No.697514 機動戦士ガンダムSEED 夏の始まりからやってきた白の騎士アインハルトさん 2014-06-29 22:54:10 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:3661 閲覧ユーザー数:3544 |
「……知らない天井だ」
開口一番に出てきたのは、某新世紀少年のセリフだった。
どうやら何処かの病院らしく、一夏はISスーツから病院服に着替えさせられていた。また身体中には生々しい火傷の痕がいくつか見えていた。痛みから察するに、背中はもっと酷いのだろうと考える。
「あ!君、気が付いた?」
一夏が体を起こすと、茶髪の男女2人がドアから部屋に入ってきた。
「え、あ……はい」
「その傷どうしたんだよ?どっかの不良にでも身包みはがされたのか?」
「トール!ごめんなさい悪気があって
言ったわけじゃないの」
「だ、大丈夫だ。それより君たち
は?」
「ああ、まだ自己紹介してなかったな。俺はトール・ケーニヒ。んでこっちが」
「ミリアリア・ハウよ」
「どうも、織斑一夏だ」
トールは一夏の質問に親指で自分を指して自己紹介をする。そしてそれが終わると、今度はミリアリアを指し、ミリアリアが自己紹介をする。
一夏は少々かしこまって少し頭を下げてから自己紹介をした。
「あとキラ・ヤマトって奴もいたんだけど、今は教授の手伝いで先に行っちまった」
「その子が君を見つけてくれたんだよ」
正確にはそのキラが飼っている(?)トリィがなのだが……
「そうだったんだ。それはありがとう」
今度は深々と一夏は頭を下げる。
「いいっていいって!困ったらお互い様じゃん?」
ズドォオオオオオオオッ!!!!
病室が凄まじい揺れに包まれた。
「じ、地震!?」
「馬鹿、コロニーに地震なんか起きるかよ!」
「隕石、かな?」
「多分な」
一瞬、一夏には何のことだかサッパリ分からなかったが、それよりも窓の外に一夏にとって信じ難いモノが見えた。
「な、何だあれ!?」
一夏にはトサカの生えた一つ目をした鋼鉄の巨人が飛んで行くように見えた。
「ザフトのモビルスーツじゃないか!?」
「ヘリオポリスは中立のコロニーなのに、何で!?」
この時、一夏は唖然としていた。外には見たこともない鋼鉄の巨人がバーニアを吹かして飛んでいるのだから、しかし、一夏にとって驚く所は他にもある。地面が筒上になっているのだ。空はないし、ガラス張りになっているところからは星がみえる。そして一夏はあの夢のことを思い出す。
━━あなたは世界を越えてしまったの。
(あれはただの夢じゃなかったのか!)
「何ボーっとしてんだ一夏!早く行くぞ!!」
「え!?行くって、どこへ?」
「避難シェルターに決まってんだろ!避難警報がなってんだ、グズグズするな!」
そういってトールは一夏の手を取り走り出そうとしたが、ミリアリアから注意が飛ばされる。
「ちょっとトール!一夏君は病人なんだよ!」
「おっと、そうか!わりぃ……」
「俺は平気だ。それより早く行こう!急いでいるんだろ?」
一夏がそう言うと、三人は急いで病院をあとにした。
「何なんだよ、これは……」
一夏は外の惨状を見て、驚愕した。遠くからではあるが、今一夏がいる位置からでも十分にトサカの巨人“ジン“がその手に握ったマシンガンを撃ち、着弾したところから爆発するのが見えた。
(もしかしたら、ISでもこんな戦争は起きてたのかな……)
ふいに自分の本来いた世界のことを思い出しながら、一夏は自分の腕にあるガントレットを撫でる。
━━こいつも、使いようによってはあんなのになるんだよな……
「トール!ミリアリア!」
そこへ前からメガネを掛けた金髪の青年と小柄な少年が一夏達の所に駆け寄って来た。
「サイ!カズイ!」
「いったい何がどうなってんだよ!?」
メガネの少年、サイ・アーガイルはまず先に外にいたであろうトールたちに状況を聞く。
「ザフトだ!ザフトのモビルスーツがコロニーに入り込んで攻撃してるんだ」
「そんな、何だってザフトが!?」
小柄な少年、カズイ・バスカークが今にも泣きそうな顔で尋ねる。
「そんなの私たちが知ってるわけないでしょ!……あれ、キラは?」
ミリアリアはそこでもう一人の友人。一夏を見つけたトリィの飼い主(?)のキラ・ヤマトの姿が無いことに気が付いた。
「教授のお客さんってのを追っかけて
いってる。捕まえたら、近くのシェルターに避難するだろう。俺達はこの先のシェルターに向かおう……ところで君は?」
「あ、俺は織斑一夏って言うんだ」
サイに不思議がられた目で見られた一夏は弾かれたように自己紹介をした。
「キラが行くいつもの公園で倒れていたのを見つけたの」
「オリムラ・イチカ……日本語読みか?……あぁいや、今はコッチが先だ!君もコッチに……」
ボォオオオン!!!
