No.695428

魔王は勇者が来るのを待ち続ける

銀空さん

60分で書くお話。
題材は魔王とか勇者とかロボとかファンタジーとかそんな感じ。

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2014-06-20 23:47:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:322   閲覧ユーザー数:319

第七話「魔王とソラ」

 

 

 

 

 

「お前を勇者にしてやろうか!」

「嫌だ」

 魔王バハムートの言葉は否定される。少年ソラは白い歯を見せて笑う。対して魔王はがっくりとうなだれていた。譫言のように勇者の資質がどれだけあるのかを並べ立てる。が、当のソラは聞く耳持たない。彼の興味は書斎の魔導書だ。棚を眺めては、目を輝かせていた。先日注意を受けたメイドが「危険ですよ」とソラを抱えて引き離す。

「ソラは魔導書に興味が有るのか? 君には使えないぞ」

 ソラは自分が使うんじゃないと話した。魔王は少し興味を持ったのか、話の続きを促す。

「おれの弟と妹がすごいソシツを持っているんだ。だからあいつらの勉強のためにまどうしょを持って帰っているんだ」

「なるほどな。ならばソラよ。君が勇者になってくれるならば、その棚の本を全てあげよう!」

 食いつくかと思われたがソラは「いらない」と首を振った。ソラはメイドの拘束から飛び抜け、扉の前で直立不動となる。直後にラガンが入ってくる。彼は散髪したのか髪が綺麗に切りそろえられていた。髭も整っている。

「よし。コゥティを見送る準備は出来たぞ」

「できてないぞ。その汚れたローブはここに置いておきなさい。私が用意したローブくぉ着用しろ。そしてそのまま貰ってくれ」

 メイド達が持ってきたローブ。それを見たラガンは嬉しそうに目を見開く。「おお」と唸って吟味した。

「こいつは随分豪華だな」

「霊力を持つものでも、魔法効果の恩恵を受けられるマジックアイテムだ」

「おおすげー。あつくもさむくもない」

 早速身に纏ったソラは面白そうに自身の体を見下ろす。

「んま、使い慣れたものがいいというなら、無理強いはしない。だが、国を上げての見送りだ。それなりの格好はしてくれよ」

「わかっている。それにこいつはありがたく使わせてもらうぜ」

 そこに白い影が現れる。宰相だ。背丈は子供のソラと同じくらいだ。彼、または彼女である宰相は報告する。内容はコゥティ達先発隊の出発準備が整ったことであった。その報告に満足そうに頷いた魔王はソラとラガンを連れ立って部屋を出る。

「君とこうして話をするのは初めましてだな」

「ええ。避けていたわけではないということは、先に申しておきます」

「知っている。いつも来ると、忙しそうだもんな」

 道中。宰相とラガンは並走して話し始める。魔王がソラで遊びはじめたため、余った2人は自然とそうなった形だ。この会話を2人は待ち望んでいたらしく。楽しんでいた。

「魔王様達と10年間共に冒険しておられたそうで」

「色々あった」

「大変ではなかったですか?」

 ラガンは楽しそうに「ああ」と肯定した。そこからは思い出話をしていく。

 多くの紛争に介入し、世の中を少しずついい方向に持って行こうとしたこと。道中大戦に巻き込まれて、村を守るために魔王が本当の姿になったことなどを楽しそうに話す。

「最後はこの地だ。どうなったかは知っているな?」

 宰相は短く肯定する。

「あまりに酷い圧政だったからな。介入したらこの島全土が戦国時代に突入だ」

「愚王を打倒して、すぐに発ったと聞きました」

「霊将としての役目だな。最後までこの国に責任を持てなかったのは、俺の禍根だ」

 

 

 

 

 

 巨大な港は整備が行き届いており、今もたくさんの船が行き来している。そんな港に多くの人だかりができていた。

 アトランディスの大型船に魚人族、ペンギン族と、大使として人間が少数乗船する。もちろん彼らは泳いで渡れるのだが、アトランディスからの申し出である。ただクラーケン族は船に乗るよりも泳いだほうがいいので、船の近くを泳いでいる。

