3章 ~歩き出す者~
1話「成果」
「今日で半月。期限の最終日です」
陽介とアトリに、焦った様子はない。
途中で諦める気はなかった。途中でクリアできるとも思わなかった。
サクヤの鍛錬は、"この日"のためのもの。それを2人は理解していた。
「北へと向かう意思は、変わらないんですね」
今更な問いかけ。
「はい」 「うん!」
陽介達の決意は変わらない。
「それなら始めましょう。これで最後です」
3人は武器を構えた。まともな構えを知らなかった陽介も、余裕を示していたサクヤも、今はしっかりと構えている。
動いた影は2つ。
「ハァーーーッ!」「――――ッ!」
陽介とサクヤだった。アトリはまだ動かない。
力と速さの増した陽介の攻撃が、サクヤへと向かう。
しかしやはり、サクヤには届かない。
サクヤはいつかの再現のように、陽介の後ろへと回り込む。
――― キンッ
刀と鎌がぶつかる音。気配を読み、陽介はサクヤの攻撃を防いだ。
しかし、陽介が振り向く先には、すでに2本目の鎌が迫っている。
「ハァー!」
速さでは遠く及ばないが、腕力なら負けない。ましてや陽介は両手で風斬を持ち、サクヤの鎌を持つ手は1本づつ。
抑えの鎌ごと風斬を動かし、陽介は2本目の鎌を防いだ。
「やりますね」
たとえ鎌が2本あっても、1本では風斬を抑えきれない。
膠着した2人のところへ、3人目が現れる。
「やぁーーー!」
アトリの薙刀が、サクヤの背後から迫る。
「はっ!」
風斬を流すように払い、サクヤは横へと飛んだ。
「ごめん、抑え切れなかった」
「いえ、まだまだこれからです!」
アトリはサクヤに向かっていく。一度は体勢をくずしかけたサクヤも、すでにアトリの攻撃に備えている。
「やぁー!」
アトリのまっすぐな攻撃を、サクヤは難なく防ぐ、いや、防ぐだけではない。2本目の鎌による反撃がアトリを襲う。
「くっ」
攻撃から防御へと移行して鎌を防いだアトリだが、それにより1本目の鎌が攻撃に加わる。
次から次へと迫り来る鎌。アトリが苦戦した連撃である。
だが、今のアトリは違った。
「やぁーーーー!」「―――ッ!?」
2本の鎌を同時に弾いたそれは、回転する薙刀だった。
アトリの前で円を描く薙刀が、一時的にアトリを護る盾となる。
意表を突かれたサクヤだが、すぐに薙刀の回転速度が落ちていることに気づいた。
盾となるほどの回転を長い間続ける力は、アトリにはなかったのだ。
速度の落ちた回転から隙を見出したサクヤは、正確にそこへと攻撃を仕掛ける。
回転させることでしっかりと握られていなかった薙刀は、サクヤの攻撃に大きく払われた。
(ここまで払えば戻せない)
サクヤはアトリが"流れ"にのせた攻撃をすると考え、構えた先にそれを見つけた。
自分へと向かってくる、陽介を。
その行動は、サクヤにとって不可解だった。
陽介の進路は、完全にアトリの"流れる"攻撃を邪魔するものだったからだ。
しかし陽介はすでにそこまで迫っている。
陽介がアトリの攻撃を妨害するのであれば、陽介の攻撃さえ防げばいいのだ。
1本の鎌で流し、1本の鎌で反撃をする。
抑えられていない状況からであれば、流すことはできる。
陽介は下に構えた風斬を思い切り上へと振り上げた。
――― ガキィィィン!!
刃の打ち合う音が、大きく響き渡った。
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これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。
"人妖"の女の子の容姿等は、GREEのアプリ『秘録 妖怪大戦争』を参考にしています。
※既にこのアプリは閉鎖となっています。
拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。
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