No.69432

真・恋姫†無双~物語は俺が書く~ 第5幕

覇炎さん

この作品の北郷 一刀は性格が全く異なりますのであしからず。
 仲間には優しいですが敵と判断すると最低です。
 主に落とし穴に嵌めたり、縄で逆さ吊りにしたりと…。しかも、いつ仕掛けたのかも解らないほど鮮やかに。
 強さは武将達と渡り合えるくらい。
しかし、武力が全てはない。

続きを表示

2009-04-19 12:32:59 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:9190   閲覧ユーザー数:6461

真・恋姫†無双~物語は俺が書く~

第5幕「蠢き始める仄暗き闇」

 

 

 

 ――嫌な声が聞こえる。――

 

 

 戦場で兵と盗賊が共に罵倒しあう光景を見て一刀の心がズキリっと、痛む。

 

 

「死ね!盗賊が!!」

 

「んだとっ!軍の犬風情が!?」

 

 

 ――肉を切る際に奏でる音が大きく、そして真近で聞える。気を保たねば足が竦み、逃げ出そうとする。――

 

 

 ザシュ。ズバッと軟らかくも弾力がある物を、切ったり貫いたりする音が一刀の耳に入る。その度に一刀は耳を塞ごうとするが自制心がそれを止めさせる。まるで聞いてその眼に焼き付けろと言わんばかりに。

 

 

 ――正史にいた時も嗅いだ事ある血の臭いが、これほど濃く感じた事は無い――

 

 

 汗の臭い、血の臭いが混ざり一刀の鼻に例え様のない異臭が突き刺す。その事が一刀の現実感を高めると共にある事を悟らせる。

 

 

「これが…戦場。殺し合いの場…!」

 

〈そうです。これが、貴方が生きていく為に駆け抜けなければ道です。ビビッておられるのですか、チキンマスター?〉

 

 

 今、一刀は戦場のど真ん中にいる。最初は季衣が傍に居たが、何時の間にやら逸れてしまいこの有様。腰に帯刀している『朔夜』の鞘(望月)の柄に近い方の端を左手で掴み、右手は柄を掴み何時でも抜ける様少し抜刀しているが微かに振動していた。その刀は朔が喋っているから震えているのか、それとも一刀の手が震えているからかは解らない。そのせいで、朔が喋れるようになるが今はそれを心から感謝している。

 

 もしも、朔が居なければ精神異常者になりかねない。そう思えるほどに一刀は自分が追い込まれている事を感じていた。額に汗が浮かぶが、それを拭う事もしない。それ位その戦場に飲み込まれていた。

 

 

〈さぁ、マイスター。飲まれている場合ではありませんよ!?敵がこちらに向かっています、回避準備を!!〉

 

 

 朔の一声で我に帰り、後方より、今までに感じた事のない視線を気づき急いで前へ飛びながら反転。それと同時に一刀がさっきまでいた場所に鈍い光を放つ物が一閃する。

 

 そこには、イヤラシイ笑みを浮かべた中年のガタイのいい男が短刀を構えていた。一刀は引き攣った顔で相手を見据える。朔が知らせなくても、避けられない太刀筋では無いのにも関わらずこの様。そして、目線を合わせそこから感じ取れるものは、ただ一つ。

 

『殺してやる』

 

 ただ、それだけ。いや、一刀にある事を悟らせるにはそれだけで十分であった。

 

 

「これが、殺す気…殺気。そしてあれが…朔の言う、人の死を背負う覚悟がない眼……“人を殺す鬼”の眼。なんて言う目をしてやがんだよっ!?」

 

 

 心が震える。

 

 

「(朔は、俺にこんな目をさせたくないからあんなきつい事を?)」

 

 

足に力を入る。

 

 

「はっ、ははは…」

 

 

『朔夜』を『望月』から引き抜く。青白い刀身に日の光が中り、稲妻が走ったような光が反射する。その光に気づいた者がこちらを向き始める。

 

 

「何をあれ程、悩む必要があったのだ?こんな、人の死すら背負う覚悟の出来て無い下郎を殺す事に!!?」

 

 

 一刀は歯軋りをさせながら、『朔夜』を正面に構え顔を上げると中年の男は小さく悲鳴をあげて後ずさる。

 

 一刀の瞳には、もう人殺しへの未練は断ち切られ覚悟を決めた武士[もののふ]の眼をしていた。一刀はそれと同時に身体の底から何かが沸き立つ感じがした。そして、低くだが今の相手に聞こえる十分な声で言った。

 

 

「おっさん…喜べ。アンタは俺が初めて殺す相手に選ればれた」

 

「何…言ってんだよ!餓鬼が!!?」

 

 

 盗賊は何の考えも無く、我武者羅に突っ込んでくるが一刀は左足を軸にし右足を後退して、相手の軌道をから避ける。

 

 同時に相手の力量を測ることも忘れず、直ぐに思考を巡らせる。

 

 

「相手は何の考えも無く突っ込むボンクラ以下。コイツの力量を基準と考えても上の者も大して強くは無いだろう……それに…」

 

 

 相手を逆上させる為、敢えて口に出して分し相手の隙を突く一刀の基本的な策も見破れない哀れな盗賊に一刀は無情にも…。

 

 

「強かろうが弱かろうが……俺の敵じゃない!!」

 

 

 『朔夜』を目に見えない速さで振るう、盗賊は一瞬青い光が走って行くのが見え驚き手を引く。

 

 

 ――ボトッ。

 

「―へっ?あれ?俺の…手は、あ、れ、お、俺の!手!?」

 

