No.696407

英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~

soranoさん

第109話

2014-06-25 00:06:57 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1868   閲覧ユーザー数:1710

 

その後、フィオナが用意してくれた心尽くしの夕食に舌鼓を打ったリィン達は食後にエリオットの部屋を訪れていた。

 

~夜・アルト通り・クレイグ家・エリオットの部屋~

 

エリオットの部屋を訪ねたリィン達は部屋中にある様々な楽器を見て驚いていた。

「これは……凄いな。」

「……お店が開けそう。」

一つの部屋にある楽器の多さにリィンとフィーは驚き

「ピアノにバイオリン、管楽器から打楽器まで……キャビネットにあるのはどうやら楽譜らしいな?」

「エリオットさんは音楽が凄く好きなんですね……」

「”好き”だけで、こんなにも多くの種類の楽器を集める人はいないと思うけど……」

ラウラは感心し、優しげな微笑みを浮かべているセレーネの言葉を聞いたツーヤは苦笑し

「さ、さすがにこれは趣味の範囲を越えてるだろう。」

マキアスは信じられない表情でエリオットを見つめた。

 

「あはは……ちょっと引いたよね?亡くなった母さんが結構有名なピアニストでさ。姉さんと僕はその影響を受けてるってわけ。」

「そうだったのか……」

「こんな環境で育ったのなら吹奏楽部を選ぶのも無理ないな。」

「ええ……まさに音楽一家と言ってもおかしくないですものね。」

「でも……どうして夕方会った人達と同じ学校に行かなかったの?」

エリオットの説明を聞いたリィンやマキアス、ツーヤが納得している中フィーは不思議そうな表情で尋ねた。

 

「フィー……」

「それは……」

「え、えっと……」

フィーの疑問を聞いたラウラとリィンは複雑そうな表情をし、周囲の空気を読んだセレーネは不安そうな表情でエリオットを見つめた。

 

「あはは、いいんだ。……何となくみんなには気付かれちゃったと思うけど。僕、士官学院を受ける前までは音楽院を志望していたんだよね。」

「…………あ…………」

「………………」

そしてエリオットは士官学院に入るまでの経緯を話し始めた。

 

「小さい頃から、姉さんと一緒に母さんのピアノを聴きながら育ってきた。父さんは豪快な人で、音楽には疎かったけど母さんにはベタ惚れだったみたいで…………いつもいつも、この家には暖かい音色と笑顔が満ち溢れていたんだ。

 

でも、その母さんが7年前に病気で亡くなって…………姉さんと僕は、当然のように母さんと同じ道を歩いて行った。そして姉さんは、音楽院に入ってピアニストとしての道を歩きはじめて……僕も当然のように、それに続こうとした。―――でも、父さんはそれを許してくれなかった。

 

『趣味程度ならともかく、帝国男子が音楽で生計を立てるなど認められん。』―――どんなに食い下がってもそう言って首を縦に振ってくれなかった。それどころか、帝国にある軍学校や士官学校を一通り勧めてきたりして……結局……僕は音楽院への進学を諦めるしかなかった。」

 

経緯を話し終えたエリオットは疲れた表情で溜息を吐いた後話を再開した。

「……正直、父さんを恨んだよ。争いごとは苦手だし、戦争なんてもっと嫌いだ。でも調べたら―――”トールズ士官学院”って所だけは音楽の授業が充実してるとわかって……卒業生の半分は、軍人以外の道を選択しているってことも知って……それで結局、妥協しちゃったわけ。」

「……………………」

複雑そうな表情で語るエリオットをリィン達は黙って見つめた。

 

「えへへ……みんなと比べたらちょっと情けない理由でしょ?結局、僕は父さんの言う事に最後まで逆らえなかった……僕の音楽への情熱なんてその程度だったのかと思って…………かと思えば、夏至祭の音楽祭や音楽院にも未練タラタラで……ああもう、何ていうか穴があったら入りたい気分だよ。」

