No.695536

ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-06-21 12:14:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1029   閲覧ユーザー数:983

 

 

 

 story01 戦車道復活

 

 

 

 ピピッ!!ピピッ!!ピピッ!!

 

「・・・・・・」

 

 目覚まし時計が鳴り、右腕を前へと伸ばして目覚ましを探る。

 

「・・・・・・」

 

 しかし探っても目覚ましが見つからず、少し苛立った頃に目覚ましに触れて、目覚ましを止めようと叩く。

 

 

 だが目覚ましは止まらず、苛立って拳を作ると思いっきり目覚ましに叩き付ける。

 

「・・・・・・?」

 

 しかし目覚ましの音は止まらず、それと同時に少し右手に痛みを感じて顔を上げて見ると、目覚まし時計の透明板を叩き割っていた。

 

(しまった・・・・)

 

 内心で舌打ちして痛みがある中、両手を着いて半身を起こして目覚ましを起こして止める。

 

(新しく買うか)

 

 ベッドから足を下ろし、ゆっくりと立ち上がると、テーブルの上に置いている医療用の白い眼帯を手にしてゴム紐を耳に引っ掛け、左目を覆うように着ける。

 

 艶があり太股の中央の位置まで伸びた黒髪をしており、眼帯をしていない右目の瞳の色は深い海の様な蒼。凛とした雰囲気を持ち、表情は少し仏頂面だった。

 背丈はそこそこ高く、スタイルも年の割には良い(しかし胸が大きいのが悩み)。

 

 

 

 朝ごはんを食べ終えてパジャマから制服に着替え終えると、膝下まである緑のスカートの裾を綺麗にし、左手に少し厚めの白い手袋を着け、黒いニーソックスを履くと立ち上がり、鞄を持ってマンションの自室を出る。

 

「・・・・・・」

 

 外に出ると朝の日差しが照りつけ、海からの風が心地よく吹いてそれほど熱くはなかった。

 

 いつもの様に近所のおばさんが道に水を撒き、パン屋が開店の準備をしており、焼きたてのパンの香りが食欲をそそる。

 

 

「あぐっ!?」

 

 と、濁った声がして前を見ると、目のまで看板にぶつかる女子生徒が目に映る。

 

「・・・・・・」

 

 少し呆れながらその女子生徒に近付く。

 

「何をしている、西住」

 

「あっ、き、如月さん」

 

 少し赤くなった鼻を押さえながら西住が振り返る。

 

 自分より拳一つ分背が低く、髪型はこめかみの部分だけを少し伸ばしたショートヘアーの茶色で、同じ制服を着ていた。

 

「お、おはようございます」

 

「あぁ」

 

 少しぎこちないように挨拶をし、私も一応返す。

 

「きょ、今日も良い天気ですね!」

 

「うむ。確かに今日は良い天気だな。そうとなれば、自然と気分も良い」

 

 如月は空を見上げる。

 

「・・・・・・」

 

 西住はなぜか如月を見てボケーとしていた。

 

「何をボサッとしている。行くぞ」

 

「あっ、待ってください!」

 

 そう言ってから私は歩き出し、西住は少し慌ててその後を追う。

 

 

 

 彼女の名前は『西住みほ』。如月のクラスメイトであり、二年になった時に如月が通う『大洗女子学園』に転入して来た。幼馴染ではあるが、それほど深い仲と言う訳ではない。

 小学五年の時にとある武道を通して出会い、中学はその武道で共に戦った戦友だ。

 別の高校に進学したはずなのだが、なぜか二年目の時にこの大洗に来た。転校した理由は彼女の事を気遣って聞いてないが、ある程度察しは付いている。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 ――――――♪

 

 四時限目の授業が終わったチャイムが鳴り、昼休みになって生徒たちは食堂や売店などに向かう為に教室を出る。

 

 如月はノートを鞄に戻して席を立つと、西住を待つ為に左斜め後ろを向く。

 

 西住は落としたシャーペンを拾おうと机の下に潜り、手にするも腰が机に当たって定規と消しゴムが落ち、それを拾おうとして足が机の脚に当たって筆箱が落ち、中身をぶちまける。

 