「…目の前に落ちているだろ」

 

 

 一刀は少し青ざめながらも下を指差し盗賊も目で追うとそこには自分の手首から先が落ちていた。混乱し叫び狂いながら反転し、逃げ出そうとする盗賊の頭を引っ掴み引き倒す。

 

 それでも必死に逃げだそうとする盗賊に胸を踏み付け、肺の空気を全て放出させる。呼吸混乱になってゴホ、ゴホ、と咳き込んでいる盗賊を見つめながら季衣の言っていた言葉を思い出す。

 

 

 

 

―――戦場に突入する前―――

 

 季衣は訊きにくそうに一刀に訪ねてきた。盗賊を…人を殺した事はあるか、と。

 

 

『……ないよ。言ったろ?これが初陣だし、天界でも人殺しは禁止されている。だからって、手を抜くつもりは…ない』

 

『兄ちゃん、ボクさ、最初に村を襲った盗賊を殺さず逃がした事があるんだ。涙を流しながら命乞いをしたし』

 

 

 優しい子だ、と一刀は思ったが季衣の顔は後悔と言う色に染まっていた事に気づくと、何も聞かず静かに耳を傾け『それで?』と聞いた。

 

 

『それから数日もしないで同じ連中が、また村を襲いに来たんだ…その時、ボク…解っちゃたんだ。あぁ、この人たちには誇りも何もないんだ、って。そして、ボクはその人達を見逃したせいで村の人達を危険にさらした事も』

 

 

 季衣が震えているのに気づくと、一刀はまた季衣の頭を撫でる。今度は優しく、優しく。

 

 そして、季衣は紡ぐ様にして決意の言葉を口にする。

 

 

『だから、にいちゃん!盗賊は殺さなきゃいけないんだ!ここで逃がせば、今度は違う所で人を殺す。そんなことは決して許しちゃいけないんだ!!』

 

『…あぁ、わかったよ。盗賊は全員…“殺す”よ。…季衣はすごいな、一人でそういう決断をして』

 

『にゃ?』

 

 

 自分は人を殺す事にウジウジ悩み、朔に叱責されてやっと踏み出したのにも関わらず、季衣は自分で人を殺す事を決意した。尚且つ人の為にという、一刀はそこに季衣との大きな差を感じた。自分が生きる為に人殺しとなる一刀、村のみんなを護る為に自分の手を血に汚し人を殺す事を決意する季衣。

 

 

『いつか、俺も人の為に…出来るかな?』

 

『出来るよ。兄ちゃんなら、きっと』

 

 

 ポツリと言った一言が聞こえたようで季衣は肯定しくれたのだが、一刀は無性に恥ずかしくなり季衣の頭を撫でてる手に力を込めガシガシと荒く撫でた。それにより、季衣が髪を整えている事に気付かずに、戦場へとかけていった一刀だった。

 

 

 

―― 現 在 ――

 

 

 盗賊は呼吸が整ったのか、また激痛で暴れ始める。それを合図として一刀は手に持つ『朔夜』を逆さに持ち直し、振り上げる。自分の死を悟ったのか手足をバタつかせるが、最早一刀を振り払う力は無かった。それを一刀は哀れに思う、がもう止める気はない。季衣との約束と自分[正史の概念]との決別の為に盗賊の心臓目掛け、剣を振り下ろした。

 

 

――トスッ。

 

 

 軽い音だった気がした。余りにも簡単でいて、重い物…十字架を背負ったにしては刹那の時間だった。

 

 『朔夜』を引き抜くとグチュッ、と耳触りの音が聞えると共に鮮血が一刀の服を、手を血に染めるのをただ茫然として眺めている。ふと、殺した盗賊の顔を見る。

 

 

「!?……」

 

 

盗賊の顔に自分の顔が重なって見えた。一時は取り乱した者の、直ぐに冷静さを取り戻す。そして、未だに自分の顔が重なって見える死体に向い言い放った。

 

 

「サヨウナラ、愚かな北郷 一刀[正史の概念]」

 

 

 人を殺した事により、正史の北郷 一刀[概念]も殺した事にしよう、一刀自身そう決め踵を返す。

 

 上を見上げれば、砂塵が舞う中で太陽が煌めいていた。それが一刀にとってはこう言っているように見えた。

 

 

――ようこそ、人殺しの北郷 一刀。果たしてこの外史、生き残ることが出来るか?――

 

 

「生残ってやるさ…」

 

 一刀は不敵な笑みを浮かべ、『朔夜』を右方向に上から斜めに振るう。振るった先には今にも、槍で刺そうとしていた盗賊がいたが、直ぐに崩れさる。

 

 

「その為にも、まずはこの戦…勝ち残る!!」

 

 

 一刀に恐れを抱いたのか一人では勝てないと踏み、周りで見ていた盗賊が10人で一刀を囲んで来た。それでも一刀の笑みは崩れる事を知らない。『朔夜』の切っ先を盗賊に向ける。そして…。

 

 

「最初に言っておく!俺はか~な~り、強い!!」

 

〈序に言わせて頂きますと、私の切味は蝶いいですよ〉

 

 

 一刀にとっては本心であり、本気でもあるのだが盗賊どもは自分が馬鹿にされたと思い憤慨するが、次の言葉で静寂が訪れた。

 

 一刀も刹那ではあったが朔の後ろに全身黒タイツで顔をパピヨン(蝶)の仮面で隠した男が見えてしまった。盗賊の方を見るとブルブルっと怯えた様子で朔を指差していた。

 

 

「よ、妖刀だ!?魂を食われるぞ、逃げろー!?」

 

