「う~~~~ん」
自分の部屋のベッドに寝そべって、何やら雑誌を見ながら考え込んでいるグライダ・バンビール。
その眼は非常に真剣である。
自称・美少女剣士の彼女。戦いの時にもこんな真剣な表情をする事は希であろう。
「おねーサマ」
そのグライダの形のぬいぐるみを抱えて彼女のもとにひょこひょことやってきたのは双子の妹のセリファ・バンビールである。
もっとも、事情があってその外見は十才そこそこにしか見えないし、思考パターンも幼稚園児並み。
それでも「学力」という意味なら頭は良く、魔術教員採用試験の受験資格持ちだというから世の中分からない。
「これからセリファお出かけしてくるね。お昼ごはんはいらないから」
いつものようにぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、ニコニコ顔でいる。その光景にさすがに慣れたグライダは、
「ん。気をつけるのよ。変な人にはついて行かないように」
と、そっけなく返す。
「はーい」
そう答えると、やってきた時と同じようにひょこひょこと去っていく。
ドアがばたんと閉まると、グライダはもう一度雑誌に視線を戻した。
「……やっぱり難しいわ。今回のクロスワードパズル」
実際難しかったのだが、落ち着けずに解けない原因は他にあった。
雑誌をぱたんと閉じると、ベッドに放ってから、彼女も部屋を出ていった。
世界で最も不可思議な港町として名高いこのシャーケン。
ここにも、朝はきちんとやってくる。
同時に、面倒な騒動までやってくる。
平穏な日は、一日としてなかった。
この広い町のどこかで、必ず誰かがはた迷惑な騒動を引き起こし、巻き込まれるのだ。
だからこそ、ここへ来れば――どんな職種であれ――仕事にあぶれることはない、とまで云われている。
グライダのぬいぐるみを抱えたままセリファがやってきたのは、家からずいぶん離れた町外れの森だった。
別に物騒な森ではないのだが、一応「立ち入りには注意」となっている。
セリファは辺りを伺うと、トコトコと道を外れて森の奥に入って行った。
別に道がないというだけで、歩くのに苦労する訳ではない。少し進むと目的の場所に着いた。
そこは、ほんの十メートル四方ほどだけ開かれていた。中央に焚火の跡があり、そばの木にはボロボロのサンドバッグがぶら下がり、その脇に小さなテント。
そのテントには誰もおらず、辺りに人影はない。この持ち主は現在留守のようだった。
しばらく待とうと決めた時、セリファの後ろで誰かが草を踏む音がした。
「お嬢ちゃん。また来てたのか」
そばの川で捕まえたらしい魚を無造作に掴んだまま、警戒した様子もなくその男が口を開いた。
明らかに武闘家の道着と分かる少々薄汚れた服。全体的にがっしりとした体格だがやや細み。そして眼が細く小さい。短い髪を黄色に染め、意外と若い。
そのため外見の迫力には欠けるが、それでこの男の実力を図った者は間違いなく負けるであろう。その男はセリファの前にしゃがみこむと、
「飽きもせずによく来るな。お家の人は心配してないのか?」
「ちゃんとおねーサマに『お出かけしてくる』って言ってきたもん」
セリファの方も男を見上げると、手に持っていたスーパーのビニール袋を見せる。
「ねーねーゴーシャおじちゃん。また教えてくれる?」
セリファがニコニコ笑顔のまま言ったが、ゴーシャの方は心の中で「まだ二十歳前なんだがな」と苦笑していた。
セリファが「ゴーシャおじちゃん」と呼んだ男と出会ったのは一月ほど前になる。
森の中に木の実を拾いに来たセリファが野生動物に襲われそうになったところを助けたのだ。
襲われた時にセリファは持ってきていたお弁当を無くしてしまい、彼の食事を分けてもらったりもした。その時に、彼にセリファが頼んだのだ。
「強くなって、おねーサマをびっくりさせたいの。ぶじゅつを教えて」と。
普通の大人なら一笑に伏して追い返すところだが、彼は引き受けたのだ。
それから何日かに一度、本当にこうして来るようになったという訳である。
セリファは彼のテントの中に入り、しばらくしてTシャツにスパッツという格好に着替えて出てきた。
「……始めるぞ」
それまで無骨な優しさを見せていた表情がすっと引きしまる。セリファも真剣な顔で彼を見上げている。
男は目を閉じてそのまま立っている。自然体のままの「
二人は大きくゆっくり深呼吸をしていた。
