No.689365

ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』

piguzam]さん


ハーヴェストを舐めんなど(ry

2014-05-26 08:25:42 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:5042   閲覧ユーザー数:4399

 

前書き

 

 

約半年間の放置、誠に申し訳ありません。

 

ISの方が一段落しましたので、これからは此方を更新していきます。

 

 

これからも感想をお待ちしております。

 

 

 

 

 

↓は嘆き、というか悩み

 

 

バトルが入るとどうしても話が長くなってしまう駄作者をお許し下さい。

 

あと出来ればどなたか話をスマートに纏められる上手い書き方を教えてください。

 

ねおせーて!!おせーてよぉ!!

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、何処から行ってみようか……」

 

ひとっ風呂浴びてハプニング一発あった俺だが、現在浴衣を着たまま宿の下の温泉街に来ている。

靴は勿論、裸足に下駄という粋なスタイルだ。

あの面倒くさいアルフとの邂逅を果たした後で、俺はなのはからの質問を誤魔化しつつ、皆で部屋に戻った。

いやはや、なのははしつこいしアリサは不機嫌だし、すずかはそんな二人を見てオロオロしてるしで困ったぜ。

リサリサと相馬は苦笑いしてるだけで助けてくれないしな。

まぁその後でやっと俺の説明に納得したアリサが旅館内を探検するとか言い出して、相馬やなのは、すずかもこれを承諾。

しかし俺は面倒だと断って、不満気なアリサ達を見送って部屋でゴロ寝してたんだが……またもやイレインに邪魔された。

曰く、折角旅行に来たんだから遊んで来いとの事。まぁ迷わず断ったけどね?

そこから暫くは俺を部屋から出そうとするイレインとそれに抗う俺のプチ戦争に発展。

俺はクラフトワークで自分の体を柱に固定し、それを引っ張るイレインのカオスな図が出来てた。

暫くはそれで抗っていたが、ふと脱衣所で見た温泉街の事を思い出して、俺は早速外に出てきたのだ。

まぁアッサリと手の平を返して固定能力を解除した所為で引っ張っていたイレインがそのまま部屋の壁に頭打ったのは笑ったな。

直ぐに恨みがましい目で睨んできて、「静かなる蛇があれば……」とか危ない事を呟いてたので、即刻退散してきた次第。

しょうがねえから戻る時に土産の一つでも買って戻るか。

 

「しかしなんだ……まさかこんなデザインの浴衣があるとはな……いいセンスだ」

 

クローゼットの中にあった浴衣を見て迷わずこれを選んだ俺だが……手の平マークがプリントされてるのは何故だ?

承太郎の帽子のマークである手の平マークが2つと、♂と♀を掛け合わせたプリンスのマークが背中にプリントされた浴衣。

本当にこの世界にはジョジョは無いんだよな?明らかに狙った仕様にしか思えねえんだが?

 

「まぁ、気に入ってるから別に良いけど……さてと、まずは――」

 

「私はこの先にある『みたらし茶屋』という所が気になるわね。雑誌にも紹介された有名店らしいわ」

 

と、意気揚々と温泉街を歩こうとした俺に、背後から楽しそうな声が掛けられた。

……おいおい……ちょっと待て。

まさかな、という思いでゆっくりと後ろに振り返ると、そこにはさっきの声と同じく楽しそうな顔をしてる少女が1人居た。

薄いピンク色をベースに少し色を濃くした桜のデザインが描かれた可愛らしい浴衣。

傍から見ても整った容姿の少女が柔らかく笑顔を浮かべてる姿に、周囲の人達の視線が集まる。

女性も男性も、その少女が健やかに育てば将来的に誰もが目を奪われる美を供えるであろう未来を想像して。

 

「……何でここに居るんだ、リサリサ?」

 

「あら?心外ね、その言い方。私をこの旅行に誘ってくれたのは貴方じゃない、ジョジョ」

 

「大本の話じゃねえよ。俺は何でこの温泉街に居るのかって話をして……って判ってて聞いてんだろ?」

 

「フフッ。どうかしら?」

 

はぐらかされた気がして少し半目で見る俺に、少しも変わらない微笑みを返すリサリサ。

唇の下に指を当ててクスクスと上品に笑う仕草は、クールなリサリサに良く合っている。

一頻りそうやって笑ってたリサリサだが、俺がまだ目つきを変えていないのを見て苦笑いを浮かべた。

 

「ごめんなさい。皆で一緒に旅館の探索に行った後、自由行動をしようってなってね。その時に窓の外を見てたら、外に出る貴方を見つけたから追い掛けて来たの」

 

「あぁ、そうなのか……向こうは、楽しかったか?」

 

理由を聞く俺に、リサリサは微笑みながら「えぇ」と頷く。

その笑顔は邪気が無い、心からの笑顔だ。

その笑みを見て、俺はリサリサを無理にでも誘って良かったと思った。

しかしその直ぐ後に、リサリサは「でも……」と前置きしてから、語る。

 

「向こうも楽しかったわ……けど、私は貴方との思い出が作りたいの。私の初めての友達は、貴方なんですもの……ジョジョ」

 

そう言って微笑むリサリサの顔を見て、理由を聞いて納得した。

確かにリサリサは相馬達とも仲は悪く無い、っていうか普通に良いだろう。

しかし俺とリサリサはあいつ等と学校が違う。

それなら学校で良く一緒に過ごしている俺の所に来るのも頷ける。

逆に言えば、俺はリサリサを1人で放置しちまったって事か……悪い事しちまったな。

 

「悪い。少し配慮が足らなかったな」

 

「フフッ。ちゃんと気付いてくれたから良いわ。それよりも――」

 

リサリサは謝る俺を許すと言いながら俺の側に寄り、俺の手を軽く握ってきた。

いきなりの行動に驚く俺を他所に、彼女は何時もの様にクールな微笑みを浮かべて俺を見やる。

 

「この先の茶屋に行きたいのだけれど……付き合ってくれる?」

 

「……わあったよ。お詫びに付き合うぜ」

 

「あら、嬉しい……それじゃあエスコート、お願いね?」

 

返事の代わりに握られた手を握り返しつつ、俺はリサリサと一緒に温泉街へと繰り出した。

そのまま二人で軒先の店を見ながら歩き、リサリサの行きたがってた茶屋に入る。

さすがに人気の店と言うだけあって混んでるかと思ったが、意外にも店先の木造りのベンチがちょうど開いてくれたので、俺達は其処に座れた。

木のせせらぎや近くを通る小川の流れる音、そして観光客の賑いを見ていると、着物姿のお姉さんが笑顔で近づいてくる。

 

「こんにちは。坊や達、お父さんとお母さんは一緒じゃないのかな?」

 

「俺等、家族で温泉旅行に来たんですけど、父ちゃんからOK貰って先に来ました」

 

「それに、弟は聞き分けが良い子ですから、大丈夫です」

 

「あらそうなの。弟さんの付き添い?お姉さんは偉いわね~」

 

まぁ子供2人だけっていうのはさすがに聞かれると思ってたので、俺は当たり障り無く言葉を返す。

来てる家族、っていうか保護者は俺達の親じゃ無えけどな。

それで納得してくれたらしく、お姉さんは俺達の注文を聞いて店の中に戻っていった。

 

「ジョジョったら。良くスラスラと呼吸する様にあんな事を言えるわね。余り感心しないわよ?」

 

「嘘も方便、だっけ?別に困る奴は居ねーんだから良いだろ?それにリサリサだって、サラッと俺と兄妹だとか言ったじゃねえか」

 

「ふふっ。年齢的には嘘を言ったつもりは無いけどね」

 

関係性が全然違うと思いますが?しかも一歳しか違わねえって。

そんな言葉が脳裏に浮かぶも、これ以上言っても詮無き事。

だから俺もそれ以上は何も言わずに、大人しく注文した品が来るのを待った。

それから少しの間他愛の無い話をしていると、さっきのお姉さんが注文した品を持ってきた。

リサリサはみたらし団子と緑茶、俺は葛餅にきな粉と黒蜜のトッピング+ほうじ茶。

 

「一度で良いから、ここのみたらし団子が食べてみたかったの……今回の旅行の事は本当にありがとう、ジョジョ」

 

「そんなに気にしなくて良いって。車の中でも言ったが、俺がしたくてやった事なんだからよ」

 

