No.698491

「真・恋姫無双  君の隣に」 第27話

小次郎さん

戦を見つめる者は己の姿を見る。
焔耶は百戦錬磨の祭に戦いを挑む。

2014-07-04 18:30:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:16307   閲覧ユーザー数:10915

御遣いの軍と、劉表・劉璋連合軍が対陣している。

数では互角といったところか。

うん?劉璋陣営から一軍が飛び出した、急いで後軍が追従するが、劉表軍は動いていない。

飛び出した一軍は包囲陣形に変えた御遣いの軍にそのまま突っ込んでいく。

馬鹿な、何を考えている!

あれでは全滅必至だ。

追従した後軍も飛び出した一軍が邪魔で陣形も満足にとれていない。

最早烏合の衆だ。

早々に決着がみえた。

原因は、徒に戦意だけで飛び出した劉璋軍の将。

・・そうか、あれが私の姿だったのだな。

ただ己の武だけを頼みに戦い、味方や戦場全体を何も見ていなかった、愚かな私の。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第27話

 

 

突出して飛び込んできた劉璋軍の若き将は盾部隊に力を受け流され、ご自慢であろう力業が通用しない事に苛立っておる。

更に自軍の兵達が次々に倒されているところを見て、状況に理解が着いて来ないのか大声で怒鳴り散らすだけか。

「やれやれ、威勢がいいのは良いが己を知らぬ者は早死にするだけじゃぞ」

物足らんがさっさと討ち取ってしまうか。

「小娘、儂が相手をしてやるので喚くでないわ」

「何だと!?なっ!ふざけるな、貴様!武器を持っていないではないか!」

「せめてもの温情じゃ。何も気付かずに果てるのも哀れに思うての」

「殺すっ!」

馬鹿正直な攻撃をかわし、隙だらけの脇腹に拳を打ち込む。

「ぐっ!」

小娘は片膝を着くが直に立ち上がり、得物を振り回し距離をとる。

「頑丈じゃのう」

「馬鹿にしやがって、うらああああっ!」

進歩の無い、武器は振り回せば良いものではないぞ、うん?

地面を殴り砂煙を起こしてきた、少しは考えたようじゃの。

「貰ったあーーーーー!!」

起こした砂煙を利用しての攻撃に勝利を確信しておるようじゃが、

「こんなもの、戦いの初歩の初歩じゃろ」

懐に踏み込み、肘を鳩尾に突き入れる。

「ぐあっ!」

ふむ、本当に頑丈じゃの、まだ生きとる。

どうやら鍛錬だけはしっかりやっとったようじゃの。

倒れこんだ小娘に止めを刺そうとすると、殺気と共に何やら飛来してくる物を察知し、急ぎ後ろに距離をとる。

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

鉄の玉が地面に突き刺さる。

何じゃ、これは?

この玉を撃ってきたらしい儂と同年輩らしき者が、倒れている小娘に駆け寄って安否を確認する。

「焔耶、生きとるかっ!」

「・き、桔梗様」

小娘は辛うじて返事を返すが、そのまま気を失う。

「許せ、焔耶。いきなりこれ程の強者と相対する事になるとは思わなかった」

急ぎ小娘を兵に運ばせ、振り返り儂に声を掛けてきた。

「先ずは待っていてくれたことに礼を言う。わしは劉璋軍総大将、厳顔と申す」

「袁術軍先鋒の将、黄蓋じゃ。礼は不要じゃ、儂は貴様を討つのじゃからな」

「ならば我が弟子の借りを返させてもらう。恨みはないが怒りはあるのでなっ!」

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

「成程、氣を使い鉄球を飛ばしているのか。・・面白いのお、ならば我が多幻双弓、存分に使わせてもらうぞ」

 

