No.693187

欠陥異端者 by.IS 第十五話(Reading)

rzthooさん

今話で臨海学校編は終了です。

2014-06-11 09:01:46 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1007   閲覧ユーザー数:975

【投稿者SIDE】

 

零「荷電粒子砲、直撃を確認」

 

『白式』を背中に乗せる零は、事務的に成果を一夏に報告する。

『リヴァイヴ』専用である特攻殲滅用パッケージ『アーバレスト・ブルース』を装着されている『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅢ』の腰部から脚部全てが、無機質な灰色の巨大なロケットブースターに被されている。

そのブースターには、発射口74から発射される2000発以上もの小型ミサイルが搭載されていて、1秒に160発以上を発射できる。。

しかし、その図体が大き過ぎて敵に狙われやすく、当てられやすいのが難点・・・だが、火力や加速度に関して第三世代機と比べてもズバ抜けた性能を持つ。

 

一夏「シャルの射撃訓練のおかげだな」

 

『白式』は今までの姿と変化している・・・"第二形態移行(セカンド・シフト)"。

そして、新たな武装として左手に搭載された多機能武装腕「雪羅」・・・そして、大型化したウイングスラスターが四機がさらに装着されていた。

その『白式』が乗っている『カスタムⅢ』は、時速1000キロを越え、荷電粒子砲を受けた福音を轢き、箒を一夏が手を差し伸べて救い出す。

 

箒「一夏っ、一夏なのだな!? 体は、傷はっ・・・!?」

 

ペタペタと『カスタムⅢ』の上で一夏の体に触れる箒。「コホンッ!」と零が咳払いをすると、パッと箒は一夏に触れるのをやめる。

 

零「え、えー・・・じゃあ、ここで」

 

気まずさを隠せない零は、機体を反転させて二機のISを近くの岩場に振り落す。

 

一夏「お、お前っ、もっと普通に降ろせないのか!?」

 

一夏の抗議を聞き流し、『カスタムⅢ』はすぐさま『銀の福音』の元へブースターを点火させる。

速攻で戦闘空域に戻った零に、態勢を整えた福音は『銀の鐘』の弾雨で襲う。

 

零「うっ・・・!」

 

自機の軌道を変え、ブースターに弾雨を掠めた。特攻殲滅用パッケージと言われるこの装備は、小回りも苦手。

ISの補助機能でも庇いきれないGを味わい、苦渋な顔つきになる。

 

零「くらえぇ!」

 

旋回しながら全74の発射口を開き、ミサイルの波が福音に迫っていく。

だが、エネルギー体と化した両翼の中心にエネルギーの収束体が生まれ、その放射された光線がミサイルの波を一気に薙ぎ払った・・・。

 

零「ちっ・・・!」

 

予想以上の性能に舌打ちを打った零は、ミサイルの破壊によって起きた爆煙を吹き飛ばしながら、福音に突撃をかける。

しかし、『銀の福音』・・・もとい全てのISには学習能力がある。一度受けた攻撃は、二度目は当たらない。

 

零「ぅお!?」

 

危うく海にダイブしそうなところを、強引に態勢を前屈みにする事でブースターが前に向けられ、急停止に成功した・・・しかし、その止まった一瞬を狙ってたかのように、福音が攻撃態勢に入った。

 

一夏「させるかぁ!」

 

荷電粒子砲が福音に直撃しなかったものの、攻撃の妨害に成功して零はその間に真上に離脱。

一夏も『カスタムⅢ』を掴んで一緒に雲に突っ込み、牽制としてブースターから多くのミサイルが発射された。

 

零「あれ、弱点とかないんですか?」

 

一夏「分からない・・・だが、長期戦になれば不利なのは目に見えている。やっぱり"零落白夜"で一撃必殺を決めるしかない」

 

零「なら、自殺覚悟で突っ込みますよ」

 

一夏「頼む!」

 

雲より上に躍り出た二人は、綺麗な満月に見惚れる余裕もなく、再度、福音に向かって突っ込む。

 

零「5・・・4・・・3・・・2・・・────やれっ!」

 

一夏「うおおおおおおっ!!」

 

雲の中にいるため視界は灰色一色だが、レーダーでは一夏の振るう雪片弐型の先に福音はいる。

だが、思いっきり振りかぶった刃は、ただただ雲を切り裂くだけに終わった。

 

