来ない現状には同情してしまう。

 もう少し控えてればそんな目に遭わずに済んだのに………。

 

 

 

 「せいっ!」

 

 バシッ!

 

 「なんのっ!」

 

 ポスッ!

 

 「ナイストスよアミタ!!」

 

 バシッ!

 

 「甘いわよ!」

 

 ポスッ!

 

 「……………………」

 

 現在、俺はブルーシートに座りながら目の前の女性陣が繰り広げているビーチバレーボールの試合を観戦しています。

 対戦しているのはアリサ、葉月コンビの『くぎみーチーム』とアミタ、キリエコンビの『フローリアン姉妹チーム』である。

 お互いのチームの実力は伯仲しており、見ごたえのある試合を展開している。

 

 「いや……絶景かな絶景かな。ぐへへ……」

 

 そんな俺から少し離れた所では泰三がビーチバレーを行っている選手の動きを目で追っている。

 ……首から下は砂浜に埋められた晒し首状態で。

 コイツが気絶してる間に九崎と飛鈴ちゃんが埋めちゃったんだよねぇ。

 あの2人、結構仲良さそうに見えるのは俺だけだろうか?

 

 「おおぅ!揺れとる!揺れとるよ!!最高だとは思わんか勇紀!?」

 

 「…そうですね」

 

 コイツがビーチバレーを見る理由は単純明快。女性陣が動く度に揺れるオムネ様を堪能するためだ。

 

 「はあっ!」

 

 アリサがスパイクを打つためにジャンプし、手を振り下ろすとまあ……揺れるねプルンと。

 

 「うひょっ♪」

 

 奇声を発して歓喜する泰三。

 それをアミタが止め、キリエがトスを上げて、再びアミタが跳んで手を振り下ろす。

 

 「熱血お姉ちゃんスパイク!!」

 

 「ふひひっ♪」

 

 …やっぱり揺れるオムネ様。そしてだらしない表情を浮かべる泰三。

 ボールが弾丸の様な勢いでクギミーチームのコートに迫るが葉月がボールを拾う。

 アリサがトス、そして人一倍身長が低くてもホワイトエンジェルとしての身体能力を活かし、皆と同程度の高さまで跳んでスパイクを打つ。

 

 「うりゃあぁぁっっ!!」

 

 葉月の放ったスパイクはコート内ギリギリに落ちた。

 コートの外に出ると思ったのであろうアミタとキリエはボールを見送ったせいで取る事が出来ず、くぎみーチームに1点加算された。

 

 「ふざけんなコラ!!俺は揺れが見たいんだよ揺れが!!揺れない葉月なんざお呼びじゃねえんだよ!!」

 

 思いきりブーイングを浴びせる泰三。

 

 「死ねええぇぇぇっっっ!!!!」

 

 その辺に落ちてた木の棒を投げる。

 

 「ぶげっ!」

 

 木の棒は泰三の顔面に直撃。再びコイツは意識を失った。

 

 「…彼を連れて来たのは間違いだったんじゃないのですか?長谷川勇紀」

 

 「…俺に言わないで下さい飛白さん」

 

 俺と同じくブルーシートの上に座り、静かに観戦していた飛白さんが口を開く。

 ビーチバレーをしている面子以外のほとんどは海で水の掛け合いをしたり、泳いだりして海を堪能している。

 誠悟と直博は一通り女性陣の水着姿を眺め、目の保養を行ってから適当に泳いだ後、海の家に買い出しに行った。昼食の調達だ(誠悟はダルそうにしてたが直博が強制的に引っ張っていった)。

 謙介と宮本は未だに戻ってくる気配が無い。どこでナンパしてるのやら…。

 

 「しかし、こういう日常も悪くは無いものですね」

 

 微笑を浮かべながら答える飛白さん。

 

 「何か、こういう休日の過ごし方はした事無いって言う様な言い方ですね」

 

 「ありませんよ。私の立場上、休日にそういう事をするヒマがあるなら自己鍛錬に時間を費やしてきましたから」

 

 あー……成る程。

 マジメな飛白さんなら遊ぶよりも鬼斬り役としての使命を優先するのも頷けるからなぁ。

 

 「ですから先日、街へこういう水着を買いに出たのは初めての経験でしたね」

 

 飛白さんは自分の胸元に視線を下ろし、俺もその視線を追い掛ける様に飛白さんの胸元に視線を移した。

 ………デカい。

 これでもかっていうぐらいに強調してる2つの膨らみは今日海に遊びに来てる女性陣の中でトップクラスのデカさを誇っている。

 それにデカい分、胸の谷間も深そうだし。

 ガン見してはいけないと思いつつも視線を逸らせない。これも男の(サガ)というやつか。

 

 「……何処を見ているのですか?//」

 

 はっ!?

