No.701202

妖世を歩む者 ~2章~ 5話

ray-Wさん

これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。
"人妖"の女の子の容姿等は、GREEのアプリ『秘録 妖怪大戦争』を参考にしています。
※既にこのアプリは閉鎖となっています。

拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。

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2014-07-16 16:47:26 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:359   閲覧ユーザー数:359

2章 ~鍛える者~

 

5話「勝利への敗北」

 

陽介の次は、アトリがサクヤと対峙する。

アトリはしっかりと薙刀を構える。陽介から見れば、隙のない綺麗な構えだった。

サクヤも先ほどの立ったままとは違い、体勢を少し低くしている。

 

「来なさい、アトリ」

 

「はいっ!」

 

姉妹のような関係― 実際は叔母と姪だが ―は、師と弟子のそれとなっていた。

一気に距離を詰めたアトリは下に構えた薙刀をサクヤへと向けて振り上げる。

 

サクヤの対処は陽介の時と同じだった。

素早い動きでアトリの攻撃をかわし、アトリの背後へと回り込む。

 

間近ではなく遠めに見ていたことで、陽介にもなんとかサクヤの動きが分かった。

分かったからと言って、反応できるものでもないが。

 

そこで終わった陽介とは違い、アトリはその動きに反応していた。

振り上げた薙刀をそのまま円を描くように振るい、背後のサクヤへと振り下ろしたのだ。

 

しかしサクヤも冷静にそれを鎌で受け止めた。

サクヤの持つ鎌は2本。受け止めた鎌で薙刀を横へ払い、体勢をくずしたアトリへ2本目の鎌が攻撃を仕掛ける。

 

陽介はそれで終わりかと思った。

払われた薙刀をすぐに戻すのは、アトリの腕力では難しいはず。

そしてアトリは、確かに薙刀を"戻さなかった"。

 

払われた薙刀は、払われた逆方向からサクヤの鎌を弾いた。

サクヤは後ろへ飛び、一度アトリとの距離をとる。

 

「今の動きはなかなかでしたよ」

 

「はいっ!」

 

今度はサクヤからの攻撃。襲い来る2本の鎌をアトリは器用に受け、かわしていく。

薙刀の柄と、鎌のぶつかる音を聞きながら、陽介は先ほどの攻防のことを考えていた。

アトリが払われた薙刀を、逆から振るったその時を。

 

動きは単純だった。薙刀が払われた方向へと体を一回転させ、そのまま鎌を弾いたのだ。

それは、最初の背後へ回ったサクヤへの対処と似ていた。

きっと、"流れ"を生かすのがアトリのスタイルなのだろう。

力に逆らわず、それを利用して次の攻撃につなげる。

陽介には、その姿がまるで舞っているように見えた。

 

アトリとサクヤの戦いは、すでに終盤だった。

最初こそうまく"流れ"を利用していたアトリだが、左右から次々と振るわれるサクヤの鎌の中に"流れ"はない。

受けることが精一杯となたアトリは、今度こそ本当に体勢をくずした。

倒れたアトリに、サクヤが鎌を突きつける。

 

「やっぱり、連撃に対処できないみたいね」

 

「うぅ……はい」

 

戦いを終えたことで、2人の関係もいつもの調子に戻ってきていた。

その戦いを見ていた陽介は、"焦り"を覚えた。

アトリが自分より劣っているとは思っていなかった。

サクヤの稽古を受けているのであれば、自分よりは強いはずと思っていた。

 

だが、現実はそのさらに上をいく。

あれが本当に、林で迷子になって疲れ果てていた女の子なのだろうか、筋トレ後に自分よりグッタリとしている女の子なのだろうか。

 

今の自分は、アトリの足手まといでしかない。

"足を取っている"のは自分だ。

 

陽介の手に、力がこもる。

もっともっと強くなりたい。

 

剣道と同様の構えから、素振りを1回。

確かに感じる、真剣の"重み"。

 

この重みを感じないほど強くなれば、あの2人に追いつけるのだろうか。

半月という期限の中で、そこへ辿り着くことができるのだろうか。

焦るばかりでは強くなれないことは、陽介も知っている。

しかし、早歩きをするくらいはいいだろう。

 

「サクヤさん、もう一度だけ、手合わせをお願いできますか?」

 

サクヤは今日の手合わせを、1回で終えるつもりだった。

陽介に自分の実力を知ってもらうために、必要だったから。

だが陽介は、自分の実力を知った先に、何かを見つけたようである。

 

「分かりました。今度こそ教えてあげましょう、"敗北"を」

 

何も分からなかったさっきの戦いとは違う。次こそ何かを得るために。

それが敗北でも構わない。惨敗であってもいい。

 

――― それはきっと、強さにつながるから。

 

こうして陽介は多くの敗北を知ることになる。

アトリを相手にしても、それは同じ。

それでも駆ける足は速くなる。振るう力は強くなる。

 

時にはサクヤを目ではなく気配で追うことを覚えた。

時にはアトリの"流れ"に自分も乗っていった。

 

積み重なった敗北が、陽介を上へ上へと連れて行く。

約束の半月が、もう間近に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

あとがきっぽいもの

 

 

序章・1章から引き続き読んでくださっている方、

2章から読んでくださった方、

そしてこの2章5話のみを読んでみたという方も、

ありがとうございます、ray-Wです。

 

『章』というわりに進みが遅いこの小説ですが、いかがでしたでしょうか。

最初は各話をまとめて5ページ+あとがきにし、『章』ではなく『話』にしようかとも考えました。

 

ただ、まとめて5ページよりも分けた方がお手軽に読めるかな、と思ってこの構成としました。

…正直まとめてよりその都度読んで投稿が出来て楽、というのも否めませんがw

 

今後ですが、プロットばかりが進んで執筆がゆったりなので、少し3章まで間が空くかもしれません。

あまり急ぐとプロットが出来ずに失踪、という事にもなり兼ねませんのでその点はご了承ください。

 

そして今回はオマケとして友人にアトリちゃんをチビ絵で描いてもらいました。

元ネタほぼそのまんまなんですけどねw

 

ただ、私より絵心がある友人も本人曰く”落書き程度”の絵心ということなので、あくまで元ネタを知らない方のイメージの助けになれば、という感じでお願いします。

 

感想・ご意見等も随時募集しております。

それではまた3章でお会いしましょう。

 

 

 

プチがき)

戦闘シーンは大変ですね;

私の頭の中のバトルが果たして伝わっているか…

 

 

 


 
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