いくら武術を教えるといっても、はっきり言って体格的にも体力的にも普通より劣るセリファに、いきなり技を教えるほど常識がない訳ではない。
強力な技ほど強靱な体を作って反動に備えなければならないのだ。それは、魔術にも通じる部分である。それを知ってか知らずか、ただ立っているだけなのにセリファは真剣だ。
まず落ち着く事。そして集中する事。それが肝心だとゴーシャはいつも言っている。
武術全般に言える事だが、体内にある「気」が基本なのである。その「気」が技や動きにも多大な影響を与える。落ち着く事は「気」を体内に集め、満たす事でもあるのだ。
「気」は生命力に直結し「魔力」は精神力に直結した力。全く違う物であるが、その使用方法は案外似ている。
目に見えないので分かりにくいのだが、生命ある者であれば誰しもが「気」を持っている。それに比べて「魔力」の方は限られた者しか持っていない。
魔界の住人は生まれながらに「使う」事ができるが、人界の人間達はそういう訳にはいかないだけだ。閑話休題。
そうしてゆっくりと十分ほど深呼吸をしていたろうか。ゴーシャはゆっくりと眼を開け、
「では、いくぞ」
腰を落とし、そのまま素早く右拳を前に突き出す。常人には分からぬ最低限の動きだ。セリファもワンテンポ遅れて同じようにやるが、まだまだスピードに欠けていてとても突きには見えない。
それでも構わずにゴーシャは一定のリズムで、腰を落としたまま何度も突きを繰り出す。セリファも何とか彼についていこうとするが、やはり無理だ。
ただ突きを繰り出しているだけなのに、もうセリファの息が上がってきている。腕の動きも緩慢になり、満足に腕を突き出せてすらいない。それを見た彼は、
「休憩にしよう」
そう言って止めさせた。それを聞いたセリファはその場にペタンとしゃがみこみ、ぼーっとした表情のまま肩で息をしている。
ゴーシャはセリファの持ってきたスーパーのビニール袋からバナナを出し、一本をセリファに放る。
バナナは彼女のももに落ちたが、セリファの腕は麻痺したかのようにしびれ、とても動かす事ができないでいた。
しかたなく彼はそのままセリファを木のそばまで運び、木に背をもたれさせると、彼女の荷物からグライダのぬいぐるみを持ってきてやり、彼女の上にそっと置く。
そうしているうちにセリファは眠ってしまったらしく、すうすうと規則正しい寝息を立てている。そこで初めてゴーシャは「何もない空間に」声をかけた。
「……そこのご婦人。さっきから見ているようだが、この子が心配かね?」
彼は何もないところをじっと見ている。すると、その何もなかった筈の場所から、すっと一人の人間が姿を現した。
全身を覆う金属のような光沢を放つマント。ウェーブのかかった腰まである赤い髪。美しいが冷たい印象のある表情。そのまま彼女はセリファのそばにしゃがみ、さらさらと髪を撫でている。
「ま、一応は保護者ですから」
「コーラン殿……ですな」
名乗ってもいないのに自分の名前を呼ばれた事に疑問も抱かずに、コーランは彼を見た。
「ええ。いつもこの子がお世話になってます。ゴーシャ・スーシャさん」
これには男の方が驚いた。確かにセリファといろいろ話はしたから、名前を聞いていても不思議ではない。だが男の方はセリファにもフルネームは名乗っていないのだ。
「お姉さんのスーシャさんとは何度か会っていますから。気配がとても良く似ていたので。姉弟だからでしょうね」
コーランはそう言うとニコリと笑った。
「なるほど。姉にあった事があるのですか」
ゴーシャは、今度はサンドバッグに向かい打ち込みを始めた。その光景をずっとコーランは見ている。
「別にこんなとこでこんな風に修業しなくてもいいと思うんですけど」
「そうもいかん」
コーランの呟きに彼は真剣な顔で答えると、
「武闘家にとって日々の鍛練は一般人の食事や睡眠と同じ事だ」
「……ごもっとも」
こうした実力の向上に近道はない。一歩一歩の積み重ねが強い心身を作るのだ。
しかし、コーランの一番身近な「武闘家」はそんなイメージなど全くないが。
「もうすぐ戦うんですってね、バーナムと。スーシャさんが言ってましたよ」
「そうですか……」
そう言った時も彼は打ち込みを続けていた。
「あなたも『
「ああ」
別に隠そうともせずにゴーシャは答えた。
「確かバーナムは『龍』で、スーシャさんは『鳳』。あなたは……」
「『虎』だ」
彼女の知識が確かならば「龍」「鳳」「虎」それに「亀」といえば世界の四方守護と四大精霊を司る者達の事である。
東の守り・
南の守り・
