No.699831

戦国†恋姫~新田七刀斎・戦国絵巻~ 第18幕

立津てとさん

どうも、たちつてとです
前回はストーリーを進めすぎてしまい、その分を残して投稿していたので今回はスムーズに書きあがりました

そしてすいません!最初にオリキャラ出さない宣言していたのですが、つい衝動的に作ってしまいました
あまり出番は無い予定ですがオリキャラうぜぇ、オリキャラ認めぬという方はお手数ですが左矢印をどうぞ

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2014-07-10 22:41:09 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:1894   閲覧ユーザー数:1630

 第18幕 いざ、西へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠が朝早くに剣丞の家にやってきてから半刻もしない間に、6頭の馬が岐阜の町の西門を出た。

織田の剣丞、久遠、ひよ、ころ、詩乃の他に飛び入り参加となった剣丞と空が街道で馬を進めている。

 

「そもそも、何で京に行くんだ?遠乗りにしても遠すぎるでしょ」

「うむ、それはな。将軍に会うためだ」

 

久遠に振り回された第1号である織田の剣丞が聞くと、久遠はそう答えていた。

 

「我は10年先を考え、京に行く。それは無駄ではないはずだ」

 

剣丞はそれを聞きながら、1人納得していた。

 

(なるほどね、美空も行ってたし大名たるものってやつか)

 

「だが、京に行く前に、まず寄りたい所がある」

「寄りたい所?」

 

先頭を進む久遠と織田の剣丞が皆にも聞こえるように話を始める。

 

「ああ、まずはこのまま真っ直ぐ西へ行って堺の町に入ろうと思うのだ」

 

後に続いていた剣丞がある単語に反応する。

彼の馬にはいつも肌身離さず持っている草のスーツケースもくくってあった。

 

「堺?」

「そうだ。堺に行って南蛮の商人と繋がりを持つのだ。鉄砲の玉薬は南蛮からの方が圧倒的に安いからな」

 

織田家の戦方針が鉄砲ということは剣丞も知っている。

諸勢力がまだ鉄砲を使わず槍と弓で戦っているこの状況で南蛮商人と繋がりを持とうとする久遠の考えは、弱卒と言われた尾張の兵で天下統一目前まで駆け上がった史実の織田信長を見ればいかに先見の明があるのかがわかった。

 

それよりも剣丞が気にしたのは、堺の町の方だった。

 

「堺か・・・」

(エーリカ・・・)

 

帰郷とでも言うのだろうか、思わぬ行き先に剣丞は胸を躍らせていた。

 

(会えるかな・・・結構離れてたなぁ、何ヶ月だろ。あ、でもそんな経ってない?)

 

顎に手をあてる。

 

(でも堺に行けば自由時間くらいくれるだろうし、もしかしたら・・・もし会えたら何しよう。キス・・・って何でそんなこと考える俺!)

 

「堺、知ってるんですか?七刀斎さん」

 

久しぶりに訪れる行き先に思いを馳せていた剣丞に聞いたのはひよだ。

 

「ああ、越後に来る前は堺に住んでたんだ」

「へぇ・・・私も初耳です」

「そうだっけ?言いそびれちゃってたかな」

 

空がそうなるのも無理はない。

剣丞が堺にいたことは美空と柘榴と松葉だけしか知らないことだ。

特に隠す理由はないのだが、言う機会がなかなか無かったもので、長尾家からは『幕府より斡旋された将』という認識しかされていない。

 

更に掘り下げると、空は剣丞が幕府から与えられた(という名目)ことを知らないので、京に行くことに関しても「そういえば七刀斎さんは幕府から遣わされたんですよね」ということも無かった。

 

「なら堺の事は七刀斎が一番よく知っているということか」

「まぁ多少はね」

「ふむ、では堺について色々教えてはくれないか?我を含め、皆西の方には行ったことが無いのでな」

 

そう振られた剣丞は「まぁ大体だけど」と断りを入れて説明を始めた。

 

 

「堺の町に住んでいて一番気を付けなきゃいけないのは治安についてだったな」

「ほう、治安か」

 

