No.706388

妖世を歩む者 ~3章~ 4話

ray-Wさん

これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。
"人妖"の女の子の容姿等は、GREEのアプリ『秘録 妖怪大戦争』を参考にしています。
※既にこのアプリは閉鎖となっています。

拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。

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2014-08-05 16:45:38 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:457   閲覧ユーザー数:457

3章 ~歩き出す者~

 

4話「妖術の力」

 

「なんなんですか、その妖術って」

 

人妖に与えられるもの、つまりサクヤやアトリも持っているのだろう。

 

「簡単に言えば、必殺技、ですね。人妖には、1つだけ妖怪本来の力に関係した妖術が備わっているのです」

 

「妖怪本来の、ということは、妖怪も持っているようなものなのではないですか?」

 

「確かに妖術によっては、妖怪に及ばないものもあります。しかし、強い妖術であれば妖怪を凌ぐことも、十分に可能です」

 

つまり、人妖と妖怪の戦いになれば、妖術の存在がその行方を左右する可能性が高い、ということだ。

 

「サクヤさんは、どんな妖術を持っているんですか?」

 

「それは、……秘密です」

 

指を口に当て、内緒のポーズのサクヤ。陽介はコケそうになるのをなんとか堪えた。

 

「アトリも、妖術を持っているんですよね?」

 

サクヤに妖術を聞くのを諦めた陽介は話題をアトリへと移した。

鍛錬の中で妖術を使った様子はなかった。もしかすると、鍛錬では使わない決まりだったのかもしれない。

 

「あの子はまだ、自分の妖術を良く知らないんです」

 

「知らない、ですか」

 

使えない、ではなく知らない。その言い回しが陽介は気になった。

 

「サクヤさんは、アトリの妖術を知っているんですか?」

 

「私も良くは知りません。妖術を知る機会が来るかどうかは人妖それぞれですので」

 

知る機会がなければ妖術を使えないに等しい、ということだ。

 

「ただ、小さい頃にそれらしいものを見たことがあります。アトリは覚えていないでしょうが」

 

それを教えないのは、『自分で見つけなさい』というサクヤの厳しさ。

その厳しさが、アトリを強くしているのだ。

そんな2人の関係に、陽介は自然と笑みがこぼれた。

 

「人妖には、人の側につくものも、妖怪の側につくものもいます」

 

その厳しさは陽介にも大切なことを教えてくれる。

 

「人妖との戦いになれば、相手がどのような妖術を使うかが重要になります」

 

相手がサクヤほどの力を持った上で妖術を使うなら、と考え陽介はゾッとした。

その強さを身をもって知った分、よりリアルな想像ができる。

 

「アトリは旅の中で、きっと妖術を開花させるでしょう。今の妖世を旅するには、それが必要になりますから」

 

それでは自分はどうだろう、と陽介は思う。

妖怪のような力はもちろん、妖術も使えない。

鍛錬で強くなったとはいえ、妖怪を相手に戦えるのだろうか。

 

「陽介さんは、自分を信じて進んでください。強い心は、大きな武器です」

 

サクヤの言葉が、立ち止まる陽介の背中を押した。

 

「風斬も、きっとそれに応えてくれるはずです」

 

手入れ途中のままになった風斬を見ると、磨いた鍔が綺麗に光っている。

陽介は今一度、覚悟を決めた。

 

― 風斬の力を生かせるくらいに

 

―― アトリを支えられるくらいに

 

――― もっと強くなる 今以上に、強く

 

―――――

 

「妖術……」

 

アトリは1人つぶやいた。

壁越しには陽介とサクヤがいる。

 

2人が見当たらないので探していたところで、偶然話を聞いた。

真剣な話だと思いその場を離れようとしたアトリは"妖術"という言葉に足を止めたのだ。

 

人妖には妖術が使える、それは知っていた。

現に両親やサクヤもそれを使えるのだから。

 

初めて知ったのは、『自分が過去に使った』ということ。

少なくともアトリの記憶にはない。無意識だったのだろう。

 

いつか使えるようになりたいと思っていた妖術。

しかし、使ったことがあると聞いて、アトリの気持ちは変わった。

 

―― "早く"妖術を使えるようになりたい

 

――― 陽介の力に、なりたいから


 
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