 御役目とはいえ、アトランディスの船員達は怯えていた。

「怯えているな」

「我々と交易はあるとはいえ、本格的に自国内に魔族を呼び込むのは初めてだからな」

 ラガンはコゥティに手を振る。コゥティは手を振り返す。その逞しい体を輝かせながらだが。

「今回の先遣隊と、現地の国の民の反応次第か」

 魔王は頷いて口を開く。

 船は港から離れ始める。いよいよ出港だ。

「我らの国も半世紀経ちはしたが、問題がないわけではない。向こうでも同じような問題は起きよう。その溝を少しでも埋めるのが彼らの役目でもある」

 ソラはラガンの隣で飛び跳ねる。体いっぱいを使って見送っている。

「さらばだ! またあう日まで!」

 コゥティは力強く宣言する。

「我らは両国の架け橋とならん!!!」

 筋骨隆々の体が、黄金に輝いたようにも見えた。

 魔王達は彼の無事を祈り、手を振る。その後ろで宰相は複数人の人と言葉を交わし始めた。魔王は顔をしかめる。

「やれやれだな」

 魔王は鼻で息を吐きながら、背後を振り返る。その視線の先には宰相とワーウルフのガルゥ達だ。

「カラミティモンスターが動き出しました」

「こちらに牙を剥いたか」

 魔王の答えに彼らは戸惑いを見せる。その様子に魔王もラガン達も訝しむ。魔王バハムートは視線で続きを促した。

「それが、別のカラミティモンスターが現れたのです。群れは南下しています」

「なんだと?」

 その場に緊張感が走る。

「彼らは北の国境に現れたカラミティモンスターに襲いかかり返り討ちにあった模様。それで――」

「討伐隊の追撃も間に合わんな。加えてカンクリアンとエメリアユニティの軍事演習に備えて国境付近の警備を強化しているから、手薄じゃないか。不都合が重なりすぎだ」

「俺達の力が必要か?」

 ラガンは鋭い顔つきになった。ソラも釣られて険しい表情となる。

「かもしれん。頼めるか?」

「お安い御用だ。人宿の恩もある」

 ラガンは胸を叩く。

「まおう様」

「私と君は友だ。バハムートでいいぞ。後、さんとか君とかもいらないぞ」

「じゃあバハムート。おれたちがげきたいしたら、まどうしょを一冊くれ」

 ラガンはソラを叱りつける。しかし魔王はそれを制した。

「いいだろう。ただし条件がある。誰一人犠牲者を出すな。そうすれば一冊褒美としてやろうじゃないか」

 魔王は不敵に笑う。危機的状況にも関わらず嬉しそうにしているのだ。周囲の者達は戸惑う。誰もがそんな少年に何が出来るものかと否定的に見ていた。

 ラガンは頭をかいて、弟子の不躾に嘆く。それもすぐに止めて、魔王を見据える。

「とりあえず魔剛騎を借りたい。俺とソラのだ」

「君たちの武器が反映出来るモノを用意しよう」

 魔王はすぐに討伐隊を編成を命じる。各人がそれぞれの役割を全うするために走りだす。

「魔王様! こんなときにお戯れなんかしないでください」

「違うな。間違っているぞ宰相。これは遊戯などではない。見極める必要があるのだ。あの少年を」

 宰相は呆れた。本気で勇者にしたてあげるつもりなのかと。

「私の見立てが正しいなら、彼はこの大陸を揺るがす存在だよ」

 宰相は予想外の言葉に驚愕する。近くにいる彼または彼女だからこそ、魔王の言葉の本気を理解したのだろう。言葉にならない声を発する。

 

 

 

 

 

 そしてソラ達はカラミティモンスターを撃滅した。討伐隊に1人の犠牲者も出さずにだ。

 

 

 

 

 

~次回に続く~

・次回はロボ戦。

 


 
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