「それでも、ジョジョにはどれだけ感謝しても足りないわ。今回だけじゃない……本来なら、私はこうしていられなかったかもしれない……ううん、断言出来る。貴方が居なかったら私は今、ここに居ない。間違い無く、私はあのまま……」

 

「……」

 

俺達が初めて出逢った切っ掛けの事件。

その先を……残酷な未来を想像して、リサリサは自分を抱き締める。

在り得たかもしれない未来を想像した恐怖による震えを、抑えこむかの様に。

 

「……偶にね?あの時の夢を見るの……貴方が来なかったらどうなっていたかっていう……嫌な未来を――」

 

「有り得ねーよ」

 

夢の内容を語ろうとするリサリサの言葉に被せて、俺はリサリサの発現を遮る。

そのまま葛餅を口に運びながらチラッと横目で覗うと、リサリサは食い入る様に俺を見ていた。

全く……ずっとそんな事を考えてっから、まだそういう夢を見ちまうんだろうに。

俺は葛餅を刺した竹のフォークを咥えたまま、言葉を発した。

 

「幾ら夢に見ようが、それは全部終わった事だ。たら、れば、もしかしたらなんてIFの集まり。そんなモンは無視しちまえ」

 

「……無視しちまえって……」

 

「あぁ。若しくは夢の中でキッスを使って、そいつ等をブッ飛ばしちまうとかな」

 

俺の物言いに呆れた表情を浮かべるリサリサに、俺は笑顔を見せる。

幾ら考えたって仕方の無い事なんだ。

もうそれは終わった話、過去の出来事であって、これからの未来の話じゃ無い。

この先の未来は、リサリサが自分で掴むべきモノだ。

 

「終わった事ばっか考えて無えで、今を楽しんだら良いじゃねえか……リサリサは俺の傍でちゃんと笑ってるんだ。そんでこれからリサリサに危害を及ぼそうって奴が来たら、迷わずキッスを使え。その為のスタンドなんだからよ」

 

「……そう、ね……うん。少し私らしく無かったわ……変な話してごめんなさい、ジョジョ」

 

「なぁに、別に構わねえ……さ、早く食べちまおうぜ。幾ら断って来てても、さすがに長い時間外に居たら士郎さん達を心配させちまうしな」

 

「フフッ。えぇ、それじゃあ頂きます……はむっ……」

 

俺の言葉を聞いて少しは気持ちの整理が付いたのか、リサリサは何時もの様にクールな微笑みを浮かべて俺と視線を合わせる。

そのまま二人で微笑んでから、リサリサも自分の頼んだみたらし団子を頬張り、口をモグモグと動かす。

 

「……ん~♪……美味しい♪」

 

そう言って次の団子を頬張るリサリサの表情は、歳相応の可愛らしい笑顔だ。

何だよ……普段はクールに気取ってるけど……そんな顔も出来るんじゃねーか。

俺も同じ様に、自分の葛餅を食べ、ほうじ茶で喉を潤す。

お互いに余り話さず、美味しい茶菓子とお茶を味わって会計を済ませ、俺達は再び温泉街を歩いた。

リサリサは再び上機嫌な笑みを浮かべて、俺の手を握って隣を歩いている。

 

「あ~、そうそう。なぁ、リサリサ」

 

「??何かしら?」

 

俺はそんなリサリサの笑顔を見て、さっき伝え損ねた事を伝えようと思い話し掛ける。

呼び掛けに応じたリサリサは変わらず笑みを浮かべていて、俺はそんなリサリサに真剣な表情で口を開く。

 

「あのな。さっき言ってたみたいな事があっても、お前にはスタンドがある。だから大丈夫だ、なんて言い切れねえが……まぁ、安心しろ」

 

「……??」

 

「もしそんな事が起きても、俺がリサリサを――アリサ・ローウェルを守る……そんだけだ」

 

「――え?」

 

「さぁ、行こうぜ?時間は有限なんだからよ」

 

俺の言葉を聞いて目を見開くリサリサから視線を外して、俺は歩く。

手を引かれてるリサリサの表情は伺えない。

だが俺は、少し自分の言った言葉が気恥ずかしくて、今は視線を合わせられそうになかった。

だからこれ幸いと、俺はズンズンと歩いて、リサリサと目を合わせない様にする。

ったく……あんな顔されたら守りたくもなるじゃねえか……リサリサも、あの二人も。

俺ってやっぱりあいつ等の事が好きなのか?自分自身の感情がハッキリしないから何とも言えない。

それに俺がそうでも向こうも同じとは限らねえし……悩みどころだ。

でも、あいつ等はキスまでしてくれたし……でも、お礼だって言ってちゃんと頬だけにしてたし……あ~、分かんねえ。

っていうかまだ小学生なんだし、こんな事を考えるのも面倒くせえや。

少し悶々とした気持ちを抱えながら、俺はリサリサを連れて温泉街の奥へと進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

「――不意打ちばっかり……もぅ」

 

 

 

 

 

前へ前へと歩く俺は、後ろで頬を朱に染めて微笑むリサリサの表情を知る事は無かった。

 

 

 

 

 

その後、少し顔を赤くしたリサリサと一緒に温泉街を歩いて、締めに神社へと足を運んで景色を堪能してる。

温泉街が一望できる高台の神社は正に絶景の一言に尽きる場所だった。

リサリサも心なしかテンションが上がってるらしく、目を輝かせて景色や神社を見ている。

 

「あっ……」

 

「ん?どうしたリサリサ?」

 

「ええ、ちょっと……ごめんなさいジョジョ。少し彼処のお店に行ってきても良いかしら?」

 

そう言って少し遠慮気味にリサリサが指差したのは、神社の小さなお土産屋だった。

どうやらお守りとかのポピュラーな物を扱っているらしい。

 

「ああ、別に良いぞ?」

 

「ありがとう。ここで少し待ってて」

 

承諾した俺にリサリサは断りを入れてから駆け足でお土産屋へと向かう。

どうやら気に入った物があったみたいだ。

俺は特に何かが欲しいって訳でも無いので、手持ち無沙汰ながら景色を堪能していた。

 

「……ん?」

 

と、神社の広い境内に視線を移した俺の視界に、小さな露店が目に付いた。

別に目立つ様な露店でも無く、良く道端に出してそうなこじんまりとした露店。

だが、その露店を見てると、何か気になった。

まだリサリサも戻るのに時間が掛かりそうだったので、俺はその店に近づく。

 

「おぉ、いらっしゃい坊や。まぁゆっくりと見てくれ」

 

「どもッス」

 

如何にも人の良さそうな爺さんに頭を下げて、俺は台に並べられた品物に目を通す。

金属の簪やネックレス、そしてパワーストーンなんかのアクセサリーを扱っている様だ。

しかもその品物のどれもが、量販店で扱っているチープな品よりも上物に見える。

 

「……綺麗ッスね」

 

自然と、ポロリと出たこの一言は、俺の心からの賛辞だ。

その言葉に爺さんはニッコリと微笑む。

 

「ほほ。ありがとうよ、坊や……ここにあるのは、全部手作りでな?所謂、はんどめいどっちゅうヤツじゃ」

 

「へー?これ全部手作りッスか?道理で出来が良い訳だ」

 

「ふむ。最近は機械で作るのが主流じゃが、儂は昔からこの手の仕事をしててな。手作りの方が性に合った古い人間じゃて」

 

「それでも、ありきたりなヤツよりは良いじゃないッスか……お?これは……」

 

俺は露店の台に並べられたアクセサリーの中から、ある一つの品物を持ち上げる。

黒塗りの歪曲した細い木2本を纏めた部分に、水色のガラス玉が付けられた髪飾りだ。

ガラス玉の付けられた箇所には小さいチェーンが3つあり、それぞれの先端に同じ様なガラスのカットが散りばめられてる。

ジュエルシードに良く似た形に切り揃えられた小さいガラスカットがチリンと小気味良い音を出して煌めく。

涼やかで透き通った水色のガラスに雲が描かれたその姿は、何とも雅なモノだ。

それを見た爺さんは顎鬚をさすりながら「ほぉ」と感嘆にも似た言葉を漏らす。

 

「お前さん、お目が高いのう。そりゃとんぼ玉を使った髪飾りじゃ。簪としても使える、この品物の中でも一つしか無い渾身の力作よ」

 

