No.705137

コードヒーローズ~魔法少女あきほ~

銀空さん

魔法少女たちの戦いはこれからだ

2014-07-31 02:47:08 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:292   閲覧ユーザー数:292

第二十七話「~閉 幕~魔法少女あきほのハナシ」

 

 

 

 

 

 エイダと滝下浩毅は走る。

「銀の太陽を使ったのか」

「そこまでローズクオーツ達が追い詰めたということよ。前にも説明したけど、あれを使うと、問答無用で魔鎧も消耗するの。だから、本当に奥の手」

「なるほどな」

 エイダは走りながら疑問に思った。そのままそれを口に出す。

「貴方は私に武器と、強化ユニットを渡したんだから、帰ってもいいんじゃない?」

「私にやれることは少ない。それに、現地に行けばフォトンスナイパーライフルを新堀が持っているはずだ。援護くらいは出来る」

 つまり、戻る気はないということだ。

「聞く耳をもたずか」

「なんだって?」

「なんでもないわ」

 エイダは彼にも責任感や罪悪感などがあるのだろうと、結論づけた。

「司令室。オニキスはどうだ?」

『依然連絡はありません』

「そうか……」

 エイダの顔は不安に彩られる。知らずオニキスから託された魔石を強く握りしめた。

「馬鹿……」

 

 

 

 

 

 終焉の剣には赤い宝玉が3つ収められている。剣先から縦に3つ。そしてその内2つの宝玉に違和感を覚えた。

 あれ? もしかして傷が入っている?

 私はそれに気づいた。慌てて目を凝らす。魔鎧の恩恵で視力と動体視力が強化される。一瞬でそれを確認。

『アメジストさん。剣の宝玉に亀裂が入ってる』

『なんですって?』

 アメジストさんも確認出来たようだ。

 亀裂が走っている。それに何か希望を持ってしまう。

 

 

 

 アメジストが拳を振り抜く。ルワークはそれを避けて大剣を走らせる。彼女は寸でそれをブリッジする要領でバク転して避けた。振りぬいた勢いで体勢が固まっているルワーク。そこにローズクオーツが肉薄して、藤色の光を纏った掌底を叩き込んだ。

 歪曲の能力で魔鎧を無視した一撃。ルワークは吐血しながら吹き飛ぶ。

 大剣はいまだ握られたままだ。

「や・る・じゃ・ないか!」

 吹き飛んでいたはずのルワークはローズクオーツの背後に立っていた。

「あ?! え?」

 蹴りが彼女を襲う。それを両の腕でクロスしてガードした。しかし勢いは殺せず、地面を統べる。ルワークはそのまま拳と蹴りの連撃を叩き込んでいく。アメジストが妨害に走るが、それを剣で迎撃。一瞬の隙をついてローズクオーツが彼の足に飛びついて歪曲の能力を発動。足を本来曲がらない方向へと曲げようとした。

「小癪な!」

 顔面に蹴り。魔鎧で威力は大分ないものの、鼻血が出た。彼女は拭うこともせずに桜色の光を至近距離で放出。大剣を盾に防がれてしまう。

 宝玉の亀裂は大きくなる。

 ローズクオーツは攻撃後に硬直してしまう。

「もらった!」

 肉薄。

「あ? 嘘」

 驚愕に四白眼する。

 アメジストがルワークの腕を掴んで剣を振り抜かせまいと、押さえつけた。それでもお構いなしと彼は強引に振り抜く。ローズクオーツにアメジストが叩きつけられる。彼女らはそのまま地面を転がった。

「これで終焉だ」

 宝玉が煌めく。

 赤い炎が爆ぜる。灰色の鋼が塊となって、炎を纏い地面を滑った。

「ちぃ!」

 終焉の剣で塵芥へと帰す。ガーネットが到着する。肉薄し鋼の手甲を纏った拳を無数に繰り出す。

「せりゃあああああああああああああ!」

 気合の掛け声と共に攻撃の鋭さを増していく。が、ルワークはそれらを左腕だけでさばいていった。

「遅いんだよ!」

 連撃の合間を縫って顔面に拳をお見舞い。ガーネットが吹き飛ぶ。その背後からオレンジの光弾が走った。ルワークの魔鎧に弾かれていく。タスク・フォースの一部が到着したのだ。彼らはチームごとに別れて援護に徹する。

「雑魚が!」

 魔鎧の恩恵で避けるまでもない。しかしそれらは着実にルワークの魔力を削っていく。

 終焉の剣に光が走る。

「させません」

 空色の光氷となって大剣を地面に縛り付けた。アイオライトだ。終焉の剣の能力で氷塊は霧散する。それは一瞬の束縛。そこへ青い光が一閃する。ルワークはそれをステップを踏むように避けた。背後に黒い影。崎森彩音が高周波ブレードで線を描く。横一文字。ルワークは飛び退いて距離をとった。

「弱いくせに群れやがって」

「弱いから手と手を取り合うんだよ」

 ガーネットがアイオライトと共に笑う。

「ならば、圧倒的力の差を見せつけてやる」

 銀の光が灯る。

 ローズクオーツの動きは早かった。鼻血を拭うとすぐに黄金の光。そして藤色の光を収束させる。

「皆さん。ローズクオーツの後ろへ!」

 アメジストが素早く指示を出す。それと同時に糸と重力で逃げ遅れそうな面々を一気に引き寄せた。アイオライトは保険に自身らを氷と水の膜で覆う。

 直後に銀の太陽が顕現。ルワークをそして街を焼いた。

 

 

 

 男のかすれた笑い声が響く。ルワークは銀の炎にやかれていた。それでもなお笑っている。彼の視線の先には地面を転がっているローズクオーツ達。

「弱いやつなんか、放っておけば自分らは助かっただろうに」

 終焉の剣に光が走る。

 緑の風が吹き抜けた。

「カーネリアン!」

「りょ、了解」

 彼女らが到着すると同時に乾いた破裂音とオレンジの光弾。

「主役は美味しいところで到着ってな」

 00ゴールド事新堀金太郎は笑う。彼は走りながら銃撃する。警官やSWAT隊は距離を無理に詰めずに離れたところから狙撃を開始した。ルワークの魔鎧の前ではあまりにも無力。銀の太陽で自爆しているとはいえ、それらを余裕で防ぎきるだけの防御力は健在。

「無駄ァ!」

「じゃない!!!」

 金太郎は自身の持つフォトン・ライフルをバーストモードへと移行させる。銃身が上下に割れ、牙を彷彿とさせるバレルが剥き出す。オレンジの光が収束すると同時に三連撃で射撃。その軌跡はルワークではなく地面を吹き飛ばした。それは視界を奪うための射撃。

「こっちこっち」

 クロムダイオプサイトはやる気を感じさせない声を出す。彼女はルワークの背後に立っていた。それを迎撃しようとして彼は止まる。即座に飛び退く。直後に黄色い稲妻が土煙を吹き飛ばして彼のいた場所を穿った。

「こな――」

 こなくそと言おうとした彼の発言は、拳による打撃で遮られる。神代拓海がいつの間にか彼に肉薄していた。そのまま魔鎧越しに拳と掌底、手刀、回し蹴りを繰り出す。なんとか凌ぐルワークだが背後に黒い影多数。スミス財団の私兵達だ。