一銭斬りという政策を施行している久遠にとって、治安という単語は聞き捨てならないところもある。

堺は人や物の流れの他に、日の本トップクラスの治安の良さでも有名だ。その内情が知れる機会は彼女も逃がしたくないだろう。

 

「堺の町での喧嘩は厳禁。町人同士の喧嘩は当然、武士同士の喧嘩なんか町をあげてその武士が仕える大名への荷止めをするんだ」

「堺が物を売らないと決めたら、小名程度などすぐに干上がってしまいますからね」

 

剣丞の言葉に続いたのは詩乃だった。

 

「それだけ会合衆の、銭の力が強いということでしょう」

「うん、詩乃の言う通りだ。だから皆、絶対喧嘩はやめてくれよ」

「「はーい!」」

 

まるで説明を受けた園児のようにひよところは同時に返事をする。

 

「あと堺は商業都市だけあって人も多いから、流れに巻き込まれたりスリに合ったりはしないでくれ」

「やっぱり物もたくさんあるのか?」

 

織田の剣丞が後ろを向いて聞いてくる。

 

「そうだな、物も多い。メッチャ多い。どこにでもある物は安く、珍しい物はお手頃な値段で売ってるしな」

「おぉ・・・!聞いたか剣丞、ますます楽しみになってきたなぁ!」

 

子供のようにはしゃぐ久遠を見守りながら、一行は3日ほどで堺に着くのだった。

 

 

 

 昼 堺の町

 

「「「「おおおおおおぉぉぉーーーー!!」」」」

 

長田三郎と偽名を使った久遠に連れられ護衛とお付きとして入った一行は、堺に入ってまず人と物の流れに目を輝かせていた。

 

「安いで安いでー!大値引きやー!」

「なぁ、これまけられへんの?」

「なにいうてんねん、これで大安売りや!」

「兄さんこれ見ていって~な!」

「ピンポンやっとったんや!」

「言うとくけど空手やっとったんや。通信教育やけどな」

 

人でごったがえし、目にするのはどれも新鮮な光景。

しかし、剣丞はそれを遠い目で見まわしていた。

 

(ああ、懐かしいなぁ・・・)

 

剣丞は空がはぐれないようにと手を繋ぎながら、久しぶりに見る町の光景に頬を緩ませる。

 

(な、七刀斎さんと手を繋いじゃった!)

 

空はというと町の喧騒に驚きながらも剣丞と繋いだ手の方に意識を注いでいた。

 

「ねぇねぇころちゃん!あれあれ、尾張や美濃じゃ見ないものばっかだよ!」

「それよりひよ!あの髪飾りの造形なんてみたことないよ!」

 

ひよところは堺の町人に負けず劣らずのはしゃぎようで露店に並ぶ商品を見て回り、あれこれと物色していた。

 

「はぁ、あいつら・・・今回が護衛だってことわかってるのかね」

「そうぼやくな。お主とて目が輝いておるぞ?」

「だってよ、詩乃」

「剣丞さま。ツッコミが欲しいのなら別をお探しください」

 

久遠達もまた、冷静を装いつつも初めて見る堺の町に視線が泳いでいた。

 

「ハッ!いかんいかん。まずは南蛮商人との繋がりを持たねば」

「その南蛮商人ってのはどこにいるんだ?」

「湊に行けば商船があるだろう。そこで玉薬のツテを作る」

「でも久遠、どうやって交渉するんだ?言葉わからないんじゃないか?」

 

織田の剣丞の言うことはもっともだ。

通常、南蛮商人と繋がりを持つには通訳がいる。しかしこの時期はまだ鉄砲などの南蛮技術を重視している大名は少ないため、通訳を探すのにも苦労するのが当たり前だった。

 

「そこは七刀斎の人脈をアテにするのだ」

「俺かよ!」

 

我関せずといった感じに聞いていた剣丞も、急な無茶ぶりに思わず突っ込んでしまう。

 

「なんだ、堺で暮らしていたという割には南蛮商人との繋がり1つ持ってないのか?」

「んなもんあるか!南蛮人ってんなら1人知り合いがいるけど・・・」

「ほう、ではそやつを通訳として商船に向かおう」

 