「・・・・・・」

 

 ため息を付いて腕を組む。

 

 

 

 少しして筆箱の中身を戻して机に置くと、西住はため息を付く。

 

「・・・・・・」

 

 組んだ腕を解いて西住の近くに来た時だった―――――

 

 

 

 

「へい!彼女達!一緒にお昼どうだい!」

 

 と、教室の後ろからそんなナンパの様な言葉が来て、西住は左右を見ると後ろに振り返ると、そこに二人の生徒が立っていた。

 

「ふ、ふぇ!?」

 

 西住は驚きながら立ち上がる。

 

(五十鈴に武部か)

 

 如月は五十鈴と武部を見る。

 

「ほら、沙織さん。西住さん驚いているじゃありませんか」

 

「あっ、ごめんね、驚かしちゃって」

 

 武部は少し申し訳なさそうに謝る。 

 

「あの、一緒にお昼どうですか?」

 

「えぇっ!?わ、私とですか!?」

 

 信じられない!と言うようなリアクションを取る。

 

「翔さんも一緒にどうですか?」

 

「そうだな。西住と一緒に行くつもりだった。一緒に行こう」

 

 そんでもって、五十鈴と武部に誘われて私と西住は一緒に食堂に向かう。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「それって、一種の情報操作ではないでしょうか?」

 

 と、とある部屋に三人の女子生徒が話し合っていた。

 

「大丈夫大丈夫。この程度なら問題はないよ」

 

「・・・・・・」

 

「それに、あの中島が手に入れた情報だから、確実だよ」

 

 イスに座っている女子生徒は手にしているスマホの画面の二人に見せると、画面には文字である情報が記載されている。

 

「ですが・・・・」

 

「分かりました。直ちに取り掛かります」

 

 そうして一人はその部屋から出て、準備に取り掛かった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わり、食堂では如月達が昼食をしていた。

 

「良かったぁ。如月さん以外で話し相手が出来て」

 

「話し相手に満足できなくて悪かったな」

 

 そう言うと、如月は大盛りの焼き豚チャーハンを食べる。

 その隣で「あわわわ!」と西住は慌てふためく。その西住に対して如月は「冗談だ」と言葉を掛ける。

 

「翔さんとみほって、知り合いだったんですか?」

 

「あぁ。小学の五年辺りから中学まで一緒だった」

 

「じゃぁ翔さんはみほと幼馴染なんですね」

 

「そうなるな」

 

 

「じゃぁ、高校は別々だったの?」

 

「あ・・・・う、うん」

 

 西住は少し表情に影が差す。

 

「でも、どうして大洗に転校して来たの?親の仕事の都合とか、そんな所?」

 

「・・・・そういうわけじゃ、無いけど」

 

 話すごとに声のトーンが下がっていく。

 

「・・・・・・」

 

 その様子に、三分の二を食べ終えた如月が助け舟を出す。

 

「西住には、諸事情があるんだ。あまりその点については聞かないでやってくれ」

 

 如月の言葉で、二人は納得したようで、少し申し訳なさそうに西住に声を掛ける。

 

「ごめんね、みほ。色々と事情があるんだね」

 

「みほさん、本当にごめんなさいね」

 

 二人の謝罪に西住は「ううん、二人共、気にしてないから大丈夫だよ」と言って二人に笑顔を向けるのであった。

 

 

「・・・・・・」

 

 そんな西住の様子を、如月はただ見守りつつ、コップに入っている水を飲み干す。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 昼食を食べ終え、如月達は教室に戻って残りの昼休みの時間を教室で過ごすことにした。

 

「実はさぁ、ちょっと相談ごとがあってさー」

 

「え?」

 

 と、武部が西住に相談ごとを持ち込む。

 

「私・・・・悩み事があってね。

 私ってさぁ、罪な女でさー」

 

「またその話ですか」

 

(よく飽きんな)

 

 耳にタコが出来るぐらいそんな話を聞かされていた如月は内心で呆れ半分の様に呟く。

 

「悩みって?」

 

「それがさ、色んな男の人から声を掛けられるの。どうしたらいいかな」

 

「色んな?」

 