 彼らはルワークに休む間もなく攻撃を続けていく。魔法少女達はその間に立て直していく。

「みんな!」

 ローズクオーツは花が咲いたように笑う。

「お待たせしました」

「大分ボロボロだけどな」

「あっちこっち痛い」

「怖かったよ」

「お姉さまにまた会えると信じてましたわ」

 彼女らの様子を少し離れたところでグレートゴールデンドラゴンナイト、08チーム、和也は眺めていた。

「さあ、行くわよ。目的は終焉の剣よ。とりあえずアレを弾き飛ばしましょう」

 アメジストは全員の顔を見渡して言う。

「頭でっかちさん。指示は任せたよ」

「やれやれ……手が掛かる不良だこと」

『おいおい。そろそろおじちゃんたちやばいんだけど?』

「都合の悪い時だけ老け込まないでください。さ、行くわよ?」

 全員が首肯したのを確認してアメジストは駆け出す。それを合図に大人たちは下がっていく。彼女らの戦闘の邪魔しないため、そして――。

『全員、次の作戦だ』

 ――各々次の持ち場へと走りだす。

 黄金の炎が旋風となって走る。その炎の後ろからガーネットと和也が走りこむ。炎はルワークの終焉の剣によって霧散する。間髪入れずにガーネットの蹴り、和也の拳打。それらは片手で受け流される。そのまま彼らを蹴り飛ばす。

『次! アイオライト』

 背後に回り込んだアイオライト。ルワークはすでに察知しているのか、回し蹴りで素早く迎撃。空中での一瞬の無重力。そこに掌底を叩き込み彼女を吹き飛ばす。足を止めないように駆け出す。いかな彼といえど、魔法少女を複数相手に足を止めて戦える余力はない。彼は銀の太陽を使うか使いまいか思案する。深紅の輝きが周囲を囲う。爆破の能力だ。剣を振りぬいて突破する。直後に爆風。それに乗ってカーネリアンに迫る。数センチの攻防。黄色い稲妻は容易く避けられ、カーネリアンは裏拳で薙ぎ払われた。そのまま飛び退いて距離を取っていく。

 ルワークは周囲を見渡す。

(波状攻撃後に桜色のエレメンタルコネクターの砲撃が狙いか)

 そう結論づけた彼。そこへ緑と濃緑の風と植物。それらを魔鎧だけで切り抜ける。そのまま接近して突進して吹き飛ばす。周囲に糸と重力波。ルワークを捕まえようとそれらが追いすがる。それらを己の身体能力だけで突破するルワーク。

「なっ?!」

「まだまだだな」

 アメジストを蹴り倒すと、左腕で彼女を掴んだ。地面に数度叩きつけた後に地面にこすりつけるように滑らせる。振り回して起き上がろうとしていたガーネットに投げ飛ばして阻止。桜色の光が瞬く。彼の読み通り、ローズクオーツは1人離れたところで待機している。終焉の剣を光らせ、迎撃の体勢に入った。

「来い!」

 寸前で金色の超常戦士が消えていることに気づくルワーク。逸る気持ち抑えて一度深呼吸する。油断なく周囲を見渡す。グレートゴールデンドラゴンナイトはローズクオーツの射線から少し離れたところに伏せていた。ルワークは気付かれないように視線をローズクオーツに固定したまま分析する。

(おかしい……さっきまでいた奴らが消えている? 黄金の戦士も桜色のエレメンタルコネクターも陽動か? だとしたら本命は――)

 即座にルワークは飛びのく。乾いた破裂音とオレンジの光弾が彼を襲わんとする。

「はっ! 無駄だったな!」

「そうでもないさ」

 ルワークの視界の端にスーツを着た男が映った。神代拓海だ。

(どこから現れ――)

 ルワークの視線の先に紫の糸が見えた。それは上空に張り巡らされていたのだ。そして彼の視界が暗転する。ついに終焉の剣が彼の手から離れた。それは弧を描くように空を駆け、地面に突き刺さる。

 

 

 

 

 

 オニキスの胸は紺色の光る刃が貫いた。赤い鮮血が零れ落ちる。

「ぬぅ!?」

 しかし驚愕の声を上げたのはオリバーだった。

 超常戦士の胸部にはコアと呼ばれる弱点がある。そこを打ち砕いて倒した報告は各所であり、オリバーもその通例にしたがって刃を突き立てたのだ。否――。

「外したか?」

 彼は自分で言っておきながら胸中否定した。

(違う。寸前で躱されたのだ)

 オリバーはオニキスと視線を交わす。オニキスの双眸は赤ではない。青くなっていた。

「小癪な!」

 オリバーが思考を巡らしたのは数瞬。突き立てた刃をひねり、胸部にあるコアを破壊しようとした。

「んなっ?!」

 しかし剣はびくともしない。魔鎧で強化した膂力でもまるで一体化したかのように動かないのだ。

(剣を放棄し、ヤツに拳を――)

 オリバーはそう考えて剣から離そうとした。直後にかつて仕えていた姫への想いから、逡巡する。相手は両手を失っている。ならば姫の想いを手放す必要はないのではと、考えたのだ。

 それはオリバーの致命的楽観であった。

 そしてそれは起きる。

 突き立てた紺色の光の刃に赤い結晶が生えた。それは爆発的に増え、柄まで迫る。

 オリバーはすぐに危険と判断して剣を手放そうとして、かつての忠義から手を離すのが遅れ、結晶が手を貫く。それはオリバーの腕を走り、あっという間に肩口まで結晶が生えた。

 瞬間、オリバーの意識は暗転する。

 

 

 

 暗転した視界。次に映ったのは、かつて仕えていた姫様の笑顔だった。旅で立ち寄ったルワーク一行の話を興味深そうに聞いている。

(そうかこれは私の思い出か)

 声を発したつもりだが、声は内に響くようだった。そして視線を感じる。否、視線だけではない、心の中も見られている。違う。共有している。それも違うな。

 そこから一気に私の思い出の日々は流れ、剣を私に差し出す姫。姫の体には大きな穴が穿たれており、彼女の周りを赤く染めていた。

 此処から先は見なくてもわかる。剣を託し「ルワーク様を頼みます」と言い残したのだ。

 そして映る映像が変わる。見知らぬ家族の団欒。そして唐突に告げられる両親の死。雨の中立ちすくむ男性から差し出されるビデオテープ。2人が命を賭して戦う姿。そして、憧れと強い絶望、冷たくて熱い憎悪。

 そうか。見られているのではない。心の中も何もかも融合しているのか。

 映る映像は1人の女性へと変わった。夕日の差し込む教室で話をする2人。

――ヤメロ――

『貴方もあいつらと同じなんだな』

 深い絶望が伝わった。この女性、桜木保奈美に対して、強い信頼を抱いていたのだろう。故に裏切られたように感じたのが痛いほどにわかる。

『違うよ早乙女君』

 悲しそうな顔に心が痛む。

『同じじゃないか! やっぱりみんなそういうふうにしか俺を――』

『違うの。最後まで聞いて。私が早乙女君になって欲しいの』

 懇願するように覗きこむ顔に胸がときめく。

――ミルナ――

『それに、早乙女君も本当はヒーローになりたいんじゃないの?』

 オニキス。いや、早乙女の図星が痛いほどに伝わる。否定しておきながら憧れているのだ。彼はあのビデオで強い憧れを抱いてしまったのだ。

『な、なんでそんな風に』

『だって、好きの反対は嫌いじゃないもの』

――コレハ――

 この時には早乙女優大は彼女に惚れていた。彼女の献身的な笑顔に彼は強い愛を抱いていたのだ。

『もう一度言うわね。早乙女君に私はヒーローになって欲しいの。だって、早乙女君なら絶対に最高の――』

――コレハオレノモノダ!!――

 突如映像が泡状に消えていく。暗転していた視界に光が差す。

 

 

 