思わず剣丞は「え、いいのか?」と聞いていた。

久遠は何故許可が必要なのだという感じで返してきたが、剣丞にとってその南蛮人に会うことはこの旅の最大の目的といった感じなので、むしろ行かせてくださいという心持ちでもある。

 

「早速案内してもらおうか」

「あ、ああ!」

 

未だにはしゃぐひよ達を捕まえ、剣丞の記憶を頼りに南蛮人がいるという場所まで向かう久遠をはじめとする織田家。

 

「空ちゃん、行くよ?」

 

先程から空が手を握ったまま何もしてこない。

喧噪で気絶してしまったのかと思い見てみると、彼女は気絶はせずに固まっているようだった。

 

「七刀斎さんの手・・・手・・・つない、手・・・」

「・・・・・・行くか」

 

ポワポワとした空の手を引きながら、剣丞は早く回復してくれと願わずにはいられなかった。

 

 

 

 裏通り

 

堺の町とはいえここまでやってくると、人通りも少なくなってきて道も狭くなってくる。

 

「なんか、いかがわしい雰囲気だな・・・」

 

織田の剣丞の一言が、この辺りをよく表していた。

 

 

そんな彼らに近づく1つの影。

 

「ああっ!やっぱり!」

 

それは子供をおぶった女性だった。

 

「新田さん!」

 

その女性は真っ直ぐに織田の剣丞へと向かっていった。

 

「えっ、俺!?」

「ほーう剣丞・・・さっそく1人蕩したか。しかも幼子の母親とな」

「はぁ・・・まったく剣丞さまは」

「「お頭・・・」」

「ちょ、ちょっと待ってー!」

 

剣丞は女性に声をかけられただけで他の面子にフルボッコにされる織田の剣丞を見て、苦労してるんだなと思いつつ話しかけてきた女性を見て驚いていた。

 

(よかった。「じゃあ母親は剣丞で子供は七刀斎だな。お前幼女好きだろ?」とか言われずに済んだ・・・って違う!)

 

ブンブンと頭を振る剣丞。

 

(あの母子・・・元気でやってるんだな)

 

「な、なぁ。新田って俺のこと?」

「はい。前に私の娘を助けてくださったではございませんか!」

 

確かに同じ新田剣丞ではある。だがそこで久遠は七刀斎を見た。

 

「そなた、もしや新田というのはこっちではないのか?」

「えっ?」

 

女性が剣丞の方を向く。

 

(・・・ん?やばくね?)

 

女性は剣丞の事を「新田さん」と言っているが、無論「剣丞」の名前の方を呼んでいる。

そして久遠達は既に面識のある新田さんと言うからには、かつて堺に住んでいた新田七刀斎のことだと思うだろう。

だがそこで女性が「新田剣丞さん」とウッカリ口を滑らせると今までの努力が水の泡になるということは火を見るより明らかだった。

 

「そ、そうだな!確かに見覚えあった!いや~すいませんね忘れちゃってて!じゃこっち行きましょうかぁー!!」

「あっ、ちょ・・・」

 

空の手を放し、女性を半ば無理矢理久遠達の目の届かない所へ移動させる剣丞。

傍から見ていると仮面を着けた怪しい男が女性を拉致するように見えなくもないが、今の剣丞にそんなことを考えている余裕は無かった。

 

 

 

裏路地に入ったところで剣丞が仮面を外す。

 

「お久しぶりです」

「あ、あぁ新田さん!」

 

素顔を見て女性も驚いたように口に手を当てた。

 

「え、じゃああっちの新田さんは?」

「親戚です。あと、今の俺は七刀斎と名乗っているのでそっちでお願いしますね」

「は、はい」

「キャッキャッ♪」

 

かつて剣丞が助けた娘も、嬉しそうに彼の指を掴む。

この子だけには、しっかりと自分を認識してもらえたようで剣丞は顔を綻ばせた。

 

「あ、そうだ。エーリカは今は教会にいるのかな」

「はい、さっき船長が魚を届けに行ってましたから。いると思います」

「そうか・・・ありがとうございます」

 

船長という響きにも懐かしさを感じる。

 