「とんぼ玉?」

 

「うむ。模様のついたガラス玉をトンボの複眼に見立てたため、「とんぼ玉」と呼ばれたといわれておる。何時作られた物かはハッキリせんが、少なくとも奈良時代には製法が伝えられ、国内で生産されていたと考えられておるそうじゃ」

 

「へぇ……歴史ある伝統品ってヤツっすか?」

 

澄んだ青空へと翳した簪のとんぼ玉は、その透き通った水色の色合いを煌めかせ、描かれた雲が踊っている。

……これなら、ちょうど良いかもな。

 

「爺さん、これ幾らですか?」

 

「む?買ってくれるのかの?ちと高いぞ?」

 

「はい。今買っとかないと、絶対に売り切れちまうと思うんで」

 

「ほっほ。何とも口が上手いモンじゃわい。まぁ確かに、今日でこの場所での出店も終いじゃしの」

 

俺の言葉に気を良くしたのか、爺さんは好々とした笑みを浮かべる。

値段を聞いてみると結構割高だが、それでもこの簪の出来を考えたら安いモンだ。

俺が子供らしからぬ金を持っていたのに驚く爺さんだが、旅行に来たと言うとすんなりと納得し、割引までしてくれた。

最初は遠慮したんだが、「子供が遠慮なんてするもんじゃないぞい」と笑顔で言われて渋々納得しておいた。

何かこういう爺さんには反抗し辛いんだよな。

 

「所でお前さん、こりゃやっぱりおなごに送るんかのう?」

 

「えぇ、まぁ」

 

「ほっほ。そうかそうか……じゃったらの、夜を楽しみにしとれ。面白い事が起きるぞい」

 

「は?夜?」

 

「おっと。口が滑ってしもうたわ。これ以上は、自分の目で確かめる事じゃ。ほれ、お連れさんが待ってるから早く行きなさい」

 

その言葉につられて後ろへ振り返ると、リサリサがベンチの所で俺に手を振っていた。

どうやら買い物は終わったらしい。

さすがに待たせるのも忍びないので、商品を受け取った俺は爺さんに別れの挨拶をして、リサリサの元へ戻った。

 

「悪い。ちょっと俺も買い物してきた」

 

「良いわ、気にしないで。ジョジョもお店に行ってたみたいだけど、何か良い物でも見つかったの?」

 

平謝りする俺に、リサリサは普段通りに微笑みながら質問してくる。

言葉の通り気にしてはいねえみてーだ。

そうやって微笑むリサリサに、俺は無言で包装された簪を渡す。

それを見たリサリサは首を傾げていた。

 

「俺からのプレゼントだ」

 

「…………え?」

 

俺の言葉を聞いたリサリサは呆然として、目の前に差し出した袋と俺を見比べている。

普段はクールなリサリサがこんな表情をするのがおかしくて、俺は苦笑いしてしまう。

 

「だから、リサリサに良く似合いそうだったから、買ってきたつってんだ……ほら」

 

「え?あ、その…………良いの?」

 

「何が?」

 

「だ、だってそんな、いきなり過ぎて……」

 

持ってるのもダルかったので袋を押し付けると、リサリサは袋を持ちながらそんな事を聞いてくる。

 

「気にすんな。俺が良いなと思ったから、買ったってだけだ……要らねえか?」

 

「そんな……そんな事、無いに決まってるじゃない……ずるい人ね、貴方って……本当に」

 

俺が面倒くさそうに髪を掻きながら問うと、リサリサは首を振って俺の言葉を否定する。

そのまま彼女は俺が手渡した袋をまるで宝物の様にギュッと抱えた。

少しの間そうしていたが、気を取り直したリサリサは俺と袋をまた交互に見始める。

 

「あ、開けても良いかしら?」

 

勿論だ、と頷くと、リサリサは嬉しそうにしながら袋を開ける。

なんとなく、誕生日とかクリスマスにプレゼントを貰って喜ぶ子供の様に見える。

つってもまぁ、小学生なんだしまだ子供だよな俺達。

そんな事を考えている間に袋を開けたリサリサは、俺が買った髪飾りを見て目を輝かせている。

 

「……綺麗」

 

「簪としても使える髪飾りだってよ……ま、夏にでも使ってくれたらありがてぇ」

 

「うん……うん……初めて、友達に貰ったプレゼントがこんなに素敵な贈り物だなんて……本当に、嬉しい……ありがとう……ジョジョ」

 

リサリサは少し目尻に涙を浮かべながらも、俺に満面の笑顔を見せてお礼を言ってくれた。

その言葉に俺も笑顔で頷く。

俺がリサリサの初めての友達なら、これぐらいしたって良いだろ?

リサリサを放置して1人で温泉街に出ようとした事の謝罪でもあるがな。

そしてリサリサは俺が渡した髪飾りを付けて、俺に向き直る。

 

「……に、似合う?」

 

「おう。良く似合ってるぜ」

 

涼やかな色合いのとんぼ玉が、綺麗な茶の長髪に良くマッチしていた。

俺の言葉を聞いてリサリサは少し照れくさそうにしながらも、とても喜んでいる。

この笑顔が見れただけで、贈った価値があると感じた俺であった。

 

 

 

 

 

あっ、イレインへのお土産忘れた……まぁいっか。イレインだし。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

「う~す」

 

「あら、お帰りなさい。リサリサちゃん、定明君」

 

「やぁ二人共。温泉街は楽しんで来たかい?」

 

「えぇ。とても賑やかで楽しい時間でした」

 

あの後、俺達は神社を後にして、そこから一直線に旅館に戻った。

今は部屋の皆に挨拶をした所だ。

ちなみに今のリサリサは髪飾りを外している。

何でも簪としても使えるならそう使ってみたいらしく、後で誰かに結い方を教えて貰うそうな。

士郎さんや恭也さん達からは普通に出迎えられ、リサリサが質問に答えてる訳だが――。

 

「……やっと、戻ってきたわね……ッ!!」

 

「うぅ……ずるぃ……」

 

「……お帰りなさいませ、定明様。ず・い・ぶ・ん・と、満喫してらっしゃったご様子で?」

 

どうにも俺だけはそうもいかねえらしい。

理由としては俺の目の前で仁王立ちしながら怒りのオーラを撒き散らすアリサ。

そして俺を涙目で睨むすずかと、正座の状態で嫌味を篭めた呪詛を吐くイレインの3人だ。

なのはと相馬はそんな視線を送られてる俺に苦笑いしながら「頑張って」の視線を向けてる。

正直、溜息を吐きそうになった俺を誰が咎められようか?

帰った瞬間にこんな視線を向けられれば、誰もが俺と同じ心境になると思う。

そんな俺の心境に遠慮無く、アリサは俺を睨みつけながら口を開いた。

 

「……ねえ、定明?何でアタシ達とは旅館探検行かなかった癖に、リサリサと二人で温泉街に行ってるのかしら?」

 

「ん~……ぶっちゃけ、温泉の脱衣所で広告を見て行ってみようとは思ってたんだが……アルフの登場ですっかり忘れててな。お前らの誘いを断った後で思い出して、ちょっくら出掛けた訳だ」

 

「……じゃあ、リサリサちゃんは」

 

「私はすずか達と別れた後なんだけど、偶々旅館から出たジョジョを見つけて追い掛けたの。だから、合流出来たのは偶然なのよ」

 

「そ、そうなんだ……良いなぁ(ぼそっ)」

 

「ふふっ。今回は、ね……それに……」

 

何やら剥れた表情で俺を見ていたすずかとアリサだが、リサリサが顔を寄せると不思議そうにしながらも耳を近づけていく。

どうやら他には聞かせられない内緒話ってヤツの様だ。

 

『二人も以前、ジョジョと二人っきりで遊びに行ったんでしょ?それが今回は私の番だったって事♪』

 

『う゛っ……そ、それを言われると……』

 

『反論出来ないね……』

 

