No.689479 欠陥異端者 by.IS 第十三話(逃げ場なんて無い)rzthooさん 2014-05-26 20:48:03 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:941 閲覧ユーザー数:909 |
【箒SIDE】
箒「・・・」
旅館の一室。壁に掛けられた時計の針は、丁度、四時を指している。
目前にはもう三時間以上も眠りから覚めない一夏が、静かに布団の上で寝ていた。一夏の身体には包帯が巻かれ、『銀の福音』との戦闘の傷が生々しさ伝わってくる・・・こんな状態に追いやったのは、紛れもなく私だ。
箒(何のための鍛錬だったんだ・・・!)
私には昔から悪い癖がある。強い力を得た時、自分が周囲より勝っていると気づいた時・・・その力を誇示したいがために、視野が狭くなってしまう。剣道とは、それを抑止力を鍛える手段なのだ。
だが、先の戦闘で私は浮かれていた・・・ようやく『紅椿』が手に入れる事ができ、その力に溺れていた。それを一夏は気付いていた。
戦闘空域に密漁船を発見した時、私は「犯罪者なのだから守る価値がない」と認識した・・・だが、一夏は私と違う認識をし、違う行動を取った─────守ろうとしたのだ。
今でも一言一句覚えている・・・あの時の事を。
箒『馬鹿者! 犯罪者などを庇って・・・そんな奴らは───!』
一夏『箒!!』
箒『ッ────!?』
一夏『箒、そんな・・・そんな寂しい事は言うな。言うなよ。力を手にしたら、弱い奴の事が見えなくなるなんて・・・どうしたんだよ、箒。らしくない。全然らしくないぜ』
箒『わ、私、は・・・』
あの時の声掛けでようやく我に返れたのだ・・・しかし、遅すぎたのだ。
その時にはもう『紅椿』はエネルギー切れを起こしていた。同時に福音が私を狙っていた・・・私は救われたのだ、一夏に。また救われたのだ・・・。そして一夏は・・・。
[ガラガラッ]
零「っ・・・」
箒「っ・・・」
今まで我慢していた悔しさ、惨めさ、後悔が涙として頬を伝った時、青ざめている零が入室してきた。
今は室待機の命が出されているが、どうやら零は無断で一夏の様子を見に来たらしい。
零「・・・あ、あの───」
箒「ッ・・・!」
何も聞きたくない・・・今は誰とも関わりたくない・・・そんな身勝手な気持ちだけが、私を突き動かし、逃げるように室を出た。
箒(わたしは・・・これから、どうすれば・・・)
行ける場所といえば、待機を命じられている自分が寝泊まっている部屋だ・・・いや、もうそこにも行きたくない。
結局、辿り着いたのは浜辺だった。海面が夕日の輝きによって芸術的な絵になっているが、あの夕日の先に『銀の福音』がいるかもしれない・・・そう思うと、この景色も空虚なものに見えて仕方がない。
鈴音「あー、あー、わっかりやすいわねー」
箒「・・・」
鈴音「無視? ほぉ~・・・あのさぁ、一夏がああなったのって、あんたのせいなんでしょ?」
そう・・・まったくその通りだ。
私を庇ってせいで福音の攻撃によって、一夏は昏睡状態に陥ったのだ・・・ISの絶対防御だって完璧じゃない。
相殺しきれなかったエネルギーは、衝撃として操縦者を襲う。それが強ければ強いほど、ISは操縦者を保護するために仮死状態にしてしまう。
それだけの被害を受けたのだ、一夏は・・・。
鈴音「で? "絶賛、落ち込んでいますよぉ"のポーズ?────っざけんじゃないわよっ!」
烈火のごとく怒りを露わにした鈴は、背を向けていた私を無理やり肩を引っ張り正面を向かせ、胸倉を掴まれた。
さすが代表候補性・・・肉体的な力も鍛えられていて、軽々と私を掴み上げ、必然と爪先立ちになる。
鈴音「やるべき事があるでしょうが! 今、戦わないで、どうすんのよ!?」
鈴の言いたい事は分かる・・・一夏をああしてしまった原因が私にあるのなら、最後まで戦い続けなければならない─────だけど、それを受け入れられない。
箒「ISは・・・もう、使わない・・・」
鈴音「ッ・・・!」
目を見開いた鈴は、わなわなと胸倉を掴んでいた腕を震わせ、ゆっくりと掴んでいた制服から手を離す。
これしか言えなかった・・・私にはもう、力を持つ資格も、戦う資格も─────
[バチンッ!]