「――――――――――――――――――――――――――ッ!!!!」

 龍の咆哮。そうとも形容できる雄叫び。そのまま首筋に噛み付いた。

「ぐぁあああッ!」

 オリバーは首を振って抵抗するが、鋭い牙は深く突き立てられ、肉を割く。赤い血飛沫が噴き出す。首筋の肉を噛みちぎり吐き捨てる。

「この想い! この思い出! この哀しみ! この痛み! すべて俺のモノだ! 俺のモノだぁあああああああああああああああ!」

 口元を真っ赤に染めて叫ぶ。

 オリバーは腕を引き抜こうと動かすが、腕と剣、そしてオニキスと同化していた。

「ぬぅ!」

 オリバーは蹴りを見舞うが距離が近すぎるのと、オニキスにも魔鎧と空間湾曲領域があるためダメージがまったく入らない。オニキスに赤い線が走る。それはスキルライン。切り飛ばされた右腕掲げる、斬り落とされた腕が宙に浮くと斬り落とされた部分へと非寄与させられる。

「それがお主の隠していた――」

 今のオリバーはオニキスと一心同体状態である、故に彼の能力考えが全てわかるのだ。そしてそれを防ごうと暴れるが、まったくの無意味で終わる。斬り落とされた部分がくっつき赤い結晶が、噛み合うように再生する。手を握ったり開いたりして、確認するとすぐにその腕は振り下ろされた。手刀がオリバーの右腕を肩口から断ち切った。

「があああああああああああッ!」

 オニキスは彼を突き飛ばす。右腕を真っ直ぐに振り抜く。

 

 

 

 呆気無い最後だった。薄れいく意識の中、我を見下ろすオニキスの姿が映る。

「ははは……土足で踏み入ったのが逆鱗に触れたようだ……」

 強がって笑うが嘔吐感にそれを阻まれた。

 オニキス。いや、早乙女優大は無感動とも取れろうようにただ見下ろしているだけだ。何か言葉が欲しいが。敵である我にくれる言葉も無いか。

「なんで俺は勝てたんだ?」

 そんな言葉に我の思考は飛んだ。

「戦場で、無我の境地で勝つということもある。それが運だ。というのならば、それもまたお主の実力だ。敵だからお前の疑問に答えてやる気はない。ただ、宿題だ。必ずその強さをモノにするんだな」

「そうか……ありがとう」

「ありがとう……か。まさかな」

 優大は己が吸収した剣を引き抜こうと四苦八苦していた。大方、それを返そうとしているのだろう。だが――。

「それは持っていけ。お主にくれてやる。後、この魔石もな」

 口で魔石を指から引き抜き差し出す。彼は最初こそ受け取るか受け取るまいか迷ったようだが、すぐに受け取った。それと同時に剣も彼の体の中へと消えていく。

 彼の最後の抵抗がなくなったことが原因だろう。

「たぶんだがな。その剣はお主が念じることで顕現する」

 彼は我の言葉を実践する。そして剣が黒い火の粉を散らしながら顕現した。

 少し形が変わっていたが、いい剣だ。

「大切に扱えよ。いい剣なんだ」

「使い方は思い出で見た」

「だろうな」

 ふと、自分と戦った好敵手に思い入れから助言を送る。

「お前が倒そうとしている白い戦士……あやつと戦った」

 その言葉に息を呑む様子が伺えた。

「かなりの強敵だ。それこそお前の認識していないその能力でなんとかするしかないだろうな」

 視界の端が黒くなる。狭まってきた。いよいよその時が来たか。脳裏には走馬灯が駆け抜けていく。

「優大。我はお主と――」

「俺は貴方と戦えたことを誇りに思います。ありがとうございました」

 まるで弟子が出来たような気分だった。敵だったはずなのに今は彼の行く末が気になって仕方がない。それだけが心残りだろう。

「そうか。ならば行け……」

 最後は自ら視界を暗転させる。そうしている内に体の感覚は全て消え失せた。

(ああ、やっと――)

 

 

 

――ありがとうオリバー――

 

 

 

 

 

 オニキスは斬り飛ばされた左腕をくっつけると、敵の亡骸を抱えた。手を組ませ、瓦礫のないところへと運ぶ。地におろして、魔石を装着する。

――汝に我の全てを託そう――

 魔石の残した想いは使い方をオニキスへと伝授した。

 すぐに彼は行動を起こそうとして立ち止まる。

――ゆう君。お父さんが……――

 幻聴。優大はまるで導かれるように駈け出した。

 

 

 

 そして――。

 

 

 

「なんだよ。お前に見つかるなんてな……」

「おやっさん……」

 オニキスは信じられないといった声音だ。

「このペンダント……恵に渡しておいてくれるか……それと――すまない――とも言っておいてくれ」

 オニキスは震える手で、それを確かに受け取った。

「お前には……辛いことばかり背負わせちまっているな。すまない」

「謝らないでください」

「そうだな。ありがとうよ。最期に会えてよかったよ……」

「俺もです」

 

 

 

 

 

 命ヶ原にいた人々は無事、藤の里まで避難していた。これも一重に藤の里のローカルヒーローとアウターヒーロー、雨宮のヒーロー、そして警官たちなどの連携の賜である。

 彼らは学校の体育館などで待機していた。いつ終わるとしれない戦いに皆の顔は不安に彩られている。そんな鬱蒼とした雰囲気に耐えかねて1人が外へと飛び出す。

 浅沼和子だ。

 彼女は命ヶ原の方へと視線を向けた。携帯を手にして誰かに通話をかける。

「なんで出ないんだよ……」

「どうしたの?」

 彼女を心配して晴山晴美、城ヶ崎咲希、小田久美が背中から声をかけた。

「明樹保達と連絡が取れないんだよ。あいつらもうちらと同じ避難場所だろ?」

 今にも泣きそうになりながら、彼女はかたっぱしから連絡をかけている。

「どうして……出ないんだよぉ……まさか、直の時のように?」

「そ、そんな……」

「ちょっと冗談でも、そういうのは許さないよ」

「でも、だって、なんでいないんだよ。連絡も通じないし。どこも避難は完了したって大人は言ってたぞ。なのにいないんだ。おかしいだろう?」

 半狂乱。晴美はそんな彼女を平手打ちする。

「落ち着きなさい。滅多ななことは言わない。こういう時にそういうこと言うと、余計みんなが不安になるでしょう?」

「で、でも――」

 彼女の二の句は遮られる。抱きしめられたのだ。

「大丈夫だよ。だって、早乙女がいるじゃん?」

「そ、そうだよな……」

 しかし顔に元気はない。そんな和子を気遣って、久美、咲希と彼女の肩に手を当てる。

「大丈夫ですよ」

 咲希はいつもと変わらない笑顔。

「そうそう。大丈夫」

 久美も不安を誤魔化すように笑う。

 その時、銀の光が差し込んだ。それは煌々と燃え盛った。

 彼女たちは慌てて空を見上げる。

 彼女たちの目の前でそれは霧散した。その銀色の太陽に彼女らは、眺めていた人たちは不安に掻き立てられる。

「あ、桜色の光だ」

 その不安を吹き飛ばすような桜色の光が天を貫く。周囲を優しく照らしている。その光は見ているものをなぜか安心させていく。

――大丈夫だよ――

 そんな風に言っているようだった。

「ほら、大丈夫だよ」

 晴美の言葉に和子も笑う。

「そうだね」

 

 

 

 

 

 三度目の太陽を凌ぐ。みんなも私も魔力が枯渇しかけていた。特にガーネットが一番ダメージを蓄積していて不味い。そんな中でもローズクオーツ、は余力を見せている。それが頼もしくて折れそうになる私とみんなの心を支えてくれていた。

