No.696654

真・恋姫†無双~比翼の契り~ 序章第四話

九条さん

序章 黄巾党編

 第四話「飛将軍」

2014-06-26 08:00:17 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1922   閲覧ユーザー数:1674

 二日後。

 黄巾党と思しき軍勢の進行方向は変わらず、一直線に洛陽を目指していた。このまま行けば南陽も通過点となることは間違いないと、愛李から報告を受けている。

 悲惨な戦場となる前に叩くため、行動を始めた。といってもやることはただ待ちぶせするだけ。

 正確には南陽から五里(※あとがき参照)ほど先。微かに見える南陽を背にした形で、少し高くなっている丘の上に呂布殿、すぐ後ろに陳宮殿とセキト。左手の斜め後方の岩陰に俺。呂布殿と俺を直線で結び、賊側に弧を描くように梟達が息を潜めている。

 呂布殿には接敵後、敵の引きつけるため派手に動いてもらう。加減の有無を問われたが、敵がより恐怖を味わうようにお願いしたところ、少し考えた上で『分かった』と了承を得た。

 引きつけた後は梟の出番だ。

 挑むか逃げるか、賊がどちらを選ぶかは分からないが混乱は生まれるはず。その隙に梟達を潜り込ませる。

 混乱した人は、自分より立場の上の人に支持を仰ぐことが多い。これを内から探る。

 黄巾党の首謀者である、張角、張宝、張梁がいるとは限らないが、リーダー格の人物さえ見つかればそれでいい。

 所詮は烏合の衆。頭を潰せば、ギリギリで維持されている統制なんて意味を成さなくなる。

 この作戦の肝は呂布殿。どれだけ敵を抑えられるか、引きつけられるか……彼女の武勇に全てが掛かっている。

 不安はあった。でも、彼女の後ろ姿を見ていると不思議と薄れていき、今はもう失敗なんて頭に残っていない。

 あるのは勝利し、五体満足で洛陽へと帰還する自分達の姿だけだった。

 

 

 

 縦長に伸びた陣形をさして変更などもせず呂布殿の目と鼻の先で止めた黄巾党。

 伝令らしき人物が後方へと下がり、しばらくすると三人の女性が現れた。

 三人は護衛を伴いながら、呂布殿へと近づいていった。

 

 意識を耳へと集中し、音を聞き取ることに専念する。

 普段は常人のそれと変わらない、むしろ良いほうかもしれない。だが意識を集中させると違ってくるのだ。

 愛李や想愁から、それはもう常人の聴力じゃないと言われたが、聞き取れるのだから仕方ない。

 なぜ自分の聴力がこれほど良いのかはよくわかっていない。詳しい者なんていないだろうし考えてもどうせわからない。でも、使えるものは有難く使わせてもらう。

 普通なら会話など聞き取れないほどの距離があったとしても、鮮明ではないにしろ聞こえてくる。

 

 彼女達の真ん中にいた人物が、自らを張角だと名乗った。左右にいるのは張宝、張梁であると。

 いくら礼儀とはいえ、お尋ね者の身で本当の名を名乗るとは馬鹿なのか……。

 張梁と呼ばれた眼鏡っ子が窘めるが気にした様子もない。……途方もないな。

 呂布殿も名乗りを上げた。そして、陳宮殿が小柄な身全てを使って旗を掲げた。

 

 深紅の呂旗。

 敵の返り血によって真っ赤に染められたといわれている旗。敵の心に畏怖を抱かせ、味方には安心感を纏わせる。敵ではなくてよかったという安堵感もあるかもしれない。

 最初に動いたのは三人を護衛する内の一人だった。

 張角達を下げ、一人果敢にも呂布殿へと突貫する。……が、武器を振り上げる間もなくその体は脳天から股間にかけて真っ二つになっていた。

 二人、三人と襲いかかる人数が増えても変わらない。彼女は避け、時に手にした武器で受け止め、一刀で命を刈る。

 