 

 盗賊の一人が大声で叫ぶと、蜘蛛の子を散らすかのように散り散りなる様子を見て朔に冷たい目線を送る。

 

 

「人の決めている場面をブチ壊して楽しいですか、朔様?」

 

〈蝶・快・感?って、マイスター?なに、『望月』で叩いているのですか!?い、痛い!?痛いです!やめてください!?だって、つまんないんだもん。…あ、あの~そんなに大きく振り上げてどうする気ですか?〉

 

「ごめんなさい、は?」

 

「御免なさーーい!!」

 

 

 まるで、漫才でもしているかのような不陰気に毒気を抜かれ、再び盗賊が一刀の背後から襲いかかった。しかし、そんな小細工そんな小細工が一刀に効く事は無く、振り向く事もせずに『朔夜』を逆さに持ち直し、盗賊の顎から脳天を突き抜く。

 

 今度は前方と左方向から襲いかかってきた敵に対し、左の盗賊に対し左手に持つ『望月』で頭を殴り飛ばし怯ます。前方の盗賊には『朔夜』を今の状態で引き抜き持ち直さずにそのまま下から上へ袈裟斬りにし、左に重心を傾け回転し怯んでいる敵を斬り殺す。

 

そのずば抜けた行動に、再び逃げる盗賊ども。しかし、一刀の視界に入った盗賊は…。

 

 

「悪いが季衣との約束だ。テメ―ら、全員死んでもらう」

 

 

 もう、逃げる事は出来なかった。

 

 

 

―――こぼれ落ちる砂のように 誰もこの時間(とき)止められない―――

 

 

 

 

 どれ位・何人斬った…殺したのかは覚えていないし数える気も無かった。ただ、一刀には先ほどから不信感があり、朔も気がついたのか話し掛けてくる。

 

 

〈マスター?〉

 

「分かっている…囲まれているな」

 

 

 今、一刀の周りには先ほど盗賊の大群の中に居た白装飾の者たちがいる。最初は盗賊に交じり斬っていたのだが、次第に数を増やし今じゃこの有様。しかも、この白装飾達は今までの盗賊達と違い殺気はあれど眼に生気が一刀には感じられず、不気味に感じられた。

 

 白装飾の一人が前に出て一刀に短剣を向ける。

 

 

「北郷 一刀、世界を破壊する者よ。貴様はこの世界に居てならぬ者、大人しく死ぬが良い」

 

「世界の破壊、この俺が?面白い事を言うじゃないか。だがな、死ぬ気なんてさらさら無いぜ?」

 

 

 勝ち気に笑ってはいるが、内心はその言葉の意味を探ろうとする。しかし、戦いにおいて邪念は禁物の為戦いに集中する。

 

 敵が八方向から来る。前方の者に蹴りを入れると共に『朔夜』を『望月』に納め代わりに『亜門』から苦無を2本取り出し左右に1本ずつ持ち、右方と左方の敵の首を掻っ切る。斜めから来る敵は出来るだけ近づけて、頃合いを見てしゃがみ合い打ちさせて後方の敵が襲いかかる前に苦無を投擲して絶命させる。そしてすぐに仰向けの状態でくの字になり、ネックスプリングで起き上がるが…。

 

 

「はぁ、はぁ…うっ、グッ、んっん!…はぁ、はぁ…くそ!これが俺の限界かよ!?」

 

 

 正直な所、体は動くが精神的に限界が近いようで吐きそうになるもなんとか持ち堪えてはいるが、いつ緊張の糸が切れるかは解らない。季衣の約束を守れないのは残念だがここで死ぬ訳にもいかない為、一刀は悔しそうに離脱を試みるが…。

 

 

 「オメーか?『妖刀使いの稲妻』っていうのは?」

 

 

 どうにも、この世界は一刀に対して試練ばかり与えるようだ。一刀が振り返ればガタイのいい体つきに、2mも超える背丈。軽装な鎧に大きな大刀を肩に担ぐ30代ぐらいの盗賊がいた。一見爽やかそうに見えるがその眼は、間違いなく“人を殺す鬼”の眼をしていた。

 

 

「『妖刀使いの稲妻』?なんだよ、それ?」

 

 

「今この戦場である噂が広まっている…『言葉を話す蒼き妖刀を振るい、稲妻が疾るかの如く敵を殺す。刃を振るわれた者は死んだ事すら分からない』…とね?先のやり方にその手際の良さからしてオメーだな?そうだよな!?」

 

 

 首を傾げる一刀に対して、丁寧教えながら大刀を振るう盗賊。しかし、太刀筋も滅茶苦茶の為に一刀に一太刀も当たることは無かった。だが、精神的に限界が近い一刀は一太刀避けるたびに、微々たる物ではあるが回避から切れが失われ始めていた。焦る中で冷静な対処法検討する。

 

 

「(精神的に限界が近い…こいつを倒したとして、また同じような奴が来るかもしれない。ここはど派手な技をきめて、周りの敵を牽制している間に離脱しかないか…)

 

 

 脚に力を込め、大きく後方へ下がり呼吸を整える。そして『朔夜』を右手で軽く握り、構えを解く。盗賊は諦めた物と思い、息の根を止めようと壊れたような笑いと共に突撃してくる。

 

 

「(所詮、考える事すら出来ない者。豚以下か)……必殺、俺の必殺技。パート1[そのいち]」

 

 

 敵が近づく。二人の距離は8m…6m。

 

 

「天衣無縫流、雷[いかづち]の型…」

 

 