 気付けば飛白さんがジト目で俺を睨んでいるではないか。ささっと両手で胸元を隠す仕草をしながら。

 

 「……破廉恥です//」

 

 「すいません!マジすいません!!」

 

 「……あの3人程ではないにしろ、貴方も男なんですね」

 

 ううぅぅぅ……軽蔑されたかな?されたよな?

 これで距離を取られる様ならちょっとショックだなぁ。

 

 「…飛鈴が海ではしゃいでいて良かったですね。もしこの光景を見ていたら…」

 

 ですねー。今頃俺は飛鈴ちゃんお得意の飛び蹴りの餌食になっていたのかもしれない。

 もっとも、そんなのを食らってやるつもりは無いから俺は回避行動をとらせてもらうが。

 で、話題に上った飛鈴ちゃんはというと……

 

 「ほらほら駄猫~♪しっかりしがみついてないと海に落ちるわよ~♪」

 

 「ぐっ、や、止めぬか腰巾着!」

 

 「『お願いします飛鈴様』って言えば考えてあげるわよ~♪」

 

 「だ、誰が貴様に頭を下げるか!!」

 

 「あっそ…んじゃ、えいっ!」

 

 「ぬあっ!?わ、若殿~!!」

 

 海面からシャチの浮き袋を揺らし、野井原を海に落とそうとしている飛鈴ちゃん。

 野井原は優人に必死に助けを求めている。

 

 「……飛鈴ちゃん、活き活きしてるなぁ……」

 

 「緋鞠さんとの相性は悪いですからね」

 

 「そもそも何で飛鈴ちゃんは野井原とあんなに仲良くないんですか?」

 

 これは以前から疑問に思ってた事だ。

 

 「まあ、緋鞠さんが各務森の神社に訪れた時、私と少々ありまして…。あの子、私に凄く懐いているので私と揉めた緋鞠さんを敵視してるんですよ」

 

 ええ、ええ知ってますよ。誰から見ても分かるぐらいのシスコンですもんね。

 

 「それにあの子は妖の事自体あまり良く思っていませんからね」

 

 「…飛白さんはどうなんです?野井原に対して」

 

 「緋鞠さんが天河の護り刀である以上、敵対するつもりはありません。が、彼女の内に眠る妖の本性はあまりにも危険過ぎます。もし彼女が闇に呑まれ、人々に害を為す存在へと堕ちるのならその時は…」

 

 ……主である優人の意思を無視してでも野井原を討つ気ですか。

 鬼斬り役として飛白さんの決断は当然だろう。堕ちた野井原はそれだけ厄介な存在になるのだろうから。

 もし放っておいたら無関係な人々に危害が及ぶから早々に処分するに違いない。

 ただそうなった場合、優人との決別は確実だろうなぁ。アイツなら最後まで野井原を助けるために奔走するだろうし。

 そうなった場合、俺は飛白さん側につくか優人側につくか……。

 

 「(そんな未来が来ないのが一番なんだけどな)」

 

 浮き袋にしがみつきながら必死に威嚇してる野井原と、浮き袋を揺らしまくって笑顔で追い詰める飛鈴ちゃんの光景を見ながら密かに思うのだった………。

 

 

 

 「直博も誠悟も遅いなぁ」

 

 2人が昼食を買いに海の家に向かってしばらく経つのだが、一向に戻って来ないので俺は探しに来ていた。

 何処まで買いにいったんだアイツ等は?

 俺が海の家まで近付いて来た時、目的の2人の姿が見えた。

 

 「直博、誠悟、遅いって」

 

 「悪ぃ悪ぃ。ついさっきまで並んでたんだよ」

 

 「俺達以外の客も結構いたからな」

 

 そうだったのか。

 

 「後、俺達が海の家に来る少し前まで10歳前後の少女がカキ氷を15杯以上おかわりしてたらしいぞ」

 

 「……大丈夫なのかその子?」

 

 「顔色が悪かったっていう以外は普通だったみたいだぞ」

 

 いやそれ矛盾してるだろ!?顔色が悪いっていう時点でもう止めるべきだろ!?