西の守り・
北の守り・
の四柱の神の事だ。
名前や姿形は地方によって変われども、役割は共通だ。いわば『四霊獣の拳』は神の力を人が使う技なのだ。
彼は「仕上げだ」とばかりに一旦間合いをとると、地を蹴って一気に加速し、サンドバッグに密着。
その途端、ズバンと重い音がしたかと思いきや、サンドバッグはぶら下げていた枝を一瞬でへし折って、天高く舞い上がった。
コーランがその威力に驚く中、彼は淡々と戻ってきた。
「それにしても、術士であるこの子に、何故武術を学ばせる?」
ゴーシャが前から考えていた疑問を口にした。
何度か接するうちに、彼女自身にとてつもない魔力が宿っている事をゴーシャは見抜いていた。しかし、それはあくまで天性の物。磨いた物では決してない。
「……理由はこの子に聞いて。私はこの子が『自分からやろうと思った事』には口出ししない主義だから」
そう言ったものの、セリファが自分を鍛える事自体は彼女も大賛成だ。
セリファに宿る「ほぼ」無限の魔力。それを制するにはやはり丈夫な心身が必要なのだから。
「体を鍛える程度なら何の問題もないわ」
コーランはそう言うと、
「それじゃ、宜しくお願いします、先生」
後ろを向いたまま手を振り、そのまま姿を消した。
その頃、もう一人の「四霊獣の拳」の使い手バーナム・ガラモンドは、河のそばで目を閉じて横になっていた。だが、人の接近を感じてゆっくりと目を開ける。
「……グライダか」
彼のそばに立っていたのはグライダだ。特に何も持っていない。
「クーパーが……ここにいるって言ってたから」
いつもは気の強い言動の彼女も、なぜかおとなしいというか、どこかしおらしい。
「あのチャンバラ神父。どこで人のやる事覗いてやがんだ」
悪態ついて立ち上がると、河の水で顔を洗う。とりあえずさっぱりとしたようで、着ているシャツで顔を拭いた。
「あんたは目立つのよ。あたしが聞いたのはクーパーだけど、クーパーは別な人から聞いたみたいだから」
ボサボサの髪に袖を切ったシャツにゆったりとしたズボン。よく見れば道着のものに見えなくもないが、全部黒づくめというのは珍しいだろう。
「明日なんでしょ……」
「ん。ああ。何とかなんだろ」
バーナムは別になんという事はない、といった風情で再び寝転がる。その仕種に、
「あたしはよく知らないけど、いわゆる一世一代の大舞台ってヤツなんでしょ? どうしてそんなにのんびりしてられるのよ」
呆れた口調で、寝転がったバーナムの頭をこつんと蹴る。
「焦ったって勝てる訳ねぇだろ」
投げやりな口調ではあるが、一理ある。そう思って黙り込んだグライダは、彼の隣に座る。
「みんな心配してるよ。あんた武闘家のくせに修行らしい修行した事ないでしょ?」
確かに隠れてやっている様子も見られないのだ。これでは誰もが不安になるだろう。
「なるようにならぁな。お前が心配するようなこっちゃねーよ」
「べ、別に心配なんてしてないわよ。顔見知りが死んだら寝覚めが悪いし、その、ホントに、それだけだってば」
その言葉にグライダが、少し照れたような、怒ったような、そんな顔でふい、とそっぽを向いた。
神父オニックス・クーパーブラック。通称クーパーは、自分の教会に客を迎えていた。
一人はロボットであるシャドウ。もう一人は、これまた「四霊獣の拳」の使い手であるスーシャ・スーシャである。
黒い包帯を巻いて左目を隠したいつもの表情。クーパーは、そんなスーシャから事情を聞いて少し考え込んでいた。
「なるほど。学び始めてから十五年目に『試練』が待っているんですか」
「はい。神父様。我々『四霊獣の拳』の使い手は、学び初めて十年経つと独学で修業を始めるのです。この時、多くの人は村を出て行きます。バーナム様もその一人です」
出て行った時を思い出してか、彼女は一瞬黙り込んだ。
「これは武者修行はもちろんですが、閉ざされた村に新たなる『技』を取り入れる為でもあります」
スーシャは、自分がたどってきた道を回り道とオーバーアクションを交えて切々と語り出す。
スーシャ達の村は「隠れ里」という程ではないが、へんぴな場所にあるため、他の村との交流がほとんどない。
そのため、村全体が一つの「家族」のような連帯感に包まれている。
へんぴな場所に村があるのは、誰が編み出したのかも分からないこの「四霊獣の拳」の威力を恐れての事だった。
四方守護の神とその霊獣の力を人間が使う、いわば人智を超えた荒技。技はもちろん使う側の精神面も鍛えに鍛え抜かねば、時の権力者に利用されるか、ただの殺戮者にしかならないからだ。
