No.697806

義輝記 蒼穹の章 その二十四

いたさん

義輝記の続編です。 今回、ある将が活躍してくれます。
よろしければ、読んで下さい!

2014-07-01 02:02:23 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1245   閲覧ユーザー数:1112

【 識別の大長考 の件 】

 

〖 司隷 洛陽周辺 にて 〗

 

稟「あれが………『車懸りの陣』! 次から新手を繰り出し差し迫る─必殺の陣形!! ─────ですが、あのように……兵達の体力を無駄に使うようなやり方、長続きなどしませんよ!! 

 

全軍前衛──盾を配置!! 雁行の陣に移行! 敵の攻撃を流しつつ疲れを待ちます!」

 

風「敵が疲れてきましたら、鶴翼の陣に移行しますー! 敵を包囲して殲滅ですよ─────!!! 

 

華雄さんに伝令ー! 禁裏兵を率いて、洛陽と月様の前に陣を構築! 中央に陣を構えて下さいー!!! 翠さんと白蓮さんに、両翼の指示を!!」

 

ーーーーーー

 

華雄「私が中央前衛を指揮する! 馬孟起達は左側を! 公孫賛は右側を頼む!」

 

程遠志「オ、オイラも!!」

 

華雄「お前は……月様の傍で指揮を取れ! 本来は私の役目だが……お前に任せる! …………必ず、月様を守れ!! いいな………?」

 

程遠志「か、華雄将軍────!!」

 

華雄「言った筈だ! 颯馬の代わりを行うのは私だと! ……後を任す! 出来れば……お前も、背中で人を教える者になれ!!」

 

ーーーーーーー

 

翠「面白くなってきたじゃねぇか!! ガチとガチとの大勝負──燃えてくるぜぇ!!! お前達……移動したら盾による防御陣を構築するんだ!! 無駄な被害を防げ!! あたしは、相手が弱り次第、横から奇襲を掛ける!」

 

蒲公英「脳筋のお姉様にしては、まともな作戦で……ものすご~く、蒲公英、嬉しいな! 華麗に勇ましく突撃~!……なんて、無茶を言われなくてぇ!!」

 

翠「誰が脳筋だぁ!! あたしだって……兵をなるべく国に返してやりたい! だけど……戦わずに帰国すれば、臆病者呼ばわりされて……蔑まされるだけなのは、お前でも分かるだろう!?」

 

蒲公英「………そうだね! じゃあ………蒲公英も!」…ブルブル!

 

翠「お前は、こっちの陣を守れ! あたしが行けば誰がここを守ると思ってるんだ!? それに蒲公英の武じゃ……正直心配だ。 幾ら強がり言ったて…足が震えているぞ!!!」

 

蒲公英「だ、だってぇ~!」

 

翠「…………お前は、あたしより守勢に優れている! 適所適材さ!」

 

蒲公英「う、うん!! その時は………必ず戻って来てよ!? 必ず!!」

 

翠「心配すんなって! ………………必ず戻るさ!!」

 

ーーーーーーー

 

白蓮「……………………」ジィ~!

 

白蓮は、袁術軍の『車懸りの陣』を…………観察している。

 

ーーーーー

ーーー

 

袁術軍は隊列を回し勢いつかせたが……未だに、洛陽軍勢へ到着していない! 何故なら、先に仕掛けた荷車……いや、火車が袁術軍を遮っていた。

 

しかし、久秀は……………非情な命令を下す!!

 

久秀「……こんなモノが何ぃ? クスクス……児戯の玩具に等しい物が…久秀の玩具に勝てるわけないじゃないぃぃ!! そのまま突撃して、障害物を破壊するのよぉ!? 久秀の為に……その命ぃ……用立てなさいぃぃ!!」

 

無造作に……久秀が手を振り上げ、火に覆われた荷車に突撃の指示を命じる!

 

袁兵「───────!!」

 

ドドドドドドドドッ────!!

 

その隊列の袁兵達は……顔色も変えず、勢いを付けたまま飛び込んで行く!!

