3章 ~歩き出す者~
5話「旅の始まり」
ついに旅立つ時が来た。
目の前に続く道。踏み荒らされただけのようにも見えるが、それはしっかりと次の村に続くけもの道だ。
見送りにはサクヤの他にも多くの村人が来ていた。
人妖の中には人間や妖怪も何人かいる。この村は、陽介の事も快く歓迎してくれたのだ。
最初こそ行動範囲はサクヤ達の家と鍛錬場だけだったが、村へと足を延ばした陽介を、村人達は笑顔で迎えてくれた。
服装がやはり珍しかったようだが、深く詮索されるようなことはなかった。
事前にサクヤが言い含めてあったのかもしれない。
だが、陽介はそのおかげで村人達と打ち解けることができたのだ。
アトリももちろん、村の人気者だった。
どこか放っておけない危うさと、いつでも元気な明るさからか、自分の子供のように可愛がってもらっていたとか。
「アトリ、ちゃんと元気に帰ってるんだよ」
「陽介!アトリちゃんをよろしくな」
「2人とも気をつけてね」
「町に着いたら手紙ちょうだいね、アトリ」
聞こえる声はさまざまだ。
陽介は、改めてこの暖かい村に感謝した。
最初に来たのがこの村で、本当に良かった。そう思った。
(ここへと導いてくれたあの猫又にも、"また"会えた時にちゃんとお礼を言わないと)
おそらく人妖であろう猫又に"また"と誓った再会。
それが果たされるかは分からない。
ただ、再び会う事になるだろうという根拠のない予感が、陽介にはあった。
「じゃあ、行こうか」
「うんっ!」
ついに旅が始まる。
陽介は、元の世界へと帰る手がかりを探すために。
アトリは、両親に会うために。
行き先は、北の大陸。
そこに手がかりがあると、アトリの両親がいると信じて。
「頑張ってくださいね、2人とも」
「はいっ!」「うんっ!」
サクヤの激励に、2人は元気良く応える。
不安はある。しかしそれ以上に胸が高鳴る。
2人は共に、長い旅への第一歩を踏み出し、
――― ズテッ「ぴぎゃっ」
アトリがこけた。台無しである。
素早く起き上がったアトリは、振り返ることなく進み始めた。
単に恥ずかしいからだろうが。
陽介も苦笑いを浮かべるサクヤ達に一礼して、それを追った。
「本当に、大丈夫かねぇ」
「大丈夫、きっと元気に帰って来ますよ。大きくなって」
締まらない旅立ちに多少の不安を覚えたサクヤだったが、その言葉には自信が込められていた。
「思い出すねぇ、トウハとミサキさんの時のことを」
「……そうですね」
北の大陸へと旅立った2人。そのまま連絡がなくなった2人。
同じく北の大陸へと向かったアトリと陽介とその2人の姿が重なるのは、仕方のない事だ。
それでもサクヤの自信は揺らがなかった。
「きっと4人揃って帰って来ますよ」
実際には3人かもしれない。陽介は元の世界へと帰っているかもしれないのだから。
それでもサクヤはまた"4人"に会える事を、心から願っていた。
―――――
「やーっと、動き出したみたいだニャ」
村近くの木の上。そこには1人の猫又の姿が。
「あんまり長く村にいるから、どこか別の所に行くところだったニャ」
やれやれとため息をつく猫又。しかしその顔はどこか楽しそうで、
「でも待った甲斐はあったニャ。これならしばらく楽しめそうだニャ」
ニヤリと笑う視線の先には、陽介とアトリの姿。
「この危険に満ちた妖世を、あの2人はどう歩いていくのかニャ?」
――― 妖世の旅が、始まった
あとがきらしきもの
どうも、ray-Wです。
ここまで読んでいただいた経緯は様々かと思いますが、まずはお礼を。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回の章では旅立ちの試験から出発までを書かせていただきました。
『人妖』と『妖術』という設定について触れましたが、説明下手な私の文では、伝わりづらかったかと思います。
『人妖』は小説でのオリジナルですが、『妖術』という言葉はアプリよりいただいたものです。
ただ、あくまで言葉をいただいただけなので、必殺技的なものという解釈は似てますが内容は異なります。
ですのでアプリの方を知らなくても問題はありません。
今後多くのオリジナル設定が出て来ると思いますが、極力世界観に馴染むよう頑張っていきたいです。
いよいよ旅に出発という事で、他の妖怪もどんどん現れるでしょう。
ペースはゆっくりですが、4章もまたよろしくお願い致します。
プチ書き)
猫又さん、半月も何やってたんでしょうね…
プチ描き)
今回は友人にかまいたちのサクヤさんを描いてもらいました。
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これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。
"人妖"の女の子の容姿等は、GREEのアプリ『秘録 妖怪大戦争』を参考にしています。
※既にこのアプリは閉鎖となっています。
拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。
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