また一つ爆音と共に黒い煙が立ち登った。そしてその中から現れたのはまたしてもモビルスーツだった。しかし、先程の一つ目のジンとは違い、カクッとしたシャープなラインに額から伸びるV字アンテナ、顔はフェイスマスクで覆い目の部分は、人間のように二つのデュアルカメラがある。
一機はそのまま、着地したが、もう一機は危な気に着地した後もヨロヨロと歩いている。そしてそのモビルスーツの足下には……
「っ危ない!」
一夏は火傷の痛みを省みずにそのモビルスーツの足下付近で動けずにいた小学生くらいの少女を見つけてその腕を勢いよく引っ張る。突然のことに驚いた少女は一夏に抱き寄せられた形になり、目をぱちくりする。少女からすれば、いったい何が起きたのかわからなかっただ。
しかし、それは次の瞬間に理解した。
……ズゥン!!
さっきの千鳥足のモビルスーツの足が、今さっき少女のいたところに落ちてきていたのだ。
もし一夏が気付いて少女を引っ張らなければ少女はは今頃あのモビルスーツの下敷きになっていただろう。モビルスーツはそのまま静止した。
「大丈夫!?」
「あ……は、はい」
助けられた少女は、抱き寄せられていることに顔を真っ赤にしながら一夏にお礼を言った。サイとカズイはそれを「ヒュー」などと眺めている。
「ザフトのモビルスーツが突っ込んでくるぞ!!」
どこから聞こえた叫び声に一同は一斉にマシンガンを腰にマウントしサーベルを引き抜いたジンへと注目する。
駆け出したジンの向かう先には少女を踏み潰そう(もちろん故意にではないが)としたモビルスーツが立ち尽くしている。
「まずい!あのままじゃやられる!」
誰もがそう思った時、二つ目のモビルスーツの色が地味な灰色から、白、赤、青のトリコロールカラーに変わった。
そして、白いモビルスーツはその腕でジンの重斬刀を受け止めた。
ジンは一旦、白いモビルスーツから距離をとる。その直後、もう一機のモビルスーツは今度は紅へと色が変わった。
(よし、コレで戦況は2対1。形成逆転……)
しかし、そんな一夏の期待を裏切るかのように紅いモビルスーツはジンに見向きもせず、何処かへと飛んで行ってしまった。
(に、逃げた?何で!?)
