No.689443

英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~

soranoさん

第32話

2014-05-26 19:04:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1581   閲覧ユーザー数:1503

翌朝リィン達はマゴットから実習内容が書かれてある封筒を受け取り、中身を確認し終えた。

 

~翌朝・ケルディック・風見亭~

 

「あら……思ったより少ないわね。」

「普通は前日より多くなるものなのですが……」

実習内容の少なさにアリサとプリネは目を丸くし

「僕達、今日中に帰るから元締めさんが気を遣ってくれたのかな?」

エリオットは不思議そうな表情で呟いた。

 

「ああ、よく気が付く人だからね。トリスタ方面の最終便は夜の9時くらいまであるはずだ。早めに終わらせて、夕飯はウチで食べてから列車に乗るといいさ。」

「はは……お言葉に甘えさせてもらいます。」

「ご配慮、痛み入る。それでは行くとしようか。」

「そ、そうね。」

「えっと、今日の依頼は必須のものではないし……」

(二人とも、態度がバレバレですよ……)

ラウラとリィンを言い辛そうな表情で見比べるアリサとエリオットを見たプリネは苦笑した。

 

「―――ラウラ。昨日は済まなかった。」

「あ……」

「リィン……」

「………」

そしてリィンがラウラに振り向いて突如謝罪するとアリサ達は目を丸くした。

 

「……何の事だ?そなた自身の問題ゆえ、私に謝る必要はないと言ったはずだが……?」

「いや―――そうじゃない。謝ったのは、”剣の道”を軽んじる言葉を言ったことだ。」

「!…………………」

リィンの話を聞いたラウラは目を見開いた後静かな表情でリィンを見つめて答えを無言で促した。

 

「『ただの初伝止まり』なんて考えてみれば失礼な言葉だ………老師にも、八葉一刀流にも。”剣の道”そのものに対しても。それを軽んじたことだけはせめて謝らせて欲しいんだ。」

「―――1つ抜けている。」

「え……」

「そなたの事情は知らぬ。だが、身分や立場に関係なく、どんな人間も誇り高くあれると私は信じている。ならばそなたは、そなた自身を軽んじた事を恥じるべきだろう。」

「あ―――……………」

(へえ?滅多にいないタイプの人間ね。)

ラウラの指摘に呆けたリィンはその場で目を閉じて考え込み、ベルフェゴールは目を丸くしてラウラを見つめていた。

 

「――リィン。そなた、”剣の道”は好きか?」

「………好きとか嫌いとかもうそういった感じじゃないかな。あるのが当たり前で……自分の一部みたいなものだから。」

「ならばよい。――私も同じだ。」

「ラウラ……」

リィンの答えに満足したラウラは笑顔を見せた後口元に笑みを浮かべてリィンを見つめた。

 

「はあぁぁ~っ………」

「えへへ、よくわからないけど仲直りできたみたいだね?」

「どうやら無用の心配だったようですね。」

二人の様子を見ていたアリサは安堵の溜息を吐き、エリオットとプリネは微笑みながら二人を見つめた。

 

「いや、別に仲違いをしてたわけじゃないんだが……」

「まあ、そうだな。」

「まったく、二人だけでわかった顔をしちゃって……これじゃあ、どう仲直りさせようか悩んでいたこっちが―――!」

二人を呆れた表情で見つめたアリサはすぐに自分が二人に秘密で悩んでいた事を口にした事に気付いて目を見開き

「アリサ……」

「ふふ、どうやら色々と心配させてしまったようだな?」

リィンとラウラはそれぞれアリサを見つめた。

 

「ああもう、私のことはどうだっていいでしょう!」

「あはは……」

「フフ……」

(うふふ、自爆が多い娘で可愛いわね♪)

(……♪)

恥ずかしそうな表情で声を上げたアリサをエリオットは苦笑しながら微笑むプリネと共にアリサを見つめ、ベルフェゴールとミルモはそれぞれ微笑ましそうにアリサを見つめていた。

 

「どうやら雨が降って地が固まったみたいだね。」

「女将さん、大変大変!」

リィン達の様子を微笑ましそうに見つめていたマゴットに宿で働いている娘が慌てた様子で近づいてきた。

 

「なんだい。朝っぱらから騒々しいねぇ。」

「ていうかルイセ。出てくるのが遅すぎるよ。」

「ご、ごめんなさーい。ちょっと話を聞いてて……――それよりも!大変なことがあったんですっ!大市の方で”事件”ですよ!」

「事件……?」

「……?」

「あの、それはどういう……」

「えっとね、大市に出てる屋台らしいんだけど……夜、バラバラに壊されちゃって商品も盗まれちゃったんだって!」

娘の口から出た信じられない出来事にその場にいる全員は驚いた。

 

「それは……」

「と、盗難事件……!?」

「なんとまぁ……――すると大市が開かれるのは少し遅れるかもしれないね。ここで待つお客さんも増えそうだ。ルイセ、とっとと用意をおし。」

「はーい。」

「ま、あんたたちは気にしないで実習とやらを始めるんだね。今日一日頑張ってきな!」

「……はい!」

「行ってきます。」

その後宿を出たリィン達は事件の詳細が気になり、大市に向かうと今にも喧嘩が始まりそうな会話が聞こえ、リィン達は喧嘩を止める為に現場に駆け付けた。

 