 相手の上に『朔夜』を放り投げると、相手の視線もそれを追う。同時に一刀も相手の真上に現れて『朔夜』を空中で掴み、凄い勢いで盗賊に降下する。その勢いは稲妻の如く。

 

 

「豪雷[ごうらい]!!」

 

 

 まるで兜割りのように降下して盗賊を切り裂く!その勢いは止まる事無く、地面に食らい込みその時の衝撃音は雷が轟くような大きな音であった。一刀は着地すると態勢を入替え、背負い投げのような体制になり『朔夜』の柄を自分の肩に乗せ、”梃子の原理”のようにして引き抜く。

 

 

「返し刃・招雷[しょうらい]」

 

 

 すると、刹那の速さで引き抜いた際に起きた衝撃波により“盗賊だった物”は空へと飛んで行った。まるで敵に対する見せしめの様に…。それこそが一刀の狙いではあるが。

 

 憔悴しきっている一刀は盗賊達が唖然としている間に『朔夜』を『望月』に納め、撤退しようと踵を返した。しかし、盗賊達の反応は一刀の予想の斜め上を行っていた。

 

 

「か、頭が討ち取られたぞ!?逃げろ~~!?」

 

「誰にだ!?」

 

「『妖刀使いの稲妻』だ!あれは人間じゃねぇ、化物だ!!!」

 

「はぁー、はぁー……あれがこの盗賊の大将?弱すぎだろ」

 

〈体は兎も角、精神面がボロ雑巾になっている方の科白では無いですよ、貧弱マスター?〉

 

 

 盗賊が次々と逃亡している中、一刀は気だるそうに自分の陣地へと赴いた。

 

 

 

 

 

―― 本  隊 ――

 

 

「逃げる者は逃げ道を無理に塞ぐな!後方から追撃を掛ける、放っておけ!」

 

 

一刀が本隊と合流すると、そこは軍師“荀彧”の戦場となっておりテキパキと指示を出していた。その横には華琳と秋蘭がおり一刀に気がついたようで手招きをしており、近づくと桂花も気づき『ちっ!生きていたのね…』と舌打ちをしたが最早、突っ込みすら入れる気力すら一刀には残っていなかった。辺りを見渡すと春蘭と季衣の姿が見当たらず、華琳に尋ねた。

 

 

「桂花がどうせ追撃したいだろうからって、二人に追撃に行くように指示を出していたわ」

 

「人間性は兎も角として、すぐに人の性格を見抜いて人を使うのは見事なもんだ…」

 

「アンタ、私を貶してんの?それとも褒めてんの?」

 

「しまった!つい本音が!?」

 

 

 桂花が一刀に襲いかかり、背中をポコポコと叩くが大した、というか全くの被害にならないどころかその必死そうな顔が面白い為そのまま放置する。華琳の方を見ると鼻を押さえながら親指を立てていた。突っ込む気力はないくせに、人をからかう事は止めない。しかし、それが一刀にとっては生きて帰ってきたという事を悟らしてくれる。

 

 鼻の方が収まったのか華琳は、一刀と桂花の前に立つと二人に労いと賞賛の言葉を贈る。

 

 

「桂花、今回の作戦は見事だったわ。負傷者もほとんどいないようだし、上出来よ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 確かに味方の服装をしている者が多く、来た時と人数があまり変わらない気がするが一刀は眉を顰め、考えるように唸るが華琳に呼びかけられ微笑んでいる華琳の方を向く。

 

 

「今回の功労者は…一刀、御苦労様。敵の大将を討ち取ったそうね」

 

「別に…大した奴じゃ無かったし」

 

「そうね、その通りよね」

 

「謙遜するな。『妖刀使いの稲妻』殿?」

 

 

 華琳に褒められるが、人を殺しておいてそれでいいのか?と自問自答する一刀をからかうように秋蘭が、今回の戦でついた一刀の二つ名を呼ぶ。それに対して初陣で二つ名がついた事がつまらないのか桂花は鼻を鳴らす。華琳は『朔夜』をじっと見つめ少し触らせるように一刀に命令をする。まさか、一刀も朔が喋らないとは思っているが『朔夜』を渡そうとしない。不思議に思い華琳は無理やり『朔夜』を触れると。

 

 

〈あんっ。そんな乱暴に触れてはいけませんよ?曹操さま〉

 

「…うそ」

 

「……」

 

「…ふうっ」

 

「…お前、実はKYK?空気 読めない 刀?」

 

 

 華琳は驚き、秋蘭は唖然、桂花に至っては気絶までされ、これ以上の被害が出ない内に華琳たちに“真実と嘘”を織り交ぜた“言い訳”をした。

 

 『朔夜』は北郷家の宝刀で 精霊が宿っており、天界でも珍しい刀であると。

 

 

「ま、まぁ、私は天界の事はサッパリだけど、天界の人である貴方が言うのだからそうなのでしょう。取敢えず、その刀は何て言うの?」

 

〈我が銘は朔夜、このマイスター…主からは朔と呼ばれております。お見知り置きを曹操様〉

 

 

 あれだけの説明で認める訳もないが、少し朔と話して人格?を知ったのか自分の真名まで許した。そして秋蘭、気絶していた桂花までもだ、か・た・なに!