実際のところ逃げたのではなく、ザフトの兵士があのモビルスーツを奪い去って行ったのだが、現場にいなかった一夏が知る由も無いことである。
ジンは気にせず、白いモビルスーツにサーベルを叩きつける。例え白いモビルスーツの装甲がどんなに頑丈だろうと、あれではそうもたないのは素人目でもわかることだ。
そんな一方的な戦闘に一夏は見過ごせないでいた。
「何であのモビルスーツ反撃しないんだ?」
「多分、俺達がいるからだろう。むやみに動いたら、さっきの子みたいに俺達が潰されちまう」
「じゃあ、急いだ方がいいな」
サイ達は再びシェルターへ向かうために走り出すが、一夏はモビルスーツ同士の戦闘をまだ見上げていた。
「お兄ちゃん、コッチ!」
先ほどの少女がミリアリアに手を引っ張られながら叫ぶものの、一夏はそこを動こうとしない。一夏はそっと振り向くと、なんともその場には不釣り合いな程の優しい笑顔を見せた。少女は一瞬、その絵本に出てくる王子様のような笑顔にドキッとしてしまう。
「悪いけど、先に行っててくれ」
「な、何言ってるの!?マユたちがどうこう出来る問題じゃないんだよ!?」
マユ、と名乗った少女はモビルスーツの恐ろしさを目の前で実感している。そして、あんなものに挑めるものはモビルスーツしかないということも
「大丈夫。俺に考えがあるから。みんなは先にシェルターに行っててくれ」
「……どうするんだ?」
口を閉じていたトールが探るように口を開く。
「こうするんだよ」
一夏は腕のガントレットに手を当て、そして念じる。
(白式。俺にはまだここがどこで、なんでこんなことが起きてるのかはよく分からないけど……今はあの娘を、ここの人達を守りたい。だから……お前の気持ちが俺と一緒だというのなら、白式……俺に力を貸してくれ!!)
━━その言葉をまってたよ。
その声が聞こえた次の瞬間、一夏のガントレットからかつてないほどの輝きが放ち、そして、光はどんどん膨れ上がる。やがてそれは、モビルスーツと同じくらいの巨人の姿へと変わっていく。光が収まった時、一夏の目の前に、その中世の騎士を思わせ、折れた剣のようなものを頭部に生やした黒銀のモビルスーツが、まるで主に忠誠を誓うかのように沈黙していた。一夏は相棒のあまりの変わり様にかすれた声で驚いている。
「お、お兄ちゃん!これどうなってるの!?」
「マユちゃん、だっけ?その話は後で、みんなはこの娘と一緒に避難しててくれ」
「でも、一夏は……」
「……大丈夫。こいつがいれば俺は、大丈夫だから」
そう言った次の瞬間、モビルスーツとなった白式の兜越しから深紅の光が瞬き、一夏を照らした。すると、一夏の火傷はみるみるうちに痕さえ残さず消えていった。
「…………絶対に無事に帰ってきてね?」
あっという間に消えた傷に唖然とするトールたちを後目にマユは尋ねた。
「おう!」
一夏は白式のハッチから垂れ下がったワイヤーを伝い、胸部のコックピットへと乗り込む。その姿を見ながらマユはぎゅっと服の胸元部分を強く握った。白式のコックピットで一夏は瞳をつむり、まずは“白式”を感じていた。左右にあるグリップを握った途端に、馴染んでいくのがわかる。何をすればいいのか直接伝わってくる。まるであの日に初めて触れた打鉄の時のように━━
(やっぱり、お前なんだな……白式)
白式のコクピット内に次々と灯が入り、モニターにOS機動を示すサインが映し出される。
G ENERAL
U NILATERAL
N EURO-LINK
D ISPERSIVE
A UTONOMIC
M ANEUVER
――SYNTHESIS SYSTEM
躍る視界の中で、その文字が鮮明に浮かび上がった。それと同時に、サブモニターには五機のモビルスーツをインストールする図が写し出されていた。
GAT-X102 データインストール62%
GAT-X103 データインストール33%
GAT-X207 データインストール8%
GAT-X303 データインストール24%
GAT-X105 データインストール51%
しかし、何のことかまるで理解できない一夏はひとまず目標をジンに向けた。
対するジンのパイロット、ミゲル・アイマンは目の前状況が理解できないでいた。突然、モニターが光で潰れたと思ったら、次の瞬間には謎の折れた剣を生やした黒銀のモビルスーツが現れたのだから。人間の常識の範囲を超えている。
だがしかし、唯一彼にとってわかっているのは、こいつも自分の敵だと言うことだ。
「フン、ナチュラルも味な真似をしてくれるじゃないか。どんなマジックを使ったか知らないが、その機体も頂いていくぞ!」