「あ、船長にも俺が仮面を着けた方で、あっちは親戚だってこと言っておいてくださいね。町中で会って間違えられてもアレですし」

「はい、わかりました」

 

剣丞は礼を言うと母親と別れ、仮面を着けなおすと皆のもとへと戻っていった。

 

 

 

「おまたせー」

「どういうことですか、七刀斎さん・・・手を放しちゃうなんて・・・」

「あ、あはは・・・まぁいいじゃない!」

 

急に手を放したせいで、空のご機嫌は少し斜め気味だった。

 

「さっきの母親はどうした?」

「積もる話もあったけど、急いでるから別れてきたよ」

 

久遠の問いにそう答える剣丞。

久しぶりに会ったなら話くらいすればいいじゃないかとも言われたが、剣丞はそれよりも優先すべきことがあった。

 

「その南蛮人は今教会にいるみたいだから、会いに行こう」

「随分と嬉しそうですね」

 

鋭い所を突いてくる詩乃の言葉に、空はまたもや頬を膨らませた。

 

「まさか、その南蛮人って女の人じゃあ」

「そんなこといいじゃない!さぁ行こうよー!」

 

不自然なテンションのまま剣丞が先頭をきる。

その後ろを、誰もが訝しげな顔をしながら着いていった。

 

 

 

 教会

 

質素な外観からは想像できないほどの豪華なステンドグラスから差し込む様々な色の光を、剣丞は忘れていなかった。

 

(ああ、懐かしい・・・)

 

その光を一身に浴び、跪くような祈りのポーズをする1人の長い金髪を持つ女性。

 

すぐに声をかけたい。後ろから抱きしめたい。

しかし、祈りの最中に邪魔をしない決まりも剣丞は忘れていない。

 

故に彼女は剣丞達が教会の扉を開けて入ってきても祈りに集中している。

 

「うわぁー!南蛮人って初めて見たー!」

 

雰囲気を察してかひよが小声で驚く。

ころや詩乃、空も同意見であろうことは縦に振られた3人の首が代弁していた。

 

「まるで金柑のような頭だな・・・」

「久遠、第一印象でそれはどうかと思うよ」

 

しばらく待っていると、ステンドグラスから入って来る光が少しばかり弱まって来る。

それを合図に、彼女も祈りを終えた。

 

「お客様でしょうか、お待たせいたしました」

 

振り向きざまによく通る声を出す女性。

その声と姿は、別れ際に見たものと何1つ変わっていなかった。

 

「え、日本語!?」

 

南蛮人にしてはあまりに流暢な日本語に、一瞬頭の中がパニックになる一行。

剣丞は初めて会った時からそれが自然だったので、唯一驚いていない。

 

「あ、あのえと・・・」

 

織田の剣丞が慌てて何かを言おうとするが、「日本語上手ですね」くらいしか言うことが無かった。

 

「立ち話もなんですから、お話は客間で聞きましょう」

 

そう言ってこちらです、と案内をするエーリカ。

それについていく一行の中で剣丞は、終始自分と彼女の目がバッチリ合っていることが不思議だった。

 

 

 

「初めまして、私はルイス・エーリカ・フロイス。この教会で天主教の司祭を務めています」

「うむ、我が名は尾張が織田家当主、織田上総介久遠信長だ。久遠と呼んでくれ」

「では皆さんも、私の事はエーリカとお呼びください」

 

客間に通され、並んで座る久遠達。

 

エーリカは卓を挟んで向かい側に姿勢正しく座っていた。

 

「改めて思うが、やはり流暢だな」

「ありがとうございます。私の母は日本のサムライの家出身ですので、日の本の方にそう言ってもらえると自信が付きます」

「ほう、では日の本と南蛮の混血か」

 

ハーフであると聞いて、久遠が興味深そうに尋ねる。

エーリカもまたそれに答えた。

 

「はい。私はこちらの名の他に、ジュウベエ・アケツという名を持っています」

「なるほど・・・あなたのお母上は明智の出身なのですね」

 

アケツという単語に反応した詩乃が珍しく能動的に話す。

 