何をリサリサに耳打ちされたのかは知らねえが、一応すずかとアリサは矛を収めてくれたらしい。

イレインもリサリサや相馬となのはの前では猫を被ってるからこれ以上は突っかかってこねえだろう。

それと、今回の旅行は1泊2日で、明日の夕方には出る予定らしい。

だから明日は皆で温泉街に行く事になった。

さすがに今回は駄々を捏ねるつもりも無いので、俺も素直に了承する。

相馬となのはも異論は無い様だ。

その後は皆で談笑しながらカードゲームでもしようかと提案したが、なのはが断固拒否。

どうやら車の中で味わった絶望が若干トラウマになりかけてるらしい。

そこでアリサが探検してる時に見つけた旅館のゲームコーナへと向かう事になった。

まだ夕食までは時間有るし、遊ぶ余裕は大丈夫。

現在、女子は美由希さんや忍さん達と一緒にUFOキャッチャーに挑戦していて……。

 

「これならどうだ、父さん!!」

 

「甘いぞ恭也!!」

 

恭也さんの放ったシュートドライブが、士郎さんに返される。

しかもネットギリギリに落ちるという激落ちドロップシュート。

何か超次元卓球になりかけてる。

 

「く!!まだまだいくぞ!!」

 

「うんうん!!その意気や良し!!さぁ掛かって来なさい!!」

 

「あぁ、修行の成果を見せてやる!!」

 

「恭也さんって卓球の修行してたのか?」

 

「いや……剣術の修行の事だと思う……多分」

 

男子は俺と相馬を除いて……っていうか士郎さんと恭也さんが超人的な卓球を繰り広げてる。

しかも滅茶苦茶盛り上がってて、顔がキラキラしてるので止めに入り辛い。

そんな超人技を魅せつけられいれば、こっちは見るだけで充分だった。

 

「ところで、定明。少し話があるんだが……良いか?」

 

と、恭也さんが超速で打ち出したピンポン球を見ていた俺に相馬が声を掛けてきた。

その声に視線を向けてみれば、相馬はかなり真剣な表情を浮かべている。

……どうやら、大事な話らしいな。

 

「ん。分かった……士郎さーん。俺等ちょっと外しますねー」

 

「おっと!!中々やるじゃないか恭也!!ならこれはどうかな!?御神流、神速!!」

 

「何!?あの玉を打ち返すなんて!?」

 

「……行くか、相馬」

 

「あ、ああ……放っておいて良いのか?」

 

少し逡巡する相馬に「知らねえよ」と返して俺は歩き出す。

俺の声が届いてないのか、随分とイイ笑顔で超人卓球を続ける士郎さんと恭也さん。

……まぁ断ったし、大丈夫だろ……多分。

俺の声に気付かない程に熱中してる二人に呆れを含んだ溜息を吐きながら、俺は相馬を伴って女性陣とも男性陣とも離れた場所に移動した。

少し開けた場所には、昔懐かしのガムボールを動かすゲーム機が置いてあった。

ハンドルを操作してコースのレールに沿ってガムボールを転がし、ゴールすると2つ貰えるアレだ。

その機械の側に立って、俺は相馬と向き合う。

 

「んで?何だ、話ってのは?」

 

「あぁ……アルフがここに居る時点で、お前も少しは察してるんじゃないか?」

 

「……それは、ジュエルシードがこの近くにあるかもって事か?」

 

俺の予想を聞いて、相馬は頷く。

一応アルフと出会った時に考えていた事だ。

テスタロッサとアルフはジュエルシードを探す為にこの地球に来た。

ならば、こんな海鳴から少し離れた場所にある温泉に来てる暇なんて無い筈。

アルフ単体で此処に来てる可能性も考えたが、あの二人の関係を考えるとこの線も違う。

つまり、アルフは明確な目的を持ってこの旅館に居るって事になる。

間違い無く、テスタロッサも居るだろう。

 

「お前の考えてる通りだ……原作通りなら、この近くにジュエルシードがあって、今夜発動する……原作通りならな」

 

そう言いながら相馬はガムボールマシンに10円を入れて動かす。

出てきたガムボールをハンドル操作で動かして、ゴールを目指し始めた。

 

「お前も知っての通り、俺は原作の先を知ってる。だから俺なりに事前対処出来る所はしてきたつもりだ。この前のサッカーの時だって、本当なら海鳴の町に巨大な大木が現れて暴れる所だったんだ」

 

「ふーん……なら、お前の今抱えてる不安は何だよ?」

 

頑張ってゴールを目指す相馬の隣に立って、俺は先を促す。

結局は何が言いたいのかって話だ。

 

「だが、俺達転生者の存在の所為か、所々差異が現れてる……暴走思念体の強化や、テスタロッサの出現と同時にアルフが現れた事なんかもな……つまり――」

 

話しながらも器用にハンドルを操り、相馬のガムは中間地点に辿り着く。

そこで一度顔を上げた相馬は真剣な表情のまま、俺に視線を合わせる。

俺は機械に寄りかかったまま、相馬の視線を受け止めた。

 

「ここのジュエルシードも原作通りじゃ無いかもしれない……それが伝えたかったんだ」

 

「……それは、もしかするとジュエルシードがここには無いかもっていうハッピーなニュースか?」

 

茶化す声音を出す俺に、相馬は依然真剣な表情を崩さないで首を横に振る。

まぁ実際そうだよなぁ……そんな都合の良い話がある訳無えか。

 

「いや、アルフがここに居る時点でその可能性はゼロだろう。俺が言いたいのは、もしかしたらジュエルシードが『複数』あるかもって事だ」

 

「複数、ね……その言い方だと、原作じゃ一個だったのか?」

 

「あぁ、それを見つけたなのはとフェイトが、ジュエルシードを巡って戦う……それが原作の筋書きだ」

 

そこで言葉を区切った相馬は再びガムボールを転がし、ゴールを目指す。

最初は話に誘っておいて何でこんな事をしてんだろうかと思ってたが、段々と読めてきたぞ。

こんな事をしてるのは多分、俺には話しにくい事を紛らわしたいんだろう。

 

「今回も、俺はなのはのフォローに回らなくちゃならない。ジュエルシードの事を知っている分、一緒に行かないという選択肢は取れないからな……だが、もしも複数のジュエルシードがあったら――」

 

「もう片方は間違いなく取り零しちまう……そうなりゃ、暴走した片方だけを疎かにする訳にもいかない。最悪片方しか取れないか、テスタロッサにどっちも取られる可能性がある……二兎追う者、一兎をもってヤツだな」

 

相馬の言葉を引き継いで俺が核心を突くと、相馬は操作を誤ってガムを落としてしまう。

残念ながら、ゲームオーバーになってガムは貰えないようた。

相馬はハァと溜息を吐きながらハンドルから手を離して、俺に真剣な表情を再び向けてくる。

 

「そうだ……周りくどい言い方をしてすまないが……もし出来るなら、協力してくれ」

 

「……」

 

「これも可能性の話だ。もしかしたらジュエルシードは一個だけかもしれないし、警戒してくれるだけでも良い……力を貸してくれないか?」

 

相馬は真っ直ぐな眼差しで俺を見ながら協力を要請する。

確かに相馬の言ってる事は分かるし、俺も友達から頼られてそれを袖にする程酷くは無い。

それにジュエルシードの力が厄介なのは、まだ直接戦った事の無い俺でも想像は付く。

相馬も転生特典を貰ってるというのに、なのはと協力しても中々に接戦を強いられてるらしいし。

これに協力しとかないと、最悪の場合、ジュエルシードで暴走した何かがこの旅館まで来る可能性もある。

やれやれ……のんびりとした旅行ライフだと思ってたんだがな……しゃーねえか。

 

「わあったよ。俺も協力する」

 

俺を見つめる相馬に面倒くさいって表情を貼り付けながら答え、俺は相馬の代わりにガムボールマシンに金を投入してゲームを開始する。

よっと……中々難しいな、これ。

 

「そうか……すまない、定明」

 

「別に良いって。ここでやらなきゃ皆に被害がいく可能性もあるし……少しばかり、働くさ」

 

「だが、気をつけてくれ。定明のスタンドがどれぐらい強いのかは、ジョジョを読んでなかった俺には分からない。その上で言わせてもらうが……思念体はかなり強いぞ?」

 

「んー……まぁ、何とかなんだろ」

 

ガムボールマシンを操作しながら、俺は相馬の忠告に耳を傾ける。

確かに、まだ俺自身には大した戦闘経験は無い。

相馬はそれを心配してくれてるんだろう。

俺がやった戦闘っていえば、はっきり言ってどれも一方的なリンチでしかない。

すずかやアリサ、リサリサを拐った連中は言うに及ばず、あのオリ主だって向こうの力を使う前に叩きのめしたし。

 

