No.694960

魔王は勇者が来るのを待ち続ける

銀空さん

60分で書くお話というコンセプトです。そのため短めです。
題材は流行りの魔王と勇者ネタです。名前は決めているのに出すタイミングを逸している状態なので、決して名前が無いわけではなく(ry

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2014-06-18 21:10:53 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:325   閲覧ユーザー数:316

第五話「魔王と予行演習」

 

 

 

 

 

 魔王は悶え苦しみ出した。胸部を両手で確認する。その両手は鮮血で赤く染め上がっていた。驚愕に目を剥き、魔王は吐血する。

「この私を倒すとは……さすがだ勇者よ! だが、忘れるな! 私が倒れようとも第二、第三の私がこの世界に闇をもたらすということを! ふはははははははははははは!! ゴッファ」

 魔王は地を吐きながら倒れた。

「おい! 仕事しろや!」

 後頭部を踏みつける小さな足。その主は白い頭巾を深く被った宰相である。彼、または彼女は怒号を浴びせた。

 魔王は飛び跳ねるように起き上がる。正座させられると宰相の説教が始まった。周囲はそれを好気な目で見ている。彼ら2人の周りには幼い子供たちがたくさんいる。それも人間の子供たちだ。子供たちは面白そうにその光景を眺めていた。当然子供たちだけではなく、その中に大人の女性も少数いる。いるのだが、困ったように笑っていた。

「いや、予行演習も兼ねて――」

「阿呆! 誰が幻術魔法まで使ってやる奴がいるか!」

 宰相は怒鳴る。「そもそも演習するんじゃない!」と叫ぶと、魔王のトンガリ耳を掴んで牽引し始めた。

「ま、待て! 待ってくれ! この中に将来勇者になるかもしれない子が!」

「いるかー! ここは我が国の幼学校だ!」

「だからこそだ! 国外から来る可能性が低いならばだな」

「あーうるさいうるさい。報告したいことがあるので城までご同行していただきますよ」

「あ、待って! まだ続きを。まだやりたいやりたいやられ方が――」

 引きずられる魔王に幼児たちは手を振る。誰もが「またね」と見送った。木で出来た剣を持った子供は叫ぶ。

「まおう様! ゆうしゃなんかに負けちゃダメだよー!」

 引きずられながら魔王は手を振った。

 

 

 

 

 

 大きな城門がそびえ立つ。人が通るにはあまりにも幅も、高さもありすぎる城門。城の周囲は湖と見間違うほど大きな水堀が2つある。1つは本城の周囲。もう一つは城門と外周の城壁の外だ。つまり魔王城に着くまでにかなりの距離がある。故に国の重役などが通行する際は馬車で移動するのが常だ。常なのだが、魔王と宰相は徒歩で歩んでいた。

 理由は魔王の気まぐれである。天気がいいのだ。外を歩こうと、宰相は付き合わされていた。当然魔王と宰相だけではなく、何人か護衛がついている。その中に宰相と似た風貌の人間達が居た。頭巾を深く被った彼らは、竹簡を魔王に手渡す。渡し際にニ、三やりとりするが、定型的な報告だったのか魔王は特に顔色一つ変えることはなかった。

「経済的理由以外には考えられませんか」

 宰相の言葉に魔王は頷くだけだ。彼は宰相に竹簡を手渡す。そのまま中身を読み進めている。

「だったらなおのこと属国にしたほうが良かったのではないのですか?」

 宰相は考えられる不安要素が無いことを話す。内乱の危険性も無い事や、魔族の魚人族やクラーケン族などの住処としても適している旨を上げる。それでも魔王は首を横に振った。

「抱負な海洋資源の主導権を握れるのですよ?」

「今の我が国に必要はない。内需だけで十分満たせている。先の事を考えたとしても、僕らの周辺にある海洋資源だけでも事足りるだろう属国にしなくてもいいのだ」

 宰相は否定しない。故に魔王の言うことは事実なのだろう。

「ですが、それは逆を言ってしまえば属国にしてもいいわけですよね?」

 宰相は食い下がる。彼もまた国の事を思うからこその言葉だ。抱負な資源を持つということは、色々と優位に動けるということも意味している。富国強兵。それがもっとも国を強くすることなのだ。と、宰相は説く。魔王はそんな話には耳を傾けない。頭上の太陽と青空を眺めている。

 しばらくは沈黙のまま歩き続けた。唐突に魔王は問う。

「国とはなんだ?」

「国とは民。と、言うべきですか?」

 魔王は「模範解答だな」と、溜息を吐いた。宰相の答えに不満はないようだが、それ以上の答えを求めていたのだろう。満面の笑みで自身が求めている答えではないと言った。

「それでは……」

「私はね。こう思うのだ。国とは他の国があってこその国だと。もちろん君の答えである民があってのは前提条件だけどね」

「だから同盟国としたのですか?」

「そうだよ。向こうにも旨味がないと意味ないじゃない。僕らにとっても美味しいことはある。魔王軍の駐屯地を手に入れたのだ」

「未踏大陸ですか?」

 魔王は首肯する。まるで子供のように瞳を輝かせた。

「未開の地とか冒険したいよね」

 

 

 

 

 

 謁見の間。赤い絨毯が王座まで伸びている。王座は金の装飾があるだけの椅子だ。周囲も特に飾ることはなく、見様によっては質素に写るだろう。もちろん彩るものもある。それはメイドたちが手入れしている花々だ。美しく咲き誇っており、見るものを魅了していた。そんな花を眺めて、微笑むモノがいる。筋骨隆々のペンギンだ。ペンギンは花に手を添える。そしてつぶやくように「美しい」ともらす。

 謁見の間の扉が開かれる。魔王と宰相だ。魔王は悠然と歩く。その姿に自然と家臣たちは頭を垂れる。魔王が椅子に座ると口を開いた。

「報告を」

 ワーウルフが歩み出る。

「国境内に出現したカラミティモンスターに動きはない。マナの濃度は六割を下回る日が出てきたが、まだ期間は短い」

 魔王は監視を命じた。次に壮年期の人間が前へと出る。

「カンクリアンとアメリアユニティが同盟締結しました。これは確かな情報です」

 その報告に謁見の間は騒がしくなった。発せられている言葉のほとんどがカンクリアンに対する否定的な意見だ。魔王は手でそれを制する。間髪入れずに外交を指示した。矛先を向けさせないためである。

「カンクエリアンとは絶望的です。送った大使は皆殺されております」

「エメリアユニティと外交するんだ。少し遠回りだが頼めるか?」

 男は「仰せのままに」と言うと下がった。

「大方国境付近での合同の軍事演習でもして、こちらの気でも引きたいのだろう」

 ワーウルフが国境付近の防備を強化する旨を告げた。魔王は「任せる」とだけだ。そして筋骨隆々のペンギンが前に出る。くちばしには花が咥えられていた。

「魔王様の仰せのままに、アトランディス協力の下深海の調査を行いました。結論から言いましょう、いたのはカラミティモンスターでした」

 ペンギンは巨大な竜がいたことを報告する。

「ですが、特に危険はないかと思います。巨大船に対して特に敵意は見られません」

 魔王は「なるほどな」と言うと、顎に手を当て考える素振りを見せた。誰もが次の言葉を待つ。

「ところで、誰も勇者の報告ないけど、見なかった?」

 突拍子もない発現に、家臣一同盛大にすっ転んだ。

 

 

 

 

~次回に続く~

~あとがき~

 支援やコメントとかありがとうございます。ヘタレなのでお返しとか出来てませんが、この場を借りて御礼申し上げます。

 お話の着地点としては勇者が来たら終わりです。


 
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