story08 トラウマなあの踊り
翌日も丸一日戦車道の練習に明け暮れた。
早瀬と鈴野、坂本も感覚が戻りつつあるのか、今日の練習では以前の練習試合より五式の動きがよく、鈴野と坂本も命中率が上がっている。
特に早瀬は操縦技術に磨きが掛かり、細かく軌道を変えられるほどになっていた。
「練習終了!」
『おつかれさまでした!』と一礼するも、ほとんどは疲れ果てていた。
「今日の訓練は終了だが、みんなに一つ、告知する事がある」
と、河島が一歩前に出る。
「えー、急ではあるが、今度の日曜日に練習試合を行う事になった!」
と、周囲よりざわつきが起こる。
そりゃまだ戦車道を始めて三日目なのに、いきなり他校との練習試合と言われて驚くのも当然。
「相手は聖グロリアーナ女学院だ」
その名前を聞いて如月、早瀬、鈴野、坂本に、西住、秋山が反応する。
「どうしたの?」
その反応に武部が気づく。
「聖グロリアーナ女学院は、全国大会で準優勝するほどの強豪です」
「準優勝!?それって無茶じゃない!?」
「全国大会で準優勝したことがある聖グロリアーナ女学院と練習試合って」
「いきなり手強い相手と対戦する事になりましたね」
「あぁ。だが、よくそんな強豪と練習試合が取り付けたな」
「そこはそれ!生徒会の人徳なせる技、ってことで!」
と、会長が胸を張って言う。・・・・張るだけの胸は無いが・・・・
「という事で、日曜は朝の六時に学校に集合だ!」
と、河島が言うと、一人だけ表情が変わる。
(そういえば、西住と一緒のチームの冷泉だったか?)
すると冷泉はその場から離れるように歩き出す。
その後を西住達が慌てて追いかけて説得を試みていたが、冷泉は聞く耳を持たなかった。
――――――――――――――――――――
その後各戦車の車長が生徒会室に集まって作戦会議を行う事になる。
「いいか。聖グロリアーナ女学院は強固な装甲の上に、連携に優れた浸透強襲戦術を得意とする。
とにかく相手の戦車は固い。特に主力のマチルダⅡの装甲は硬く、こちらの砲は100メートル以内で接近しないと通じないと思え」
前でホワイトボードに戦車に見立てた絵を描き、河島が作戦を伝える。
「そこで、一両が囮となり、こちらが有利となるキルゾーンに相手戦車を引きずり出し、高低差を利用してコレを叩く!」
各車長達が「おぉ!」と言う中、私と西住は少し悩む。
「どうかしたの、西住ちゃん、如月ちゃん」
その様子に気付いたのか、会長が聞いてくる。
「あ、いえ」
「良いから言ってみー」
「・・・・・・」
西住は私の方を見てきて、ゆっくりと縦に頷いてやる。
「・・・・聖グロリアーナもこちらが囮を使ってくることは当然想定すると思います。裏をかかれて逆包囲される恐れが」
「あぁなるほどねぇ」と周囲より言葉が漏れる。
「黙れ!!私の作戦に口ずさむな!そう言うのならお前が隊長やれ!!」
逆切れした河島に少し遺憾を覚え、如月は立ち上がる。
「お言葉だが、河島先輩。もし西住の言う通り相手に包囲された場合、それに対応する第二プランはあるのですか」
「うぐっ。そ、それは・・・・」
如月の指摘に河島は言葉を詰まらせる。
後先考えずに考えていたのか。見た目によらず全然だな。
「まぁまぁ如月ちゃん。河島も座って座って」
会長が仲裁に入って、如月と河島はイスに座る。
「でもまぁ、確かに隊長は西住ちゃんが一番かな?」
「はい?」
西住は目をぱちくりとさせる。
「西住ちゃんがうちのチームの指揮を取って」
「えぇ!?」
西住は声を上げて驚く。
「副隊長は如月ちゃんに頼めるかな?サポート役って感じで」
「・・・・私は構わない」
「え?で、でも!?」
西住は戸惑うも、会長は拍手をして、それに続いて各戦車の車長も続いて拍手をする。
「頑張ってよー。勝ったら素晴らしい商品あげるから」
「え?何ですか、それは?」
小山が聞くと、会長は「干し芋三日分!!」と言って少し呆れ顔になる。
常に干し芋を食っているよな・・・
「あの、もし負けたら?」
と、八九式の車長であるバレーボール部キャプテンの磯辺が聞く。
「大洗アンコウ祭りでアンコウ踊りをやってもらおうかな」
その名前を聞いた途端、西住を除いて「うっ!」と顔が引きつる。
如月もその名を聞いて顔を引きつかせた。
――――――――――――――――――――
「あ、アンコウ踊り!?」
「マジですか!?」
それを西住と私から聞いた武部、五十鈴、秋山、早瀬、鈴野、坂本が顔を引きつらせる。
「は、恥ずかしすぎる!!あんな踊り踊ったらもうお嫁にいけないよ!!」
武部はしゃがみ込んで頭を抱え込む。
「絶対ネットにアップされて全国的に晒し者になってしまいます」
さすがの秋山も少し引いていた。
「一生言われますよね・・・・」
あの五十鈴でさえもこんな反応だ。
「一生その恥ずかしさが頭に残ってしまいますよ!!」
顔を赤くして早瀬が叫ぶ。
「そう来るとは思わなかったですね・・・・」
鈴野もかなりドン引きだった。
「ダメだぁ・・・・。もうお終いだぁ・・・・」
と、某王子の様な台詞を口にする坂本。
「そ、そんなにあんまりな踊りなの?」
みんなの反応を見て西住はかなり顔を引きつらせている。
「あんな踊りほどの恥辱はないぞ」
過去に一回あの踊りを踊らされて今も脳裏に深く刻まれている。もちろん恥ずかしいの他に屈辱など様々。
とにかく踊る以前に思い出したくも無い踊りだと言うのは確か。
「そ、そうなんですか・・・・」
如月がここまで言うので、西住の顔には絶望の色しかない。
「っつか勝とうよ!!勝てばいいんでしょ!!」
と、武部が勢いよく立ち上がる。
「分かりました!!もし負けたら私も踊ります!!西住殿だけに辱めは受けさせません!」
「みんなでやれば恥ずかしくありません!」
五十鈴と秋山も武部に続く。
「み、みんな・・・・」
「そうですね!私も負けたら如月さんと一緒に踊ります!」
「如月さんだけにそんな恥辱を受けさせるわけにもいきませんからね」
「私もいくらでも踊ってやりますよ!」
早瀬と鈴野、坂本も気を取り直して覚悟を決める。
「お前達・・・・」
「・・・・ありがとう」
「それより、私は麻子がちゃんと来られるかが一番心配だよ」
「あぁ」と西住と五十鈴、秋山が言葉を漏らす。
「今日入ったばかりの冷泉の事か?」
「はい。麻子は朝に極端に弱いんですよ。それでほぼ毎日遅刻ばかりして単位が危ないんですよ」
「それで戦車道を取ったと言うわけか」
「はい」と縦にゆっくりと武部は頷く。
納得・・・・と内心で呟く。
(だが、本当にアンコウ踊りだけは勘弁だな)
内心で念仏を唱えるように呟く。
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『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。