一夏「まだまだぁ!」

 

『カスタムⅢ』が通り過ぎ、真横に福音がいるのを認知した一夏は、新装備"雪羅"のクローを裏拳ように腕を横に振り切る。

データにない攻撃に対応の遅れた福音。直撃は出来なかったものの、装甲に傷をつける事が出来た。

すると、近距離戦は不利と判断した福音は、すぐさま距離を取ってミサイル集を薙ぎ払ったと同じ技を繰り出す。

 

福音『キアアアアアアア・・・!!』

 

一夏「『雪羅』シールドモード!」

 

一夏の一言で左手の"雪羅"が変形し、クローから円盤状のエネルギー物質が出現・・・強力な熱線が構えた"雪羅"にぶつかると、その熱線は相殺されてかき消される。

"零落白夜"のシールド・・・全てのビーム兵器を相殺できる防御システムだが、エネルギー消費量はやはり多い。

 

零『一夏さん、エネルギー残量に気を配ってください』

 

一夏「分かってるよ───くそっ、また避けられた!」

 

第二形態になったことで『白式』の機動性は飛躍的に向上している。だが、まだ完全に使いこなせておらず、ヒラリヒラリと雪片の太刀筋が避けられる。

焦りがふつふつと湧き上がる一夏は、右手の雪片、左手の雪羅を駆使して押しまくった。

 

零「一回、下がって!」

 

このままじゃエネルギー切れを起こしかねないと判断した零は、ミサイルを発射しながら一夏を福音から引き剥がそうと試みる。

だが、その前に一夏は福音によって、零が飛行する軌道上に蹴り飛ばされた。

さっきも言ったが、『アーバレスト・ブルース』は小回りが利かない。当然、避ける事も軌道をずらす事も出来ず、『カスタムⅢ』はバランスを崩す。そこに『銀の鐘』の弾雨が襲い、『アーバレスト・ブルース』から火が噴いた。

 

零「マズイ・・・!」

 

ブースターの中には、まだ発射されていないミサイルや起爆しやすいエンジンなどが内蔵されている。

すぐさま、脱ぐように下半身とブースターを分離させた・・・その数秒後には大爆発が起き、その爆風で一夏は福音のいる場所から遠くへ、零は逆に───

 

福音『~~~』

 

零「ッ!?」

 

自ら福音に飛ばされた零の表情が青ざめる。福音の手が頭部を掴み上げ、拳が零の顎を殴った。

 

零「ぅっ・・・」

 

ぐらっと揺れる脳。その一発だけで零の意識は朦朧としたが、容赦のない暴走ISはその後も至る所に殴りや蹴りを加える。さらに翼がゆっくりと『カスタムⅢ』を包み込もうとした。

零の危機に一夏は叫びながら、瞬時加速を行いながら救援に向かう─────しかし、零の元へ辿り着く前にエネルギー切れを起こした。

 

一夏「れ、零っ!」

 

零「ッ・・・ッ・・・」

 

恐怖と痛みで表情が引き攣る。眩暈を起こし、頭痛まで起こしているかもしれない。

ムカつくほど眩しいエネルギー翼が、視界全体を埋めた時、瞼を開けることも億劫でもう苦しい思いをしたくないと思った零は、諦めたように目を閉じた────

 

箒「諦めては駄目だっ!」

 

零「っ!」

 

力強い通信の声にカッと目を見開いた零は、掴まれる頭部を支点にし、振り子のように後ろへ身体を踊らす。

海面と並行になった『カスタムⅢ』の真下を、紅い扇状のエネルギーが通過し福音に直撃した。『空裂』のエネルギー刃だ。

しかし、すぐに態勢を整えた福音は、離脱しようとする『カスタムⅢ』の脚部を掴み、海へ叩き落とした────

 

 

[ブクブクブクブクブクブクッ・・・]

 

零(うっ・・・体が、動かない)

 

徹底的に痛めつけられたせいで、機体はどんどん海の深みへと沈んでいく。

暗く、冷たく、寂しいこの場所は、いつぞやのラウラの記憶にダイブした出来事を振り返えさせる。

 

零(このまま、動けなかったらずっとここにいるんだろうか・・・誰にも会わず、このまま野垂れ死ぬのだろうか・・・)

 

ISに乗っている限り零が想像した出来事は起こらないが、月光りもロクに届かない海底を見ていたら、誰でもそういうマイナス思考に陥るだろう。

だが、そんなどん底にこそ可能性は秘めている物だと思う。

 

零(────? あれは・・・)

 

零の視界が捉えたのは、海底に沈んでいる"銀のIS装甲"だった───零はおもむろに手を伸ばした・・・

 

 

[ザッパアァァァンッ!!]