もっとも、型や小技はともかく四霊獣の拳の特徴である「気」を使った技は限られた人間にしか使えないのであるが。
「その五年の間に新しい『技』とやらを開発して相手と戦え、という事になるのか?」
シャドウがそう問うとスーシャはうなづく。
「四霊獣というくらいですから、技は気の吸収の『龍』。気の集中の『鳳』。気の放出の『虎』。気の制御の『亀』の四系統に分けられます。それを基本に技を編み出すんです」
喋り続けて喉が乾いたのか、出されたお茶を一口飲んで、彼女は続ける。
「基本的に龍の拳は『蹴り技』。鳳の拳は『空を斬る技』。虎の拳は『手技』と『投げ技』。亀の拳は『絞め技』と『極め技』と決まっているんですけどね。確かに例外は多いのですが」
スーシャの説明を聞いたクーパーが尋ねた。
「……技ができなかった場合は?」
「もちろんできなかった場合の方が多いんです。わたくしには分かりかねますが、四霊獣の拳の歴史はかなりありますけど、技を編み出せた方というのはそれほど多くありませんし、わたくしも編み出した訳ではありません」
そこでスーシャは一旦黙る。
「でも、仮に新しい技を編み出したとしたら……無事では済まないでしょう」
いきなり飛び出た言葉にクーパーも身を固くする。その過敏な反応にスーシャも苦笑いし、
「それは大げさですけど、相手の編み出した初めて見る技でこてんぱんにされちゃいますから」
そう言われれば、さしものクーパーも納得する。神父である以上、人の生き死には自然な形の方が良いという考えがある事は確かだ。
「確かに、バーナム様が心配でないかといえば嘘になります。バーナム様と戦うのは弟なので、どちらにも無事でいてほしいです。とても心配です。ですが、これは『四霊獣の拳』の使い手である以上避ける事のできない運命なのです」
いつもながら、かなり芝居がかった調子でクーパーとシャドウに話した。
「その『運命の日』とやらが、明日に迫っている訳だな。全く、同じ技を持つ者がわざわざ戦うというのは良く分からんな」
もしシャドウが人間だったらため息交じりに呟いている事だろう。
己を鍛えるためライバルと戦う。それは分かる。しかし、半分殺し合いのような戦いをして、貴重な技の継承者を減らす事もなかろう、という意味だ。
「シャドウの言いたい事も分かりますが、こういった技という物は、生半可な技量の者に受け継がせる訳にはいかないというのが、こうした武芸の一般的な考えなんですよ」
自身も、神父にありながら剣の一流派の免許皆伝であるクーパーが静かに答えた。
とにかく、彼にできる事は、バーナムの無事を祈る事だけだった。
そして次の日。皆が見守るシャーケンの町の砂浜に、二人の男が立っていた。
バーナムとゴーシャである。
セリファを除く全員は、これから起こるであろう事を予測していた。セリファには「なんでこんな恐い顔で二人が立っているんだろう」程度の事しか頭になかった。
そこへ、一人の人物がやってきた。
小柄な老人だ。杖をつきつつ歩いているが、その身のこなしには微塵も隙がない。もう片方の手にはバーナムやスーシャと同じような水晶玉が握られている。
バーナムとゴーシャ。それにスーシャの三人は、その老人の前に膝をついて畏まった。
老人が、はっきりした口調で言った。
「バーナム。ゴーシャ。お前達の番じゃ。今までの暮らしで得た物総てを出し切ってみせるがよい」
「はっ」
「はいよ」
ゴーシャとバーナムの声が重なる。
「スーシャ。お前はあの者達のところへ」
「はい。お祖父様」
彼の杖を預ったスーシャがクーパー達のところにやってくる。クーパーは、
「あの方が、スーシャさんのお祖父様ですか。バーナムの師匠も、あの方なんですね」
「はい。わたくしには皆様の護衛をするよう申しつけられました」
「護衛?」
「はい。『四霊獣の拳』の使い手同士の戦いです。何が起こっても不思議ではありません。それに、四霊獣の技は同じ四霊獣の技でしか完全には相殺できませんので」
そう言うと、今にも戦いを始めようという二人をじっと見守る。だが、彼女にとっては実の弟と(一方的とはいえ)愛する人の戦い。胸中穏やかである筈がない。
「覚悟はいいな」
師の言葉に二人とも無言でうなづく。
すると、彼が持っていた水晶玉の中に『蛇亀王』を意味する文字<龟>が浮かび上がった。そしてそれは一本の棍と化す。