「そうなら良いんだが……まぁ確かに、余り気負い過ぎるのも駄目だな。それにこの不安だって、俺の予測の域を超えない。そもそも運良くジュエルシードが見つかるかも分からないんだしな」

 

「あぁ。まぁ見つからなきゃ不安も残るけどよ……」

 

と、遂に最後のループの中にガムボールが入るが、ゴール手前の器には2つ穴が開いている。

このどっちかの穴にガムが落ちると、さっきの相馬の様にゲームオーバーになってしまう。

俺はそこでハンドル操作を誤り、ガムボールが穴に向かってしまうが……。

 

『オイ定明ィ……『右』ダゼ……右二思イッ切リハンドルヲ切レヨォ~、ヤレッテッ!!』

 

突如、ガムボールマシンの後ろから現れたバケツのような頭に、不格好な口と鋭い歯を持った『俺自身』の言葉に従って、俺はハンドルを思いっ切り右に倒す。

すると、左いっぱいに傾いていた状態から一転した反動で、ガムは機械の中でジャンプ。

そのまま俺達と機械の内側を隔てるガラスにコツンと当たり、その反動で……。

 

スポッ。

 

ガムは見事、ゴールの穴へと吸い込まれていった。

 

「……」

 

「よっと……今朝の占いじゃ、今日の俺は『ラッキーガイ』らしいからよぉ……探せば『幸運にも』見つかるんじゃね?」

 

『オッオォ♪お~ヨォ……今日のオメエさん、幸運ガ味方シテルぜェ~』

 

オマケで2つになったガムボールの一つをポカンと口を開ける相馬に差し出しながら、俺はニヤリと笑う。

本体を勇気づけて、気持ちを前向きにさせてくれるスタンド、『ヘイ・ヤー』を肩に乗せて。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「スゥ~……スゥ……」

 

「くー……」

 

「…………」

 

そして、夜。

夕食を食べ終えた俺達は、子供組と大人組で部屋を分けて就寝する事になった。

既にアリサ、すずか、リサリサの3人は眠りに就き、隣の大人達の部屋からも声が途絶えている。

つまり士郎さん達も眠っているという事だ。

そんな雰囲気の中でまだ起きているのは俺を含めて『3人と1匹』だけである。

まずは今夜にもジュエルシードが発動すると俺に忠告してた相馬。

そして何やらフェレットのユーノと見つめ合ってるなのはという面子だ。

俺はなのは達に怪しまれない様に、布団に入って寝たフリをしている。

暗いから布団の中で目を開けててもバレないのが幸いだ。

 

「……ッ!?……なのは(ボソッ)」

 

「うん……ッ!!」

 

と、極めて静かだったこの部屋に、ゴソゴソと布を捲る音が響く。

突如何かを感じ取った相馬達が布団から出て、相馬とユーノは部屋の外へ、なのはは部屋の中で着替えを始めたのだ。

さすがにそれをガン見する程変態じゃないので、俺は目を閉じてなのはが出て行くのを待つ。

……どうやらジュエルシードが発動したらしいな。

魔導師のなのはや相馬達は、ジュエルシードが発動するとその魔力の波動を感知出来ると相馬から聞いてた。

恐らくこれから現場へと向かうんだろう……こっちもやらなきゃいけねえし、あいつ等の方は任せるか。

やがてなのはが部屋を後にしたと同時に、俺はエアロスミスのレーダーを発動させる。

今の時間で起きてる人間、そして2人組で動物も一緒の呼吸の後を辿れば、なのは達が旅館を出たのを確認。

これで俺も動く事が出来る。

 

(……行け、『ハーヴェスト』。この近辺を探って他のジュエルシードが無いか探すんだ)

 

直ぐ様エアロスミスを解除して、蜂模様の群生スタンド、ハーヴェストを呼び起こす。

ハーヴェスト達は俺の命令に従って扉を擦り抜けると、全員森の中へと姿を消した。

しかも散らばる方向は四方八方だ。

これで捜索隊の方は万全、後は結果が出るのを待つだけだな。

それを確認してから俺も起き上がり、服を着替える。

ポケットには予めエニグマの紙に入れておいたガンベルトや鉄球、ベアリング弾を仕込んである。

これなら武器の方も問題無いだろう。

そっと扉を開けて部屋から抜け出した俺は、従業員に見つからない様に隠れて玄関から出た。

外に出た事がバレてない事を確認して、ハーヴェストから伝わる感覚に集中する。

俺の感覚に伝わってくるハーヴェスト達の報告は、今の所どれも見つけてはいない。

 

「やっぱり範囲が広すぎか……だがそれでも、500体フルで探せば……おっ?見っけたぜ」

 

凡そ十数体のハーヴェストが向かった方向、それはなのは達とは逆の方向だった。

山の麓に近い場所の近くに川がある林の中にジュエルシードが落ちている。

どうやらまだ発動はしてないみたいだし、このままハーヴェストに回収を――。

 

「……」

 

「ん?……あれは?」

 

と、考えたその時だ。

ハーヴェストから見える林の中で、何か『黒っぽいモノ』が動いた。

大きさは結構なモノで、ハーヴェストの視点からだと見上げる形になる。

アレは何だ?もしかして他にもジュエルシードを……いや、あれは動物か?

やがて視界の先に居る物が月の光を受けて顕になる。

地面に四脚立ちして静かに佇むのは、立派な角を生やした牡鹿だった。

この辺りは自然が多く残っていて、野生の鹿なんかは特に珍しいモノじゃ無いらしい。

野生の鹿が見れて少し驚くが、そんな俺に追い打ちを掛ける様な事態が発生した。

 

キュピーンッ!!

 

『キュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!?』

 

「んなッ!?オイオイ嘘だろッ!?」

 

何と鹿が登場した瞬間に、今まで沈黙を保っていたジュエルシードが発動しやがった。

しかもその光はさっき現れた野生の鹿を包み込んでいくではないか。

非常ブザーを思わせる甲高い悲鳴をあげながら、鹿は光の中に消えていく。

いやいやちょっと待てッ!?見つけた瞬間に暴走とか嫌がらせかッ!!

ま、まずい!!相馬達は結界の中に入ると外でジュエルシードが発動しても感知出来ないって言ってたし……くそッ!!

 

「こぉぉぉ……ッ!!」

 

俺は普段からなるべく意識している波紋の呼吸を使い、体内の波紋を練り上げて身体能力を底上げする。

波紋の力で強化された俺の体は9歳児らしからぬ身体能力を得る事が出来る。

その身体能力を駆使し、目的の場所へ全力で走り出す。

こうなったらハーヴェストでのサルベージは中止して、俺が直接ジュエルシードを封印するしか無い。

ハーヴェストと共有してる視界の先ではさっきまでの光が止んで、黒いモヤを体から吹き出す鹿が佇んでいた。

しかも目は赤い光を灯していて、立派な野生の角が刃物の様に鋭くなっている。

どう考えても危ない奴じゃねえか……やっぱ、アレは俺が相手をするしか無えな。

俺は走りながら他の場所を探索させていたハーヴェスト達を向かわせる。

相馬の話では取り憑かれた生物はジュエルシードを引き剥がすなり封印するなりすれば元に戻るらしい。

なら、仕方ねえ……心苦しいが、少しばかり締めつけさせてもらうぜ。

戦闘に対する覚悟を決めたその時、ジュエルシードに取り憑かれた鹿が山へと歩を進めようとし始めた。

 

「悪いがテメエをそのまま行かせる訳にゃいかねえ……ッ!!」

 

ザザザザザザザザァァ!!!

 

『……??』

 

ハーヴェストを操作して、その群れを塊となして思念体へと突撃させる。

奴等の様な思念体でも、スタンドを認識する事は出来ないらしく、精々が『体に見えない何かが纏わり付いてる』と感じてるぐらいの筈だ。

やっぱスタンドを認識されないってのは俺にとって重要な強みだな。

 

「かかれッ!!ハーヴェストッ!!」

 

俺の号令の元に、ハーヴェストは其々4本の手を、思念体の体に振り下ろす。

 

ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクッ!!!

