No.692183

ALO~妖精郷の黄昏~ 第25話 帝立修剣学院

本郷 刃さん

第25話になります。
明日は投稿できそうにないので今日投稿しました。
今回も説明回に近いですが、原作と違う箇所もちまちまと・・・。
どうぞ・・・。

2014-06-07 11:49:33 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:10154   閲覧ユーザー数:9449

 

 

 

第25話 帝立修剣学院

 

 

 

 

 

 

 

キリトSide

 

俺がこの世界、UWにダイブしてから2年の時が流れた。

最初にルーリッドの村付近に降り立ち、ユージオに協力して『ギガスシダー』を切り倒し、

ザッカリアの街の衛兵隊に入隊するまでに半年を要し、衛兵隊の衛兵として職務を熟して推薦状を獲得するのにも半年、

そして現在俺とユージオが『帝立修剣学院』に入学してから1年が経過した。

 

俺たちがこの学院に入学した理由は自然に央都へ上がるためなのだから、

ある意味で目的の第一段階は果たしたといえる。

後は1年かけてこの学院でトップの成績を残し、ユージオを剣術大会で優勝させることが目的となる…。

それにしても現実世界では1日にも満たない程度だが、この世界では2年か…。

アスナとユイ、仲間たちに会いたいと思う俺の考えは悪くないはずである。

 

 

そんな俺は現在、目の前で剣を構える女性と対峙している。

彼女の名はソルティリーナ・セルルト。

ノーランガルス帝国貴族の嫡子にして、この帝立修剣学院の次席上級修剣士である。

流派は『セルルト流』であり、【歩く戦術総覧】と呼ばれるほどの実力を備えている。

そんな貴族の上級修剣士に、なぜ俺のような初等練士が剣を構えているのか。

それは俺が彼女の『傍付き』といういわゆる補佐兼世話係のようなものだからだ。

勿論、選ばれたからには文句はないし、彼女は出来た性格であるのでそれ自体も構わない。

 

「本来ならば私がお前に対して1年間の総浚いをしなければならないのだが、

 今日も胸を借りるつもりでいかせてもらうぞ、キリト」

「どこからでもどうぞ、リーナ先輩。最後なので、左手も存分に使ってください」

「最後、か……そうだな」

 

俺がリーナ先輩の傍付きになり1年、彼女はもう3日後には卒業であり、こうして剣を交える修練は本日を以て終了となる。

そのため、本来ならば1年間俺が学んだ事の総浚いとなるのが普通なのだろうが、

如何せん俺の力は彼女よりも強く、逆に俺がリーナ先輩を1年間指導する立場になるというおかしな状況になったものだ。

 

「では、行くぞ!」

「来い!」

 

俺が修練用である上物の木剣を構え、リーナ先輩も右手に木剣と左手を腰に添えてある鞭に手を置き、

言葉と共にぶつかり合った。

 

 

結果は俺の勝利。

幾ばくかの木剣と鞭による攻撃を防ぎ、躱し、流すことでこれまで彼女が積み上げてきた成果を知った。

だからこそ、俺はリーナ先輩にならば、主席の彼を倒すことができると確信した。

 

「はぁ、はぁ…最後の稽古も、ふぅ…勝てなかったな…」

「さすがに勝ちは譲れませんよ……ですが、リーナ先輩ならばウォロ主席上級修剣士に勝利することは可能です。

 それは今日まで貴女を鍛えてきた俺が保証します」

「そう、か……お前にそう言ってもらえるのなら、確かにそうなのかもしれないな…」

 

負けはしたものの、嬉しそうに話す彼女はスッキリとした感じだ。

以前に行われた学内での試合の際、先輩はあと一撃が届かず、

惜しくも主席上級修剣士であるウォロ・リーバンテインに敗北した。

だがその時の戦いも俺から見れば勝つことは不可能ではなく、押し込まれた感じが強かったことを覚えている。

それから一時が経過した今ならば、彼女が彼に勝つこともできるはずだ。

 

「結局、1年間1度もお前に勝つどころか、本気を出させることも出来なかったか…。

 キリトいまだからこそ、私はお前に話しておきたいことがある」

「はい」

 

リーナ先輩の言葉に俺は真面目に聞き入ることにした。

 

1年前、彼女が俺を傍付きに指名したのは剣風に似たものを感じたからだと言う。

学院の制式剣術であるノルキア流とは違い、俺の剣は見せる為ではなく勝つ為の剣術だと。

リーナ先輩は自身の扱うセルルト流を実用剣術であると言ったが、

俺たちのアインクラッド流と比べれば甘いのだと実感したらしい。

 

