序章 ~迷いつく者~
真っ暗な道。不安定な足場。ジメッとした空気…。
僕が今いるのは、とある廃校。
この夏取り壊される予定だそうです。
なぜそんな所にいるのかって?
理由は簡単、"肝試し"です。
もちろん僕1人というわけではありません。
僕達が通う大学の近くにあるこの廃校が取り壊されると聞いて、それなら"肝試し"をやろう、ということになったんです。
僕の名前は
成績は中の上、単位取得も問題ないですね。
空手の経験が少しあり、加えて中学、高校では剣道をやっていました。
そんな僕が好きなもの。それは"妖怪"。
妖怪に会いたいというわけではありません。
いろんな妖怪について調べるのが好きなんです。
人間を助ける妖怪、襲う妖怪。驚かせる妖怪。
山のように大きな妖怪。手のひらに乗る小さな妖怪。
人の発想がどれだけ多彩か、実感させられます。
なぜ"妖怪"なのか、と言われれば、祖父の影響でしょう。
祖父が大切にしていた本、"妖怪大百科"。
子供の頃にそれを見つけた僕は、すぐにその魅力に引き込まれていきました。
こうして肝試しに参加しているのも、そのせいでしょう。
妖怪に会いたいとは、いえ、違いますね。"会える"とは思ってません。
ただこうして、妖怪が出そうな場所だから興味が沸いたんです。
「こっち、でしたっけ?」
手には事前に配られた地図。大雑把なのは肝試しが急に決定したからですかね。
もう片方の手には懐中電灯。流石に途中で消えるアクシデントはないでしょう。
今も懐中電灯は、強い光で僕が進む先を照らしています。
「違う道に来てしまいましたか…」
地図では扉があるはずなのに、目の前には壁。
どこかで道を間違えたようです。
引き返すのはいいのですが、いったいどこまで戻ればいいのか。
「僕より前に出発した人は、大丈夫だったんでしょうか」
同じように間違って引き返したなら、僕と鉢合わせになる可能性もあります。
それがないということは、ここで間違ったのは僕だけなのかもしれません。
そのことに少し恥ずかしさを覚えながら、僕は来た道を引き返していきます。
「困りましたね…」
そこは全く知らない場所でした。
引き返したはずなのに、見覚えのない場所。
流石に不安になってしまいます。
長い廊下、ひび割れた壁、床板はギシギシと音をたて、僕をさらに不安にさせます。
「人を道に迷わせる妖怪、なんていましたかねぇ」
こんな時でも妖怪のことを考えてしまう僕。
それでも不安なままでいるよりは、ずっといいです。
長い廊下を歩いて行くと、そこには1つの扉がありました。
他には何もなく、ここで行き止まりのようです。
わざわざ中に入ることもないだろう、と僕が踵を返そうとすると、
――― カタッ
扉の奥で、何かの音が聞こえた気がしました。
…ネズミでしょうか?
もしかすると、同じように道に迷った参加者が、この部屋で少し休憩しているのかもしれません。
可能性は低いですが、中を覗くくらいならたいした手間でもありません。
そう思った僕は、静かに扉を開きました。
――― それがすべての始まりになるとは知らず。
視界が黒に覆われ、そして白に。
気がつくとそこは、林の中でした。
周りを見回しても、廃校なんてありません。
そもそも肝試しは夜に行われたはずなのに、今僕の見上げる先には、太陽が昇っています。
時間を確認しようとしましたが、携帯は壊れていました。かなりショックです。
「夢でも見ているのでしょうか」
扉を開けた直後、僕は何らかの理由で気絶したのかもしれません。
そう思いほっぺたをつねってみますが、
「痛いですね」
原始的な確認方法ですが、木々の匂いや太陽の暖かさまで夢だとは思いにくいです。
人はあまりに混乱すると、逆に冷静になるものなのでしょうか。
「少し辺りを調べてみましょうかね」
見回してみると、林の奥に山が見えました。
山は危険と考えれば、進む方向はその逆。
山を背にして、僕は歩き出しました。
――― まだ何も知らない、この"世界"を。
「新しいお客さんが、来なさったみたいだニャー」
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これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。
二次創作としていますが、内容はほとんどオリジナルとなります。
GREEのアプリ、『秘録 妖怪大戦争』より"人妖"の女の子の容姿等を使用していますので、二次創作としています。
※既にこのアプリは閉鎖となっています。
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