 魔法少女以外もボロボロだ。主力のグレートゴールデンドラゴンナイトが膝をついて動けないでいる。タスク・フォースの面々はエネルギーが底をつきそうな状況。警官達は弾切れ。

「そろそろだな」

 やはりこちらの魔力切れは感知されている。それに比べてこっちは相手がどれくらいあるのかわからない。こっちは多勢に無勢で戦っているのに、一行に魔力切れの様子が見えない。

「みんな!」

 そこへようやくエイダさんたちが到着する。

「お待たせ」

「エイダ……そうか、クリスは逝ったか」

 そこで何かを察したかのように顔を渋くさせるルワーク。

「今はアメジストだったか?」

 私にルワークは語りかける。

「そうよ」

「お前たちを手に入れられなかったことは一生の悔いだな」

 殺気が一気に膨れ上がる。心臓を得体の知れないモノにわし掴みにされた。

「それは光栄ね。ここで散ってくれるなんて」

 エイダさんは物ともしない。それどころか皮肉を言う余裕さえ見せる。

「なるほど、まだなんかあるのか」

「そうよ」

 エイダさんはソレを私達に放り投げる。

 強化ユニット入りの魔石。すぐに装着した。失われていた魔力を補給する形になる。

「面白いことをしてくれる。だがな――」

 銀の閃き。

 しまった太陽を?!

 エイダさんが飛び込んでプリズムの輝きを放つ。

「ちっ!」

「そろそろ、さようならをしましょう?」

「そうだな。さようならエイダ」

「さようならルワーク」

 さあ、始めよう。私達の決着だ。

 

 

 

 ルワークはエイダと取っ組み合う。しかし、未だ魔力に余裕を見せるルワークはエイダを力任せに吹き飛ばす。その反動を利用して終焉の剣を掴んだ。

「さあ、終わらせてやる」

 剣を掴み宝玉が光り輝く。今の今までなんとか拾わせることを阻止できていたそれはあっさりと取り返されてしまう。そもそも阻止できるほど余力を持った人物がいない。当たり前である。

 ローズクオーツは一歩前に踏み出し、ルワークと対峙する。無言で「来るなら迎撃するまでだ」と言っていた。

「はん。またそこら辺にいる弱い奴らを助けるのか?」

「魔法少女だからね」

「ふん。わけのわからんことを」

 ローズクオーツは杖を構えて、桜色の光を収束させる。それは今までにないほど強烈な光だ。エイダは今までの経験から使い切ってしまうではと、戸惑いを見せる。

「いくぞ」

 互いに構えて魔法を撃ち合う。桜色の巨大な光が、終焉を纏う衝撃波が真っ直ぐにぶつかり合った。

「ああああああああああああああああああああああッ!!!」

 ローズクオーツは叫ぶ。しかし叫びに反して衝撃波が桜色の光を霧散させていく。

「前回も仲間を助けようとして危険を犯していたな。今回はあの時のように助けが来ることはないぞ!」

 両者の攻撃が強すぎて、ローズクオーツの仲間達は動けないでいた。なにより――。

『みんな魔力は温存しておきなさい。ローズクオーツ、もう少し粘れるかしら?』

『頑張る』

 エイダが指示を出す。エイダは全員の魔力がどんな状態なのかわかるのだ。だからこそ温存させる。この撃ち合いもローズクオーツが勝つと踏んでいるのだ。

 それでも衝撃波が徐々に彼女らに迫っていく。

 ローズクオーツは歯を食いしばり、全身の力を込める。あまりに力を入れすぎたために、再び鼻血が出始める。

「ウウウウァアアアアアアアアアアッ!! 私……は! 魔法少女。魔法少女は……希望の証。だから負けない。負けられない!」

「世迷い言を」

 ルワークは追撃にと銀の輝きをきらめかせる。

「これでお終いだ!」

 ふと戦闘中にヴァイブレーション音が響く。それはアゼツライトから鳴り響いた。

「あ、携帯持ってきてたのか?」

「すいません。ついいつもの癖で。誰からでしょう?」

 アゼツライトは携帯を取り出し眺める。

「あ、和子さん」

 ローズクオーツは目を見開く。

「そうだ。ここはみんなの街なんだ。ぅまっけるもんかぁああああああああ!!!」

 桜色の光が急激に押し返しだす。黄金の光、藤色の光も灯る。桜色の光に黄金と藤色の色が混ざり始める。それらは衝撃波を飲み込んで行く。

「ちぃ!」

 ルワークは己の魔鎧を消し飛ぶのを覚悟で銀の太陽を顕現させた。闇がそれを覆う。プリズムの光がそれを撃ち抜き霧散させる。

「させないわよ」

「いいところで邪魔する。本当に嫌な女だ。俺のモノにならない所とか特にな」

 光が迫った。咄嗟に終焉の剣を盾にする。終焉の剣の宝玉に無数の亀裂が走った。

「おいおい。最高だな」

 終焉の剣は切羽の宝玉を残して後は砕け散る。赤い結晶が地面にこぼれ落ちていく。

「あーあ」

 ルワークは諦めるように投げ捨てた。そして、銀の魔石を構えた。

「全部消えちまいな!」

 彼は凶悪に嗤う。

「覚悟はいい? みんな」

「どうかしたの?」

「彼はこれから魔王とその国を諸共滅ぼした魔法を使うわ」

 ローズクオーツ達は息を呑んだ。全員が顔を青くする中明樹保は笑った。

「大丈夫です。だって私達は魔法少女ですから」

 ローズクオーツは杖を天を穿かんと掲げる。その杖に全員が手を添えた。対するルワークも今までとは比べようもない輝きを放つ。それは今までの銀の太陽がちっぽけに感じるほど巨大だった。

 ローズクオーツ達の魔法は1つに束ねられた。それは虹を彷彿とさせる。虹の光は一直線に銀色の太陽へと伸び、激しく激突した。

 激しい轟音。空気と地面が激しく揺れ、地球を震わせた。周囲に立っていた常人はその揺れに対応しきれず、地面に屈んだ。

 両者ともに死力を尽くす戦いとなったのだ。

「これが! これが私達の魔法だぁあああああああああああ!!!」

「しゃらくせぇええええええええええええええええええええ!!!」

 虹色の光と銀の光が、両者の咆哮に呼応するかのように、より激しく周囲を震わせ、吹き飛ばす。

 巻き上がった破片は太陽の熱にかき消され、逃れたものは降り注ぎ、周囲にいる警官やタスク・フォース達に降り注ぐ脅威となった。

 ルワークの魔法がローズクオーツ達の魔法を押し始める。

「ははは」

 勝利を疑わないルワークは笑う。銀色の光もあざ笑うかのように、虹色の輝きを飲み込んでいく。

「まだ……まだ!――」

 ローズクオーツは精一杯掌に力を込める。

「ここで終わるわけには!」

 アイオライトは自分の持てる魔力を流し込む。

「終わってない!」

 ガーネットは歯を食いしばり、唸るように声を上げる。

「負けるわけにはいかない!」

 クロムダイオプサイトは目を見開く。

「何も成し遂げてない!」

 カーネリアンは叫ぶ。

「――約束を果たせてない! 私は! 魔法少女! なんだぁああああああああああああああああ!」

 ローズクオーツの叫びに呼応するかのように、漆黒の掌が重なった。

 ローズクオーツはそれをよく知っている。顔を向けずともわかる温もり。

 それは紺色の光を纏い、ローズクオーツ達の魔法へと合わさる。ローズクオーツ達の魔法は銀の魔法と拮抗した。

「遅いよ」

「待たせたな」

 オニキスだ。

 彼の体は傷だらけであり、装甲と筋肉の中間のような肉体には亀裂が走り、亀裂から赤い鮮血が流れ出ていた。

 だが、それでもそんなことを心配させない力強さが彼にはある。

「何?! オリバー……逝ったか」

 初めは動揺を見せたものの、すぐに平静を取り戻す。それどころか何を楽しむかのように、笑う。

「ああ……。さあ、始めようか。お前の終わりを」

「たかが1人増えたくらいで、この俺は倒せん!」

 オニキスは鼻で笑う。

「1人じゃ無いさ」

 