祭が劉璋軍総大将を捕縛したとの報告が入った。

流石だな、おそらく恋を除けば大陸最強の将だ。

劉璋軍の壊滅する姿を黙ってみていた劉表軍は、友軍を見捨てて戦わずに退却した。

俺はこれ以上の戦いは不要と判断して、降伏を促し追撃を止めるように指示を出す。

「・・風、幾らなんでも弱すぎないか?」

率直な疑問をぶつけてみる、油断する気は無いから軍師の意見が聞きたい。

「何も考えずに飛び込んできた将が全てですねー。戦において本当に怖いのは敵より統率を乱す味方といいますし」

「早々に退却した劉表軍に策はあると思うか?」

「まず無いですねー、友軍を見捨てた劉表軍は味方からすら信頼を失いましたから」

だよな、後の戦は威圧でいけるか。

「流琉、何か気になった事はあるかい?」

「は、はい。逃げた兵士さんが近くの村を襲ったりしないかなと」

そうか、逃げた兵は劉璋の兵だ、荊州の者じゃない。

俺は急ぎ近隣の村々に守備部隊を向かわせる。

但し、村の中には入らず外で警護するように、あくまで要請があった場合のみ中に入るようにと。

「ありがとう、流琉。良く気付いてくれた」

「いえ、お役に立てて嬉しいです」

流琉の嬉しそうな笑顔を見て、自然に頭を撫でてた。

「むー」

風、宝譿で背中を突かないで、地味に痛い。

 

わしは御遣いの下へと連行されている。

敵将との勝負で敗れ、射抜かれた腕が少々痛むが、面白い喧嘩じゃった。

それにしても、

「黄蓋殿、わしをこのまま御遣いの下へ連れてゆく気か?縄で縛りくらいしてはどうだ」

「面倒じゃ。お主はもう暴れはせんし、一刀も気にせんじゃろ」

「お主もそうだが、御遣いも相当に肝が据わっているようだな」

少し楽しみになってきたの、処刑される前なのだが。

本営に入り、御遣いの前に引き出される。

この青年が天の御遣いか。

強い意思を持つ目をしている、・・悲しみも含んでいるか。

成程、劉璋のボウズとは比較にもならんわ。

「厳顔と申す。投降した兵への治療、感謝いたす」

「北郷です。貴女から色々と聞きたい事があります」

「兵を治療していただきながら申し訳ないが、わしにも武人としての意地がある。速やかにこの首を刎ねられよ、ただ何卒兵達には寛大なご処分をお願いいたす」

「・・分かりました」

紫苑、焔耶、すまんの、わしは此処までだ。

「祭、厳顔将軍を預かってくれ。明日、治療中の兵達と一緒に解放する」

何だと!

「風、祭、ここは任せる」

御遣いは足早に去った。

「一刀の奴、ちと甘くないか?」

「全然甘くありませんよー。この一手は今後に於いて劉璋軍の戦う意思を根こそぎ奪いますから」

「どういう事じゃ?」

「命は奪われない、でも戦って勝てる相手じゃないと思わせる生き証人を大量に放つんです。何もしなくても勝手に噂は広まります。将はともかく、兵に本気で戦う意思は引っ繰り返しても出てきません」

「厳顔殿はかなりの将じゃぞ。勇将の下に弱卒なしと言うではないか」

「主君の劉璋には敗れた将としか見られないですよ。厳顔将軍が再起用される時は国が滅ぶ一歩手前でしょうねー」

黄蓋殿と軍師らしき者の会話は、わしには苦いものだ。

このまま開放されれば軍師の言葉どおりになろう。

「まあ、お兄さんの本音は出来るだけ人死にを出したくないだけでしょうけど」

「やはり甘いではないか」

「華琳様や孫策さんなら徹底的に叩いて相手に恐怖心を持たせるでしょうが、将来に禍根も残すでしょうねー」

「むっ」

「長い目で見ればお兄さんの方が大きな力を得ますよ、しかも民から望まれてです」

「名家や豪族を取り込んで勢力の増強を計らないのも同じ理由か」

「そうでしょうねー。良い領主の方も居るでしょうが大部分は民に好かれてはいないでしょうし、力欲しさに権力を持つ者と妥協を重ねる気はないのでしょう」

黄蓋殿が考え込まれている。

話を聞いていた、わしにとっても衝撃的だった。

力を持ちながら力に溺れず、敵ですら愛すべき民と考える。

紫苑とも話したが、あの降伏条件も人の没収はともかく、土地に関してはそこそこの所有は認められていた。

贅をしなかったら、充分な財産よ。

決して無慈悲な行いではない。

御遣い殿に比べ、何と小さな自分か。

武人の意地など、何と小さき理由か。

わしは自分が楽になる事しか考えておらなかった。

「もうすぐ襄陽も陥ちます。お兄さんは降伏の最終通告を用意してるでしょうねー」

襄陽、そうだっ!璃々!