「この戦いは我が神である地神・蛇亀王と神器ヴァイスラヴァーナ。そして我イボテの名において、最後まで見守ると誓おう」
師匠イボテは出現した棍――神器ヴァイスラヴァーナでバーナムとゴーシャを指す。
「では……始めぇぃ!!」
イボテの鋭い声が砂浜に響いた。
イボテの鋭い声が砂浜に響いた。
ゴーシャの方は自然体の「無形」の構え。
バーナムの方は相手に対し体を横にして左腕を突きだし、右腕を引いた構え。この流派では「
始めの合図はあったが、二人とも構えたままぴくりとも動かない。
周りが固唾を呑んで見守る中、二人は同時に動いた。二人の間合いの中央で互いの拳と蹴りとが凄まじい勢いでぶつかりあう。
正拳蹴上裏拳蹴降肘打膝蹴手刀回蹴貫手踵落とし……。
互いに防御を全く考えていない。相手の技を己の技で叩き返す、攻め一辺倒の戦い。二人の動きを見切るのも難しい。
さっきまでの静けさが嘘のようである。攻撃の音が離れたこちらにまで大きく響いてくる。
違いといえば、ゴーシャの方は相手に密着するような形で素早い打ち込みが多いのに対し、バーナムの方は少し距離をとってゆったりと、しかし鋭い動きの足技が多い事くらいか。
他の面々が見続ける中、グライダは若干拍子抜けしてしまっていた。別に想像以上に低レベルという訳ではない。
(何か、普通の試合だなぁ)
そう思った事は確かだ。
「お嬢さん。意外かね」
いつの間にか隣に立っていたイボテが言った。グライダは素直に、
「……はい。『四霊獣の拳』っていうくらいですから、何か、もっと、こう……凄いのを想像していたもので」
「ふむ。無理もなかろう」
彼は、グライダの言わんとする事を何となく理解した。
「人間の体の動きという物は、関節の動かせる範囲が決まっている以上、無数ではあっても無限ではない」
二人の戦いを見ながら、いきなりよく分からない解説を始める。
「その限りある動きの中で、最も効果的な動きで最も効果的な攻撃をするとなると……自然と数は限られてくる。『気』を使う『四霊獣の拳』と言っても、拳法である以上それは例外ではない。お嬢さんはどこかで見たような技ばかりだと思って拍子抜けしたのであろう?」
何も言っていないのにこれだけの説明をしてしまう老人。だが、それはグライダが思っていた事だ。
しかし、言われてみればその通りかもしれない。武器を使わないで戦うとなれば、身体の固い部分を相手にぶつけるのが多いだろう。その場所も動かし方も限られるのだ。
凄まじい打ち合いはまだ続いている。二人とも、どこにこんな体力があるのだろうかと思うくらいだ。
特に、バーナムはまともに修業らしいものをしているところを見た事がないだけに、一同の驚きようはなかった。
「あいつ……強かったんだ」
グライダは素直に感心していた。
「ええ。バーナム様はお強いですよ」
隣のスーシャが力を込めて答える。
「バーナム様は努力するところを決してお見せにはなりません。しかし、影で血のにじむような稽古をされておいでなのでしょう」
一方的に好いているせいもあり、かなり過大評価しているスーシャ。
「あのぐうたらが稽古なぞするものか」
師匠が真剣な顔で呟く。
「あいつは……ある意味不幸な人間かもしれん。この世の総てを傷つける事しか出来なかった。そういう奴じゃった」
師匠が、どこか遠い目をしていた。
今から十七年前。村にある四霊獣を祀った
胸に縦に裂いたような傷跡が残る、生まれて間もない赤ん坊。
それがバーナムだったのだ。
村人全員が集まって話し合った結果、赤ん坊を見つけたフーツラ・ガラモンドが自分の息子として育てる事となる。
だが、赤ん坊に気をとられて人々は気付かなかったのだ。社に安置されていた筈の神器の一つ「龍の水晶玉」がなくなっていた事を。
この水晶玉は四霊獣の拳免許皆伝の証。持ち主の肉体の一部となって次の世代が育つまで力を貸し続けるという物だ。
もちろん村全体は誰が盗んだ、どこに行った、と大騒ぎ。奉っている神器がなくなったのだから当たり前である。
そんな時、まだ立てない筈のバーナムがふらりと立ち上がって、自分の胸を断ち割って人々に見せたのだ。自らの肉体に納められた「龍の水晶玉」を。
彼の心臓に当たる部分にその「龍の水晶玉」があったのだから、村人全員驚きを隠せなかった。
そして、彼は普通の人間とは思えない力をこの頃から発揮する事となる。
父親の腕にしがみつこうとすればその腕をいとも簡単に折り、何気なく叩いた分厚いテーブルをあっさりと叩き割り、泣いてじたばた暴れれば壁や床は壊れていく。