 

結果は…………ご覧の通り。 

 

ガシャン───!! ドカッ! グシャ──!!

 

袁兵1「グエエェェェ────!!」

 

袁兵2「ギャハアアァァアアア!!」

 

ゴロゴロ ゴロゴロ────

 

炎に包まれた車を車懸りで蹴散らす……ややこしいが成功! しかし、荷車の竹には『黒き水』も入っていたため、何十人が火達磨となり転げ回る!

 

しかも───熱さと痛みで正気に戻り、事情が分からぬまま……本能に従い苦しむ!! 体力も限界以上に使ったのにも関わらず、ただ……この苦しみから逃れたい一心で…………。

 

─────そして、何人かが転げ回り、動けなくなった場所に………………。

 

袁兵1「 ───────! 」

 

車懸りを行う袁兵達が、無表情の顔で……火傷や大怪我を負って動けない戦友達の上で……行進を進めた!! 

 

ドドドドドドドドドドドド!

 

   ───────────────────!

 

グシャ! バキッ! グシャグシャ!!

 

何人かの袁兵が顔を……一瞬……歪ませる!

 

断末魔が聞こえたか、踏みつけた物の感触で何かと気付いたか……?

 

一瞬だが正気に戻ったようだったが………また、元の無表情に戻る。

 

ーーー

ーーーーー

 

白馬義従3「………白蓮様は……何をしているんですか?」

 

白馬義従2「黙ってみてな。 あれは……白蓮様お得意の『識別の大長考』だ!」

 

白馬義従3「『識別の大長考』ってなんですか?」  

 

白馬義従2「……お前は新人だったな。 手短に教えてやろう! 

 

……簡単に言えば『物事の通りを見て弱点を探る』能力だ! これを白蓮様が行い……結果が出れば……我々の勝利だ!!」

 

白馬義従3「へっ!?」

 

白馬義従2「何を間抜け顔している? 実際、白蓮様が……これを行い戦場での負け戦は皆無! 一度は袁紹を追い詰めた事がある程だ!」

 

白馬義従3「す、凄いじゃないですか!! でも、なんで『普通』なんて他の太守様から言われるんです?」

 

白馬義従2「あの技の弱点は、異常に考えるのが長いんだよ。 他の太守様……曹孟徳様や孫呉の軍師様達の出す答えと、ほぼ一緒かそれ以上の回答を出すんだが………数刻掛かる事があるため、平凡呼ばわりされている!!」

 

白馬義従3「あぁ! それで………『識別の大長考』ですか!!」

 

白馬義従2「今回は……俺達の命を守るために……あの伝家の宝刀を抜き、頑張ってくれているんだ!!!! ────分かったか!?」

 

白馬義従3「────はいっ! 分かりました!!」

 

◆◇◆

 

【 戦術 対 戦術 の件 】

 

〖 司隷 洛陽周辺 にて 〗

 

ドドドドドドッ────!

 

袁兵「──────────!!」ブ───ン!

 

禁裏兵「ーーーーーー!!」ガキィン!!

 

クルッ! ドドドドドドドドドッ────!!

 

袁術軍の攻撃は熾烈を極めた!! 生気が無い真っ青な顔で、無表情で攻撃する袁兵達。 幾人は重傷者だと判断出来るのに関わらず…精兵並みの速さ、威力を持って攻め上げる!!

 

禁裏兵達も…洛陽を攻められた国辱を忘れず、練兵に励み……前と比べ見違えるような強兵になっていた! しかし、颯馬が自分の策に、敢えて董卓軍を連れて行ったのは……戦場経験が少なかったのを、危惧していたため。

 

それが………今回、裏目に出てしまった…………!

 

ーーーーーーー

 

袁兵「ーーーーーー!!」

 

禁裏兵「でやぁ!!」

 

ガキィ──ン! ドドドッ!

 

中央で─────また、袁術軍と禁裏兵達が衝突! 

 

……果たして何回目の衝突だろうか?