彼女の家、セルルト家は遠い先祖が皇帝の不興を買ってしまい、

正統剣術である『ハイ・ノルキア流』の伝承を禁じられたとのこと。

そのため、鞭や短剣といった変則的な武具、柔の技に頼る剣術へ工夫し、現在の『セルルト流』へ至ったようだ。

 

けれど、リーナ先輩自身はそれに対して不満はなく、流派唯一の伝承者であることを誇りに思っているという。

しかし、彼女の父はリーナ先輩が学院を主席で卒業、御前試合を優勝し、家の名誉を回復することを期待しているらしい。

だが彼女は、仮に皇帝から赦しを得ることが出来たとしてセルルト家がセルルト流を捨ててしまうのではないかと思っており、

そうなったらいままでセルルト流を誇りとしてきた自分の思いは、

掛けてきた時間はなんだったのかと、そう考えてしまうようだ。

 

リーナ先輩はこの迷いを入学以前から抱えていたらしく、

その影響なのかハイ・ノルキア流の使い手であり、ノーランガルス北帝国騎士団剣術指南役である二等爵家の跡取りでもある、

主席上級修剣士のウォロ・リーバンテインに敗北を続けていた。

まぁ、俺が彼女に指導をつけてからは段々と差を縮めているのは間違いないのだが…。

しかし、俺の目から見ても元々リーナ先輩もウォロ主席もそこまでの差はない。

ならばなぜか、その答えは俺どころか彼女自身も分かっていた。

 

ハイ・ノルキア流奥義《天山烈波(てんざんれっぱ)》、ソードスキルでいうところの両手剣スキル《アバランシュ》。

リーナ先輩はこの技の構えに相対すると身が竦んでしまうらしく、この技を受けきれるという確信を抱けないというのだ。

それは、この学院に入学してからずっとらしい。それは一種当然の理である。

 

このアンダーワールドは『ニーモニック・ビジュアル・データ』によって構成されているのがほとんどだ。

よって、イメージ力は物事の結果を左右する巨大なファクターとなる。

その影響により、個人の意志次第では相手が強者であっても容易に打ち破ることが可能となる。

(詳しくは原作10巻を参照せよ)

 

セルルト流に対する引き目と迷い、ハイ・ノルキア流に対する思いとウォロ主席の実力、

これらが付きまとうことこそ、リーナ先輩の敗北に繋がっているということだ。

そんな彼女は独自流派を扱う俺とユージオを見てきたことで、

俺たちは正統流派の者たちに引け目を感じていないことを確信したという。

同時に、俺が本気をまったくもって出していないことも分かったとのこと。

 

だからこそ、俺の本気を、剣士の全てを見てみたいと言った。

ウォロ主席との試合など関係なく、学院を卒業する前に俺の力を知りたいと。

話しを聞き終え、俺は微笑を浮かべる。

 

「解りました。明日の同じ時間、現状の俺(・・・・)が使える最高の技をお見せします」

「そうか…あ、だが、明日は安息日だ。この修練場の使用は勿論、稽古は禁じられている」

「確かにそうですね。ですがこの提案は稽古ではありません。

 この学院では修剣士が卒業する前に、傍付き練士が贈り物をする慣習があると聞きました。

 それに則り、俺の贈り物は剣技にします」

「まったく…。変わらないな、キリトは…」

 

俺の提案に苦笑するリーナ先輩だが、本人も乗り気ではあるようだ。

そこで彼女から聞かされたもう1つの事実があった。

本来、貴族の子女が傍付き練士を指名する際には同じ貴族で、

しかし等級が自分よりも低い身分の者を選ばなければならない、

という慣習があるのだが彼女はそれを破って庶民である俺を選んだという。

一瞬、理由を聞こうと思ったが、それは野暮だと思い聞かないことにした。

話しが終わったところで最後の修練を終えた…。

 

 

 

 

俺とユージオを含む初等練士たちが生活する寮が規律に厳しく、寮の規則として必ず報告しなければならない。

まったくもって実に面倒臭いことである。

入り口の両開きの扉を開き、入ってすぐ右側にあるカウンターへと歩み寄り、

奥に座る女性へ左手を左腰に、右拳を左胸にあてる『騎士礼』なる姿勢を取り報告する。

 

「キリト初等練士、帰着しました」

「刻限から27分、遅れているようですが」

 