「うん。近所の人でさ。毎朝『おはよう!』とか『今日も元気だね!』って言われるの」

 

「ですから、それはただの挨拶では・・・・」

 

「いや!絶対私の事好きだもん!」

 

「それで好きって・・・・お前の好意基準はどうなっているんだ」

 

「うぐっ。しょ、翔さんだって絶対そうなりますよ!」

 

「いや、ならん。それ以前に私は男に惚れた事などない」

 

「えっ!?翔さんまさかのあっち系ですか!?」

 

「んなわけないだろ。私にそんな趣味は無い」

 

 断固として百合疑惑を否定する。

 男に興味が無い的な事を言うとなぜそっちの考えになるかが本当に分からん。

 

 

 

 

 それから少し話していると、教室に三人組の女子生徒が入ってくる。

 

「会長?」「どうして生徒会が?」と教室中がざわつく。

 

 すると教室中を見渡していた片メガネを掛けた女子生徒は西住と私に指差す。

 

「やぁ!西住ちゃーん!如月ちゃーん!」

 

 と、背が低く赤毛のツインテールの会長が西住と私に手を振る。

 

「誰?」

 

「生徒会の会長と副会長、広報の人だよ」

 

 武部が西住に説明していると、生徒会は西住と如月の前にやって来る。

 

「ちょっと話がある」

 

「・・・・はい?」

 

「・・・・・・」

 

 

 

 それから生徒会に連れられて教室の外に出る。

 

「そ、それで、私達に何か?」

 

「いやぁ簡単な事だよ。必修選択科目・・・・・・『戦車道』を取ってね」

 

「えっ!?」

 

「っ!」

 

 その名前を聞いて西住は驚き、如月も驚くが、少なくとも西住とは感情が違う。

 西住の前では不謹慎だが、胸の内で如月は喜びが湧き上がっていた。

 

「こ、この学校には戦車道は無かったはずじゃ」

 

 如月が入学する何十年も前にこの大洗女子学園の戦車道は廃止になっている。

 

「今年から復活するようになったのだ」

 

「・・・・・・」

 

「で、でも、必修選択科目は自由に選択できるんじゃ」

 

「とにかくよろしく!」

 

 会長は西住の背中を叩くと、半ば強引に決め付け、副会長と広報を連れてその場を離れる。

 

 

 

(戦車道が・・・・復活するのか)

 

 如月はその事実が俄かに信じ難かったが、願っても無いチャンスだった。

 

(・・・・ここでまた戦車道が出来るとは・・・・ある意味私は運がツイているようだな)

 

 内心で心が躍ったが、ハッとし、西住の方を見る。

 

「・・・・・・」

 

 西住は虚ろな目になって呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 その後も西住は呆然としたまま授業を受け、そのまま授業を中退して保健室に向かい、武部と五十鈴が仮病を使って西住と一緒に保健室に行った。

 

 

 

(西住があんな状態になるとは・・・・それほど戦車道に何かあったのか)

 

 授業が終わってHRを待つ間に西住の事を考える。

 

(やはり、去年の―――――)

 

 

 

『全校生徒に告ぐ。体育館に集合せよ。繰り返す。体育館に集合せよ』

 

 すると教室のスピーカーより生徒会の広報の声がして集合が掛けられる。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 それからして体育館に全生徒が集められる。

 

 まぁ去年でも生徒会の緊急招集はよくあった事ので、慣れてはいる。

 

「・・・・・・」

 

 列に入って待っていると、生徒会が前に立つ。

 

「静かに!」

 

 広報がマイクで言うと生徒は私語をやめる。

 

「これより、必修選択科目のオリエンテーションを始める」

 

 会長と副会長、広報がステージの端に移動すると、体育館の照明が消え、スクリーンに映像が流れ出す。

 

 

『戦車道。それは伝統的な文化であり、古来より世界中で、女子の嗜みとして受け継がれてきました』

 

 少し古いフィルムムービー風に映像が流れ、副会長がナレーションをする。

 

『礼節ある、しとやかで凛々しい婦女子の育成を目指す、武芸なのです』

 

 映像に移る女性達が一斉に戦車に乗り出すと、エンジンと履帯の音を立てて戦車が動き出す。

 ちなみに戦車は三号戦車J型だ。

 

『戦車道を学ぶ事は、女子としての道を究める事でもあります。

 鉄の様に熱く強く、それでいて無限軌道の様にカタカタと愛らしい。そして大砲の様に情熱的で、必殺必中』

 

 

 ズドォォォンッ!!!