 

敵は……一度だけ此方に攻撃を仕掛けると、直ぐに逃げて……別の新手に代わる。 そして、次の相手も攻撃をすれば……また新手に…………。

 

今回も……新手の袁兵と若い禁裏兵が剣を交える!!

 

血気盛んな禁裏兵は……敵が迫っては逃げ、迫っては逃げるため、防御だけ行う事に我慢出来なくなった!!

 

禁裏兵「くっ! 逃げるかぁ!」ダッ!

 

華雄「待てぇ───!! 追うな!!」

 

一人の禁裏兵の離脱は、他の禁裏兵の更なる離脱を招いた!!

 

禁裏兵「俺も我慢ならない! 行くぞ!!」

 

禁裏兵『おおぉぉぉ────!!』

 

禁裏兵達は………弱兵と侮り突撃して行った!!

 

 

★☆☆

 

 

▼▽▼  ▼▽▼  ▼▽▼  ▼▽▼

 

心ある人は言うだろうか……?

 

『何故、大事な局面で中央へ禁裏兵を配置したのか……?』と。

 

稟と風、詠は……後に尋ねられて、こう答えと言う。

 

稟「洛陽を背後に置いたのは、禁裏兵達の矜持を利用したのです。 ……要は背水の陣をとれば、禁裏兵達が奮起してくれる!! そう、信じていたのです!!」

 

詠「それに………翠や白蓮殿は……私達に援軍で来てくれた将じゃない? そんな中、禁裏兵を差し置いて、中央を守らせるなんて……出来なかったのよ」

 

風「それから、翠さんや白蓮さんは、騎馬隊で活躍した軍勢です~! 得意な馬を降りてまで戦う彼等の戦力と……歩兵で訓練して来た禁裏兵では、扱いの差が出ると考えたのですよー!!!」

 

▼▽▼  ▼▽▼  ▼▽▼  ▼▽▼

 

 

 

間違ってはいなかった。 考え方は三者三様……正解である!

 

ただ……久秀の戦術眼が……三人の考えていた事の……更に上へ───!!!

 

 

 

△▲△  △▲△  △▲△  △▲△

 

久秀『禁裏兵ねぇ………。 確かに強くなっているようだけど……増長している様子がはっきり分かるじゃないぃ! 後ろは洛陽だから、守るには強いけど攻めさせてみれば……どうなるのかなぁ~?

 

袁兵達よぉ! 禁裏兵達に軽く……《挨拶》をして上げなさいぃ! 一回攻撃して直ぐに入れ替わりして離脱ぅ! 相手に侮りと恐怖をぉ! 久秀達を恐れ、侮り、攻撃を仕掛けたくなるように仕向けるのよぉ!』クスクス

 

△▲△  △▲△  △▲△  △▲△

 

 

現に……禁裏兵は追いかけた! 洛陽を守るために! 賊を殲滅するのだと!

 

しかし、思い違いを起こしているのに……気が付かない。

 

洛陽を守るのであれば、その場で待機して守備を固める。 そして、機会を見て、将が指示を発し……始めて全軍で攻め寄せれる!! 

 

それが、将の制止を無視して……少数で突撃すれば────!

 

禁裏兵「とりゃあぁ──! ………えっ?」ガキィン!

 

袁兵「ーーーーーー!」ブン!

 

禁裏兵「ギャアアァァアアア!」ザシュ!

 

禁裏兵「そんな! 強い、強すぎる!! 戻らなきゃ───!」

 

袁兵「ーーーーーー!!」シュッ────!

 

禁裏兵「ぐわぁぁっ!!」グサッ!!

 

禁裏兵達は、敵の実力を見誤り………袁兵に討たれる! 

 

相手は『車懸りの陣』! 一度入り込めば、新手に襲われる蟻地獄の陣形!

 

逃げる選択など────無くなるのだ!!

 

そして………その愚かな行いは………手痛い代償を払う事になる!!