 

 その後、春蘭と季衣が見事に敵を撃破して戻ってきた。因みに華琳が朔の事を話した時に春蘭が切りかかって来た。華琳が止めなければ一刀は真っ二つだったろう。

 

 

 

 

 華琳が全軍に撤退命令を出し、城に帰る1日目の夜の事だった。一刀が皆と食事をしている時、夕方気づいた事を桂花に訊く。

 

 

「なぁ、桂花」

 

「飯が不味くなるから喋らないで」

 

〈その通りです。悟りやがりなさいな、バイ菌マスター〉

 

「〈ね~〉」

 

 

 桂花まで真名を許してから毒舌同士、感じる物があったのか息が統合したようだ。その毒舌コンビを無視しつつ、自分の疑問をぶつけた。

 

 

「今回の戦いで用意した糧食は半分…そして、今回の戦で残った人数は桂花の予想より多かったんだよな?」

 

「えぇ、そうよ。私の策が完璧である証拠よ!なにか文句があるの?」

 

「文句は無いが…」

 

 

 周りを見れば不思議そうに見ている春蘭に、思い当たる節があるような顔をしている秋蘭。物凄い速さで飯を平らげる季衣の横で、一刀の言いたい事が分かっているのか眼を細めこちらを見ている華琳。桂花自身は一刀の言いたい事が分からないのか首を傾げる。その桂花に一刀は死刑判決を言い渡す。

 

 

「…兵が予想以上という事は用意した糧食は足りないんじゃないかと」

 

「…あっ」

 

 

 一刀の言いたい事とは、桂花が今回の戦で10の兵が4しか残らないと踏んでいたとして保険として5の糧食しか用意しなかったとしよう。しかし、実際には6残ってしまった。

 

 すると、糧食と兵の差額は-1だ。この-1がどれだけの物かは一刀には予想もつかないが、華琳との約束を守れない事だけは解る。桂花も自分の策の穴が分かったのか、直ぐに出来る限りの節約を試みようとしたが一刀に肩を叩かれる。その顔は無駄な努力だと言いたげで季衣の方を指刺し、桂花も目で追う。そこには物凄い速さで次から次へと飯を平らげる季衣の姿があった。

 

……桂花は崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 3日目のようやく陳留が見えてきた。一刀にとっては何だかんだ言ってハードな3日であった。

 

 

「うーん、やっと陳留か。そうだ!季衣、落ち着いたら飯でも食いに行くか!?」

 

「えっ、ご飯!?行く!」

 

「全く、元気な事だ。戦の次の日は、あれほど憔悴していたというのに…」

 

「全くよ。曹操様の古書だって見つかっていないのに!」

 

 

 秋蘭の言葉に顔が引きつる一刀。あの夜、人を殺した事に罪悪感があるのか悪夢に魘され、眠っては魘され起きる。それを何度も繰り返して朝になれば眼の下に大きな隈が出来るほど。寝起きの華琳たち……桂花にすらツンデレ気味に『大丈夫なの!?べ、別に心配とかじゃ!』など言われるほどに。

 

 実際、今日の朝も魘されていたが前の日よりはだいぶ良くなっていた。一刀は多分陳留に近づき安心感が生まれている為と思っていた。

 

話を変えるように桂花の話に食いこうとする。

 

 

「確か、太平…」

 

「うむ。大変…」

 

「太平要術の書。…だよな、春蘭?」

 

 

 春蘭が一刀の代わりに言おうとするが、変な事を言いそう感じて急いで口にする。案の定、違う事を言いそうなった春蘭は口を閉じてしまった。

 

 

「無知な盗賊に薪にでもされたか、落城の時に燃え落ちたのか。……まぁ、代わりに桂花と季衣という得難い宝が手に入ったのだから、良しとしましょう」

 

 

 そう、今回の武功で季衣は華琳の親衛隊を任命された。それとこの辺りを納めていた州牧が、盗賊に恐れをなして逃げ出した為に、華琳がその任を引き継ぎ季衣が居た土地も納める事となった。

 

 楽しそうに桂花の方を向く華琳。しかし、桂花の表情は優れない。

 

 

「さて。後は、貴女の事だけど……」

 

「……はい」

 

「城を目の前にして言うのも何だけれど、私……お腹が空いているの。分かる?それでも一刀が近くの森から食べられる木の実などを調達していたから、いくらかはマシだけど」

 

 

 そう。問題は桂花であった。結論から言えば、桂花は華琳との一つ目賭けに負けた。糧食は昨日で尽きてしまった。しかし、その前に一刀のサバイバル知識により近くの森から食べられそうな木の実、果物、草、終いには動物、蛇などを捕まえて、調理までしていた為に幾分かはマシにはなった。しかし、華琳がそれで妥協するはずが無く、桂花を責める。

 

 桂花の敗因は3つ。

一つ。一刀の言った通り、損害が少なすぎて兵が残り過ぎた。策士、己が策に溺れる。

二つ。一刀の助言を聞かず、己が策を突き通した事。結局、食材の調達は一刀の独断で行っており、華琳も先の事を見通し何も言わなかった。

三つ、これが主な糧食が尽きた原因。季衣が常人の10倍も食べていた事。一刀の予想ではこれが一番の原因だと思うが、本人前にして言うほど事ではないと考えていた。

 

桂花自身それが分かっているのか、反論も無く代わりに秋蘭が助け船を出すが…。

 

 

「ですが、華琳様。今回の遠征が上手くいったのも桂花の策があってこそ。今回は、その…予想出来ない事がありましたし」

 

「不可抗力や予測出来ない事態が起こるのが戦場の常よ。それを言い訳にすることは、適切な予想が出来ない、無能者のする事だと思うのだけど?」

 

 

 バッサリ切り捨てる華琳。秋蘭もそれ以上何を言っても無駄と分かり下がる。そして、一刀とのすれ違い際に肘で一刀の脇をつつく。何とかしろと言いたげに…。

 