 

 

 と、体育館内空気を揺るがすほどの大きな音がスピーカーより放たれ、その音に殆どの生徒はびっくりする。

 

『それが戦車道を嗜むと、自然と身に付くのです』

 

「・・・・・・」

 

 見える範囲を見るだけでも、息を呑む者が多い。

 

『戦車道を学べば、必ず良き妻、良き母、職業主婦になれることでしょう。

 健康的で優しくたくましいあなたは、多くの男性に好意を持って迎え入れられるはずです』

 

 戦車に乗る女性達に大勢の男性が囲み、歓声を上げていた。

 

『さぁ、みなさんも是非!戦車道を学び、心身ともに健やかで美しい女性になりましょう』

 

 

 そうして映像は終わると、ステージで爆発が起きて煙が晴れると、戦車道がデカデカと記載された必修選択科目の紙が出ていた。

 と言うより、この演出は居るのか?

 

 

「実は、数年後に戦車道の世界大会が日本で行われる事になった。それで文科省より高校、大学で戦車道に力を入れるように要請があったのだ」

 

「んで、我が校も戦車道を復活させたってわけ。戦車道を選択したら特典を与えようと思うんだー。副会長」

 

「成績優秀者には食堂の食券100枚と遅刻見逃し200日。更に通常授業の三倍の単位を与えたいと思います!」

 

 すると体育館中がざわつく。

 そりゃこんな条件では驚くのも当然。

 

「と言うわけだから!よろしくー!」

 

 そうして集会は驚きに包まれて終わる。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「私やる!」

 

「え?」

 

 集会が終わった後私と西住、五十鈴、武部は一緒に下校していた。

 

「最近の男子って強くて頼れる女子が好きなんだって。それに戦車道をやるとモテモテなんでしょ?」

 

(モテモテ・・・・か?)

 

 まぁ・・・・あの映像ではそう観えるが・・・・それとこれは話が別だ。

 

「みほもやろうよ!家元なんでしょ!?」

 

「・・・・・・」

 

 家元の言葉を聞くと、西住の表情が暗くなる。

 

 西住の家は『西住流』と言う戦車道の流派の家で、何があっても、例え犠牲を伴っても前進する流派らしい。

 犠牲なくして勝利なし、と言うのを具現化したような流派とも言える。

 

 どうやら武部は西住の実家が戦車道の家元であるのを保健室で聞いていると、如月は察する。

 

「・・・・私は・・・・やっぱり」

 

「そうですよね」

 

 と、五十鈴が心配そうに言葉を掛ける。

 

「わたくし、西住さんの気持ち分かります。わたくしも華道の家元なので」

 

「そうだったんだ」

 

「・・・・・・」

 

「でも、戦車道って素晴らしいじゃないですか」

 

「え?」

 

 意外な言葉に西住は少し驚く。それは如月も同じであった。

 

「わたくし、花道よりアクティブな事をやってみたかったんです」

 

 大和撫子な外見とは似合わない事を言うんだな。まぁ大食いなのも大和撫子らしからぬが

 

 すると五十鈴は立ち止まって西住を見る。

 

「わたくし、戦車道やります!」

 

「ふぇっ!?」

 

 西住は声を上げて驚く。

 

「西住さんもやりましょうよ。色々とご指導をお願いします」

 

「・・・・え、えぇと」

 

 視線を左右に動かすと、武部が後ろから西住の両肩を持つ。

 

「みほもやろうよ!みほがやればぶっちぎりでトップだよ!」

 

「・・・・・・」

 

 

「もちろん、翔さんもしますよね!」

 

「・・・・そうだな。私もそのつもりだ」

 

 西住の事を気にすると、少し言いづらかったが、肯定する。

 

「・・・・・・」

 

 西住はかなり戸惑っていた。

 

 

 

 

 

 


 
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