「他が為の涙」
ラステイション付近・草原
ユウザ
「……これで全部か」
久々の採集依頼、時間がかかりにかかって夜中になってしまったようだ。
……最近敵対モンスターが強い気がする…いくら攻撃しても倒れる気配がしない。
何とか逃げ切れたのはいいけれど、最近罠の腕も落ちて仕留めるまでには至ってない……
……あの日から、僕は討伐依頼を成功させた事が無い。止めを刺そうとして直ぐ失敗してしまう。
その時何故か必ず、義父さんの葬式を思い出してしまって、その直後必ず失敗するんだよな……
生モノも食べれなくなった事よりも深刻な事だ、このままだとランクが上がらないままだから。
……そう言えば、彼女はここの近くの森にいるんだっけ、大怪我してるのに……
ここの近くにハイマが試験受けてるらしいけど、怪我した身体で合格できるのだろうか……
校内で彼女についての話をよく耳にしたけど……どうやら一般生徒間からは近づきにくい雰囲気を出しているそうだが、組織内の人望が厚いようだそうだ。
ユウザ
「…………」
……彼女が死んだら、彼女の為に大勢泣くんだろうな……義父さんが死んだときみたいに。
なんとなく……そう、なんとなく気になって、僕は森に向かう事にした
ラステイション付近・森林前
???
「OKeeeeyLet'sPartyyyyyyyyyyyyyyyy!!!」
……森に入ろうとしたその時、森から騒がしい爆発音とともに重火器両手に携えたゴツいシルエットが飛び出した。
狼を模したヘルメット、背中に付いてる二つのコンテナ、そして極めつけは丸みを帯びてない無骨なフォルム……
今の派手な登場も相まって、笑顔の子供も見れば泣きわめき、大の大人も漏らして逃げていきそうな程に物凄い存在感を与えていた。
???
「…おや?君は担徒君じゃぁないか。こんな所で何してるんだい?」
…僕はこの人を知っている。このゴテゴテのパワードスーツを着込む男性を知っている…彼の名は米ケル、央共学園の学園長だ。
義父さんの古い友人に当たり、義父さんが生きていた頃は暇になると良く父の家に遊びに来ていたから顔はよく覚えている…今は隠れちゃってるけど。
最近学業なり生徒の更生なりで忙しいらしく、恐らく
米ケル
「まぁ良い……君も早く帰る事だ、ここは危険だからね…さて、私も仕事に戻るとしよう……How do you like me nooooooooooooooooow!!!」
そう言って学園長は、再度森の中を進撃しながらまた発砲しだした。
彼が身に纏っているのは、人用プロセッサユニットの一つ、
水中じゃなければ何処でも活動可能というとんでもない代物…だそうだ。
『これの何処がプロセッサユニット?』と思う人もいるらしいけど、『開発者がそう言ったのだからしょうがない』…だそうだ。
バックパックには銃や大砲等の多くの武器を収納でき、さながら歩く武器庫となっている。
……つまり、彼が危ないと言うのは森の中ではなく、彼自身にあるという事だ。
まぁあの爆音ならある程度のモンスターも逃げ出すだろうし、木々を吹っ飛ばせば視界も良くなって効率が良い。
その反面、森林破壊などによる環境問題のリスクが孕んでいるが、あの学園長ならお構いなしにやりそうだ。
……でも僕にもやる事がある、彼女に会って確かめなければならない。
有耶無耶だけど、ぼんやりしてるモノだけど、今を逃したら知る事が出来ない気がするから……
ラステイション付近・森林内
学園長とは違う所から入ってハイマを捜す事にした。ここは普段モンスターもあまり来ない場所だが、学園長が暴れている今、モンスターにとっての逃げ場と化している。
つまり今ここは、何時どこからモンスターに遭遇しても可笑しくない位に危険な場所となっている。
……そのはずなのだが、見かけないどころか気配すらも感じられない。
……これは、嵐の前の静けさとはこういうことなのだろうか。
いくら考えても何も分からない以上、進むしかない。僕は森の奥へ奥へと進んでいった。
するとそこには、瀕死のモンスターが倒れていた……が、その全員が腕輪、バンダナ、腕章等、皆身体に赤と黒のチェック柄を身に着けていた。
よく見るとそのモンスターたちに……いや、彼らに見覚えがある……恐らく全員ハイマの子分だ。
子分(ゴーレム)
「う、う……」
さっき保健室で会った子分を見つけた。まだ意識はある事を確認し、駆け寄って抱え起こす
子分(ゴーレム)
「ああ……お前か……」
弱弱しい声だ……もしかしてこれまでモンスターと遭遇しなかったのは、彼らが撃退しながら進行してたからなのかもしれない。
そして戦いの中で疲れ、一人、また一人倒れて行って、遂に出会う事なく全員ダウンした……と言った所だろうか。
このままにしておくのもマズいと思ったので、地面に杭を刺して術式を作り、光の柱を生み出す。
……これで学園長が気付いてくれるといいが……
ガッ
子分(ゴーレム)
「待……て……」
僕が先に行こうとした時、子分が僕の足を掴んで引き止めた。
子分(ゴーレム)
「姐……さんを……姐さんを……」
ユウザ
「……どうしてそこまで……?」
正直よく分からなかった、身内でもない筈なのにここまでする事自体理解できなかった。
死んだら元も子も無い筈なのに、
その時、子分のコアが
子分(ゴーレム)
「……は……?きまってんだ……ろ…………」
家族だから、血がつながってなくても絆で結びついたまぎれもない家族だから……
そう言った後、子分は気を失ってしまった。
……そうか、血がつながってなくても彼らは彼女の家族なのか、皆彼女の為に泣いてくれるのか……
僕は急いで森の最奥へと走った。彼女は生きなきゃならない、ここで死んではならない、心からそう思った。
汚染モンスター
「GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
声……しかもこれは大型汚染モンスターの!
交戦中?誰と?爆発音が聞こえないし学園長じゃないから他の受注者?いや、Bクラス以下の実力なら撤退するはず……まさか!?
考えながら走っているとモンスターと人の影が見えた、誰かは分からないけど、もう一方は汚染モンスターだ。
更に足を速める、思考を一点だけに絞る、限界を超える、助けるために……標敵を殺す
そう心に決めたと同時に……
ドッッ
いつの間にか、敵対モンスターに一撃喰らわせていた。いつの間にか、思考が切り替わっていた。
いつの間にか……僕は僕ではなくなっていた。
【モードチェンジ・凶モード】
……構わない、彼女の為に泣く人が沢山いるのだから、そんな人がほとんどいない僕が安いものだから。
涙を流す人は、少ない方が良いから。
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可笑しい所があるかもですが、良ければどうぞ