 正味、一刀にとって今の状況はどうでも良かった。何となくではあるが、華琳が桂花を切り捨てるような真似はしないと思っている。何故なら今の華琳からは一刀と同じ『好きな人も苛めて楽しむ』というオーラ…同類の気を感じていたからだ。

 

その為、このままいく末を見守ろうとするが季衣が一刀の振袖を引っ張り、桂花を助けてほしいとお願いしてきた。きっと、季衣自身も今の状況は自分がもたらしたからではないか?と感じているようだった。

 

一刀は溜息交じりにどう助けるか考えながら、華琳に近づくと今度は春蘭が華琳に食いついていた。犬猿の仲でも一緒に戦った仲の為、少しは仲間の意識が出来ていたようだ。

 

 

「しかし、華琳様!今回が駄目だったとしても次はすごい策が出るかもしれませんし…あの約束は…」

 

「春蘭まで…。どんな約束でも、反故にする事は私の信用に関わるわ。少なくとも無かった事にする事だけは出来ないわね」

 

「約束?…!!」

 

 

 華琳は春蘭までもバッサリ切ると桂花と向き合う。そして、覚悟を決めたように自分の首を刎ねる様に華琳に言ったがそこで一刀が二人の間に入った。

 

 

「な!?どきなさい、北郷 一刀!お前に助けられるくらいなら…」

 

「その先を言う前に聞くけど、お前さ…死にたいの?」

 

「…は?」

 

 

 いきなり、可笑しな事を言い出す一刀に華琳と桂花は呆然としていたが、直ぐに桂花の眼は覚悟の瞳から狂気が満ちた瞳になり、一刀の胸倉を掴む。春蘭達が止めに入ろうとするも自分の主に止められ、最後まで手を出すなと命令される。

 

 

「『そんなに死にたいのか』ですって?死にたい訳ないじゃない!これから曹操様のお役に立てる…そう思ってこの策を編み出したのに……こんな事になるなんて」

 

 

 最初は子供の癇癪の様に叫んでいたが次第に嗚咽が混じりの声となり、地面に倒れる。自分のやりたい事が儚く打ち砕かれた瞬間だった。一刀はまるで昔の自分を見ているようだと感じたが、それは桂花に対する侮辱と思い邪念を振り解く。自分はあの時、人に当たり散らしたが桂花は自分の失態を認め受け入れた。

 

ここの人たちは皆、器が大きいなと感じる一刀であった。

 

 桂花は再び意を決し、一刀に退くよう指示したがそんな事聞く事もせず華琳に向きなおる。

 

 

「なに?…今度は一刀なの?はぁ。さっきも言ったけど約束を反故にする気は…」

 

「なら、尚更聞くべきだろ。それこそ華琳の信用のためにもな」

 

「…なにか、考えがあるようね?いいわ、言ってみなさい」

 

 

 二人の勝気な笑みの睨み合いに周りが息を呑む。最初に喋ったのは一刀であった。

 

 

「華琳、確認するが桂花との賭けは糧食の賭け、『糧食が足りれば桂花を華琳の軍師にする』。そして『足りなければ桂花の首を討つ』でいいんだよな?」

 

「えぇ。間違っては、いないわ」

 

 

 それが、どうかして?という顔で一刀を見下ろして…いるつもりの視線を送るが一刀には余り効果がなかった。そして、第二声目は。

 

 

「では、二つ目の賭けは覚えているか?」

 

「なにが言いた…い、の……なるほど。この曹孟徳、あと少しで約束を違えるとこだったわ」

 

「あ、あの、二人で納得されても…」

 

 

 華琳はすぐに一刀の意図を察したのか、自分の過ちに気付いたようだ。

 

 

二人の中で決着がついたようだが、外野の皆には何が何だが分からなかった。仕方ないので華琳直々に説明が行われた。

 

 

「秋蘭、私が桂花とした二つ目の賭けを覚えているかしら?」

 

「はっ。北郷が桂花の策を見破れるかどうか、でした」

 

「して、賭けた物は?」

 

「『桂花が勝った場合は私の軍師として採用し、閨を共に出来る』そして……なるほど!北郷、よく気が付いたな」

 

 

 秋蘭も一刀の意図も理解して賞賛の言葉を贈る。桂花も後ろの方で小さくあっ、という声を出していたので気がついたのだろう。これで理解してないのは春蘭と季衣だけ。最後は一刀自身が締めくくる。

 

 

「華琳が勝った場合『自分の真名を俺にも許す事。』そして…」

 

 

 華琳がフンっとつまらなそうに鼻を鳴らしてそっぽを向く。その反応に可愛いなと感じながら今回の勝った理由を言う。それは…。

 

 

 

 

 

「そして、『俺と“共に華琳の軍師として仕える”事』。ここまで言えば分かるな季衣?」

 

「うん!」

 

「うむむ…?」

 

 

 季衣には理解してもらえたようだが、やはり春蘭だけは理解が出来ないようで仕方なく秋蘭が分かりやすく説明する。

 

 

「いいか、姉者?」

 

「お、おう」

 

「桂花は華琳様との一つ目の“糧食の賭け”に負け、首を討ち取られる。ここまではいいな?」

 

「うむ。それくらいは分かる」

 

「そうか、ここからが重要だぞ?…二つ目の賭け、“北郷が桂花の策を見破れるか?”だ」

 

「その賭けで華琳様が勝ち、北郷は桂花の真名を呼べるようになった…だろ?」

 

「肝心なのはその後。“北郷と共に華琳様の軍師として仕える事”だ」

 