 

『ゴォウゥウウウウウッ!?』

 

小さく、しかも鋭利な刺突力を持つハーヴェストの手や嘴の様な部分が、思念体の体を細かく削り取る。

少しづつ、だが確実に敵の肉を削ぎ落とす事が出来るのだ。

目に見えない襲撃を受けて、思念体は野太い悲鳴を挙げてその体を地面に擦り付ける。

しかし何度も言うが、スタンドは使用者の精神を具現化させたビジョンだ。

例え地面の間に挟まれようとも、本体の俺がスタンドの存在を地面に接触させているという意識が無い限り、スタンドは物体を擦り抜ける。

故に、幾ら体を地面に擦ろうが木に体当たりしようが、ハーヴェストは離れる事はない。

それどころか他の場所を探索していたハーヴェストまで合流してきて、更に傷は増える一方だ。

 

「まずは敵と接敵する前に出来るだけ弱らせる。チマチマとセコい遣り方だが、俺は確実な方を取るぜ」

 

走りつつも着実に相手のダメージを増やしながら、俺は思念体の元に向かう。

そうして、遂に思念体の悲鳴が俺の耳へ直に届く距離まで近づき、俺は相手の様子を見やる。

 

『グルルル……ッ!!キュオォオォォオオオオオッ!!!』

 

「あらら。お冠かい……まあそれだけズタボロにされりゃ、そうだわな」

 

大量のハーヴェストに纏わり付かれた状態で、思念体は現れた俺に怒りの咆哮をあげる。

既に体の彼方此方から血が滴り、満身創痍に近い状態だ。

しかしそれでも瞳の爛々とした殺意の炎は微塵も揺らいじゃいない。

ハーヴェストに貫かれながらも注意深くこっちに視線を向けている姿は、さすがと言わざるを得ないな。

とは言え、俺も早く事を終わらせて戻らねえと、何時あいつ等が気付くか分からねえ。

だから、さっさとカタを付けさせてもらうぜッ!!

 

「ハーヴェスト、戻ってこいッ!!」

 

俺の一言で思念体に群がっていたハーヴェストが俺の元に集まって消えていく。

ここからは大技を惜しみ無くやってやる。

体の痛みが消えたのを好機と感じたのか、思念体は雄叫びを挙げながら俺へと突撃してきた。

あの刃物の様に鋭い角を俺に向けながらだ。

 

「いっちょ派手にいくぜッ!!――女教皇(ハイプリエステス)ッ!!」

 

『ジャアッ!!』

 

俺の叫びに応じて現れたのは、人間でいう顔と両腕だけがあり、それ以外の部位は存在せず毛むくじゃらにおおわれている像をしているスタンドの女教皇(ハイプリエステス)だ。

両腕には鋭く長い爪がついており、この腕で相手を切り裂ける。

 

 

 

――だが、女教皇(ハイプリエステス)はその能力こそがとても恐ろしいんだぜ?

 

 

 

俺の目の前に現れた女教皇(ハイプリエステス)は突撃してくる思念体には目もくれずに、地面へと『潜り込んだ』。

思念体はと言えばそれには目もくれずに只一直線に俺を目指して疾走してくる。

俺はそれを見てもボーッと突っ立ってるだけだ。

まっ、別に慌てる必要も無えしな。

 

『ギュヒィイイイイインッ!!!』

 

そして遂に、猛り狂う思念体が後1メートル前後という所まで迫ってくる。

もう少しすれば、その強靭にして鋭利な角が俺に届くだろうが――こっちの攻撃の方が先だ。

俺は焦らずに片手を思念体へと向けて、女教皇(ハイプリエステス)に命じる――盛大なショーの幕開けを。

 

 

 

「  喰  ら  い  な  ぁ  ッ   !  !  !  」

 

 

 

ププーッ!!ズガァンッ!!!

 

『ヘゲケッ!?』

 

俺の叫びに応じて、地面から思念体に向けて『あるモノ』が迫り上がり、突撃した。

そう……けたたましいクラクションを鳴らす、ヴィンテージ物の『黒いオープンカー』が。

自動車一台が地面から急激に迫り上がった接触攻撃。

その威力は、向かって来た思念体を後方に吹き飛ばすのに充分な威力を誇っていた。

しかもそれで終わりでは無い。

 

ズガァンッ!!!

 

『ギャグォッ!?』

 

思念体の吹き飛ばされた下の地面から、今度は赤いオープンカーが飛び出し――。

 

ズガァンッ!!!ズガァンッ!!!ズガァンッ!!!

 

『ゲババァアアアアッ!?』

 

そのまま色違いのオープンカーが3台連続で思念体を弾き飛ばした。

地面から斜めに突き出した車の衝突を5回に渡ってその身に受けた思念体は、力無く地面へと倒れ込む。

さすがにこの攻撃は効いたみてーだな。

 

『ウシャシャシャシャッ!!!』

 

しっかりと自分の攻撃が思念体に通じて笑みを浮かべる俺の傍には、地面から這い出た女教皇(ハイプリエステス)が居る。

しかもベロを出して、見る者がムカツクであろう笑い声をゲラゲラとあげながら、だ。

……これが女教皇(ハイプリエステス)の能力、『鉱物やガラス品、プラスチック類といったあらゆる物に化けることができる』。

鉱物やガラス品、プラスチック類で作られたものであればどんな物品にも化けることができ、例えばそれはコップであったり金属機械であったり、果ては水中銃に化けることも可能。

化けた際の変化能力は非常に高く、スタープラチナの超視力で凝視しようと叩いた音を聞いても判別する手段は「無い」。

つまり擬態能力においてはかなり上位のスタンドって事だ。

しかも擬態した物の姿で攻撃する事すら可能なので、さっきみたいに車に変身して突撃、なんて事も出来ちまう。

このスタンドは、本体との距離が近くなればなるほどスタンドのパワーもそれにしたがって強くなっていくスタンドであり、本体が間近にいたときであればパワーは尋常ではなく跳ね上がる。

破壊力はCという評価だが、これはスタンドそのものの破壊力であり、化けた物次第ではそれを上回るだろう。

この技はゲームの技名通りに『モーターショー』と名付けている。

 

『グッ……ギィ……ッ!!』

 

「ん?まだ立とうってのか?止めとけ止めとけ。俺だって罪も無い動物を痛めつけるのは心が痛い。そのまま大人しくしてりゃ、サクッとジュエルシードを取り出してやるよ」

 

『ギ、グ……ジャアアアアアアアッ!!!』

 

「やれやれ……その気は無い、と……しょ~がねえなぁあぁぁ~」

 

血だらけのズタボロになりながらも、思念体は俺への攻撃を止めようとはしなかった。

俺は気怠い表情でうしろ髪を掻きながら、新たなスタンドを呼び起こす。

そんな俺に対して真っ向からの勝負は分が悪いと考えたのか、思念体は空へと跳躍した。

 

『キュオォオオオオオオッ!!』

 

バサァッ!!

 

「おお?随分とファンタジーな姿になりやがった……」

 

そして一度大きく吠えると、奴の背中から一対の大きな羽が現れる。

しかも羽は半透明な青色のエネルギーの様なモノで構成されていた。

何とも幻想的な光景に見惚れた俺に、思念体は雄叫びをあげながら空から突っ込んでくる。

って何だそりゃ……結局突っ込むしか能が無えって事かよ、期待させやがって。

 

「だがまぁ、俺には好都合だ、このまま――」

 

『ゲグッ――ギャギャァアアアアアッ!!!』

 

ブチブチッ――ドバァッ!!!

 

その考えが、正しく命取りだったらしい。

 

「なっ!?」

 

空に対空しながら俺に向かって来ていた思念体は、何と首を外してその首を発射してきやがったのだ。

奴の首には頭から生えた鋭利な刃物の様な角がギラついている。

しかも速度は俺が考えていた以上に速い。

クソッ!!本気で油断しちまったッ!!

自己嫌悪に陥る暇もなく、思念体の首は俺へと速度を加速して向かってくる。

だが、この距離ならまだスタンドを使えば間に合うッ!!

 

「キングクリ――」

 

「撃ちなさいッ!!キッス!!!」

 

『おっしゃぁああああッ!!!』

 

不意に、俺が見知った声が響いたかと思えば――。

 

バゴォッ!!