 

 

 大ちゃんがそう言うと、私の右手が光った。

 透き通った白い輝き。それは直ちゃんの指輪だった。透き通った白い光は優しく、強く輝く。眩しいはずなのに、優しく感じるそれは形を作っていった、

 その光の中から現れたのは直ちゃんだ。身体は半透明だけど直ちゃんだとわかる。

 直ちゃんの手は、私と大ちゃんの手と重なる。

『いくよ明樹保』

 嘘か本当かなんてどうでもよかった。心で直ちゃんだとわかる。

「――うん」

 これは泡沫の夢。この戦いでしか見れない嬉しくも哀しい夢。この魔石に残っているのは本当の直ちゃんじゃない。直ちゃんを写した想いだ。それでも今ここにいるのは、私の知っている直ちゃんだ。

「まだ泣くんじゃない。まだ終わってないぞ」

「わかってる。わかってるよ」

 それでも嬉しさに涙が溢れてしまう。

 次は漆黒の光が強く光った。黒い光の中から女性が1人現れる。私はその人を知っていた。

「大ちゃんの……お母さん?」

「だな」

 大ちゃんは少しだけ目を向けると、正面に視線を戻す。

「桜……」

「悪いね。少しだけ力を借りるよ」

 大ちゃんのお母さんは言葉を口に紡ぐことはない。ただ、小さく頷くだけだった。

 大ちゃんのお母さんは迷うこと無く大ちゃんの左手に重ね、右手を背に当てる。

 

 

 

「亡霊如きに何が出来る!」

「亡霊? 違うよ。これは想いだよ」

 ローズクオーツの言葉をルワークは鼻で笑う。

「想いだぁ?」

「この街を守りたいという想い!」

 アイオライトは思い出す。街を守りに動くことの出来ない父の背中を。

「家族を守りたいという想い!」

 ガーネットには毎朝早くケーキを作りは始める母の姿を。

「友達を守りたいという想い!」

 クロムダイオプサイトはいつもそばにいるガーネットに目だけ動かし、見つめる。

「夢を守りたいという想い!」

 その視線を受け取りガーネットは自身の中にある夢。みんなの夢を思い出す。

 ルワークは5人の言葉に苛立ちを露わにする。

「そんなものになんの意味がある! この世界に唯一絶対に正しいのは力だ!」

「貴方には一生わからないでしょうね。力こそ全てだと思っているような貴方には」

 アメジストは踏ん張る足に力を込めた。

「想いだけで何が守れる! 力こそ、強者こそ唯一にして絶対的存在! 想いなどという戯言に惑わされる奴らは弱者に過ぎない!」

「力だけで支配しようとしているテメェにはちっぽけで、くだらないものだろうけどな」

「その小さな想いを紡いで私達はここにいるのです!」

 和也とアゼツライトも持てる力を出し切る。

「くだらない! くだらないんだよ! 全部焼きつくしてやる!」

 銀の太陽が輝きを増す。

 魔法と魔法の衝突。それをただ眺めるしか無い警官達は、歯を食いしばる。

 誰もが何か出来ないのかと視線を彷徨わせ考えるが、手助けになりそうな手段を思いつかない。

「これは最後の手段ですね」

 神代拓海の言葉に、周囲の警官達は耳を傾ける。1人の警官が代表で問う。

「最後の手段とは?」

「声援を送るんですよ」

 さも当然のように言うと、彼は大声で叫ぶ。普段の彼の姿を知っている彼らは戸惑う。

「頑張れ! 魔法少女!」

 彼は何度も何度も「頑張れ」とエールを送り続けた。そんな姿に最初こそ戸惑っていた警察官達は同じく声援を送り始める。

 誰も彼もが喉を潰しそうなほどの大声で、彼女たちを応援する。

「無駄なことを!」

 一見無駄なように見えた。だが、それは――

「何?!」

 ――その小さな想いは魔法少女達の力となり、銀の太陽を押し返し始める。

「――けるもんか」

 ローズクオーツは歯ぎしりが聞こえるほど食いしばった。

「負けるもんかぁああああああああああああああああああああああ!!!」

 押し始めた光景に、タスク・フォースの面々も我に返ったかのように、動き始める。

「押し始めたぞ!」

「だがまだ足りない」

「おい! グレートゴールデンドラゴンナイト! お前も手伝え!」

 烈はグレートゴールデンドラゴンナイトの肩に掴みかかった。

「俺の攻撃は魔法を助けられないだろうが!」

「出来る出来ないじゃない! やるんだよ!」

 烈の勢いに彼は自棄糞気味に答えた。

「あー、もうわかった! わかったよ! やりゃあいいんだろう! ゥルァ!!!!」

 黄金の旋風はグレートゴールデンドラゴンナイトの予想に反し、ローズクオーツ達の魔法を邪魔すること無く銀の太陽に襲いかかった。

「いける! いけるぞ! おい烈!」

「わーってるよ!」

 烈達はフォトン・ランチャーを構える。

「照射モードにしても、あんまり長く撃てるほどエネルギーが無いぞ」

 流の指摘に烈は、舌打ちした。しばらくの間の後、何かを思いついたかのように言う。

「だったらアーマーに供給しているエネルギーも全カットだ。全部ランチャーに回すぞ」

「おい! そんなことしたら俺達が吹き飛ばされて、ランチャーの照準なんかつけられないぞ」

「つまり俺達大人の出番だな!」

 烈達が振り返ると、さっきまで声援を送っていた大人達がそこにはいた。

「でも、そんなことをすれば――」

「俺達にお前たちを支えさせてくれ」

 烈達は首肯する。

 そこからは早かった。アーマー内部にあるケーブルを引き伸ばし、ランチャーに接続する。

 彼らが構えた後に警官や消防団の面々は烈達とランチャーを後ろから支えた。

「いくらなんでも無茶がすぎますよ」

「オニキスが言っていただろう? ――出来る出来ないじゃない――」

 烈の言葉に神代拓海は笑って答える。

「やるんだ……か。わかりました。お願いします」

 

 タスク・フォースの面々は08のチームに倣い、ランチャーに全エネルギーを供給する。もちろん他のチームも似たり寄ったりな状況のため、自身が身につけているアーマーへのエネルギーを切った。ランチャーや彼らを大人たちが支える形となる。

「おーっし、俺がカウント取るぞ」

 新堀金太郎が叫ぶ。

 彼のアーマーからもケーブルが伸び、02チームのランチャーと繋がっていた。

「3、2、1、発射ァ!」

 最初こそ大きくぶれたが、次第に照準が定まりオレンジの光は銀の光に直撃した。

 銀の太陽は押し返される。

「な、に、を!」

 ルワークは信じられないという顔になった。

「だったら!」

 ルワークは太陽を膨張させる。

「なっ?! 爆発させる気!!?」

 銀色の太陽は押し返される前に巨大な光球へとなり、周囲を吹き飛ばした。ローズクオーツ達の魔法もそれに誘爆する形ではじけ飛ぶ。

 2つの魔法は大きく爆ぜ、周囲に突き刺さるような強い光を満たす。

 直後に爆風が周囲の建物を、電柱を、街路樹を、人を薙ぎ払う。その爆発の揺れは地震と誤認されるほどの大きさである。

 

