何度も記憶がリターンしてくる。
「お願い!ジョイさん出てきて!ここを開けて!無視しないで!」焼肉バイキングやステーキハウスが大好きな広ちゃんの悲痛な叫びが今でも脳裏を横切るような思いだ。彼女は、あの娘は、あの当時は、本当にジョイさんのことが大好きだったのだろう。だから、ああして、大声で叫びながら、自分を冷たく見捨てたブルジョア階級の女結婚詐欺師ジョイさんの邸宅の扉を呼び鈴を押し続けながら何度も激しく拳で連打し続けていたのだろう。
あの時、一人のある崇高な魂の困った人を見ていると黙っていられないまるで天使のような女性、広美ちゃんの悲痛な叫びが山の手の高級住宅街全域に響き渡っていたのだ。
ジョイさんにとって、30万円という金額は、トイレットペーパーのようなはした金に過ぎなくても、あの娘にとっては、その金額を捻出することに対しては、断腸の思いだったと思う。自営業の母親から渡してもらったお金だったが、ブルジョア階級のジョイさんほど儲かっているようにはどうも見えなかった。なので体の大きな広ちゃんからしたら、ジョイさんに捨てられたくない一心で必死で親に頼み込んで有り金を叩いたというのが正真正銘の真実だと思う。
また、ここで、当時のジョイさんの山の手高級邸宅の部屋の中の様子を説明すると、まず応接間はピカピカのフローリングの床で大きくて真っ白なグランドピアノが置かれており、そのすぐ傍には有名なハンサム金髪ピアニストの“リチャード・クレイダーマン”のポートレートが飾られていた。きっとジョイさんがファンだったのだろう。
また、その他にも窓際には大きなヨーロピアン風のいかにも高そうな大きな花瓶とそれを受ける高級そうなガラスかクリスタル製の受け皿、そしてその受け皿の上にはたくさんの薄いピンク色の薔薇の花弁の形をした石鹸が散りばめられていた。さらに、二階に上がって行くための階段の途中の踊り場の壁に大きな四角の凹みがありその部分に押し込められる形でギリシャ調の大きな頭部の石造が掲げられていた。
これらの様子を一言で分かりやすく言うなら、まるでジョイさんの暮らす邸宅の中は、少女漫画の“ベルサイユのばら”の世界だった。
以上は、ジョイさんが山の手で暮らしていた最初の邸宅の中の様子だ。次に引っ越した先の邸宅も似たような感じだったと思うが、違うところは、2階ではなくて、3階まで部屋があり、3階部分にはお風呂が備え付けられていた。
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