「それがなんだ!?」

 

 

 春蘭も苛立ってきたのか、声を荒げる。そんな姉に頭を痛めながらも、分かりやすく教える。

 

 

「つまり、1で“糧食の賭け”に負け、首を討ち取られることになってはいたが、2の“北郷が桂花の策を見破れるか”で既に桂花が“北郷と共に華琳様の軍師として仕える”事が決まった以上、1の賭けの内容が無効になったのだ。これで分からないなら諦めてくれ…」

 

「なんと、そうだったのか。華琳様は最初から桂花を仲間にすると御積もりであんな賭けを?」

 

 

 春蘭が期待の眼差しを向けるも、目を合わせる事をしない華琳。華琳自身、そんな事まで考えては無かったろう。まさか、一刀にまで上げ足を取られるとは考えてもみなかった。

 

 華琳は頬を染めながら少し横暴な事を言った。

 

 

「まぁ、一刀の事で死刑を減刑してお仕置き、今回の遠征の功績を無視出来ないのもまた事実。それからまた減刑をして今回は何もなし。だけど、二度とこんな事が無いように調教は必要よね?」

 

「曹操様?」

 

「それから、季衣と共に、私の事は華琳と呼ぶ事を許しましょう。より一層、奮起して仕えるように」

 

「あ……ありがとうございます!華琳さまっ!」

 

「ふふっ。なら、桂花は城に戻ったら、私の部屋に来なさい。たっぷり……可愛がってあげる」

 

「はい…………!」

 

 

 一刀の眼に今の二人は猫を可愛がっている主にしか見えなかった。桂花に尻尾が付いていれば、メトロノームの速さを最速にしたくらいの速さで振っていただろう。

 

 

「むっ?」

「……いいな」

 

 

 一刀の横では飼主が新しい猫を、可愛がっている為に拗ねてしまっている猫が二匹。下手に触れて気を逆撫でしない為にもここの離脱を心見る。勿論、季衣の手を握り一緒にだ。しかし、残念な事にその飼い主に捕まってしまった。

 

 

「何処へ行く気かしら、一刀?」

 

「いや何、お腹が減ってね?季衣と食いに行く約束もしたし…ねぇ?」

 

「そう、それじゃ…」

 

 

 華琳の天使のような笑みも今の一刀から見れば悪魔の笑みであった。さほど、上げ足を取られた事が気に入らないようだ。勘が叫ぶ!逃げろと。しかし、覇王に捕まり逃げられないのがこの世の悲しき鉄則。

 

 

「みんな、今回は一刀が奢ってくれるそうよ」

 

「おお、北郷。太っ腹だな、食うぞ!季衣。…私について来れるか?」

 

「春蘭様こそ、お腹の空きは十分ですか?」

 

「ふぅ、北郷。済まないが、ああなると手に付ける事が出来ん。すまないな…」

 

「華琳!?俺、最初にお前から貰った金しか持って無いぞ!?」

 

「安心なさい、今回のお給金から天引きしておくわ」

 

「この鬼、悪魔!?」

 

「…なに、兵の分も奢るって?」

 

「……ごめんなさい」

 

 

みんなが歓ぶ中、一人土下座する一刀は横目で楽しそうに皆を盗み見る。

 

 

「これが仲間?…なんか、嬉しいな」

 

 

 心底嬉しそうな一刀の反応を見て『朔夜』も嬉しそうに震えた。そんな一刀に華琳が近づく。

 

 

「そうだ、一刀」

 

「なに?華琳様」

 

「それは、もういいわ。なんだかんだ言っても、今回の功労者は貴方なのだから褒美くらいはあげないとね。なにがいい?」

 

 

 欲しい物と言われても急には出てこない。間違っても『君を釣りたい』なんて言ったら首が飛ぶだろう。取敢えずは後で言いそうなので保留と言う事にした。

 

 

 

――その日の晩――

 

 

 結局、奢らされた物の華琳から渡された給金は結構入っていた。色々、言いながら多少は自分たちで持ってくれたようだ。因みに金の価値は朔に聞いた、一月位は過ごしていける額だそうだ。部屋に帰ると、寝台に転がる。考える事は…白装飾の言葉。

 

 

――北郷 一刀、世界を破壊する者よ。貴様はこの世界に居てならぬ者、大人しく死ぬが良い――

 

 

「世界を破壊か。そういや、秋蘭も言っていたっけ?」

 

 

 宴会の席で秋蘭がある事を言っていた、『敵の数が報告よりも500ほど多かった』っと。50・60の誤差ならともかく、百単位でも違えるのはあり得ない事だと一刀は思っていた。更に『敵の殿が出てきたと思ったら白装飾の奴等が出てきた』とまで。とにかく情報が少ないため今は今後への注意をしておくことにした。

 

 その時、部屋の外に人の気配がする為『朔夜』を握る。考えている間も気配はあったが、殺気も無ければ部屋の前を通り過ぎるだけで侍女かなんかだと思っていたが、直ぐに引き返しては通り過ぎの繰り返し。流石に不審に思いドアの横で待機する。同時に。

 

 

――ガンッ!タッタッタッ!