 

一夏・箒「!?」

 

福音『!?』

 

海上でエネルギー切れの一夏を庇い戦う箒。

そこに海から水しぶきが飛び、一瞬、戦闘が静止する。

 

零「まだ、終わってない!」

 

鈴音「勝負はこれからよっ!」

 

飛び出してきたのは、なんと第一形態時の『銀の鐘』を頭部に装着した『カスタムⅢ』と、その背に乗る『甲龍』だった。

他機の残骸から得た推進力で、一気に福音との距離をつめ、"双天牙月"を構える鈴音が乗ったまま福音に斬りかかる。

 

箒「っ・・・一夏、受け取れ!」

 

福音の気が二人に向かっている間を狙って、一夏の手を握る。突然の事だったので、一夏は一瞬、戸惑ったが、『紅椿』が黄金に輝くと戸惑いから驚きに変わる。

『絢爛舞踏』・・・『紅椿』の単一仕様能力であり、前代未聞の無尽蔵の回復機能だ。

 

一夏「エネルギーが、回復していく・・・!」

 

箒「一夏、行くぞ!」

 

一夏「あ、ああっ!」

 

詳しい話はよく分からない様子の一夏だが、それは置いておいてさっそく零と鈴音の救援に向かう。

そこに青い閃光が福音に向かって飛んでいく・・・これは、『ブルー・ティアーズ』のライフル射撃だ。

一夏は飛んできた方向に目をやったが、ハイパーセンサーを使用せずともそこにセシリアがいることが分かった。

 

一夏「みんな! 福音に一瞬でもいい、隙を作ってくれ!」

 

箒「ああ!」

 

鈴音「最初っからそのつもり!」

 

二人の呼応とともに、海からカノン砲とアサルトカノンの弾丸が福音を狙う。

そう・・・この戦場には、諦める人間など誰一人いない。

セシリア、シャルロット、ラウラが遠距離からの援護射撃により、福音の動きは制限され、そこに零+鈴音と箒が斬りこむ。

一夏は一瞬の隙を逃すまいと、距離を取って雪片を右手に構え、"雪羅"をカノンモードで待機させている。

 

鈴音「ああもう! ほんっと、チートみたいな奴ね! 零、アイツを羽交い絞めできる?」

 

零「後ろを取れる自信はありませんが、やってみせます」

 

鈴音「OK! 箒、聞いてたわね?」

 

箒『ああ、落合を援護する!』

 

『カスタムⅢ』から降りた鈴音は、衝撃砲を放ちながら突っ込み、零は後方で『銀の鐘』で援護する。

初めて使用する武装なため、弾雨は安定はしないが、牽制にはなっていた。

『甲龍』が接近してくるとそれに合わせて、福音も後退し始める。その距離感が『甲龍』と戦闘する上でもっとも有利になれるものだからだ。

だが、それをさせまいと鈴音とは逆の方向から、箒が斬りかかる。

 

箒「この距離は────」

 

鈴音「あたし達の得意分野よっ!」

 

箒の接近を許す福音に、また鈴音の接近をも許した。

福音は『銀の鐘』の攻撃を止め、格闘スキルだけで『紅椿』と『甲龍』の計4枚の刃と渡り合おうする。

しかし、どっちの機体も近接能力が高いため、すぐに福音は押され始めた。

 

零「今ならっ!」

 

二人の間に挟まって苦戦中の福音に、飛びかかる零────この時、特に鈴音は忘れていた。

 

シャルロット『ダメ! そいつから離れてっ!!』

 

福音『キアアアアアアアッ!』

 

鈴音「やばっ! コイツは確か全身から──────」

 

どこから来たか分からないご忠告は時すでに遅し。福音の全身から生えたエネルギー翼が、左右の二人と飛び込んできた零もろとも餌食にした。

 

一夏「みんなっ!」

 

上空で待機していた一夏が、すぐさま駆け付けようとするが、それをラウラが通信で止めた。

 

ラウラ『今は動くなっ!』

 

一夏「だが、あのままじゃみんなが────」

 