 

 

◇◆◇

 

【 久秀 対 月 の件 】

 

〖 司隷 洛陽周辺 にて 〗

 

久秀「………残念ねぇ、洛陽の軍師さん達! この国の諺に『押して駄目なら引いてみな!』というのが無くてぇ………。 もし、知っていたら……久秀の策、破られていたかもねぇ──? フフフ!! ハハハハハッ!!

 

袁兵達! 愚直な正義の味方が……久秀をわざわざ導いてくれたわぁ!! あの開いた隙間をこじ開け、洛陽勢を壊滅に追い込みなさい!!」

 

久秀からの新たな指令を受け、中央部分に軍勢を集中させる袁兵!!

 

ーーーー

 

華雄「負けるな!! ここを打ち破られたら……軍が崩壊してしまうぞ!!」

 

華雄は自慢の金剛爆斧を奮って袁兵を討つ!!

 

禁裏兵「ぐはっ!!」

 

禁裏兵「し、死にたくねぇ───」バタッ!

 

だが………多勢に無勢! 禁裏兵を討ち果たされ、華雄の周囲には袁兵達が槍を持ち囲む!! 

 

華雄「────くっ! ここまで………かぁ!!」

 

華雄は、死を決意して金剛爆斧を握り直す!!

 

華雄「───金剛爆斧よ! 我が主の為………共に死のう!!!」

 

そして、周囲の軍勢に躍り掛かろうと、動く直前───

 

シュ──ッ! シュ──ッ! シュ──ッ!

 

袁兵「グハッ!」

 

袁兵「ゴボッ!」

 

周囲の袁兵が倒され───! 一人の将が駆けてくる!

 

月「か、華雄さん!!! 大丈夫ですか!?」

 

華雄「月様!! な、何故──この場所に!?」

 

月「前衛部隊が崩壊間近と聞いて救援に来たんですよ!!」

 

華雄「し、しかし!! 貴女は……この軍勢を纏める大将の身! 私如き討たれても、状況など変わり『 変わります!!! 』──!」

 

月「貴女は人一倍責任感が強く、私を守るために武を磨いている! そんな貴女が討たれば……慕う兵士は落ち込み、詠ちゃんや皆さんが悲しみ、わ、私は……また…家族を失う失望感を味あわなくては……いけないのですか!?」

 

大粒の涙を溜めて反論する月……! 

 

華雄は……魂の震えを感じていた。 将の一人に過ぎない自分を、家族の一人だからと心配して……単身駆けつけてくれた! 

 

本来は、護衛を付けず来た事を、叱らなければならない! しかし、この主は……どこかの軍師と同じで……仲間の為に単身で突っ込む! 

 

それに、人の事は到底言えないな………と思っていたりもする。

 

そんな思いに浸りながら、声を掛けようとすると……矢の飛来音が!!!

 

華雄「月…………あ、危ない!!!」

 

月「きゃああぁぁぁ!!」

 

シュッ────! ドンッ!  グサッ!!

 

華雄「ぐっ!!」ドクドクドク………

 

咄嗟に月を突き飛ばし、身代わりになる華雄! 

 

月は慌てて現状を見れば……華雄の右肩に矢が刺さっている!!

 

月「───か、華雄さん! 華雄さん!! しっかりしてえぇぇ!!」

 

華雄「つ、月様! ご心配には及びません………。 右肩に矢が刺さっただけです………!」

 

月「で、でも!!」

 

??「あらあら~残念ねぇ……。 素敵な忠犬に守られたようでぇ……無事の様子ね。 大丈夫よ、その矢には……毒なんか塗ってないわぁ!」

 

月「────あ、貴女は!!」

 

久秀「ご機嫌よう───董卓様ぁ!! クスクスクスクス……あの時以来ねぇ? 変な怪人や三好長慶、大事なお友達に守られて……無事で居られたけどぉ。 

 

今回は、誰も邪魔しに来ないわよ! 久秀のぉ、久秀の力でぇ! こんな大舞台が出来たのだからあぁ! アーッハハハハハハハ!!!」

 

華雄「月様あぁぁ!! 御逃げ下さいぃ!! 私の事は置いてぇ──」

 

久秀「──煩いわよぉ! 黙りなさい! ───『縛』!!」

 

華雄「────────!」グッ………ガクッ!