「アケチ・・・?」

「アケツではなくあけち。明るいに智恵と書いて明智です。美濃では名流の家ですね」

「礼法にも通じておるし、我も納得がいったぞ」

「・・・??」

 

あまりよく分かっていない様子のエーリカに織田の剣丞が説明する。

 

「ええと、とにかく有名な家ってことだよ」

「なるほど・・・母のファミリーネームは明智というのですか。フフッ、まさかこのような形で自分のルーツがわかるとは意外ですね」

 

日本式の名前は剣丞も教えられていたが、その時点ではまだ明智ということはわからなかった。せいぜい「へーそんな名前も持ってるんだ」くらいな反応しかしていなかったのを覚えている。

 

((てことは、明智十兵衛ってことか・・・ん?))

 

剣丞と織田の剣丞が同時に考えを巡らせる。

 

(確か明智十兵衛ってあの明智光秀だよな・・・てことはエーリカが!?)

(てことはこの人、明智光秀!?)

 

「「ブッ!」」

 

同時に吹き出す2人。

 

「ちょっとお頭!七刀斎さんも汚いですよ!」

「まったく、こういう時だけは息ピッタリなんですね」

 

2人からすれば、ころの叱責よりも詩乃がボソッと放った言葉の方が心に来ていた。

 

「ゴホン!そろそろ本題に入るぞ」

 

痺れを切らした久遠が咳払いをしてエーリカに向き直る。

他の面々もそれに倣った。

 

「ああ、そうでした。この度は教会に何用でしょうか?」

「お主がこやつの知り合いだと聞いてやってきたのだ」

「あ・・・・・・どうも」

 

この教会で暮らしていた時に比べて、今では名前も格好も違う。

なんと挨拶していいかわからない状態だった。

 

「はい、新田七刀斎さんは私の友人です」

「えっ!?」

 

予想外のエーリカの返しに戸惑う剣丞。

その理由がわからない他の面子は「おいおい、お前が知り合いだって言ったんだろ」という目で見てきていた。

 

「お久しぶりですね、どうしたのですか?」

「あ、いや・・・あの」

「ええいどうした!」

 

まともに言葉が話せなくなった剣丞の代わりに、久遠が進める。

 

「我ら織田家は南蛮商人と繋がりを持ちたくてこの堺にやってきたのだ。お主に通訳を頼めないか?」

「通訳、ですか?」

「ああ。俺達はそっちの言葉はわからないから、通訳を探していたんだ」

「そしたら、この七刀斎がお主の事を紹介してきてな」

 

織田の剣丞の補足で、エーリカも事情を理解したようだ。なるほどと頷いて見せていた。

 

「そういうことですか。それなら、私が乗って来た船のフェンルナン・デ・ソウサ船長をご紹介しましょう」

「本当か!助かる」

「あ、しかし。1つ条件をつけてしまってもよろしいでしょうか?」

 

エーリカは喜ぶ久遠に釘を刺しながら言った。

 

「私がこの日の本にやってきたのは、天主教の布教ともう1つ・・・あるお方に会うためにでもあるのです」

「あるお方?」

 

久遠と共に、剣丞もそれに注目する。

堺を出る前にエーリカに教えられた『使命』を思い出す。

 

「はい。日本のサムライのトップに立つという、アシカガショーグンに会いに」

「足利将軍だと?」

 

そこで久遠の目が少し細くなる。

 

(なるほどね、鬼の討伐の為に将軍の力を借りようってのか)

 

今の幕府に力が無いことは剣丞でも知っていることだが、それでも将軍に謁見など力を持つ大名がすることであることは事実だ。

久遠にとってはただのキリスト教の宣教師が将軍に謁見しようとする理由がわからなかった。

 

だが、

 

「ふむ・・・そうか、なら貴様。我と共に来い」

「えっ?」

 

久遠はそれがどうしたと言わんばかりに言い放った。

 

「我はこの堺を発った後、京に向かい将軍と謁見する予定だ。その時にお主もついて来れば共に紹介できるぞ」

「なるほど、確かにエーリカどのは南蛮人ですから畏き所はおろか、公方様に近づくことすら許されないでしょうね」

 