ラウラ『信じろ』

 

一夏「・・・」

 

ラウラ『信じるんだ。一人の躊躇いや疑いで、編隊は崩れ落ちる』

 

一夏「くそっ・・・!」

 

正義感の強い一夏には、戦闘の風景は胸を締め付けられるほど苦しいものだった。何故なら、友人である零が福音に拘束されて絶体絶命のピンチなのだから。

 

福音『~~~』

 

零「う、くっ・・・」

 

『銀の鐘』の根元部分を掴まれ、ぐぐぐっと福音が引き剥がそうとしていた。実際、頭を裂けられようとしていると同じ痛みが、零に襲っている。

その痛みから逃れるために足をバタつかせ、何回か福音にガンガンッと当たるが、ダメージはゼロ。

 

福音『~~~』

 

零「な、何なんだ、さっきから・・・この耳鳴りみたいなものは?」

 

福音『~~~』

 

何かを必死そうに訴えている・・・ように零は感じた。

頭部では取り付けた『銀の鐘』が、火花を散らして装甲から引き剥がされようとしている・・・と、その時、散った火花が左目の眼帯のゴムを焼き、左目が露わになった。

 

福音『助けてあげて』

 

零「ッ!?」

 

突如、聞こえた福音の嘆き。

 

福音『助けてあげて!!』

 

零「ッ・・・[コクッ]」

 

状況を飲み込めた訳ではない。ただ、助けを求める存在を見捨てないと、零は本音と会話をしたあの瞬間から心に決めたのだ。

ついに、『銀の鐘』が引き裂かられた・・・だが、同時に一瞬だけ隙が出来る。そこを狙って、"コピー"した双天牙月を両手に展開した。

 

零「ハァッ!」

 

叩き斬ったのはエネルギー体と化した『銀の鐘』だ。数秒もしたら復活するだろうが、数秒ものチャンスがある。

 

零「胸部装甲の中心、そこを狙えっ!!」

 

一夏「了解だぁっ!!」

 

福音を蹴飛ばして距離を取った零と、痺れを切らしかけていた一夏とが交代。零の助言どおり福音の胸部に荷電粒子砲を、至近距離で叩きつけた。

そこは福音にとって一番頑丈なところ・・・つまり、一番操縦者に危害を加えない箇所だ。

 

一夏「うおおおおおおっ!!」

 

荷電粒子砲を連射して共に、ある小島まで押し連れていく。そして、溜め込んでいたものを全てを吐き出すかのように、砂場に叩き付けられた福音に、本命の雪片弐型が胸部装甲の中心に突き刺される。

確かにそこの部分は頑丈で、雪片の切っ先しか装甲に突き立てられない。だが、ダメージは絶大だった。

 

福音『ガ、ガガ・・・[ブゥン]』

 

一夏「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・終わったな」

 

いつの間にか、雲は完全に夜空から退散していた・・・今度こそ、あの満月が勝利を祝福していることを信じて、皆、緊張を解いた。

 

 

【一夏SIDE】

 

長かった戦いもようやく終結した。『銀の福音』は機能を停止し、操縦者も無事とのこと。

俺達の中で大きな怪我を負った奴もいなくて、万事解決─────とは、いかない。

 

千冬「お前たちは独自行動により重大な違反を犯した。帰ったらすぐ反省文の提出と、懲罰用の特別トレーニングを用意してやるから、そのつもりでいろ」

 

全員「「「「「「「・・・はい」」」」」」」

 

戦士達の帰還はそれはそれは冷たいものだった。

腕を組んで仁王立ちする千冬姉の前に、大広間で全員正座。勝利の余韻にも浸れず、足に来る痺れが俺達を尚も襲う・・・といっても、箒はさすが剣道場の娘。姿勢がビシッとしている。

セシリアは・・・ああ、顔を真っ赤にしてる。ありゃ、そろそろ限界だな。

他のみんなも辛そうだけど、零に至っては顔面が福音に殴られて出来た痣が目立って、千冬姉に屈服されているビジョンが思い浮かんでくるぞ。

 

真耶「お、織斑先生? もうその辺で・・・ほら、怪我人もいますから・・・」

 

せっせと水やら救急箱やらをおろおろしながら、大広間と往復している。

その山田先生の宥めが効いたのか、熱くなっていた千冬姉がだんだんと冷静になっていった。

 

千冬「・・・ふんっ」

 

真耶「じゃ、じゃあ、少し休憩してから診断をしましょうか。ちゃんと服を脱いで全身見せて下さいね・・・あっ、男女別ですからね! 分かっていますか、織斑君!」

 

いや、そのくらい分かってますってば! で、何で俺だけなんだよ!?