「黄蓋殿、軍師殿!御遣い殿にお願いしたい事がある。わしに話せる事は全て話すので、すまぬが取り次いでもらえぬか!」

二人は了承してくれ、軍師殿が御遣い殿を連れて来てくれた。

「厳顔将軍、お願いしたい事とは?」

わしは友である紫苑の娘が人質として囚われている事を話す。

無事に保護すれば江陵の紫苑も速やかに降伏すると、民の信頼の厚い紫苑が降伏すれば民も従うと。

無論、劉璋軍も即刻益州に戻ると。

「・・お話は分かりました。ですが娘さんの保護を盾に降伏を促すのは劉表と同じです。その願いはお聞きできません。お話を聞かせていただけるのも同様です」

「仰る事は尤もだが、そこを何とかお願いしたい。我が身をどう扱われようとかまわぬ」

「駄目です、ご友人は貴女を犠牲にする事を望まないでしょう。・・ですが降伏の書状には無用な血を一滴でも流したら、命令した者、賛同した者、実行した者は一族を悉く滅ぼすと記しておきましょう」

「・・感謝、いたします!」

「保護しましたら、娘さんをお母さんの所に連れて行ってあげてください」

御遣い殿の優しき声と笑顔は、年甲斐も無く心を震わせるものだった。

 

降伏してきた中級もしくは下級官僚達に、空っぽの襄陽城の案内をしてもろとる。

「大将、投石器の出番無しかいな。折角ここまで持ってきたのに」

「敵がいないからなあ。劉表や抗戦派は新野や江陵に財産持って逃げたらしいし」

「ほんまアホやな。財は保障するて言うたってんのに」

「それと月から報告が来てる。劉表が朝廷に泣きついて、かなりの賄賂が贈られてるってさ」

「えっ、そら拙いんとちゃうか?」

漢帝国のアホ共なら、戦止めて城返せぐらい偉そうに言うてきそうや。

下手すれば、今度はウチらが逆賊の汚名を着せられるかも。

「朝臣には以前味方になってくれた人達もいるから直ぐには動かないよ。漢が動く前に決着はつける。月が宛を攻めて、こっちと合流しようとしてくれてるしね」

「そら心強いな。袁・董の仲の良さは誰もが知っとる。領土が隣接したら洛陽からすれば怖あて口も出せんやろ」

「少しの間はね」

少しかいな、まあ、そやろな、自分らだけは特別で安全やと思うとるからな。

「そんで、これからどうすんの?」

「江夏と同じで一ヶ月は統治で忙殺されるな。無血開城出来たから、人心を落ち着かせるのは難しくないと思う、皆には凄く働いてもらう事になるけど」

「酷っ!これ以上働かす気かいな、大将の鬼っ!」

「大丈夫、荊州には優秀な官僚が多くいそうだからドンドン登用するし」

「技術系の優秀なんがおるんか?」

ウチの質問に大将は両肩に手を置いてきて、

「頑張って育てて」

「大将のアホーーーーーーーーーーー!!」

今晩搾り取ったる。

 

「大将のアホーーーーーーーーーーー!!」

びっくりした、すごく大きなこえだったの。

こんどはわらいごえがきこえるの。

きのうまでいっぱいいた大人の人たちがおしろからいなくなっちゃった。

へやからでないように言われてたけど、おこる人もいなくなっちゃったし、いいよね?

お母さんにあいたい。

とびらをあけて、うん、だれもいない。

まがりかどをまがったら、大人の人がいっぱいいて、見つかっちゃった。

いそいでにげようとおもったけど、さっききたみちにも大人の人がいたの。

お母さん、たすけて。

まんなかにいるおにいちゃんがはなしかけてきたの。

「君が、璃々ちゃんかい?」

どうして璃々のなまえ、しってるの?

あれ?なんかおにいちゃんのかおをみたらこわくなくなったの。

「はい、璃々です」

「よかった、元気そうだ。君のお母さんの友達が探してたよ」

 

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あとがき

小次郎です。今回もお読みいただけたこと、ありがとうございます。

いよいよ夏も本番に近づき、部屋にエアコンのない私には地獄の到来です。

熱中症にかからないように水分をしっかり摂ろうと心掛けてます。

皆様もどうか体調にはお気をつけて、良い夏をお過ごし下さることを願うものです。

では、また次回お会いできる事を楽しみにしています。


 
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