「……これが、飛将軍……呂、奉先」

 

 圧巻……いや、まさに圧倒的。

 己の周囲を飛び回る虫を手で払うかのように、三万もの軍勢をまるで障害とも思っていない。

 そんな彼女が一瞬だけこちらを一瞥した。

 ……っ。そうだ、俺達には仕事がある。あまりの光景だからといって呆けている場合じゃない。

 呂布殿の活躍によって黄巾党は前後左右と逃げ回る者ばかりだ。

 梟達へと指示を出し、俺は見つからないよう迂回しながら黄巾党の背後へと移動を開始した。

 国境くにざかいを越えられれば手が出せなくなる。その前に追いつかなければ。

 

 

 なんとか張角達に追いついた。

 呂布殿が来るまで少し時間がある。話だけでも聞ければいいんだが。

 護衛は五人。俺に気付いたのは二人。

 タイミング的にも仲間だと思われたのか、問答無用で襲い掛かってくる。

 でもな、俺は一人で来たわけじゃないんだよ。

 

「やらせない」

 

 一人は剣を振り上げた体勢のまま鎖で雁字搦めにされ、もう一人は首が空を舞っていた。

 愛李の仕業だ。

 首が地面に落ちた頃には、雁字搦めにされた男の首筋に刃を当て、躊躇いもなく跳ね飛ばす瞬間が見れた。

 思い付きで持たせた鎖鎌のようなもの。先端が鎌ではなく短刀になっているから、これが正しい名前かはわからない。本人はかなり気に入ったらしいが。

 元より捕縛術にはかなりの適正があったから相性といい抜群だったみたいだ。

 愛李のおかげで連中の足が止まった。

 動かないのなら好都合。手早く済ませてしまおう。

 

「張角、張宝、張梁で間違いないな?」

 

「……っ! あなたもあの人の仲間なの!?」

 

 質問には答えず、張梁が問いかけてきた。

 眼鏡キャラは頭脳キャラっていうのはなんかの決まりなのか? 

 一番冷静そうには見えたが、自分達の正体を否定しないあたり、かなり焦ってはいるか。後ろの現状を見れば仕方ないとは思うが。

 

「仲間ではないが、協力者ではある」

 

 言ってることは違わないし、おそらくこう言ったほうがスムーズに進むと思う。

 現に協力者という言葉に頭を捻っているみたいだし。

 ちなみに愛李は残りの護衛を牽制している。一瞬で二人が亡き者にされたからか、護衛の三人は思うように動けないようだ。

 

「お前達には二つの道が残っている」

 

「……二つの」

 

「……道?」

 

「黄巾党の首謀者として飛将軍の手で殺されるか、命以外の何もかもを捨て逃げ延びるか……だ」

 

「なんで! ちぃ達はただ歌を歌ってただけなのに、なんでこんなことにっ!」

 

 張宝が悲痛な叫びをあげた。

 今の発言が本当だとしたら、周辺から集まってきている賊達が悪さをしているのかもしれない。

 だとしても、だ。その者達が彼女達の目印ともいえる黄色い巾着や頭巾などを身に着けていれば、民衆から見ればどれも同じ黄巾党だと思われるだろう。

 いくら彼女達が違うと否定をしても納得できる証拠なんて提示できないんだから。

 

 張角、張宝は共に憤りを感じているようだった。

 ただ一人、張梁だけは思案顔のままだ。誇りを抱いたまま死んでいくか、それを捨て生に固執するか。

 呂布殿が起こす爆発音や暴風は刻一刻と近づいている。

 

「お、お前らがそこをどけばいいんだよぉぉおお!」

 

「ま、待って!」

 

 そんな状態に焦れた護衛の男の一人が、張角の静止を無視して斬りかかってきた。

 即座に反応した愛李を止め、前に出る。

 

「手を出さなければ……な」

 