ジンは標的を白式に変え、白いモビルスーツの時と同様に走り出す。
一夏は迫り来るジンに恐怖していた。これはIS同士のような甘いスポーツ的な戦いではない。命と命を掛けた殺し合いなのだ。
それはこの世界に来て間もない一夏にとっても感じることができた。
「でも、絶対に引くわけにはいかない」
一夏は背中にマウントしてあった雪片二型を抜く。そしてジンに向けて一閃。
次の瞬間には伸ばしていたジンの手首から先が無くなっていた。
切断面からスパークが飛び散り、ふきとんだジンのサーベルはクルクルと回転し、ジンの半歩後ろに突き刺さった。
「何ィ!!?」
白いモビルスーツ、ストライクの中でマリュー・ラミアスとキラ・ヤマトはほうけていた。
「す、すごい……」
「いったい何なの、あのモビルスーツは」
「え?知らないんですか!?」
「ええ……あんなモビルスーツ、連合では開発されてなかったはずだもの」
「でも、こっちに味方してくれるみたいですね」
その頃、白式のコックピット内で一夏自身も驚きを隠せないでいた。
「つ、強い……白式ってこんなに強かったのか?」
その間にジンは態勢を立て直して腰のマシンガンの銃身を持つ、そしてマシンガンを軽く宙へ投げ、グリップを掴みトリガーを引く。
「生意気なんだよ。ナチュラルがモビルスーツなどと!」
だが白式はそれらの凶弾を尋常でないスピードで避け、雪片二型を構えてジンに斬りかかる。
「はあああああああああーッ!!」
命を奪わないために、一夏はジンの足を狙うが、ジンは高く跳躍する事で回避する。一夏もジャンプしてジンを追うとするが、ジンはマシンガンで牽制し一定の距離を保ち続けている。
「ふんっ!その機体、射撃兵装は無いみたいだな!」
ミゲルは白式の武装があのブレードだけだとふんでいるのだろう。実際のところその通りなのだが、白式にはまだ切り札が残されていることを彼は知らない。
コクピット内で一夏は少し焦っていた。目の前には一つ目のモビルスーツがいるのに、近づけず、マシンガンの牽制によってジワジワと減っていくシールドエネルギー。おそらく、コレが0になると、シールドは消え、もしものための絶対防御も張れなくなる。そうなってしまえば装甲の薄い白式のことだ。さっきの重斬刀でも使われてしまえばあっというまに装甲を粉々にされ、コクピットを貫いてしまうだろう。
「こうなったら……一か八か、やってみるか!」
一夏は出力を最大限にまで上げ、フットペダルを思いっきり踏み込んだ。
刹那、ミゲルの視界から白式は消えた。
「なっ、消えただと……うあぁッ!?!」
ジンのコックピットに衝撃が走る。
白式が
「クッ、思ったよりもGがきつい!?」
「……ッ!?なんてスピードだ!」
ジンの腹部の装甲が凹み、気を失いそうになるが、ミゲルは奥歯を噛み締め、ジンのバーニアを吹かし再び白式との距離をとる。
「ん?」
地面に着地すると今度はストライクが、立ち上がった。
「チッ、あの真っ白なモビルスーツは厄介だな、手を組まれると面倒だ。先に、トリコロールからやってやる!」
ジンは銃口をストライクへ移すがストライクは両腰からアーマーシュナイダーを取り出し、バーニアを吹かして飛び込んでくる。
「何だコイツ!?さっきと動きが……!!」
「こんなところで、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
『違う』。そう言いかけた時、アーマーシュナイダーの切っ先はジンの首筋に深く食い込んだ。切り口から火花を散らすジンはダランとその腕を垂らし、そのまま機能を停止した。
「ハイドロ応答なし、多元不動システム停止、えぇい!!」
ミゲルはシートベルトを外すと、シートの横に設置されたレバーを引く。モニターにはカウントダウンの数字が表示される。
ジンのハッチが吹っ飛び、その中から緑色のライダースーツのような格好をしたパイロットが飛び出してきた。
「ッまずいわ!ジンから離れて!!」
「え?」
ジンの異変に気付いたマリューだったがその時には既に遅かった。刹那、目の前のモビルスーツは一瞬の閃光を発した後、ストライクを巻き込んで自爆した。
「「うわぁーーーッ!!?」」
「くぅっ!」
爆発による爆風からマユたちを守るために姿勢を低くした白式のコクピットの中で、一夏は煙の向こうにいるであろうモビルスーツを見据えていた。
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