第八話「魔王は見ているだけ」
全高10メートルほどの巨体が、赤黒い鮮血を流していた。巨大な狼のようにも見えるそれらは、それは1つや2つではない。30近くある群れだったようだ。それらが流す血は、周囲を赤く染めていた。それらは川のように低い地へと流れていく。それほどまで流血しているのだ。
群れの中心に2つの巨人が立ち誇っていた。4つ目の巨人。甲冑を着た騎士のような出で立ち。一方は白い光を、もう一方は蒼い光を放っている。それを見下ろす存在が居た。
「たった2騎魔剛騎で全滅させるなんて……」
悪魔の羽。悪魔の尻尾を持つ女性。彼女は水晶に眼下の惨状を見せつけるようにする。
『さすがだね。やっぱり彼は勇者だよ』
『勇者じゃなくて霊将でしょうが!』
水晶から、魔王と宰相の声が聞こえてくる。すぐに勇者をどうするかで揉め始めた。といっても、いつもの勇者との決闘をどうするかであり。魔王が一方的に話すだけである。宰相がそれに怒鳴ったり呆れたり、色々な対応をしている様子。そんな様子に悪魔のような羽と尻尾を持つ彼女は笑う。
時は遡ること半刻前だ。
「彼が勇者足りえるか」
「彼はならないと言っていましたよ」
魔王は軽い様子で「そうか」と否定も肯定もしなかった。
彼らは今城内にある格納庫にいた。全体を見渡せる上から、討伐隊の様子を伺っている。多くのワーウルフ族が、国防長官のガルゥの元に集う。彼らは軽い甲冑を身につけていた。皆、表情は決死の覚悟をしたかのように、深刻な表情となっている。否、彼らだけではない。今、この首都全域は彼らと同じような顔をした人で溢れかえっているだろう。
「避難の状況は?」
「首都にいた住民は皆、第一城壁内部の領地に避難しております」
宰相はつらつら答えた。白い頭巾を深く被っているため表情は読めない。が、声に緊張の色が色濃く出ていた。誰もが首都に襲来にしている存在に怯えていた。
「幸いにもカラミティモンスターたちは集落や村を素通りしてこちらに向かっているようです」
「大方。フェングルガの群れだろう」
魔王は呑気だ。まるで散歩しているかのように、気が抜けている。この首都にいる中で数少ない反応であった。同じく呑気な顔をしたのが2人いる。彼らは、格納庫にある巨人の前で感動の声を上げている余裕を見せていた。
「あの2人……」
「霊将の力は知っているだろう? 勝ったも同然だ」
「私が知っているのは知識としてだけです。この目で見るのは初めてです」
眼下にある巨人は色々な種類があった。ある程度の種類があるようだ。甲冑がそのまま巨人になったようなモノや。膝だけが逆関節となっているもの、様々である。
足が逆関節になっている巨人の前でガルゥ達は敬礼をしていた。巨人は鎧を着たワーウルフのような姿をしている。
彼らはこれから死地に向かうのか。ワーウルフ達は鉢巻を巻いて、特攻するかのような雰囲気だ。ガルゥが手を大きく横に振った。それと同時に、弾かれたようにワーウルフ達は走りだす。膝が逆関節になっている巨人に梯子をかける。それらの先は巨人の背中に向かっており。一息で登っていく。登って行くと同時に背中が開き、鞍のような座席がせり出てくる。ワーウルフ達はそれにまたがる。足先には鐙のようなペダルがありそこに足を置き、ペダルの具合を確かめた。それらが終わると、鞍は巨人の胴体の中へと戻っていく。背中が閉じられると、巨人の目に当たる部分が光る。
「魔衛騎ロウガが出るぞ。踏み潰されるぞ! 早く道を開けろ!」
女性の声が響く。その声に堰を切ったように皆、出入り口付近から離れた。それは道を型取る。そこをロウガと呼ばれた巨人は走って出て行く。最後に金の装飾を施され、装飾用としか思えない角を生やしたロウガが飛び出していく。
女性はラガンとソラの様子に眉間に皺を作る。2人は子供のようにはしゃいでいるのだ。
「あのさ。魔王様の客人に無礼を承知で言うけど、あんたら緊張感とかないわけ?」
「ない」
「師匠。これきっとすばやいやつだよ」
ラガンは白髪の頭をかききながら笑う。白い歯を見せて笑顔に、女性は溜息をつく。調子が狂わされたようだ。
「試作騎なんだから壊さないでね」
「肝に銘じておくよ」
すでにソラは背中に梯子をかけて勢い良く登っていく。背中が開き、ワーウルフ達と同様に乗り込んだ。あまりに手慣れた様子に女性は口を半開きにしてしまう。ラガンはそれを誇らしく見上げて、同じように乗り込んだ。
巨人は4つ目を光らせる。そして2騎は、歩きを覚えたばかりの赤ん坊のように歩く。おぼつかない足元に、その場に居た人々は顔を青くした。誰もが「こんなんで大丈夫なのかよ」と胸中に抱いたのだ。
~約60分後に続く~
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60分でロボ戦なんて余裕だぜ。とか思っていた愚かな俺。
60分で書くお話です。
題材は流行りの魔王と勇者を使っているはず……はず?
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