 上段からの振り下ろしに対し、持ち手の部分に足刀を当て、痛みで剣を離した隙に鳩尾に掌底を叩き込む。体がくの字に曲がる前に男が落とした剣で首を撥ねた。

 

「お見事」

 

 愛李だ。お陰で場の空気が少しだけ緩んだ。

 

「……私達が、無事に逃げられる保証は、あるのでしょうか?」

 

 飲む気になったか? いや、半信半疑ってところか。

 飛将軍と協力関係にあり、怪しげな提案をし、たった今味方を殺された。

 ああ、どっからどうみても関わりたくない奴だわ。

 

「少なくとも受け入れるのであれば、俺達は君達に手を出さないと約束しよう。飛将軍はどうか分からんが、そこは必死に走るしかないな」

 

 タイミング良く、すぐ近くで爆発音が鳴った。もう時間はない。

 見渡すかぎりにいた黄巾党も十分の一も残っていないように見える。

 

「……その提案、受け入れましょう」

 

「ちょっ、人和!? いくらなんでもーー」

 

「私達が生き延びるにはこれが最善……いえ、これしか道がないのよ!」

 

「……っ!」

 

 反論は出せないか。決まったな。

 

「なら、今すぐ逃げることをお勧めしよう」

 

「待って! 私達は何を払えばーー」

 

「それは追ってこいつが伝える。そら、もうそこまで来てるぞ」

 

 愛李が恭しく一礼すると、呂布殿に吹き飛ばされた男が三人の前に落ちた。

 彼女達は互いに頷き合うと国境へと走っていった。

 少し遅れて追いかけようとした男達の前に、梟達が立ちはだかる。もちろん俺と愛李もだ。

 

「な、なんのつもりだ!」

 

「お前達は逃がすつもりはないんでね」

 

「話が違うじゃねぇか!」

 

「逃すのは彼女達だけ。お前達はここで死ぬんだよ」

 

 梟達の残党狩りが始まった。

 

 

 

「……張角は?」

 

 二本の触覚のようなあほ毛を揺らしながら、呂布殿が現れた。半身と手に持つ武器は賊の返り血だろうか、真っ赤に染まっていた。

 俺はズキズキと痛む左腕を抑えながら相対した。

 

「予想以上に抵抗が激しく、三人は取り逃しました……」

 

「なっ! 怪我をしているのですか!!」

 

 陳宮殿が左腕を見て驚いた。

 これはあの後、理由付けのために自分でやったものだ。どうやら陳宮殿は騙されてくれたらしい。

 

「かすり傷程度です。今は梟達が追いかけていますが……」

 

 無表情の呂布殿が怖い。傷を見れば戦闘中に付いた傷なのか、武人ならわかってしまう。

 

「……なら追いかける」

 

「恋殿。おそらくそれはもう手遅れだと思うのです」

 

「……??」

 

「この先は袁術の領土。今ここで袁術と事を起こすのは、月や詠にとっては得策になり得ないのです」

 

「……ん、分かった」

 

 どうやら追求はされなくて済みそうだな。

 

「……みんな帰ってくるまで休む」

 

「はいです!」

 

 

 しばらくして戻った梟達と共に南陽へと帰還した。

 植えつけた種は芽吹き始めた。

 平穏の終わりはすぐそこまで来ている。

 

 

【あとがき】

 

2週間ぶりのおはようございます、です

九条です

 

今回は恋姫での飛将軍伝とでも言いましょうか、アノ話を持ってきました

すでにかっこよさはわかってるのでさらっと流しちゃいましたけどね……

 

今回から改ページの使い方を変更します

今後、一話の中で視点が変わる際にだけ改ページを使おうと思います

時間経過を挟むときは原則2段落の改行をしていますので、一応目安に

あとがきは今までどおりです

 

※ここでの一里は約3㎞で計算しています

 

次回も乞うご期待!

ご意見ご感想お待ちしております~


 
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