寮監を務めているアズリカ女史がシステム外スキルを用いてか、正確な時刻を告げてくる。

リーナ先輩の修練に付き合い、時間が長引いたことを伝え、

幾ばくかの注意とお小言を貰いながらも、夕食に遅れないようにということで今日は解放された。

 

俺が使用している2階の206号室は10人部屋となっており、ユージオも同室で他の8人も気の良い奴らである。

部屋に入るとユージオが待っており、悪いと声を掛けてから自分のデスク一体型ベッドに座り、

道具類を引きだしの中にしまう。

なんでもユージオも20分ほど遅れたらしく、彼も指導役である修剣士の話に付き合っていたという。

 

既にユージオは19歳を迎えており、身長も体つきも2年前よりも少々逞しくなっている。

また剣の実力も高等練士を超え、上級修剣士でさえも超えているだろう。

それを知るのは俺と彼の指導役であるゴルゴロッソ・バルトー上級修剣士だけだろう。

まぁ俺も2年間分の成長を遂げているのだが、現実世界に戻ってもなんの意味もないので虚しいなと感じている…。

その代わり、この世界で磨いた剣の腕前は現実世界やALOでも活かせる確信はある。

 

それから雑談を交わしながら食堂へ向かい、カウンターで夕食のトレイを受け取り席につく。

午後6時の鐘が鳴り、寮長である男子生徒が立ち上がって公理教会への祈りを捧げ、

全員で「アヴィ・アドミナ」という聖句を唱和してから食事が始まる。

 

夕食が始まり、周囲が雑談を交わし始めた頃、俺とユージオの後ろの席から声が聞こえ始めた。

 

「羨ましい限りですなぁ、ライオス殿!

 我らが苦労して掃除した食堂に、後から悠々とやってきて食べるだけとは、羨ましいですよ」

「そう言うな、ウンベール。傍付き練士の方々にも苦労というのがあるのだよ」

「それもそうですな。傍付きは指導生に言われるままになんでもしなくてはならないそうですし」

「平民出や禁令持ちに指名された日には、何をさせられるのやら」

 

嫌味ったらしくネチネチとした話し声に俺もユージオも慣れたもので、

いつも通りに2人して無視を決め込み、黙々と食事を取る。

 

緩く波打つ金髪を背中まで流しているのはライオス・アンティノス、三等爵家の長子。

もう1人が灰色の髪をオールバックにしているウンベール・ジーゼック、四等爵家の出。

つまり、ザッカリア剣術大会の折に俺が対戦したイゴールと同じく、

貴族であることを鼻に掛ける典型的な奴らと言えよう。

 

奴らは成績を常に20位~30位をキープしているが、俺の予想では手を抜いていると考えている。

この2人は異常にプライドが高いように思え、ワザと成績を上の中に抑えているのだと思う。

確かに入学試験の際に上位12位に入れば、傍付きという学院においては名誉な事柄を受けられるだろう。

しかし、無駄にプライド高いこの2人である…おそらく、傍付きになり指導生に命ぜられるのを嫌ったのだろう。

そう考えれば納得がいくからな。

それに、あの2人の実技の際に見せた型は、高等貴族ゆえの絶対的自負とイメージによる威力の増加を感じた。

よって、俺の中ではこの学院内における要注意人物でもある。

ま、普段はシャーロットに監視を頼んでいるし、仮に戦うことになっても俺は負けるつもりは毛頭無い。

 

 

食事を終えた俺たちはトレイをカウンターに返し、さっさと食堂をあとにした。

食堂を出てすぐ、俺はある日課を行うためにユージオを伴い中庭へと向かった。

そこは授業で使用する触媒の草花が育っている場所だ。

俺はそこを借りてプランターでアンダーワールド独自の花である『ゼフィリア』を育てている。

 

このゼフィリアという花なのだがノーランガルス北帝国では自生はおろか栽培もされておらず、

ウェスダラス西帝国の固有種らしい。

そのため、俺は当然ながらユージオも、そして北帝国の住人もほとんどが見たことがないという。

しかしその花は大変美しいと聞く。

 

俺はこの世界でのイメージ力による事象の変化がどれほどのものなのかを検証するために、香辛料商人から種を買い込んだ。

“ゼフィリアは西帝国でしか咲かない”という世界の住人の常識を、

俺のイメージ力を以てして打ち破り、咲かせてみせようと思っている。

 