 

 

ドアに何かがぶつかり、何かが走り去って行く音が聞こえ直ぐに一刀は飛び出す。すると、廊下の角で見慣れた猫耳頭巾が走って行った。

 

 

「桂花?なんだよ、いったい?んぅ?」

 

 

下に何か置いておる事に気づき拾い上げる。それはお盆であり、その上に乗っていたのは…。

 

 

「朔、これって何だと思う?」

 

〈取敢えず、前衛作品ではないですね〉

 

 

 歪な形ではあるがおにぎりと切り切れてない漬物であった。取敢えず、部屋に持ち帰りこれの真意を考える。一刀への宛てつけ…何のために?毒殺?それならもっと見栄え良く、侍女にでも頼んでから盛ればいい。それこそ桂花らしくない行動であった。そして、皿の下に文字の書いてある紙を見つけ朔に読んでもらう。

 

 

〈なるほど。あの娘にも可愛いところがありますね〉

 

「一人で納得しないでくれ…」

 

 

自己完結している朔に手紙の内容を聞くと、一刀は黙々とおにぎりに齧り付きあっという間に平らげる。感想はと言うと。

 

 

「握りがあまいから形が崩れやすいし、塩が多い。文句付けるとキリがないが…うまかった、ありがと桂花」

 

 

 一刀はドアに向かいそう言うと、その向こうから激しい騒音が聞こえた。あの後、心配で戻ってきたようだ。今度こそ立ち去ったようなので一刀も桂花からの紙を『亜門』入れ、床についた。

 

 

 『亜門』の中で紙が開く。そこにはこう書かれていた。

 

 

――助けてくれて、ありがとう――と。

 

 

 

 

 

――― 戦 跡 地 ―――

 

 

「やれやれ、あれほどの数の傀儡[くぐつ]をあれだけの時間で…面白いですね」

 

 

朱い月夜の晩、中国系の衣装に身を包んだ眼鏡をかけた男と面白くなさそうな顔をしている少年が佇んでいた。

 

 

「確かに、前とは違い随分と歪な意思を持ってやがる。しかし…」

 

 

 少年が口元を緩め、残酷な笑みを浮かべる。

 

 

「楽しそうな事に成りそうだ!于吉、俺はそう言う顔しているだろ?」

 

「えぇ、実に楽しそうですよ。左慈?」

 

 

眼鏡をかけた男…于吉は少年…左慈を憂いの瞳で見つめ、先に帰っておくように促す。その指示に従い于吉一人ここに残った。

 

 

「左慈もそろそろ、危なくなってきましたね…。北郷 一刀。貴方とはここで終極を迎えてもらいたいものですね」

 

 

 そんな事、感情が感じ取れない声で言うと于吉は何やら手でおかしな動き…印を結ぶ。

 

 

「黄泉転成[よみてんせい]。そして、操!」

 

 

 その言葉と共に盗賊達の死体が青白く光り、起き上がるとその顔には生気と言う物が感じられない。その様子に于吉は失笑を禁じえなかった。

 

 

「ふっふっ。いいですね?その覇気のない顔。…それにしてもこの術は生にしがみ付く者、未練を残した者しか使えないのが難点ですね。まぁ、その分妖力の消費も少ないし、操りやすいのが利点ですがね。さて、私も愛しの左慈の下へ。では、裂!」

 

 

 またも印を結ぶと空間に亀裂が入り割れる。その後、盗賊達は吸い込まれるように消えていった。

 

 

 

 

 覇炎です。最近、眠くてどうしようもありません。

  覇炎です。パソコンで“かずと”を変換すると“和人”になります。

   覇炎です…覇炎です…

 

 

 と、昔の芸人のネタをやってみました。更新はしていきますが、やはり更新スピードが遅くなりますね。さて、次回は本篇から離れて一刀の日常(ネタ)に光を当てたいと思います。では次回で会いましょう。

 応援してくれる皆様、誤字の報告してくれる皆様。本当に有難うございます。

 

 

補足

―天衣無縫流―

 

 一刀が継承している流派。

「一つ型に囚われない事」をモットーにしている。その心得の通り、様々な型があり相手と状況次第で使いこなす。一刀は同時に武器まで変え、更に使いこなす為に『神童』と呼ばれていた所以である。

 

 

 火の型―烈火のような怒涛の攻撃。どの型よりも破壊力はあるが、攻撃モーションが遅い為に一刀自身も“当てれる”という確信が無い限り、多用する事は無い。

 

 水の型―流水のような流れる連撃。一撃にはそれ程の威力は無いがどんな状態からも攻撃をつなげる事が出来、敵の防御すらすり抜ける事も出来る。更に型から型へと移行する事も出来る為、その用途を多い。

 

 氷の型―相手を撹乱するフェイント。これは攻撃と言うよりも“魅せる技”であり、それにより相手の動きを翻弄、凍らせるまたは惑わせる事を重視している型。

 

 風の型―剣が生む衝撃波で直接触れずに遠くの物を切る遠距離攻撃。相手を引き込んだり、吹きとばしたり等出来る攻撃。しかし、現在の一刀では小十朗の様に使いこなせない。

 

 雷の型―稲妻のような速さで敵を切り裂く攻撃。今回、使われた型でその速さは目に止まる事は無い、防御は捨てた攻撃と速さを重視した攻撃。技の最中に攻撃を喰らうとかなり脆い。

 

 地の型―防御・回避・反撃を重視している完全な後手。一刀は攻撃的な性格の為、余り使用せず伝説的な型になっている。雷の型の正反対で防御を重視され速さがかなり失われる。攻撃モーションも火の型より遅いが当たればどの型より最強の破壊力を秘めている。

 

 闇の型―???詳細は一切不明。

 

 ?の型-一刀すら知りえない伝説の型がいるらしいが小十郎に教わる前にこちらの世界に来てしまった。

 

 

*黄泉転成⇐誤字ではありません。

 

転成―性質の違った物となる。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
99
7

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択