No.706383

妖世を歩む者 ~3章~ 3話

ray-Wさん

これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。
"人妖"の女の子の容姿等は、GREEのアプリ『秘録 妖怪大戦争』を参考にしています。
※既にこのアプリは閉鎖となっています。

拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。

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2014-08-05 16:13:28 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:421   閲覧ユーザー数:421

3章 ~歩き出す者~

 

3話「人妖」

 

――― 人妖(じんよう)

度々耳にした言葉だが、陽介は『"人"の姿をした"妖"怪』ということだろうと考えていた。

 

「確かに、そのまま考えるのであれば、そうなりますね」

 

しかし、サクヤから"正解"はもらえなかった。

 

「では、元々人間の姿をした妖怪は、"人妖"なのでしょうか」

 

サクヤの新たな問いに、陽介はハッとした。

サクヤやアトリは元はイタチの妖怪。それが人の姿をしているから"人妖"だと言うことができる。

 

では、雪女や座敷童子はどうだろうか。

人ではない姿から人の姿になった妖怪と、元々人の姿であった妖怪。

その両方を"人妖"と言ってしまって良いのだろうか。

 

それだけではない。妖怪の中には、人の姿に化けることができるものもいるはずだ。

初対面で人の姿だからといって、"人妖"だという保証はない。

 

次々と出てくる疑問に陽介が難しい顔をしていると、

 

「"人妖"とは、"人と妖怪の間に生まれた半人半妖の存在"でした」

 

サクヤの発言は、答えというには不十分だった。

元々人の姿をした妖怪と人間が結ばれることは、あるのかもしれない。

しかし、サクヤ達は"イタチ"だったのだ。人の姿に化けてとも考えたが、それで納得することが陽介にはできなかった。

 

そしてもう1つ、『でした』と言うからには今は違うということだ。

おそらくそこに、陽介が納得出来ない部分の答えがあるのだろう。

 

「その"人妖"の定義がおかしくなったのは数十年前。『人妖狂誕』と呼ばれる出来事が起こった時です」

 

「人妖……きょうたん?」

 

陽介には"きょうたん"に"狂誕"という字が当てられることまでは分からなかった。

サクヤはそのまま話を続ける。

 

「その時に起こったのは、歪みの発生。妖世の各地で空間が歪む現象が発生したそうです」

 

伝聞調なのは、『人妖狂誕』が数十年前に起こった事で、サクヤがその時まだ生まれていなかったということだろう。

 

「妖怪が生まれる経緯が多様であることはご存知ですね?」

 

「はい、それは分かります」

 

感情から生まれる妖怪、物が姿を変える妖怪、動物が妖怪になることもある。

陽介が持つ妖怪の知識はまだまだ乏しい部分が多い。

しかし、妖怪がその数だけ生まれる経緯を持っている事は知っている。

 

「歪みが発生したその間、妖怪の姿で生まれるはずだったものが人間の姿をしていたと言ったら、理解できますか?」

 

「……えっ?」

 

妖怪と人の間でなく、自然に生まれたその時に人間の姿をしている。

つまりそれは最初から"人妖"が発生したということだ。

 

「原因はその"歪み"、なんですよね?何なんですか、その歪みは」

 

「分かりません。トウハさん、アトリの父で、私の義兄に当たる方なんですが、そのトウハさんは元々、その歪みについて研究していたんです」

 

トウハは北の大陸へ、異世界の人間の来訪という情報を元に向かった。研究のためだと。それはつまり、

 

「異世界の人間、人間を襲い始めた妖怪達、そして"歪み"につながりがあるかもしれないんですね」

 

「そうですね。歪みが時空的なものであるならば、異世界とのつながりが何か関係しているはずだ、とは言っていました」

 

同様に異世界からきた陽介には、歪みのことは分からない。

時空の歪みに飲まれて妖世へと来たのかもしれないが、断定はできない。

それに異世界の人間が北の大陸に現れたのと妖怪達が人間を襲い始めたのは同時期だが、歪みの発生は数十年前だ。

陽介にはそれらがどうつながるのか検討もつかない。

 

しかしトウハは、そこに何かを見つけたのだ。

歪みにより生まれた人妖を研究し、後に人間が妖怪に襲われ始めた事を知った。

異世界の人間の来訪という情報を得て、北の大陸へと向かった。

 

異世界から来た自分は、何かの力になれないだろうか。

それは、"元の世界への帰還"を目指す陽介に、新たな何かを示していた。

 

「人妖と人型の妖怪、それを見分ける手段があります」

 

"歪み"の話はここまで、というようにサクヤは話を切り出した。

 

「人妖と妖怪では、その凶暴性が大きく異なりますから、知っておいた方がいいでしょう」

 

なるほど、と陽介は思った。人妖ならば安全とは聞いていないが、人間を襲うのが"妖怪"だとは聞いている。

相手を見極めるのに、人妖か妖怪かというのは重要になるだろう。

 

「まず、人妖は本来の妖怪としての力を十分に使えません」

 

陽介はサクヤの鍛錬を振り返り、納得した。サクヤの強さは戦闘としてのそれであり、そこに妖怪としての強さは見られなかった。

あえて挙げるのなら、その基本的な身体能力の違いは感じた。

しかし、"かまいたち"らしさは武器が鎌というだけだった。風を使った攻撃などは一度も受けていない。

 

「しかし、人妖には妖怪に使えないものがあります」

 

それがこの話の本題なのだろう。

 

「それは、――― 妖術(ようじゅつ)です」


 
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