零だってれっきとした男だろがっ!

 

零「信用ないですね」

 

一夏「遺憾だ・・・」

 

山田先生に頂いた水分補給パックを口に含む。どうも、さっきから鉄の味が口に充満していたから、しっかり口内の血を水と一緒に食堂へと流す。

その様子を、千冬姉が鋭い目つきでじっと睨んでいた・・・。

 

千冬「・・・」

 

一夏「な、なんですか? 織斑先生」

 

しまった・・・つい、口を開いてしまった。

さっきより目つきが鋭くなって、俺は叩かれると思って身を固める。しかし、俺と予感とは真逆の反応を千冬姉がした。

 

千冬「・・・しかしまぁ、よくやった。全員、よく無事に帰ってきたな」

 

全員「「「「「「「・・・」」」」」」」

 

すぐに背を向け大広間を出た千冬姉だったが、照れくさそうにしていたのは一目瞭然だった・・・俺は、心の中で感謝を述べた。

その後、女子たちは大広間で診断を受けるため、俺と零は男のため大広間から出た。

 

零「・・・」

 

そういえば、眼帯を外した零を始めてみる。前にちょっとだけその事について聞いてみたが、まず目を見られるのが嫌らしい。

だからなのか、眼帯を外していても左目だけピタッと閉じられている・・・まぁ、誰でもコンプレックスがあるものだし、見られたくないというのもおかしくない。

 

一夏「しかしなぁ、何でISが暴走したんだろうな。しかも軍のISなんだろ?」

 

零「さぁ」

 

一夏「まさか、誰かが故意的に暴走させたとか」

 

零「・・・」

 

そんな事、出来る人物とすれば思い当たるのは一人しかいない。しかし、それをする目的が分からないんだよな・・・。

あの人が箒を危険な目に合わせるとは思えないし・・・。

 

一夏「だけど、結果的にみんなが無事で良かったな・・・なぁ俺達、仲間を守れたよな」

 

・・・・・・・・・。

 

一夏「なぁ、零────あれ? アイツ、どこ行った?」

 

 

【投稿者SIDE】

 

束「『紅椿』の稼働率は、絢爛舞踏を含めて42%かぁ・・・まぁ、こんなところかな?」

 

旅館からそうは離れていない岬で、篠ノ之束は鼻歌を奏でながら空中ディスプレイを操作していた。柵に腰を掛けているが、一歩間違えれば命を落としかねない高さだ。

ウィンドウで出されているのは、妹の箒が駆る『紅椿』と・・・『白式』の第二形態の戦闘映像だった。

 

束「いや~、まさか『白式』にも生体再生機能が働くなんて・・・まるで────」

 

千冬「『白騎士』のようだな」

 

束「やぁ、ちーちゃん」

 

千冬「おう」

 

幼馴染の二人はけっして向き合わない。それは、お互いの顔を見なくても気持ちが通じ合う、不思議な間柄にあるからだ。

千冬は近くの木に背中を預ける。

それから、二人は今回の暴走事件の件や様々な話を、マジカルバナナのように続けた。

ある思惑からこの事件を引き起こした"天災"がいる・・・実は、今回の事件を起こした"天災"が、一夏のIS学園入学までのシナリオを画策した・・・。

話した内容はどんどん飛んでいくが、二人にしては普通なのかもしれない。途中、笑顔を浮かべ合うシーンもあった。

 

千冬「だが、一つだけ分かりねている事があるんだが、"相談"という形で聞いてもいいか?」

 

束「おお~! ちーちゃんから相談を受けるなんて、束さんは感激なんだよ~!」

 

束が柵に座った状態で体の向きを反転させる。そこで、初めてお互いが向かい合った。

 

千冬「私の知るその"天災"は突拍子もなく、予想だに出来ない行動をよくする」

 

束「うんうん! そうじゃなきゃ、面白くないもんね」

 

千冬「だが、落合零という存在はどうも分かりかねていてな。さて、どうして落合がこの筋書きに入っているか・・・お前の意見を聞きたい・・・ッ」

 