 

『ボギッ!?』

 

横合いから弾丸の如く飛来した6発の石、その内の1発が、思念体の顔に深々と刺さった。

 

「……は?」

 

訳が分からず呆けてしまう俺の視界の外へ、思念体の首が飛んでいってしまったのだ。

俺はその光景を呆けた表情で見届けてしまう。

……ちょっと待て。今の声って……まさか。

呆然としながらも石の飛来した方向へ目を向ける。

 

「ふぅ……少し油断し過ぎよ、ジョジョ?」

 

「……リサリサ?」

 

其処には、赤色のワンピースに着替えたリサリサが微笑みながら佇んでいた。

俺が昼間に贈った髪飾りで長いストレートの髪を邪魔にならない様に結った彼女の隣には、手に新たな石を持った『キッス』の姿もある。

 

「突然貴方が部屋から出て行ったと思ったら、北宮君となのはの姿も見当たらないし、何かあると思って急いで来てみたけど……来て正解だった様ね」

 

「あ、あぁ……サンキュー」

 

「ええ。まぁ貴方ならあの程度の状況、私が居なくても大丈夫だったとは思うけど」

 

呆ける俺に言葉を掛けながら、彼女は俺の側へゆっくりと歩み寄った。

まさか俺が出て行くのが見られてたとは思わなかったが……ヤバイぞこの状況。

思わぬ援軍の到着に俺が感じていたのは嬉しさではなく、焦りだ。

よりにもよって感の鋭いリサリサにジュエルシードの存在を目撃されてしまった。

もしも彼女が本気でジュエルシードの事を調べ出したら誤魔化しきれる自信は無い。

 

『……グガァアアアアアアッ!!!』

 

と、今の攻撃で怒りが頂点に達したのか、首を体に戻した思念体が怒りの叫びをあげる。

俺もその声に意識を戦闘モードに戻しておくが、リサリサは優雅な佇まいのままに少し不機嫌そうな表情を浮かべる。

 

「……もうすぐ夜中になる時間よ?こんな時間にそんな大声で吠える悪い子には……少し、お仕置きしてあげるわ」

 

「ちょい待ちな。さっきの助太刀はありがたかったけど、6発投げた石の5発が外れる様なコントロールじゃ、コイツは任せらんねえ。俺がやるから下がってろ、リサリサ」

 

そう言って俺の隣に立つリサリサだが、俺はそれに待ったを掛ける。

さっきは不意を突かれて驚いたが、今度はそうはいかねえよ。

 

「あら、ジョジョ?残念だけど『石が外れた』っていうのは――」

 

だから戦いやすい様に前へ出ようとしたんだが……リサリサは変わらずに優雅な微笑みを浮かべながら、キッスの持つ石を見せてくる。

弾数はさっきと同じで『6発』だが……新たな石には『キスマークのシール』が貼られていて……ん?

それを見て「あれ?」と怪訝な表情を浮かべる俺に対して、リサリサは微笑みを崩さずに、石のシールに手を掛けて――。

 

間違いよ(・・・・)

 

ベリィッ!!

 

躊躇なくシールを全て剥がした。

するとキッスの手元にあった石は全てかなりの速度で手元から離れていく。

向かう先の直線上には、こちらを威嚇する思念体の姿が――。

 

「シールを剥がせば、『分かれていた2つのモノは』引き合い――」

 

ギュオンッ!!

 

そして、夜の空へと消えていった筈の最初に放った石。

思念体に当たった石までもがこちらへと戻って来た。

……ご愁傷様。

当然、俺達に意識がいってる思念体が後ろから迫る石に気付く筈も無く――。

 

「元に戻る……でしょう?」

 

バグオォオンッ!!!

 

『ブゲギャァアアアアッ!?』

 

何とも痛々しい音と悲鳴をあげる思念体の後頭部には、背後から飛んできた石が思いっ切りぶつかっている。

更に追加で前からも同じ石が飛来し、思念体の体の奥へと食いこんでいく。

……何ともえげつない応用技だな。

前にも説明した通り、キッスの能力は『シールを貼った物体を2つにする事』だ。

しかしこのシールが剥がされた時の引っ張る、または飛ぶ力は凄く強力で、間に物体を挟むと大変な事になる。

今、俺の目の前で苦しそうな悲鳴をあげてる思念体が良い例だ。

体の奥までめり込むというのは、シールを貼った物体に起こるもう一つの法則が関係してる。

元に戻る際、分かれていた物体には破壊が起きる事だ。

つまりあの現象は、『スタンド能力のルールに基づく力』が作用してるので、強制力はほぼ絶対である。

そのルールに従って元に戻ろうとしてる物体の間に邪魔がアレば、それを貫いてでも戻ろうとする。

それが今、思念体を襲う石がめり込むという現象の根源だ。

 

ブチチッ……グチャァッ!!

 

『ギギャォォオオオオオッ!?』

 

そしてついにめり込んでいた石が思念体の体を貫いて、中で2つの物体が戻り、砕けた。

思念体はその尋常じゃない痛みにのた打ち回っている。

体を無理矢理に貫いた上に、体内に破片を撒き散らすとは……何ともエゲツない技だぜ。

 

『グッ……グゥッ……ッ!!』

 

そうこうしてる内に体力が尽き始めたらしく、思念体はその巨体を支えて立っているものの、脚はフラフラだった。

しかしこれはまたとない好機。

また暴れだす前に、一気に勝負を決めるッ!!

痛みに悶える思念体を見据えつつ、俺はズボンのポケットからエニグマの紙を取り出して開く。

すると、中から和式の家なら飾られていそうな一振りの『刀』が出てくる。

俺はその刀を持ちながら集中し、刀の『中に存在するスタンド』に意識を向けた。

 

(おい『アヌビス』。30秒だけ俺の体を使え。あの間にあの思念体を仕留めろ)

 

(ハッ!!了解しました定明様ッ!!このアヌビスめがあの鹿もどきを斬り殺し、その頸を貴方様へ捧げましょうぞッ!!)

 

脳内に響くその言葉と共に、俺の体に違う意識が入り込んでくる。

流れ込んだ意識と引き換えに、俺自身が体から離れさせられる様な感覚を覚えた。

その感覚に逆らわずにいれば、俺は自身の体を何処か第三者の様な視線で見る様になった。

視界に入るもう1人の俺は刀を握ったまま顔を俯けていたが、直ぐに前を向く。

唸る思念体を見つめる俺の目は、何時に無く獰猛に吊り上がっていた。

 

「では定明様ッ!!暫しお身体をお借りしますッ!!」

 

(おう。悪いな、俺がまだ子供だから、お前を満足に扱ってやれなくて)

 

「とんでも御座いませんッ!!定明様なら何時か、俺を十全に使っていただける強いお方になると確信しております故ッ!!」

 

(そうか……じゃあそうなる様に、俺も頑張るよ)

 

「ハハァッ!!身に余る光栄に御座いますッ!!」

 

「……ジ、ジョジョ?どうしたの?」

 

急に俺の口調、そして雰囲気が変わった事に驚いたリサリサが恐る恐る声を掛ける。

まぁいきなり目の前の奴が性格が変わった様な口調で、しかも独り言を言ってたらそうするよな。

と、アヌビスは俺の声で俺らしからぬ口調でリサリサに喋り始めた。

 

「む?これは失礼しましたリサリサ殿。俺は定明様のスタンドの一つ、『アヌビス神』です。今は定明様のお身体をお借りして、この場に居る次第なれば」

 

「ア、アヌビス?……タロットカードの起源である神々。エジプト9栄神の、あのアヌビスの事かしら?」

 

「おおなんとッ!?ご存知頂けてるとはこのアヌビス、感激にございますッ!!そのアヌビスの暗示を持つのが、この俺でございますッ!!」

 

「そ、そう?……敬語で喋るジョジョ……何だか、妙な気分ね……」

 