 

 

 

 

 荒廃した街に1人の人間の立つ姿。

「俺の勝ちのようだな」

 先に立ち上がったのはルワークだった。彼の眼前には魔法少女たちが倒れ伏している。

 彼は一思いに彼女たちを焼き尽くそうと、銀の光を閃かせた。

 しかし銀の光は大きくならず、そのまま消滅する。

「なっ?!」

 そして彼は気づく。自身が銀の炎で焼かれていることに。

「最後に……想いに負けたっていうのか。ふはははは」

 ようやく意識を取り戻したローズクオーツ達は魔力が切れたのか、元の姿に戻ってしまう。

「あ、え? 嘘」

 彼女たちが目にしたのは人が燃えている光景である。

 ルワークの身体は徐々に炭化していく。そんな姿に彼女たちは絶句した。

 彼はそんな彼女たちを笑うと、指輪を抜き取る。そしてそれを躊躇うこと無く明樹保たちに投げた。

「戦利品って奴だ。受け取っておけ」

 銀の炎は彼を飲み込む。

「じゃあな魔法少女たちよ。楽しい戦だった」

 銀の炎の中で彼は笑う。高らかに楽しそうなその笑い声はいつしかしなくなり、彼は灰となり消えた。

 

 

 

 

 

 私の前に飛んできた指輪をオニキスが拾う。

 彼は振り向く。銀の太陽の攻撃の中でも煤けることなく、白い光沢を放つ剣を目指し歩き出す。終焉の剣を回収しようとしているのか。

 ようやく終わったんだ。そう思って安心した時だった。

「面白い戦いだったね」

 瘴気。

 そんなものを纏わりつかせたかのような言葉。そして意識が飛びそうになるくらいの重圧が私達を襲った。

 毛穴と目から液体が零れ出す。口の中に苦い香りを感じたと思った瞬間に、嘔吐感に抗うことも出来ずに吐く。吐いても気持ち悪さは残った。しばらくすると視界が明滅し始めた。

 頭の何処かで「これで死ぬんだ」と、その瞬間私の脳裏に今までの記憶が一気に流れだす。

 意識が飛びそうになる視界の端で、白い龍が終焉の剣の前に立っている。

「超常……生命体……10……号……」

 白い龍と私は視線を交わす。瞬間、明滅していた意識は白黒になり、そのまま墨汁が広がるかのように黒くなっていく。

 私は重圧に耐え切れず、意識は暗闇に沈む。

 

 

 

 

 

「あ、天井だ」

 目を覚ました明樹保は呑気な声でつぶやいた。

 そう彼女は病室にいたのだ。窓から差し込む日差しは夏の気配を帯びつつあり、少し強い。だが、そんな光も彼女は心地よさそうに受ける。

 彼女にいち早く気づいたのは明奈だ。すぐに近寄ると、そのまま娘の頭を抱き寄せた。

「心配したんだから」

「お、母さん?」

 そのまま力強く抱きしめる。

「く、苦し……い」

「それくらい心配させたんだよ」

「明樹保ぉおおおお!!! よがっだー!」

 明樹保の父、武は、部屋に入るなり飛びつこうと駆け寄る。が――。

「邪魔!」

「あ、いだー!」

 ――明奈に蹴り飛ばされ、阻止される。

「私……生きているんだよね?」

「ああ、そうだよ」

 武は抱きつけないので、少し離れたところで嬉しそうに何度も頷く。

「あの後一体何が?」

「それは――」

 明奈は娘を抱擁から開放すると、神妙な顔つきになった。明樹保も釣られて真剣な顔になる。

「――わからない!」

「えええええ!」

 明樹保が驚きの声を上げるも、明奈と武は答えることが出来ない。2人も知らないのだ。

 彼女たちが娘に答えてやれることといえば、戦いが終わってから3日経ったということだけだ。

「やれやれ」

 聞き知った声に明樹保は素早く反応した。

 病室の入り口に1人の少年が立っている。早乙女優大だ。彼は病室内の様子に微笑ましいモノを見るかのように目を細めた。

「だ、大ちゃん。10ご――」

「はいはい。それは後で話すよ」

 優大は明樹保の言葉を遮ると果物の入った籠を渡す。そして念話を始めた。

『とりあえずなんとかなったので、そっちは気にするな』

 2人が目線で会話しているように見えた明奈は、意地悪く笑う。当然武の顔は良くない。

『ほ、他のみんなは?』

『みんなは明樹保より先に目が醒めて、今は自宅療養中だよ』

『街は?』

 優大は念話で答えず、窓の外を指さした。そこに広がる光景は無惨なものだ。戦闘の大きかった周囲の建物は倒壊しているのがほとんどであり。ルワークとの最終決戦をした周囲は地面以外何もなくなっていた。

「ま、これからだよ」

「そっか……」

 そこに医者と看護師が部屋に入ってくる。優大は何も言わずに部屋の外へと足を運ぶ。

 そんな背中に明樹保は言葉を投げる。

「大ちゃんなんだよね?」

「ああ。俺だよ」

「そっか……ありがとう」

 優大は答えず、右手だけ上げるとそのまま部屋を出て行く。

 普段は2人にしか通じない会話だった。しかしここにいるのはそんな2人の仲をよく知る人がいる。

「そっか大ちゃんがなんとかしてくれたんだね」

「そう」

「そっか」

 明樹保と明奈は遠くを見るように街を眺める。そんな2人を武は優しく見守った。

 

 

 

 

 

 雑多な路地裏を這いずりまわるように走る人影。

「おのれ! おのれ! おのれ! おのれぇえええええええええええ!!!」

 保志志郎は怨嗟の叫びをあげる。声はとうに潰れ、まるで獣のように叫び狂う。

 涙はすでに枯れ果てている。それでも彼は泣き叫ぶ。

「なぜルワーク様が負けた! なぜだぁああああああ!!! 魔法少女どもめ! グレートゴールデンドラゴンナイトめ! タスク・フォースめ! オニキスめ! そして、ルワーク様の野望を狂わせた10号めぇええええええええええええぁああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」

 志郎は泣き叫びながら、地面を転がり、手当たり次第ぶつかるモノに八つ当たりで拳を振るう。ゴミ箱だろうが、壁だろうが壊れるまで殴り続ける。拳は割れ、赤い鮮血が革製の白い手袋を深紅に染め上げていた。

 彼は息を荒立てて、窓ガラスに写る自身の顔を睨みつける。

「私のぁああああああああああ!」

 ついには窓ガラスに頭を打ち付け、額から流血させる。それを止めようと哀川奈々が止めに入る。

「志郎! もうやめて!」

「止めるな! こうでもしないと私の気が済まない!」

 だが、彼は魔鎧の恩恵を受ける奈々に安々と取り押さえられてしまう。

「くそぁああああああああ!」

 彼は暴れるが、そのまま治癒の能力で傷を治療されるのであった。その間も叫び続けた。

 志郎は治癒が終わるとそのまま投げ飛ばされる。

 地面を転がり、仰向けとなった。瞳には青い空が映り込む。瞳はやがて鋭くなり、空を憎しと睨みつけた。睨みつけるだけでそれ以上は何もしない。

 哀川奈々に治癒された手前、暴れて怪我でもしたら同じことの繰り返しになるだけである。自身にそれなりの才能があると自負している彼は、同じことを繰り返すことを愚かな行為としていた。よって彼は、暴れることも叫ぶこともせず、空を睨むだけだ。

