夏。それすなわち、
「スイカの…季節…」
イカロスは庭に設置したスイカ畑の前にしゃがみ込み、心を踊らせていた。
その外見は、いつもと同じポーカーフェイスだが。
スイカもかなり育ってきた。夏には丸々と、撫でたくなるようなスイカに仕上がるだろう。それが待ち遠しくてたまらないようだ。
「イカロス先輩って、いっつもスイカ撫でてるのに何で楽しみにしてるんでしょう?」
「まぁ、あれだろ。買ったのと自分で育てたものじゃ愛着が違うんじゃないのか?」
そんなイカロスを縁側から眺めている2人。
「アストレアお姉様、スイカって美味し…」
「美味しいの?」、そう言い終える前に、智樹とアストレアの二人がかりでカオスの口を塞ぐ。
ちょっとした子供の好奇心だろう。イカロスがあれだけ大事に育てていれば、きっと美味しい食べ物だと思うのは当然である。
だが、この桜井家でスイカを食べようものなら、天罰が下る。
傷をつけても、食べようとする意思表示をした時点でアウトだ。
子供であれ、カオスにもそれを教えなければならない。
「モゴモゴ」
「ちみっ子、スイカは絶対に食べるなよ。これは家族のルールだ」
「家族の…ルール?」
拘束から解かれたカオスは、不思議そうな顔で智樹を見つめてくる。
「そう、家族のルール。この桜井家において、スイカは神聖なるもの。もし食べてしまうと…」
智樹は写真を取り出し、カオスに見せた。
そこには、ボロボロになったアストレアやニンフ、そして智樹が写っていた。
「でも、お兄ちゃんはいつもこうなってるよ?」
「き、気のせいだ!とにかく、絶対に食べるなよ!」
一抹の不安は残るが、危険だということは伝わったのだろう。カオスも先程より真剣な顔になっている。
「桜井く〜ん?」
そこに聞こえた、聞き覚えのある声。
間延びした、大人っぽい声。何度も聞いたあの声。恐怖を呼ぶ声。地獄を呼ぶ声。…悪魔の声。
「差し入れ、持って来たわよ〜」
美香子の隣にはオレガノがいた。
彼女の片手には、荒縄でグルグル巻きにされたニンフがいた。
確か、お菓子を買いに行ってたはずなので、途中で捕まってしまったのだろう。
「さ、差し入れ…デスか?いやぁ、申し訳ないデスねぇ…」
「もうすぐ夏だし、季節の食べ物をと思って〜」
美香子が取り出したは、
「メロン、よ」
綺麗な三角形に切り分けられた、真っ赤な果実。所々に黒い種が散らばっている。
そう、スイカ、なのだが…
「か、会長?」
「メロン、よ〜。カオスちゃん食べる?」
「うん!」
「か、カオス〜〜〜〜!」
メロンなど、桜井家の財政状況では買えない。従ってカオスはメロンなど知らない。また、カオスはスイカの中身も知らない。
見分けなどできなかった。
シャク、っと一口。
「美味しい!」
「でしょ〜?」
「や、ヤバい…」
智樹とアストレアは強烈なオーラを背後に感じ、恐る恐る振り向いた。
案の定、そこにはポーカーフェイスな天使…いや、悪魔、だろうか、がそびえ立っていた。
「スイカ…」
美香子とオレガノは、とうに逃げていた。…ニンフを置いて。
「ち、ちみっ子!逃げろ!」
智樹は叫んだ。
カオスに罪は無い。無邪気な子供に罰が下される必要は無い。
保護者である自分の責任だ。
「智樹、事情は把握した」
何処からともなく、守形が現れた。
昼飯でも食べに来たつもりだろうが、そんな事はこの際関係ない。
「先輩!カオスを!」
「承知した!」
守形はカオスを抱きかかえ、一目散に家を出て行った。
桜井家が爆発と共に散ったのは、その数秒後だった…
作者より…
「キカイダー REBOOT」を見逃してガッカリしている、D.C.D.です。
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