補足に定評のある5番詩乃の言葉を聞いてエーリカも話の意味が分かったのか、困った表情を浮かべていた。

 

(エーリカ、そんなデカい目的の為に日本に来てたのか・・・)

 

一緒に暮らしていた頃はそんな素振りなど毛ほども見せていなかったため、エーリカの裏に隠れた目的に剣丞は静かに驚いていた。

 

「確かにそうなるとあなた方についていく他方法は無いようですが、それですと皆様に迷惑が・・・」

「そんなことは気にするな、なぁ?」

「はいっ!」

 

久遠の急な振りには慣れっこなのか、ひよは剣丞と違い素早く返すことのできる数少ない存在だ。

 

「しかし・・・」

「じゃあさ、エーリカさん」

 

織田の剣丞がならと申しかける。

その呼び方に、剣丞は懐かしさと同時にむずがゆさを感じていた。

 

「エーリカさんは俺達の南蛮商人との交渉を手伝ってくれる代わりに、俺達はエーリカさんに将軍謁見をさせるって考えるとどうかな」

「・・・そうですね・・・」

「まぁエーリカさんの国籍上難しいかもしれないけど、半分は美濃の名家だし。絶対とは言えないけど会えるようにさせる。どう?」

「明智は藤原氏より続く家柄ですからね、将軍家も考える事でしょう」

 

詩乃の言葉が決定打となったのか、エーリカは長い間考え、コクンと頷いた。

 

「わかりました。では、私も共に参りましょう」

「そうか、よろしく頼むぞ」

「はい。私は教会にいますので、出発の際にまたお誘いください」

「うむ、では早速交渉に行きたいのだがいいか?」

「よろしいですが、夕方になってしまってもよろしいでしょうか?」

「かまわん」

 

こうして織田家一向にエーリカが加わり、久遠は彼女を連れて無事南蛮商人との交渉を成立。

織田家には安く、安定した玉薬供給がされることとなった他、南蛮技術のいくつかが織田家に伝わることになる。そのことは織田家の勢いを更に飛躍させる十分な材料となった。

 

 

 

 夜

 

堺の町に時間帯は関係ない。

昼夜問わず賑々しいこの町には篝火がたくさん焚かれ、火の明かりが表通りをはじめとした町中を照らしている。

 

南蛮商人との交渉を終え、宿である信濃屋に行こうとしていた久遠達は、見かけた1人の男を加えて大通りを歩いていた。

通訳をしていたエーリカは、やることがあると言って既に別れている。

 

「いやーまさかお前さんが長尾家に仕官してるとはなぁ!」

「おっちゃんは相変わらず漁やってるの?」

「あたぼうよ!」

 

たまたま湊を歩いていた所をすれ違い、声をかけてみたところ、男は案の定剣丞と水揚げを共にしていた船長だった。

先程の母親がうまいこと言ってくれたのだろう、船長は織田の剣丞ではなくしっかりと仮面を着けた剣丞に話しかけてくれていた。

 

「で、この中の誰がけん、七刀斎の嫁だよ?」

「嫁ッ!」

 

嫁という単語に反応したのは空だった。

 

「お、嬢ちゃんか?」

「はい!そうで――」

「はいはいはい!その辺でやめよーねー!」

 

強引に止めたことで空がシュンとしたのに心を痛めながらも、剣丞は小声で船長へと抗議する。

 

(おっちゃん!頼むからそういうことはやめてくれよ!)

(はっはっはっ!悪いなーでもエーリカの嬢ちゃんがいるのに他の嬢ちゃんにうつつを抜かしていいのか?)