「落ち着いた?」

「落ち着いているように見えるか?」

 哀川奈々は諦めたように首を振った。

「敵が憎い。だが、一番はルワーク様と共に死ねなかったことだ。それが一番辛い。あの人が居ないのに私が生き残ろうとも……もしかしたらルワーク様はあの時、我ら2人をおいて行った時点で……いや、あの方にそのような考えはないか。ただ、一緒に死ねなかったことが口惜しい」

「私もよ」

 保志志郎は「え?」と勢い良く上半身を起こす。

「とりあえず、これからどうする?」

 哀川奈々は疑問に答えず、保志志郎を見据える。

 現実問題彼らは犯罪者である。タスク・フォースに面が割れているため追われる可能性は捨てきれなかった。戦闘能力が乏しい2人では、どうあっても勝てる要素などない。せいぜい自害が精一杯だった。

 保志志郎自身は自刃しても良かっただが、1人ではない。哀川奈々がいるため、無責任に命を投げ出して仲間を見捨てるような真似は出来なかった。

 彼は思考を巡らし、打開策を練る。

 しばし考え込んだ彼は目を見開く。哀川奈々はそれが何か思いつた時の癖だと知っていた。

 だから彼女は問う。

「何か思いついたの?」

「ああ……だが、こちらがどうこう出来るものではないな」

 そこへ地面を叩く音が響く。規則正しく、甲高い音が1つ。

 彼らは慌てるが音が1つだとわかり、追手ではないと確信する。だが、こんな路地裏に来るものは只者ではない。

 戦闘能力の面では全く役に立たない保志志郎は、対応を考えつつ、哀川奈々の背後に下がる。

 もちろん彼自身もそれを心良くは思ってないが、彼女の前に立ったところで何の戦闘力も持ち合わせていないと彼自身が痛いほどそれを理解していた。足手まといになるくらいなら、後方に下がり、頭脳で打開策を講じるのが彼だ。

 足音は保志志郎達のいる路地の手前で止まる。

 保志志郎はこちらになんらかの目的を持ち合わせた人物と断定し、思い当たる人物の名を口に出す。

 名前は強風に遮られ聞き取れない。だが、その人物には届いたようで、鼻息で笑い応じる。

「貴方ほどの方が、我ら敗走兵に何用ですかな?」

「お前の能力が必要だ。お前の対応次第ではそちらの女共々手厚くしてやるつもりだが?」

 男の声。低く威圧感を受ける。

 保志志郎は悔しそうに顔を歪めた。

 相手もそれがわかるのか、小さく笑う。哀川奈々は首を振ってみせるが。保志志郎の心は決まっていた。

「応じよう」

「良い判断だ」

 曲がり角に伏していた男は彼らの前に姿を見せた。

「ようこそ。我が軍団へ。お前の復讐も手伝うぞ?」

「言ってくれる……私の才。貴方を食い破るかもしれないぞ?」

「その方が面白い。そうでなくてはな」

 男の余裕に、保志志郎は忌々しそうに口を開く。

「貴様が私を利用するのではない。私がお前、黒の侍を利用するというのだ。よく覚えておけ」

 男は高らかに笑うのみだった。

 

 

 

 

 

 私と大ちゃんは学校の帰り道を並んで歩いている。視界の端に夕日が差し込み、釣られて街を眺めた。

 私が足を止まると、大ちゃんも止まって同じ方向を見る。

 私たちの家の方は最初の戦闘以降の被害はない。だが、その向こうに見える都市部は酷い光景だった。

「宿題は出せた?」

 大ちゃんの言葉に考え込んでしまう。

「出した……けど、魔法少女と変わらなかったよ」

「いいんじゃない? 魔法少女だってヒーローだし」

 私はようやく有沢卓也先生の宿題を提出すことが出来た。

 あなたにとってのヒーローとは?

 ――人々の愛と平和と自由を守る存在――

 ありきたりだった。けどすごく満足の行くモノだ。私は自信満々で出すことが出来た。

 綺麗に立ち並んでいたビルやマンションは崩れ、今はそれの撤去作業が始まっている。

「今日も夜にいくよね?」

「そうだね。ある程度片付けに目処つけたいしな」

 私達は夜中に撤去作業を手伝っているのだ。もちろん未成年のため時間が来たら即帰宅。

 魔法少女や超常戦士の身体能力は絶大であり、タスク・フォースの面々と比べても撤去作業の速さが全然違った。

「自衛隊が来れないって、信じられないよ」

「滝下さん曰く、自治体としては派遣要請を出しているだって。けど、やっぱり浮遊艦隊の相手で動けないらしい」

「まだ動けないんだ」

「東京の戦闘も規模が縮小して、企業任せになっているみたいだ。だから、よっぽど強力な相手なんだろう」

 大ちゃんは歩き出す。その背中に置いていかれまいと足を踏み出す。

 戦闘終了直後は連日のようにマスコミが来ては、そこかしこの人に取材をしていたくらい騒がれたけど、今では嘘のように世間の話題から消え去っている。

 今もテレビでは東京で活躍するヒーロー達の情報でいっぱいだ。

 大ちゃんと滝下さんが「満宮が動き始めた」と、それと同時に反ヒーロー連合の攻撃も再開さされたらしい。その件に関して、私達魔法少女は手を出すことを禁じられている。

 滝下さんは「今は君たちの将来を守らせて欲しい」そう言っていた。

「やっぱり手伝っちゃダメなのかな?」

「んー? ああ、あっちは烈達に任せよう。今は俺達をアウターヒーローのままにしようと、みんな頑張っているんだよ」

「そっか……」

 鳴子ちゃんが言うには「魔法少女伝説」がネットの方でも出回っているとか。

 世間では騒がれて無くても、ネットでは凄いらしい。

 最近知ったことなのだが、昔からヒーロー関係者の間では魔法少女が現れることを、不吉の予兆だとしているらしい。魔法少女が現れた場所は、大きな事件が起きることがあるらしい。

 私は今回の事はたまたまだと思っていた。いや、そう思いたいのかもしれない。

 けど――。

 隣を歩く大ちゃんの表情は普段のそれと変わらなかった。

 もしかしたら、もうすでに大きな戦いが始まっているのかもしれない。

「大ちゃん大丈夫なの?」

「ああ……。大丈夫だよ」

 大ちゃんはずっとこの調子である。

 私は退院して自宅に帰ると、大ちゃんにあの後、10号の事を問い詰めた。大ちゃんは「大丈夫」としか答えてくれない。周りの大人達の反応を見ても、そんな状況ではなかったことはわかる。

 それでも大ちゃんは「大丈夫」としか言わない。

 エイダさんの話によると10号は突如現れると、終焉の剣を奪った。さらに彼はどこかで手に入れた魔石を所持しており、それを覚醒させていた。銀の太陽に似た性質。それどころか使い勝手では銀の太陽を凌駕するとのこと。そして大ちゃん……オニキスと戦闘に。圧倒的強さの前にオニキスは一方的にやられるだけだったらしい。