「エリオット……」

「そうだったのか……」

「……………………」

「そんな事があったんですか……」

「エリオットさん……」

「……エリオットは……後悔してるの?士官学院に入ったことを。」

自分を蔑んでいるエリオットをリィン達がそれぞれ重々しい様子を纏って見つめている中、フィーは静かな表情で尋ねた。

 

「え、どうして?それに関しては後悔するわけないじゃない。」

「え。」

「へっ……」

「そ、そうなんですか?」

「???どういう事でしょうか……?」

しかしエリオットの答えを聞いたフィーはマキアスと共に呆け、ツーヤは戸惑い、セレーネは首を傾げた。

 

「毎日、忙しいけど充実してるし放課後には部活で演奏もできるし、プリネのお蔭で音楽院の先生とも大して変わらない知識量のアムドシアスさんにも音楽を教えてもらえる。”特別実習”なんていう変わったカリキュラムもあるから色々、視野も広げられそうだしね。漠然と音楽院に進学するよりも今は良かったと思ってるくらいさ。卒業後、音楽の道を目指すにしても別の道を目指すにしても……今度こそ、僕は僕自身の意志で進むべき道を決められると思うから。」

「………………」

「エリオット……」

「ふう……そこまで考えていたとは。」

「……強いな、そなたは。」

「エリオットさん、凄いです……!わたくしではそれほどの決意はできないと思います……」

「フフ、そうだね……」

「あはは……買いかぶりすぎだよ。音楽院で頑張ってる友達を見てうらやましくは感じちゃってるし。でも、それでも士官学院に入ったことを後悔することだけは絶対にあり得ないと思うんだ。何よりも君達と―――Ⅶ組のみんなと会えたからね。」

リィン達に感心されたエリオットは苦笑した後、笑顔でリィン達を見回した。

 

「まあ……!エリオットさんったら、お上手ですわね……」

(あら♪可愛い顔して言うじゃない♪)

(ふふふ、そう言う事を言うのはご主人様の特権と思っていたのですが、とんだ伏兵ですね。)

エリオットの言葉を聞いたセレーネは優しげな微笑みを浮かべ、ベルフェゴールとリザイラはそれぞれ興味ありげな表情をし

「い、いくらなんでもそれは恥ずかしすぎだろう!?」

「エリオット……ひょっとして大物?」

(発言が微妙にエステルさんと似ているような……?)

マキアスは驚き、フィーは首を傾げて尋ね、ツーヤは苦笑した。

 

「え、え?そんなに恥ずかしいかな?」

「ふふ……さすがに赤面ものだろう。」

「はは……でもエリオットならぎりぎりセーフかもしれないな。」

「うーん、リィンにだけは言われたくない気もするけど。あ……でも一つだけ後悔してることはあるかな?」

「え……」

「それは一体……?」

リィンに指摘して呟いたエリオットの言葉が気になったフィーは呆け、ラウラは尋ね

「その、友達が参加する夏至祭のコンサートだけど……ずっと前に、母さんが演奏して姉さんが5年前に参加してるんだ。えへへ、だからそればっかりは出たくて仕方なかったんだよねぇ。」

ラウラの疑問にエリオットは恥ずかしそうに笑いながら答えた。

 

―――その後、エリオットは久々の実家に泊まる事になり……リィン達6人は、宿泊所となっている旧ギルド支部に戻ることとなった。

 

~アルト通り~

 

「ふう……もう9時過ぎか。すっかりお邪魔してしまったな。」

「ああ、食後のコーヒーまでご馳走になっちゃったし。明日の朝食も誘ってくれたし、フィオナさんには感謝しないと。」

「ああ、いずれ後からでもお礼をした方がいいだろう。それにしても……住んでいた時は実感しなかったが。実習課題をこなしていくと帝都の巨大さが思い知らされるな。」

一日中の出来事を思い出したマキアスは疲れた表情で呟いた。

 