 

 

久秀が印を結び、華雄に切ると──華雄の身体の自由がきかなくなり、押し黙って……膝を地面に付いた。

 

月「華雄さん!!!」

 

久秀「フフッ……董卓! 貴女は私に殺されのぉ! この洛陽の見える場所で…己の無力さを感じながら死ぬのよ!! 貴女が死んだ後、洛陽も後を追わせてあげるわ。 皇帝も大将軍も……他の将達も仲間もねぇ? 

 

だけど────颯馬だけは……アゲないぃ! だって……久秀の玩具よ? 持ち主の久秀に返して貰うのが……筋! 

 

まぁ~死んじゃう貴女には……関係ない話よねぇ!?」

 

月「天城様は! 天城様は!! 断じて…貴女の玩具なんかじゃ……ありません!! この地に平和を齎す(もたらす)天の御遣い様です!!! それに、私達は……私は───まだ諦めません!!」

 

久秀「そぉう! そうこなくては……ねぇ! 無抵抗で董卓を殺害しても~つまんないから、思う存分に抵抗なさい!! まぁ……逃げてもいいけど~? 逃げれば……あの将は……代わりに早く死ぬだけよぉ! 

 

袁兵達! この周りを囲みなさい! 総大将同士の一騎打ちなんて………面白い趣向…………他の者に見せる義理も情けもないわぁ!! クスクスクスクス

 

この久秀が無残に討ち果たし……周りの袁兵達が……貴女を嘲笑って、あの世に送り出してくれるわよぉ! そして、もっと周りに……洛陽勢からの貴女に対する呪詛の言葉を抱かせて、永遠に苦しめてあげるぅのぉ…………!」

 

月「……………………!!」

 

久秀「………久秀より颯馬を奪った……報いを……与えてあげるぅ!! アッハハハハハハ───! それじゃ───覚悟なさいぃ!!」

 

◇◆◇

 

 

【 意外? の件 】

 

〖 司隷 洛陽周辺 にて 〗

 

月は久秀と対して………距離をとり、久秀を狙う! 

 

久秀と月の距離は五丈(約10㍍)!

 

本来なら……こんな血生臭い事なんかしたくない!! 皆が……無事に平和で暮らせればいい! 

 

だけど……このまま手を拱いて(こまねいて)いれば……大事な家族、尊敬する方、慕ってくれる皆! そして……自分の途方もない願いを実現してくれるアノ方の志が……全部……無になってしまう!! 

 

心を鬼にして………数発……射かける!

 

シュッ──! シュッ──! シュッ──!

 

久秀「………正確無比だけど……気迫が足りないわねぇ! 久秀の居た世界で……こんな甘い攻撃───死ぬ者なんて居ないわよぉ!!」

 

カン! カン!  ──カン!

 

鉄扇を優雅に開き、死角から狙ってきた矢を……円を描きつつ落とす!

 

久秀「───次は……久秀の番ねぇ!!」

 

──スッ! ──ススッ! 

 

───────ザッ!!!

 

あの距離を一瞬に詰めて、月に接近する!

 

 月「───────!?」

 

久秀「大口叩いて───なんなの! その動きィ!!」

 

久秀の鉄扇が開いた状態で、月に襲いかかる。

 

シャアアァァ────────!

 

たかが扇如きと思いなかれ! 『扇骨』は『総鉄製』となっている故、刃の付いた実剣と対等に戦える!! しかも、鉄扇の『天(扇の先端部分)』は、内骨を加工して……鋭く尖らせてある。

 

勿論、普段は使わず………こういう戦場限定だが……。

 

月「くっ!!」

 

久秀の攻撃は、月の綺麗な顔を……右から左に───横一文字に切り裂こうと向かう!

 

クルッ! トッ! トッ! トン! 

 

月は、その方向に逆らわないように、時計周りに身体を回転、その回転の勢いで後方に避けながら、天に向かい矢を放つ!!