 それもそうだ。そもそも戦闘で魔力も体力も消費しきっていたのだ。まともな戦いすら出来なかったはずだ。

 大ちゃんは起死回生の博打で、手に入れた銀の太陽を強引に使った。それで引き分けに持ち込んだらしい。

「でも、ルワークも耐え切れなかった魔法だよ?」

「でも今生きているし」

「今後の事を言っているんでしょ!」

 大ちゃんは悪びれることもなく「はいはい」と言う。

 私達は心配しているというのに、この調子。

「とりあえず追い払ったから勘弁して」

「次はいつ来るかわからないんでしょ?」

「うん」

 嘘だ。

 その後、超常生命体10号はどこかへ行方を眩ましたらしい。

 結局オニキスである大ちゃんと戦闘して、なんとか見逃してもらったような状況らしい。大ちゃんは負けたことに対して、悔しそうにしていたそうだ。

「オパール。それが彼の名乗った名前なんだよね?」

「ああ。そっちの方が呼びやすくていいけどね。10号! なんて、かったるかったし」

 オニキスという名前を知った10号は、自身をオパールと名づけたのだ。

 皮肉にもそれは幸運を呼ぶ石の名。

 オパールはその場で大ちゃんに何かを告げたらしい。それは大ちゃんにしかわからず。それを頑なに誰にも教えてはくれない。

「心配しているんだよ?」

「次は勝つさ」

 夏にもなろうというこの時期に冷たい風が吹き抜ける。空を見上げると巨大な入道雲が夕暮れの空を覆っていた。

 

 

 

「明樹保、優大お帰りなさい」

 家に帰ると人型のエイダさんが出迎えてくれた。

 衣服はこちらで用意したもの、ジーパンにタンクトップという凄くラフな格好だ。今はそれにエプロンつけている。

 エルフがそんな格好しているもんだから、最初は慣れなかった。ちなみに本人を前に「エルフ」というと「ハイエルフだって言っているでしょ!」と抗議してくる。

 今日の晩御飯の担当はエイダさんに決まっていた。

「優大。料理って難しいわね」

「この前も聞きましたよ、それ」

 味は悪くない。のだけど、お昼ごはん食べ終わった後すぐに手を付けて、この状態である。全くと言っていいほど手際が悪い。

 大ちゃんは足早に台所に立つと、手際よく晩御飯の準備を始める。

「あ! またそうやって手を出す!」

「はいはい。手伝いますからちゃっちゃと済ませますよ」

 エイダさんは「むー」と口を尖らせながら、大ちゃんの隣で晩御飯の仕込みの手伝いを始めた。

 エイダさんはしばらくこちらに留まることになった。というのも、滝下さんの提案だ。満宮、反ヒーロー連合がこの地を狙っていることを危惧し、エイダさんと日本である程度の話し合いをつけておくことにしたのだ。

 そのため連日のようにエイダさんと外務省の人たちが会談しているらしい。

 ほとんどが口約束になると、エイダさんは言っていた。

 そういえばエイダさんが、いつぐらいに帰るか聞いてない。

「ヴァルハザードの方にはいつ帰るんです?」

 エイダさんはどこか遠くを見る。大ちゃんは特に気にも留めず、手を動かしていく。

「そうね……夏が終わる頃には帰るわ。まだ向こうの世界もバラバラだし、この話を私の里や、ゲートを管理している元老院にも早く話をしておきたいし」

 エイダさんが小さく「最悪元老院だけでも説き伏せておかないと」とつぶやいた。

 万が一でも命ヶ原とヴァルハザードがゲートで繋がったとしても、ある程度の時間稼ぎは出来るんだとか。

 

 

 

「ヴァルハザードはバラバラなんです?」

 優大は手を動かしながら聞く。

「そうね。たくさんの国があるわ。こちらと違って、話し合いで解決しようとか考えようとする方が少ないわね」

「そっか……」

 明樹保は表情を暗くさせていた。エイダは振り返り明樹保の顔を見ると困惑する。

「大丈夫。明樹保には関係のない話よ」

 エイダは困ったように笑う。その一言が刺さったのか。明樹保は悲しそうに顔を俯かせた。

「いや、関係のある話ですよ――」

 優大は続ける。

「――何せ、すでに運命共同体も同然ですからね」

 優大は手を止めて鋭い顔つきになると、静まり返った部屋でポツリとつぶやく。

「砂糖と塩間違えた……」

 

 

 

 それからの事はあっという間だった。直ちゃんのお父さん達も含めて、亡くなった人たちの葬式などに追われ、水青ちゃんたちと約束していたパーティーをみんなでやったり。そして今年はゆっくり休めるのは8月に入ってからになる予定だ。あくまで予定。

 そう休めなくなるかもしれないのだ。

 

 

 

「夏休みに入って早々すまない」

 滝下浩毅は重苦しく話をする。

 その場には滝下浩毅、タスク・フォースの03チーム、エイダ、斉藤和也、明樹保達の7人がいた。

 明樹保達はタスク・フォースのブリーフィングルームに招集されていた。皆、珍しそうに周囲を見渡す。

 そこは今まで利用していたブリーフィングルームではなかった。

「凄い。全部最新のモノに変わってる」

 鳴子が最初に声を上げる。暁美はさっぱりわからないのか、顔を渋くする。

「基地がでかくなったぐらいしかわかんないや」

「だからテストもダメなのよ」

 暁美の言葉に凪は茶化す。暁美はすかさず反論する。

「期末は見てろよ! 前回より良い点取ってやる」

「応援しています」

「さっすがお姉さま」

 水青と白百合は、嬉しそうにする。が、当の本人の顔が歪む。2人が首を傾げていると、凪が代わりに口を開いた。

「出来るといいわね。この前の小テストも酷かったじゃない」

「うぐっ……う、ううううううるさーい。次は見てろよ!」

「はいはい。そこまでにしてちょうだい。話を聞くわよ――」

 紫織は話が脱線しているのを修正する。

「――それで、お話とは?」

 滝下浩毅は一度小さく頷く。

「うむ。浮遊艦隊の話は知っているな?」

 最初に答えたのは鳴子だった。

「はい。テレビやネットで今一番話題になっていますね。空に突如現れる艦隊だって」

「お父様も、気にしておられました。雨宮のヒーローも派遣要請を受けたみたいです」

 続いて水青。彼女は自分の父親が経営する会社の情報も混ぜて答えた。

 暁美は「そういやテレビでそんなこと言ってたなー」とぼんやりとつぶやく。

 凪は頷くだけだった。紫織と明樹保は答えず、滝下浩毅の言葉を待っている。

「単刀直入に言う。それと戦って欲しい」

 彼の言葉の後しばらく静寂が包む。

 明樹保達は顔を見合わせる。

 明樹保は一歩前に歩み出ると、まっすぐに見据えて口を開く。

「わかりました」

 明樹保の後ろで水青、暁美、凪、鳴子、紫織、白百合が頷く。

「いいのか?」

 滝下浩毅は念を押して問う。

「だって、私達は魔法少女ですから」

 明樹保は満面の笑みで答えた。

 

 

 

 

 

 ~To Be Next Series~

 

 

 

~あとがき~

 

ここまで読んだ皆様。お疲れ様でした。ありがとうございます。閲覧数はとっても励みになるんだなっていうのが、今回痛感したことでした。チラ見でも、ありがとうございます。

 

1年8ヶ月に及ぶ作品が終わったことに達成感と充実感に満たされております。

いや~~~~~~~~~~~~~~~~~~長かった。

実投稿時間は2ヶ月とかそんくらいだった気がしますが、やっぱり長い。それを終わらせられた幸せ。

本作品には執筆者の他に校正&アドバイスを担当してくださった方がおりまして(14話くらいまでだったかな?)

その方にこの場を借りてお礼を申し上げます。

あもうさんありがとうございました。

 

とぅーびーねくすとしりいず とかカッコつけてますけど、続き書くかどうか未定です。あきほの話の裏で色々あったあれやこれやを書くかもしれませんが、とりあえずしばらくはもうひとつの作品もそこそこ目処をつけます。

 

それでは

 

 ※この作品は小説家になろうにも投稿しております。


 
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