しかし、その強大な力に身体の方が耐えられず、同時にバーナム自身の腕もへし折れてしまう。だが、力を貸し与える水晶玉の力で瞬く間に完治してしまうのだ。
生まれながらにして「免許皆伝」と認められた運命の赤ん坊。
人間とは思えない強大な力を秘めた不思議な子供。
その為、古い文献に載っていた「力を抑える禁呪」の入墨を全身に施す事となった。
その結果、どうにか普通の人間並みの力を得る事に成功し、彼は本格的に修業を始めるのだった。
「バーナム様にそのような秘密が……」
スーシャも初めて聞く彼の過去に驚きを隠せないでいる。他の仲間も同様だ。
「強大な力を持つ者は、常に心身を鍛えねばならない。しかし、力とは常に己の内にしまいこむべきなのだ。力の制御が出来ぬ者に、武術を学ぶ資格などない。もっとも『制御』は四霊獣蛇亀の拳にも通じるところはあるがな」
彼のバーナムを見つめる目がすっと厳しいものになる。その視線の先にいるバーナムは対戦相手であるゴーシャと、今だ熾烈な打ち合いをしていた。
「あやつが全力を出し続けても大丈夫なのは、せいぜい三十分程度であろう。それを越えるとまずいな。特に、あやつは水晶玉の力による『変化』を二度も使って、封印もかなり緩くなっている。自力で封印を破ろうとすれば……どうなるかは分からん」
さすがに実力伯仲の者同士。お互い無傷という訳にはいかず、互いの身体に打ち込まれた跡が赤くなって残っている。ダメージが骨にまでいっていないのはさすがと誉めるべきか。
二人は同時にお互いの肩に一撃入れると、一旦離れて間合いを取った。そして始めのように構え、再び動かなくなる。
(何故……倒れない)
自分の向かいに立つ黒い髪の少年を睨みつけたままゴーシャは思った。相手から何発かの好打をもらってしまっているが、確実に自分の打撃は相手の力を奪っている筈だ。
四霊獣虎の拳の特徴は気の「放出」と素早さである。何気ない一撃に見えても、その攻撃総てに強大な「気」がこもっている。
その気は攻撃の威力を数倍に跳ね上げ、しかもそれが相手の気を乱すためダメージも蓄積しやすい。生半可な防御は役に立たない筈だ。
無論一発一発に己の気を込める訳だから、ゴーシャ自身も消耗している。しかしそれは鍛えれば克服できる。
その証拠に、バーナムは少しだが肩で息をしている。疲れているのだ。それに比べて鍛え続けていたこちらは息の乱れは全くない。
(やせ我慢か? いや。それだけではなさそうだが……)
ゴーシャは落ち着いて相手の観察をし、隙を見つける事に没頭した。
(ちっきしょう。身体が重くなってきやがった。もう限界かよ)
バーナムは相手を睨みつけると、重くなり始めた自分の身体に悪態をついた。まだ時間には余裕がある筈だが、読み間違えたか。
「疲れた時は基本に帰れ。焦る時こそ平常心」。
亡き父フーツラの口癖だ。
(はいはい。分かったよ)
内心で父に言い返す。
ゴーシャとは彼が十二の時に村を出てから全く会っていない。仲はあまり良くなかったとはいえ、どういう風に成長をしたのか見てみたかった思いはあった。
しかし、それは「武闘家」ではあっても「バーナム・ガラモンド」ではない。
たとえ考えなしと言われようとも、一気に突き進むのが自分ではなかったか。
(……らしくねぇか、こんなん)
彼は構えを解くと、自分の糸切り歯で指の腹を切って血が流れたのを確認し、その血の出ている指で相手をびしっと指さし、その後軽く閉じた目蓋に血を擦りつけるように塗った。
その動作にイボテが驚いた。
「何なのですか、バーナム様の行動は?」
訳の分からないスーシャが慌てて尋ねる。
「あれは、古い仇討ちの儀式じゃ。『お前の血を見るまで闘いは止めない』という強い意思表示を表わしている」
だがゴーシャの方も驚いている。この古い儀式を知っていたようだ。
「バーナム! そんな古くさい仇討ちの儀式を持ち出して、何を考えている!」
バーナムから返ってきたのは余りにもいい加減な答えだった。
「どんな手を使おうが相手を叩き潰す。それがオレのやり方だ! 本気でいくぜ」
疲れているにもかかわらずそう言い切ったバーナムに、ゴーシャも頭にきたのか、
「ふざけるな! 疲れているのに本気も何もないだろう!」
嫌悪感剥き出してゴーシャが吼え、地を蹴ってバーナムに一気に迫る。
次の瞬間、バーナムの方が天高く吹き飛ばされた。バーナムに密着した状態からゴーシャが下から肘で鳩尾に神速の一撃を叩き込んだのだ。昨日コーランが見た、サンドバッグを一瞬で吹き飛ばした技だ。