(ッ、だからエーリカとはそんなことは・・・)

 

ないこともないのだが、少し照れた剣丞の表情を見て船長は豪快に笑い飛ばしていた。

 

「あ、ちょっといいか?」

 

あることを思い出した剣丞が、船長を連れて久遠達を先に歩かせる。

空も先に歩かせ、船長と2人で歩く。

 

大通りを歩いているせいで久遠達を見失ってしまいそうだが、そこはこの町の熟練者である船長が人ごみの中から彼女達を捉えていた。

 

「で、なんだよ」

「俺が山賊達からあの子を取り戻した時の話なんだが・・・」

「ああー、まだその話が町人達の間であるんじゃないかって?」

 

コクリと頷く。

もしあるとしたら、織田の剣丞を見て嫌な顔をする町人もいるかもしれない。

堺に行くと決まった時点でそのことをずっと気にしていた剣丞は、船長の次の言葉を固唾を飲んで待った。

 

「剣丞、堺は人も流れりゃ物も流れる。それは噂も例外じゃねぇ」

「うん・・・」

「お前さんの噂なんて、お前が出ていって1週間も経たずにどっかに流れちまったよ!」

「うわっ!」

 

バンッと背中を叩かれる。

その手の平がとても大きい気がして、剣丞は少しだけ泣きそうになっていた。

 

「そうか・・・ありがとう、おっちゃん」

「ヘッ、お前が元気になりゃいいってことよ!」

 

 

 

笑い合いながら歩いていくと、いつの間にか久遠達に合流していた。

追いつこうと思って追いついたわけなので驚くことでは無いが、剣丞と船長は不思議そうに彼女らを見ていた。

 

久遠達は激流のような人ごみの中で、歩みを止めていたのだ。

2人の接近に最初に気付いたのは空だった。

 

「あっ、七刀斎さん」

「なんだなんだ?何で進まねぇんだ」

「どうした?」

 

剣丞と船長が近くにいたころに尋ねると、ころも不思議そうな顔をしていた。

 

「なんか、白い装束を着た人がお頭に話しかけてきたんですよ」

「白い装束?」

 

気になった剣丞が織田の剣丞に近づく。

見ると彼の目の前には、剣丞も見覚えのある白いローブの人物が立っていた。

 

「なッ・・・!」

 

見た瞬間、剣丞の動きがピタッと止まる。

 

「あ、七刀斎。なんかこの人、ずっと英傑だの新田剣丞だの言ってくるんだけど・・・何か知ってるのか?」

「背は詩乃ちゃんより低いですし、声も普通に女の子なんですけどね」

 

ひよの言葉を聞いて、剣丞は前の記憶と照らし合わせて違う部分に気が付いた。

 

「声?」

「・・・・・・新田剣丞よ」

 

白いローブの少女が口を開く。

以前剣丞が越後の国境付近で出会った少女と違い、その声に特殊なものはなく、普通の女の子といったような声であった。

 

「君、ザビエルなのか?」

「是」

 

剣丞の問いに依然と同じように機械的に答える少女。

相変わらずフード部分の下の素顔は見えない。

 

「なら、俺の敵だな」

 

刀に手はかけないものの、殺気を容赦なく目の前の少女にぶつけてやる。

 

「お、おい七刀斎!どうした!」

 

それに気づいた久遠が剣丞に問いかけるも、剣丞はそれを無視した。

 

「・・・・・・英傑ょップッッハハハハハッハ!!」

 

突如笑い出すザビエルと名乗る少女。

その光景に久遠達のみならず道行く人々まで目を向けるほどだった。

 

「アッハハハハ!・・・ックァハハハ!止まらないわぁッハハハ!」

 

耐えきれないといった感じで笑い続けるザビエル。

以前会った機械的な様子とは打って変わっての感情をむき出しにした様子に、剣丞は言葉もかけられず驚くだけだった。

 

 

 

「あーっ、もうおかしい!やっぱり私にアイツの人形の真似は無理ね」

 

ようやっと笑い終えたザビエルがゆっくりと近づいてくる。

それと同時に、船長もまた剣丞の後ろから出てきていた。

 

「なんだなんだ?人を捕まえて立ち止まらせて、しかも笑いやがって。お前何者だぁ?」

「・・・邪魔」

 

その瞬間、ザビエルが纏うローブの下から、黒い何かが飛び出した。

詩乃より低いと言われた背丈に似つかない大きさのその何かは一直線に船長に飛んでいく。

 

「ッ、おっちゃん!危ねぇ!!」

 

剣丞の必死の叫びは、何かを砕く音と重なった。

 

あまりに突然の事に固まる久遠達。

 