とはいえ、既に3回失敗し、今回の4回目の種が最後のものだ。

しっかりと育っており、もうすぐ蕾が開いて花が咲くところまできている。

毎朝毎晩のイメージと水やりをしっかりとしてきた賜物であると自信を持って言える。

ユージオも付き合ってくれているので、ありがたい限りだ。

ま、ユージオはこれがゼフィリアの種であることは知らず、ちょっとした勉強ということで育てている。

 

水を上げると蕾が仄かな光を宿し、すぐに消えた。

この現象は芽が出てから起きており、シャーロットに聞いてみようかと思ったが、

彼女のイメージが混ざっても厄介なので花が咲いてから聞いてみることにしようと考えている。

 

「さて、そろそろ戻ろうか。今月の検定試験で12位以内の成績を取らないといけないから、勉強しないとな」

「キリトは大丈夫だよ。実技は勿論、筆記も完璧で、神聖術も基礎はしっかりしているし」

「それを言うならお前もだろ」

「キリトのお陰さ。アインクラッド流の戦い方、

 筆記試験の出題範囲の予測も完璧、神聖術の基礎も一緒に練習してくれたし」

 

ALOの経験を活かし、俺は神聖術における基礎を全て熟している。

円滑に事を進めるにはなるべく万能であった方が良いし、なによりもやはり興味がある。

俺は知識欲が深いからな。

 

「そういえばキリト、ついに明日だよね。アレ(・・・)が完成するの」

「あぁ。アレ(・・・)を使ってリーナ先輩にアインクラッド流の神髄を見せることになっているんだ」

「それはまた……でも、『エリュシデータ』の方じゃなくていいのかい?」

「そっちは秘策中の秘策だからな。みんなには内緒だ」

「だね」

 

明日、俺たちが待ちに待ったある物が完成する。

それを含めて明日を楽しみにしながら、俺たちは中庭を後にした。

 

 

 

 

翌日。安息日である今日、俺とユージオは持てる全ての金銭を持ち、『サードレ金細工店』に訪れた。

この店の主人であるサードレさんこそガリッタ翁の友人であり、

ギガスシダーから切り出した枝を加工してくれる人である。

俺たちがセントリアに訪れた時、この店に立ち寄ってギガスシダーの枝を渡し、

彼が最高の剣を作ってくれるということになった。

その時に1年待ってくれと言われ、丁度1年後である本日、俺たちは再びこの店を訪れたのである。

 

しかし現在、俺たちはお小言を受けている…というのも、黒煉岩と呼ばれるものの砥石を使用したそうなのだが、

本来ならば1つで3年間は使えるはずがこの1年間で6つも使い物にならなくなってしまったという。

彼の話をルナリオやリズが聞けば激しく同意しそうな気がする…。

 

「それに関しては誠に申し訳なく思います。すみませんでした」

「す、すみませんでした」

「む…」

 

ルナリオやリズの話を聞いたり、師匠の付添いで現実世界の刀匠に会ったことがある身な為、その苦労が窺い知れる。

だからこそ、俺は素直に頭を深く下げ、ユージオも続いて頭を下げた。

これにサードレさんは毒気を抜かれたような気配がする。

直後、サードレさんが何かをカウンターに置いたようで、俺たちに頭を上げるように言い、

揃って頭を上げてみると細長い布包みが置かれている。

 

「研ぎ代の話だが……若いの、お前さんがこの化物を振れるならタダにしてやる」

 

サードレさんの提案は魅力的であると同時に、化物ならばそれこそ俺に似合うだろうと思った。

SAOとALOにおいて、俺は魔剣と称される魔性の剣を幾度となく手にしてきた。

 

『エリュシデータ』、『ダークネスペイン』、『アビスディザイア』、『魔剣カラドボルグ』、

どれも俺を満足させ、楽しませてくれる魔剣たちである。

そして、いま布に包まれているであろう剣も、魔性の剣であることは感じ取れる。

なればこそ、持ってみたくなるのが剣士の性!

 

布を外し、中から剣を取り出す。

柄頭(ポメル)はシンプルな錘型、握りには細く切った革が密に巻かれ、ナックルガードは少し小ぶり、

柄全体が透明感のある漆黒であり、鞘も黒仕立てというもの。

黒革の鞘から剣を抜き放ち、重い音と共に深い黒のでありながら僅かな透明感を残した刀身が現れる。

陽光を内部に取り込むことで僅かに金色を呈するようだ……オーソドックスな片手用直剣だが、

幅は少し広め、鎬のエッジが明確に立ち、刃の鋭さは言うに及ばず、光さえ切り裂いてしまいそうで反射光が見えない。

馴染む、どこまでも深く、俺の身に交わるかのような剣だ。武者震いを押し込め、静かに佇む。

 