「はは、そんなものかもしれないな。明日の課題は、宿泊所の郵便受けに届けてくれるんだよな?」

「ああ、朝一番に届けてくれるらしい。父さんの事だから抜かりはないだろうが中身については心配だな。僕達の処理能力を絶妙に上回る無茶振りをしてきそうというか……」

「はは、確かに。そうなると、今夜はレポートを書いたら早めに休んだ方がいいかもしれないな。」

「ふぁ…………」

リィンとマキアスが話し合っているとセレーネがあくびをした。

 

「セレーネ?もしかして眠いの?」

「えっ!?え、えっと……大丈夫です……!」

ツーヤに尋ねられたセレーネは強がり

「ハハ、セレーネくらいの年の子はもう寝てもおかしくない時間だものな。」

「そうだな……って、ラウラ、フィー?」

セレーネの様子を微笑ましそうに見つめるマキアスの言葉に頷いたリィンは先程からずっと黙り込んでいるラウラとフィーに気付いた。

 

「なんだ君達。ひょっとして疲れたのか?」

「ああ、いや……」

「……そうじゃないけど。」

マキアスに尋ねられた二人はそれぞれ否定したが、やがてラウラが口を開いた。

 

「……エリオットの話を聞いてようやく己の心の見極めがついた。―――フィー。私と勝負してもらおう。」

「へ。」

「……!」

「ラ、ラウラさん……!?」

「い、一体どうしてそのような……」

ラウラの申し出を聞いたリィン達はそれぞれ驚き

「―――いいよ。今日中がいいよね?」

フィーは静かに頷いた。

 

「うむ、そうしない限り今夜は眠れないだろうからな。」

「ちょ、ちょっと待ちたまえ……!いきなり何を……勝負ってどういうことだ!?」

「そのままの意味。」

「私とフィーで、得物を使って一騎打ちをするだけの話だが。」

戸惑っているマキアスにフィーとラウラは冷静な様子で答えた。

 

「ああそういう意味か……―――って、ダメだろそれは!?」

二人の答えに納得しかけたマキアスだったがすぐに気付いて真剣な表情で指摘した。

「さすがに夜だとしても街中での勝負は迷惑だろう。夕方セレーネと出会ったあの場所……”マーテル公園”はどうだ?」

一方考え込んでいたリィンは提案した。

 

「うん、良さそうだな。」

「地下道から出たあたりとか人気がなくていいかも。」

「まあ、そこなら何とか……―――じゃなくて!君まで何を言い出すんだ!?」

リィンの提案に二人がそれぞれ頷いている中、マキアスは声を上げて突込み

「マキアス、うるさい。」

「帝都の夜が賑やかとはいえ、騒ぐのはあまり感心しないぞ?」

「セレーネの眠気も飛んでしまいますので、ほどほどにお願いします。」

「お、お姉様。わたくしの事は気にしないでいいですよ。」

フィー、ラウラ、ツーヤがそれぞれマキアスに指摘し、ツーヤの指摘を聞いたセレーネは苦笑した。

 

「ぐっ……」

「はは、まあとにかく移動しよう。たしか導力トラムはまだ運行していたよな?」

「夜11時くらいまでだが……って、本当に行くのかよっ!?」

「ああ。―――ツーヤさんはセレーネと先に旧ギルド支部で休んでくれ。色々あってセレーネは疲れているだろうし。」

「わかりました。」

「あ、あの……お二人ともケガをなさらないでくださいね?」

リィンの言葉にツーヤは頷き、セレーネは心配そうな表情でラウラとフィーを見つめ

「ん。」

「了解した。」

見つめられた二人はそれぞれ頷いた。

 

その後先に旧ギルド支部に戻ったツーヤとセレーネと別れたリィン達は導力トラムで”マーテル公園”へと向かった。

 


 
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