No.69004

ワールドエンド 2

篇待さん

ロボが好きすぎてむしゃくしゃしてやった。反省はしていない。

2009-04-16 21:16:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:652   閲覧ユーザー数:617

 勝負は実にあっけないものだった。弾幕によって進路を誘導され、待ち構えていた最後の1機によって捕縛。実に息の合った、見事な作戦であった。

 キャンサーから伸びるアンカーで潜水艇は固定され、そのまま彼らの母艦へと連行されていった。そうして少女の任務は失敗に終わり、逃亡もまた失敗に終わった。

 カメラが破壊され、真っ暗になったスクリーンを眺めて彼女は溜息をついた。捕虜の扱いには一応の条約があったが、それがどれほどの役に立つことか。

 海の底は暗く、彼女の気分もまた暗かった。

 

 頭の後ろで手を組みながら、潜水艇から出る。出迎えは武装した兵士が五人。幼そうな顔立ちの者ばかりではあったが、銃口の前ではそんなものは関係ない。トリガーを引けば園児でも巨漢を殺せるのだ。

「あんた、地上の人間だよな?」

 男の一人がそう問いかける。答えるべきか迷って、少女は眉を寄せた。もはやこの世界に国家は、地上の『アガルタ』、海底の『ワールドエンド』の二つしかない。ならば問いかける意味はないのだ。味方でないものはすべて敵なのだから。

「あなた方は海底軍ではないのですか?」

「ありゃりゃ……質問に質問で返されちまった。地上の人間はずいぶんお上品な教育を受けてんだなぁ」

 少女は内心焦りを感じていた。この船は正規軍のものでは無い可能性が高くなってきたからだ。たしかにこの世界には国家は二つしかなく、軍隊もまた二つしかない。しかし、それは正規軍に限った話である。つまり盗賊、海賊の類は小勢ながら存在しているのだ。

 そしてここがもしも海賊の船なのだとしたら、もはや両国の条約などなんの意味も無い。身包みはがれて殺されるか、どこかの変態に売られるか。とにかく碌な未来ではない。

「まぁ、ご想像のとおり俺たちゃ海賊だよ。でも安心しなって。とって食ったりしねえからよ」

 肩をすくめて、男は笑った。そのちゃらけた仕草を半眼で眺めながら、少女は言う。

「シゼル・オールディス。地上軍伍長。これ以上は何もしゃべりません。海賊に通じるか分かりませんが、ジュネーブに則った捕虜の扱いを要求します」

 

 そうしてシゼルは独房へと連行された。暗く空気の淀んだ場所。それは、まさに海の底と呼ぶに相応しい場所に思えた。

「そんで地上ってどんなとこなのよ?」

「黙秘します」

 椅子の背もたれ側を前にして座った男が、にこやかに問いかけてくる。イオンと名乗ったその男は、どうやらこの船の船長らしかった。しかし、船長らしき威厳は微塵も感じられず、ただ軽薄な印象のみをシゼルには与えていた。

「俺ら気ままな自由業だけどさ、まだ地上って行ったことねえんだよなぁ。やっぱアレ? 空気がうめえの? うまい空気ってのは想像できねえなぁ」

「黙秘します」

 かれこれ一時間ほどこうした不毛なやり取りが続いていた。捕虜に対する虐待などはなかったが、これはもう拷問なのではないか、とシゼルは思いはじめていた。それほどにイオンの会話に意味はなく、尋問、拷問の類を想定していた彼女を脱力させていた。

 そんな状況に気が緩んだのだろうか、シゼルの腹の虫が盛大に鳴き、独房内に響いた。あまりの恥ずかしさに頬を染め俯く。

「そういやぁそろそろメシの時間だなぁ……ウチにはクソ不味いパンしかねえけど、まぁ我慢してくれよ」

「か……感謝します」

 蚊の鳴くような声で謝辞を述べる。

 と。

 まるでその声に呼応するかのように、警報が鳴り響いた。

 恐らく、敵襲。

「しょうがねえなぁ……まぁヒマな奴にでもパン持ってこさせるから、ゆっくり食って待っててくれよ」

 そう言って、イオンは独房を後にした。シゼルはひとり、暗い世界に残される。

 果たして警報が鳴るような状況でヒマな奴などいるのだろうか。空腹を訴える腹をさすり、シゼルはひとりごちた。

 


 
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