「魔王の友と部下は優秀です」
マナ。それは人、魔族、昆虫、動物、花、大地、水、大気に満ちている物質。人はこれらを利用し魔法を行使する。マナの濃度が高ければ魔法の威力はでかくなり、濃度が低ければ弱くなるのだ。そして古からマナを伝う病があった。マナ出血熱。人や魔族
に感染することで高熱を発症。マナが枯渇するまで全身から出血させる病原菌だ。石や昆虫、花などは朽ちるだけである。故にマナ出血熱は非常に危険だ。発症した地域は壊滅的被害が出るのだ。そしてそれが今、魔王の国で起きていた。
「もっと私を大切に扱うべきだったな」
冒険ギルドの男は妖しく笑う。彼はすでに海上都市の外へと避難していた。振り返り、都市内部の惨状にほくそ笑む。
彼は数年魔王のために冒険ギルドを運営してきたと自負していた。しかし、そう思っているのは彼だけである。職務は怠慢し、横領や汚職など行ってきていた。魔王はそれをすべて知っており、故に国外へと追放したのだ。それでも彼の功績で海上都市や今の国の豊かさである。魔王もそこを汲み取り、海上都市に新設した冒険ギルドへの推薦したのだ。
その報いも彼は仇で返すこととなった。
男はせり出た腹を揺らしながら、首都を目指す。自身がいるべき場所を奪った女への復讐を行うためだ。
「殺す前に犯してしまうのもいいなぁ。具合が良ければそのまま俺の妻としてやろう。ぐっひっひっひ」
だが、彼の野望は叶うことはない。
「お前か。主犯は」
冒険ギルドの男の前にラガンが立ち塞がる。誰が見ても健常とは見えない顔つき。それ故に男は油断した。バレたとしても逃げれば済む。そう安易に考えたのだ。
「いえいえ、私は――」
「霊将を知っているか?」
冒険ギルドの男の顔色は悪くなる。
「我々の使命の中にマナ出血熱を撲滅するというのがあってな」
ラガンは言う。20年くらい前からマナ出血熱を利用して、暗躍するものがいると。霊将にはそれを見抜く眼力があると。
「そんな出鱈目を」
「出鱈目ではない。その病原菌をばらまいた者達は自身が感染しないために、霊石を持って行う必要がある。しかし、これはマナを持つ人間が使うと拒絶反応が出る。体内のマナのめぐりが悪くなるんだ。それ故に肌があれるのだ。お前のその脂肪のつまった腹の肌が荒れているな」
男は逃げ出す。全力疾走で逃げたと、確信して笑う。いくら霊将といえど、健常ではない老人が追いつけるはずがないと笑う。
「こんな国! 俺の功績を讃えぬ国は滅んでしまえ!」
「それが遺言ね」
ラガンは追いつくことは出来なかった。しかし、神霊である白虹の姫は容易く彼の前に立ちふさがる。
「あ? え? ちっくしょー」
彼は杖を構えて魔法を放った。つもりだったろうが魔法は顕現しない。
「あ……れ?」
「知らなかった? 霊石を持たせた人に聞かなかった? 霊石を持つと魔法は二度と使えなくなるって」
白虹の姫は手刀で男の首を撫でる。そしてそのまま振り向くこと無くラガンの元へと歩んでいく。男は驚きに目を見開き、振り向こうと――。
水が噴き出る音と鈍い音が2回鳴った。
「さあ、ラガン行きましょう?」
「……ああ」
ラガンの顔色は土気色になっている。そんな彼の様子に白虹の姫は諦めるように笑う。
「最期くらい、きちっと決めなさい」
「そう……だな」
魔王の作戦は防戦しながら、敵の拠点を発見して魔神騎軍団を結成して、的確に落として撤退するというモノ。そしてもう一つあった。
旧エルニージュ領では、かつてエルニージュの国民だった者達が声高に叫ぶ。
「今こそ独立を勝ち取る時だ。こんな惨めで奴隷のような生活はごめんだ今こそ立つ時だ」
1人の男が屋根の上で叫ぶ。国を取り戻そうと。
エルニージュはカンクリアンに支配されていた。それなりの軍と兵糧はあったのだが、それらはカラミティモンスターによって大損害を被り、カンクリアンに併合される形となった。カンクリアンは魔王の仕業だと吹聴したが、彼らは知っていたのだ。カンクリアンがカラミティモンスターを刺激したことを。
彼らと友好国であったアトランディスは彼らを陰ながら支援していた。お陰でメアドロイドを持ち、カンクリアンに対向する手段を得る。しかし、カラミティモンスターの大損害の影響からか国民は奮起するのに躊躇していた。
「そこで俺の出番ってわけだ」
路地裏で演説を聞いていた男は口元歪める。頭巾を深くかぶっているため顔は見えない。時には暗殺者。時には諜報活動。時には魔王の身辺護衛。それらをこなすのが彼だ。彼には彼と同じような仲間が数人いた。彼らは今はカンクリアンの内地に入り、基地の位置を調べている。
彼はいとも簡単に屋根に上り、屋根伝いに移動していく。彼の視線の先にはカンクリアンの歩兵部隊。彼は視線を演説している男へと向ける。男も気づいたのか、歩兵部隊を指さし「自由を勝ち取れ」と叫ぶ。
歩兵部隊は長い槍を突き出すように構えて前進する。そんな様子に民は震え上がり、及び腰になった。
(今回もダメだったか?)
男は落胆の溜息を漏らし、お利用と視線を彷徨わせる。
そこに1人の青年が飛び出しくのが入り込んだ。何事かと注視していると、彼は歩兵部隊の前に飛び出し体を広げた。まるで自身が壁だと言わんかのように。そんな様子に敵は嘲笑し、容易く槍を突き刺しだ。それも一本や二本ではない。十も超える槍で突き刺し、空へ抱え上げて笑い出す。罵倒し、絶命してもなおもてあそんだ。
エルニージュの民は激昂する。1人、また1人と飛び出していく。怒り狂い。また1人。それらは容易く迎撃されていく。だが、ついにそこにいた人々は堰を切ったように流れだしていく。
「ようやく俺の出番だな」
そう告げると彼はその流れにヌラリと入っていく。
彼の使命はエルニージュの独立の手助けだ。
魔王の元へ一通の竹簡が届く。魔王はそれを素早く広げ目を走らせた。
「前線の基地を発見だそうだ。シルフィア、魔神騎の出番だぞ」
「待ってました!」
シルフィアはメイド服を脱ぎ捨てる。中からは裸体ではなく。彼女の普段着だ。
「宰相。魔神騎軍団に出撃の指示を出せ」
「了解です」
「さあ、出るぞ」
~続く~
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そろそろ終わらせたらなって
今までのお話
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