「四霊獣虎の拳・
スーシャがぼそっと呟く。基本的に虎の拳には「手技」「投げ技」といった近距離用の攻撃技しかない。
その虎顎は突進力を利用して、拳や掌を「上から下に叩きつける」技。下から打ち上げる肘の一撃であそこまでの威力を出す技など存在しない。
バーナムはすかさず空中で体勢を立て直そうとするが、思うように身体が動かず、背中から砂浜に叩きつけられた。小柄な彼の身体が二度程バウンドして動かなくなる。
「勝った……」
小さくゴーシャが呟いた。腕に残る感触が、受け身を取れずに吹き飛んだ事を証明している。
上から来ると思っていた技が下からきたのだ。いくらバーナムであろうとも、受け身をとっていないのでは大ダメージは必死だ。
一同は顔をこわばらせてその光景を見ていた。スーシャは自分の顔を覆う布に手を当て、飛び出して行きたいのを賢明に堪えている。
倒れたままのバーナムを見ていたイボテが終了を宣言しようとした時、
「待てよ……。ちょっと休んでただけじゃねえかよ」
バーナムの身体がぴくりと動いた。ぎこちない動きで立ち上がろうとしているのだ。
実際イボテやスーシャ達しか分からない事だが、バーナムの周囲の「気」が次々と彼の身体に吸い込まれていた。
ゴーシャの四霊獣虎の拳が気の「放出」と素早さが特徴ならば、バーナムの四霊獣龍の拳の特徴は気の「吸収」と蹴り技だ。
「気」は生命力に直結した力。無論回復にだって使える。その証拠に打撃によるあざは色濃く残っていたが、その足取りには力強さが戻っていた。
完全に勝利を確信していたゴーシャは、一転して地の底に叩き落とされたかのような表情を浮かべている。だがすぐさま気を取り直すと、
「ならば回復する前にとどめを刺すまでだ!」
体勢を低くして一気に跳躍。バックステップでかわしたバーナムの眼前に着地すると、立ち上がる勢いをも利用して再び先ほどの技を繰り出した。
バーナムの身体が宙に舞い飛ぶが、今度はそのまま空中で体勢を立て直すと、綺麗に足から着地。
「今度はこっちから行くぜ!」
地を這うようにゴーシャに駆け寄ると、寸前で顔面に膝蹴りを入れる。もちろんゴーシャは難なくそれを受け止めるが、バーナムは待ってましたとばかりに空中で身体を捻り、反対側の足を器用に相手の首に巻きつけ、そのまま締め上げる。
龍の拳の技に絞め技はない。絞め技があるのは蛇亀の拳だ。ゴーシャも油断していたらしい。
「四霊獣蛇亀の拳・
これにはイボテもスーシャも驚いている。確かに龍の拳の使い手が蛇亀の拳を使ってはいけないという決まりはないが……。
「お次はこいつだ!」
バーナムは攻撃が来る前にぱっと離れると、再び宙に飛んだ。ゴーシャも負けじと飛び上がり空中戦となる。
そんな時、接近してきたゴーシャを触れてもいない蹴りの風圧で地面に叩き返した。
「今度は鳳の拳・
スーシャもぽかんと口を開けて彼の出す技を見つめていた。
(どういう事だ!? 奴は何の鍛練もしない筈ではなかったのか!?)
少なくとも、ゴーシャが「聞いた」の彼の姿はそうだった。だが、その話が事実なら、何故こんなにも鮮やかに専門以外の技を繰り出せる?
ゴーシャが地面に叩きつけられたところにバーナムは馬乗りになった。
「ざけんなよ、バカが」
バーナムは彼だけに聞こえるように抑えた声で言った。
「あのガキからいろいろ聞いてたらしいがな。他人の話を鵜呑みにしてるようじゃ、まだまだだぜ」
「何故その事を? あの子が喋ったのか!?」
驚いて顔がこわばるゴーシャ。そんな彼を見たバーナムはややあきれ顔のまま、
「違うって。お前は昔から相手の事を逐一調べてからでないと闘えない奴だったからな。この町でオレを知っててオレの事をベラベラ話しそうな奴はあいつっきゃいねぇ」
バーナムはそのまま彼の身体から下りる。
「それで? まだやるか?」
ゴーシャは無言のまま立ち上がった。
「やる気なら、今度こそ本気の本気でいかせてもらうがな」
バーナムは静かに目を閉じた。その途端、バーナムの全身に無気味な文様が鮮やかに浮かび上がった。
「……いかん! バーナム、やめるんじゃ!!」
「どうしたのですか、お祖父様?」
スーシャが祖父に尋ねるが、
「あやつは、自らの封印を解こうとしている。そうなれば全員総がかりでも止められんし、あやつも無事ではすまんぞ!!」
無気味な紋様は、幼い頃に入れられた「力を抑える禁呪」なのだ。それが今解かれようとしている!?