 

 「まあ店を出て行く時も特に異常は見当たらなかったらしいし、俺達が気にしても仕方ないだろ」

 

 そりゃそうだけどな。

 

 「それより勇紀。謙介と宮本はもう戻ってるのか?」

 

 「ん?いんや、まだだけど」

 

 「だったら探して来てくれないか?一応アイツ等の分の昼食も買ってるんだ」

 

 「ん、承った」

 

 直博、誠悟と共に戻ろうかと思っていたがナンパに勤しんでいると思われる2人を探すため、俺は2人とは反対の方向に歩き始める。

 キョロキョロと見回しながら探しているが、如何せんこの海水浴客の数だ。一筋縄ではいかない。

 あー、堂々とサーチャー使って探せないのが恨めしい。

 見聞色の覇気使おうにもこう人が多いと…。

 

 「うーん……一体何処でナンパしてるんだアイツ等は?」

 

 実際にナンパしてるのかは知らんけど、多分してると思う。

 こういう時は有言実行だからなアイツ等。

 一般客の中には女性だけで遊びに来てるグループもチラホラ見掛けるんだけどその中に謙介、宮本の姿は無い。

 俺達が陣取ってる場所からは結構離れた所にいるのに2人の姿を見掛けないとはこれ如何に?

 

 キュルルルゥゥゥゥゥ…

 

 「うぅ…お腹も空いてきた」

 

 もうアイツ等放置して戻ろうか?

 そう思った矢先の事だ。

 

 「イヤオオオオーーーーーーー!!!!!!!!」

 

 決して聞き違える事の無い馬鹿の雄叫びが聞こえてきた。

 雄叫びがした方向はアッチか。

 足早に進んでいくと、ようやく目的の2人…謙介と宮本を見付けた。

 

 「だからさ、僕達と一緒に遊ばない?」

 

 「そうそう!絶対君達がつまらない思いする事は無いからさ」

 

 ……何てお約束的なセリフで声掛けてんだアイツ等は。

 俺は呆れ顔になりながらも、コイツ等に声を掛けられ時間を無駄に割かれているであろう女の子達に目を向ける。

 

 「あの…私達今から用があるので…」

 

 「……………………」

 

 エメラルド色のロングヘアを靡かせる女の子がやんわりと断り、これまたロングヘアの子と同じエメラルド色のショートカットの子は2人を鬱陶しそうな目で見るだけ。

 

 「いやいや、君達海に来てまだ間もないでしょ?」

 

 「うんうん。俺達は君達が来た直後からずっと見てたんだぜ」

 

 この場を早く離れたいという雰囲気を出す2人をしつこく呼び止める馬鹿2人。

 てか来た時から見てたって……。

 

 「(はぁ…)」

 

 流石に見て見ぬフリは出来んし、コイツ等連れて帰らんと昼食が食えないので謙介と宮本に拳骨を落としてから強引に割り込む。

 

 「やっと見つけた。お前等、もう昼メシの時間だから皆のいる所に戻るぞ」

 

 「「ぐううぅぅぅぅっっっ……」」

 

 頭を押さえ、その場に蹲りながら痛みに耐えている2人に声を掛けてから俺はコイツ等がナンパしてた2人の女の子に向き直り、コイツ等の代わりに謝罪する。

 

 「どうも、ウチの連れが迷惑を掛けた様で済みませんでした」

 

 「「……………………」」

 

 「コイツ等にはよーーーーーっく言い聞かせておきますので!!」

 

 「「……………………」」

 

 「何かコイツ等に変な事されませんでしたか?」

 

 突然の出来事に言葉を失い、ポカーンとしてた2人だったがロングヘアの女の子がいち早く我に返り言葉を返してくれる。

 

 「い、いえ!声を掛けられただけで変な事は特に何も…」

 

 「…ケツアゴがキモい。あとウザかった」

 

 「ホント、すいません!コイツ等は俺が責任もって連れて帰りますから!!そちらは何か用事があるんですよね?こっちは気にせず早く行って下さい!!」

 

 「じゃあお言葉に甘えて。ありがとうございました。行こ、なっちゃん」

 

 「…ありがとう」

 