 

シュッ! シュッ! シュッ!

 

久秀「──────!」

 

矢は放物線を天へと描き……久秀の居る場所へと襲いかかる!!

 

久秀「─────フッ!!」

 

久秀は……軽く笑い、自分を狙う矢を鉄扇で鏃を叩き………逆に、月に向かい打ち返す!!

 

シューン! シューン! シューン!

 

月「!!」

 

月は急いで横に避け………久秀を探すと………周辺に居ない! 

 

どこへ………? 

 

 

月の背中に冷たい汗が流れる!

 

 

久秀「どこを………見ているのよぉぉお!!」

 

────久秀の声が後ろから!? 

 

頭上に殺気と圧力を感じ、急いで弓を頭上に上げた!!!

 

 

ガキィ────ン!!!

 

 

月「きゃああぁぁぁ!!!」ドタッ!

 

 

持っていた愛弓で防御するが、余りの打撃の強さに支え切れず、膝を付く月!

 

普通の弓なら……持ち手の頭蓋骨と同時に粉砕されるほどの威力! しかし、月の弓も………万が一のためには武器になるように、こちらも鉄をふんだんに使用した一級品! そう易々……主の命を渡す真似は……しないようだ!!

 

 

久秀「ふ~ん……。 面白かったけど……これでお仕舞いね! あの世で……颯馬と久秀の関係を……皆で指を咥えて見物なさい!!!」

 

 

鉄扇を頭上高く振り上げる久秀! 

 

そのまま、振り下ろそうとすると……涙を流しつつも、久秀を見つめる月の姿が目に止まった…………。 

 

久秀は微笑しながら……嘲笑の言葉を月に浴びせる! 

 

月の希望を踏みにじり、更なる後悔に……のた打つ様を眺めるために!!

 

 

久秀「……どうしたのぉ? あれほど諦めないって叫んでいた貴女が……黙って久秀の顔を見ているだけぇ? やはり……口だけの中身の無い者だわぁ! 

 

クスクスクスクス…………貴女なんて、颯馬に相応しくない主君よねぇ?」

 

 

しかし、月は久秀の言葉を肯定しない! 

 

逆に驚く事を言い出した!!!

 

 

月「いいえ! 私は……最後まで! 命を失われるまで! 諦めません!! 必ず、必ず──私達を救い出しくれます!! 私達の仲間や敬愛する御遣い様達は! 天城様は────そんな方達なのです!!! 」

 

 

その言葉に、久秀の中の『心』が反応して叫ぶ!!

 

 

??『ヒサ……、ヒサヒデ! ヒサヒデ────!』

 

 

嘲笑する対象より……覚悟を示された? 

  

久秀は……甘言に乗っている今の自分を、激しく糾弾(きゅうだん)されているように感じ取る! 

 

 

《 貴女の思いは……人を、愛する者も、信じられないのか!! 》

 

 

そして………久秀の『心』も賛同…………

 

 

久秀「黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れぇ───────!!!」

 

 

急に久秀が………怒鳴りだした。 普段、怒気を表に現す事など稀な姫武将が……この世界の将に………その怒りを見せた! 

 

久秀「───董卓! 最後の最後まで良い子ぶってる貴女に教えてあげる!! 

 

久秀や順慶は……ただの駒! 本当の敵は…………別にいるわよ! 詳しくはアノ漢女が知ってるけど……ここで死ぬ貴女に……これ以上……知る必要はないわ!! 颯馬の幻想を抱きながら───死になさいぃぃ!!!」

 

ブゥ──────ン!!!

 

 

月「─────────!!!」

 

 

 

 

────月の頭上に───久秀の鉄扇が───

 

 

『──────タタタタタタタッ!』

 

────────電光石火の動きで────

 

 

 

 『ガキィ──────ン!』

 

────────遮られた!!!

 

 

 

??「フゥ────! 何とか間に合ったか!?」

 

 

久秀「誰! 誰なの!?」

   

 

──────月の危機に駆けつけた将!