~大市~

 

「よくも私の屋台を滅茶苦茶にしてくれたな、この卑しい田舎商人め!どうせ君がやったんだろう!?正直に白状したまえ!!」

「んだと、帝都の成金があ!そっちこそ、俺の場所を独り占めしようとしたんだろうが!?」

リィン達が現場に到着する少し前先日揉めていた二人の商人が互いを睨み合って声を上げ

「ええい、二人とも落ち着くのじゃ!」

二人の仲裁に来たオットーは制止の声を上げたが

「しらばっくれた上に俺のせいにしようってか!?ふざけんなよ、コラアッ!!」

「フン、やるのか!?望むところだ!!

二人はオットーの制止の声を無視して喧嘩をしようとしていた。

 

「――待った!!」

するとその時リィン達が駆け付け

「おお、お前さんたち……」

リィン達の登場にオットーは明るい表情をした。

 

「ま、また君達か!?」

「ええい、口出しするな!屋台の仇を討つんだ!」

「仇って……」

自分達に怒鳴る商人たちの言葉に目を丸くしたエリオットがリィン達と共に周囲を見回すと滅茶苦茶になっている二つの屋台があった。

 

「こ、こんな壊され方を……」

「非道いわね……」

店の様子を見たエリオットは驚き、アリサは店を滅茶苦茶にした犯人に怒りを抱きながら呟き

「確かにようやく開けた店をこんな風にされたら怒るのも無理はないと思うのですが……」

「だが、相手を殴っても壊れたものが元通りになるわけではあるまい。」

プリネの言葉に続くようにラウラは真剣な表情で言って二人の商人を見つめた。

 

「こ、こうでもしねえと気が収まらないんだよ!商品まで盗まれて完全に商売上がったりなんだからな!」

「なにをぬけぬけと……!それも君がやったことだろう!私の屋台と商品を元通りにしたまえ!」

二人は再びつかみ合いの喧嘩をしようとし

(くっ、まずいな……完全に聞く耳持たずだ。)

(ど、どうすれば……)

リィン達がどうすればいいのか、判断がつかなかったその時

「―――そこまでだ。」

なんと領邦軍が大市に現れ、領邦軍の姿を見た市民達は慌てて道をどけた。

 

「りょ、領邦軍っ……!」

(え……)

領邦軍の姿を見た商人は表情を青褪めさせ、ある違和感を感じたリィンは呆けた。

 

そして領邦軍は商人達に近づいて声を上げて怒鳴った。

「こんな早朝から何事だ!騒ぎを止めて、即刻解散しろ!」

「ぐっ、しかし……」

領邦軍の一方的な命令に悔しさを感じつつも逆らえない商人は唇を噛みしめた。

 

「老人、貴方は大市の元締めだったな。説明してもらおう。一体何があったのだ?」

「う、うむ。それがですな……」

オットーは夜のうちに起こった事件について説明した。

 

「ふむ、なるほどな……――ならば話は簡単だ。おい、二人とも引っ立てろ。」

「ハッ!」

「な、な、な……!?」

「それはどういう……!」

領邦軍の信じられない判断に商人の二人は信じられない表情をし

「互いの屋台が破壊され、商品までもが盗まれた……いがみあう二人の商人が同じ事件を同時に起こした―――そう考えれば辻褄は合うだろう。」

「そ、そんな……!」

一方的に自分達を悪に仕立てる隊長の強引さに商人の一人は表情を青褪めさせた。

 

「……捜査もしないうちから、さすがに強引ではないか?」

その様子を見かねたラウラが厳しい表情で指摘したが

「フン、領邦軍にはこんな小事に手間を割く余裕などないのだよ。さて、どうする?このまま騒ぎを続けるならそのように処理するだけだが。」

隊長はラウラの指摘に嘲笑した後商人の二人を睨んだ。

 

(そ、それって……なかったことにしろって事!?)

(そういうこと、みたいだな……)

(職務怠慢としか言いようがないですね……)

領邦軍の判断に驚いたアリサは怒りの表情で領邦軍を睨み、リィンとプリネは真剣な表情で領邦軍を見つめていた。

 

「う、うう……」

「……くぅ……」

一方領邦軍に睨まれた二人の商人は反論する事もできず、それぞれ悔しそうな表情で肩を落とした。

「フン、それでいい。我々も余計な仕事を増やしたくはない。今後はあまりトラブルを起こさぬよう気を付けたまえ。フフ、それでは我々も失礼する。忙しいのでな。」

そして領邦軍はその場から去って行った。

 

「行ってしもうたか……」

領邦軍が去るとオットーは疲れた表情で呟き

「何とか騒ぎは収まったけど……」

「こ、こんなの滅茶苦茶だよ!?」

「ええ……あれでは唯の脅迫です。」

「あれが領邦軍のやり方というわけか……」

「…………………」

アリサ達が領邦軍の対応の悪さにそれぞれ怒りや信じられない思いを抱えている中、リィンは真剣な表情で黙って去って行く領邦軍を見つめていた。

 