 ロングヘアの子が深く頭を下げ、ショートカットの子は軽く頭を下げてこの場を去って行く。

 

 「むぐぐ……勇紀、何故邪魔をするんだい!!」

 

 「お前に俺達のナンパを止める権利があるのか!?」

 

 「ある」

 

 「「………あるのかい?(あるのか?)」」

 

 聞き返してきたが俺は無視し、コイツ等を連れて帰る事にした。

 

 「勇紀、僕も宮本も君に命令される云われは無いよ」

 

 「そうだそうだ!!」

 

 「あの2人、双子だろうし、凄く可愛かったのに!」

 

 「もう会えないかと思うと……逃がした魚は大きいんだぞイヤオオオオーーーーーーー!!!!」

 

 「……心配しなくても1学期末か2学期の最初に会えるだろうよ」(ボソッ)

 

 「「何か言ったかい?(何か言ったか?)」」

 

 「いや、何でも……それよりお前等は戻る気が無いと?」

 

 「「当然!!」」

 

 「そうか……」

 

 もう少し賢い奴等だと思ってたんだが仕方ない。コイツ等に言う事を聞かせるため切り札(ジョーカー)を使わせて貰うとしよう。

 

 「もしお前等が俺の言う事を聞かないと言うのなら…」

 

 「「???」」

 

 「阿部先生にお前達を指導してもらう事になる」

 

 「戻るぞ宮本!!今すぐ!!今すぐにだ!!」

 

 「お、おい謙介!?一体どうしたんだよ!?」

 

 「良いから早く戻るぞ!!このままだと僕達は掘るトコ掘られて人生観を完全に変えられてしまうんだ!!」

 

 疑問に思う宮本を引っ張って謙介は戻っていく。

 阿部先生の名前を出すだけでこの変わり様…最早謙介の中で阿部先生という存在は黒歴史なんていう生易しいものではない様だ。

 

 「とにかくこれで昼メシにありつけるな」

 

 俺は物凄い勢いで戻っていく2人の背中を追い掛け、ゆっくりとこの場を後にした………。

 

 

 

 「いやー、今日は思いきり遊んだわねぇ。おかげでもうヘトヘトよん♪」

 

 満足そうな表情のキリエ。

 

 「今日は日差しが強かったけど、日焼けせずに済んで良かったわ」

 

 確かにテレサは肌に気を遣ってたなぁ。

 

 「もうじき夏休みだし、また海に来てもいいかな?」

 

 「そうね。今年からはアイツもいないからわざわざ海水浴のために遠出する必要も無くなったしね」

 

 「「「「「「「「「「アイツ?」」」」」」」」」」

 

 アリサの言葉に反応するのは俺、すずか、テレサ、謙介、誠悟、直博以外の面子……海中出身じゃないメンバーだ。

 

 「アンタ達は運が良いわよ。私達が卒業した海中には決して好きになれない奴がいたから」

 

 「一部の女子は一時期好いていたけどね」

 

 「西条君、なのはちゃん達に迷惑掛けてるんだろうね」

 

 若干表情を歪めながらアリサ、テレサ、すずかが言い、どんな奴なのかを事細かに説明する。

 

 「ふむ……その様な男が以前はこの街におったのか」

 

 3人の話を聞いた野井原が最初に口を開く。

 

 「ま、今そんな奴がいた所で私がいる限り飛白姉様には指一本触れさせないけどね」

 

 飛鈴ちゃんなら問答無用で物理的に攻撃するだろうけど、西条はその行為すら『照れ』『ツンデレ』に変換してしまう。

 生半可な接触は返って奴に目を付けられる事になるのだ。

 現状での対処法は鉄先輩に連絡して任せるしかない。

 

 「っ!!」

 

 ゆっくりと歩いていた野井原の顔が苦痛で歪む。

 野井原は現在足に包帯を巻いている。怪我をしたからだ。

 本人は大丈夫だと言ってたが、主である優人は凄く心配していた。

 怪我の理由を尋ねてみたが、野井原は言葉を濁すだけで、優人に聞いてみたら以前山で出会った妖に襲われたとの事。

 飛白さんも飛鈴ちゃんも妖の気配は感じたものの野井原が優人の側にいたから手を出す様な事はしなかったらしい。

 この後俺は優人の家まで着いて行き、天河宅内で野井原の足を治療する予定だ。

 ただ、野井原を歩いて帰らせるのはアレなのですずかが自宅にいるノエルさんに連絡し、車を出す様に言ってたので俺達はその待ち合わせ場所まで移動している最中だ。

 あと、フローリアン姉妹、謙介、誠悟、直博、各務森姉妹といった海鳴在住の面子以外はアリサが連絡してこちらに向かっている鮫島さんの運転する車に送迎して貰う手筈になっている。