思わせぶりな口調で発言した千冬だったが、束以外の気配を感じ取って「しまった」という表情になった。

しかし、束は気にせず続ける。何故なら、感じ取った気配の正体は─────

 

束「それなら、ご本人に聞いてみようか~・・・ねぇ~?」

 

零「・・・」

 

陰から現れた零は、黙って千冬と束の間まで歩く。

零が千冬を抜かした時、千冬が背中から声をかける。先ほどまでのラフ感はなく、教師の声色だ。

 

千冬「落合、何故ここにいる?」

 

零「用があるからです」

 

いつもと纏っている雰囲気が違う事に千冬は、この時に気付いた。

零は、束を見据えて堂々と口を開く。

 

零「もし、先ほどにした織斑先生との会話は、事実ですか?・・・そして、今回の『銀の福音』の暴走事件、首謀者はあなたですか?」

 

「聞かれていたか」と心の中で舌打ちした千冬だったが、ここは場を静観した。

 

束「う~ん、そだね~・・・君には何か証拠があるみたいだから、それについて聞かせてもらえる?」

 

零「物的証拠はありません。証拠といえば・・・私が聞いた事、見た事です」

 

零のおかしな質問の返しに千冬は頭を傾げた。一方、束の瞳は先ほどよりもキラキラ輝いていた。

 

束「へぇ~、ぜひ解剖して調べたいなぁ~・・・その隠してる目も」

 

零「・・・」

 

束「いいじゃんいいじゃん! 私に見せたって減るものじゃないし~!」

 

ごねるた口調でねだる束に対し、零は一度訝しげに睨んだ後、そっと左目を開眼させた。

 

束「ワォ♪」

 

まるで新しい玩具を見つけた子供のように、表情から興奮を隠せていない。

千冬も木から離れて零の正面に回り込む。

 

千冬「ッ・・・」

 

千冬が逆に、驚きを隠せてないご様子。

零の左目は、先天性視覚障害と診断されて視力が無い・・・それは事実だ。

だが、その左目は眼球全てが赤く、ところどころにガラスの破片のような模様が散りばめられている。まるで架空の化け物が宿す狂眼。

そして、全てを見通されるのではないかと思わせる不可思議な印象を放っていた。

 

束「いや~、さっすが私の興味をそそるほどだね~!」

 

零「それで・・・僕の質問の答えは?」

 

束「うん♪ その通り♪」

 

零「ッ!」

 

屈託の無い笑みを見た瞬間、束から眼帯をかすめ取られたと同じ衝動に駆られた零は『カスタムⅢ』を展開。コピーしたままの双天牙月を投擲する構えを取る。

だが、今度は姉の千冬に、素手で静止された。

 

千冬「やめておけ・・・死ぬぞ」

 

零「・・・」

 

凄みがあってただのこけ脅しとも受け取れるが、零は忠告を素直に受け入れて矛を納めた。

 

束「そのISとも随分、相性が良いみたいだね。さっすが"単一仕様能力を発揮しただけあるね"・・・こりゃ、お仕事が増えちゃったぞ~!」

 

言い方は面倒そうなのに、声も表情も実に楽しそうだ。

満足したのか、柵に立つ束は最後にお月様を眺めて、「バイバ~イ!」と別れの言葉を叫んで飛び降りた。

 

千冬・零「・・・」

 

二人はその後を追わなかった。

 

零「・・・叫んでたんですよ、福音が」

 

千冬「?・・・叫ぶ?」

 

どうやら、零の言い回しでは、千冬に真意を伝えられたなかったようだ。まぁ零自身、それをぶつけようとは思ってなかったらしく、それ以上は口を開かなかった。

ただ一言だけ付け加えたのは────

 

零「あなたも同罪だ」

 

同罪・・・これは、福音の暴走を引き起こした張本人を知っておきながら、何も手を打とうとしない千冬に向けてぶつけられた。

 

千冬「・・・ああ、そうだな」

 

波が緩やかに岩場にぶつかり、気まずい空間とは逆に心地よいリズムをつける・・・

 

鈴音「待ちなさい、一夏っ!」

 

シャルロット「逃がさないよ!」

 

ラウラ「私というものがありながらっ!」

 

セシリア「ふふふっ、ふふふふふふふふふふふっ!!」

 

そんな時間が、一夏の断末魔の叫びで崩された。


 
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