「色々と腑に落ちんじゃろうが……お前さん達は一度、頭を冷やすがよい。殴り合う前にすべきことがいくらでもあるじゃろう?」

「…………そうッスね……」

「……流石に熱くなりすぎたようです……」

オットーに指摘された商人の二人はそれぞれ肩を落として答え

「大市を開くためにも、壊れた屋台を急いで片付けなくてはならん。すでに遅れが出てしもうておる。皆の衆、すまぬが手分けして当たってくれ!」

オットーはその場にいた商人達全員に声をかけ、壊れた屋台の片づけが行われた。リィン達もそれを手伝い、多少の遅れは出たものの無事に大市は開かれることになった。

 

~元締めの家~

 

屋台の片づけを終えたリィン達はオットーの好意によって家に招かれていた。

「お前さんたちのおかげで、無事に大市を開くことができた。礼を言わせてもらうぞ。」

「あはは、そんな……大した事はしていませんし。」

「ええ。私達は少しお手伝いをしただけです。」

「それにしても、あの喧嘩で怪我人なんかが出なくてよかったわよね。」

「うむ、それについても重ねて礼を言わせていただこう。商人にとって店とは命とも言うべきもの。彼らの怒りもわかるのじゃがな……」

オットーは肩を落とした二人を気の毒に思うかのように複雑そうな表情で答えた。

 

「しかし御老人……ケルディックの抱える問題は思った以上に根が深いようだな。領邦軍が駆け付けたとはいえ、結局、何の解決にもならぬとは……」

「うむ……やはり大市のトラブルにはまともに取り合う気はないようじゃ。ワシらが増税への陳情を取り消さん限り、その姿勢を貫くつもりなのじゃろう。」

「そうは言っても、まさかあそこまで露骨なんて……このままじゃ商人の二人も収まりがつかないだろうし……」

「昨日と今朝の喧嘩がお二人の今後の商売に影響を及ぼさなければよいのですが……」

ラウラの言葉に複雑そうな表情で答えたオットーの話を聞いたアリサとプリネはそれぞれ心配そうな表情をした。

 

「そうじゃな……噂が広まれば最悪、利用者の足が遠のくことも考えられよう。このままではいかんと、ワシも思うてはおるのじゃが……」

「………………………」

「リィン、どうしたの?さっきから黙ってるけど。」

「ふむ、具合でも悪いのかの?」

「…………お願いがあります。今回の事件―――俺達に調べさせてもらえませんか?」

「ええっ!?」

「あら……」

リィンの突然の提案にアリサは驚き、プリネは目を丸くし

「……屋台を破壊した犯人を私達で見つけるというのか?」

リィンの提案を意外に思ったラウラは目を丸くして尋ねた。

 

「ふむ……昨日も言ったが、大市でのことはワシら商人の問題じゃ。心配はありがたいが、お前さんたちが気にすることではないぞ?」

「目の前で理不尽なことが起きて、頼るべき領邦軍も当てにならない。だったら………士官学院の生徒である俺達が見過ごすわけにはいきません。」

「た、確かにそうかもだけど……事件の調査なんて僕達にできるのかな?」

「うーん、そうよね……私達だって素人には違いないし。せめて、サラ教官の指示を待った方がいいんじゃないかしら。」

「―――サラ教官は言っていた。”せいぜい悩んで、何をすべきか自分達自身で考えてみろ”って。だったら……今が”その時”じゃないか?」

不安そうな表情をしているエリオットとアリサの言葉を聞いたリィンは真剣な表情で答えた。

 

「あっ……」

「……ふむ。」

リィンの発言にエリオットは呆け、ラウラは頷き、他のクラスメイト達もその場で黙って考え込んだ。

「……なるほどね。確かにこれも特別実習のうち、なのかもしれない。」

「……う、うん。ちょっと不安だけど……僕達だけでやるしかない、よね?」

「義を見てせざるは勇無きなり……か。ふふ、いいだろう。私もそなたに乗らせてもらおう。」

「私も出来る限りの事はしたいです。このままですとあのお二人が余りにも不憫ですし……」

「お前さん達……そうじゃな。大市の利用者や商人たちの安全のためにも……そこまで言ってくれるのならお願いするとしようかの。」

リィン達の申し出に心からの感謝をしたオットーはリィン達に事件の調査の依頼をした。

 

「…………ありがとうございます。精一杯やらせていただきます。」

「ただし、くれぐれも深入りしすぎぬようにな。なにせ、夜闇に紛れて事を起こすような犯人じゃ。どんな危険な人物かわからん。お前さんたちを預かる身として、何かあったらヴァンダイク殿にも申し訳が立たぬからのう。」

「は、はい……気を付けます!(って、僕が一番注意しないといけないよね……)」

「さて、そうと決まれば善は急げだな。」

「ええ、早速事件を調べに行きましょう!」

こうしてリィン達は大市で起こった事件の解決の為に動き出した。

 


 
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