「振れるかね?」

 

サードレさんの言葉に答える代わりに店内を見渡し、客がいないことなどを確認する。

試し振りをするに十分そうな5メル(5m)以上の空間を作り、基本である片手縦斬りの構えを取る。

正面の壁に飾られているバックラーを仮想ターゲットとし、剣を振りかぶる。

全力とは言わずとも、尽くせる限りの力で剣を振り下ろす。

 

「フッ!」

 

鋭い踏み込みと気合いに乗せて解放する。

瞬間、俺は今までにない力の抑揚を感じた。いや、似た物を感じたことならばある。

初めて『覇気』に至り、『覇王』と呼ばれるようになったその2つに類似している。

つまり、新たな位階へと、至ったというのか…?

 

そう考えていたが空気を切り裂く音が響き、床を鳴らした。

ユージオの拍手が鳴り、サードレさんが納得したかのように、鼻息を鳴らした。

 

「素晴らしい剣です」

「ふん、当たり前じゃい。約束だ、研ぎ代は要らん。出世でもした時にウチの名を広めてくれればいい」

「「ありがとうございました!」」

 

俺たちは同時に頭を下げ、大きく礼を言った。

気分を良くしただろうサードレさんに銘は自分で付けるように言われたので考えておくとしよう。

 

なお、帰る前に俺が放った剣撃の影響なのか、バックラーが真っ二つに切れてしまうという惨事が起こった。

サードレさんは弁償金を要らないと言ったが、剣の研ぎ代とは別なので、俺はしっかりと弁償金を渡した。

 

 

店から出てしばらく歩いた後、黙り込んでいたユージオが口を開いてきた。

 

「ただの試し振りに奥義を使う必要はないだろう!

 店の中であんなことしたら、商品に疵が付くことくらいキミなら簡単に想像できるはずじゃないか!」

「ユージオ」

 

怒涛の勢いで言い切るユージオだが、俺は有無を言わさないように強く名を呼ぶ。

さすがに怯んだ様子だが、説明くらいさせてほしいものだ。

 

「言っておくがな、俺は奥義を使っていないぞ」

「いいや、僕は見たよキリト。振り下ろした瞬間に刀身がちょっと光ったからね。

 僕がまだ知らないアインクラッド流の奥義としか思えない」

「ふむ、お前は俺がただ剣を縦に振り下ろしただけなのに、それが奥義だとでも?」

「え…? いや、でも、確かに光って…」

 

俺がただ剣を縦に振り下ろしただけであることに気付いていなかったようだ。

 

「確かに刀身が発光したのは俺も気付いたよ。

 だがな、ユージオ……奥義が発動するのは構えを行った時点であって、

 振り下ろしている途中に光り出すことがないのはお前も知っているだろう?」

「あ…。そういえば…」

 

そう、ソードスキルの発動の際、構えの段階で刀身が仄かに発光を始める。

だが、今回の場合はそれとは違い、振っている途中で刀身が仄かに、一瞬だけ発光したのだ。

それは俺も横目で確認していた。

 

「それに、俺はアインクラッド流の奥義は全て記憶している。

 その中にあんな技がないのは俺自身が一番良く知っているよ」

「それじゃあ、さっきのは…」

 

困惑しているユージオ。こういったイレギュラーに慣れないのは変わらないな。

 

「可能性の話だが、一定の高みにまで上がることができれば、今日のようなことを起こすことができるのかもしれない。

 特に、自身の在り方や勝利を強く想像すれば…」

「そんなことが…」

「あくまでも可能性の話だ。これは俺の方で検証してみるから、何かわかったら伝えるよ」

「うん。僕はそういうの良くわからないから、キリトに任せるよ」

 

先程のことは秘密にするということで話しを終え、俺たちは学院へと戻った。

 

キリトSide Out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

というわけで、キリトとリーナ先輩と稽古をする話と『夜空の剣』を手に入れる話でした・・・銘はまだですがね。

 

ここでの原作との相違点を上げるとすれば、1・キリトがソルティリーナを鍛えている、

2・キリトはソルティリーナに1度も負けていない、3・キリトもユージオも神聖術の基礎はできている、

4・細工店での出来事に対してキリトが明確に剣術ではないと示している、ということですね。

 

さて、次回はキリトVSウォロになりますが、勿論決闘の結果は原作と異なります。

 

無論そのあとの出来事なども・・・では、次回をお楽しみに。

 

 

 

 


 
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