「うるせぇ! じじぃは黙ってろ!!」
師の叫び声を聞いたバーナムが一喝する。
「しかし、これは殺し合いではない! いわば試験なのだぞ!」
「だからだよ! よく見とけ!!」
無気味な文様の影響か、バーナムの全身の筋肉が盛り上がり、彼の体躯がひと回り大きくなった。それと同時に天高く飛び上がる。
そして空中で制止すると、ものすごいスピードで「気」の吸収を始める。次第に彼は「気」による青白いオーラで包まれていった
上空にいる敵にこちらから仕掛けるのは不利だ。特に四霊獣虎の拳には、離れた相手を攻撃する技はほとんどないし、まだゴーシャには使えない。彼は相手を睨みつけながら「気」を練って攻撃に備える。
しかし妙であった。さっきまでははち切れんばかりに己の体内に充満していた「気」が、まるで感じられない。
その時、彼は唐突に悟った。気の「放出」が特徴の虎の拳と気の「吸収」が特徴の龍の拳では、相性が悪すぎるのだ。自身の内部の「気」をも、相手は吸収しているのだ、と。
逃げようとしたゴーシャであったが、まるで上から「重く見えない何か」で押さえつけられてしまったように、指の一本に至るまでぴくりとも動かす事ができなくなってしまった。
その時、下に突き出したバーナムの両手から、まるでビーム兵器のように気が発射される。真下にいたゴーシャは、その「気」をまともに喰らってしまった。
気の衝突によって砂が巻き上がり、衝撃波が飛び散り、全員の視界が塞がる。
思わず身構えるグライダ達だったが、それらは彼女達には襲いかかっていなかった。
その衝撃波をスーシャとイボテが弾き返していたのだ。よく見れば見えない壁のようなものに総て遮られている。
「四霊獣蛇亀の拳・
蛇亀の拳にあるのは絞め技、極め技、それにこの防御の技だ。自分も手伝っているとはいえ、とっさに張れるだけの力をつけた孫を見て、イボテはうれしそうに呟いた。
やがて、衝撃波と砂ぼこりが収まり、視界が開ける。
上空にひと回り大きいままのバーナムが浮かんでいる。しかし、ゴーシャの姿はどこにもなかった。
「ゴーシャ!?」
スーシャが真っ先に彼が立っていた場所へ駆け寄ろうとしたが、そこで彼女は見た。
巨大なクレーターのようにえぐれた砂浜の真ん中に彼が無傷で立っているのを。彼の足元では、砂の中に隠れていたであろう蟹が平和そうにちょこちょこと歩いていた。
絶命必至の大ダメージを覚悟していたゴーシャは、無事な自分の身体をぽかんとした表情で見回している。
そこにバーナムが着地した。全身の文様はすっかり消え、体格も元通りになっている。
「……無事なのですか?」
思わずスーシャが呟くように言った。
「ああ。こいつは『見せかけの技』なんだ。見せかけって言っても身体に被害がないだけで実際はこの通り」
彼はクレーターとなった砂浜を指さした。
「まるで、見えない何かに押さえつけられたように身体が動かなかった。伝説にある『人を凍らせる龍の雄叫び』のような……」
冷や汗をびっしりとかいているゴーシャが、震える声で呟く。
「……バーナム。何故、このような技を?」
バーナムは驚きを隠せない自分の師に、
「じーさんが前に言ったろ? 『お前は人を傷つける事しかできない』って。なら逆の事やってやろうって思ってな」
バーナムはボサボサ頭をかく。
「こいつはかなり『気』を吸収しないと出せねえしな。実用性はともかくとして、試験の内容は満たしてる筈だぜ」
確かに、新しい技の編み出すが試練の内容だ。それは確かに満たしている。人を傷つけずに押さえ込む技。前代未聞である。
「……バーナム様。それではあの仇討ちの儀式は?」
「ああでもしねぇと、ぜってー本気でかかってこねぇだろ。その『気』も使わなきゃ、多分できなかったろうな」
かなり照れくさそうなバーナムを見たスーシャは、そっと彼の隣に立った。
「やはり、バーナム様はお強いです。ゴーシャもお疲れ様。見事でしたよ、新しい技」
その時、バーナムががくりと膝を折った。スーシャは慌てて彼を抱き止めるが、その異常な発汗と体温に驚く。
全身に粘ついた汗がまとわりつき、筋肉の発熱も常人のものではない。それだけで、体中の筋肉という筋肉を極度に酷使したのが分かった。この分では骨にも何か異常があるかもしれない。
だがバーナムは彼女の治療の申し出を断わった。水晶玉の力による治癒を知っているからだ。放っておけば治る、と。
イボテはバーナムとゴーシャの前に立ち、
「見事、と言っておこうか。……して、技の命名じゃが、ゴーシャの物は
虎頤とは虎の下顎の事だ。下から上に突き上げる技としては似合いの名か。
「どうにでも」
「構いません」
バーナムとゴーシャの声が重なった。
そこに、みんなが駆け寄ってきた。
「ゴーシャおじちゃん。まけちゃったの?」
彼は、やってきたセリファの肩を叩くと、
「ああ。でも、試練は通った。悔いはない。俺は再び修業の旅に出るつもりだ。お嬢ちゃん一人でも修業は出来るな?」
その言葉にセリファがしゅんとなる。
「おじちゃん……行っちゃうの?」
旅の途中と聞いてはいたが、実際に別れるとなると、やはり悲しさが込み上げてくる。涙もろいセリファならばなおさらだ。
「今度からバーナムに教えてもらうといい。俺に勝ったんだからな。腕は保障する」
「やだ。クーパーのほーがやさしいからクーパーがいい」
そう言って、クーパーのそばによりそう。
セリファの脈絡のない一言に、一同が唖然とした。
「……よく分かんないけど、セリファは一体何がしたいの? 体を鍛えたいの?」
グライダの言葉に、コーランがクスクス笑いながら言った。
「……理由はセリファに聞いて」
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「剣と魔法と科学と神秘」が混在する世界。そんな世界にいる通常の人間には対処しきれない様々な存在──猛獣・魔獣・妖魔などと闘う為に作られた秘密部隊「Baskerville FAN-TAIL」。そんな秘密部隊に所属する6人の闘いと日常とドタバタを描いたお気楽ノリの物語。