鈴音「甘ったれてるじゃないわよ!!」
平手打ちを私の頬に決めた鈴の頬には、止めどなく涙が流れていた。
本当は、出来る事なら私に変わって一夏と出撃したかったのだろう・・・いや、一夏と変わってあんな事態を防ぎたかったのかもしれない。
私もそうだが、一夏は元一般人だ。それなのに、こんな命懸けの作戦に参加することになった・・・何であの時の私は、こういう事態を想像できなかった! 想像できたなら、少なくても浮かれてなかった・・・!
鈴音「戦うべき時に戦えない、臆病者が」
激怒していた先ほどとは裏腹に、静かに罵るような口調で言い放たれた。
臆病者・・・? 私は臆病者なのか!?・・・あまりにも、ストレート過ぎる単語に私は膝をつく。
箒「ち、違う・・・私は、臆病者では────」
鈴音「臆病者よ。ずっと後ろしか見ないで、一歩を踏み出すのを恐れてる引き篭もりよ!」
反論したい・・・だが、鈴の言うこと全てが私の心に深く突き刺さって、それをさせてくれない。
鈴音「アンタ、"剣道"やる時、いちいち後ろを確認して安心を得ないと出来ない訳!?」
箒「ッ・・・だったら、どうしろというんだ!?」
もうボロボロだ・・・! もうどうにでもなれ・・・!
投げやりにも似た気持ちで、自分でも気付かなかった思いをボロクソに吐き出した。
箒「もう敵の居場所も分からない! 戦えるなら、私も戦う!」
ただ怖い・・・一夏のように犠牲となる人を見るのも、力に溺れていく自分も。
鈴音「・・・はぁ~、やっとその気になったみたいね。あ~あ、メンドくさかった」
箒「な、なに?」
鈴音「敵の居場所なら分かるわ。今、ラウラがドイツの軍隊の協力を得て、衛星から捜索してる・・・つまり、戦うチャンスはあるのよ」
情けなく膝をついている私に、手を差し伸べる鈴。
鈴音「さぁ、行くわよ。あたしだって、このままじゃ終われないもの・・・力を貸して、箒」
小さな手、細い腕、私と歳の変わらない少女・・・こうまで強い目をしているのが羨ましく思えた。
鈴の手を握ると、力強い握力が私の手に伝わってくる。だから、私も全力で握り返した。
【零SIDE】
零「・・・」
篠ノ之さんが逃げるように出ていった後、私は一夏さんの枕横に腰を下ろし、未だ目覚めない一夏さんの顔を眺めていた。
部屋で待機との命令が出ているが、たった一人で─────(ちなみに、山田先生と同室)─────いると悶々として、頭がどうにかなってしまいそうだったため、命令をやぶってまでとりあえずここまで来てしまった。
零(そういえば、篠ノ之さん、リボンどうしたんだろうか・・・)
いつものポニーテールではなかった・・・記憶をガサガサと探っていくと、一夏さんがストレッチャーで運ばれた際にはもう、髪はおろされてたので戦闘中に無くしたのだろう
・・・そう思うと、あの時の事を思い出して余計に鬱になってきた。
密漁船の存在─────あれは、戦闘空域周辺をレーダーで監視していた私が、早急に見つけなければならなかった。もし、見つけられて対処されていれば─────
零(何で密漁船なんかを助けたんだ・・・?)