リサリサは何だか微妙な顔をしながら俺、じゃなくてアヌビスに言葉を返す。

そう、今の俺の体を支配しているのは、スタンドの中でも2体しか存在しない『本体の居ないスタンド』、アヌビスである。

原作では500年前にアヌビスの刀を作った刀鍛冶が本体と言われているが、俺のアヌビスは特典なので少々違う。

現在は自我を備えた三日月刀として、半人半獣のアヌビス神そのものの姿をしたスタンドだけが剣に宿り、独立して残っている。

俺の事を明確に本体としているが、普段はあの刀の中に眠っているスタンドであり、『他のスタンドと平行して使える』唯一のスタンドだ。

これには神様の言があり、『銀の戦車とアヌビス神の二刀流!!出来る様になりたいでしょッ!!』という思いの元から変更されている。

俺のスタンド能力は原則として一度に一つのスタンド能力しか扱えないのだが、このアヌビスだけは例外だ。

更にアヌビス本体の能力があり、それは刀身に触れた者を「新しい本体」として操る能力を持ち、自分の宿る刀を扱わせる事が出来る。

一度受けた攻撃の性質を憶えて完璧に見切ることもできる上に闘えば闘うほど相手の動きを記憶し、避けられない速度と攻撃に強化されていく成長性の高いスタンドだ。

まだ俺自身が子供であり、俺の意識ではアヌビスを使いこなす事が出来ない。

その打開策として悩んでいた俺にアヌビスが提案したのが、『アヌビス神』に体の支配権を渡してアヌビスに戦ってもらうという逆憑依の型だった。

だから俺はこんな風に自分を第三者の視点で見るという幽体離脱の様な体験をしているって訳だ。

 

『グルルル……ッ!!』

 

「む?イカンイカン、もう既に20秒も経っているではないか。定明様の命を守れぬとあればこのアヌビス、一生の不覚」

 

リサリサに半人半獣のアヌビス神を背中に表しながら頭を下げていたアヌビスは、唸る思念体に気付くと素早く刀を抜いた。

まるで水に塗れたかの様な美しい刀身が露わになり、アヌビスはその切っ先を思念体に向ける。

 

「さあ獣畜生よ。俺は直ぐにでも貴様の頸を定明様に捧げねばならないのだ。よって――」

 

そこで言葉を切ったアヌビスは、俺の体を地面に着きそうなぐらい屈め――。

 

 

 

――お前の命、もらいうける。

 

 

 

次の瞬間には、思念体の背後で刀を鞘に収めていた。

 

「――え?」

 

俺とアヌビスの背後から、リサリサの呆然とした声が聴こえる。

まぁ、今のアヌビスの動きが見えなかったんだろう。

そうこうしてる内に、アヌビスはするすると刀を鞘の中へ滑らせ――。

 

――チン。

 

『グル?……』

 

ズシャアァ……。

 

鯉口を切った小気味良い音と共に、思念体の体が3分割された。

思念体はマヌケな声を発して直ぐにその体から半透明の粒子を撒いて、元の姿に戻った。

地面に倒れる鹿の傍らには、いまだ強い光を放つジュエルシードの姿も有る。

良し、後はアレを封印するだけだな。

 

「定明様。ご命令通り奴の素っ首、この俺が斬り落としました」

 

(さすがだ、アヌビス。ありがとうよ)

 

「お褒めの言葉、有難く頂戴しますッ!!それではこれにてッ!!」

 

(ああ。またよろしくな)

 

俺の言葉を聞いたアヌビスは嬉しそうに笑うと、その意識を刀の中へと戻していく。

それを入れ替わりで、俺は再び自分の体の感覚を取り戻す。

 

「あっ。戻ったのね、ジョジョ」

 

「……まだ何にも言ってねえのに、何で分かったんだ?」

 

喋ってすらいないのに俺の意識がアヌビスと入れ替わったのを、リサリサは普通に見抜きやがった。

さすがにそれに驚き、俺はアヌビスの刀をエニグマの紙にファイルしながら質問する。

そんな俺に対して、リサリサはキッスを戻して苦笑いを浮かべる。

 

「その面倒くさいって目は、ジョジョの特徴の一つだもの」

 

 

 

……チャームポイントと言われないだけ、マシなんだろーか?

 

 

 

その後、俺はクレイジーダイヤモンドでジュエルシードの封印を治して、この戦いを終わらせた。

今はリサリサと一緒に歩きながら旅館に戻っている。

ジュエルシードは念には念を入れて、エニグマでファイルしておいた。

機を見て相馬に渡すとしよう。

ジュエルシードに取り憑かれてた鹿も傷は無く、俺達を見て直ぐ様山の中へと逃げた。

これで今夜の仕事は終わったのだが、懸念していたリサリサへの説明も心配ないのが幸いだ。

ん?何でかって?リサリサが良いって言ったのさ。

俺が言い辛そうにしていたら、リサリサは苦笑いしたままに話さなくて良いと言ってくれた。

追求される事を覚悟していた俺としては面食らったが、無理矢理聞き出したくは無いらしい。

只、その代わりに――。

 

「お願いだから、絶対に怪我だけはしないで?……ジョジョが傷つくのは、耐えられないから……」

 

なんて悲しそうな顔で言われてしまったがな。

これはさすがの俺でも堪えたよ。

だからちゃんと怪我しねえって約束すると、リサリサは微笑みながら「よろしい♪じゃあ帰りましょ?」と、話を締め括った。

まぁ尤も、今回みたいな事はそう起こったりしねえし、大丈夫だろ。

そう自己完結しながら、何気なく隣を歩くリサリサに目を向けると……不思議な事が起こっていた。

 

「リサリサ。その髪飾り……」

 

「え?どうかした?」

 

俺の言葉を聞いて、リサリサは不思議そうに俺を見るが、俺の視線は俺が昼間に贈った髪飾りに釘付けになっていた。

 

「その髪飾り、ガラスの部分が光ってるぜ?」

 

「え?……これは……」

 

その指摘を聞いてリサリサが髪飾りを外すと、纏めていた髪が自由になって広がる。

リサリサの手に持った髪飾りは、ガラスを使った部分がぼんやりと青色に光っていたのだ。

さすがに筆入れされた雲の模様は光ってないが、それが光に区切りを付けて幻想的な模様を浮かび上がらせる。

一体何だこりゃ?

思いもよらぬ現象に首を傾げる俺と、そのガラス部分をジッと見つめるリサリサ。

 

「これ……蓄光ガラスで作られてるわ」

 

「蓄光ガラス?」

 

「ええ。太陽の光をガラス内部に溜め込んで、暗くなると発光するガラスよ……あの時は夢中だったから、気付かなかったわ」

 

「……あの爺さんの言ってた事は、これか」

 

博識なリサリサが発光の正体を明かしたと同時に、俺は昼間の店主が言ってた言葉を思い出す。

夜を楽しみにってのはこういう事だった訳だ。

そう思っていると、満面の笑みを浮かべた爺さんが『さぷらいずじゃよ♪』とか言ってるのが頭に浮かぶ。

まったくとんでもねえサプライズを用意してくれたもんだ……こんなに良い代物だったとはな。

苦笑いしながらそう考えていると、リサリサはその幻想的な光に見惚れている。

 

「……光もだけど、描かれた雲の模様も凄く素敵ね」

 

「そうだな……それに、リサリサに良く似合ってる」

 

「ッ!?や、やだわ、もう……ほ、ほら。士郎さん達にバレる前に、早く帰りましょ?」

 

「へいへい」

 

俺の褒め言葉が恥ずかしかったのか、リサリサは少し頬を染めて驚きながら帰宅を促してくる。

それに適当に返事すると、リサリサはササッと髪をポニーテールに纏めると、少し早歩きで俺の前を歩く。

彼女の頭の後ろで揺れる光を放つ髪飾りを見ながら、俺は良い物が見れたと内心喜んだ。

そこからは特に言葉も交わさずに旅館に戻り、まだなのは達が戻っていない内に着替えて、俺達は布団に入った。

最初は相馬やなのはの事を聞かれたが、二人は大丈夫だと伝えると、リサリサも渋々布団に入ってくれた。

 

「それじゃあジョジョ、お休みなさい」

 

「ああ。お休み」

 

リサリサも眠気には勝てなかったらしく、布団に入って直ぐに寝付く。

さあて、俺も寝ますかね……こっちは上手くやったぞ、相馬。

明日は朝一番で温泉に入ろうと心に決めながら、俺も意識を微睡みの中に落として、一日を終了したのであった。

 

 

 

 

後書き

 

 

う~ん……バトルが上手く書けない。

 

こう、血沸き肉踊る描写ってのが難しいです。

 

それと定明の性格、久しぶりなのでブレてないか凄く不安なのさー(白目)

 

 

 


 
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