 で、待ち合わせ場所について少しの間待機していると

 

 「すずかお嬢様、お待たせいたしました」

 

 程無くしてノエルさんが到着した。

 

 「ありがとうノエル。じゃあ緋鞠ちゃん、車に乗って」

 

 「済まぬなすずか」

 

 野井原が車に乗り込み続いて優人、俺が後部座席に、助手席にはすずかが乗り込む。

 

 「皆、今日はお疲れ様」

 

 車の中から別れの挨拶を済ませてゆっくりと車は動き出す。

 

 「もうすぐ終業式…それから夏休みか」

 

 「勇紀は何か予定立ててるのか?」

 

 「今の所は特に…気が向いたら何処かに出掛けるかな」

 

 管理局の仕事は特に無いけど、夏休みの間はちょくちょくミッドに顔を出すのも良いかもしれないな。

 

 「優人は?何して過ごすんだ?」

 

 「俺もまだ予定は何も決めてない。夏休みの宿題だけは早めに終わらせようかって考えてるぐらいだな」

 

 宿題か…。俺は8月に入るまで毎年片付けてたから今年もそうする予定だ。

 

 「すずかは?」

 

 「私も特に無いかな。家で猫達とまったり過ごす予定だよ」

 

 「ほぅ?すずかの家では猫を飼っておるのか?」

 

 『猫』というワードに野井原が食い付いた。猫の妖だけであって気になるのか?

 

 「うん。沢山飼ってるよ。おかげで友達からは猫屋敷なんて言われるぐらいだし」

 

 「ふむ。今度伺っても良いか?私も多少飼っているという猫に興味がある」

 

 「勿論!大歓迎だよ!」

 

 …この2人、意外に仲良いよね。

 野井原はすずかが普通の人間じゃないって事に気付いてるっぽいけど、今の所すずかに危害を加える様な事はしていない。

 優人に対して害を為す存在ではないと認識しているからだろう。

 和気藹々とした空気が流れる中、車は天河宅へと向かい、進むのだった………。

 

 

 

 次の日…。

 

 「長谷川勇紀!!」

 

 「ちょっと勇紀さん!!」

 

 「聞いたよ勇紀君」

 

 翠屋にて俺はくえすとリズ、美由希さんに思いきり詰め寄られています。

 

 「何で私を差し置いて他の女と海水浴になんて出掛けてますの!?」

 

 「そうですよ!!私も一緒に遊びたかったです!!」

 

 「昨日だったら私のシフトはオフだったのに」

 

 「あー……すいません」

 

 3人を誘う事については素で忘れてました。

 

 「どうせ貴方の事ですから他の女の水着姿を見てデレデレしてたんでしょう!」

 

 「エッチな目で見るのはいけない事ですよ!」

 

 「水着の鑑賞会はさぞ楽しかったんでしょうねぇ…」

 

 3人共、言いたい放題だなオイ。

 

 「てかその言い方だと俺は女子の水着姿目当てで海水浴に行った風に捉えられて誠に遺憾なんですが?」

 

 「じゃあ女子の水着を見てデレデレしなかったと誓えますの?」

 

 「当然!」

 

 俺はキッパリと言い切る。

 

 「本当に?女の子の胸元とかお尻を見てムラムラしたりしなかった?」

 

 「当たり前です!」

 

 美由希さんの言葉にも即座に返答。

 飛白さんの胸元をガン見したという事実はあるがムラムラなんてしてねえし。

 

 「ラッキースケベなイベントに遭ったりは?」

 

 「リズよ。俺はゲームやアニメ、マンガ、ラノベの主人公じゃないんだぞ」

 

 経験してみたいとは思うが、そういうのは主人公属性が無いと無理でしょうに。

 その後も間をおかずに問い詰めてくる3人。

 今日翠屋に来たのは間違いだったか?

 あと士郎さん、桃子さん、松尾さん。コッチ見るだけじゃなくて少しは助けて下さいよ………。

 


 
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