「キャアアアーーーーー!」

「なんやなんや!?」

「人が飛んできたでぇ!」

「血まみれやんけ!」

 

一気に騒がしくなる堺の大通り。

 

剣丞隊の面々も徐々に何が起こったのか理解し始めたようで、悲鳴と警戒の声があがっていた。

既に気絶した空は、倒れるところを受け止めたころに担がれていた。

 

ほんの少し前まで剣丞の横にいた船長の代わりには、ザビエルが繰り出したその黒い何かがある。

 

「なん、で・・・これ・・・」

 

それは、越後の内乱鎮圧時にも見た。忘れられないもの。

色は黒くとも、それは鬼と化した本庄が持つ腕によく似ていた。

 

しかしザビエルの腕はしっかりとローブの袖部分から生身の細く白い腕が伸びている。

 

「おっちゃんッッ!!」

 

絶叫する剣丞を尻目に、ザビエルは次の行動に出る。

 

「はい、パチーン」

 

ザビエルは次に指を鳴らすと、周りにいた町人たちが一斉に苦しみ始めた。

 

「う、ぐぅぅぅ!」

「な、なんやねんこれぇ・・・」

 

呻き声と共に変化していく身体。

その声が無くなるときには既に、彼らは人の形をしていなかった。

 

「「「「「グオオオオォォォォーーーーッ!!」」」」」

 

「なっ、鬼だと!?」

 

さっきまで人だったものが成り果てた姿を見た久遠が咄嗟にそう漏らす。

 

「剣丞!」

「ああ、久遠は皆を!」

「わかった!」

 

短いやり取りで織田の剣丞と久遠が同時に動き始める。

久遠は空と剣丞隊を連れて逃げ惑う人ごみの中に紛れ、織田の剣丞は真っ直ぐにザビエルへと向かう。

 

「七刀斎!」

「あ、ああ!」

 

織田の剣丞からの声を受け、放心状態だった剣丞も我に帰る。

 

「「ハアアアァァァーーーッ!」」

 

同時に振られる居合の太刀。

 

2人の攻撃はザビエルを捉えたが、斬ったのは白いローブだけであった。

 

「手応えがない!」

「クッ!」

 

ザビエルはその小柄からは想像できない程の跳躍力で、後に跳んでいた。

パニックになった大通りには彼らを避けて逃げようという人々でいっぱいなので、彼女は足場に困らない。

 

「七刀斎、アイツは何者だ?」

「アイツはフランシスコ・ザビエル。鬼を使って日の本を支配しようと企んでる奴だ」

「なんだって、ザビエル!?あの?」

 

織田の剣丞もまた、教科書のカッパおじさんを思い出しているのだろう。

だがそんな思考を中断させたのは、そのザビエルからの一言だった。

 

「違うわよ」

「何?」

 

2人の目がザビエルであることを否定した少女へ向く。

 

エーリカのそれと似た長い金髪。

黒を基調としたゴシックロリータ風な服。

引くい背丈とそれ相応な幼い顔だというのに、その鋭い眼光は見るものに穴を開けそうなほどだ。

 

だが彼女から先程見られた大木のような鬼の腕は生えていない。

 

「ザビエルなんて人形と一緒にしないでくれない?」

「どういうことだ?」

 

幼い外見からは想像できないほどのキツい喋り方に驚きながらも、剣丞が切っ先を向けて聞く。

すると彼女は一笑して言い放った。

 

「私はアレッサンドロ・ローラ・ヴァリニャーノ、この外史の管理者よ!」

 

その言葉と同時に再び彼女の周りの町人たちが逃げ惑うこともできずに鬼へと変貌していった。

 

「なっ、また増えた!?」

「剣丞!」

 

織田の剣丞を庇い、鬼を斬り捨てる剣丞。

 

「わ、わりぃ・・・」

「とりあえず、周りの鬼から片付けていくぞ!」

 

「ウフフ、できたらねぇ」

 

ローラと名乗った少女が鬼を従え2人に近づいていく。

2人の剣丞もまた、切っ先を揃えて鬼達に立ち向かうのだった。

 

 

 

 

 


 
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