 

 

白蓮「おおぉっい! なんだこの硬さは!? 私の『普通の剣』が刃こぼれ起こしているじゃないかぁ!! どうしてくれるんだよ!!!」

 

幽州太守………公孫白珪 ! 真名は白蓮と言う!

 

 

 

月「白蓮さん────!!」

 

月は………自分を救ってくれた将……白蓮を仰ぎ見る!

 

白蓮は……月の前に立ちふさがりつつ、声を掛けた!!

 

白連「月! 大丈夫だったか? ──待たせたな! 私の白馬義従が……袁術軍を崩している!! 他の将達も………皆、無事だ!!」

 

久秀は、つまらなそうなに白蓮の様子を見ている。 

 

久秀(『 戦闘力……普通。 知謀……普通。 統率力……優 』かしら?

 

この将一人……どこから入ってきたか分からないけど……久秀と袁兵達の力があれば………充分に対処なんか出来るわね!!)

 

そんな考えを持ちながら、白蓮に声を掛けた!

 

久秀「ふ~ん、虚言飛語? おあいにく様………久秀には、そんな浅はかな謀略なんか通じないわよ…………大体、周りの袁兵は動いてないじゃない!」

 

白蓮「おいおい! 私は人を騙す謀なんて出来ないんだ! どちらかと言えば騙される事ばかりだし…………。 

 

あっ? ……信用してない顔だな。 

 

仕方ない………。 数で物を言わすなんてしたくないが……皆! 正体を現してくれ──────!!」

 

ザワザワザワ ザワザワザワ 

 

カポッ! カポカポッ! バッ!!

 

周辺を囲んでいた袁兵が……一斉に兜を投げ捨てた!!

 

翠「へっ! 敵大将がのこのことまぁ……! だがなぁ! あたしらの大将を虐めてくれた借り………きっちり返させて貰うからなぁ!!」

 

白馬義従5「白蓮様! 華雄将軍を無事保護いたしましたぜぇ!」

 

白馬義従6「おうおうおうおうおぅ! 俺等の主、白蓮様が謀略だと? この方が……テメェみたいに卑怯な真似すると思ってんのかぁ!? あぁ~!?」

 

白馬義従7「白蓮様! 白馬義従三十人! 腕っ節の強い野郎ばかり集めましたぜぇ!? このふてぇ奴を踏んづかまいてぇ、黄河の魚の餌にしてやりやしょう!?」

 

白蓮「頼むから……これ以上言わないでくれ!! こうも……あからさまだど……私が恥ずかしいんだ! とりあえず………分かったか! この周辺の兵達は、私達が入れ違いで倒した! 倒しても声を出さないから助かったよ!」

 

白蓮は顔を赤らめて恥ずかしがるが……白馬義従達は白蓮を持ち上げ、久秀を貶す(けなす)! 当然と言えば………当然なんだが…………。

 

久秀「嘘よ……! 出鱈目よ!! 久秀の術が掛かっている……あの軍勢が……こうも……簡単に打ち破れるわけ─────!!」

 

───信じられない! 信じたくない! 信じない!!!

 

久秀は自分の知謀、戦術、戦略に自信を持っていた! 曹操を敗走させ、陸遜を苦しめ、あの天城颯馬と五分に渡る戦術を繰り広げたのだ!! 

 

今回は、普段使わない術まで使用し、洛陽勢の軍師達が編み出した戦術をも凌駕して、この通り董卓まで……あと一息で殺せるところまでいった!!

 

それが……先程の自分の見定めでは……『普通』としか言えない将が……久秀の戦術を破る要になった!?!? 

 

どうして、どうやって、どういう理由で………?

 

翠「形成逆転…………だ! 司馬懿!!!」

 

久秀「─────────!!」

 

久秀の目の前は………暗くなった!!

 

ーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーー

 

あとがき

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

 

次の話でこの戦いが……終わります。

 

因みに………久秀の車懸りを破ったのは……白蓮です。

 

どう見破ったのかは……次回になる予定………と言う事で……。

 

次回もよろしければ……読んで下さい!!

 


 
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