一夏さんらしい行動ではあったが、そうまでして自分の命を張れるのかが分からない。
零(・・・あなたは、自分の身を大事にしなさ過ぎる)
誰かを助けるために、自分の命すらも賭けるその精神には、私にとって理解できないものが多すぎた。
シャルロット『お願い、落合君。君の力を貸してほしいんだ』
セシリア『お願いしますわ』
ここに来る前、デュノアさんとセシリアさんから福音との第2回戦を始める話を聞かされた。そこで、私の力が必要だと・・・。
零(・・・無理だ。私には出来ない)
『カスタムⅢ』と『銀の福音』の相性では、圧倒的に『銀の福音』が有利で『カスタムⅢ』の能力を発揮できる場面もない。
それに私の専用機はチームプレーに向いていないんだ・・・だから、私が戦場に出ても足手まといなだけ─────と、これが論理的な理由。
零『怖いんです・・・』
そう、ただ戦うのが怖いのだ。一夏さんがこんな状態になったのを目撃なったら、尚更その恐怖感が煽られ、増大され、もうそれだけで胸がパンクしそうになる。
そんな子供みたいな理由を論理的理由で隠し、いかにも私は正論を言ってます風に、昔まではそんなやり方をしていたのだ・・・かっこ悪い。
零『・・・すみません』
セシリア『ちょっと、待ってくださいな。なら、何故あの時は助けてくれましたの!?』
シャルロット『セシリア、もうよそうよ』
セシリア『答えて下さい!!』
あの時、私は何も答えずここまで足を運んできたが、ラウラさんとの一件と今の状況は違いすぎる。
二人がラウラさんに滅多打ちに遭っていた時に、間に割って入れるのが私しかいなかったのが一つ。もう一つは・・・"あの人"、救いたいと思ったから。
零(ん? それだと私は、一夏さんの事を救いたくないのか?・・・いや、そうじゃない!)
疑問を私は必死に取り除こうと頭を振り、一度冷静になるため深呼吸をする。
"あの人"はボロボロに打ちのめされていて、だけど、一夏さんは戻ってきた時には重症だった。
わざわざ、弔い合戦みたく戦う必要はないじゃないか・・・そんなの大人に任せればいい。何で、まだ15歳、16歳の私達が駆り出されるのだ!
零(って、これじゃあ、ただの屁理屈だ・・・)
結局、怖いんだけなんだ。そして理解が出来ないんだ。
何で他者のためにそこまで身を削るのか・・・IS学園に来て変われたと思ったが、どうやら私は何も変わっていないみたい。
高峰さんが言った通り、私は自己中心的なんだ。
零「・・・」
私はこの時、昨日の高峰さんとの会話を思い返していた・・・
零『この左目を見せるの随分、久しぶりです』
高峰『僕が最後に見たのは、5歳の時だったな』
零『その通りです。僕は、この目のせいで、身に付けたくもない眼帯をつけ、常に見られないよう警戒して・・・そして、一人の少女を傷つけました』
高峰『・・・』
零『高峰さん、僕は何でこんな目で生まれてきたんですか? 何が目的で僕は生み落されたんですか?』
高峰『・・・』
零『僕は何者なんですか!?』
高峰『・・・すまない』
それからは
もう忘れたくて忘れたくて、いつも以上に表情に気を遣い、そして身勝手な行動もセーブせず、矛盾な行動に出ていた。布仏さんに対する笑みは作り笑い・・・一夏さんに対するスキンシップは、単なる八つ当たりまがいのもの。
思えば、あの発言も自己中だった。
私の人生なのに、他人様の意見をもらえず自棄になるなんて・・・。
零「・・・私は、こんなにズルい人間だったのか」
そう思うと、どんどんマイナス思考に走っていく。
今まで味わった事のないドロドロとしたコールタールが、心奥底にたまり始め"落合零"という人間を塗りつぶそうとする。
そこにこの上ない恐怖が重なって、もう目に映るもの、耳に入るもの全てを拒絶したくなり、畳に額を擦り付け、耳を塞いだ。
【一夏SIDE】
[ざざぁ・・・ざざぁ・・・]
一夏(ここは・・・)
波の音に誘われて、俺は目を開けた。そこは太陽のない晴れ模様の空に、足元は透き通った
白い少女「ラ、ラ~♪ ラララ~♪」
そこには、踊るように歌い、謡うように躍っている少女がいた。
少女は美しい白の肌に、優雅に揺れる白い髪、なびく白のワンピースの、全てが白で統一されていた。
俺は、近くの水面に浮く流木に腰を下ろし、緩やかな波の音、時折吹く優しい風に心を癒されながら、ぼんやりと少女を眺めていた・・・。
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